文中の将来に関する事項は、当社が本報告書提出日現在において判断したものです。
(1)会社の経営の基本方針
当社は、事業活動の基礎となる「ENEOSグループ理念」を次のとおり定めています。
また、当社グループを取り巻く事業環境はかつてない転換期を迎えています。このような環境の下、「ENEOSグループ理念」の実現に向けて「『今日のあたり前』を支え、『明日のあたり前』をリードする。」を新たな決意として掲げました。ENEOSグループは、困難な課題に挑戦し、「明日のあたり前」を創りつづけるリーディングカンパニーとして、ステークホルダーの皆様からの一層の信頼に応えていきます。
(2)ENEOSグループが目指す方向性
<中長期 事業環境認識・当社事業戦略>
中長期での事業環境認識や当社の事業戦略については、以下のとおりです。
カーボンニュートラルに向けたトレンドは緩やかになっており、エネルギートランジションの本格分岐は従来の想定より遅れる可能性があるものと認識しています。
いずれ迎えるエネルギートランジションの本格分岐に備え、基盤・素材事業を効率化・強化し、キャッシュ創出力を高めるとともに、基盤・素材事業で得られたキャッシュを、柔軟なキャッシュ・アロケーションを通じ価値創造につなげます。
特に低炭素事業は、今後もカーボンニュートラルに向けた移行期におけるエネルギーとしての重要性が増大していくものと認識しており、当社も力を入れて取り組みます。
<ROIC・事業領域別収益規模>
現状では基盤事業の占める割合が大きいものの、基盤事業を効率化・強化するとともに低炭素・脱炭素事業を着実に成長させていくことで、2040年にはROIC7%、ROE15%を目指します。
(3)第3次中期経営計画(2023年度から2024年度まで)の振り返り
ROE、ROICといった資本効率については引き続き注力が必要であるものの、当期利益並びにフリー・キャッシュ・フローは2024年度時点で目標を達成することができました。
また、株主還元については、総額2,500億円の大規模な自社株買いと年間4円の増配を実施したことにより、同期間の総還元性向は77%となり、還元方針である総還元性向50%を大きく上回る水準の株主還元を実行しました。
第3次中期経営計画における事業面や経営基盤の成果の詳細は、以下のとおりです。
(4)対処すべき課題
<基本方針>
当社は、事業ポートフォリオ転換の一環として、2025年3月にJX金属株式会社(以下、JX金属)の上場を実施しました。
本件を通じて、エネルギートランジションの実現に向けた、事業ポートフォリオ転換のための戦略投資等の資金を確保するとともに、コングロマリットディスカウントの解消を通じた企業価値向上を図りました。
他方、エネルギーに関する社会情勢は、脱炭素の方向性に沿いつつも、石油を含めた安定かつ経済的なエネルギー供給がより重視される環境となっています。
この背景として、エネルギー安全保障意識の高まりやトランプ政権の政策リスク、脱炭素社会実現に向けたコスト負担の増加、インフレ等によるプロジェクト採算の予見性低下といった、「不確実性の高まり」に因るところが大きいものと認識しています。
こうした当社の状況及び社会情勢の大きな変化を踏まえ、2025年度から2027年度までの第4次中期経営計画(以下、第4次中計)を新たに編成しました。
第4次中計においては前述の「不確実性」に対してより機動的かつ柔軟に対応すべく、「筋肉質な経営体質への転換」と「ポートフォリオ再編」を2本柱として、企業価値最大化の実現に向けた取組を加速します。
前述の2本柱の内、まず重要なのが「筋肉質な経営体質への転換」です。当社グループの改善すべきポテンシャルについてゼロベースで見直し効率化していくことで、より収益力を高めます。具体的には、収益改善機会の追求のため「見える化」を聖域なく徹底的に進めていくとともに、業務全域でのAI活用を通じ、業務効率の向上を図るだけではなく、組織のスリム化まで踏み込んで進めます。
もう1つの柱である「ポートフォリオ再編」については、トレーディングを含む海外燃料油事業等を中心に早期収益化を狙える事業、LNG・バイオ燃料等の低炭素事業に優先的にリソースを投入します。
投資に際しては、M&A活用を含めた成長機会を追求していくとともに、投資管理の高度化を両立させ、投資案件の厳選とパフォーマンスの最大化を図ります。
また、これらの施策を実行・実現する人材育成のため、人的資本経営にも注力し、次世代のリーダーの早期選抜・育成と専門性の追求を軸としたジョブ型タレントマネジメントの徹底を図ります。
これらの取組を通じてROE10%以上を早期に実現させ、「今日のあたり前」を支え、「明日のあたり前」をリードしていきます。
<財務目標・事業計画>
第4次中計最終年度である2027年度の財務目標は、以下のとおりです。
ROEは10%以上、ROICは6%以上、利益の絶対額については、在庫影響除き当期利益は3,200億円、在庫影響除き営業利益は5,000億円を目標としています。
また、ネットD/Eレシオは他社開示事例等を踏まえ、第4次中計よりリース負債含み・非支配持分除きのベースで開示しています。
各セグメントの事業計画は、以下のとおりです。
<筋肉質な経営体質への転換>
「筋肉質な経営体質への転換」に向けた施策は、以下のとおりです。
まず徹底的な「見える化」を通じたROICの改善を進めます。FP&A組織を設立し、この組織が事業環境変化に対して素早く、質の高い情報を提供するとともに、改善に向けたアクション・PDCAにつなげることで、社内の「見える化」を強力に推進します。
また、この「見える化」の具体的な取組として、当社グループ会社のROIC改善・ガバナンス強化の取組があります。JX金属が上場し当社グループ連結対象会社は100社程度減少しましたが、それでもまだ直近で651社あります。ここには間違いなく効率化のポテンシャルが多く残されているものと確信しており、組織・体制の再構築を含め、しっかり見える化のメスを入れていくことで改善を図ります。
リスクマネジメントについてもCROを置くとともにリスクマネジメント部を新設し、グループ横断的に重要リスクを選定するとともに迅速かつ的確にミティゲーションプランを立案することで、リスク低減を図ります。
AI活用の推進については、以下のとおりです。
当社グループでは、これまで供給・製造領域におけるサプライチェーンの最適化や、R&D領域での新素材の探索において、深層学習を導入しました。第4次中計では、これらにとどまらず、業務全域でAIの活用可能性を追求します。
販売においてはより高度な提案営業、経営においては経営指標やリスクのAIによる予測、また管理部門を中心に徹底した業務効率化をし、組織のスリム化を進めます。
また、AI活用の専任組織である「AIイノベーション部」を6月に発足させ、グループ全体におけるAI活用を強力に推し進め、業務効率化やイノベーションの具現化を図ります。
<ポートフォリオ再編>
ポートフォリオ再編に向けた、投資の厳選とリターンの最大化のための仕組み強化については、以下のとおりです。
投資審査システムの再整備について、これまでも投資実行にあたっては一定の投資審査を実施しましたが、今後は投資審査の専任組織を置くとともにシステマティックかつ多面的な投資審査を実行し、投資審査を通じて当初計画から5%の投資額削減を目指します。
投資リアプレイザルの実施については、投資案件の実行から一定期間後に当初計画と現状のギャップ分析を行うとともに、戦略の見直しや資源の再配分等の必要な対策を講じることで、パフォーマンスを最大化します。
PMIについては、ポートフォリオ再編に向けてM&Aは即効性のある手段ですが、M&Aの成功に向けてはPMIが非常に重要なファクターであることから、「PMIガイドライン」を整備するとともに、PMI体制の強化を図ることで、M&Aにおけるリターン最大化を図ります。
<キャッシュ・アロケーション>
第4次中計3か年累計の設備投融資は1兆5,600億円を計画しています。このうち、事業維持投資は8,200億円・戦略投資は7,400億円です。
事業維持投資は、基盤・素材事業にしっかりとリソースを配分し競争力の維持・向上を図るとともに、戦略投資においては、その4割以上をLNG開発・SAF等の低炭素事業に振り向ける計画です。
また、不確実な事業環境下において、柔軟にM&Aを含む戦略投資及び追加還元への資金配分を行うべく、設備投融資と株主還元の間の項目として、マネジメント・アロケーション枠を設定しました。
ネットD/Eレシオについては、これまで財務健全性の観点から、ネットD/Eレシオの上限のみを示していましたが、ここから一歩踏み込み、0.7倍~0.9倍というレンジとしています。なお、この水準は現状の格付維持と資本コスト低減のバランスを総合的に勘案して決定したものです。
<株主還元>
2025年度の配当については、第4次中計達成に向けた強い決意を込めて、1株当たり4円増配の30円としました。
さらに、第4次中計期間中は、年間30円の配当を起点とする、業績に応じた累進配当を導入することを決定しました。
安定的な配当の継続から一歩踏み出し、収益の拡大とともにさらなる増配を目指します。
<企業価値向上に向けた取組>
2024年度はJX金属上場を通じたポートフォリオ再編や自社株式取得による最適資本構成の追求、製油所トラブル削減等の収益力強化に取り組みました。これらの取組を通じて実質的なROEは着実に改善していますが、安定的かつ継続的に株主資本コストを上回る状態とは言えず、結果としてPBRが1倍を下回る状況が継続しています。
PBR1倍超えに向けた取組については、徹底的な効率化による既存事業の収益最大化、厳選した投資の実行による事業ポートフォリオ再編等の第4次中計に包含される取組を通じて、ROIC改善を推進します。 また、役員報酬制度を見直し、株式報酬の算定指標にTSRを導入しました。今後も、株主の皆様との価値共有を図るとともに、当社グループの中長期的な企業価値向上に努めます。
<次期の連結業績予想について(2025年5月公表)>
2024年度に計上したのれん減損損失の反転、海運事業売却に伴う利益、五井火力発電所の通期での利益貢献等を織り込む一方で、円高・油ガス価下落による石油・天然ガス開発の減益、JX金属株式売却に伴う利益剥落等を織り込んでいます。前提条件に基づく次期の業績予想は下記のとおりです。
●前提条件(2025年4月以降)
為替:140円/ドル、原油(ドバイスポット):75ドル/バーレル
売上高:11兆7,000億円 営業利益:3,600億円 親会社の所有者に帰属する当期利益:1,850億円
在庫影響(総平均法及び簿価切下げによる棚卸資産の評価が売上原価に与える影響)を除いた営業利益相当額は、4,100億円と見込んでいます。
文中の将来に関する事項は、別段の表示がない限り、当社が本報告書提出日現在において判断したものです。
1.ガバナンスの高度化・コンプライアンスの徹底
(1)ガバナンス
・ESG経営推進体制
企業が持続的に成長するためには、事業活動を通じて社会ニーズに応え続けるとともに、社会課題の解決に貢献することで社会から信頼され、価値を認められる存在でなければなりません。
この認識のもと、当社グループは「ESG経営に関する基本方針」を定め、当社経営会議において将来の経営に大きな影響を及ぼし得るリスクや事業機会を分析し、特定したリスク・重点課題への対応状況を適切に管理する体制を取っています。
[リスク・重点課題の特定及び対応状況確認プロセス]
ア.包括的な協議(原則年1回)(次頁、図①)
経営会議では、議論の実効性及び意思決定の迅速性を高めるため、下記の事項を包括的に協議しています。
(ア)全社的なリスクマネジメントに基づいて特定する重点対応リスク事象(第1四半期)
(イ)ESGに関するリスク分析に基づいて特定するESG重点課題(第4四半期)
(ウ)内部統制システムに基づいて特定する内部統制上のリスク事象(第1四半期)
イ.対応方針決定及び状況確認(原則年1回、第1四半期)(次頁、図②)
当社所管部署主導のもと、関係部署及び主要な事業会社(注)が組織横断的に連携し、特定したリスク・重点課題への対応方針を策定・実行しています。
経営会議では、前年度の対応状況確認とともに、当該年度の対応方針確定・決定を行っています。
(注)主要な事業会社とは、ENEOS株式会社、ENEOS Xplora株式会社、株式会社ENEOSマテリアル、ENEOS Power株式会社及びENEOSリニューアブル・エナジー株式会社の総称です。
ウ.事業機会の議論(適宜)(次頁、図③)
経営会議では、中期経営計画や年度ごとの事業計画及びそれらに基づく予算の審議を行っています。
その都度、事業機会について議論しています。
エ.取締役会への報告(適宜)(次頁、図④)
取締役会は、経営及び中期経営計画・予算等の事業戦略を決議するとともに、経営会議で決定したリスク・重点課題とそれらへの対応状況の報告(原則年2回)を受けることで、監視・監督しています。
2024年度に取締役会に報告されたESG関連事項は、下記のとおりです。
(ア)2023年度ESG活動状況実績及び2024年度ESG重点課題のKPI方針について
(イ)2025年度ESG重点課題
(ウ)サステナビリティ情報開示への対応
(エ)個別課題への対応
カーボンニュートラル基本計画の更新について
カーボンニュートラル推進委員会に関する状況報告について
人的資本経営の枠組みや取組について
オ.グループ会社との共有(適宜)(次頁、図⑤)
特定したリスク・重点課題をグループ各社と適宜共有し、グループ各社が自律的に自社の事業戦略に反映することで対応しています。
(2)リスク管理
・ESG重点課題の検証と特定
当社グループは、各種ガイドライン、ESG評価機関の評価項目や評価ウエイト等を踏まえ、毎年ESG重点課題を特定しています。
2025年度については、特定手順に沿って9個の課題を特定したあと、経営との議論を経て当社において重要な「コーポレートガバナンス」及び「リスクマネジメント」を加えた計11項目をESG項目に選定し、項目の類似性等を踏まえて以下の通り4項目のESG重点課題として集約しました。ESG重点課題ごとに責任部署・KPIを設定しており、ESG重点課題におけるKPIの進捗状況、取組結果を経営会議及び取締役会に報告することとしています。
<2024年度ESG重点課題 >
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区分 |
ESG重点課題 |
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環境 |
脱炭素社会形成への貢献 |
|
社会 |
安全確保・健康増進 |
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ガバナンス |
コンプライアンスの推進 |
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社会 |
国際的な人権原則の遵守 |
|
社会 |
人材の育成・確保 |
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ガバナンス |
コーポレートガバナンスの適切な構築・運営 |
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環境 |
生物多様性リスクの適切な把握・管理 |
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社会 |
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンの推進 |
|
環境 |
循環型社会への貢献 |
|
社会 |
ステークホルダー(投資家等)とのコミュニケーション |
(注)上から評価点の高い順に記載しています。また、2024年度の結果については2025年度公表予定の
統合レポートに記載しますのでそちらをご覧ください。
<2025年度ESG重点課題、及び目標(KPI)>
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ESG重点課題 |
ESG項目 |
目標(KPI) |
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安全確保の強化 |
