第一部【企業情報】

第1【企業の概況】

1【主要な経営指標等の推移】

(1) 連結経営指標等

回次

第21期

第22期

第23期

第24期

第25期

決算年月

2021年3月

2022年3月

2023年3月

2024年3月

2025年3月

売上高

(千円)

996,543

1,569,232

5,082,053

経常利益又は経常損失(△)

(千円)

991,166

952,640

5,187

親会社株主に帰属する当期純損失(△)

(千円)

1,001,461

535,259

21,140

包括利益

(千円)

776,955

738,224

106,688

純資産額

(千円)

1,610,385

1,718,513

1,410,977

総資産額

(千円)

3,933,952

3,503,335

7,008,496

1株当たり純資産額

(円)

50.44

48.79

30.50

1株当たり当期純損失(△)

(円)

34.79

17.35

0.52

潜在株式調整後1株当たり当期純利益

(円)

自己資本比率

(%)

38.0

43.8

19.1

自己資本利益率

(%)

株価収益率

(倍)

営業活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

1,267,471

1,169,561

936,707

投資活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

22,290

526,509

65,077

財務活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

718,345

369,083

240,061

現金及び現金同等物の期末残高

(千円)

1,461,158

1,187,189

2,995,435

従業員数

(人)

39

38

37

(注)1.第23期および第24期の連結財務諸表作成しておりませんので、第23期および第24期の連結会計年度に係る主要な経営指標等の推移については記載しておりません。

2.潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、潜在株式は存在するものの、1株当たり当期純損失であるため記載しておりません。

3.自己資本利益率については、親会社株主に帰属する当期純損失を計上しているため、記載しておりません。

4.株価収益率については、1株当たり当期純損失を計上しているため記載しておりません。

5.「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を第22期の期首から適用しており、第22期に係る主要な経営指標等については、当該会計基準等を適用した後の指標等となっております。

 

(2) 提出会社の経営指標等

回次

第21期

第22期

第23期

第24期

第25期

決算年月

2021年3月

2022年3月

2023年3月

2024年3月

2025年3月

売上高

(千円)

967,000

1,569,232

2,776,241

2,431,236

4,930,345

経常利益又は経常損失(△)

(千円)

956,432

968,535

624,769

1,389,601

583,882

当期純利益又は当期純損失(△)

(千円)

1,001,442

550,863

657,434

1,422,078

557,734

持分法を適用した場合の投資利益

(千円)

資本金

(千円)

1,032,179

1,421,212

1,509,497

2,036,724

2,317,578

発行済株式総数

(株)

29,622,847

31,437,547

32,059,713

38,939,913

43,881,013

純資産額

(千円)

1,610,385

1,702,908

1,233,505

831,473

1,989,853

総資産額

(千円)

3,897,851

3,470,336

3,894,765

5,085,550

7,518,771

1株当たり純資産額

(円)

50.44

48.30

32.36

21.35

43.69

1株当たり配当額

(円)

(内、1株当たり中間配当額)

(-)

(-)

(-)

(-)

(-)

1株当たり当期純利益又は1株当たり当期純損失(△)

(円)

34.79

17.86

20.77

40.23

13.77

潜在株式調整後1株当たり当期純利益

(円)

12.50

自己資本比率

(%)

38.3

43.8

26.6

13.2

25.5

自己資本利益率

(%)

43.12

株価収益率

(倍)

7.92

配当性向

(%)

営業活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

1,421,259

453,634

投資活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

28,825

財務活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

1,356,312

1,617,883

現金及び現金同等物の期末残高

(千円)

1,067,162

2,231,411

従業員数

(人)

39

38

41

42

37

株主総利回り

(%)

96.2

87.8

48.9

28.6

21.4

(比較指標:東証グロース市場250指数)

(%)

(194.0)

(127.4)

(120.9)

(120.4)

(105.1)

最高株価

(円)

948

864

483

269

185

 

 

 

 

 

 

 

最低株価

(円)

444

327

200

119

88

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (注)1.第21期、第22期及び第25期の持分法を適用した場合の投資利益については、連結財務諸表を作成しているため記載しておりません。第23期及び第24期の持分法を適用した場合の投資利益については、関連会社がないため記載しておりません。

