(1) 経営方針
当社は創薬バイオ企業として研究開発先行型の事業を展開しており、独自性の高いがんのウイルス療法薬や重症感染症治療薬などの開発と事業化を推進しています。特に、腫瘍溶解ウイルスであるテロメライシン並びに次世代テロメライシンOBP-702を中心とした「がんのウイルス療法」と、ウイルス感染症治療薬OBP-2011を中心とした「重症ウイルス感染症治療薬」を主な事業領域とした「ウイルス創薬企業」として成長を目指しています。さらに、核酸系逆転写酵素阻害剤のメカニズムを活かしてHIV感染症治療薬として開発して参りましたOBP-601(censavudine)は、LINE-1阻害剤としてドラッグリポジショニングを行い、ライセンス先のTransposon Therapeutics Inc.(以下「Transposon社」)により神経難病治療薬として開発が進められています。
これまで当社は、パイプラインの開発を初期の臨床試験段階まで進め、その後の開発や販売は製薬企業へライセンスを許諾し、その対価として契約一時金やマイルストーン、ロイヤリティ収入などを得るという事業モデルを展開してきました。今後は上記のようなライセンス型事業モデルに加えて、国内のテロメライシンに関しては、自社で製造販売承認を得る製薬会社型事業モデルへ展開を進めます。
当社は、大手製薬会社の経営方針に依存するライセンス収入だけのビジネスモデルから脱却し、「医薬品を製造販売業者として供給することで継続した収入が得られる製薬会社型事業モデル」と「ライセンス型事業モデル」のハイブリッド型ビジネスモデルへ当社自身を変革させていく方針です。
「オンコリスなしでは医療現場が、ひいては患者様が困る」そういう存在感ある創薬を展開することを基本方針とし、いち早く医療現場の課題解決に貢献してゆきたいと考えています。
(2) 当社を取り巻く経営環境
がんのウイルス療法は1990年代から欧米を中心に研究開発が進み、2010年代以降に大きな進展を遂げました。2015年に米国アムジェン社が遺伝子改変ヘルペスウイルスを使ったがんのウイルス療法を上市させ、日本国内では2021年に第一三共(株)が同様なヘルペスウイルス製剤「デリタクト注」(一般名:テセルパツレブ)を日本国内で上市させました。現在も、世界で数十社が様々なウイルス療法の開発に着手し、開発競争が激しくなっています。一方で、遺伝子改変型アデノウイルスによるウイルス療法は未だ薬事承認されたものはなく、当社が開発しているテロメライシンは、食道がんへの適応に対して開発の最終段階にあり、2019年には厚生労働省から『先駆け審査制度への指定』を受け、米国では2020年にFDA(米国医薬品食品局)から食道がん治療に対する『オーファンドラッグ指定』を受けています。これらの指定により、薬事承認にかかわる相談・審査において優先的な取り扱いを受けることができるようになりました。
また、医薬品業界では、大手製薬企業の命運を左右させるようなパテントクリフを補う新薬の創出が大きな課題となってきており、大手製薬会社も独自の新薬の創出に頼るのではなく、ベンチャー企業が創出した従来にない遺伝子治療や細胞治療などの新しいモダリティを求めるようになってきました。このような環境下、当社のような小規模組織は、経営資源であるヒト・モノ・カネを戦略的かつ効率的に活用し、事業のスピードと質を最大化できるというメリットがあります。効率的な経営を実現させるためにCRO(臨床試験・前臨床試験受託企業)やCMO(医薬品製造受託企業)に業務委託を行い、当社米国子会社のOUS社と連携してパイプラインのPOC(Proof of Concept)を明確化させ、ニューモダリティを求める大手製薬会社との提携に繋げて新薬承認へのスピードアップを実現させたいと考えています。
(3) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社は、組織戦略において下記の課題を重要な課題として取り組んでおります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日時点において判断したものであります。
a.経営理念の浸透
当社のビジョンは、「未来のがん治療に新たな選択肢を与え、その実績ががん治療の歴史に私たちの足跡を残してゆくこと」です。私たちが求めて止まないのは、医療の“イノベーション”です。そのために、普段からの医学研鑽を惜しみません。少人数で大きな仕事を成し遂げてこそ、アドベンチャーと言えるでしょう。大企業にできないことこそ、私たちが成し遂げるべき目標です。いくら儲かるからではなく、どれだけの人を救えるかに価値観をもち、その結果としての利益を追求してゆきたいと考えます。経営者と社員だけではなく、株主様ともこの意識を共有してゆきます。常に透明な経営を心がけ、定期的な情報公開を行ってゆきます。社会貢献を目指す社会人として、常にコンプライアンスの遵守を心がけます。この経営理念を役職員に浸透させ、経営理念に基づいた経営戦略の遂行を柔軟且つ活気を持って執り行う組織を構築することが、重要な経営課題です。そのために、経営理念を具現化するための行動規範を策定し、役職員に行動規範の遵守を指導するとともに、経営トップが役職員に経営理念を語る機会を積極的に設定しています。その上で、研究開発部門と事業開発部門が一元的に情報を共有することを第一義に組織を構築しています。また、社内リソースを管理する管理部門は、常にステークホルダーを意識し、コンプライアンス遵守を徹底します。さらに、内部監査部門は、経営理念及び行動規範の浸透状況をはじめとするモニタリング機能を充実させていきます。
b.人財の確保と成長
役職員個々の自発的な成長こそが当社の成長を支える必須要素です。その実現のために人財の採用・育成を積極的に推進します。特に、当社の研究開発やビジネスは国内外に渡るため、英語能力をはじめ国際的視野を持つ人財を育てることが重要です。社内外ネットワークを活用し、確かな技術・能力・成長意欲のある人財の採用を行い、併せてOJTや各種研修プログラムによる人財育成を行うことで、陣容の充実を図ります。また、業績評価や株式報酬制度を充実させ、業務のスピード及び質を最大化することに努めます。
c.研究開発体制の強化
当社の研究開発は、医薬品及び検査薬候補の探索・創製から前臨床試験及び初期臨床試験(POC: Proof of Concept)までを中心とし、前臨床から臨床段階への橋渡し(TR:Translational Research)が主業務です。従って、研究開発計画の企画立案並びにその進捗管理を主たる業務とするプロジェクトリーダーを担える人財の確保並びに育成が重要な課題です。当社の研究開発体制は、国内のみならず海外にも展開しております。当社100%子会社Oncolys USA Inc.(以下「OUS」)の臨床開発部門との連携を充実させ、世界の医療や研究機関との共同研究開発を通じて先進技術を取り込み、技術レベルの向上を図るとともに、アウトソーシング先を積極的に活用し、ローコスト且つハイレベルな研究開発体制の構築を行います。
d.事業開発部門の強化
当社は、遺伝子改変ウイルス製剤を用いたがんのウイルス療法と重症ウイルス感染治療薬を事業領域に定めており、この業界においては非常に特殊なウイルス創薬の事業化を目指しています。従って、ビジネス能力だけではなく科学的知識の豊富な人財を確保・育成し、世界の製薬企業とのネットワークをより強固なものにしていきます。さらに、当社の米国子会社であるOUSとの連携を強化することで海外製薬企業とのライセンスや共同開発の機会を数多く創出し、当社のキャッシュ・フロー獲得に貢献できる事業開発体制を構築します。
