当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下の通りであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社はiPS細胞及び体細胞に関する世界最先端の研究成果を広く一般的に利用できる形で事業化することで、研究開発をより促進し、さらに、再生医療など次世代医療を通じて人々の健康福祉に貢献することを目指しています。
短中期的な事業の柱としてiPS細胞に関連した研究試薬や創薬支援サービスを提供する「研究支援事業」を推進し、中長期的な成長戦略として巨大市場が見込める「メディカル事業」へ積極的に投資することにより、当分野のマーケットリーダーを目指します。
また、真のグローバル企業として成長していくことも当社の大きな基本方針としています。病気や医療ニーズに国境はなく、再生医療を含む次世代医療は全世界中の人々から求められています。現時点で、市場の大きい米国、欧州、日本、また将来大きな成長が見込めるインドにそれぞれ拠点を有しており、事業展開を進めております。
さらに、再生医療分野において持続的な成長を可能にするために顧客、社員、事業パートナー、株主といった重要なステークホルダーのバランスの取れた関係を重視し、これらのステークホルダーと長期的にWin-Winの関係となれる体制を構築してまいります。また、我々は社会の一員であるという自覚を持ち、社会全体への貢献についても重視してまいります。
(2)経営戦略等
当社の中核事業領域であるiPS細胞は、山中伸弥教授によるヒトiPS細胞の発明以降、世界中で研究が盛んに行われております。
最近では、iPS細胞を活用した病態解明や再生医療への応用など、実用的な研究開発が多く行われるようになりました。2017年には、希少難病の患者から作製したiPS細胞を活用して病態を解明し、新薬候補の治験へつなげた事例が報告され、さらに、再生医療に関しても、加齢黄斑変性、パーキンソン病に続き、重症心筋症及び角膜疾患でも臨床研究/試験が開始されました。
当社では、前者のようにiPS細胞を病態解明や創薬研究に使用する事業を「研究支援事業」、後者の再生医療を「メディカル事業」と位置づけ、2つのセグメントに分け、推進しております。
現時点では、研究支援事業の売上が約81%となっております。今後とも、短中期的な主力事業としてグローバルに推進してまいります。一方、メディカル事業では、現在、脊髄小脳変性症を対象とした再生医療製品ステムカイマル及び、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の神経系疾患を対象としたiPS神経グリア細胞の研究開発を進めております。これら再生医療製品は中長期的な成長事業として、積極的な投資を行い、早期の製造販売承認の取得を目指します。
当社の基本事業戦略を下記にまとめます。
① 積極的なグローバル化の推進
当社では、日本に加え、米国、欧州、インドにも拠点を保有しております。いずれの拠点も、販売、製造、研究開発の機能を有しており、各拠点が有機的に連携しながらグループシナジーを追求しています。
営業では、各拠点がそれぞれの地域の顧客をカバーしており、時差や言語の壁なく営業活動を推進しております。日本市場に加え、バイオ業界における最大の市場である米国、それに続く欧州、さらに世界人口第2位を誇るインドの4拠点をカバーすることで、ターゲット顧客である世界中の多くの大学/公的研究機関及び製薬企業等にアクセスが可能になっております。各地域で製造している製品やサービスを別の地域で販売することで、売上を拡大してまいります。
② 研究支援事業とメディカル事業による連続的成長モデル
研究支援事業では、医薬品のような製造販売承認は必要とされず、新しい技術を比較的短期間で事業化し収益を上げることができます。当社では、iPS細胞を中心とした幅広い「ヒト細胞ビジネスプラットフォーム」を有しており、競争優位性の高い製品やサービスを世界中で展開し短中期の収益の柱として推進しております。
メディカル事業では、再生医療および臨床検査を実施しております。再生医療に関しては、上市までに臨床試験を行い製造販売承認を取得する必要があるため、研究支援事業より事業化に時間が必要とされますが、日本では2014年の法改正により、世界で最も再生医療の産業化に適した環境が整っていると考えられます。「医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律(通称 薬機法)」では、治験において安全性が確認され、有効性が推定された再生医療等製品に対して早期承認(条件・期限付き承認)を与えることが可能になりました。これにより、患者様に対して新たな治療機会を早期に提供すると共に、治験期間の短縮や治験費用の削減が期待できます。
経済産業省の報告書(「平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 「根本治療の実現」に向けた適切な支援のあり方の調査」)によると、再生医療産業のグローバルでの市場規模は2030年で約5~10兆円となっており、今後、巨大市場に成長することが見込まれています。
