第2【事業の状況】

1【事業等のリスク】

 当中間会計期間において、新たな事業等のリスクの発生、または、前事業年度の有価証券報告書に記載した事業等のリスクについての重要な変更はありません。

 

2【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 本書において使用される専門用語につきましては、(*)印を付けて「第2 事業の状況 2 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の末尾に用語解説を設け説明しております。

 また、文中の将来に関する事項は、当中間会計期間の末日現在において判断したものであります。

 

(1)経営成績の状況

 当社は、アンメットニーズの高い疾患領域に対する抗体創薬を当社の抗体作製技術や創薬ノウハウを用いて手掛ける創薬事業と、製薬企業やアカデミアに対し抗体作製やタンパク質発現・精製等のサービスの提供を行う創薬支援事業を展開しております。

 当中間会計期間における当社の事業活動の概況は次のとおりです。

 

 創薬事業においては、自社開発中のがん治療用抗体であるCBA-1205及びCBA-1535の臨床第1相試験を進めております。CBA-1205では、肝細胞がん患者さん及びメラノーマ患者さんの症例登録が進められております。更に、アンメットニーズの高い小児がんを対象とするパートを年内に追加することを検討しており、現在、関係機関と協議を進めております。多重特異性抗体であるCBA-1535においては、固形がん患者さんを対象に段階的に投与量を上げて治験薬の安全性の確認を進めております。その他の創薬パイプライン(*)については、導出契約獲得に向けて導出候補先となりうる企業への紹介と協議を進めております。

 創薬支援事業においては、従来の大口顧客との取引を中心としつつ、当中間会計期間においては新たに新規顧客の獲得を進めるなど、収益基盤の安定化に向けた活動を継続的に推進しております。

 更に、当中間会計期間においては新たにIDDビジネス(抗体創薬にかかるプラットフォーム型ビジネス)を立ち上げ、現在、枠組みの構築に向けてパートナー候補企業との協議を進めております。IDDビジネスにおける取り組みの一環として、昨年6月に締結したキッズウェル・バイオ株式会社(以下、キッズウェル)との業務提携契約に基づき、新たなバイオシミラー医薬品(*)開発に関する取り組みを推進しております。2025年5月には、当社と、アルフレッサ ホールディングス株式会社及びキッズウェルの三社共同で申請を行った厚生労働省の助成事業における助成対象事業者に採択され、現在、台湾のバイオ医薬品製造受託機関であるMycenax Biotech Inc.を加えた4社の協働にて、新規のバイオシミラー医薬品の開発・製造等に向けた活動を着実に進めております。

また、創薬開発や創薬ベンチャー育成に当社ノウハウを提供することを想定したIDDビジネスの取り組みとして、2025年3月に株式会社エスアールディとの間で業務提携契約を締結いたしました。当事案については、当社は創薬ベンチャーにおける抗体創薬シーズに対するコンサルサービスを提供し、収益化を図ってまいります。

 

 当中間会計期間における当社業績につきましては、売上高251,796千円(前年同期比11,932千円減少)、研究開発費395,868千円(前年同期比50,949千円減少)、営業損失536,822千円(前年同期は581,136千円の営業損失)、経常損失539,020千円(前年同期は563,345千円の経常損失)、中間純損失540,290千円(前年同期は563,958千円の中間純損失)となりました。研究開発費につきましては、主に臨床開発関連費用の計上額が前年同期よりも減少したことで、営業損失、経常損失及び中間純損失はともに前年同期比で赤字幅の縮小となりました。

 当中間会計期間におけるセグメント別の活動概況は次のとおりです。

 

① 創薬事業

・創薬パイプライン(導出品)

 PFKR(*)はGタンパク質共役型受容体の1種であるCX3CR1を標的としたヒト化抗体であり、当社が国立精神・神経医療研究センターと共同研究を進めてきた治療用候補抗体です。2024年11月に旭化成ファーマ株式会社との間で、ライセンス契約を締結し、同社では今後の前臨床試験(*)入りに向けた準備が進められております。

 

・創薬パイプライン(主な自社研究開発・導出候補品)

 CBA-1205については、日本国内において特定のがん種の患者さんにおける安全性と有効性の評価を目的とした臨床第1相試験後半パートを実施しております。後半パートの対象患者さんは、肝細胞がんの患者さん及びメラノーマの患者さんです。更に、欧州の研究機関との共同研究において、小児の固形がんに対して抗DLK-1抗体が有効性を示す可能性が示唆されたことと、本抗体の成人患者さんへの投与実績から高い安全性が示されており小児への投与が可能な状況となっていることから、現在、年内の小児がん患者さんを対象とする群の追加に向けた検討を進めております。今後、肝細胞がんの患者さんとメラノーマの患者さんに加え、小児がん患者さんにおける安全性及び忍容性を評価し、導出可能性及び製品価値の最大化につながるデータ取得に向けた臨床開発を進めてまいります。なお、前半パートに登録されたメラノーマ患者さんでは、腫瘍縮小を伴うSD(安定)評価が48か月以上継続しています。