安全確保 |
重大労災件数(注1) ゼロ |
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TRIR(注2) 1.94以下(2024年度対比▲15%) |
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LTIR(注3) 0.67以下(2024年度対比▲15%) |
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ガバナンスの 高度化・コンプライアンスの 徹底 |
コーポレートガバナンスの 適切な構築・運営 |
取締役会実効性評価を通じた改善プロセスの実行 |
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社外取締役比率50%以上、社外取締役議長の維持 |
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役員向け研修の実施(計4回) |
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コンプライアンスの推進 |
重大なコンプライアンス違反(注4) ゼロ |
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実効的なリスクマネジメント |
グループ横断的なリスクマネジメント体制の拡充 |
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サプライチェーンにおける 社会的責任 |
取引先支援教育プログラム4カテゴリーの展開 |
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CSR調達アンケートに基づく取引先フォローアップ訪問調査の100%実施 |
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国際的な人権原則の遵守 |
2023年度実施済み人権デュー・ディリジェンスのフォローアップ |
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人的資本経営の実現 |
人材の確保・育成 |
1人当たり教育研修費用 10万円/年(2027年度) |
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エンゲージメントサーベイにおける成長機会スコア75%以上(2027年度) |
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ダイバーシティ・エクイティ &インクルージョンの推進 |
エンゲージメントサーベイにおける働きがいスコア75%以上(2027年度) |
|
|
エンゲージメントサーベイにおける働きやすさスコア75%以上(2027年度) |
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健康増進 |
プレゼンティーイズム(注5) 中計期間中20%以下の達成・維持 |
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持続可能な 地球環境の 保全・形成への貢献 |
脱炭素社会の形成への貢献 |
CO₂排出量 2,700万トン以下 |
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メタン排出量 1,072トン以下 |
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削減貢献量(素材)150万トン以上 |
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循環型社会形成への貢献 |
循環型社会実現に向けた具体的取組(2件)の推進(廃プラ油化事業開始、低炭素潤滑油基油製造プロセス実証) |
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廃棄物最終処分率 ゼロエミッション(1%未満)の維持 |
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生物多様性リスクの適切な 把握・管理 |
主要な事業セクターのサプライチェーンにおける自然資本への依存度及び影響度の把握 |
(注)1.死亡労災
2.100万労働時間当たりの不休業以上労災件数
3.100万労働時間当たりの休業以上労災件数
4.対象会社の経営に重大な影響を及ぼす、又は、レピュテーションを大きく毀損するコンプライアンス違反案件
5.心身の不調を抱えながらも欠勤をせず就業し、生産性が低下している状態(労働生産性の損失割合)
(3)サステナビリティ情報開示への対応
当社グループは、グループ全体のESG経営の推進と新たに導入されるSSBJガイドラインに則したサステナビリティ情報開示を確実に行うため、2025年4月経営企画部内に「サステナビリティ推進室」を新たに設置しました。当社のガイドライン適用時期である2028年3月期有価証券報告書開示までに周到な準備を行い、財務情報とサステナビリティ情報の両面から当社グループの持続可能性を発信していきます。
2.持続可能な地球環境の形成・保全への貢献
(1)気候変動対応(TCFD)
ア.シナリオ分析
当社グループは、シナリオ分析においてIEAのWEO(World Energy Outlook 2024)(注1)やIPCC AR6(注2)を参照し、物理的なリスク評価(気候や海面変化への対応等)についてはIPCCのRCPを参照しています。
エネルギー・素材をめぐる国際情勢は不確実性がより一層高まっており、不確実性に対してより柔軟に対応するため、カーボンニュートラル基本計画2025年度版を策定しました。同基本計画において、当社グループは、IEA WEOのSTEPS(注3)、APS(注4)、NZE(注5)及びIPCC AR6を参考に将来予測を行い、以下の3つの社会シナリオを想定しています。
Beyondシナリオ(+1.5~2.0℃):化石燃料需要は減少傾向、再エネ導入が大幅に進展、水素やCCS等の革新技術導入により経済効率性が大幅に向上し、世界全体で脱炭素が進展
Currentシナリオ(+2.0~2.5℃):LNG・バイオマス等の低炭素施策や経済合理性のある再エネ導入が進展し、CCS等の脱炭素技術も一部導入され、先進国を中心に環境取組・政策が進展
Driftシナリオ(+3.0~4.0℃):低コストな化石燃料への依存が続き、再エネや脱炭素革新技術の導入は限定的となり、世界の脱炭素進展は限定的
当社グループは、化石燃料中心のポートフォリオから低炭素・脱炭素分野へシフトしていくトランジションの過程において、燃料油の需要動向等にも注視しながら、「エネルギー・素材の安定供給」と「カーボンニュートラル社会の実現」との両立に向けて挑戦していきます。当社グループで策定したカーボンニュートラル基本計画2025年度版は、1.5℃を含む様々なシナリオに対応する高いレジリエンスを有しています。社会全体がよりカーボンニュートラル実現に向けて進展し、日本全体で1.5℃シナリオに向かっていく環境により近づけば、当社グループの取組もさらに加速させることで日本のトランジションとサーキュラーエコノミーに資するエネルギー・素材の供給をリードし、脱炭素社会の形成に大きく貢献します。
(注)1.International Energy Agency:国際エネルギー機関。同機関が発行しているWorld Energy Outlookにおいて複数の脱炭素シナリオが公表されています
2.Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)が公表した第6次評価報告書
3.Stated Policies シナリオ(現在公表されている各国の政策を反映したシナリオ)
4.Announced Pledges シナリオ(各国の意欲的な目標が達成されると仮定したシナリオ)
5.Net Zero Emissions by 2050 シナリオ(2050年に世界でネットゼロを達成するシナリオ)
イ.リスクと機会
当社グループは、全社的リスクマネジメント(ERM)を導入しています。このプロセスから気候変動対応は経営上の重要なリスクと捉え、かつ機会とも認識しており、次頁の項目を特定しています。
財務影響において、移行リスクのうち、カーボンニュートラル達成のために要するコストの増加についてはCO₂排出削減目標、石油需要減のリスクについては当社の想定する社会シナリオの範囲で試算しています。また、物理リスクはストレスケースとしてIPCC RCP8.5シナリオ(注6)に基づき試算していますが、多くの潜在的リスク・不確実な要素・仮定を含んでおり、実際には、重要な要素の変動により大きく異なる可能性があります。
なお、リスク・機会を含むTCFD推奨の開示項目については、毎年発行する「
(注)6.IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の評価シナリオで、世界の平均気温が2100年までに
1986年~2005年と比べ約4℃相当上昇するシナリオ
<リスク・機会と時間軸ごとの財務影響>
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項目名 |
財務影響 |
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短期 (2027年) |
中期 (2030年) |
長期 (2040年) |
評価方法 |
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移行リスク |
・カーボンニュートラル 達成のために要するコストの増加 |
なし |
450億円/年 |
1,100億円/年 |
2030年の目標削減量600万トン、 2040年の目標削減量1,500万トン全量に内部炭素価格※を掛けた場合の営業利益減少額 ※50ドル/tCO₂ |
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・エネルギートランジションの進展による石油需要減 ・環境意識の高まりによる石油需要減 |
影響は限定的 |
約200億円/年減少 |
約800億円/年減少 |
国内石油需要について2023年比で2030年約1割減、2040年に4割減を見込んだ場合の営業利益減少額 (2023年度の営業利益をベースに算出) |
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・石油上流資産の座礁化 |
リスクは限定的 |
保有する石油上流資産の埋蔵量を、現行生産量で割り戻した可採年数から推定 |
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物理リスク |
・異常気象(大型台風等)と海面水位の上昇による極端な風水害の発生、過酷度の増加 |
1~2億円/年 |
IPCC RCP8.5シナリオを参照し、国内に保有する製油所・製錬所等31箇所の設備・資産を対象に、WRI Aqueduct(注7)等を用い被害総額(営業利益減少額)を試算 |
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・温暖化に伴う海面上昇 |
リスクは限定的 |
Aqueductが予測する2040年時点の日本近海における海面上昇量(約0.2メートル)から推定 |
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機
会 |
・脱炭素(再生可能エネルギー、水素、カーボンニュートラル燃料等)に対する需要増加 |
〜100億円/年 |
〜300億円/年 |
〜1,800億円/年 |
脱炭素・循環型社会の進展に伴い、再生可能エネルギー、水素、カーボンニュートラル燃料等に対する需要の増加が見込まれ、推定される市場規模と当社シェア、営業利益率について一定の仮定をおき試算した営業利益 |
|
・低炭素(LNG、バイオ燃料、グリーン素材等)に対する需要増加 |
〜500億円/年 |
〜1,200億円/年 |
〜2,200億円/年 |
カーボンニュートラルに向けた移行期におけるエネルギーとして、LNGやバイオ燃料等に対する需要の増加が見込まれ、推定される市場規模と当社シェア、営業利益率について一定の仮定をおき試算した営業利益 |
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(注)7.世界資源研究所(World Resources Institute)が開発した水リスク評価ツール
ウ.指標と目標 ~カーボンニュートラル基本計画2025年度版~
カーボンニュートラル社会の実現に向けて、当社グループはカーボンニュートラル基本計画2025年度版(2025年5月公表)を策定しました。本計画では、当社グループの温室効果ガス排出削減を製造・事業の効率化やCCS、森林吸収等によって進めるとともに、社会の温室効果ガス排出削減に貢献するため、化石燃料・製品の低炭素化、再生可能エネルギー、バイオマス等の資源利活用、化石燃料の脱炭素化、水素の利活用による「エネルギー・素材のトランジション」と循環資源の活用・省資源化等による「サーキュラーエコノミーの推進」を掲げ、具体的な目標やロードマップを定めています。
当社グループのカーボンニュートラル基本計画2025年度版の詳細は、以下のとおりです。
エ.2024年度の主な取組
(ア)カーボンニュートラル推進委員会の設置
エネルギー・素材をめぐる国際情勢の不確実性が高まる中、事業環境に応じてカーボンニュートラルに関する基本戦略をアップデートするため、2024年5月にCTOを委員長とする「カーボンニュートラル推進委員会」を設置しました。2024年度は主に、温室効果ガス排出削減経路に影響を与える不確実性の高いキードライバーを特定し、複数の社会シナリオを想定したうえで、当社グループのカーボンニュートラル・循環型社会の実現に挑戦する指針となる「カーボンニュートラル基本計画2025年度版」に関する議論を行いました。今後もカーボンニュートラル戦略に関して経営レベルでの議論を継続し、国や社会とともに、カーボンニュートラル・循環型社会を実現するための各取組を推進します。
(イ)CO₂の見える化
製油所での削減推進のために排出量の適時把握が重要となる事から、CO₂見える化システムを導入し、全社の排出量一元管理と製品ごとの排出量(CFP:カーボンフットプリント)算定ができる体制を構築しました。法定報告の効率化、月次予実管理による計画の実行管理を行うとともに、一部製品のCFPデータの顧客への提供を開始しています。製油所で実際に取得されたデータを用いたCFP算定は、国内石油業界初となります。また、2024年10月には潤滑油・グリース製品についてもCFP算定システムを開発し、顧客へのデータ提供を開始しました。潤滑油・グリース製品のCFP算定は国内潤滑油業界初となります。今後、低炭素製品の環境価値訴求によるビジネス機会創出を目指します。さらに、GHG排出削減に資する事業を推進すべく、インターナルカーボンプライス50$/t-CO₂を導入し、感応度分析を行っています。
(ウ)CCS
国内CCSの事業化に向け、石油製品ほかセグメントに属する子会社であるENEOS株式会社(以下、ENEOS)、石油・天然ガス開発セグメントに属する子会社であるENEOS Xplora株式会社(以下、ENEOS Xplora)及び電源開発株式会社の3社で検討を進めており、2024年10月に独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)による令和6年度「先進的CCS事業に係る設計作業等」に採択されました。本事業ではCO₂分離回収・輸送・貯留に関する設計作業及び貯留層評価等を行っており、貯留については2023年2月に設立した合弁会社である「西日本カーボン貯留調査株式会社」が主体となり検討を行うことで、ENEOSグループとしてCO₂の分離回収、輸送、貯留まで一気通貫したCCSバリューチェーンの構築を目指しています。