このように、再生医療を中長期的な成長事業と位置づけ、早期の製造販売承認の取得を目指します。
短中期的な収益の柱である「研究支援事業」と、中長期的な成長事業である「メディカル事業」の両方を組み合わせることで、短期→中期→長期と、持続的な成長を実現します。
③ 最先端技術による持続的な技術優位性の確保
iPS細胞は世界中で研究開発競争が繰り広げられており、飛躍的に技術が進歩してきました。当社は、引き続き技術開発を積極的に推進することで競争力の強化を図ってまいります。また、リプロセルグループ内の各要素技術を組み合わせ、シナジーを追求することで競争優位性の高い新規ビジネスの開発を行ってまいります。引き続き、世界中のトップ大学および企業等とのコラボレーションを通じて、世界最先端の技術を積極的に開発・導入してまいります。
(3)経営環境
2020年に感染拡大が始まった新型コロナウイルスへの対応状況が、最近大きく変わってきました。今後とも、感染拡大は定期的に起こる可能性はあるものの、ワクチン接種率が高まってきたこともあり、今後、従来のような行動制限措置が行われる可能性は低くなりました。事業環境もパンデミック以前の状態に戻ってきております。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社が持続的に成長して企業価値を高めるとともに、我々のビジョンやミッションを達成するために優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題を以下のように考えております。
① 全社的課題
(1) iPS細胞分野における技術革新への対応と市場リーダーシップの確立
iPS細胞技術は世界中で急速な研究開発競争が繰り広げられており、技術革新のスピードは非常に速く、既存技術が短期間で陳腐化するリスクがあります 。
当社グループは、この変化に対応し、当該分野のマーケットリーダーとしての地位を確立・維持するため、研究開発への積極投資を行っております。自社開発に加えて、これまでと同様、国内外の大学、公的研究機関、民間企業との連携、共同開発、技術導入を戦略的に推進し、技術的優位性を確保してまいります。
(2) 事業ポートフォリオの最適化と収益基盤の強化
短期・中期的な収益基盤である研究支援事業と、中長期的な成長ドライバーであるメディカル事業の両輪を、バランスを取りながら、安定的かつ持続的に成長させることが課題です。
研究支援事業では、「ヒト細胞ビジネスプラットフォーム」を核とした高付加価値製品・サービスを提供することで収益基盤を強化しつつ、将来の成長を担う再生医療等製品への戦略的投資を継続してまいります。
② セグメント別課題
(1) 研究支援事業
(a) 多様化・高度化する顧客ニーズへの対応
研究支援事業では、大学・公的研究機関から製薬企業まで幅広いニーズに対応した製品・サービスが求められます。
特に創薬分野ではヒトの病態に近いモデル細胞での評価や効率的なスクリーニングに対するニーズが高まっています。当社グループは、研究試薬、受託サービス(iPS細胞作製、遺伝子編集、分化誘導、薬効薬理試験など)といった多岐にわたる製品・サービス群を提供することで、多様化・高度化する顧客ニーズに対応しております。
(2) メディカル事業
(a) 再生医療等製品ステムカイマルの早期承認取得
脊髄小脳変性症を対象疾患とするステムカイマルは、国内第II相臨床試験において安全性及び有効性で良好な結果を得ることができました。承認申請には、臨床試験の結果だけでなく、社内体制の整備、及び各種申請資料の準備が必要になります。今後、承認申請に向け、外部専門家の活用も含め、準備を加速してまいります。
(b) iPS神経グリア細胞製品の早期臨床応用の実現
筋萎縮性側索硬化症(ALS)を対象としたiPS神経グリア細胞製品は、非臨床試験で有望な結果が得られており、現在、臨床試験の準備を進めております。iPS細胞を用いた再生医療では安全性の確保が技術的な課題となりますが、当社グループは最先端のRNAリプログラミング技術により作製した高品質な臨床用iPS細胞を用いることでこの技術的課題に対応してまいります。
(c) 腫瘍浸潤性リンパ球輸注療法(TIL療法)の早期事業化と技術基盤強化
慶應義塾大学と共同で進める進行子宮頸がんを対象としたTIL療法は、先進医療Bとしての臨床試験が再開され、当社がTIL製造を担当しています。米国でメラノーマを対象としたTIL療法が承認され、今後の市場拡大が期待される一方、競争激化も見込まれます。本臨床試験での安定的なTIL供給体制を確立するとともに、新規TIL製造方法の研究開発を行うことで、競争優位性を確保してまいります。
(d) グリピカン1・キメラ抗原受容体T細胞療法(GPC-1 CAR-T療法)の早期臨床応用の実現