2.第21期から第24期の潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、潜在株式は存在するものの1株当たり当期純損失であるため記載しておりません。

3.第21期から第24期の自己資本利益率については、当期純損失を計上しているため記載しておりません。

4.第21期から第24期の株価収益率については、1株当たり当期純損失を計上しているため記載しておりません。

5.従業員数は就業人員であり、臨時雇用者数は含まれておりません。

6.第21期、第22期及び第25期は連結財務諸表を作成しているため、営業活動によるキャッシュ・フロー、投資活動によるキャッシュ・フロー、財務活動によるキャッシュ・フロー及び現金及び現金同等物の期末残高は記載しておりません。

7.最高株価及び最低株価は、2022年4月4日より東京証券取引所グロース市場におけるものであり、それ以前については東京証券取引所マザーズにおけるものであります。

8.「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を第22期の期首から適用しており、第22期以降に係る主要な経営指標等については、当該会計基準等を適用した後の指標等となっております。

 

2【沿革】

年月

事項

2001年3月

北海道大学遺伝子病制御研究所における免疫関連タンパク質の機能研究の成果を診断薬や治療薬として開発すること及び医薬品開発における受託サービス業務を行うことを目的として、札幌市北区に資本金10,000千円をもって株式会社ジーンテクノサイエンスを設立

2002年6月

独立行政法人産業技術総合研究所北海道センター(札幌市豊平区)内に研究所を新設し、バイオ新薬の研究開発を強化するとともに、バイオシミラー事業への参入について検討を開始

2003年11月

研究所内に本社を移転

2008年4月

札幌市中央区に本社を移転

2008年5月

北海道大学遺伝子病制御研究所(札幌市北区)内に研究所を移転

2008年6月

東京都中央区に東京事務所を新設

2012年11月

富士製薬工業株式会社との共同開発品であるフィルグラスチムバイオシミラーについて、富士製薬工業株式会社及び持田製薬株式会社が国内での製造販売承認を取得(2013年5月上市済)

2012年11月

東京証券取引所マザーズに株式を上場

2013年9月

北海道大学創成研究機構生物機能分子研究開発プラットフォーム推進センター(札幌市北区)内に研究所を移転

2016年3月

NKリレーションズ株式会社及び合同会社Launchpad12(いずれもノーリツ鋼機株式会社の関係会社で、現在は同社に吸収合併され消滅)と資本業務提携契約を締結

2016年6月

ノーリツ鋼機バイオホールディングス合同会社(合同会社Launchpad12から商号変更した会社)による当社株式に対する公開買付けの結果、同社の議決権所有割合が50%超となり、NKリレーションズ株式会社及びノーリツ鋼機株式会社とともに当社の親会社となる

2019年4月

株式会社セルテクノロジーとの株式交換により同社が当社の完全子会社となり、当該株式交換に伴う新株式発行により、ノーリツ鋼機バイオホールディングス合同会社及びノーリツ鋼機株式会社は議決権所有割合が40%未満となり、親会社でなくなるとともに、新たにその他の関係会社となる

2019年7月

2019年9月

東京都中央区に本社を移転

株式会社三和化学研究所との共同開発品であるダルベポエチンアルファバイオシミラーについて、同社が国内での製造販売承認を取得(2019年11月上市済)

2020年2月

ノーリツ鋼機株式会社からの株式譲受により株式会社日本再生医療を完全子会社化

2020年11月

株式会社セルテクノロジーの全株式譲渡により、同社を連結の範囲から除外

2021年7月

2021年9月

商号をキッズウェル・バイオ株式会社に変更

千寿製薬株式会社との共同開発品であるラニビズマブバイオシミラーについて、同社が国内での製造販売承認を取得(2021年12月上市済)

2022年4月

東京証券取引所の市場区分の見直しにより、東京証券取引所のマザーズ市場からグロース市場に移行

2022年4月

2023年9月

 

2024年4月

 

2025年4月

株式会社日本再生医療の全株式譲渡により、同社を連結の範囲から除外

持田製薬株式会社との共同開発品であるペグフィルグラスチムバイオシミラーについて、同社が国内での製造販売承認を取得(2023年11月上市済)

