第2 【事業の状況】

 

1 【事業等のリスク】

当中間会計期間(2024年1月1日2024年6月30日)において、当半期報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクの発生又は前事業年度の有価証券報告書に記載した「事業等のリスク」についての重要な変更はありません。

 

2 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

文中の将来に関する事項は、当中間会計期間の末日現在において判断したものであります。

 

(1) 業績の状況

当中間会計期間(2024年1月1日2024年6月30日)における日本経済は、大手企業を中心とした価格転嫁の進展や半導体生産の回復などを背景に前向きな見方が2024年6月の日銀短観で示されるなど、景気回復の改善傾向が見られました。一方で、円安トレンドは継続しており、原材料コストの増加や想定以上の物価上昇により、2024年春の歴史的な賃上げによる景気改善効果が薄れるリスクが生じています。また、海外経済においても米国大統領選挙動向や欧州右派勢力の躍進などの政治的要因に加えて、ロシアのウクライナ侵攻やイスラエル内戦などのリスク要因も長期化しており、インフレ抑制に向けた金利高止まりによる消費抑制など海外経済の不安定な状況は今後も継続する見通しのようです。

 

このような状況下、当社は「未来のがん治療に新たな選択肢を与え、その実績でがん治療の歴史に私たちの足跡を残してゆくこと」をビジョンとし、特に、がんのウイルス療法テロメライシン(OBP-301)を中心に研究・開発・ビジネス活動を推進させています。また、LINE-1阻害剤OBP-601(censavudine)は、Transposon Therapeutics, Inc.(以下「Transposon社」)とのライセンス契約の下、同社の全額費用負担により臨床試験が実施され、Transposon社のビジネス活動も進んでいます。

当社活動の詳細に関しては、「2 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (7) 研究開発活動」をご確認ください。

 

当中間会計期間の業績は、売上高31,384千円(前年同期は売上高63,038千円)、営業損失793,371千円(前年同期は営業損失900,989千円)となりました。また、営業外収益として、受取利息1,047千円、為替差益48,518千円等を、営業外費用として支払利息2,185千円、譲渡制限付株式報酬償却2,183千円、新株予約権発行費2,310千円、株式交付費2,466千円等を計上した結果、経常損失752,997千円(前年同期は経常損失867,441千円)になり、中間純損失754,868千円(前年同期は中間純損失868,762千円)となりました。

 

(2) 財政状態の分析

当中間会計期間末における資産は、現金及び預金の減少等により1,885,725千円(前事業年度末比7.6%減)となりました。負債は、未払金の減少等により468,723千円(前事業年度末比17.3%減)となりました。純資産は、中間純損失等により1,417,002千円(前事業年度末比3.9%減)となりました。

 

(3) キャッシュ・フローの状況

当中間会計期間における現金及び現金同等物は、前事業年度の1,287,763千円から872,457千円へと415,305千円減少しました。当中間会計期間における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは1,124,153千円の支出(前年同期は451,552千円の支出)となりました。これは主として、税引前中間純損失752,997千円、前払金の増加107,125千円、未収入金の増加82,953千円、未払金の減少147,462千円等によるものであります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは1,184千円の支出(前年同期は748千円の支出)となりました。これは主として、敷金及び保証金の差し入れによる支出1,424千円等によるものであります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは686,458千円の収入(前年同期は45,445千円の収入)となりました。これは主として、長期借入による収入100,000千円、株式の発行による収入638,294千円、長期借入金の返済による支出44,440千円等によるものであります。

 

 

(4) 会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当中間会計期間において、前事業年度の有価証券報告書に記載した「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」中の会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定の記載について、重要な変更はありません。

 

(5) 経営方針・経営戦略等

当中間会計期間において、当社が定めている経営方針・経営戦略等について重要な変更はありません。

 

(6) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

当中間会計期間において、新たな事業上及び財務上の対処すべき課題の発生、又は、前事業年度の有価証券報告書に記載した事業上及び財務上の対処すべき課題について、重要な変更はありません。