e.アウトソーシング戦略
アウトソーシングを主体とする当社のビジネスにおいて、その効率化は重要な課題であります。必要且つ十分な研究開発及び製造力の確保に向け、外部委託会社であるCRO(Contract Research Organization)及びCMO(Contract Manufacturing Organization)との関係を強化するために、定期訪問等による綿密なコンタクト体制をとるべく全組織に啓蒙しています。また、常に最良のアウトソーシング体制を確保するべく、各々の業務領域において特定の1社依存にならぬよう、セカンドコントラクターの探索及び関係構築も行います。
主要製品・サービス内容、顧客基盤、販売網等については、「第1 企業の概況 3 事業の内容 (1)主要なパイプライン」及び「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容」をご参照ください。
当社は、ウイルスの増殖能力を利用してがんを殺す「がんのウイルス療法」と、ウイルスの増殖を止める「重症ウイルス感染症治療薬」を事業領域とし、ウイルスを軸にした業界でも類を見ない『ウイルス創薬』を展開しています。今後、持続可能な社会の実現と永続的な企業価値の向上を目指すために、大手製薬会社の経営方針に依存するライセンス収入だけのビジネスモデルから脱却し、「医薬品を製造販売業者として供給することで継続した収入が得られる製薬会社型事業モデル」と「ライセンス型事業モデル」のハイブリッド型ビジネスモデルへ変革させていく方針です。さらに、コーポレート・ガバナンスの強化と経営全般の効率化を図りながら、経営資源を最大限に活用し、サステナビリティ企業への成長に取り組んで参る所存です。
当社は、サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視及び管理するための特別の組織は設置しておりませんが、内部統制の一環として、サステナビリティ関連も含めて網羅的にリスクを検討し、対応状況について内部監査においてチェックしています。また、リスク管理規程に基づきリスク管理担当役員を任命しています。リスク管理担当役員は、他の常勤取締役・監査役・内部監査室と密な連携をとって事業遂行上のリスクについて集約・棚卸・評価・対応要請を行っています。
これらの結果は社長に報告されるとともに、重要事項に関しては取締役会への報告などを通じて、必要に応じ取締役会に報告・共有を行う方針です。なお、当社では、原則として月1回定時取締役会を開催する他、必要に応じて臨時取締役会を開催し、経営に関する重要事項を柔軟かつ迅速に決定し、経営基盤の強化、拡充に注力するとともに、その過程で生じた課題や問題点の解決も図っています。また経営及び業務執行に関する機動的な意思決定機関として常勤役員会を設置しており、機動的な経営に関する重要事項の審議及び決議等を行っています。
上記の詳細は、
1) 事業領域の特徴
当社は、ウイルスの増殖能力を利用してがんを殺す「がんのウイルス療法」と、ウイルスの増殖を止める「重症ウイルス感染症治療薬」を事業領域とし、ウイルスを軸にした業界でも類を見ない『ウイルス創薬』を展開しています。
2) ライセンス依存からの脱却
当社は創業以来ライセンス型の事業モデルを中心に事業を展開して参りましたが、大手製薬会社の経営方針に依存するライセンス収入だけのビジネスモデルから脱却し、「医薬品を製造販売業者として供給することで継続した収入が得られる製薬会社型事業モデル」と「ライセンス型事業モデル」のハイブリッド型ビジネスモデルへ変革させていく方針です。
3)人材の育成及び社内環境整備に関する方針、戦略
当社の成長戦略を実現するためには、高度な専門的知識、技能及び経験を有する、多様な人材の確保及び育成が不可欠だと考えております。これを維持・向上するために基本的な人事施策の確実な実施を行っております。具体的には、勤務開始時間の選択制度などの社員がワークライフバランスを実現しやすい制度やインセンティブ制度等の人材確保のための各種制度の整備並びに社内外の機会を捉えた社員教育を行っております。
今後も人材の育成に努めるとともに、より働きやすい環境の実現や社内制度の改善に向けての取り組みも推進してまいります。
当社ではサステナビリティ関連のリスク及び機会を、その他経営上のリスク及び機会と一体的に監視及び管理しております。詳細は、
人材の育成及び社内環境整備に関する方針に係る指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績
当社は、多様な人材の確保及び育成並びに社内環境整備について、現時点では定量的な指標や目標は設定しておりません。今後、達成に向けて進捗を注視していくとともに、指標や目標の設定要否についても引き続き検討する予定です。
また、当社は、経営陣が社員と定期的に面接を実施し、各社員が日常業務の中で感じていることのヒアリングを行うとともに、人材獲得や育成方針、また労働環境等について意見交換を実施し、より働きやすい環境の実現や社内制度の改善に向けての取り組みも推進しております。
当社の事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を与える可能性のあるリスク要因には、以下のようなものがあります。
当社は、これらのリスク発生の可能性を認識した上で発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針でありますが、本株式に関する投資判断は本項及び本項以外の記載事項を慎重に検討した上で行われる必要があると考えられます。
なお、文中の将来に関する事項は、別段の表示がない限り、本書提出日時点において、当社が判断したものであります。
創薬事業における研究開発について
当社が行う医薬品及び検査薬の研究開発は、その期間が長期にわたり、コストも高額であります。
当社は、保有するパイプラインにおいて初期の臨床試験までの開発を効率的に進めることに注力し、そこで得られた有効性と安全性のデータを以って製薬企業へのライセンス契約締結を実現することを基本的な事業活動と位置付けています。また、政府など各種の補助金を利用して経費を下げるとともに、ライセンス契約締結後の後期臨床試験以降の開発費用はライセンス先の拠出となることで、当社が負担する開発コストを最小限に抑えるとともに、契約一時金収入及びマイルストーン収入を確保することで、新規パイプラインへの再投資が実現することを事業サイクルとしております。
しかしながら、万一、ライセンス契約締結及び維持に支障が発生した場合は、当社の事業収入が減少し、新規パイプライン開発への再投資が困難になる可能性があります。また、ライセンス対象となるパイプラインの開発費用をライセンス先が負担しないため、当社に発生する多大な研究開発費負担が当社業績を圧迫し、結果として開発の大幅な遅れや開発中止といった事態に及んだ場合、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
当社が開発する医薬品及び検査薬のパイプラインにおいて、安全性や有効性の評価に問題が発見された場合は、開発が大幅に遅れる可能性もしくは開発そのものを中止する可能性があります。
当社は、保有するパイプラインの安全性及び有効性の評価を確実なものとするために、
ⅰ) 科学評価顧問等のネットワークを最大限活用したパイプライン価値の適正な評価