会社分割(簡易新設分割)により細胞治療事業(再生医療)を分社化

同事業を承継する株式会社S-Quatre(現 連結子会社)を設立

東京都中央区内で本社を移転

 

3【事業の内容】

(1) 事業環境

 医薬品産業の成長を支える新薬創出は、従来の化学合成による低分子医薬品から、抗体医薬品を中心とするバイオ医薬品、更には細胞医薬・遺伝子治療薬等の新規創薬モダリティへと大きく移行しています。この技術革新により、従来治療が困難であった疾患に対する新たな治療薬が次々と開発され、グローバルな医薬品売上高における上位半数以上をバイオ医薬品等が占めるようになりました。また、創薬モダリティの多様化に伴い、現在では新薬創出の80%をバイオベンチャーが担う等、医薬品産業におけるバイオベンチャーの重要性は世界的に増しております。

 このようにして生み出された治療薬が多くの患者様の健康に寄与している一方で、技術の高度化や医薬品開発の複雑化等により、研究開発期間の長期化や開発費・製造費の増加が進んでいることが課題となっています。これに伴い、新たに開発された医薬品の薬価が上昇し、医薬費全体の増加を招いている状況があり、このような医薬費抑制への対応策として、日本を含む多くの国々においては、低分子医薬品の後発品であるジェネリック医薬品の使用が広く普及しています。また、バイオ医薬品についても、先行品の特許期間・再審査期間の満了時期を今後順次迎えることから、その後続品であるバイオ後続品(バイオシミラー)の普及が進むことが期待されております。

 

(2) 当社グループの事業モデル

 当社グループは、当社において、バイオシミラーの開発及び開発品上市後の原薬・製剤(以下、「バイオシミラー原薬等」)の供給を行う「バイオシミラー事業」、当社100%子会社の株式会社S-Quatre(以下、「エスカトル」)において、エスカトルが独自開発した乳歯歯髄幹細胞(以下、「SQ-SHED」。SHED(シェド)はStem cells from Human Exfoliated Deciduous teethの略)を活用した再生医療等製品の実用化を目指す「細胞治療事業(再生医療)」の2事業に取り組んでおります。なお、有限な経営資源を戦略的かつ集中的に投下するという経営方針に基づき協議した結果、創業来の事業であったバイオ新薬事業については、2023年度以降、既に取得済みの研究成果を基に外部機関における研究活動を更に進めるための事業開発活動に専念しております。

 

 なお、当社グループは、以下の2点を特長とした事業活動を行っております。

 

① ハイブリッド事業体制

 当社グループは、バイオシミラー事業と細胞治療事業(再生医療)の組み合わせによるハイブリッド事業体制を採用しています。

 バイオシミラー事業においては、2012年以降パートナー製薬企業と共に4製品を上市し、既にバイオシミラー原薬等の供給による持続的な収益を生み出しています。なお、バイオシミラーの開発においては、先行バイオ医薬品と同等の品質、安全性及び有効性を有する医薬品を、既存の科学的知見を基盤として開発することが可能であり、革新的技術への依存度が相対的に低いために、計画に沿った予見性のある開発推進が容易です。このため、外部機関との連携により限られた経営資源でも効率的かつ確実性の高い開発が可能であり、今後先行バイオ医薬品の特許切れに合わせて新規バイオシミラーの上市を重ね、パートナー製薬企業にバイオシミラー原薬等を安定的に供給することによって、更に強固な安定収益基盤の実現が見込まれます。

 一方で、2019年に本格的に参入した細胞治療事業(再生医療)においては、従来の医薬品では治療が困難な疾患に対して革新的な医薬品を創出することを目的としており、技術的な不確実性等による開発リスクは大きいものの、将来的には高い収益成長が期待される事業です。