食道がん、膵がんなど多様な固形がんを対象とするGPC-1 CAR-T療法は、AMED事業にも採択された有望なパイプラインです。一方、固形がんを対象としたCAR-T療法は、世界中で様々な技術開発が進められており、競争優位性の確保が課題となります。京都大学、国際医療福祉大学との連携のもと、薬事規制に準拠した非臨床試験の実施、品質・製造方法の確立を進めており、早期に臨床試験を開始することを目指します。
(e) iPS細胞再生医療等製品の受託製造(CDMO)事業のグローバル展開
臨床用iPS細胞の需要は世界的に高まっていますが、その一方、競争激化も見込まれます。当社グループの技術力と品質はCIRMとの連携やGameto社への供給実績等を通じて高く評価されています。2024年5月に開設した米国GMP準拠施設を含む日米2拠点体制を活用し、高品質な臨床用iPS細胞の安定供給、及び最終製品製造までの一貫した受託サービスを提供することで、グローバル市場でのプレゼンスを高めてまいります。
(5)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループの経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標は、売上高と経常利益となります。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)ガバナンス
当社グループではサステナビリティ関連のリスク及び機会を、その他の経営上のリスク及び機会と一体的に監視及び管理しております。詳細は、「
(2)戦略
上記の点以外に現状重要性の高いサステナビリティ関連リスク及び機会を認識していないため、その他の戦略については記載を省略しております。
(3)リスク管理
当社グループではサステナビリティ関連のリスク及び機会を、その他経営上のリスク及び機会と一体的に監視及び管理しております。詳細は、「
(4)指標及び目標
上記の点以外に現状重要性の高いサステナビリティ関連リスク及び機会を認識していないため、その他の指標及び目標については記載を省略しております。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。あわせて、必ずしもそのようなリスクに該当しない事項についても、投資者の判断にとって重要であると当社が考える事項については、積極的な情報開示の観点から記載しております。また、本項の記載内容は当社株式の投資に関する全てのリスクを網羅しているものではありません。
当社グループは、これらのリスクの発生可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の迅速な対応に努める方針でありますが、当社株式に関する投資判断は、本項及び本項以外の記載内容もあわせて慎重に検討した上で行われる必要があると考えております。
なお、本項記載の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。
(1) 競合リスク
iPS細胞の分野は、熾烈な研究競争が行われており、技術革新が速く、新規参入の動きが活発となっているため、従来の技術が陳腐化するリスクがあります。このため、当社グループは、世界的な大学や公的研究機関と連携し、常に世界最先端の技術開発に先行して取り組んでおります。
新規参入は大手企業を含めて増加しており、研究開発を進めながら参入を検討している潜在的競合相手も少なくないと考えられます。さらに、後発参入製品は先発製品に比べ機能面やコスト面で少なからず優位性を有している可能性もあり、競争が激化することが想定されます。これら競合相手の中には、生産性や販売力、資金力で当社グループを上回る企業が含まれる可能性もあります。当社グループは今後とも、積極的に研究開発及び営業活動を行っていきますが、競合相手との競争状況によっては、計画どおりの収益を上げることができない可能性もあります。
(2) 研究開発活動に由来するリスク
当分野の競争が激化する中、当社では公的資金の有効活用や産学連携により、日本、米国、欧州、インドの4拠点でこれまで研究開発に重点を置いた活動をしてまいりました。しかしながら、研究開発活動が常に計画どおりに進む保証はなく、当初の予定どおりに進まない場合、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(3) 再生医療ビジネスに関するリスク
現在当社グループでは、①体性幹細胞由来の再生医療製品 ステムカイマル、②再生医療向けiPS神経グリア細胞、③腫瘍浸潤性リンパ球輸注療法、④食道がん等の固形がん向けグリピカン1CAR-T療法の4つのパイプラインがあります。
再生医療製品の開発については、2014年11月25日に施行された「薬事法等の一部を改正する法律」に準拠し進めておりますが、臨床試験において、想定外の有害事象の発生及び有効性が証明できないなどの理由で、治験の中止または承認が得られないリスクがあります。また、承認申請及び審査の過程で遅延が起こるリスクがあります。
(4) 知的財産権に関するリスク
① 特許にかかる事項