さらに海外CCSの事業化検討も進めており、2024年9月にENEOS、ENEOS Xplora、三菱商事株式会社、マレーシア国営石油会社であるペトロナスの関係会社であるPETRONAS CCS Solutions Sdn Bhd等と令和6年度「先進的CCS事業に係る設計作業等」に採択され、東京湾を排出源とするCO₂の分離・回収・集積から船舶輸送、そしてマレーシアでのCO₂貯留までの海外CCSバリューチェーン構築を目指しています。
これまでの石油・天然ガス開発の知見を活かし、CCSの取組が進む地域の企業との連携を強化しCCSバリューチェーンを構築していくことにより、日本のカーボンニュートラル計画達成に貢献していきます。
(エ)自然吸収
森林プロジェクトについて、国内においては2024年度に連携を始めたわかやま森林と緑の公社、ふくしま緑の森づくり公社、北海道鶴居村森林組合を含め、これまで6件の連携先とJ-クレジット創出に向け取組を進めています。森林由来のJ-クレジットによる収益を森林整備にかかわる事業に使用いただき、森林の持つCO₂吸収能力のさらなる活性化を目指します。この取組を進めることにより、引き続き健全な森林の育成を通じて木材生産はもとより、森林のもつ多面的な機能の維持・増進に積極的に取り組んでいきます。
また、海外においては2023年7月に住友林業株式会社グループが組成する米国の森林ファンドEastwood Climate Smart Forestry Fund Iへ出資を行いました。本ファンドは、日本企業10社が各社の米国子会社等を通じて出資参画しています。カーボンクレジットのマーケットや制度が先行している米国でカーボンクレジットの創出を行います。ファンドの仕組みを活用し、森林アセットの購入を通じて、適切に管理する森林を大幅に拡大しグローバルな気候変動対策、生物多様性保全に貢献します。国内外問わず、森林の循環利用による脱炭素・循環型社会の形成に貢献していきます。
さらに、産官学連携による大規模ブルーカーボン創出の検討を2023年12月から開始しています。海洋生態系に取り込まれた炭素「ブルーカーボン」は、CO₂の吸収源対策の新しい選択肢として期待されています。大気中のCO₂は、海草・海藻藻場等のブルーカーボン生態系の光合成により取り込まれ、海底に堆積したり海洋中深層に分解されながらも長期間留まることによって、ブルーカーボンとして大気から隔離されます。このメカニズムを広域で適用し人が積極的に関与することで、大規模ブルーカーボン創出を目指します。
当社グループにおける、2023年度のGHG排出量(Scope1,2)は
(注)8.速報値です。確定値については、2025年11月公表予定の「
(2)循環型社会形成の貢献
当社グループは、「循環型社会形成への貢献」に向けて、自社及び社会全体の廃棄物低減や循環資源の活用に努めます。グループ内で資源の有効活用や廃棄物の発生抑制、省資源化等を推進するとともに、サプライチェーン全体でサーキュラーエコノミーの取組を強化していきます。
ア.廃棄物の削減
製油所等から排出される汚泥や集塵ダストのセメント原料化、製錬所で発生する中和滓(注1)の繰り返し使用等を推進しています。また、一部の潤滑油製品の開発評価にあたっては、LCA手法(注2)を用いています。それらのほか、当社グループは、生産の効率化による原材料の使用量削減、リサイクル原料の使用量拡大を進めています。
(注)1.製錬工程での中和反応によって生じる生成物。
2.製品製造について、原料等の調達から製造、輸送、使用、廃棄までのライフステージ全体の環境影響を定量的に評価する手法。
イ.サーキュラーエコノミーの推進
当社グループは、従来型資源に依存しない循環型社会の実現に向けて、サーキュラーエコノミー(注3)を推進します。
社会が、リニアエコノミー(注4)からサーキュラーエコノミーへ、すなわち、大量生産・大量消費型の経済から資源循環型の経済へと移行しつつあります。3Rから一歩進み、製品設計段階からの配慮、メンテナンスによる製品寿命の延長、リースやシェアリングによる利用効率の向上等も重視されています。
当社グループは、循環資源を活用した製品の供給や省資源化に寄与する素材・サービスの提供を通じて、限りある資源を守ります。また、廃棄物の利活用及び資源循環の取組に必要なクリーンエネルギーの供給を担うことでサプライチェーン全体のCO₂排出を削減し、環境への負荷を低減します。消費者の行動変容や環境貢献の価値化といった社会変化を機会と捉え、サーキュラーエコノミーを推進することで、カーボンニュートラル・循環型社会の実現に貢献していきます。
(注)3.バリューチェーン上のあらゆる段階における資源の効率的な利用により資源循環を目指す経済の仕組み
4.消費された資源をリサイクル・再利用することなく廃棄してしまい、直線的(Linear)にモノが流れる経済の仕組み
ウ.指標と目標
当社グループは、「ゼロエミッション(最終処分率1%未満)の維持」を目標に掲げ、廃棄物の適正管理・再資源化に取り組んでおり、2023年度の実績は1.2%、2024年度の実績は0.6%(注5)でした。
(注)5.速報値です。確定値については、2025年11月公表予定の「ESGデータブック」をご参照ください。
また、廃棄物の削減に加え、カーボンニュートラル基本計画2025年度版では、サーキュラーエコノミーの推進として、グリーンケミカルの製品比率・グリーン潤滑油の生産量の目標を掲げています。2024年5月に環境省の公募事業に採択された廃潤滑油のリサイクルに向けた実証事業において低炭素基油の製造に成功する等、サーキュラーエコノミーの推進に向けて取組を進めています。
(3)生物多様性リスクの適切な把握・管理
当社グループは、操業・生産拠点の周辺環境に影響を与えかねない事業特性を持つことから、生物多様性の保全を重要なテーマと考えており、これをENEOSグループ行動基準に定めています。
操業・生産拠点の新設等にあたっては、あらかじめ環境影響調査を行い、植生や鳥類・動物・海洋生物等の生態系を確認する等、事業活動のあらゆる分野で生物多様性に配慮した取組を推進しています。
また、生産拠点の多いENEOSでは、「エネルギーグループ(注1)生物多様性ガイドライン」を定めています。
(注)1.ENEOS及びそのグループ会社。
ア.国内での主な取組
当社グループは製造拠点において、地域の生物多様性保全活動に参加するほか、周辺の広大な緑地を豊かな生態系ネットワークの1つとして保全する活動に取り組んでいます。その他の事業所においても、周辺環境に合わせた環境保全活動を実施しています。
(ア)緑地管理の事例
ENEOS根岸製油所は、東京湾に面し、周囲を三渓園、根岸森林公園等の緑地に囲まれ、海と山の自然が交差する地域に位置しています。そこで、里山管理の手法を用いて、地域生態系ネットワークの拠点の一つとすべく環境整備に取り組んでいます。同製油所は、良好な生態系ネットワーク形成等の活動が評価され、2020年2月に「いきもの共生事業所認証(ABINC認証(注2))」を取得し、2023年10月には環境省の「自然共生サイト」に認定されています。また、ENEOS仙台製油所も2025年2月に「いきもの共生事業所認証(ABINC認証)」を取得しています。
(注)2.一般社団法人企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)が開発した、いきもの共生事業所推進ガイドラインの考え方に沿って計画・管理され、かつ土地利用通信簿で基準点以上を満たし、当審査過程において認証された事業所。
(イ)藻場創出の事例
ENEOS堺製油所は大阪湾奥部に位置しています。大阪湾奥部は、陸域から流入する窒素・燐等の栄養塩が滞留しやすく、赤潮発生が見られる等、いきものの棲みにくい水質と言われています。同製油所では、護岸部に藻類が着生するためのブロックを設置し、藻場創出に取り組んでいます。藻場創出により、栄養塩の吸収と酸素の供給による水質改善、海生生物の産卵・成育場所の増加、藻類の光合成を通じたブルーカーボンの蓄積等、多面的な効果を期待できます。
(ウ)国外での主な取組
①バラスト水(海水)対策
日本から産油国へ向かうタンカーは、空船時の運航安定性を維持するため、「重し」としてバラスト水を積んでいます。そのため、日本の海域に生息する微生物やプランクトンがバラスト水とともに遠く産油国の海域に運ばれ、生態系バランスを崩す原因となっていました。
当社グループでは、2004年から外洋でバラスト水を入れ替える方法や新造船にはバラスト水処理装置(注3)を搭載する方法を採用し、産油国の湾内海域の生態系バランスに配慮しています。2022年度に、当社グループが所有するタンカー15隻全船にバラスト水処理装置の搭載を完了しました。
(注)3.バラスト水中の水生生物を一定基準以下にして排水する装置。
イ.指標と目標
「生物多様性リスクの適切な把握・管理」は2024年度ESG重点課題として、「主要な事業セクターにおける自然資本への依存度及び影響度の把握」を行いました。2025年度は主要な事業セクターのサプライチェーンにおいて生物多様性リスクの抽出及び対応方針の検討を行っていく予定としています。
3.人的資本経営の実現
(1)ENEOSグループの人的資本経営
当社グループでは、人的資本経営の考え方に立脚し、グループ経営戦略に紐づく人材戦略を徹底することを、グループ人材戦略の基本的な考え方としています。実効性の高い「グループガバナンス」のもとで、「適所適材を基本とする効果的な制度の具現・実行」及び「安心して誇りを持って働ける企業文化づくり」を2本柱とする取組を強力に推進しています。それぞれの取組は次のとおりです。
ア.適所適材を基本とする効果的な制度の具現・実行
グループ全体の組織能力を最大限に発揮するためには、事業活動において特に重要性が高く戦略的育成が必要なキーポジションにおける適所適材の人材配置が不可欠と考えています。このため、各キーポジションに求められる要件を明確化し、各人が有する能力・経験等を可視化したうえで、当該ポジションへの選任及び後継者候補の選抜・育成に関する意思決定を行う仕組みを具現化し・実行していきます。
2024年度においては、経営層に求められる要件設定の明確化やリーダーの選抜・育成の仕組みの構築を行いました。
イ.安心して誇りを持って働ける企業文化づくり
企業文化は、組織の成長と人的資本の活用の土台であり、実効性の高い人材戦略の結果、価値観として組織に根付き、行動や意思決定に重要な影響を及ぼすとの考えのもと、健康経営(働くうえで大前提となる従業員の心身の健康の維持・向上)、働きやすさ(心理的安全性の確保、多様性の受容)、働きがい(存在承認を前提とする組織づくり)の3つに焦点をあてて取り組み、従業員がエンゲージメント高く安心して誇りを持って働ける企業文化を定着させます。
2024年度においては、グループで健康経営を推進していくための健康経営戦略マップの策定や、特にENEOSにおいて、「安心して働くための3か条」を策定し、各職場で実践することで、心理的安全性の高い職場づくりの取組を行いました。
ウ.グループガバナンス体制の構築
グループ全体において、先に述べた人材戦略の2本柱に関する取組が高い実効性を持って、確実に実行されていることを定期的に確認するPDCAサイクルを構築します。
2024年度においては、ENEOSホールディングスのCHROを議長に主要な事業会社の人事担当役員をメンバーとする「CHRO会議」を設置・開催(年4回)し、グループ共通KPIの設定やグループ主要事業会社の人材戦略の確認、共同取組事項の議論等を行いました。
エ.指標及び目標
第3次中期経営計画において、当社グループは以下の定量目標を設定していましたが、第4次中期経営計画の公表に伴い、「成長機会スコア」、「1人当たり教育費用」、「働きがいスコア」、「働きやすさスコア」、「健康(プレゼンティーズム)」を新たな定量目標として設定しました。2025年度からはグループで定量目標の達成を目指していきます。
<第3次中期経営計画における定量目標>
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項目 |
2022年度実績 |
2023年度実績 |
2024年度実績 |
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大卒採用者の女性比率 |
事務系 52% |
事務系 57% |
事務系 37% |
事務系 50%以上 |
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技術系 16% |
技術系 17% |
技術系 24% |
技術系 20%以上 |
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51名 |
58名 |
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56名 |
71名 |
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83.9% |
81.1% |
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ENEOS Learning Platform 延べ利用人数 |
589名 |
800名 |
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(注)ENEOS基準の計算方法により、算出した数値です。
<第4次中期経営計画におけるグループ人材戦略及び定量目標>
(2)国際的な人権原則の遵守
当社グループは、グローバルに事業を展開する企業グループとして、従業員を含むすべてのステークホルダーの人権を尊重することが、持続的な社会の発展に貢献していくうえで根本的かつ必須の重要テーマであると考えています。
当社グループは、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」、国際労働機関(ILO)の中核的労働基準(「結社の自由及び団体交渉権の効果的な承認」「あらゆる形態の強制労働の禁止」「児童労働の実効的な廃止」「雇用及び職業における差別の排除」)、「労働における基本的原則及び権利に関する宣言」等の国際規範を支持しています。
また、従業員に限らず、サプライヤー、お客様、お取引先、地域社会等のさまざまなステークホルダーの方々の人権を尊重し、事業活動を進めています。
ア.人権ポリシー
当社グループは、人権尊重の基本原則をグループ行動基準に定めるとともに、これを補完する人権ポリシーを制定しています。当社グループの事業活動に関連するすべてのビジネスパートナーに対して理解・協力を要請し、これらの周知徹底と遵守に努めています。
イ.人権デュー・ディリジェンス
当社グループは、人権デュー・ディリジェンス(以下、人権DD)、サプライチェーンにおけるCSR調達アンケート、そして人権への負の影響が疑われた場合の対応フローという3つの仕組みを通じて、網羅的に人権リスクの把握に努めています。
2019年度から隔年で国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGP)に沿った人権DDを実施しています。事業活動における人権侵害リスク範囲の特定と評価、改善策立案、教育の仕組み構築を内容とするものです。人権DDのサイクルは以下のとおりです。
①人権リスク調査の対象となるステークホルダー・人権リスクのスコーピング
ステークホルダー:従業員、お客様、製油所・サービスステーション(SS)の周辺住民、
サプライヤー等
人権リスク:表「人権DDにおいて確認する人権課題」参照
<人権DDにおいて確認する人権課題>
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ステークホルダー |
人権DDにおいて確認する人権課題 |
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従業員 |
ハラスメント |
労働時間管理 |
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差別 |
健康 |