 

(7) 研究開発活動

当社の当中間会計期間における創薬事業の研究開発費は、523,975千円となりました。なお、当中間会計期間における研究開発活動の状況は以下のとおりです。

 

1) 研究開発体制について

 2024年6月30日現在、研究開発部門は19名在籍しており、これは総従業員数の50.0%に当たります。

 

2) 研究開発並びにビジネス活動について

当社は、以下のプロジェクトを中心に研究開発並びにビジネス活動を進めました。

 

①がんのウイルス療法テロメライシン(OBP-301,国際一般名称:suratadenoturev)に関する活動

テロメライシンは、日本国内で厚生労働省より再生医療等製品の「先駆け審査指定」を受けて「放射線併用による食道がんPhase2臨床試験」を完了し、国内新薬承認申請に向けたPMDAとの協議を行っています。2024年2月には富士フイルム富山化学株式会社(以下、「富士フイルム富山化学」)とテロメライシンの販売提携契約を締結し、製造元のヘノジェン社(サーモフィッシャーグループ、ベルギー)から治療を行う医療機関に至るサプライチェーンを構築するとともに、上市後の販売体制に関する各種協議を進めています。さらに、再生医療等製品製造販売業の許可を得るための準備も進めており、これにより当社は従来のライセンス依存の単一の事業モデルから、製薬会社型とライセンス型の『ハイブリッド型事業モデル』に移行します。

一方、米国ではテロメライシンとペムブロリズマブの共同開発体制を構築するために、当社とコーネル大学、並びにコーネル大学と Merck Sharp & Dohme LLC. (以下、「MSD社」)の間で、2023年12月にそれぞれ契約を締結しました。本体制に基づき、当社とMSD社は胃がんを対象としたPhase2医師主導治験の研究開発費を折半しています。

 

現在、テロメライシンは、組入れが終了した臨床試験も含めて、以下の3つの臨床試験が国内外で進められています。

 

  i) 放射線併用食道がんPhase2臨床試験(101JP試験)

 ii) 免疫チェックポイント阻害剤併用2次治療胃がん・胃食道接合部がんPhase2医師主導治験

iii) 放射線化学療法併用食道がんPhase1医師主導治験

 

i) 放射線併用食道がんPhase2臨床試験(101JP試験)

本試験は2019年4月の「先駆け審査制度」の指定に基づき全国17か所の治験実施施設で進められま    した。本試験の結果に関しては、治験調整委員会、効果安全性評価委員会、内視鏡中央判定委員会、放射線品質管理委員会、生物統計専門家、並びに医学専門家との協議により以下のように判断されています。これらの結果に基づき、現在当社は国内でテロメライシンの新薬承認申請を行うべく、PMDAと非臨床試験・臨床試験・製造等に関する事前相談を進めています。

 

i-a) 研究開発活動

有効性

主要評価項目である「局所完全奏効率」(L-CR率)は、内視鏡中央判定委員会の評価により41.7%(小数点以下第2位四捨五入。以下同様。)と示されました。この結果は、事前に試験計画書に示された有効性閾値30.2%を上回る結果であることが確認されました。また、副次的評価項目として規定された「局所著効率」(L-RR率。原発巣は完全に消失しなかったものの、著明に縮小が認められた症例)は16.7%を示し、このL-RRを含めた「局所奏効率」([L-CR+L-RR]率)は58.3%を示しました。

さらに、本試験でのデータカットオフ時点での1年生存率は71.4%となり、「食道学会全国登録データ」による放射線単独治療での1年生存率57.4%を上回る成績でした。

本試験における最長追跡期間である18ヶ月時点の局所奏効率は63.9%となり、そのうち局所完全奏功率は50.0%となりました。また、18ヶ月時点での全生存率は53%でしたが、がんに関連した生存率は70%であり、局所奏功例のがん関連生存率は90%となりました。また、食道がん患者のQoL(Quality of Life)評価である嚥下障害は、有症状患者の71%に改善が認められました。これらの結果から、テロメライシンによる食道がん局所への効果が患者の生存率を高めた可能性が示唆されました。