ⅱ) 非臨床・前臨床段階における徹底的な安全性及び有効性の検証
ⅲ) PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)やFDA(米国食品医薬品局)等の監督官庁との治験申請の事前ミーティング
等を実施し、パイプラインの安全性及び有効性評価のための情報をより効率的に収集できるように努めております。また、臨床試験の実施に当たっては、臨床試験のモニタリングを委託するCRO(受託臨床試験機関)と綿密なコンタクトを取り、常に最新の臨床現場情報を収集するとともに、医学専門家を交えたSRB(安全性評価委員会)を設置する等、臨床試験の安全な実行に対して最大の努力を図っております。さらに、治験保険への加入による損害賠償リスクの移転を図っております。
上記のような対策を行ってはおりますが、予期せぬ副作用による開発の遅滞・中止のリスクを完全に排除することは困難であり、開発の大幅な遅れや開発中止もしくは国内外の監督官庁の承認が得られないといった事態に及んだ場合、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
医薬品の研究開発における薬機法に基づき、医薬品の前臨床試験においてはGLP(Good Laboratory Practice)、原薬等の製造においてはGMP(Good Manufacturing Practice)並びに、臨床試験においてはGCP(Good Clinical Practice)がそれぞれ定められており、その操作手順やQA/QCが確実に実施されていることが必須条件になっております。
当社は遺伝子組換えウイルス製剤を開発しておりますが、日本においては、2000年に生物多様性条約特別締約国会議で採択された「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(カルタヘナ議定書)」に準拠した国内法「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法)の定めるところに従って開発・製造・販売を行っていく必要があります。当社は、国内のウイルス取扱施設において、文部科学大臣より「遺伝子組換え生物等の第二種使用等をする間に執る拡散防止措置の確認」について確認を得るとともに、日本国内でテロメライシンの臨床試験を実施するために、カルタヘナに関する厚生労働大臣の承認を得ております。また、臨床施設では厚生労働省等の監督官庁への届出及び承認を確認しています。
しかしながら、将来医薬品・ウイルス製造等に関する新たな法律や条例などが制定・施行される可能性があり、それにより当社の事業が何らかの制約を受ける可能性があります。その結果、開発の大幅な遅れや開発中止、或いは販売中止といった事態に及んだ場合、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
当社が推進する創薬事業にかかる技術分野においては、いずれも技術革新及び進歩の度合いが著しく速いと考えられます。当社は、常に最新の技術情報の収集・集積に注力しておりますが、万一、医薬品及び検査薬の競合技術等が、当社の対応の及ばない状況下で格段の進歩を遂げた場合、当社の事業に影響を与える可能性があります。また、当該技術の導入等に多大な費用や時間を要する場合、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
当社の業務領域と完全に一致する企業は国内に見当たりませんが、国内創薬系バイオ企業の研究開発の動向を適宜確認するとともに、海外も含めたウイルス製剤の研究・開発・販売の動向は注視しています。
創薬事業の医薬品開発において本書提出日時点で当社にて把握できている競合品としては、世界の多数企業が腫瘍溶解ウイルスの開発を行っている中、中国が最も先行しており、Shanghai Sunway Biotech Co.,Ltd.(中国)が有する当社と同じ増殖型アデノウイルス製剤Oncorineが、頭頸部がん治療薬として既に上市されております。また、遺伝子改変ヘルペスウイルス製剤Talimogene laherpareovec:T-VEC(Amgen社:米国)が、進行性黒色腫治療薬として2015年10月に米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けるとともに欧州医薬品庁(EMA)の諮問委員会の承認推奨を受けました。これにより、欧米で初めて、ウイルス製剤が医療現場で使用されることとなりました。日本国内では2021年に第一三共株式会社により、遺伝子改変ヘルペスウイルス「デリタクト注」(一般名:テセルパツレブ)が承認されました。
上記以外に、現在、レオウイルスReolysin(oncolytic Biotechnology社:カナダ)、CG-0070(Cold Genesys社:米国)などが開発されています。当社では開発スピードを早め、他社の腫瘍溶解ウイルスとは異なる適応症を目標とすることで特徴を抽出し、差別化を図って参ります。
しかしながら、これらは未だ臨床開発途中であり、将来、医薬品として上市される保証はなく、臨床試験において、重篤な副作用の発生等で競合品と比して差別化が図れないと判断しうるデータを取得した場合、開発中止の可能性や開発遅延の可能性があります。また、将来、他社とのライセンス契約を締結した場合、ライセンス先の開発戦略の変更や契約解消による開発活動の遅延が生じることで、当社の開発計画及び業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また、がん検査薬への開発において、当社が対象としている血中循環がん細胞(CTC)の検出分野では、現在Veridex社(J&Jグループ)のCTC検出機器CellSearchシステムが唯一米国にて薬事承認されており、その後多数の企業によるCTC検査系の開発競争が激化しております。しかしながら、CellSearchをはじめとする競合の多くは、EpCAMと呼ばれる細胞表面マーカーを検出する方法を用いており、その細胞表面マーカーの発現が低いと言われている肺がん細胞等の検出が困難であるという欠点を持っております。
一方、当社のウイルス改変検査薬においては、肺がんや膵臓がんをはじめとするほとんどの種類のがんにおいて、血中で生きた状態のがん細胞を蛍光発光させることが可能であることを確認しており、競合品との差別化ができると考えています。
いずれの開発領域におきましても、本書提出日時点、当社が把握する競合の存在及びその研究開発進捗が必ずしも当社にとって直接マイナスの影響をもたらすものではありませんが、競合品が飛躍的に市場を寡占化した場合等、当社のパイプライン導出や将来のロイヤリティ収入に影響を与える可能性があります。
⑥ アライアンスにかかる事項
当社の収益構造は、当社が研究開発する医薬品並びに臨床検査薬について、その研究開発の進捗に伴って評価された製品的価値の初期評価であるProof of Concept(POC)に基づいて製薬企業等とのライセンス契約を締結し、その対価として契約一時金・研究協力金・開発協力金・マイルストーン収入及び製品の上市以降その販売に伴って発生するロイヤリティ収入等を段階的に見込むものであります。
現時点において、Transposon社とLINE-1阻害剤OBP-601(censavudine)の全世界における開発・製造・販売に関する再許諾権付き独占的ライセンス契約を締結しています。また、テロメライシンの日本国内での販売は、富士フイルム富山化学と販売提携契約を締結しています。