知的財産権に関して、当社グループの特許権が他社により侵害されるリスクがあります。このため、当社グループでは研究開発で得られた成果に関して、必要に応じて迅速に特許出願等を行っております。逆に、当社グループが他社の特許権を侵害するリスクも否定できないため、必要に応じて各種データベースや特許事務所を活用して情報収集を行い、可能な限り特許侵害リスクを軽減すべく対応しております。しかしながら、当社グループの調査範囲の及ばない抵触特許が存在した場合及び秘密裏に当社グループの特許が侵害された場合、当社グループの技術の優位性が損なわれ、多額の損害賠償を請求されるなど、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
② 職務発明にかかる事項
当社グループにおける職務発明の取扱いに関しては、職務発明規程を作成し、運用しております。しかしながら、将来、発明者の認定及び職務発明の対価の相当性についての係争が発生した場合、当社グループの事業に影響を与える可能性があります。
(5) 経営上の重要な契約等に関するリスク
当社の経営上重要と思われる契約は、当社が実施許諾を受けているiPS細胞事業に関する特許ライセンス契約であります。当該契約が期間満了、解除、その他の理由に基づき終了した場合、もしくは当社にとって不利な改定が行なわれた場合、または契約の相手方の経営状態が悪化したり、経営方針が変更されたりした場合には、当社の事業戦略及び業績に影響を与える可能性があります。
(6) 人材の確保に関するリスク
当社グループの成長戦略を実現するためには、高度な専門的知識、技能及び経験を有する、多様な人材の確保及び育成が不可欠といえます。特に、海外では日本に比べ一般的に人材流動性が高く、優秀な人材ほど外部に流出するリスクが高くなります。海外子会社を含め、各社の取締役及び本部長クラスの優秀な人材を対象にインセンティブ制度を導入するなどして長期確保に努めており、さらに優秀な新規人材の採用も積極的に行っております。しかしながら、優秀な人材の確保及び採用が計画通りに進まない場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(7) 為替変動リスク
当社グループの海外売上比率は約7割であり、為替変動が業績及び財政状態に与える影響は少なくありません。主要取引通貨である米ドルと英ポンドに対して当初の見込みより円高に推移した場合、売上が減少し、さらに海外通貨預金及び子会社への貸付金に関わる為替差損の発生による損失の拡大が起こるリスクがあります。一方、円安に推移した場合は、売上の増大及び損失の縮小が見込まれます。
(8) 資金繰り及び資金調達等に関するリスク
当社グループでは、研究開発活動の進捗に伴い多額の研究開発費が先行して計上され、継続的な営業損失が生じております。今後も事業の進捗に伴って運転資金、研究開発投資及び設備投資等の資金需要の増加が予想されます。今後、株式市場からの資金調達や、国の公的補助金等の活用など、資金調達手段の多様化により継続的に財務基盤の強化を図ってまいりますが、収益確保または資金調達の状況によっては、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
(9) 税務上の繰越欠損金
当社には現在のところ税務上の繰越欠損金が存在しております。そのため、事業計画の進展から順調に当社業績が推移するなどして繰越欠損金による課税所得の控除が受けられなくなった場合には、通常の税率に基づく法人税、住民税及び事業税が計上されることとなり、親会社株主に帰属する当期純利益または親会社株主に帰属する当期純損失及びキャッシュ・フローに影響を与える可能性があります。
(10) レピュテーションに関するリスク
当社グループは、製品の品質・安全性の確保、法令遵守、知的財産権管理、個人情報管理等に努めております。しかしながら、当社グループ及び当社グループを取り巻く環境や競合他社及び競業他社を取り巻く環境において何らかのレピュテーション上の問題が発生した場合、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(11) 自然災害、事故、テロ、戦争等に関するリスク
当社グループが事業活動を行っている地域では、地震、台風等の自然災害の影響を受ける可能性があります。同様に火災等の事故災害、テロ、戦争等が発生した場合、当社グループの拠点の設備等に大きな被害を受け、その全部又は一部の操業が中断し、生産及び出荷が遅延する可能性があります。また、損害を被った設備等の修復のために多額の費用が発生し、結果として、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(12) 継続企業の前提に関する重要事象等
iPS細胞及び再生医療製品等の研究開発及び治験費用が収益に先行して発生する等の理由から、継続的に営業損失が発生しており、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象または状況が存在しております。