 

安全性

テロメライシンと関連性のある主な副作用は、発熱が51.4%、リンパ球数減少又はリンパ球減少症が48.6%に認められましたが、これらは軽度ないしは中等度、又は一過性の変化でした。

 

i-b) ビジネス活動

テロメライシンの安定供給のために重要なサプライチェーンは、「製造~輸入~出荷」と「富士フイルム富山化学による医療機関への販売」の前工程と後工程に分かれます。また、テロメライシンの販売には、新薬承認以外に当社が再生医療等製品製造販売業者の許可を得る必要があります。

 

製造~輸入~出荷

テロメライシンの新薬承認申請に向けて、ヘノジェン社で商用製品製造及び品質試験法のバリデーションを進めています。テロメライシンの最終製剤において認められた溶液の「にごり」については、その分析及び原因解明が進められ、「にごり」を発生させないような新処方による製剤も確定されました。また、当社の神戸リサーチラボでは、輸入後のテロメライシンの品質試験を実施するためのGCTP体制が進められ、同時に、品質試験の委託先であるユーロフィン分析科学研究所(京都市)では、テロメライシンの出荷判定体制の構築に向けた準備が進められています。出荷判定をクリアしたテロメライシンは、販売提携先の富士フイルム富山化学へ出荷されます。

 

富士フイルム富山化学による医療機関への販売

当社は、最終出荷可能と判定されたテロメライシンを国内で効率的に医療現場へ届けるために、富士フイルム富山化学と2024年2月に販売提携契約を締結しました。テロメライシンは出荷判定後に当社から富士フイルム富山化学へ出荷され、富士フイルム富山化学が指定した医薬品卸会社を通じて医療現場に提供されます。現在、当社は上市後のテロメライシンの円滑な供給のために、富士フイルム富山化学と「一連のサプライチェーンの細部の整備」や「医薬品の上市後には必ず実施しなければならない副作用等の安全性情報収集及び厚生労働省への報告体制構築」など各種協議を行っています。

 

再生医療等製品製造販売業

当社は、日本国内へテロメライシンを出荷する製造販売業者に位置付けられます。従って、当社は本剤の承認申請前に、東京都から「GQP(Good Quality Practice:品質管理の基準)」及び「GVP(Good Vigilance Practice: 製造販売後安全管理の基準)」への適合性などの要件に関する審査を受け、再生医療等製品製造販売業の許可を得る必要があります。

当社は、2024年1月に総括製造販売責任者・品質保証責任者・安全管理責任者の製販三役の指名を完了し、「信頼性保証本部」を立ち上げました。今後、GQP及びGVPに適合した体制をさらに強化していきます。

 

ii) 免疫チェックポイント阻害剤併用2次治療胃がん・胃食道接合部がんPhase2医師主導治験

上記ii)の「免疫チェックポイント阻害剤併用2次治療胃がん・胃食道接合部がんPhase2医師主導治験」は、米国コーネル大学が当社の事前合意を得た上で、MSD社へ新たな治験の実施や治験費用の負担を提案し、2023年12月に当社とコーネル大学の契約、コーネル大学とMSD社の契約が締結され、共同開発体制が構築されました。

本治験は、抗PD-1/PD-L1抗体を含む1次治療に抵抗性のある胃がん・胃食道接合部がん患者を対象に、2次治療としてテロメライシンとペムブロリズマブを併用します。現在、当社とMSD社で費用を折半して投与が進んでいます。

抗PD-1/PD-L1抗体を販売する大手製薬会社にとって、このテロメライシンを併用した胃がんの2次治療が確立された場合には、免疫チェックポイント阻害剤の処方機会が拡大する可能性があります。当社は本治験の結果が、テロメライシンの海外でのライセンス活動に繋がることを期待しています。