導出前の各パイプラインについては、導出先候補となる製薬企業や検査薬企業等のニーズを考慮し、研究開発の進捗状況を効果的に情報提供する等の活動を続けています。しかしながら、当社のパイプラインが導出先候補企業のニーズを満たす保証はなく、導出に至らない、又は導出契約の時期や条件が当社の想定するものと大幅に乖離した場合等において、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
また、パイプラインを導出した場合、導出後の研究開発・承認申請・製造及び販売活動を導出先企業が行うことになるため、当社の収益は導出先企業の戦略及び開発進捗等に依存することとなります。導出先企業が実施する臨床試験において予期せぬ副作用が発生した場合、及び導出先企業における戦略変更によるポートフォリオの見直し等により、導出済みパイプラインの開発中止等の決定がなされた場合、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
なお、予期せぬ副作用により開発中止された場合を除き、当社は速やかに引継導出先を見つける活動を行いますが、引継導出先が早期に決定しない場合は、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
現在、当社の業務委託先及び提携先については、欧米の企業・機関がその大半を占めております。外貨建取引は、財務諸表上全て円換算しております。これらの項目は、現地通貨における価値が変化しなかった場合も、換算時のレートによって円換算後の価値が影響を受ける可能性があります。
為替相場の変動に起因する影響を軽減するために、必要に応じて為替予約などのリスクヘッジを行って参りますが、これによって全てのリスクを回避することは困難であり、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
当社は、本書提出日時点において、当社の事業に対する特許権等の知的財産権に関する第三者との間での苦情及び訴訟等といった問題は認識しておりません。さらに、社内に知的財産権の専任担当者を設置するとともに、顧問弁護士及び弁理士との連携を以って可能な限り特許侵害・被侵害のリスクを軽減すべく活動しております。また、発明者、TLO法に基づく大学等の知的財産管理機関、企業及び研究機関から、「特許権又は特許を受ける権利」を正当に譲り受け、又は「実施権の許諾」を受け、事業化が推進できる体制を築いております。
しかし、当社の展開する医薬品・検査薬の一般的なリスクとして、自社で出願した特許以外にも第三者特許が関連する可能性があります。なお、今後、当社が第三者との間で係争に巻き込まれた場合、当社は弁護士や弁理士との協議の上、その内容に応じて対応策を検討していく方針でありますが、係争の解決に労力、時間及び費用を要する可能性があり、その場合、当社の財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。また、将来的な事業展開においては、他社が保有する特許権等への抵触により、事業上の制約を受けるなど、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
主力パイプラインにかかる主要な特許の状況は以下のとおりです。
当社における職務発明の取扱に関しては、取締役・従業員が協議の上、取締役会決議により「職務発明規程」を作成し、運用しております。しかしながら、将来、発明者の認定及び職務発明の対価の相当性についての係争が発生した場合、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
当社の経営上重要と思われる契約の概要は、「第2 事業の状況 5 経営上の重要な契約等」に記載のとおりであります。当該契約が期間満了、解除、その他の理由に基づき終了した場合、もしくは当社にとって不利な改定が行われた場合、又は契約の相手方の経営状態が悪化したり、経営方針が変更されたりした場合には、当社の事業戦略及び業績に影響を与える可能性があります。
当社の事業活動においては、当社代表取締役社長である浦田泰生の製薬企業での経験・知識に基づく研究開発及び事業開発戦略に依るところが多く存在しております。浦田泰生の経営ビジョンを、企業理念・経営戦略として明確化して組織に浸透させること、及び後継者育成に専心し、浦田泰生に一元依存しない体制を構築することに努めております。
しかしながら、組織強化や後継者育成が遅れをきたし、事業承継が円滑に実施できない場合には、それにより当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
当社は、小規模な組織であり、社内における管理体制についてもこの規模に応じたものとなっております。当社においては、業務上必要な人員の増員及び育成等を図っていく方針でありますが、各部門において従業員に業務遂行上の支障が生じた場合、人財流出が生じかつ代替要員の不在等の問題が生じた場合には、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
当社が成長を続けていくために不可欠な要素の1つが、優秀な人財の確保であります。
当社はアウトソーシングを活用したファブレス経営モデルを構築することで、必要人員の絶対数を削減し、統括的なプロジェクトマネジメント能力を有する人財を重点的に確保しつつ、将来当社を担う人財の育成に注力しております。
また、経営理念を社内に浸透させ、その崇高な目的に共感できる従業員を育成すること、トップが率先して基幹人財間のコミュニケーションの充実に関与すること、及び社内の評価制度や人事制度を充実させること等により、社内人財の定着率向上に努めております。
しかしながら、人財育成が円滑に進まない場合、又は各部門において中心的役割を担う特定の従業員が万一社外に流出した場合、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
① 研究施設における事故等の発生にかかる事項
当社は、神戸リサーチラボを保有しております。同施設で遺伝子組み換えウイルスを検査薬として取り扱うにあたっては、いわゆるカルタヘナ法の定めに基づき、必要な設備を監督官庁に届け出てその確認を受けております。また、遺伝子組み換えウイルスの取扱に関して、遺伝子組換え実験等安全委員会を設置して、その管理を徹底させ、社員の教育指導に努めております。しかしながら、何らかの要因により火災や環境汚染事故等が発生した場合には、重大な損失を招くリスクがあり、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
② 自然災害等にかかる事項
当社は、東京都港区に本社を設置しており、事業活動に関わる資料・データ及び人員の半数以上が本社に集中しております。万一、首都圏直下型の大型地震の発生・台風・津波等の自然災害や大規模な事故・火災・テロ行為等により本社社屋の倒壊、資料・データの散逸、人員の死傷等不測の事態が発生した場合や、有効な治療薬がない感染症等のパンデミックが発生した場合には、当社の事業活動及び国内外において進めている臨床試験の停滞や継続が困難となる状況が生じ、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
③ 訴訟にかかる事項