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安全 |
ワークライフバランス |
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結社の自由(団結権・団体交渉権) |
公正かつ良好な労働基準 |
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サプライヤー |
サプライヤーによる人権侵害事象の発生 |
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顧客・取引先 |
品質不良(コンタミネーション含む) |
不適切な商品情報の提供 |
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不適切な商品化学物質管理 |
情報セキュリティ(プライバシー) |
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地域社会 |
環境(地球の環境破壊、健康被害、事故被害含む) |
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② 人権リスクの評価・検証
①でスコーピングした各人権リスクに対し、業務を通じた人権侵害を行っていないか、各部で自己評価
評価後、外部専門家に確認を依頼し、対応を優先すべき人権リスクを特定
③ 今後の対応策検討
自己評価の結果及び外部専門家の意見を踏まえ、対応を優先すべき人権リスクに対する対応策を検討
④ 対応策の導入
検討を踏まえ対応策を導入
⑤ 開示
対応について報告
ウ.指標と目標
当社グループでは、「人権DD・人権研修の実施」を取組目標としています。
2023年度に第3回人権DDを実施し、主要な事業バリューチェーン上における重大な人権侵害事例が生じていないことを確認しています。同時に、優先的に対応すべき人権リスクの懸念(潜在的なリスクを含む)への対応策を検討し、次回人権DD実施(2026年度予定)に向け順次取り組んでいます。より詳細な情報は2025年11月公表予定の「ESGデータブック」をご参照ください。
また、人権研修については、グループ各社で、人権意識の向上と職場における人権侵害の発生防止を目的として、役員・従業員を対象に人権啓発研修やeラーニングを継続しています。
(3)健康増進
当社グループは、従業員及びその家族の健康を大切にすることが、従業員の活力向上、生産性改善及び組織活性化につながり、ひいては成長戦略実現の原動力や競争力の源泉になると考えています。このような考え方のもと、健康に関する基本原則をグループ行動基準に定めるとともに、従業員の自律的な健康管理及び健康増進に寄与すべく「健康経営」を推進しています。
ア.健康経営の全体像
当社グループは、「ENEOSグループ理念」において、「安全・環境・健康」を“大切にしたい価値観”の一つとして掲げています。「ENEOSグループ長期ビジョン」実現のためにも、企業活動の根幹である従業員一人ひとりの心身の健康を維持・増進することが大切です。
健全な労働環境の整備及び適切な働き方の実現に向けた取組、また、従業員の健康管理をサポートしつつ自律的な健康管理意識を醸成する取組が、個人の健康は勿論、職場全体の活力や生産性の向上につながり、ひいては「健康経営」の実現に至ると考え活動しています。
イ.健康経営のサポート体制
健康経営を推進するため「健康経営のサポート体制」を整え、事務局を人事部内に設置し、健康保険組合や関係会社・各事業所と連携しながら様々な取組を行っています。国内の各事業所においては、安全衛生委員会又は衛生委員会を毎月開催し、会社側と労働組合又は従業員の代表が衛生について話し合いを行っています。
ウ.指標と目標
ENEOSグループ(注1)は、定期健康診断の受診率100%実施に加え、生活習慣病予防に向けたサポートとして、喫煙率の低減(注2)及び適正体重(BMI25未満)維持者比率の改善(注3)を目標に取り組んでいます。海外渡航者・海外勤務者に対しては、疫病・感染症予防接種や医療サポート制度等の整備に努めています。また、健康増進法の趣旨にのっとり、受動喫煙リスクの徹底的な排除にも取り組んでいます。
(注)1.集計対象:ENEOSホールディングス及び主要な事業会社
2.2025年度目標:喫煙習慣者比率前年比マイナス1.0%以上
3.2025年度目標:適正体重(BMI25未満)維持者の比率70%以上
当社グループにおける健康関連指標の目標及び実績は以下のとおりです。
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健康関連指標 |
2023年度 実績 |
2024年度 実績 |
目標 |
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24.1% |
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69.7% |
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100.0% |
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(注)集計対象の主要事業会社
2025年度以降:ENEOSホールディングス、ENEOS、ENEOS Xplora、ENEOSマテリアル、ENEOS Power、
ENEOSリニューアブル・エナジー
2024年度時点:ENEOSホールディングス、ENEOS、ENEOS Xplora、ENEOSマテリアル、ENEOS Power、
ENEOSリニューアブル・エナジー、JX金属
2023年度時点:ENEOSホールディングス、ENEOS、JX石油開発(現在はENEOS Xplora)、JX金属
4.安全確保の強化
当社グループは、エネルギー・素材の安定供給を担う企業グループとして、安全操業を確保することが事業の存立及び社会的信頼の基盤、競争力の源泉であると考えています。
このような認識のもと、ENEOSグループ理念において「安全」を最優先のテーマの1つと位置付けるとともに、ENEOSグループ行動基準にグループの基本方針を定めました。
これを踏まえ、グループ各社は、それぞれの事業特性に合わせて安全に関する方針を定め、労働安全に関するリスクの評価を行い、実効性を備えた安全活動を重層的に推進しています。具体的には、協力会社従業員の方々を含めた安全諸活動及び安全教育の充実を図るとともに、あらゆる事故・トラブル・自然災害に対する予防策及び緊急時対策を講じています。
ENEOSでは、移動中の安全確保を図るため、2022年度からAI歩行診断プログラムを導入し、取組を継続しています。専用の機械を用いて個人の歩行速度・歩幅・重心移動等を計測し、歩き方の安全度合いを判定するプログラムであり、計測結果をもとに、安全な歩き方につながる体操等の改善策を提案する機能も備えています。
また、グループ各社は、労働組合とも組合員の安全衛生を図るために会社が必要な施設の整備に努めることを確認しています。(労働協約付帯協定第90条)
ア.指標と目標
当社グループは、労働者の安全を最優先かつ徹底する意志を表明しています。「重大な労働災害(死亡労働災害)件数ゼロ」及び「2030年度末にTRIR(注1)1.0以下及びLTIR(注2)0.3以下の達成」をグループの重点目標として定め、協力会社の方々を含めた安全諸活動の徹底及び安全教育の充実を図っています。
(注)1.総災害度数率、100万延べ時間当たりの負傷者数(不休労災+休業・死亡労災者数)
2.休業災害度数率、100万延べ時間当たりの休業・死亡労災者数
当社グループの定量目標及び実績は次の通りです。
<定量目標及び実績>
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項目 |
2022年度 実績・目標 |
2023年度 実績・目標 |
2024年度 実績・目標 |
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重大な労働災害 (死亡労働災害)件数 |
0件 (0件) |
0件 (0件) |
1件 (0件) |
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TRIR (総災害度数率) |
1.00 (1.0以下) |
0.94 (1.0以下) |
2.24 (1.0以下) |
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LTIR (休業災害度数率) |
― |
― |
従業員:0.64(0) 協力会社員:0.90(0.3以下) |
(注)3.各年度におけるかっこ書きは目標値です。
4.2024年度における実績値は速報値です。確定値については、2025年11月公表予定の「ESGデータブック」をご参照ください。
5.2022年度及び2023年度のTRIRはENEOSホールディングス、ENEOS、JX石油開発(現在はENEOS Xplora)、JX金属の従業員を集計対象とし、2024年度のTRIRとLTIRはENEOSホールディングス、ENEOS、ENEOS Xplora、ENEOSマテリアル、ENEOS Power、ENEOSリニューアブル・エナジー、JX金属及び各社グループ会社の従業員と協力会社員を集計対象としています。
5.ステークホルダーとのコミュニケーション
当社グループは、株主・投資家、お客様、お取引先、従業員等、多様なステークホルダーの皆様との関わりの中で事業活動を営んでいます。ステークホルダーとの対話を積極的に進め、期待や要請に応える活動を推進していきます。
また、当社グループでは、ESGに関する具体的なテーマに関し、外部専門家・ステークホルダーの意見を聴取し対応しています。2023年度には投資家向けにカーボンニュートラル基本計画の説明会を実施したほか、機関投資家の気候変動アクション・イニシアティブ「Climate Action 100+」とも定期的なエンゲージメントを実施しています。
引き続き、外部専門家・ステークホルダーとのエンゲージメントを進め、社会課題の解決に貢献していきます。
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ステークホルダー |
活動内容 |
主なコミュニケーション手段 |
主なコミュニケーション窓口 |
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株主・投資家 |
当社では、ディスクロージャーポリシーを定め、株主・投資家の皆様に対し、迅速、適正かつ公平な情報開示に努めています。 |
・株主総会、決算説明会、個人投資家向け説明会、ESG説明 ・統合レポート、ESGデータブック、ウェブサイトでの情報開示 |
・当社ウェブサイトお問い合わせ窓口 (https://www.hd.eneos.co.jp/contact/) ・当社IR部門窓口(電話、メール、ミーティング等) |
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お客様 |
当社グループは、お客様のご要望やご期待に応え、信頼とご満足いただける商品・サービスを開発・提供しています。 |
・営業活動を通じたコミュニケーション ・安全・安心で価値ある商品・サービスの提供 ・ウェブサイトによる情報提供 ・電話やウェブサイトでのお問い合わせ窓口 |
・当社ウェブサイトお問い合わせ窓口 (https://www.hd.eneos.co.jp/contact/) ・グループ各社販売部門窓口(電話、メール、ミーティング等) ・ENEOSお客様センター(フリーダイヤル) |
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お取引先 |
当社グループでは、お取引先に対して購買情報を開示し、積極的にビジネスチャンスを提供するとともに、公正な取引機会の確保に努めています。 |
・購買業務を通じたコミュニケーション ・ウェブサイトの活用 ・CSR調達アンケートの実施(2年で1サイクル) |
・当社ウェブサイトお問い合わせ窓口 (https://www.hd.eneos.co.jp/contact/) ・グループ各社調達部門窓口(電話、メール、ミーティング等) ・サプライヤー向け人権相談窓口 |
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NPO・NGO |
当社グループは、NPO・NGOとの協力関係を構築し、環境保全や社会貢献活動に積極的に取り組んでいます。 |
・生物多様性保全活動による協働 ・次世代人材育成支援活動での協働 ・人権デュー・ディリジェンスにおける第三者の立場からの検証(隔年) |
・当社ウェブサイトお問い合わせ窓口 (https://www.hd.eneos.co.jp/contact/) |
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地域社会・ 国際社会 |
当社グループは、操業地及び国際社会からのニーズや期待に応え、積極的にコミュニケーションを図ることで、責任ある企業活動を行うことを目指します。 |
・地域住民向け説明会、行事参加・協賛 ・ボランティア活動 ・産油、産ガス等を対象にしたさまざまな支援制度を開設 ・国際イニシアティブへの参画 |
・当社ウェブサイトお問い合わせ窓口 (https://www.hd.eneos.co.jp/contact/) ・操業地域の事業所窓口(電話、メール、ミーティング等) |
|
従業員 |
当社グループでは、従業員を経営における重要なステークホルダーとして位置付け、一人ひとりが安心して働き、能力を最大限発揮できるように、各種制度を整備しています。 |
・労働組合と経営層との定期的な対話 ・グループ報、イントラネットによる情報発信 ・意識調査の定期的実施 ・階層別研修等の実施 ・各種施策に対するアンケートの実施(随時) |
・内部通報制度(ホットライン) ※請負先従業員も対象 ・上司との定期的な面談 ・労働組合を通じて |
ア.指標と目標
当社は、「投資家との効果的なエンゲージメントの実施(のべ250件)」を取組目標としています。
2023年度の実績は412件、2024年度の実績は415件でした。
6.情報セキュリティ及びDX推進に関する事項
(1)情報セキュリティ
当社グループは、高い情報セキュリティレベルを確保することが重要な経営課題であると認識し、必要な対策に取り組んでおり、「情報セキュリティポリシー」を定め、ビジネスパートナーや委託先を含めて情報の適切な取扱い・管理・保護・維持に努めています。なお、情報セキュリティポリシーについては、当社Webサイトをご参照ください。(https://www.hd.eneos.co.jp/security/)
加えて、当社グループは、「ENEOSグループ情報セキュリティ基本規程」に則り、会社の資産である会社情報の不正な使用・開示及び漏えいを防止するとともに、会社情報の正確性・信頼性を保ち、改ざんや誤処理を防止し、許可された利用者が必要な時に確実にその会社情報を利用できるようにしています。
個人情報保護については「個人情報保護要領」を制定し、個人情報保護法の遵守と、個人情報を適切に取り扱うためのルールを定め、権利保護を図っています。加えて、研修の実施や「個人情報保護要領ガイドブック」の掲示等により、従業員への法令及び社内ルールの浸透を図っています。
IT及びITに保持される会社情報への外部からの脅威に対しては、「サイバーセキュリティ」として、担当部署を設けて、機密性・完全性・可用性を維持するための必要な施策を行っています。
また、当社グループの「サイバーセキュリティ」に関する考え方及び取組は、以下のとおりです。
ア.サイバーセキュリティにおけるガバナンス
当社グループは、年々巧妙化するサイバー攻撃から会社の重要な情報やシステムを守るため、当社社長を議長とする「ENEOSグループサイバーセキュリティ会議」を設置しています。同会議においてサイバーセキュリティ対策状況を確認するとともに、経営主導でサイバーセキュリティ対策方針を決定・推進しています。