 この両事業を組み合わせたハイブリッド事業体制においては、バイオシミラー事業において生み出される持続的な収益と長年の取り組みを通じて蓄積したバイオ医薬品の研究開発ノウハウ・知見・経験等(以下、「ノウハウ等」)を、高い成長性が期待される細胞治療事業の研究開発に再投資・活用することで、事業間シナジーを最大化し、「安定と成長の両立」を目指しています。なお、「安定と成長の両立」の実現に向けては、事業の進捗に応じて、柔軟かつ迅速に財務的健全性と成長性のバランスを再調整することが求められ、パートナー企業や外部機関との連携強化、各事業の特性に応じた多様な資金調達手段の活用、研究開発品の優先順位付けの見直し等にも継続的に取り組んでいます。

 

② バーチャル型研究開発及びプロジェクトマネジメント

 医薬品の開発には、薬効・薬理研究、製造プロセス開発、GMP製造、臨床開発等、多岐にわたる専門的な知見と高度な設備が必要とされるため、すべての工程を単独で遂行することは困難です。そこで当社グループは、バイオシミラー及び細胞治療事業において、アカデミア、開発・製造受託機関(CDMO)、製薬企業等との連携による「バーチャル型」の研究開発体制を構築しています。

 バイオシミラー事業では、これまでの豊富な開発実績に基づくプロジェクトマネジメント力を活かし、パートナー企業や外部機関と連携しながら、各開発工程を着実に推進しています。開発早期から外部機関と連携し、開発から製造まで一気通貫して取り組みことで、有限な経営資源を効率的に活用し、連続的な新規バイオシミラーの開発と上市後のバイオシミラー原薬等の製造を両立し、事業単独での営業黒字の確保と更なる収益成長を実現します。

 細胞治療事業においては、革新的治療法の創出を目指し、自社独自の発明技術を軸としながらも、外部機関との連携を通じて最先端の知見や技術を積極的に取り入れることで、高い専門性の確保と柔軟な研究開発体制を構築しています。

 このように、当社グループ主導でプロジェクトごとに最適な研究開発体制を構築することで、研究開発力の強化とスピードの向上を実現しつつ、複数の研究開発プロジェクトを同時並行で推進可能な柔軟性と効率性を確保しています。結果として、開発リスクの分散と経営資源の最適配分が可能となり、ハイブリッド事業体制で目指す「安定と成長の両立」の実現に寄与しています。

 

(3) 開発の流れ、収益モデル及び開発品目の選定方針

① バイオシミラー事業

 バイオシミラーの開発は、CDMO等との連携による産生細胞株の構築、またはCDMO等により構築済の細胞株の導入から開始され、続いて原薬製造プロセスの開発・最適化が進められます。バイオ医薬品の原薬製造は、化学合成による低分子医薬品と比べて工程が極めて複雑です。加えてバイオシミラー原薬の製造プロセス開発においては、製造販売承認の取得に向けて先行バイオ医薬品と同等の品質(物性、工程由来不純物、活性等)を維持するだけでなく、薬価制度上、新たな製造プロセスによる高い生産性を達成し、より安価な原薬製造を実現する必要があります。また、承認取得後の上市に向けては、安定供給の実現に向けた製造プロセスの高い安定性や、先行バイオ医薬品メーカーによる特許権侵害訴訟等を避けるために、先行特許に抵触しないように開発を進めることも不可避です。このような多面的な要件を満たすためには、バイオシミラー開発の諸段階における精緻な検討と状況に応じた柔軟な調整が必要であり、豊富な開発経験に裏打ちされた高度な技術力と課題解決力が求められます。

 また、迅速かつ確実な開発の推進と上市後の事業価値最大化に向けては、上記以外のプロセス、すなわち臨床開発や製造販売承認申請等の重要な役割を担うパートナー製薬企業との早期連携が開発成功の鍵となります。このため、当社では産生細胞株の構築・導入等の開発初期段階からパートナー製薬企業候補と協議を開始し、上市後の安定供給までを見据えた連携体制の構築を進めています。これにより、バイオシミラー原薬製造プロセス開発後速やかに、パートナー製薬企業と連携して、製剤プロセス開発、非臨床試験、臨床開発へ移行することが可能です。