当社は知的財産権及びその実施権をビジネスの基盤としておりますため、事業を展開する上で、当社の責任の有無に関わらず、第三者から権利又は利益を侵害したとの主張による損害賠償請求訴訟を提起される可能性があります。また、臨床試験において被験者の健康被害が発生した場合、取引関係や労使関係において不測のトラブルが発生した場合等においても、損害賠償請求等の訴訟を提起される可能性があります。当社では、十分な知的財産権の管理や治験保険への加入等リスクの回避・低減に努めております。しかしながら、訴訟が提起された結果、金銭的負担の発生や当社に対する信頼・風評の低下により、当社の事業、財務状況及び業績に影響を与える可能性があります。
(6) その他
① 新株予約権及び株式にかかる事項
当社は役員、従業員及び社外協力者等に対して、当社事業及び研究開発へのモチベーションの向上を目的として、新株予約権(ストック・オプション)の発行や譲渡制限付株式を交付する株式報酬制度を導入し、事業会社や金融機関等に対して、事業推進のための資金調達を目的として株式や新株予約権を発行しています。また、役員及び従業員に対して、譲渡制限付株式を発行しています。今後も優秀な人財・社外協力者の確保や事業推進のための資金調達を目的として、同様の施策を実施する可能性があります。これらの新株予約権の行使や株式発行が行われた場合には、当社の1株当たりの株式価値は希薄化し、当社株価形成に影響を与える可能性があります。また、今後も優秀な人財の確保のためにストック・オプションをはじめとするインセンティブプランや必要に応じた資金調達を実施するために、新たな新株予約権や株式が発行される可能性があります。なお、新株予約権の状況及び内容につきましては、「第4 提出会社の状況 1.株式等の状況 (2) 新株予約権等の状況」をご覧ください。
② 資金使途及び資金調達にかかる事項
当社が保有する資金は、主に既存パイプラインの研究開発費用、新規パイプラインの導入及びその研究開発費用、戦略的な投資に充当する考えです。当社が本書提出日時点で計画している資金使途は上記のとおりですが、急激な事業環境の変化等により、計画どおりに使用した場合においても、当初の想定どおりの成果が得られない場合があります。
また、当社株価が下落した場合には、必要資金を計画どおりに調達できない可能性があります。計画どおりに必要資金を調達できない場合には、資金使途を変更する可能性があるとともに、当初の想定どおりの成果を得られない可能性があります。
当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
① 財政状態及び経営成績の状況
当事業年度におけるわが国経済は、2023年12月日銀短観での大企業業況判断Diffusion Index(以下、「DI」)が製造業・非製造業とも市場予測を上回り、幅広い業種で業況判断DIが上昇し良好な結果が示されました。一方で、イスラエル内戦や欧米の政策金利引き上げによる急速な円安進行など、国内外の不安定な状況は今後も継続する見通しのようです。
このような状況下、当社は「未来のがん治療に新たな選択肢を与え、その実績でがん治療の歴史に私たちの足跡を残してゆくこと」をビジョンとし、経営の効率化及び積極的な研究・開発・ライセンス活動を展開いたしました。
特に、がんのウイルス療法テロメライシン(OBP-301)を中心に研究・開発・ライセンス活動を推進させています。また、LINE-1阻害剤OBP-601(censavudine)は、Transposon Therapeutics, Inc.(以下「Transposon社」)とのライセンス契約の下、同社の全額費用負担により臨床試験が進められています。
当社活動の詳細に関しては、「第2 事業の状況 6.研究開発活動」をご確認ください。
以上の結果、当事業年度の財政状態及び経営成績は以下のとおりとなりました。
a.財政状態
当事業年度末における資産は、現預金の減少等により2,040,598千円(前期比23.0%減)となりました。負債は、未払金の増加や長期借入金の借入れ等により566,500千円(前期比15.2%増)となりました。純資産は、新株発行による増資や当期純損失等により1,474,097千円(前期比31.7%減)となりました。
b.経営成績
当事業年度は、売上高63,038千円(前期は売上高976,182千円)、営業損失1,929,986千円(前期は営業損失1,204,506千円)を計上しました。また、営業外収益として受取利息1,475千円、為替差益27,598千円等を計上し、営業外費用として支払利息3,602千円、株式交付費8,777千円等を計上し、経常損失1,913,816千円(前期は経常損失1,163,008千円)になりました。さらに、固定資産売却益136千円を特別利益、当社が保有するテロメライシンに関する分析装置等の減損損失21,898千円を特別損失として計上した結果、当期純損失1,938,505千円(前期は当期純損失1,148,938千円)を計上しました。
当事業年度末における現金及び現金同等物は、1,287,763千円(前期比12.2%減)となりました。当事業年度における各キャッシュ・フローは次のとおりです。
営業活動によるキャッシュ・フローは1,336,922千円の支出(前期は1,717,135千円の支出)となりました。これは主として、税引前当期純損失1,935,578千円、減損損失21,898千円の計上、前払金の減少223,713千円、未収入金の減少123,411千円、未払金の増加132,727千円等によるものです。
投資活動によるキャッシュ・フローは5,392千円の支出(前期は20,117千円の収入)となりました。これは、主に有形固定資産の取得による支出5,686千円等によるものです。
財務活動によるキャッシュ・フローは1,142,542千円の収入(前期は113,830千円の支出)となりました。これは主に株式の発行による収入1,223,450千円、長期借入れによる収入100,000千円、長期借入金の返済による支出194,444千円、リース債務の返済による支出4,540千円等によるものです。
該当事項はありません。
該当事項はありません。
当事業年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。なお、当社は、創薬事業の単一セグメントであるため、セグメント別の販売実績の記載は省略しております。
(注) 1.当事業年度において、販売実績に著しい変動がありました。これは、中外製薬株式会社とのテロメライシンのライセンス契約が2022年10月に終了したためであります。
2.最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日時点において判断したものであります。
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されております。この財務諸表の作成にあたり、見積りが必要な事項につきましては、一定の会計基準の範囲内にて合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っております。
② 当事業年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当事業年度の経営成績等の状況については、上記「(1)経営成績等の状況の概況」をご参照ください。