 

iii) 放射線化学療法併用食道がんPhase1医師主導治験

上記iii)の「放射線化学療法併用食道がんPhase1医師主導治験」は、米国の権威あるがん研究組織NRGオンコロジーグループにより、テロメライシンと放射線化学療法を併用した際の安全性と有効性の検討を目的として2021年12月から開始されました。アメリカ国内6施設で実施されており、第二段階の組み入れを完了しました。これまでに問題となるような副作用は報告されていません。テロメライシンは米国において食道がんのオーファンドラッグ指定を受けており、同指定の下、本治験は実施されています。そのため、補助金の支給や臨床研究費用の税額控除の優遇を受けることができ、さらに、米国においてテロメライシン承認後の先発権保護が与えられ、その期間中は市場独占権が得られることになっています。

 

②LINE-1阻害剤OBP-601(censavudine)に関する活動

2006年にYale大学から導入したOBP-601は、2010年から2014年にかけてBristol-Myers Squibb Co.(以下「BMS社」)へライセンスし、抗HIV薬としてBMS社によりPhase2b臨床試験が実施され、OBP-601の既存薬との非劣性が示されました。また、BMS社によって、OBP-601の長期毒性試験、がん原性試験や多くの臨床データが得られましたが、BMS社が戦略変更によりHIV領域から撤退したため、ライセンス契約は終了しました。その後、ブラウン大学(米国)の研究成果から、HIVの核酸系逆転写酵素阻害剤(以下「NRTI」)がレトロトランスポゾンの異所性発現を抑制することが示唆されました。その後の研究により、同作用を持つOBP-601が他のNRTIと比べて脳内移行性が高く、またLINE-1という逆転写酵素を強力に阻害してレトロトランスポゾンの産生を強力に抑制するという特長が確認されました。

このメカニズムに着目してOBP-601を神経難病治療薬へ応用しようと計画していたTransposon社との間で、当社は2020年6月に全世界を対象とした総額3億ドル超のライセンス契約を締結し、同年11月にTransposon社は第1回マイルストーンを達成しています。

現在、ライセンス先のTransposon社によって「進行性核上性麻痺(PSP: Progressive Supranuclear Palsy)」とC9 ORFという酵素の異常発現を伴った「筋萎縮性側索硬化症(ALS: Amyotrophic Lateral Sclerosis)及び前頭側頭型認知症(FTD: Frontotemporal Degeneration)」を対象としたプラセボを用いた二重盲検法による2つのPhase2a臨床試験の組入れが完了しています。また、アイカルディ・ゴーティエ症候群(AGS: Aicardi-Goutieres Syndrome)を対象にした欧州での単群のPhase2a臨床試験の組入れが進んでいます。

これらのOBP-601に関する臨床試験は、ライセンス契約に基づき全額Transposon社の費用負担で進められています。また、同ライセンス契約に基づき、Transposon社はビジネス活動を行い、第三者である製薬会社などにOBP-601のライセンスを再許諾(サブライセンス)することが可能です。Transposon社が第三者とOBP-601のサブライセンス契約などのビジネス成果を達成した場合は、Transposon社がサブライセンス先から得た収入の一定割合を、当社がTransposon社から受領します。

なお、Transposon社はOBP-601の開発を目的に設立された企業であり、当社は、Transposon社が戦略変更を理由にOBP-601の開発を中断するリスクは低いと考えています。また、当社はTransposon社のビジネス成果に期待しています。

 

i) PSP Phase2a臨床試験

PSPを対象とした臨床試験は2021年11月に1例目への投与が開始され、2022年8月に目標症例数の組入れが完了しました。Transposon社が、2024年3月に第18回 国際アルツハイマー・パーキンソン病学会(AD/PD2024)で発表した主な内容は下記のとおりです。

① 平均年齢69歳、平均罹病期間3.8年のPSP患者42例がこの試験に組み込まれました。

② 二重盲検試験で実施され、6ヶ月間の投与の後、全症例がOBP-601の400㎎投与に切り替えられて6ヶ月間フォローアップされました。

③ OBP-601はPSP患者に対して忍容性を示し、重篤な副作用は意識消失(1例、100㎎群)でした。

④ 脳脊髄液中のニューロフィラメント軽鎖(以下、「NfL」)は400㎎投与群では持続的に低下を示しましたが、プラセボ群では24週にかけて上昇し、フォローアップ期間に400㎎に切り替えられて低下を示しました。