しかしながら、当社グループの当連結会計年度末の現金及び預金残高は2,823百万円、短期的な資金運用を行っている有価証券が1,118百万円あり、財務基盤については安定しております。今後、主力事業の営業強化、新規事業の立ち上げ、再生医療製品の早期の製造販売承認を通じて、早期の黒字化を目指してまいります。
経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー(以下、「経営成績
等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
(1)経営成績の状況
当連結会計年度における世界経済は、インフレの落ち着きなどを背景に底堅い成長が見られましたが、トランプ政権の関税引き上げ政策や中国における不動産問題による不確実性から世界経済の減速要因となっております。また、日本経済も緩やかな回復基調を維持しておりましたが、内需の弱さや海外経済の動向によって今後の動向に不確実性が生じております。
このような状況のなか、当社グループが中核技術とするiPS細胞技術は、山中伸弥教授によるヒトiPS細胞の樹立以降、世界中で研究が活発化し、近年では病態解明や再生医療への応用など、実用化に向けた研究開発が加速しています。希少難病の患者由来iPS細胞を用いた病態解明や新薬候補の治験進展が報告される一方、加齢黄斑変性、パーキンソン病、虚血性心筋症、脊髄損傷などを対象とした臨床研究や治験も進められています。
このような背景のもと、当社グループはiPS細胞技術を活用する事業を「研究支援事業」と「メディカル事業」の2つのセグメントに分け、推進いたしました。
この結果、当連結会計年度の売上高は2,978百万円(前期比22.7%増)、営業損失は130百万円(前期409百万円の損失)、経常利益は45百万円(前期比12.1増)、親会社株主に帰属する当期純利益は103百万円(前期31百万円の損失)となりました。
セグメント別の経営成績を示すと、次のとおりであります。
a.研究支援事業
当社グループは、大学や公的研究機関、製薬企業等の研究所を顧客として、研究試薬や細胞などの研究用製品、iPS細胞作製やゲノム編集などの受託サービスを提供しています。最先端技術を集約した製品・サービスを通じて、画期的な新薬や治療法の開発を支援しています。
この結果、売上高は2,414百万円(前期比16.1%増)、セグメント利益は621百万円(前期比39.4%増)となりました。
b.メディカル事業
再生医療分野では、ヒト体性幹細胞やヒトiPS細胞の臨床応用を目指した研究が世界中で精力的に進められており、将来的に再生医療等製品がグローバルで巨大産業へ成長することが見込まれています。特に、無限の増殖能と多分化能を持つiPS細胞は、有効な治療法のない難病に対する画期的な治療法となる可能性を秘めており、その臨床応用に大きな期待が寄せられています。iPS細胞の臨床応用における主要課題は安全性の確保ですが、当社グループは高品質で臨床応用に最適なiPS細胞を作製するRNAリプログラミング技術を開発・保有しています。
この技術的優位性を活かし、iPS細胞等の早期臨床応用を実現すべく、(1)再生医療等製品の研究開発、(2)再生医療等製品の受託製造(CDMO)、(3)臨床検査受託サービスの3つの事業を手掛け、当社グループの中長期的な成長の柱として推進しております。
また、再生医療等製品の研究開発では、①体性幹細胞由来の再生医療製品 ステムカイマル、②再生医療向けiPS神経グリア細胞、③腫瘍浸潤性リンパ球輸注療法、④食道がん等の固形がん向けグリピカン1CAR-T療法の4つのパイプラインの研究開発を重点的に進めております。
この結果、売上高は564百万円(前期比62.5%増)、セグメント利益は158百万円(前期比28.1%減)となりました。
なお、管理部門にかかる費用など各事業セグメントに配分していない全社費用が734百万円(前期626百万円)あります。
(2)財政状態の状況
(資産の部)
当連結会計年度末における流動資産は前連結会計年度末に比べて2,502百万円減少し、4,896百万円となりまし
た。主な内訳は、有価証券の減少2,509百万円、現金及び預金の減少115百万円、商品及び製品の増加58百万円、
売掛金の増加42百万円であります。固定資産は前連結会計年度末に比べて3,121百万円増加し、4,774百万円とな
りました。主な内訳は、投資有価証券の増加3,021百万円、繰延税金資産の増加55百万円、有形固定資産の増加42
百万円であります。
(負債の部)
当連結会計年度末における流動負債は前連結会計年度末に比べて37百万円減少し、640百万円となりました。主
な内訳は、契約負債の減少66百万円、買掛金の減少38百万円、その他の減少18百万円、未払金の増加42百万円、
前受金の増加40百万円であります。固定負債は前連結会計年度末に比べて17百万円減少し、45百万円となりまし
た。主な内訳は、繰延税金負債の減少18百万円であります。
(純資産の部)
当連結会計年度末における純資産は前連結会計年度末に比べて673百万円増加し、8,984百万円となりました。