 なお、臨床開発では、当社がCDMOに製造委託した原薬等をパートナー製薬企業に提供します。また、臨床試験において先行バイオ医薬品との安全性及び有効性の同等性が確認された後の、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)への製造販売承認申請に際しては、製造・品質に関する申請資料の整備や当局からの照会対応について、当社の専門的知見を活かした技術支援を行っています。なお、上市後は、パートナー製薬企業への安定的な原薬等の供給を通じて、当該バイオシミラーの持続的な供給に貢献しています。

 

 現在の事業モデルにおけるバイオシミラー事業の収益構造は、臨床試験開始、製造販売承認の申請、上市等、各開発段階における進捗に応じた開発マイルストンペイメントによる一時金収益と、バイオシミラー原薬等をパートナー製薬企業に供給することによる販売収益の二本柱で構成されています。また、契約の内容によっては、パートナー製薬企業の販売実績に応じたロイヤリティ収益を得る場合もあります。なお、これらの収益の一部は、持続的な収益を生み出すバイオシミラー原薬等の製造運転資金として、また、更なる成長のための新規バイオシミラー開発や細胞治療事業における研究開発にも活用されます。

 

図表1 開発の流れと収益モデル(バイオシミラー事業)

0101010_001.png

(注)開発開始から上市に至るまでの一般的なバイオシミラーの開発所要年数は約7~8年であります。

 

図表2 事業系統図(バイオシミラー事業)

0101010_002.png

 

 なお、バイオシミラーの事業化においては、上市の順番に応じて市場シェアが大きく左右される可能性が高いことから、一番手での上市を目指して開発に取り組みます。そのためには、先行品の特許期間・再審査期間の満了時期を見据え、当該時期から逆算して計画を立て、開発を進める必要があります。また、先行バイオ医薬品の市場規模や開発対象品の競合となるバイオシミラーの有無は、当該開発対象品の採算性に大きな影響を与えます。そのため当社では、特許期間・再審査期間の満了時期、市場規模、競合他社による開発状況等を総合的に勘案し、開発対象品を選定しています。なお、市場規模の算定にあたっては、先行品の薬価を基に推定される当該バイオシミラーの薬価、処方量、及びバイオシミラーへの置換率等の要素を掛け合わせて推計します。更に、この推計市場規模に当社開発品の想定シェア、原価率等を加味することで当社の売上及び利益を予測し、想定される開発費等と併せて正味現在価値を評価した上で、最終的な開発判断を行っております。

 

② 細胞治療事業(再生医療)

 細胞治療事業の研究開発においては、SHEDに関するサイエンスの探求と科学基盤の構築が最も重要な要素です。当社グループはエスカトルにおける独自研究を中核に据えつつ、アカデミアやパートナー製薬企業等との共同研究も並行して進めています。また、研究の加速や研究データの信頼性・再現性の確保を目的に、試験受託機関への研究委託も積極的に活用しています。こうした基礎研究活動から得られた科学情報に基づき、SQ-SHEDを活用した再生医療等製品等の対象疾患を選定し、有効性と安全性に関する非臨床試験を進めています。製品製造においては、独自の製法を確立した上で、製造受託機関への技術移管を実施し、現在、初期治験製品の試製造が順調に進捗しております。更に、後期治験及び上市後の安定供給を見据え、独自の大量培養製法の確立にも成功しており、現在、製造受託機関及び培養機器メーカーと協力して、本格的な製造プロセス開発の段階に移行しております。

 なお、細胞治療事業においては、自社開発品の知的財産を保護するための特許戦略も極めて重要です。当社グループは、基礎研究及び製造プロセス開発から得られたデータを基に、他社特許の調査結果を踏まえながら、積極的に特許出願を進めています。

 

 また、上述の取り組みと並行して、パートナー候補となる製薬企業等との協議も進めています。臨床開発段階以降は、原則としてパートナー製薬企業と協働し、臨床試験において安全性及び有効性が確認された後、厚生労働省に対して再生医療等製品等の製造販売承認の申請を行います。当段階においては、エスカトルが製造受託機関に治験製品の製造を委託し、それをパートナー製薬企業に有償で提供するほか、非臨床試験及び製造・品質に関する治験申請並びに承認申請資料の作成も担います。更に、再生医療等製品等の上市後においても、原薬となる細胞等の供給、もしくはその製造ライセンスの提供を通じて、当該再生医療等製品等の安定供給に貢献していきます。