当社は、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおり、創薬バイオ企業として研究開発先行型の事業を展開しており、独自性の高い遺伝子改変ウイルスによるがん治療薬、重症ウイルス感染症治療薬及びがん検査薬などの開発と事業化を推進しています。特に、ウイルスの増殖能力を利用してがん細胞を殺す「がんのウイルス療法」と、ウイルスの増殖を止めて治療を行う「重症ウイルス感染症治療薬」を事業領域とし、ウイルスを軸にした業界でも類を見ない『ウイルス創薬』を展開して参りました。また、これまでHIV感染症治療薬として開発してきたOBP-601は、そのメカニズムを基に応用を拡大して神経難病治療薬としての開発が進められています。今後も、各パイプラインの製薬企業へのライセンス活動を推進して商業化を早め、さらに新規パイプラインの創製にも取り組んでゆく方針です。
当事業年度では、テロメライシンの日本国内での承認申請を目的とした臨床試験の組入れを完了させ、商用製造の基礎となるGMP製造を推進させました。さらに、テロメライシンの承認申請に向けて、日本国内での販売提携パートナーの獲得に向けたビジネス活動を進め、2024年2月に富士フイルム富山化学と販売提携契約を締結し、製造販売体制の確立に向けた活動を進めました。また、OBP-601のライセンス先であるTransposon社による神経難病患者を対象とした臨床試験が進みました。
当社の経営に影響を与える大きな要因としては、1)研究開発の進捗度合い、2)ウイルス製剤の製造、3)ライセンスや販売提携に伴う資金獲得、4)医薬品市場動向及び5)為替動向等が挙げられます。
1) 研究開発については、特に臨床試験では適格な症例を組み入れることがその試験の成功を左右させる大きな要因となります。当社の開発方針はUnmet Medical Needs(治療法が確立されていない医療領域)を対象に臨床開発を展開しており、対象症例が非常に希少であるために臨床試験の症例組み入れが予想よりも遅延する可能性があります。そのために臨床試験受託会社(CRO)を的確にオペレーションし、臨床試験担当医師との情報交換を頻度高く行うなどの努力を最大限行って臨床試験の質とスピードを向上させることを重要視しています。
2) ウイルス製剤の製造においては、テロメライシンの商用製造に向けて原薬及び製剤をHenogen社(ベルギー)に委託しています。これまでに商用に向けての製造開発が実施され、スケールアップが行われてきました。今後、商用製造に移行していく計画ですが、ウイルス製造は未だ確立された方法論がなく、試行錯誤の連続になります。ウイルス製造には大きな費用が掛かり、さらに品質試験や安定性試験にも時間と費用を要します。これらの遅延又は失敗により、テロメライシンの承認申請時期を大幅に遅らせる可能性があります。このような状況を防ぐために、当社ではウイルス製造時に当社製造担当者を派遣し、製造受託企業スタッフと綿密な情報交換を行い、当社神戸リサーチラボにおいても補足的検討を即時的に行い、効率的かつ高品質なウイルス製剤が製造できるよう努めています。
3) ライセンス契約や販売提携契約に関しては、研究開発の大幅遅滞や失敗、医療行政の変動、競合薬の進展などのリスクに加え、契約締結先の経営戦略変更により契約が解消されるリスクなどが挙げられます。これらのリスクを回避・低減するため、契約条件をより当社に有利にできるよう、過去の契約事例を参照して不足事項を補い、コンサルタントや弁護士の助言を最大限に活用し、より良い契約が完遂できるよう努力していきます。
4) 市場動向については、国内外の大手製薬会社やバイオ企業との熾烈な研究開発競争が今後も展開され、がん治療の標準的治療法が年々変更される時代となったために、マーケット調査を強化して将来を見据えた開発方針を立てる必要があります。常に競合情報やマーケット情報をキャッチアップできるよう、国内外の情報収集に努めてゆきます。
5) 為替動向に関しては、当社の海外における臨床試験や製造などが主に外貨建てで行われているという理由により、経営成績が大きく影響を受けるため、為替変動リスクを最小限に抑える必要があります。今後は外貨建て収入を増加させることで、外貨建て債務に係る為替リスクの低減を図っていきます。
このような中で、当社はグローバル市場におけるリスク対応力の高い人財を育成し、「ウイルス創薬」という新しい業態において名実ともに存在感のある企業として成長していくために、収入増大による経営基盤の強化を図り、企業統治を高度化していきます。
③ 資本の財源及び資金の流動性
a.資金需要
当社の事業活動における運転資金需要の主なものは、医薬品及び検査薬の研究開発に伴う研究開発費、各種ライセンス契約や戦略的アライアンス契約に伴う特許関連費、各事業についての一般管理費があります。また、設備・投資資金需要としては、各種機器や戦略的投資に伴う固定資産投資等があります。
b.財務政策
当社は事業活動の維持拡大に必要な資金を、ライセンス契約や販売提携による一時金やマイルストーン収入のみならず、商業化によるロイヤリティー収入や製品販売収入を軸とした事業収入によって確保することを第一に考え、内部資金を活用し、必要に応じて資本市場からの資金調達を行っています。また、運転資金及び設備・投資資金は、当社において一元管理しています。
「ウイルス創薬」による医薬品や検査薬の研究開発という成果を実現させるまでには、相対的に時間を要する事業を行っているために、資本性の高い長期資金を得ることで、資金特性のバランスを考慮しています。
(1) 当社が開発許諾を受けたライセンス契約
当社の当事業年度における研究開発費は、
なお、当事業年度における研究開発活動の状況は以下のとおりです。
2023年12月31日現在、研究開発部門は19名在籍しており、これは総従業員数の47.5%に当たります。
(2) 研究開発並びにビジネス活動について
当社は、以下のプロジェクトを中心に研究開発並びにビジネス活動を進めました。
① がんのウイルス療法テロメライシン(OBP-301,国際一般名称:suratadenoturev)に関する活動
テロメライシンは、日本国内で厚生労働省より再生医療等製品の「先駆け審査指定」を受けて「放射線併用による食道がんPhase2臨床試験」を実施し、2023年10月に専門委員会を経てトップラインデータを開示しました。この結果を基に、2024年の国内でのテロメライシンの新薬承認申請に向けたPMDAとの折衝を行う計画です。テロメライシンの供給面では、商用スケールのウイルス製造開発を進め、2023年11月にプロセスバリデーションの製造を開始し、2024年には商用製造を行う計画です。また、2023年12月には三井倉庫ホールディングス株式会社(以下、「三井倉庫HD」)とテロメライシンの国内製造所に関する契約を締結しました。さらに、テロメライシンの製造販売体制の整備を進め、2024年2月には富士フイルム富山化学とテロメライシンの販売提携契約を締結しました。この結果、ベルギーのヘノジェン社で製造したテロメライシンを日本国内へ輸入し、国内製造所である三井倉庫HDで最終製品化し、富士フイルム富山化学を通じて医療現場へ届けるサプライチェーンが構築できました。
一方、海外では、米国における胃がんを対象としてテロメライシンと免疫チェックポイント阻害剤ペムブロリズマブの共同開発体制を構築するために、コーネル大学と当社、並びにコーネル大学とメルク社の間で、2023年12月に契約が締結されました。本治験はPhase2医師主導治験、当社とメルク社で研究開発費を折半し、2024年から投与が開始される計画です。
現在、テロメライシンは、組入れが終了した臨床試験も含めて、以下の4つの臨床試験が国内外で進められています。