⑤ 脳脊髄液中のIL-6も同様の変化を示しました。

⑥ 日常動作スケール(PSPRS)ではOBP-601は症状の悪化を遅らせました。

⑦ OBP-601は脳内のLINE-1を抑制することによって、神経の炎症による神経破壊を抑制して、病態の進展を抑制することが示唆されました。

現在Transposon社は、ビジネス活動と並行してPSPのPhase3臨床試験の開始に向けたEnd of Phase2 meetingを実施するなど、米国FDAとPSPを対象にしたPhase3臨床試験の準備を具体的に進めています。

 

ii) C9-ALS/FTD Phase2a臨床試験

C9ALS/FTDを対象とした臨床試験も2022年1月に投与が開始されました。2023年3月に目標症例数の組入れが完了し、長期フォローアップも終了しました。現在までに、本臨床試験で試験を中止するような安全性上の問題は報告されていません。なお、本治験のALSに関する48週までの主な最終解析結果は下記のとおりです。

① OBP-601投与群は、C9-ALS患者の死亡率と相関する呼吸機能の客観的な指標である、肺活量の低下率を投与開始後24週時点でプラセボ投与群と比較して約50%減少させました。

② ALS機能評価スケール(ALSFRS-R)を用いた評価では、病勢進行の抑制効果を示しました。

③ OBP-601投与群では、NfL(神経フィラメント軽鎖)、NfH(同重鎖)、IL-6(インターロイキン-6)を含む神経変性及び神経炎症の主要バイオマーカーを低下させました。

④ C9-ALS/FTD及びPSP(進行性核上性麻痺)における第2相試験を総合的に解析したメタアナリシスにおいて、OBP-601投与群で有意なNfL値の低下を示しました。

⑤ Transposon社は、OBP-601をC9-ALSを対象とした第3相臨床試験に進める計画です。

 

 

iii) AGS Phase2a臨床試験

Transposon社は、AGSという、小頭症や高度な精神発達遅滞等を呈する遺伝性疾患を対象に、2023年7月に新たなPhase2a臨床試験の投与を欧州で開始しました。現在までに、本臨床試験で試験を中止するような安全性上の問題は報告されていません。

 

③次世代テロメライシンOBP-702に関する活動

OBP-702は、強力な生体内がん抑制遺伝子p53をベクター内に搭載する新規腫瘍溶解ウイルスで、「がん遺伝子治療」と、テロメライシンの持つ「腫瘍溶解作用」を組み合わせた2つの抗腫瘍効果を持つ第二世代のウイルス療法です。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の助成金事業を活用して、岡山大学消化器腫瘍外科学・藤原俊義教授の研究グループにより非臨床試験が進められました。特に、ゲムシタビン耐性すい臓癌細胞株のマウスモデルを用いた実験においては、PD-L1抗体を併用することでより強い抗腫瘍効果が確認されています。また、がん治療で問題となっているがん組織の間質系細胞(CAF : Cancer Associated Fibroblast)に対しても殺傷効果を示すことが示されており、今後、間質系細胞によって治療が困難と考えられているすい臓がんなどの難治性がんに対する新しい治療法として開発していくことが期待されます。なお、テロメライシンの承認申請へ経営リソースを集中させるために、OBP-702の開発は助成金の範囲内で継続していく予定です。

 