 

 細胞治療事業の収益としては、パートナー製薬企業との提携時に得られる契約一時金収益と、臨床試験開始や製造販売承認の申請、上市等、各開発段階における進捗に応じた開発マイルストンペイメントによる一時金収益、更には、開発段階及び上市後において、再生医療等製品等の原料となる細胞等をパートナー製薬企業に供給することによって得られる販売収益があります。また、契約内容によっては、開発段階において、当社グループのノウハウ等をパートナー製薬企業に提供することで得られる役務収益や、パートナー製薬企業の販売実績に応じたロイヤリティ収益を得る場合もあります。

図表3 開発の流れと収益モデル(細胞治療事業)

0101010_003.png

 

図表4 事業系統図(細胞治療事業)

0101010_004.png

 

 なお、細胞治療事業の対象疾患の選定に際しては、その科学的妥当性が最も重要であるものの、加えて、治療ニーズ、市場規模、収益性、競合状況等も重要な要素と位置づけております。更に、研究開発の進捗や規制等含む外部環境の変化を捉え、対象疾患の優先順位の見直しや、場合によっては開発中止の判断を行う等、開発パイプラインの最適化に努めています。

 

(4) 主力上市品・開発品

① バイオシミラー事業

・フィルグラスチムバイオシミラー(開発番号:GBS-001、対象疾患領域:がん)

 フィルグラスチムは、白血球の一種である好中球の分化・増殖促進、及び骨髄からの好中球放出促進や好中球機能の亢進を目的とした製品です。当社は、2007年10月より富士製薬工業株式会社(以下、「富士製薬」)と共同で当該バイオシミラーの開発を推進し、2012年11月に富士製薬と持田製薬株式会社(以下、「持田製薬」)が国内での製造販売承認を取得し、2013年5月に上市されました。現在、当社は富士製薬に当該バイオシミラー原薬等を提供しており、富士製薬が販売を行っております。当社のフィルグラスチムバイオシミラーの産生細胞株は韓国のDong-ASTCo.,Ltd.(旧東亜製薬㈱)から導入しており、同社にはロイヤリティを支払っております。なお、他社によるバイオシミラーを含めて、先行品からの置き換え率は80%を超えています。

 

・ダルベポエチンアルファバイオシミラー(開発番号:GBS-011、対象疾患領域:腎疾患)

 ダルべポエチンアルファは、腎性貧血治療薬であるエポエチンアルファの効果の持続性を高めた製品です。当社は、2014年1月より日本市場に向けて株式会社三和化学研究所(以下、「三和化学」)と当該バイオシミラーの共同開発を開始し、2019年9月に三和化学が国内での製造販売承認を取得し、2019年11月に上市されました。以後、製造販売については三和化学が単独で行い、当社は販売売上に応じた利益の分配を受けております。なお、他社によるバイオシミラー等を含めて、先行品からの置き換え率は80%を超えています。

 

・ラニビズマブバイオシミラー(開発番号:GBS-007、対象疾患領域:眼疾患)

 ラニビズマブは、世界的な高齢化社会の進展や生活習慣の変化に伴い患者数が増加している黄斑変性症等の眼疾患に対する治療を目的とした製品です。当社は、2015年11月より千寿製薬株式会社(以下、「千寿製薬」)と共同で開発を推進し、2021年9月には同社が厚生労働省より国内での製造販売承認を取得、同12月に上市されました。現在、当社は千寿製薬に当該バイオシミラー原料等を提供しており、千寿製薬が販売を行っております。販売開始後には当初想定を大幅に上回る受注があり、2023年9月には適応症の追加も承認され、今後も更なる需要拡大が見込まれております。当社は、今後の需要拡大に対応し収益性の一層の向上を図るため、千寿製薬及びCDMOと連携し、安定供給体制の更なる強化及び原価低減策に向けた取り組みを継続してまいります。

 

・ペグフィルグラスチムバイオシミラー(開発番号:GBS-010、対象疾患領域:がん)