 CBA-1535につきましても、日本国内において固形がん患者さんを対象とした第1相試験を実施しています。前半パートではCBA-1535単独投与、後半パートではCBA-1535とチェックポイント阻害剤の併用投与における安全性及び忍容性を評価します。現在は、前半パートが進行中であり、これまでのところ、開発上の懸念を示すような副作用は観察されておらず、本剤のコンセプトであるT細胞(*)の活性化を示す血中バイオマーカーの変化が見え始めている状況です。なお、後半パートについては、前半パートで単剤の薬効シグナルを確認した後に開始する予定です。また、前半パートの試験データでの導出等の可能性も見据えながら、臨床試験を推進してまいります。

 PTRY(*)は、CBA-1535のT cell engager(*)としての機能に免疫チェックポイント阻害機能を加えることを期待したTribody®(*)抗体であり、初期の動物モデルを用いた評価では強い抗腫瘍効果を示しております。本プロダクトの開発については、CBA-1535の開発状況によっては前臨床段階でのライセンスアウトの可能性が期待できることから、自社での初期臨床開発を実施せず早期の事業化・臨床開発入りが期待できる製薬企業への導出を優先することとしております。

 PCDC(*)はヒト化抗CDCP1抗体の薬物複合体として、抗体薬物複合体(ADC(*))用途を中心として導出活動に取り組んでおります。世界的にADCへの注目が高まる中、現在、ADC技術を保有する製薬企業等への導出活動を進めております。

 PXLR(*)は胃がんや膵がんなどで高発現するCXCL1を治療標的とするがん治療用抗体で、当社が大阪公立大学と共同研究を進めてきた新たな導出候補品です。

 

・IDDビジネス

 当社では従来推進してきた創薬シーズの創出と知財化を行うことによる新たなパイプラインの拡充と導出機会の探索等に加え、抗体創薬における技術力やノウハウを生かしたIDDビジネスにより収益性を高めていくため、現在、製薬企業とのコラボレーションの推進にも注力しております。

 

 以上の結果、創薬事業における当中間会計期間の業績は、臨床開発の進展により395,868千円(前年同期比50,949千円減少)の研究開発費を計上、セグメント損失は395,868千円(前年同期は446,817千円のセグメント損失)となりました。

 

② 創薬支援事業

 創薬支援事業は、安定的な収益確保に資する事業であり、当社独自のADLib®システム(*)、親和性向上技術などの抗体作製技術プラットフォームを活かした抗体作製業務、タンパク質精製技術を中心としたタンパク質調製業務を受託し、小野薬品工業株式会社、中外製薬株式会社といった国内の主要製薬企業を中心にバイオ医薬の研究支援を展開しております。顧客企業からは当社の技術サービス力をご評価いただいており、当中間会計期間においても、日東紡績株式会社等複数の新規顧客獲得を進め、当社収益基盤の安定化のための取り組みを継続して推進しております。

 創薬支援事業における当中間会計期間の業績は、売上高は251,796千円(前年同期比11,932千円減少)となり、セグメント利益は138,866千円(前年同期比4,107千円増加)、セグメント利益率は55.2%(目標50%)となりました。

 

(2)財政状態の分析

(資産)

 当中間会計期間末における総資産は、主に現金及び預金が減少したことにより、前事業年度末に比べ506,131千円減少の1,962,725千円となりました。

(負債)

 当中間会計期間末における負債の残高は443,394千円となり、前事業年度末と比較して105,158千円減少いたしました。これは主に、未払金が減少したこと等によるものであります。

(純資産)

 当中間会計期間末における純資産の残高は1,519,330千円となり、前事業年度末に比べ400,973千円減少いたしました。これは主に、中間純損失の計上により利益剰余金が減少したことによるものであります。

 

(3)キャッシュ・フローの状況

 当中間会計期間末における現金及び現金同等物(以下「資金」)の残高は1,474,952千円となり、前事業年度末と比較して588,328千円減少いたしました。各キャッシュ・フローの状況とその主な要因は以下のとおりです。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 当中間会計期間において営業活動により使用した資金は673,006千円となりました。主な内訳は、税引前中間純損失の計上です。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 当中間会計期間において投資活動による資金の増減はありません。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 当中間会計期間において財務活動により獲得した資金は84,678千円となりました。主な内訳は、新株予約権の行使による株式の発行による収入です。

 

(4)経営方針・経営戦略等

 当中間会計期間において、当社の経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。

 

(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 当中間会計期間において、当社が優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題について重要な変更はありません。

 

<用語解説>(50音、アルファベット順)

用語

意味・内容

導出(ライセンスアウト)