④ウイルス感染症治療薬OBP-2011に関する活動

当社は、OBP-2011がヌクレオカプシド形成を阻害する新規メカニズムを有する化合物であることを実験結果から推定していますが、現段階ではその詳細なメカニズムは解明されていません。OBP-2011はすでに承認されているコロナ治療薬の主なメカニズムであるポリメラーゼ阻害やプロテアーゼ阻害とは異なるメカニズムであることが推察されており、コロナウイルスの様々な変異株に対して効果が左右されないというデータが得られています。しかし、新型コロナ治療薬の承認ハードルが上昇していること、並びに新型コロナ治療薬の複数上市による緊急性の低下などの外部環境の変化や、テロメライシンの承認申請へ経営リソースを集中させるために、開発方針を見直す必要性が生じました。今後は、鹿児島大学と詳細なメカニズム解明を行った上でコロナウイルス以外のRNAウイルスに対する新規適応を検討し、新たなパンデミックに対応できる体制を維持していく考えです。

 

⑤がん検査薬テロメスキャン(OBP-401)に関する活動

検査自動化プラットフォームの確立を目的に、テロメスキャンが蛍光発光したがん細胞の画像学習を進め、AIによる自動判定を目指しています。しかし、画像学習に必要な多くの画像を取得することに、当初計画と比較して時間を要したため開発進捗は遅延しています。なお、テロメライシンの承認申請へ経営リソースを集中させるため、優先順位を引き下げています。

 

⑥HDAC阻害剤OBP-801に関する活動

2009年にアステラス製薬株式会社から導入したヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤であるOBP-801は、各種固形がんを対象とした米国でのPhase1臨床試験で用量制限毒性(DLT:Dose Limiting Toxicity)が発生し、推定有効量までの投与量の増量が不可能となったため、がん領域の開発を中断しました。

一方、新規適応領域である眼科領域では、京都府立医科大学眼科学教室の実験において、緑内障手術を行った際に形成される濾過胞の線維化抑制作用が認められ、2023年4月の日本眼科学会やARVO(視覚と眼科学研究協会学会)で研究結果が発表されました。また、「緑内障治療後の濾過胞線維化抑制」や「加齢黄斑変性症」に関するOBP-801の用途発明が、2024年7月に日本国内で特許査定を受けました。なお、テロメライシンの承認申請へ経営リソースを集中させるため、優先順位を引き下げています。

 

主なパイプラインの開発状況は、以下のとおりです。

開発品

適応疾患

併用療法

開発地域

開発ステージ

テロメライシン

(OBP-301)

(suratadenoturev)

食道がん

放射線療法

日本

Phase2

(申請準備中)

放射線化学療法

米国

Phase1

抗PD-1抗体ペムブロリズマブ

日本

Phase1

(終了)

胃がん・

胃食道接合部がん

抗PD-1抗体ペムブロリズマブ

米国

Phase2

(終了)

免疫チェックポイント阻害剤

ペムブロリズマブ

米国

Phase2

肝細胞がん

単独療法

韓国・台湾

Phase1

(終了)

OBP-601

(censavudine)

進行性核上性麻痺(PSP)

単独療法

米国

Phase2a

(Phase3準備中)

筋萎縮性側索硬化症(C9-ALS)

/前頭側頭型認知症(FTD)

単独療法

米国・欧州

Phase2a

(Phase3準備中)

アイカルディ・ゴーティエ

症候群(AGS)

単独療法

欧州

Phase2a

OBP-702

固形がん

抗PD-(L)1抗体を想定

日本

前臨床

OBP-2011

ウイルス感染症

未定

日本

前臨床

テロメスキャン

(OBP-401)

固形がん

日本

臨床研究

OBP-801

緑内障手術後の
濾過胞線維化抑制

日本

前臨床

 

 

3 【経営上の重要な契約等】

当中間会計期間(2024年1月1日2024年6月30日)において、経営上の重要な契約等の決定又は締結等は以下のとおりです。

契約締結日

契約の名称

相手先

契約の概要

2024年2月7日

販売提携契約

富士フイルム富山化学株式会社

テロメライシンに関する日本国内の販売提携契約。

テロメライシンの承認取得時や販売の達成に応じたマイルストーンを富士フイルム富山化学から最大17億円得ます。

また、上市後は、当社はテロメライシンの最終製品を富士フイルム富山化学に供給し、その販売代価を得ます。