 ペグフィルグラスチムは、がん化学療法に伴う発熱性好中球減少の抑制を目的とした次世代型フィルグラスチム(ペグフィルグラスチム)製品です。本製剤は、フィルグラスチムにPEG(ポリエチレングリコール)を修飾することで投与回数を減らし、効果の持続性を向上させた高付加価値製剤です。当社は、2016年12月より持田製薬と共同で当該バイオシミラーの開発を推進し、2023年9月に同社が国内での製造販売承認を取得、同11月に上市されました。現在、当社は持田製薬に当該バイオシミラー原薬等を提供しており、持田製薬及びニプロ株式会社(以下、「ニプロ」)が販売を行っております。販売開始後には当初想定を上回る受注があり、今後も更なる需要拡大が見込まれております。これに対応するため、安定供給体制の強化及び収益性の一層の向上を図り、引き続き持田製薬及びCDMO等と連携しながら、供給量の拡大や原価低減策に取り組んでまいります。

 

・新規バイオシミラー製品の開発等に向けた取り組み

 日本においては、医療財政逼迫や高額な医薬品への患者アクセスの課題がある中で、バイオシミラーへの社会的な需要がますます高まっています。こうした環境下において、当社は持続可能な医療体制の構築に貢献するとともに、バイオシミラー事業の安定的かつ持続的な収益基盤を更に強化すべく、新規バイオシミラーの開発に向けた取り組みを積極的に推進しております。2024年6月には、抗体医薬品の新薬開発に強みを持つカイオム・バイオサイエンス株式会社(以下、「カイオム」)との間でバイオシミラー開発に関する業務提携契約を締結し、2005年5月には、カイオム、Mycenax Biotech Inc.(以下、「MBI」)との間で、新規バイオシミラー開発に関するMaster Service Agreementを締結しました。なお、この契約下で開発される新規バイオシミラーについては、既に、パートナー企業候補である複数の国内外製薬企業等と秘密保持契約下での協議を進めております。

 更に2025年5月には、厚生労働省「医療施設等施設整備費補助金(バイオ後続品国内製造施設整備支援事業)」に採択されたことを受け、今後は、アルフレッサホールディングス株式会社(以下、「アルフレッサホールディングス」)、カイオム、MBIとの協働により当該事業の目的であるバイオシミラーの原薬・製剤製造施設の国内候補地での整備を推進してまいります。

 

② 細胞治療事業(再生医療)

・開発番号:GCT-103(対象疾患:脳性麻痺)

 脳性麻痺は、出産前後の周産期において酸素欠乏や感染症等が原因となって脳が損傷を受けた結果、成長の過程で運動障害等の症状が現れる疾患です。出産直後の急性期には症状が明確でないことが多く、将来的な症状の予測も困難です。しかしながら、急性期を過ぎて病状が固定した後の遠隔期(慢性期)からでは治療は難しいと一般的に考えられており、有効な治療法が求められているにも関わらず、その開発はほとんど行われてきませんでした。エスカトルはこの遠隔期に対する治療法開発に取り組んでおり、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学(以下、「名古屋大学」)医学部附属病院小児科と共同で、自家SQ-SHED(患者自身の細胞)の臨床研究を実施中です。これまでに2例の患者様への投与が完了済みでしたが、2025年6月に最終3例目の患者様への投与も完了しました。今後、2025年12月頃に名古屋大学による当該臨床研究に関する中間解析結果が公表される見込みです。健常児ドナーから提供された乳歯を用いて構築したマスターセルバンク(MCB)を原料とする同種SQ-SHEDについては、2025年3月に持田製薬と共同事業化契約を締結し、同社と共同で、国内治験実施に向けた準備を進めております。海外市場についてはエスカトルとして独自に展開を進めており、海外の開発受託機関等との契約の下、治験責任医師や治験実施施設の選定含む開発体制の構築等に取り組む一方で、海外でのパートナー企業候補との協議も進めております。

 

・開発番号:GCT-102(対象疾患:腸管神経節細胞僅少症)