その後各事業会社にてサイバーセキュリティ対策方針を具体的な施策へ落とし込み実行しています。
イ.サイバーセキュリティにおけるリスク管理
当社グループは、生産・販売・会計等のプロセスに関する電子データを、さまざまな情報システムやネットワークを通じて利用しています。これらの情報システムには安全対策が施されているものの、地震等の自然災害やサイバー攻撃を含む事象等により、情報システムに予期せぬ障害が発生し、業務が停止する可能性があります。その場合、当社グループの生産・販売活動に支障を来たすとともに、取引先の事業に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
DXの進展や働き方の多様化等により守るべき情報資産は増加傾向にある中で、情報システムや電子データの安全性を担保していくためには継続的なサイバーセキュリティ対策の強化が必要です。
このような状況を踏まえ、当社グループでは次のサイバーセキュリティ強化方針を掲げ、必要な施策を講じています。
・新たな主要な事業会社体制におけるガバナンス強化
・クラウド等利用拡大に伴うアタックサーフェス管理のさらなる強化
・システム開発における“セキュリティ・バイ・デザイン”の定着化
各セキュリティ強化方針に係る具体的な取組事例は以下のとおりです。
ア.新たな主要な事業会社体制におけるガバナンス強化
当連結会計年度においてENEOSグループは、「石油製品ほか」、「石油・天然ガス開発」、「機能材」、「電気」、「再生可能エネルギー」を主要な事業とする経営体制へ移行しました。
この新たな経営体制においてもENEOSグループとして必要なセキュリティレベルを維持・向上させるため、十分なセキュリティガバナンスが発揮される必要があります。
ENEOSグループではこの一環として社内ルールの改訂を行い、さらに横断的な会議体の開催やセキュリティ事故対応の合同訓練等を実施することで、グループ全体でのガバナンスを確保しています。
イ.クラウド等利用拡大に伴うアタックサーフェス管理のさらなる強化
近年、DXの進展に伴い、クラウドサービスの利用や在宅勤務環境の整備が進むことで、インターネットに接続される情報資産は増加傾向にあります。これにより利便性は高まる一方で、インターネットからの直接の攻撃を受けやすくなるというリスクも存在します。ENEOSグループではこのリスクに対処するため、インターネット接続資産の管理や能動的な脆弱性検知を通じ、統制面・技術面での継続的な環境整備を行い、アタックサーフェスの保護に努めています。
ウ.システム開発における“セキュリティ・バイ・デザイン”の定着化
システム開発工程においては、各システムの特性に応じたリスクをあらかじめ想定し、その対策を設計に盛り込むことが重要です。
ENEOSグループではシステム開発・運用に携わる関係者へ高度なセキュリティ教育を実施しており、加えて、システム開発・運用を委託する企業向けに定期的なENEOSグループセキュリティ方針の説明会を開催しています。これにより提案や見積りの段階からセキュリティを意識したシステム開発となるよう取り組んでいます。
(2)DXの取組
当社グループは「確かな収益の礎の確立」と「エネルギートランジションの実現」に必要な経営基盤を強化すべく、2023年度に「ENEOSデジタル戦略」を策定しました。デジタル戦略では、基盤事業、成長事業及びカーボンニュートラルの各領域におけるデジタル技術の活用方針を定めた「DX重点テーマ」と、デジタル人材育成、データ活用、ITガバナンス、共創機会という4つの「DX推進の原動力」の強化方針を定めました。
特にデジタル人材の育成を重点要素と設定し、第3次中期経営計画における高度デジタル人材の育成目標数として、2025年度末までに全従業員の約20%に相当する2,000人の育成を掲げ、実績として2024年度末に目標を超える、延べ2,761人の高度デジタル人材を育成しました。今後の方針としてENEOSでは、管掌役員で構成するDX推進委員会(注)の中で、育成したデジタル人材の実践力の強化・活用を加速させています。
(注)全社DX方針や課題を討議し、各組織のDX推進に活用していく審議機関。
当社グループでは、グループ経営に関するリスク事象に的確な対応を図るため「全社的リスクマネジメント(Enterprise Risk Management: ERM)体制」を整備・運用しています。具体的には、毎年度グループ経営に甚大な影響を与えうるリスク事象を抽出した上で「重点対応リスク事象」を選定し、対応策の実行を進め、その取組状況を経営会議及び取締役会に報告するプロセスを導入しています。なお、2025年度には、主要事業会社により洗い出されたリスクから、「重点対応リスク事象」として、「個人情報漏洩」、「経済環境の変化に伴う保有資産価値の低下」を選定し、今後、所管部署を中心に、当該事象に対する対応方針を決定し、取組状況の確認等を実施していきます。リスクに対するガバナンス体制は「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1)ガバナンス」をご参照ください。
当社グループの事業において、重要な影響を及ぼす可能性のある事項は以下のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、別段の表示がない限り、当社が本報告書提出日現在において判断したものです。
(1)市場リスク
・商品価格変動リスク
当社グループは、石油製品・石油化学製品・電力等の販売及びそれらの原料となる原油等の購入を行っていますが、これらの販売価格及び購入価格は商品市場価格の変動によって影響を受けることから、商品価格変動リスクに晒されています。
(石油製品ほかセグメント)
国内の石油製品のマージンは、主に原油価格と国内の石油製品市場価格との関係に左右され、当社グループがコントロールし得ない要因によって決定されます。原油価格に影響を及ぼす要因としては、円の対米ドル為替相場、産油地域の政治情勢、OPECによる生産調整、シェールオイルの生産動向、全世界的な原油需要等があります。また、石油製品価格に影響を及ぼす要因としては、石油製品の国内需要、海外石油製品市況、国内の石油精製能力及び稼働率、国内のサービスステーション総数等があります。当社グループは、石油製品販売価格を石油製品の需給状況や市況動向を適切に反映して決定していますが、原油価格や石油製品市況の動向次第では、マージンが大きく変動します。また、石油化学製品のマージンも、原油価格やナフサ等の原料油価格と石油化学製品価格との関係に左右され、当社グループがコントロールし得ない要因によって決定されます。石油化学製品価格については、生産設備の新増設による供給能力拡大と衣料・自動車・家電等の需要動向に影響されます。需給が緩和した場合は、原油・原料油価格の上昇を製品価格に転嫁することが困難になります。
従って、原油価格、石油製品価格、石油化学製品価格の変動等により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(石油・天然ガス開発セグメント)
石油・天然ガス開発事業においては、原油及び天然ガス価格の上昇時には売上高が増加し、原油及び天然ガス価格の下落時には、売上高が減少します。従って、原油及び天然ガス価格の変動により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(機能材セグメント)
機能材事業においては、原油価格やナフサ価格、ならびに主要原料であるブタジエンの市況変動により、原材料の調達価格や製品価格が変動し、マージンに影響を及ぼす可能性があります。また、本事業で取り扱うタイヤ材料や二次電池材料は、自動車および電気自動車(EV)の需要と関連性が高く、各国・地域の経済動向の影響を受けるリスクがあります。従って、景気後退等により自動車需要が低迷した場合には、当該事業の業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(電気セグメント)
電気事業においては、当社グループの発電量が販売量を上回る場合は余剰電力を卸電力市場等へ売却し、下回る場合は不足電力を卸電力市場等から調達しています。そのため、燃料調達価格や卸電力市場価格の変動により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(再生可能エネルギーセグメント)
再生可能エネルギー事業においては、当社グループの発電所が発電する電力の大半は固定価格により販売していますが、一部は市場価格に連動するスキームで販売しているため、市場価格の変動により、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、バイオマス発電事業では、燃料の市場価格が高騰した場合、収益が悪化する可能性があります。
・為替リスク
当社グループは、外貨建ての営業取引による収入及び支出が発生しており、また多額の外貨建て資産及び負債を有しています。そのため、外国為替相場の変動は、資産、負債、収入及び支出の円貨換算額に影響を及ぼす可能性があります。また、外国為替相場の変動は、海外の子会社、持分法適用会社、共同支配事業及び共同支配企業の財務諸表を円貨換算する場合にも影響を及ぼす可能性があります。
なお、当社グループでは、デリバティブ金融商品を利用したヘッジを行い、市場リスクを低減する対策を講じています。その具体的な取組については、「第5 経理の状況 連結財務諸表 注記21.金融商品 (2)財務リスク管理 ③市場リスク」をご参照ください。
また、上記の市場リスクのうち、当社グループの経営成績に影響を及ぼす主要なリスクである外国為替相場及び原油価格の市況変動による営業利益への影響額については、感応度を算定しています。次期の連結業績予想(2025年5月公表)へ与える市況変動の感応度は、下表のとおりです。なお、本感応度は一定の前提をおいて算定したもので、諸条件の変化によって影響額も変動します。
(2)環境規制に関するリスク
当社グループの事業は、広範な環境規制の適用を受けており、これらの規制により、環境浄化のための費用を賦課され、環境汚染が生じた場合には、罰金・賠償金の支払いを求められ、又は操業の継続が困難となる可能性があります。また、今後、規制が強化される可能性があります。これらの環境規制及び基準に関する義務や負担は、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(3)気候変動に関するリスク
当項目は、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 2.持続可能な地球環境の形成・保全への貢献 (1)気候変動対応(TCFD)」の中で記載しています。
(4)操業に関するリスク
当社グループの事業は、火災、爆発、事故、輸出入制限、自然災害、天候等の自然現象、労働争議、原料や製品の輸送制限等の様々な操業上のリスクを伴っており、これらの事故・災害等が発生した場合には、多大な損失を蒙る可能性があります。当社グループは、可能かつ妥当な範囲において、事故、災害等に関する保険を付していますが、それによってもすべての損害を填補し得ない可能性があります。
(5)需要変動に関するリスク
当社グループの製品・サービスの需要は、それらを提供している国又は地域の経済状況、社会情勢の影響を強く受けています。国内石油製品需要については、「脱炭素社会」の実現に向けた動きが加速することを受けて、低燃費車の普及、ガス・電気等へのエネルギー転換が進展し、今後も減少することが予想されます。石油化学製品の販売はアジア諸国での需要に大きく依存しており、これらの地域における需要の変動が当社グループの製品需要に大きな影響を与えます。これら当社グループの需要の変動については、正確な予測に努め必要な対策を行っていますが、予測を超えた急激な変動がある時は、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(6)競合に関するリスク
当社グループは、様々な市場で激しい競争に晒されています。特に国内石油精製販売事業においては、企業間で激しい競争が行われていますが、国内需要の減少傾向が、この状況をさらに加速する可能性があります。また、機能材事業は、技術革新及び顧客ニーズの急速な変化を伴う事業環境下にあり、競合他社との競争に絶えず晒されています。このような競争環境の激化が、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(7)原料供給源に関するカントリーリスク
当社グループは、原料の多くを海外から調達しており、特に、原油は中東の限られた供給源に大きく依存しています。こうした国・地域における政治不安、社会混乱、労働争議、経済情勢の悪化、法令・政策の変更等のカントリーリスクが発生した場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(8)資源開発に関するリスク
当社グループが行っている油田・天然ガス田における探鉱及び開発活動は、現在、商業化に向けて、様々な段階にあります。探鉱及び開発の成功は、探鉱・開発地域の選定、設備の建設コスト、政府による許認可や税制、資金調達等、種々の要因に左右されます。個々のプロジェクトが商業化に至らず、投資費用が回収できない場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、探鉱・開発事業においては、高度な専門技術と幅広い経験を有する人材を確保する必要がありますが、当社グループが優秀な人材を十分に確保できない場合は、収益機会の逸失及び競争力低下につながる可能性があります。
(9)石油・天然ガスの埋蔵量確保に関するリスク
国際的な資源獲得競争により、当社グループが石油・天然ガスの埋蔵量を確保するための競争条件は一段と厳しくなっています。当社グループの将来における石油・天然ガスの生産量は、探鉱、開発、権益取得等によって、商業ベースの生産が可能な埋蔵量を確保できるか否かにより左右されます。当社グループが石油・天然ガス埋蔵量を補填できない場合には、将来的に生産量が低下し、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、石油・天然ガス埋蔵量の見積りは、地質学的、技術的、経済的情報に基づいた主観的判断や決定を伴うため、正確に測定することが困難であり、進歩する回収技術の適用や生産活動を通じた新たな情報に基づいて大幅な修正が必要となる可能性があります。実際の埋蔵量が見積りを下回った場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(10)石油・天然ガス開発機材に関するリスク
石油・天然ガスの探鉱及び生産をするため、当社グループは、第三者から掘削機等の機材及びサービスの提供を受けています。原油価格が高騰している時期等は、これらの機材及びサービスが不足し、機材及びサービス提供の価格も上昇することになります。当社グループが、適切なタイミングかつ経済的に妥当な条件で、必要な機材やサービスの提供を受けることができない場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。
(11)第三者との提携、事業投資に関するリスク
当社グループは、様々な事業分野において、合弁事業その他の第三者との提携及び他企業等への戦略的な投資を行っています。これらの提携や投資は、当社グループの事業において重要な役割を果たしており、種々の要因により、重要な合弁事業が経営不振に陥り、又は提携関係や投資における成果を上げることができない場合には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(12)事業の再構築に関するリスク
当社グループは、コスト削減、事業の集中と効率性の強化を図ることとしており、事業の再構築に伴う相当程度の損失が発生する可能性があります。当社グループがその事業の再構築を適切に行うことができず、又は、再構築によっても、想定した事業運営上の改善を実現することができなかった場合は、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(13)設備投資及び投融資と減損に関するリスク