特許権やノウハウ等の他者への売却や、実施許諾することをいいます。

バイオシミラー医薬品

バイオシミラー医薬品(バイオ後続品)は、既に新有効成分含有医薬品として承認されたバイオ医薬品(先行バイオ医薬品)の特許期間・再審査期間満了後に、異なる製造販売業者により開発される、先行バイオ医薬品と同等/同質の品質、安全性および有効性を有する医薬品です。バイオシミラー医薬品は、先行バイオ医薬品と品質特性に高い類似性を持つことが検証され、さらに非臨床・臨床試験によって、先行バイオ医薬品と同じ効能・効果、用法・用量で使える(=同等/同質である)ことが確認された薬剤です。バイオシミラー医薬品は、薬価は原則として先行バイオ医薬品の70%に設定されるため、患者さんの経済的負担や医療費の軽減が期待される薬剤です。

パイプライン

新薬として開発している医薬品候補化合物等のことを「パイプライン」といいます。創薬研究から臨床開発を経て関係当局の承認を受けるまでの活動を「創薬」と呼び、「創薬パイプライン」とは創薬のいずれかの段階にあるパイプラインのことをいいます。また、創薬パイプラインのうち開発段階に入ったパイプラインのことを、特に「開発パイプライン」ということがあります。

臨床試験

臨床試験には、次の3段階があります。

第1相試験(フェーズ1):少数の治験参加者を対象に、治験薬の安全性と治験薬が体内に入ってどのような動きをするのかを確認する試験

第2相試験(フェーズ2):第1相試験で安全性が確認された用量の範囲で、比較的少数の患者さんを対象に、治験薬の有効性(効果)、安全性、用法(投与の仕方:投与回数、投与期間、投与間隔など)・用量(最も効果的な投与量)を確認する試験

第3相試験(フェーズ3):第2相試験で確認された用法・用量で、多数の患者さんに治験薬を対象に、有効性と安全性を検証する試験

初期臨床試験は主に第1相試験及び初期の第2相試験のことを指し、治験薬の安全性を主に、有効性の兆しを観察します。

ADC

抗体薬物複合体(Antibody drug conjugate)のことを指します。例えば、悪性腫瘍の細胞表面だけに存在するタンパク質(抗原)に特異的に結合する抗体に毒性の高い薬剤を結合させると、そのADCは悪性腫瘍だけを死滅させることができます。このため、比較的副作用が少なく効き目の強い薬剤となる可能性があります。

ADLib®(アドリブ)システム

ADLib®システムは、多種多様な抗体を産生する細胞集団であるライブラリから、特定の抗原を固定した磁気ビーズを用いて目的の抗原に結合する抗体産生細胞を取り出す仕組みです。ADLib®システムで用いるライブラリは、ニワトリのBリンパ細胞由来のDT40細胞の持つ抗体遺伝子の自律的な相同組換えを活性化することによって(当社特許技術)、抗体タンパク質の多様性が増大しております。既存の方法に比べ、迅速性に優れていること及び従来困難であった抗体取得が可能になる場合があること等の点に特徴があると考えております。

PCDC(社内コード)

標準治療耐性のがん種を含む幅広い固形がんで発現(肺、結腸直腸、膵臓、乳、卵巣がんなど)するファースト・イン・クラスとなる標的分子CDCP1に対するヒト化抗体です。細胞内に入り込むインターナリゼーション能が高いことから、薬物との複合体であるADCとしての効果が期待されます。

PFKR(社内コード)

CX3CR1/Fractalkine receptorの機能阻害抗体であり、自己免疫性神経疾患の病態進行を抑制する治療用抗体です。

PTRY(社内コード)

53L10型Tribody™(PTRY)は、3つの抗原結合部位の標的をそれぞれ、固形がんに発現が認められる5T4、免疫細胞であるT細胞上のCD3、残る1つを免疫チェックポイント阻害に関与するPD-L1とした、がん治療用抗体です。Tb535H(開発コード:CBA-1535、標的分子:5T4×CD3×5T4)よりも強力な抗腫瘍活性を示し、特に53L10型の組み合わせにおいて最も強い腫瘍増殖抑制効果を発揮することが示されています。

PXLR(社内コード)

CXCR2発現細胞の走化性因子であるCXCL1/2/3/5の機能阻害抗体であり、薬剤耐性のがん微小環境を改善させるがん治療抗体です。

T細胞

リンパ球の一種で、免疫反応の司令塔として重要な役割を果たす細胞。T細胞はその機能によって、免疫応答を促進するヘルパーT細胞、逆に免疫反応を抑制するサプレッサーT細胞、病原体に感染した細胞や癌細胞を直接殺すキラーT細胞などに分類されます。

T cell engager

T細胞エンゲージャー(T Cell Engager、TCE)は、疾患の原因となっている細胞(例えばがん細胞)や病原体に、キラーT細胞のような異物を駆除する役割を持つ免疫細胞を近づけ、疾患の原因を取り除いて治療することを狙った医薬品・化合物のことです。がん治療薬としての研究開発が進んでいます。

Tribody®

多重特異性抗体を作製する自社の技術であるTrisoma®で作製された抗体の商標です。バイスペシフィック抗体は2種類の標的(抗原)に結合することができますが、Tribody®は抗原結合部位が3ヶ所あるので最大3種類の抗原に結合することができ、より特異性の高い抗体を作製することができます。

 

3【経営上の重要な契約等】

 該当事項はありません。