第2 【事業の状況】
1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】
文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 会社の経営の基本方針
当社グループは、「今までにない発想と、限りない技術の追求をもって、人々が躍動する世界を創造し続ける。」を企業理念に掲げています。この理念のもと、「世界初、世界一」の独自技術を経営基盤とし、よりよい社会の実現に貢献する製品・サービスを世界のお客様に提供しています。
ディスプレイ事業で培った有形・無形のアセットを最大限に活用し、社会が求める新たな事業領域への参入や事業モデルの見直しを積極的に行い、競争力強化に取り組んでいます。これにより、持続的な成長を実現し、製品・サービスを通じて社会と人の課題解決に貢献することで、企業価値を高めるとともに、全てのステークホルダーの皆様に対して持続的な価値を提供し続けることを目指してまいります。
(2) 中長期的な会社の経営戦略
当社グループは、2024年11月、早急な黒字転換と持続的な成長に向けたBEYOND DISPLAY戦略を立上げ、高成長が見込まれる先端半導体パッケージング事業への参入とセンサー事業への経営資源のさらなる投入を決定いたしました。ディスプレイ事業は、アセットライト化と高付加価値製品への集中により収益改善を図り、センサー及び先端半導体パッケージング事業は、ディスプレイ事業で培った技術を最大限に活用して事業拡大を図ります。
さらに、この戦略を加速させるため、2025年2月には、固定費負担が大きい茂原工場でのパネル生産を2026年3月までに終了することを決定しました。国内の生産を固定費がより低い石川工場に集約し、高付加価値ディスプレイ、センサー、先端半導体パッケージの生産を行う「MULTI-FAB」工場として活用します。これにより、多様な製品の同時生産が可能となり、柔軟性・生産性・コスト競争力に優れた、幅広い顧客ニーズに対応できる生産体制を構築してまいります。
以下は、BEYOND DISPLAY戦略において、当社が今後の事業の柱と位置付ける3つの事業分野の概要です。
① ディスプレイ事業
ディスプレイは、現代社会の基盤技術である一方、過当競争とコモディティ化が進む厳しい市場環境にあります。当社は、茂原工場での生産停止によるディスプレイ生産における固定費の大幅な削減と、引き続きの徹底したコスト削減を実施するとともに、「世界初、世界一」の独自技術に基づく高付加価値製品を提供することにより、収益性の向上を図ります。また、ファウンドリーパートナーとの協業により、アセットライトな生産体制を構築し、売上規模の早期拡大と生産性向上を目指します。
② センサー事業
センシング技術は、多様な分野で安全性と利便性の向上に寄与し、持続可能な社会の実現に不可欠な技術として注目されています。当社のセンサー技術は、医療、産業、ヘルスケア等多岐にわたる分野で使用されています。例えば、X線センサーは医療現場での正確な診断を支え、産業用途では精密な検査を可能にします。また、当社独自のセンサー技術を応用した革新的なインターフェイス「ZINNSIA(ジンシア)」は、様々な素材表面をタッチパネル化することを可能にします。さらに、指紋センサーは高精度指紋認証を必要とする機器等に搭載され、セキュリティや個人認証といった用途で重要な役割を果たしています。
③ 先端半導体パッケージング
先端半導体パッケージング技術は、社会の利便性向上やエネルギー効率の改善に寄与します。高密度化・高集積化が進む半導体パッケージにより、IoT、5G、ADAS、AI等の情報技術の進化が予想されます。当社は、ディスプレイ事業で培った高密度配線技術や薄膜・ガラス加工技術を活用し、パートナー企業との連携を通じて、より高性能な半導体パッケージの開発を推進いたします。
これらの戦略的な取組みにより、当社グループは収益改善と持続的な成長を実現し、企業価値の向上を目指します。
(3) 目標とする財務指標
当社グループは、2022年5月の成長戦略「METAGROWTH 2026」策定時に、2027年3月期を最終年度とする5か年の財務目標(KPI)を設定しました。しかしながら、その後の事業環境の大きな変化を受け、これらの目標については現在の経営戦略との整合性を踏まえた見直しが必要と判断し、慎重に検討を進めております。特に、世界的なインフレに伴うエネルギー費・部材費・加工費の高騰や、ディスプレイ産業の構造的な不況の深刻化、地政学的リスクの増大等、外部環境の変化が続いています。
こうした状況を踏まえ、当社は「(2) 中長期的な会社の経営戦略」に記載のとおり、2024年11月にBEYOND DISPLAY戦略を新たに策定し、事業モデルの抜本的な改革に取り組んでいます。また、2026年3月までに茂原工場での生産を終了し、国内生産を石川工場へ集約するほか、車載事業を子会社化するなど、様々な経営施策を展開・検討しており、これらの実現時期や具体的内容、及びその成果により業績が大きく変動する可能性があります。当社グループは、これら要素を総合的に精査した上で、新たな財務目標を適切なタイミングで設定する予定です。
(4) 経営環境及び対処すべき課題
ディスプレイ産業においては、激しい競争環境やエネルギー費の高止まり、部材費・加工費の上昇によるコスト高が続いており、事業環境はますます厳しさを増しています。さらに、米国の関税政策等により世界経済の不確実性も高まっています。
当社グループは、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められる状況にあり、こうした状況に対して、事業の継続に向けたさらなる対策が必要となっております。また、上場維持に関しては、流通株式比率及び財務基盤に関する課題への対応が求められており、これらも重要な経営課題と認識しております。
これらの状況を踏まえ、当社グループは以下の施策に取り組んでまいります。
① 財務状況の健全化と収益力の抜本的改善
当社グループでは、長期にわたる赤字の継続と純資産額の減少が発生しており、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しております。この状況を解消するため、本有価証券報告書提出日現在、収益力の抜本的改善と財務状況の健全化に向けて以下の施策に取り組んでおります。
・ディスプレイ事業に依存する事業モデルからの脱却、高成長分野であるセンサー事業の拡大、及び先端半導体パッケージング事業への参入(BEYOND DISPLAY戦略)
・2026年3月までの茂原工場の生産終了及び石川MULTI-FABへの生産集約による固定費削減及び生産性向上
・資産売却による借入金返済及び運転資金の確保
・車載ディスプレイ事業の子会社化による競争力維持と事業拡大
・Innolux(台湾)及びCarUX(シンガポール)とのeLEAP戦略提携に基づく協業
・OLEDWorks(米国)との米国における協業
・ファウンドリーパートナーによる次世代OLED「eLEAP」の生産に向けた協議の継続
・人員削減並びに役員報酬・賞与及び従業員賞与の減額を含む人件費削減
② 上場維持基準への適合