当社グループにおいては、事業の維持・成長又は新たな事業機会の獲得のために、継続的な設備投資及び投融資を必要としていますが、キャッシュ・フローの不足等の要因によりこれらの計画を実行することが困難となる可能性があります。また、外部環境の変化等により、実際の投資額が予定額を大幅に上回り、あるいは計画どおりの収益が得られない可能性もあります。それにより、当社グループが所有している有形固定資産、のれん及び無形資産について投資額の回収が見込めなくなった場合には、これを反映させるように帳簿価額を減額し、その減少額を減損損失として計上することとなるため、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。
(14)繰延税金資産に関するリスク
当社グループの繰延税金資産は、将来減算一時差異、未使用の繰越税額控除及び繰越欠損金を利用できる課税所得が生じる可能性が高い範囲内で金額を計上しています。課税所得発生の時期及び金額は、合理的な見積りに基づき決定していますが、課税所得が生じる時期及び金額は、将来の不確実な経済状況の変動によって影響を受ける可能性があり、実際に生じた時期及び金額が見積りと異なった場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。
(15)棚卸資産の収益性の低下による簿価切下げと棚卸資産評価に関するリスク
当社グループは、多額の棚卸資産を所有しており、原油、石油製品等の価格下落等により、棚卸資産の期末における正味売却価額が帳簿価額よりも低下したときには、収益性が低下しているとみて、期末帳簿価額を正味売却価額まで切り下げて売上原価等に計上することとなるため、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を与える可能性があります。また、当社グループは、原油、石油製品等棚卸資産の評価を総平均法で行っており、原油価格の上昇局面では、期初の相対的に安価な棚卸資産の影響により売上原価が押し下げられて増益要因となりますが、原油価格の下落局面では、期初の相対的に高価な棚卸資産の影響により売上原価が押し上げられて減益要因となるため、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(16)有利子負債に関するリスク
当社グループは、多額の有利子負債により事業活動等に制約を受ける可能性があり、また、負債の元利金支払いのために、追加借入又は資産の売却等による資金調達を必要とする可能性がありますが、こうした資金調達を行うことができるか否かは、金融市場の状況、当社の株価、資産の売却先の有無等、様々な要因に依存しています。さらに、国内外の金利が上昇した場合には、金利負担が増加することにより、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(17)確定給付制度に関するリスク
当社グループは確定給付制度を含む退職給付制度を有しています。これらの各制度に係る確定給付制度債務の現在価値及び関連する勤務費用等は、数理計算上の仮定に基づいて算定されます。数理計算上の仮定には、割引率等、様々な変数についての見積り及び判断が求められます。これらの変数を含む数理計算上の仮定の適切性について、将来の不確実な経済状況の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、見直しが必要となった場合、当社グループの財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、制度資産に関しては、主に資本性金融商品の価格や社債利率の変動リスクに晒されており、これらの資産の利回り低下も当社グループの財政状態に影響を及ぼす可能性があります。なお詳細は、「第5 経理の状況 連結財務諸表 注記19.退職後給付 (2)確定給付制度」をご参照ください。
(18)信用に関するリスク
当社グループは、保有する売掛金などの金融債権が、債務者(取引先)の信用悪化や経営破綻などにより債務不履行になることにより、金融資産が回収不能になるリスク、すなわち信用リスクに晒されています。当該リスクに対応するために、与信管理規程等に基づき取引先ごとに与信限度額を設けた上で、取引先の財務状況等について定期的にモニタリングし、債権の期日及び残高を取引先ごとに適切に管理することにより、回収懸念の早期把握を図っています。さらに、必要に応じて担保設定・ファクタリング等を利用することによって保全措置を図っていますが、信用リスクが完全に回避される保証はありません。取引先の信用状態の悪化を受けて、保有する金融資産が回収不能になった場合、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(19)知的財産に関するリスク
当社グループは、事業遂行のため、特許権等の知的財産権を保有していますが、状況によってはその確保が困難となり、又は有効性が否認される可能性があります。また、当社グループの企業秘密が第三者により開示又は悪用される可能性もあります。さらに、急速な技術の発展により、当社グループの事業に必要な技術について知的財産権による保護が不十分となる可能性があります。また、当社グループの技術に関して第三者から知的財産権の侵害クレームを受けた場合は、多額のロイヤリティー支払い又は当該技術の使用差止めの可能性もあります。以上のように、当社グループがその事業を行うために必要な知的財産権を確保し、又はそれを十分に活用することができない場合等には、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(20)内部統制システムに関するリスク
当社グループは、かねてからコンプライアンス、リスクマネジメント等の充実に努めており、財務報告に係る内部統制を含め、内部統制システムの充実強化を図っていますが、当社グループが構築した内部統制システムが有効に機能せず、コンプライアンス違反、巨額な損失リスクの顕在化、ディスクロージャーの信頼性の毀損等の事態が生じた場合には、ステークホルダーの信頼を一挙に失うことにもなりかねず、当社グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
(21)情報システムに関するリスク
当項目は、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 6.情報セキュリティ及びDX推進に関する事項」の中で記載しています。
(22)個人情報の管理に関するリスク
当社グループは、石油販売等の事業に関連して顧客の個人情報を保有しており、それらに保護対策等を実施して適切に管理していますが、こうした対策に今後多額の費用を必要とする可能性があります。また、今後、仮に顧客の個人情報が流出し又は悪用された場合、上記事業に影響が及ぶ可能性があります。
(1)経営成績等の状況の概要
2025年3月19日に、当社の子会社であるJX金属株式会社(以下、JX金属)が東京証券取引所プライム市場に新規上場しました。株式上場に際し、当社が保有するJX金属株式の一部につき売出しを行ったことにより、JX金属は子会社から持分法適用会社となりました。
これに伴い、JX金属及び同社子会社等からなる金属事業(金属セグメント)を非継続事業に分類しています。売上高、営業利益及び税引前利益については、非継続事業を除いた継続事業の金額を記載しており、前年同期の数値も同様に組み替えています。
<ENEOSグループを取り巻く環境>
当連結会計年度においては、インフレが徐々に落ち着きを見せつつあり、加えて貿易の持ち直し等も背景として、世界経済は底堅い成長を維持しました。
わが国経済についても、物価高により節約志向が高まりましたが、企業の設備投資拡大や雇用・所得環境の改善等により、景気の緩やかな回復が継続しました。
当連結会計年度における原油価格(ドバイ原油)は、期初は1バーレル当たり88ドルから始まり、期末には76ドル、期平均では前年同期比3ドル安の79ドルとなりました。期央にかけては地政学上の懸念はあるものの世界的な需給緩和見通しを背景に下落し、期末にかけては米国の政策動向の不透明感等から不安定な値動きとなりました。
銅の国際価格(LME〔ロンドン金属取引所〕価格)は、期初は1ポンド当たり405セントから始まり、期末には439セント、期平均では前年同期比46セント高の425セントとなりました。中国製錬会社の減産合意報道やロシア産金属取引規制による供給リスクの高まりを受け、5月には492セントまで上昇し、史上最高値を更新、その後も高値を維持し期末にかけて堅調に推移しました。
円の対米ドル相場は、日米の金利差拡大を背景に6月には約38年ぶりの161円台まで円安が進行しましたが、米国景気懸念や日銀の政策金利引き上げ等により円高が進行しました。その後、期末に向けて再び円安が進行し、期平均では前年同期比8円円安の153円となりました。
<連結業績の概要>
こうした状況のもと、当連結会計年度における売上高は、前年同期比0.2%減の12兆3,225億円となりました。また、営業利益は、前年同期比2,753億円減益の1,061億円となりました。在庫影響(総平均法及び簿価切下げによる棚卸資産の評価が売上原価に与える影響)を除いた営業利益相当額は、前年同期比1,460億円減益の1,637億円となりました。
金融収益と金融費用の純額179億円を差し引いた結果、税引前利益は、前年同期比2,797億円減益の882億円となり、法人所得税費用308億円を差し引いた継続事業からの当期利益は、前年同期比1,720億円減益の574億円となりました。非継続事業からの当期利益は、JX金属の上場に伴う売却関連収益の計上により、前年同期比1,135億円増益の2,295億円となりました。継続事業と非継続事業を合わせた当期利益は、前年同期比586億円減益の2,869億円となりました。
なお、当期利益の内訳は、継続事業及び非継続事業の合算の親会社の所有者に帰属する当期利益が2,261億円、非支配持分に帰属する当期利益が608億円となりました。
(注)上図内の原油価格、銅価、為替レートは期平均値です。
セグメント別の概況は、次のとおりです。なお、当連結会計年度より、報告セグメントの区分を変更しています。詳細は、「第5 経理の状況 連結財務諸表 注記7.セグメント情報」をご覧ください。
[石油製品ほかセグメント]
<主な事業内容>
ENEOS株式会社は、国内最大の燃料油販売シェアを有する石油精製販売事業に加え、エネルギートランジション実現への取組として、SAF(*1)・水素・合成燃料といった次世代エネルギー事業にも取り組んでいます。
*1 SAF : 持続可能な航空燃料
<トピックス>
●製油所の競争力強化に向けた取組
第3次中期経営計画の基本方針である「確かな収益の礎の確立」を成し遂げるべく、製油所稼働率の改善に向けた取組を推進しました。具体的には、定期修理における工事品質の向上、設備の連続運転に資する検査・監視の充実と対策の強化等によりトラブル削減を推進しました。結果として、当連結会計年度における製油所の計画外停止の割合は、前年同期の7%から良化し、5%となりました。
また、装置の運転において、人の技量を支援し、より精緻で高度な安定性・効率性を実現して収益最大化を達成すべく、AIの活用にも取り組みました。具体的には、川崎製油所の原油処理を行う常圧蒸留装置で、AI自動運転モデルの活用を開始しました。これは、AI技術を用いて同装置の安定的な常時自動運転を実現した世界初の取組です。
●エネルギートランジション実現への取組
カーボンニュートラル社会においても当社グループが国内一次エネルギー供給のメインプレイヤーであり続けるべく、当連結会計年度においてもエネルギートランジション実現に向けた取組を推進しました。
具体的には、SAFの分野においては、国内石油元売として初めてSAFを輸入し、複数の航空会社への供給を開始しました。また、和歌山製造所にて、年間約40万KLのSAF量産供給体制を構築すべく検討を進めています。
合成燃料の分野においては、原料から合成燃料を一貫製造できる日本初のプラントである、合成燃料製造実証プラントの実証運転を開始しました。製造した合成燃料は、2025年4月から開催中の大阪・関西万博における大型車両走行実証等にも活用されています。
<事業概況>
石油製品については、自動車の低燃費化を主因とする構造的な国内石油製品需要の減少や、製油所の稼働状況を受けて輸出数量が減少したことにより、販売数量は前年同期比減少したものの、販売構成の変化により数量が与える損益影響は前年同期比良化しました。
石油化学製品のマージンについては、パラキシレンはガソリン需要減を背景に生産量が増加したためマージンは前年同期比で悪化、ベンゼンは旺盛な米国需要により前年同期比良化しました。
また、金利上昇に伴う割引率の上昇等により、当連結会計年度においては統合のれん等の減損損失が発生しています。
こうした状況のもと、石油製品ほかセグメントの当連結会計年度における売上高は、前年同期比0.8%減の10兆9,797億円となりました。営業損失は前年同期比3,125億円減益の507億円となりました。在庫影響による会計上の損失が576億円(前年同期は717億円の利益)含まれており、在庫影響を除いた営業利益相当額は、前年同期比1,832億円減益の69億円となりました。
[石油・天然ガス開発セグメント]
<主な事業内容>
ENEOS Xplora株式会社(以下、ENEOS Xplora)は、基盤事業である石油・天然ガスの開発・生産事業を軸としつつ、CCS/CCUS(*2、3)を中心とした環境対応型事業を成長事業と位置付けてもう一つの軸とする「二軸経営」を展開しています。
*2 CCS :二酸化炭素回収・貯留
*3 CCUS : 二酸化炭素回収・有効利用・貯留
<トピックス>
●エネルギーの安全・安定供給
エネルギーの安全・安定供給を実現するため、石油・天然ガス開発事業においても安全・安定・効率的事業運営を推進し、価値最大化を追求しました。
具体的には、パプアニューギニアにおいては、2024年11月、新規ガス田であるアンゴレガス田からの生産を開始しました。また、インドネシアにおいては、同年11月、CCUSを含むタングーLNGプロジェクト拡張開発計画である「UCCプロジェクト」の最終投資決定(FID)を実施しました。さらに、ベトナムにおいては、2025年3月、1992年に権益を取得した15-2鉱区に関して、新たな生産分与契約(PSC)を締結しました。
●環境対応型事業の推進
環境対応型事業として、CCS/CCUSバリューチェーンのさらなる強化・構築を行うとともに、CCS/CCUS早期実装に向けた取組を推進しました。具体的には、米国においては2014年から推進しているPetra Nova CCUSプロジェクトに関して、2025年2月、世界有数のCO₂回収量となる累計500万トンを達成しました。また、日本郵船株式会社及びその関連会社との間でCO₂液化・貯蔵プロセス実証実験を実施しました。
加えて、米国Calcite Carbon Removalが推進する直接空気回収(DAC)プロジェクトへ参画する等、ネガティブエミッション事業を推進しました。
●社名変更
ENEOS Xploraは、従来の石油・天然ガス開発・生産専業から、環境対応型事業の育成・促進も目指す「二軸経営」を推進する姿勢を明確にするため、2025年1月、「JX石油開発株式会社」から現在の社名に変更しました。
<事業概況>
原油及び天然ガスの生産量については、一部プロジェクトで減退及び定期修繕に伴う操業停止影響があったものの、インドネシアのタングープロジェクトにおける第3系列液化ガス設備の稼働開始による増産影響等により、前年同期比増加しました。
また、原油及び天然ガスの販売価格は、市況を反映し、概ね前年同期並となりました。
こうした状況のもと、石油・天然ガス開発セグメントの当連結会計年度における売上高は、前年同期比18.5%増の2,428億円、営業利益は前年同期比41億円減益の874億円となりました。
[機能材セグメント]
<主な事業内容>
株式会社ENEOSマテリアルは、主にタイヤ材料として使用される合成ゴム及びその関連製品に加え、高機能化学品の生産・販売事業を展開しています。また、サステナブル原料の技術開発やカーボンニュートラル推進のための諸施策に取り組んでいます。