主な内訳は、利益剰余金の増加605百万円、資本金の増加366百万円、その他有価証券評価差額金の減少149百万
円、資本剰余金の減少135百万円であります。
(3)キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は前連結会計年度末に比べて115百万円減少し、2,823百万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において営業活動の結果獲得した資金は6百万円(前期は11百万円の使用)となりました。これは主に、税金等調整前当期純利益45百万円、株式報酬費用56百万円、減価償却費47百万円、未払金の増加43百万円、持分法による投資損益20百万円が発生した一方で、契約負債の減少66百万円、売上債権の増加45百万円、棚卸資産の増加24百万円、仕入債務の減少38百万円、貸倒引当金の減少6百万円が発生したことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において投資活動の結果使用した資金は795百万円(前期は404百万円の獲得)となりました。これは主に、投資有価証券の取得による支出4,800百万円、有形固定資産の取得による支出86百万円、無形固定資産の取得による支出9百万円が発生した一方で、有価証券の償還による収入4,100百万円が発生したことによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度において財務活動の結果獲得した資金は680百万円(前期は544百万円の獲得)となりました。これは主に新株予約権の行使による株式の発行による収入680百万円が発生したことによるものであります。
生産、受注及び販売の実績
(1) 生産実績
当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
|
|
金額(千円) |
前年同期比(%) |
|
|
研究支援事業(千円) |
781,680 |
75.8 |
|
メディカル事業(千円) |
173,290 |
154.1 |
|
合計(千円) |
954,970 |
83.5 |
(注)金額は製造原価によっております。
(2) 受注実績
当社は、主として需要予測に基づく見込生産を行っているため、該当事項はありません。
(3) 販売実績
当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
|
|
金額(千円) |
前年同期比(%) |
|
|
研究支援事業(千円) |
2,414,586 |
116.1 |
|
メディカル事業(千円) |
564,041 |
162.5 |
|
合計(千円) |
2,978,627 |
122.7 |
経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は、以下のとおりで
あります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1) 財政状態及び経営成績の状態に関する認識及び分析・検討内容
「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 経営成績等の状況の概要」をご参照ください。
当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因として、継続的な研究開発費の支出があげられます。研究支援事業については、研究試薬製品、細胞製品ともに、積極的な研究開発を行っており、2025年3月期における研究開発費の総額は536百万円と、販売費及び一般管理費の約30%を占めており、今後も研究開発活動を積極的に推進する予定であります。
(2) キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 経営成績等の状況の概要」をご参照ください。
当社グループの資本の財源及び資金の流動性について、当社グループの資金需要のうち主なものは、研究支援事業における製品・サービスの研究開発やグローバル展開の推進及びメディカル事業における再生医療製品の導入や開発等によるものの他、製造費、販売費及び一般管理費などの営業費用であります。
当社グループは、事業運営上必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保することを基本方針としております。しかしながら、事業収益がこれらの資金需要を賄うには十分ではないことから、公的助成金、第三者割当増資による調達資金を利用しています。なお、当社グループの当連結会計年度末の現金及び預金残高は2,823百万円、短期的な資金運用を行っている有価証券が1,118百万円あり、十分な流動性を確保しています。
(3) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。
(4) 経営戦略の現状と見通し