2025年3月末現在、当社の流通株式比率は東京証券取引所プライム市場の上場維持基準(35%以上)に適合しておりません。ただし、当社は、事業再生支援目的でいちごトラストとの資本提携契約を締結し出資を受けているため、2028年3月末まで特例適用が認められており、当社はその実現に向けた取組みを継続しております。適合に向けては、2025年3月末時点で78.2%の当社普通株式を保有するいちごトラストの持株比率を低下させる必要があります。さらに、いちごトラストが保有する当社の優先株式の普通株式への転換や新株予約権の行使がなされた場合、流通株式比率がさらに低下する可能性があります。
このため、当社は、いちごトラストとの間で保有比率の低下に向けて協議を継続するとともに、当社株式の新たな保有先となり得る候補投資家との接触、交渉も継続的に進めてまいります。併せて、候補投資家獲得のためにも業績改善と財務健全化を図ってまいります。
また、当社は2026年3月期末までに債務超過となる可能性があり、上場維持基準に適合しない状態となるおそれがあります。この場合、上場維持のためには、2027年3月期末までに債務超過を解消する必要があります。
この状況に対して当社は、資産売却による譲渡益の計上を主な回避策として取り組んでおります。併せて、茂原工場の生産停止や人員削減、役員報酬・賞与及び従業員賞与の減額等、固定費の大幅な削減を実施しているほか、BEYOND DISPLAY戦略のもとでの収益力強化を通じて、財務体質の改善を進めております。さらに、いちごトラストに対する新株予約権の行使要請についても、上場維持に向けた資本政策の一環として検討してまいります。
③ サステナビリティに関連する課題への対応
近年、気候変動に対する取組みや人権問題に対する顧客からの問い合わせや要望が増加しており、これらサステナビリティに関連する取組みは、事業運営における重要な課題となっております。当社グループは、持続可能な社会の実現と自社グループの持続的な成長を両立させることを目指してサステナビリティ経営の推進に取り組んでおり、この取組みを通じて、顧客の要望にもお応えしてまいります。
具体的には、環境マネジメントシステム「ISO14001」の認証取得、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づくシナリオ分析、温室効果ガス排出量の第三者保証、紛争鉱物調査の実施、取引先によるサステナビリティ自己監査の実施、「JDIサプライチェーンサステナビリティ推進ガイドブック」の制定等により、サステナビリティに関連する課題への対応を推進しております。また、技術や製品の開発においては、環境や社会への貢献を重要な判断基準とし、ESG意識の高い顧客への価値創造に貢献しています。
また、当社グループは、気候変動対策の国際的な目標(パリ協定等)と整合した温室効果ガス排出削減の長期的な目標設定を目指しております。今後は多くの企業が参加・取得している「科学的根拠に基づく目標(SBT)」の認定取得に向け、より具体的かつ効果的な環境負荷低減策を開発・導入する等、持続可能な社会の実現に向けて積極的に取り組んでまいります。
2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組みは、次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) サステナビリティに関する考え方
当社グループの企業理念「今までにない発想と、限りない技術の追求をもって、人々が躍動する世界を創造し続ける。」を実現するための前提となる、人、社会、地球の健全性確保に向けて「サステナビリティ基本方針」の3つの柱を掲げています。
① 企業倫理の遵守
当社は、人、社会、地球が健全であるために、企業倫理を遵守した経営を実施していくことを目的として、全ての役員及び従業員が遵守すべき具体的指針となる「JDI倫理規範(JDI Ethics)」を制定し、活動の基盤としています。JDI倫理規範は、人権の尊重や職場環境整備、地球環境保全への取組み、地域社会との良好な関係維持や社会通念に反する不適切な行為を行わないこと、誠実に社会的良識に従い行動すること等を謳っています。
② ステークホルダーとの共生と共創
当社は、「社会」「お客様及び取引先」「競合会社」「株主・投資家の皆様」「従業員」等のステークホルダーとの関係を良好に保つとともに、社会的価値の共創に努めます。
③ 持続可能な成長
当社では、上記の施策を基に、豊かなグローバル社会の実現への貢献、サプライチェーン全体の環境負荷低減、地域社会をはじめとする社会への幅広い貢献等に取り組むとともに、ガバナンス経営による効率化と健全性を実現し、企業として持続可能な成長を目指してまいります。
(2) サステナビリティへの取組
① ガバナンス
当社は、環境マネジメントシステムやコンプライアンス委員会等、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する委員会やマネジメントシステムを設置し、サステナビリティ関連課題に取り組んでいます。グループ全体のサステナビリティ活動は、これを推進する主管部署としてCFO管掌下に設置されたサステナビリティ推進部が、各委員会やマネジメントシステムのESG課題への取組みを俯瞰して推進しています。さらに、サステナビリティ推進部は、各委員会・マネジメントシステムと連携し、基本計画の策定、教育・啓発の実施、リスクと機会の評価等を行い、その内容を取締役会へ報告しています。
取締役会は、サステナビリティ推進部や各委員会・マネジメントシステムの運営組織からの報告を受け、重要な課題や対応策について議論、監督し、重要な決定事項について承認を行います。また、監査委員会及び内部監査部は、サステナビリティ推進部が行うリスクマネジメントの有効性・妥当性について監査を行い、非財務情報の開示における支援を提供し、改善の提案を行います。
この体制に加え、各事業部・機能部門では、事業活動を通じて社会課題を解決するための独自技術の開発や新規事業の創出に取り組んでいるほか、生産・品質本部内に設置された施設技術部では、各生産拠点の省エネルギー推進や再生可能エネルギーの利用拡大に向けた検討を行っています。
ガバナンスの詳細については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」を参照下さい。
② 戦略
当社グループは、「企業の存在意義は社会貢献にある」との信念を基に、社会と人の課題解決を目指すサステナビリティ経営を経営戦略の中心に据えています。事業活動を通じた取組みにより、持続的な成長と企業価値の向上を目指します。また、当社グループが取り組むべきマテリアリティ(重要課題)を特定し、それぞれの課題に対する取組みを通じて、顧客価値と社会価値を創造し、社会の発展に貢献する企業としての地位を確立します。
当社グループのマテリアリティは、以下のとおりです。
分野
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マテリアリティ
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重点取組事項
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価値創造/事業を通じた社会課題の解決
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社会と人の課題を解決する独自技術の開発・提供