<トピックス>
●競争力強化の取組
機能材事業における戦略製品であり、主に低燃費タイヤの接地面に使用される溶液重合スチレン・ブタジエンゴム(SSBR)については、顧客の商品開発のリードタイムを意識し、ニーズを正確に先取りしながら、さらなる高機能・高付加価値化を目指した商品開発を進めました。こうした取組により、グローバル市場における需要を着実に取り込んだ結果、特に高機能グレードの販売が拡大し、当連結会計年度はSSBRの販売数量が過去最高を記録しました。
また、他分野での戦略製品である電池用バインダーについては、当社グループの強みであるポリマー技術を活かして開発を進めており、機能材事業における2本目の柱に育てるべく取組を進めました。
●電池用バインダー開発向けパイロットラボの導入
電池用バインダーの開発効率を加速するとともに、グローバル市場でのさらなる事業拡大を目指すべく取組を推進しました。具体的には、中国における特殊化学品領域の大手商社であり、同国の主要EV及び電池メーカーへの電池材料の販売を手掛ける上海匯平化工有限公司(以下、SCM)と共同で、同国の南通市にラボを開設しました。当社グループは、既に日欧中にラボ機能を有しておりましたが、このたびSCMが保有する従来のラボを共同して抜本的に刷新し、電池評価可能な最新のパイロットスケール設備を導入したものであり、これによりお客様と同等の評価設備・技術を保有することとなりました。
<事業概況>
機能材事業については、需要回復やサプライチェーンの正常化により、販売数量は堅調に推移し、前年同期比増加しました。また、原料市況の高騰や円安を主因としたマージン拡大等により、前年同期比増益となりました。
こうした状況のもと、機能材セグメントの当連結会計年度における売上高は前年同期比13.1%増の3,470億円、営業利益は前年同期比105億円増益の177億円となりました。
[電気セグメント]
<主な事業内容>
ENEOS Power株式会社(以下、ENEOS Power)は、発電事業や電気小売事業を主要事業領域として、事業を展開しています。また、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、電力の需給バランスの安定化に貢献するVPP(*4)事業にも取り組んでいます。
*4 VPP : 仮想発電所
<トピックス>
●五井火力発電所の営業運転開始
電力の安定供給に貢献すべく、2018年に株式会社JERAと共同で検討を開始(後に九州電力株式会社が参画)し2021年に着工した五井火力発電所が、当初計画どおり2025年3月に全面運開しました(78万kW×3基 うち、当社持分1/3)。同発電所の営業開始により、ENEOS Powerの発電容量は約220万kWとなりました。同発電所は、LNG火力発電所としては世界最高水準の発電効率を誇り、CO₂排出量が少ない低炭素な電源となります。
●室蘭蓄電池の営業運転開始
2024年4月、発電量が随時変動し、電気の需給バランスを不安定化させる要因となる太陽光や風力に対し、当社グループが開発した運転制御アルゴリズムを活用して蓄電池の最適運用を行うことで電気の品質低下防止等に貢献し、カーボンニュートラル社会の実現を推進すべく、北海道室蘭市において国内最大級となる系統用蓄電池の営業運転を開始しました。
●電気小売事業のさらなる強化
「ENEOSでんき」ブランドで展開する電力小売サービスにおいて、お客様・社会のニーズに応えるために新たな料金メニューや付加価値サービスの提供を進めており、2024年12月には社会の脱炭素化ニーズへの対応として、電気のCO₂排出量を実質ゼロにできるカーボンフリー特約メニュー(*5)の提供を開始しました。また、お客様への情報提供やサービスの充実に努めた結果、当連結会計年度は経済産業省の「省エネコミュニケーション・ランキング」で満点の五つ星を獲得しました。
*5 当社グループが調達する火力電源等から発電されたCO₂を排出する電気に環境価値を持つ証書(非化石証書(再エネ指定))を付加し、実質的に再生可能エネルギー100%かつCO₂排出量ゼロとみなされるメニュー
<事業概況>
電気事業については、小売販売数量は前年同期並となりましたが、五井火力発電所の運開、VPP事業における需給調整市場への参入、前年同期に計上した減損損失の反転等により、前年同期比増益となりました。
こうした状況のもと、電気セグメントの当連結会計年度における売上高は前年同期比19.9%増の3,199億円、営業利益は前年同期比274億円増益の210億円となりました。
[再生可能エネルギーセグメント]
<主な事業内容>
ENEOSリニューアブル・エナジー株式会社は、太陽光・陸上風力・バイオマスといった再生可能エネルギーの電源開発・発電・販売事業を展開しており、今後は、洋上風力を含めた再生可能エネルギー全般を幅広くカバーし、業界のリーディングカンパニーとしての地位を確立すべく、諸施策に取り組んでいます。
<トピックス>
●エネルギートランジション実現に向けた再生可能エネルギー発電所の開発
第3次中期経営計画の基本方針である「エネルギートランジション実現に向けた取組加速」を成し遂げ、持続可能な脱炭素社会の実現に貢献すべく、当連結会計年度においても再生可能エネルギー発電所の開発を推進しました。
具体的には、計12か所の陸上風力・太陽光発電所の運転を開始しました。また、2024年3月に当社グループが代表企業を務めるプロジェクト会社が事業者に選定された秋田県八峰町及び能代市沖における洋上風力発電所の開発を2025年度の着工に向けて着実に推進しました。
●企業のCO₂排出量削減への貢献と再生可能エネルギーの安定供給
再生可能エネルギー発電事業を通じ、企業のCO₂排出量削減に対する課題解決に貢献するとともに、高収益ビジネスモデルを確立するために、各種企業に対し、当社グループ保有の発電所が発電する電力又は環境価値を供給・提供する電力購入契約(PPA)の締結を進めました。また、出力制御のリスクを低減し、安定的な再生可能エネルギーの供給を図るため、太陽光発電所への蓄電池併設を推進しました。
<事業概況>
再生可能エネルギーの発電量については、太陽光・陸上風力発電所における複数プロジェクトの新規稼働により前年同期比増加したものの、開発中止・採算性低下により複数プロジェクトで減損損失が発生した結果、前年同期比減益となりました。
こうした状況のもと、再生可能エネルギーセグメントの当連結会計年度における売上高は前年同期比5.3%増の440億円、営業損失は前年同期比51億円減益の169億円となりました。
[その他]
その他の事業の当連結会計年度における売上高は前年同期比2.1%増の5,025億円、営業利益は前年同期比8億円減益の504億円となりました。
●株式会社NIPPO
株式会社NIPPO(以下、NIPPO)は、舗装、土木及び建築の各工事並びにアスファルト合材の製造・販売を主要な事業内容としています。当連結会計年度は、公共投資は底堅く、民間設備投資は企業の高い設備投資意欲に支えられ増加傾向にあったものの、原材料価格の上昇や労働需給ひっ迫の影響を受け、厳しい経営環境にありました。
このような環境の中、NIPPOが有する技術の優位性を活かした受注活動や生産性の向上及びコスト削減の推進により、競争力の強化に努めました。また、カーボンニュートラル社会の実現に向け、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に賛同し、CO₂排出量削減に効果がある中温化合材の販売拡大、カーボンオフセットアスファルトの導入等の取組を推進します。
上記各セグメント別の売上高には、セグメント間の内部売上高1,135億円(前年同期は408億円)が含まれています。
[金属セグメント(非継続事業)]
<主な事業内容>
JX金属は、半導体材料・情報通信材料を中心とした先端素材の開発・製造をはじめ、これらに必要な原材料を供給する資源開発、金属製錬、リサイクルに至るまで、一貫した事業を展開しており、半導体材料・情報通信材料のグローバルリーダーとして、技術立脚型企業への転身を目指し、諸施策に取り組んでいます。
<事業概況>
半導体材料事業については、第3四半期連結会計期間にドイツ子会社ののれんについて減損損失を計上したものの、AI関連需要の拡大を受けた半導体用スパッタリングターゲット等の製品の増販や円安を主因に増収となり、営業利益は前年同期並となりました。
情報通信材料事業については、サプライチェーンにおける在庫調整の一巡による圧延銅箔の増販や、AIサーバー用途での高機能銅合金の採用拡大等による増販を主因に、前年同期比増収増益となりました。なお、2024年8月にタツタ電線株式会社の公開買付が成立し、同社はJX金属の子会社となり、同年11月に完全子会社となりました。
基礎材料事業については、円安や銅価上昇に伴う増益要因はあるものの、前年度2023年7月に実施したSCM Minera Lumina Copper Chile株式の一部譲渡に伴い生じた為替差益の反転や、2024年3月に実施したパンパシフィック・カッパー株式会社の株式の一部譲渡による同社売上高及び利益の剥落を主因として、前年同期比減収減益となりました。
非継続事業の詳細は、「第5 経理の状況 連結財務諸表 注記15.売却目的保有に分類される処分グループ及び非継続事業」をご覧ください。
(2)生産、受注及び販売の実績
ア.生産実績
当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
|
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年同期比(%) |
|
石油製品ほか |
6,596,086 |
99.8 |
|
石油・天然ガス開発 |
211,520 |
116.3 |
|
機能材 |
278,404 |
126.7 |
|
その他 |
78,838 |
86.0 |
|
合計 |
7,164,848 |
100.9 |
(注)1.上記の金額は、各セグメントに属する製造会社の製品生産金額の総計(セグメント間の内部振替前)を記載しています。
2.上記の金額は非継続事業からの実績は含んでいません。
3.当連結会計年度より報告セグメントの区分を変更しており、前年同期比は変更後のセグメント区分に組み替えた数値に基づき算出しています。
電気セグメント及び再生可能エネルギーセグメントについては、提供するサービスの性格上、生産実績の記載になじまないため、当該記載を省略しています。
イ.受注実績
当社グループでは主要製品について受注生産を行っていません。
ウ.発電容量 [参考]
当連結会計年度末時点における電気セグメント及び再生可能エネルギーセグメントの出資持分割合に応じた発電容量(kW)は以下のとおりです。※建設中の電源を除く
電気 :約220万kW
再生可能エネルギー:約122万kW
エ.販売実績
当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
|
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前年同期比(%) |
|
石油製品ほか |
10,902,305 |
98.5 |
|
石油・天然ガス開発 |
242,813 |
118.5 |
|
機能材 |
344,262 |
112.6 |
|
電気 |
313,228 |
117.4 |
|
再生可能エネルギー |
43,338 |
103.7 |
|
その他 |
476,548 |
104.3 |
|
合計 |
12,322,494 |
99.8 |
(注)1.セグメント間の取引については、相殺消去しています。
2.上記の金額は非継続事業からの実績は含んでいません。
3.当連結会計年度より報告セグメントの区分を変更しており、前年同期比は変更後のセグメント区分に組み替えた数値に基づき算出しています。
(3)財政状態及びキャッシュ・フローの概況
①流動性と資金の源泉
当社は、効率的で安定的な資金の確保と、事業活動のための流動性の維持を、財務活動の取組として重視しています。効率的な調達に向けて、コマーシャル・ペーパーや社債等の直接金融と、金融機関からの借入等の間接金融を、機動的に選択しています。
当社は、安定的な資金の確保に向けて、直接金融市場への継続的なアクセスを図るとともに、間接金融についても原油備蓄資金のための制度融資等も活用しており、政府系金融機関及び市中金融機関と幅広く関係を維持しています。また、トランジション・リンク・ローンといったサステナブル・ファイナンスによる資金調達を実施する等、調達ソースの多様化を図って十分な流動性を確保しています。
また、金融市場の環境変化にも対応できる流動性を維持するために、現金及び現金同等物を確保する他、取引金融機関と特定融資枠契約(コミットメントライン契約)を締結しています。当該契約の極度額は当連結会計年度末では4,550億円であり、また同契約に係る借入残高はありません。
連結における資金管理では、当社を中心に集中して資金調達を行い、国内外の金融子会社を通じてグループ各社に資金を配分するというグループファイナンス制度を設けています。その運営においてキャッシュマネジメントシステムを活用しており、流動性資金の一元管理及び効率化を実現しています。
当社は、資金調達とグローバルなビジネスを円滑に行うため、格付投資情報センター(R&I)、日本格付研究所(JCR)、ムーディーズ・ジャパン(ムーディーズ)の3社から格付けを取得しています。3社の2025年6月時点の当社に対する格付け(長期/短期)は、R&IがA+(見通し安定的)/a-1、JCRがAA-(見通し安定的)/J-1+、ムーディーズがBaa2(見通し安定的)/(短期は取得無し)となっています。
②連結財政状態計算書
ア.資産 当連結会計年度末における資産合計は、JX金属及び同社子会社等を連結除外したことによる資産の減少を主因として、前連結会計年度末比1兆3,471億円減少の8兆7,894億円となりました。
イ.負債 当連結会計年度末における負債合計は、JX金属及び同社子会社等を連結除外したことによる負債の減少を主因として、前連結会計年度末比1兆1,139億円減少の5兆3,188億円となりました。有利子負債残高は、前連結会計年度末比4,832億円減少の2兆3,368億円となり、また、手元資金を控除したネット有利子負債は、前連結会計年度末比5,519億円減少の1兆4,481億円となりました。なお、有利子負債にはリース負債を含めていません。
ウ.資本 当連結会計年度末における資本合計は、自己株式の取得や配当金の支払による減少等により、前連結会計年度末比2,332億円減少の3兆4,706億円となりました。
なお、親会社所有者帰属持分比率は前連結会計年度末比3.5ポイント上昇し35.3%、1株当たり親会社所有者帰属持分は前連結会計年度末比72.68円増加の1,152.50円、ネットD/Eレシオ(ネット・デット・エクイティ・レシオ)は前連結会計年度末比0.12ポイント改善し、0.42倍(ハイブリッド債資本性調整前)となりました。
また、2025年度よりネットD/Eレシオ算出方法を変更します。ネット有利子負債にリース負債を加算するとともに、自己資本から非支配持分を除いて算出します。
詳細は、「第5 経理の状況 連結財務諸表 注記21.金融商品(1)資本管理」をご参照ください。
③連結キャッシュ・フロー
当社は、第3次中期経営計画において、「確かな収益の礎の確立」を基本方針の柱の一つとして掲げて取り組みました。3ヵ年累計のフリー・キャッシュ・フロー(IFRS第16号「リース」適用除き)は、2024年度時点で目標達成(目標:5,000億円、実績:1兆3,171億円)となりました。
第4次中期経営計画では、「ポートフォリオ再編」を基本方針の柱の一つとして掲げ、投資の厳選とリターン最大化のための仕組みを強化します。
なお、当連結会計年度の各キャッシュ・フロー(IFRS第16号「リース」適用)の状況と主な要因は以下のとおりです。
ア.営業活動によるキャッシュ・フロー
営業活動の結果、資金は5,768億円増加しました(前期は1兆103億円の増加)。これは、営業債務の支払増加等による資金減少要因があったものの、税引前利益や減価償却費及び減損損失等の資金増加要因が上回ったことによるものです。