2026年3月期の業績につきましては、売上高3,037百万円(当期比2.0%増)、営業損失268百万円(当期は130百万円の損失)、経常損失75百万円(当期は45百万円の利益)、親会社株主に帰属する当期純損失75百万円(当期は103百万円の利益)を見込んでおります。
連結経常損失、連結当期純損失の予想額は、為替を一定の水準として推移することとして策定しており、為替損益を業績予想に織り込んでおりません。本業績見通しにおける外国為替レートは、1米ドル=140円、1英ポンド=180円、1印ルピー=1.65円を前提としております。
2020年に始まった新型コロナウイルスについては、各国とも行動制限措置の緩和が進み、パンデミック以前の状況に戻ってきております。
(5) 経営者の問題意識と今後の方針について
「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照ください。
また、経営者の視点による経営成績等の状況についての認識及び分析・検討内容については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 経営成績等の状況の概要」をご参照ください。なお、当社グループにおいては、事業計画に基づく事業の成長と早期の黒字化を重要指標として売上高、各段階損益について分析を行っております。
当社の経営上の重要な契約は次のとおりであります。
当社が実施許諾を受けている特許ライセンス契約
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契約相手 |
契約書名 |
契約締結日 |
契約期間 |
契約内容 |
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iPSアカデミアジャパン㈱ |
第2次実施権許諾契約 |
2016年10月1日 |
2016年10月1日から本特許の全ての特許権の満了まで |
ヒトiPS細胞由来分化細胞の製造・販売、並びに各種受託サービスを実施するための非独占的通常実施権の許諾に関する契約。 |
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Steminent Biotherapeutics Inc. |
Collaboration and Commerciallization Agreement |
2016年11月11日 |
2016年11月11日から2026年11月10日まで |
再生医療製品「Stemchymal®」を日本において独占的に開発・販売するための権利の許諾に関する契約。 |
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MAGiQ Therapeutics Inc. |
CROSS-LICENSE AGREEMENT |
2018年4月6日 |
2018年4月6日から 本特許の全ての特許権の満了まで |
iPS細胞由来神経グリア細胞(iGRP)の臨床開発・商業化ライセンス及びiGRPの独占的な製造に関する契約 |
(注)上記についてはロイヤリティとして売上高の一定率を支払っております。
研究支援事業及びメディカル事業において積極的な研究開発を行っており、当連結会計年度の研究開発費の総額は
(1) 研究支援事業
iPS細胞の研究は世界中で精力的に進められており、短期間で飛躍的な技術革新が進んでいます。当社グループとしても、研究開発活動を最重点領域と位置付け、引き続き注力してまいります。研究開発は当社グループにとって重要なアクティビティと位置付け、グループ会社間の技術シナジーの追求を図りながら、研究開発を継続的に実施してまいります。技術開発については自社開発に加え、東京大学・京都大学をはじめとした日本の大学の他、米国のハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、英国のダーラム大学等の欧米の技術導入を積極的に推進していきます。
研究支援事業に係る研究開発費は
(2) メディカル事業
台湾のステミネント社より体性幹細胞由来の再生医療製品ステムカイマルを脊髄小脳変性症の治療薬として導入し、日本で治験を実施しています。日本では、2014年に再生医療等製品に関する法整備が行われており、治験において早期に承認を得ることができる制度が整っています。さらに、ステムカイマルは、既に台湾において第Ⅱ相の試験が終了しており、その治験データを日本での治験に応用することができます。
当社では、これらのメリットを最大限に活用し、ステムカイマルの早期承認を目指します。
また、米国Q Therapeutics Inc.(Qセラ社)と共同で、再生医療向けiPS細胞由来神経グリア細胞(iGRP)の研究開発を行っております。iGRPは様々な中枢神経系疾患への効果が期待されますが、当社では筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び横断性脊髄炎(TM)を対象疾患とした再生医療製品として開発を行ってまいります。
メディカル事業にかかる研究開発費は