i) 放射線併用食道がんPhase2臨床試験
ii) 抗PD-1抗体ペムブロリズマブ併用胃がん・胃食道接合部がんPhase2医師主導治験
iii)免疫チェックポイント阻害剤併用セカンドライン胃がん・胃食道接合部がんPhase2医師主導治験
iv) 放射線化学療法併用食道がんPhase1医師主導治験
上記i)の「放射線併用食道がんPhase2臨床試験」は、2019年4月の「先駆け審査制度」の指定に基づき全国17か所の治験実施施設で進められ、2023年10月にトップラインデータを開示しました。なお、同トップラインデータの主な結果は、以下のとおりです。
1)有効性
主要評価項目である「局所完全奏効率」(L-CR率)は、内視鏡中央判定委員会の評価により41.7%(小数点以下第2位四捨五入。以下同様。)と示されました。この結果は、事前に試験計画書に示された有効性閾値30.2%を上回る結果であることが確認されました。また、副次的評価項目として規定された「局所著効率」(L-RR率。原発巣は完全に消失しなかったものの、著明に縮小が認められた症例)は16.7%を示し、このL-RRを含めた「局所奏効率」([L-CR+L-RR]率)は58.3%を示しました。
さらに、本試験でのデータカットオフ時点での1年生存率は71.4%となり、「食道学会全国登録データ」による放射線単独治療での1年生存率57.4%を上回る成績でした。
2)安全性
テロメライシンと関連性のある主な副作用は、発熱が51.4%、リンパ球数減少又はリンパ球減少症が48.6%に認められましたが、軽度ないしは中等度又は一過性の変化でした。
なお、本臨床試験の結果の解釈に関しては、本試験の専門委員会(治験調整委員会、効果安全性評価委員会、内視鏡中央判定委員会、放射線品質管理委員会、医学専門家、生物統計専門家)の同意も得ています。
上記のトップラインデータ結果を受けて、現在当社は2024年に日本国内でテロメライシンの新薬承認申請を行うべく、PMDAと非臨床試験・臨床試験・製造等に関する事前相談を進めています。
テロメライシンのサプライチェーンに関しては、テロメライシンの新薬承認申請に向けて、ベルギーのヘノジェン社で商用製品製造の開発を進めています。2023年11月にプロセスバリデーションを開始し、承認申請を行う2024年には商用製造を開始する計画です。また、2023年12月に、当社はテロメライシンの製剤を最終包装し保管などを担う国内製造所として、再生医療等製品の取扱いなど先端医療に関する物流分野においても豊富な経験があり、再生医療等製品における品質確保のための知見と実績を有する三井倉庫HDと契約を締結しました。2023年6月にはユーロフィン分析科学研究所(京都市)と契約し、当社の神戸リサーチラボとともに、テロメライシンの最終出荷判定に必要とされる品質試験のバリデーションを開始しています。さらに、最終出荷可能と判定されたテロメライシンを国内で効率的に医療現場へ届けるために、富士フイルム富山化学と2024年2月に販売提携契約を締結しました。
これらの契約により、テロメライシンの海外から国内医療機関までのサプライチェーン全体に対して、高品質かつ安定的に供給できる流通体制の構築を進めていきます。
また、当社は富士フイルム富山化学との販売提携契約の有無にかかわらず、日本国内へテロメライシンを出荷する製造販売業者に位置付けられます。製造販売には、テロメライシン自体の品質・有効性並びに安全性に関する薬事承認審査以外に、東京都から「GQP(Good Quality Practice:品質管理の基準)」及び「GVP(Good Vigilance Practice: 製造販売後安全管理の基準)」への適合性などの要件に関する審査を受け、再生医療等製品製造販売業の許可を得る必要があります。
当社は、2024年1月に総括製造販売責任者・品質保証責任者・安全管理責任者の製販三役の採用を完了し、「信頼性保証本部」を立ち上げました。今後、GQP及びGVPに適合した体制をさらに整備した上で、当社がテロメライシンの市場への出荷に対し品質保証業務及び安全管理業務に関する最終責任を担う能力を持つことをもって東京都に申請し、テロメライシンの承認申請までに再生医療等製品製造販売業の許可を受ける方針です。
上記ii)の「抗PD-1抗体ペムブロリズマブ併用胃がん・胃食道接合部がんPhase2医師主導治験」は、過去に治療歴のある最も重症度が高い患者を対象に、テロメライシンと抗PD-1抗体ペムブロリズマブを併用した場合の有効性及び安全性の評価を行うことを目的として、2019年5月から米国コーネル大学を中心に開始されました。これまでに組入れた16例のうち3例で長期生存が確認され、この結果は本試験の有効性を示す基準を満たす結果と判断されました。本治験の中間解析結果は、米国コーネル大学のマニッシュ・シャー医師により2023年6月に開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO2023)や2023年11月の米国がん免疫療法学会(SITC2023)で発表されました。
上記iii)の「免疫チェックポイント阻害剤ペムブロリズマブ併用セカンドライン胃がん・胃食道接合部がんPhase2医師主導治験」は、米国コーネル大学が当社の事前合意を得た上で、メルク社へ新たな治験の実施や治験費用の負担を提案し、2023年12月には、当社とコーネル大学の契約、コーネル大学とメルク社の契約が締結され、共同開発体制が構築されました。今後、当社はテロメライシンを、メルク社は免疫チェックポイント阻害剤ペムブロリズマブをコーネル大学に提供します。また、治験費用は当社とメルク社で折半します。なお、本治験は2024年から投与が開始される見込みです。
上記iv)の「放射線化学療法併用食道がんPhase1医師主導治験」は、米国の権威あるがん研究組織NRGオンコロジーグループにより、テロメライシンと放射線化学療法を併用した際の安全性と有効性の検討を目的として2021年12月から開始されました。アメリカ国内6施設で実施されており、第一段階の全6例の組み入れが完了し、第二段階では4例が投与されています。これまでに問題となるような副作用は報告されていません。テロメライシンは米国において食道がんのオーファンドラッグ指定を受けており、同指定の下、本治験は実施されています。そのため、補助金の支給や臨床研究費用の税額控除の優遇を受けることができ、さらに、米国においてテロメライシン承認後の7年間は先発権保護が与えられ、その期間中は市場独占権が得られることになっています。
②LINE-1阻害剤OBP-601(censavudine)に関する活動
2006年にYale大学から導入したOBP-601は、2010年から2014年にかけてBMS社へライセンスし、抗HIV薬としてBMS社によりPhase2b臨床試験が実施され、OBP-601の既存薬との非劣性が示されました。また、BMS社によって、OBP-601の長期毒性試験、がん原性試験や多くの臨床データが得られましたが、BMS社が戦略変更によりHIV領域から撤退したため、ライセンス契約は終了しました。その後、ブラウン大学(米国)の研究成果から、HIVの核酸系逆転写酵素阻害剤(以下「NRTI」)がレトロトランスポゾンの異所性発現を抑制することが示唆されました。その後の研究により、同作用を持つOBP-601が他のNRTIと比べて脳内移行性が高く、またLINE-1という逆転写酵素を強力に阻害してレトロトランスポゾンの産生を強力に抑制するという特長が確認されました。