イ.投資活動によるキャッシュ・フロー
投資活動の結果、資金は1,308億円増加しました(前期は2,410億円の減少)。これは、石油製品ほかセグメントの石油精製設備の維持・更新等の資金減少要因があったものの、JX金属株式の一部売却による収入等の資金増加要因が上回ったことによるものです。
ウ.財務活動によるキャッシュ・フロー
財務活動の結果、資金は6,304億円減少しました(前期は3,310億円の減少)。これは、配当金の支払及び自己株式の取得といった株主還元施策や借入金の返済等の資金減少要因によるものです。
この結果、当連結会計年度末における現金及び現金同等物は8,466億円となり、期首に比べ707億円増加しました。
(4)重要性のある会計方針及び見積り
当社の連結財務諸表はIFRSに準拠して作成しています。当社は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号)第1条の2第1号に掲げる「指定国際会計基準特定会社」の要件を満たすことから、同規則第312条の規定を適用しています。
重要性のある会計方針及び見積りについては、「第5 経理の状況 連結財務諸表 注記3、4」をご参照ください。
企業内容等の開示に関する内閣府令(令和五年内閣府令第八十一号)第二号様式記載上の注意(33)fからhまでの規定に準じて記載すべき事項のうち、同府令の施行前に締結されたこれらの規定に規定する契約又は金銭消費貸借契約に係るものについては、その記載を省略しています。
(1)「基本協定書」(契約当事者:日石三菱株式会社及びコスモ石油株式会社、締結日:1999年10月12日)
企業の枠組みを超えて抜本的なコスト削減策を講じるため、仕入、精製、物流及び潤滑油(生産・配送)の各部門において業務提携を行うことについて約したものです。
(2)「JX金属株式会社株式売出引受契約」(契約当事者:ENEOSホールディングス株式会社(以下、ENEOSホールディングス)及びJX金属株式会社(以下、JX金属)並びに大和証券株式会社(以下、大和証券)、みずほ証券株式会社、三菱UFJモルガン·スタンレー証券株式会社、モルガン·スタンレーMUFG証券株式会社、JPモルガン証券株式会社、野村證券株式会社及びSMBC日興証券株式会社(以下、総称して国内共同主幹事会社)、締結日:2025年3月10日)
当社の子会社であったJX金属は、2025年3月19日に、東京証券取引所プライム市場に新規上場しました。JX金属の上場に伴い、国内販売における株式304,679,900株を当社から国内共同主幹事会社並びに水戸証券株式会社、めぶき証券株式会社、株式会社SBI証券、楽天証券株式会社及びマネックス証券株式会社が引受けることについて約したものです。
(3)「International Purchase Agreement」(契約当事者:ENEOSホールディングス及びJX金属並びにDaiwa Capital Markets Europe Limited、J.P. Morgan Securities plc、Morgan Stanley & Co. International plc、 Mizuho International plc、Merrill Lynch International、Nomura International plc及びGoldman Sachs International(以下、総称してInternational Managers)、締結日:2025年3月10日)
JX金属の上場に伴い、海外販売における株式160,480,200株を当社からInternational Managersが引受けることについて約したものです。
(4)「特約付株式貸借契約」(契約当事者:ENEOSホールディングス及び大和証券、締結日:2025年3月10日)
当社から大和証券に対し、オーバーアロットメントによる売出しに関連して、JX金属の株式69,774,000株を上限とした貸付けを実施すること、また、当該貸付株数を上限として、JX金属の株式を引受価額と同一の価格で当社から追加的に取得する権利(グリーンシューオプション)の付与することについて約したものです。
当社グループは、グループ理念に定めた『エネルギー・資源・素材における創造と革新』を目指し、エネルギー関連を中心に研究開発活動を進めています。当連結会計年度における研究開発活動の概要は以下のとおりです。
(1)石油製品ほか (研究開発費
エネルギー・素材関連の研究開発活動は、ENEOS株式会社(以下、ENEOS)の中央技術研究所と潤滑油カンパニーの潤滑油研究開発部が連携をしながら進めています。「エネルギー・素材の安定供給」と「カーボンニュートラル社会の実現」との両立に向け、エネルギートランジションを実現すべく、新規事業の創出、拡大に向けて重点領域を設定して、研究開発を推進しています。また、社外との連携にも力を入れており、大学・研究機関や企業・スタートアップとも連携を図り、オープンイノベーションを促進しています。これらの取組をさらに加速できるよう、研究所敷地内に新たな研究棟の建設を進めています。
①脱炭素エネルギー分野
カーボンニュートラル社会の実現に向け、海外の安価で潤沢な再生可能エネルギー(再エネ)を大量貯蔵・輸送に適した物質に変換し、エネルギー供給の安定性を高め、国内に使いやすい形で提供するための技術開発を進めています。
CO₂フリー水素分野では、再エネから得られた電力で直接トルエンを電解水素化することで、貯蔵・輸送に適したメチルシクロヘキサン(MCH)を低コストで製造する技術(Direct MCH®)の商業化に向けた開発を進めています。豪州クイーンズランド州に建設した、工業化サイズの電極面積を有する中型電解槽実証プラント(150kW級)にて再エネを用いてMCHを製造、日本へ輸送し、取り出した水素を燃料電池小型バスへ充填、走行させることに成功しました。さらに2025年度に大型電解槽プラント(MW級)の建設を開始予定です。これらは、「直接MCH電解合成(Direct MCH®)技術開発」として、経済産業省及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の進めるGI基金事業に採択されており、本技術に関する発明が、未来創造発明奨励賞及び未来創造発明貢献賞を受賞しました。また、CO₂フリー水素と工場等や将来的には大気から回収したCO₂を原料に液体燃料を製造する「合成燃料」の開発についても、カーボンニュートラル社会の実現に向けて重要な取組と位置付け、技術開発を進めています。2024年度には、中央技術研究所敷地内にて、国内初となる原料から一貫製造可能な合成燃料製造実証プラントの実証運転を開始しており、製造した合成燃料を2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)開催期間中に駅シャトルバス、及び来賓・関係者向け車両に提供します。こちらもGI基金事業「CO₂等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」に採択されており、各反応工程の性能向上とプロセス全体の高効率化を通じて早期の技術確立を目指します。さらに大気中のCO₂を回収するClimeworks社製のDirect Air Capture(DAC)装置をアジア太平洋で初めて中央技術研究所内に導入し、DAC技術の実証試験を実施しています。
バイオ燃料分野では、TOPPANホールディングス株式会社と古紙を原料とした国産バイオエタノールの事業化に向け共同開発契約を締結、実証事業を開始しており、本実証事業は、バイオものづくり革命推進事業に採択されています。
再エネの有効活用に向けては、VPP(仮想発電所)事業における蓄電池の運用計画の最適化を行うシステムや、発電量や電力価格、水素需要に応じて水電解装置による水素製造を制御する水素EMS(エネルギーマネジメントシステム)の開発に取り組んでいます。自社開発したアルゴリズムによって、国内最大級の系統用蓄電池(室蘭事業所内)や大型蓄電池(根岸製油所内)、水素ステーション(横浜旭、福島、清水)内の水素製造装置等の運用最適化を行い、実設備での運用を通じて、技術・ノウハウの蓄積を進めています。また、東京都東村山市における電気自動車を活用したEMS実証や、静岡県裾野市におけるパイプラインによる水素供給効率化に向けた水素EMSの機能拡張等を通じて、地産地消エネルギー活用に向けた技術開発も推進中です。
さらに循環型社会の実現に向け、廃プラスチックを利用したアスファルト舗装技術を開発し、実証試験を社内外複数のサイトで進めています。また、株式会社ブリヂストンと使用済タイヤの精密熱分解によるケミカルリサイクル技術の社会実装に向けた共同プロジェクトを進めています。本プロジェクトは「使用済タイヤ(廃ゴム)からの化学品製造技術の開発」としてGI基金事業に採択されており、検討を継続しています。
社外連携については、早稲田大学との包括的かつ分野横断的なオープンイノベーションを通して、持続可能な未来社会の実現に資する革新的シーズ探索及び、蓄エネルギー技術や新規素材の開発に取り組んでいます。
②燃料油・化学品製造技術分野
製油所、製造所の安全・安定操業、競争力強化、及び液体燃料におけるCO₂削減を目指した研究を行っています。中でもデジタル化技術の開発・活用においてはAI技術による石油化学プラントの連続自動運転が実用段階に入っており、川崎製油所のブタジエン抽出装置及び常圧蒸留装置で手動操作を超える経済的・高効率な運転が実現可能なことを確認しました。引き続き石油化学プラントにおけるAI自動運転の実用化・導入拡大を目指し、開発を進めていきます。また、エンジンの熱効率向上が期待される革新燃焼技術(超希薄燃焼:スーパーリーンバーン)に適した燃料組成の検討を行い、製油所から得られる留分の利用によるCO₂削減の可能性を示すとともに、触媒・反応技術を活用し、自社原料のさらなる有効活用(ケミカルシフト)に向けた石油化学誘導品の開発や、医薬品製造を想定した有機系触媒の開発等も進めています。
③潤滑油分野
潤滑油分野では、地球環境に配慮した高性能潤滑油、グリースの製品開発を行っています。世界的な潮流である脱炭素化への貢献のため、植物由来の基材を活用した潤滑油の開発に取り組んでおり、植物由来のベースオイルを100%使用し、API SP、ILSAC GF-6の認証を取得したガソリンエンジン油の開発に新たに成功しました。また、電動モビリティ向けに冷却性能や電気絶縁性能と潤滑性を高次元で両立した製品の開発にも注力しており、2024年度には液浸冷却バッテリー技術における世界的リーダーであるXING Mobility社と戦略的パートナーシップに関する覚書を締結しました。今後大幅な増加が予測されるデータセンター(DC)の省エネルギー化に貢献する液浸冷却液「ENEOS IXシリーズ」の展開も進めており、2025年3月には国内初の商用液浸冷却DCの運用を開始したQuantum Mesh株式会社に、可燃性液体類のENEOS IX Type Jを納品しました。同社DCの冷却性能は一般的な空冷式DCに比較し各段に優れ、省エネ型DCとして今後の需要拡大が期待されます。このほかにも省燃費型駆動系油、安全・環境配慮型工業用潤滑油、自動車・産業用高性能グリース、新冷媒対応・省エネルギー型冷凍機油といった製品の開発を新規材料、新規解析評価技術を取り入れながら推進するとともに、高品質の製品を安定かつ効率的に製造するための製造技術の開発を行っています。
④デジタル技術分野
デジタル技術を活用して自社業務の効率化や新たな価値を生み出すことを目指した研究を行っています。具体的には、プラントデータを活用した運転効率化、画像解析による安全・安定操業支援に加え、革新的な素材・触媒探索技術の研究を推進しています。一例として、株式会社Preferred Networks(以下、PFN)と戦略的な協業体制を構築し、AI技術を活用した革新的事業創出に取り組んでいます。MI(マテリアルズ・インフォマティクス)分野では2021年にPFNとの合弁会社として株式会社Preferred Computational Chemistry(以下、PFCC)を設立し、共同開発した新物質開発・材料探索を高速化する汎用原子レベルシミュレータ「Matlantis™」のクラウドサービスを国内だけでなく米国の企業・団体向けにも展開しています。同サービスは自然界に存在するすべての元素を含む96元素に対応しており、2024年12月時点で100以上の企業・研究団体に導入され、触媒、電池材料、半導体、合金、潤滑油、セラミック材料、化学材料等、幅広い開発に用いられています。さらに、Matlantis™によってHPCシステムズ株式会社の手掛ける化学反応経路の自動探索ソフトウェア「GRRM」の高速化を実現した「GRRM20 with Matlantis」を同社、PFCCと共同で開発、サービス提供をしています。
また、ロボティクスを活用したプラント・次世代型エネルギー設備への保守点検サービス事業について、株式会社イクシスに出資し、各種設備に適用できるロボットの共同開発を行っています。デジタル技術を活用した新たなビジネス創出につなげることも目指し、国内外のスタートアップ企業等との連携も活発化させています。
(2)石油・天然ガス開発(研究開発費
石油・天然ガス開発事業(ENEOS Xplora株式会社)では、これまで蓄積した石油・天然ガス開発の知見を活かしてCCS/CCUSを中心とした環境対応型事業に関する研究開発活動に取り組んでいます。また、既存事業とは独立した環境で技術開発に専念することで、技術革新及び将来の成長事業の発掘を通じ当社の長期的な成長に貢献する組織として、2024年4月にe-テクノロジー・イノベーションセンターを設立しました。
①CCS/CCUS関連技術
地下に圧入したCO₂のモニタリング(監視)を低コストかつ継続的に行えるよう、常設された小規模な機材による自動化されたモニタリングシステムの構築を目指して技術開発を進めています。東京大学を始めとした国内、海外の大学等との共同研究を通じて、小型発振装置を使用した観測の実証実験、弾性波動の高精度モデル解析等の要素技術の確立、地下岩石サンプルを活用したデジタル岩石物理化学の研究を行っています。また、次世代のCCS技術としてCO₂を地下で鉱物化し貯留する技術に関する研究開発に取り組んでいます。CO₂鉱物化貯留はCO₂を固体として地下に貯留できるため、流体として貯留する一般的なCCSと異なり、長期的にCO₂を一定の場所に固定できる特徴があります。CO₂鉱物化の有望な貯留対象である火成岩は日本にも広く分布していることから日本におけるCCSの新たな選択肢となることが期待されます。
②地球環境・資源エネルギー分野
老朽油田を活用して地中で水素を製造し、温暖化ガス排出を低減しながら低コストで水素を製造する地下水素製造技術の開発を進めています。また、CO₂を物質に固定化することにより大気中のCO₂削減を行うCCU技術として、CO₂から固体炭素を製造する技術の研究開発に取り組んでいます。
(3)機能材(研究開発費
株式会社ENEOSマテリアルでは、自社の強みである高分子製造技術、分子設計技術、配合技術、性能評価・分析技術を最大限に磨き、社会ニーズに応えるとともに、顧客ニーズを捉え、新たな価値の創造、社会的課題へのソリューションの提供に取り組んでいます。エラストマー事業では、摩耗粉塵の削減に寄与し、かつ低燃費で、安全に止まる高グリップ性能を有する高機能タイヤ用エラストマーSSBR(溶液重合スチレン・ブタジエンゴム)や、電気自動車(EV)への搭載を主とし、EVの性能向上に貢献する二次電池の材料等の開発を行っています。機能材事業では、次世代高速通信で使われる高周波帯に対応する低誘電LCP(液晶ポリマー)や、半導体封止材等への適用が期待される独自エポキシモノマーを使用した高耐熱熱硬化レジン等の開発を行っています。また、エラストマー事業と機能材事業それぞれが保有する技術の融合による新たな素材開発も進めています。さらに産学連携として、東京科学大学と共同研究講座を設置しています。競争力強化、新規事業の創出に繋がる要素技術確立を目指してオープンイノベーションの拠点としています。
(4)電気
該当事項はありません。
(5)再生可能エネルギー
該当事項はありません。
これらに、その他の事業における研究開発費