 腸管神経節細胞僅少症は、腸管の蠕動運動を制御する神経細胞の不足により腸閉塞症状を示す難病で、治療法が確立されていません。SQ-SHEDは腸管神経節細胞と同じ神経堤由来の細胞であるため、投与されたSQ-SHEDが不足している腸管神経節細胞を補う働きをすることにより、腸管蠕動運動を回復させる可能性が期待されています。本疾患の研究開発については、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)が公募する「令和7年度 成育疾患克服等総合研究事業:先制医療実現に向けた周産期・小児期臨床研究開発等の推進」に九州大学と共同で申請し、2025年4月に採択されました。エスカトルは今後も当該疾患に対する新規治療法の創出に向けて研究開発を推進してまいります。

 

・SQ-SHEDを活用した再生医療等製品の開発(対象疾患:虚血性骨疾患)

 虚血性骨疾患は、血流の減少(虚血)によって骨が壊死する病態であり、特に股関節を形成する大腿骨頭は虚血に陥るリスクが高い部位とされています。そのため、骨折後に治癒せず壊死に至るケースや、骨折がなくても特発性大腿骨頭壊死症と呼ばれる疾患を発症することがあります。この疾患は、骨頭が虚血性壊死を起こし、圧潰により股関節の機能が失われる指定難病で、現在圧潰を防ぐ治療法は確立されていません。エスカトルは当該疾患に対する新規治療法の創出を目指し、2024年9月以降、骨疾患に対する診療実績が豊富な獨協医大、及び骨充填剤の開発実績を有するHOYA Technosurgical株式会社(以下、「HOTS」)と共同研究を進めております。

 

・SQ-SHEDの次世代大量製造技術開発

 SQ-SHEDを用いた再生医療等製品の次世代製造技術開発にも独自に取り組みを進めており、その一環として、世界的な培養機器メーカーである米国のコーニング社の協力の下、新規の大量培養製法の開発に成功しました。更に、後期臨床試験及び商用製造への適用を見据えた本格的なプロセス開発に向け、製造受託事業を展開するニプロと共同開発契約を締結し、エスカトルからの技術移管を完了しております。今後も引き続き、各社と協働の下、次世代製造体制の構築に向けた開発を進めてまいります。

 

・次世代SQ-SHEDの研究

 エスカトルでは、より高い治療目標の達成や新たな疾患領域への展開を目指し、遺伝子導入や培養法改変により機能強化を図った次世代SQ-SHEDの研究開発にも取り組んでいます。これまでに、名古屋大学医学部附属病院脳神経外科との脊髄損傷を対象とした共同研究、浜松医科大学との脳腫瘍と対象とした共同研究を実施しており、これらの成果を踏まえ、現在、臨床試験を見据えた製法開発等を進めております。

4【関係会社の状況】

 

名称

住所

資本金

(百万円)

主要な事業の内容

議決権の所有又は被所有

割合

(%)

関係内容

(連結子会社)

株式会社S-Quatre

東京都中央区

5,000

細胞治療事業(再生医療)

100.00

資金の貸付

業務受託

役員の兼任

(その他の関係会社)

ノーリツ鋼機㈱(注)

東京都港区

7,025

ものづくり・ヘルスケアの各分野に関連する各種事業

被所有

21.58

資本業務提携

(注)有価証券報告書を提出しております。

 

5【従業員の状況】

(1) 連結会社の状況

 

2025年3月31日現在

セグメントの名称

従業員数(人)

医薬品開発事業

37

合計

37

(注)1.上記は就業人員数であり、臨時雇用者数は含んでおりません。

2.当社グループは医薬品開発事業の単一セグメントであるため、セグメント別の従業員数の記載は省略しております。

 

(2) 提出会社の状況

 

 

 

2025年3月31日現在

従業員数(人)

平均年齢(歳)

平均勤続年数(年)

平均年間給与(円)

37

48.5

5.6

8,146,569

(注)1.従業員数は就業人員であり、臨時雇用者数は含んでおりません。

2.平均年間給与は、基準外賃金を含んでおります。

3.当社の事業セグメントは、医薬品開発事業の単一セグメントであるため、セグメント別の従業員数の記載はしておりません。

 

(3) 労働組合の状況

 労働組合は結成されておりませんが、労使関係は円満に推移しております。

 

(4) 管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異

 提出会社および連結子会社は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)及び「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定による公表義務の対象ではないため、記載を省略しております。