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・「世界初、世界一」の技術力を活かし顧客価値を創造します。 ・透明インターフェイス「Rælclear(レルクリア)」等、社会課題の解決に貢献する製品・技術を開発し、新規事業として展開します。 ・環境性能に優れた次世代OLED「eLEAP」、超低消費電力バックプレーン技術「HMO」、利用エネルギー削減に貢献する自由照明「LumiFree」等のGreenTechの市場拡大により環境負荷の低減を目指します。
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GreenTechによる環境問題への貢献
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経営基盤の強化
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サステナブルなサプライチェーンの構築
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・品質、コスト、納期に加え、サプライヤー様による人権や環境等への取組みを評価し、協力的な関係を築きながら、より持続可能なサプライチェーンの実現を目指します。
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コンプライアンスの徹底
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・法規制の遵守だけでなく、社会規範や企業倫理にも従って行動します。
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リスクマネジメントの強化
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・事業活動における様々なリスクを適切に管理・評価し、優先度に応じた事前対策の実施を通して、重大な影響を及ぼすリスクが発現した場合の損失の最小化を図ります。
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人的資本
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優秀な人財の確保と育成
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・「世界初、世界一」の技術開発に挑戦し続けるエンジニアを含む、当社グループの成長に貢献する優秀な人財を確保・育成します。 ・社員のエンゲージメントを高めるための施策を積極的に推進します。
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多様性ある人財登用
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・社員一人ひとりの人権を尊重し、多様な人財がその能力を最大限に発揮できるような働き方を可能とする職場環境を整備し、新たな発想や価値創造を追求します。
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環境
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気候変動への対応
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・TCFD提言に基づいたシナリオ分析結果により特定したリスクと機会への対応を適切に実践します。詳細は「(3) 気候変動への対応」をご参照下さい。
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③ リスク管理
当社グループでは、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載の「リスク管理規則」に基づき、全社的なリスク管理を行っています。これには、気候変動を含むサステナビリティに関連するリスクも含まれ、重要リスクとして特定されています。サステナビリティ推進部がこれらのリスクを管理し、マテリアリティとの関連性も考慮した対応策を実施しています。サステナビリティに関連するリスクは、前述のガバナンス体制の下でモニタリングされ、その内容は取締役会へ報告されます。
④ 指標及び目標
当社グループでは、各マテリアリティに設定した取組方針、行動計画、指標及び目標を定期的にモニタリングし、取組みを進めています。下表は、各マテリアリティに対する2024年度の実績・成果と今後の行動計画・目標です。
気候変動に関する指標及び目標は、「(3) 気候変動への対応」を参照下さい。
価値創造/事業を通じた社会課題の解決
マテリアリティ
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2024年度実績・成果
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行動計画・目標
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社会と人の課題を解決する独自技術の開発・提供
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・Innolux/CarUXとGreenTech eLEAPの戦略提携契約を締結 ・セルフケア健康見守りサービスVirgoのサンプル販売開始、ドライバーの運転挙動と健康の相関性に関する共同研究継続 ・コミュニケーションストレスの低減に貢献するRælclearが「DIC AWARD 2024 国際ディスプレイ技術イノベーション大賞」を受賞
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・eLEAPの市場参入(ファウンドリーパートナーとの協業による製品供給) ・スマートリングVirgoの100万人アクティブユーザー獲得(2029年度) ・LumiFreeの光利用効率の改善(目標透過率 +10%)とLumiFree搭載の照明器具の普及(目標CAGR20%≦)(2027年度)
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GreenTechによる環境問題への貢献
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経営基盤の強化
マテリアリティ
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指標
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2024年度実績
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2025年度目標
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サステナブルなサプライチェーンの構築、