このメカニズムに着目してOBP-601を神経難病治療薬へ応用しようと計画していたTransposon社との間で、当社は2020年6月に全世界を対象とした総額3億ドル超のライセンス契約を締結し、同年11月にTransposon社は第1回マイルストーンを達成しています。
現在、Transposon社によって「進行性核上性麻痺(PSP: Progressive Supranuclear Palsy)」とC9 ORFという酵素の異常発現を伴った「筋萎縮性側索硬化症(ALS: Amyotrophic Lateral Sclerosis)及び前頭側頭型認知症(FTD: Frontotemporal Degeneration)」を対象としたプラセボを用いた二重盲検法による2つのPhase2a臨床試験が欧米の多施設で進められています。また、2023年7月にアイカルディ・ゴーティエ症候群(AGS: Aicardi-Goutières Syndrome)を対象にした欧州での単群のPhase2a臨床試験の投与が開始されました。
PSPを対象とした臨床試験は2021年11月に1例目への投与が開始され、2022年8月に目標症例数の組入れが完了しました。当社はTransposon社から中間解析結果の報告を受けましたが、その主な内容は下記のとおりです。
① OBP-601がPSP患者の脳脊髄液中のニューロフィラメント軽鎖(以下、「NfL」)の上昇を抑制させることが示唆された。
② OBP-601は、脳脊髄液中で神経炎症のバイオマーカーであるIL-6 を低下させることが示唆された。
③ 現在までに、本臨床試験で試験を中止するような安全性上の問題は報告されていない。
当社は上記のTransposon社からの上記の報告を受け、以下のような考察を行っています。
① OBP-601は、血液中ではなく「脳脊髄液」中のNfL値の上昇を抑制させました。この結果はOBP-601が直接中枢神経系の神経損傷を軽減させたと考えられます。
② OBP-601は、脳脊髄液中で神経炎症のバイオマーカーである IL-6 を低下させました。この結果は,OBP-601がLINE-1を阻害することによって神経組織の炎症を抑制していると考えられます。
③ 脳脊髄液中のこれらバイオマーカーの変化により、臨床においてもOBP-601が脳内に移行して効果を示すことが示唆されました。
なお、これらの結果は2024年3月に開催されるAD/PD 2024(国際アルツハイマー病・パーキンソン病学会)にて発表される予定です。
また、C9 ALS/FTDを対象とした臨床試験も2022年1月に投与が開始されました。2023年3月に目標症例数の組入れが完了し、現在組み入れ患者の長期フォローアップを行っています。現在までに、本臨床試験で試験を中止するような安全性上の問題は報告されていません。
さらに、Transposon社は、AGSという小頭症や高度な精神発達遅滞等を呈する遺伝性疾患を対象に、2023年7月に新たなPhase2a臨床試験の投与を欧州で開始しました。現在までに、本臨床試験で試験を中止するような安全性上の問題は報告されていません。
これらのOBP-601に関する臨床試験は、ライセンス契約に基づき全額Transposon社の費用負担で進められています。なお、Transposon社はOBP-601の開発を目的に設立された企業であり、当社は、Transposon社が戦略変更を理由にOBP-601の開発を中断するリスクは低いと考えています。
③次世代テロメライシンOBP-702に関する活動
OBP-702は、強力な生体内がん抑制遺伝子p53をベクター内に搭載する新規腫瘍溶解ウイルスで、「がん遺伝子治療」と、テロメライシンの持つ「腫瘍溶解作用」を組み合わせた2つの抗腫瘍効果を持つ第二世代のウイルス療法です。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の助成金事業を活用して、岡山大学消化器腫瘍外科学・藤原俊義教授の研究グループにより非臨床試験が進められました。特に、ゲムシタビン耐性すい臓癌細胞株のマウスモデルを用いた実験においては、PD-L1抗体を併用することでより強い抗腫瘍効果が確認されています。また、がん治療で問題となっているがん組織の間質系細胞(CAF : Cancer Associated Fibroblast)に対しても殺傷効果を示すことが示されており、今後、間質系細胞によって治療が困難と考えられているすい臓がんなどの難治性がんに対する新しい治療法として開発していくことが期待されます。なお、2024年に承認申請を目指すテロメライシンへ経営リソースを集中させるために、OBP-702の開発は助成金の範囲内で継続していく予定です。
④ウイルス感染症治療薬OBP-2011に関する活動
当社は、OBP-2011がヌクレオカプシド形成を阻害する新規メカニズムを有する化合物であることを実験結果から推定していますが、現段階ではその詳細なメカニズムは解明されていません。OBP-2011はすでに承認されているコロナ治療薬の主なメカニズムであるポリメラーゼ阻害やプロテアーゼ阻害とは異なるメカニズムであることが推察されており、コロナウイルスの様々な変異株に対して効果が左右されないというデータが得られています。しかし、新型コロナ治療薬の承認ハードルが上昇していること、並びに新型コロナ治療薬の複数上市による緊急性の低下などの外部環境の変化や、2024年に承認申請を目指すテロメライシンへの経営リソース集中により、開発方針を見直す必要性が生じました。今後は、鹿児島大学と詳細なメカニズム解明を行った上でコロナウイルス以外のRNAウイルスに対する新規適応を検討し、新たなパンデミックに対応できる体制を維持していく考えです。
⑤がん検査薬テロメスキャン(OBP-401)に関する活動
テロメスキャンは、がん患者の血液中を循環している生きたがん細胞(CTC:Circulating Tumor Cells)の検査自動化プラットフォームの確立を目的に、順天堂大学と共同研究講座「低侵襲テロメスキャン次世代がん診断学講座」を2021年6月に開設いたしました。しかし、AIによる画像学習のためには多くの画像取得が必要であり、当初計画と比較して画像取得に時間を要しているため、順天堂大学との開発進捗は遅延しています。なお、2024年に承認申請を目指すテロメライシンへ経営リソースを集中させるため、優先順位は引き下げています。
⑥HDAC阻害剤OBP-801に関する活動
2009年にアステラス製薬株式会社から導入したヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤であるOBP-801は、各種固形がんを対象とした米国でのPhase1臨床試験で用量制限毒性(DLT:Dose Limiting Toxicity)が発生し、推定有効量までの投与量の増量が不可能となったため、がん領域の開発を中断しました。なお、OBP-801は2023年9月に日本国内での分子標的併用腫瘍治療・予防薬としての特許査定を受けています。
一方、新規適応領域である眼科領域では、京都府立医科大学眼科学教室の実験において、緑内障手術を行った際に形成される濾過胞の線維化抑制作用が認められ、2023年4月の日本眼科学会や2023年4月に開催されたARVO(視覚と眼科学研究協会学会)で研究結果が発表されました。今後は点眼剤での開発が期待されています。なお、2024年に承認申請を目指すテロメライシンへ経営リソースを集中させるため、優先順位は引き下げています。
主なパイプラインの開発状況は、以下のとおりです。