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サプライヤーサステナビリティ自己監査実施率
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100%
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95%以上
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サプライヤー自己監査 80点以上のサプライヤーの割合
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90%
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80%以上
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コンプライアンスの徹底
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倫理規範教育受講率
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100%
|
100%
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人権・ハラスメント教育受講率
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99%
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100%
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リスクマネジメントの強化
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全リスク項目に対する低減策フォロー率
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100%
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100%
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リスク回避力強化の教育実施率
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100% (新規実施)
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(リスク回避力強化の推進)
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人的資本
マテリアリティ
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2024年度実績・成果
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行動計画・目標
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優秀な人財の確保と育成
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・新卒15名、中途6名を採用 ・社内公募制度の実施(実績16名) ・昇格者研修の実施、英語教育の支援拡充、専門教育分科会による教育の実施
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・技術教育を含む専門分野別教育の他、各階層別・選抜・グローバル教育等の充実 ・管理職向けマネジメント研修の新規企画・実施
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多様性ある人財登用
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・管理職に対するダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン理解研修を実施
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・管理職に対するダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)理解研修の実施 ・女性リーダークラスの育成・支援施策の実施 ・育児・介護休業法の改正に基づき関係制度を充実し、柔軟な働き方を支援
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マテリアリティ
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指標
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2024年度実績
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目標
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多様性ある人財登用
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女性管理職比率
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2.9%
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3.8% (2026年度)
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採用した労働者(正社員)に占める女性の割合
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38.1%
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20%以上 (2021~2025年度の平均)
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男性の育児休業取得率 (配偶者出産休暇を含む)
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94%
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80%以上 (2025年度)
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(注)実績及び目標は、国内生産拠点が対象です。
(3) 気候変動への対応
当社は、気候変動への対応をマテリアリティの一つとして位置付けています。2022年度からTCFD提言に基づいたシナリオ分析を開始し、気候変動に関する重要リスクと機会を特定し、それらが及ぼす財務的影響を評価しています。現在はこの分析結果を踏まえ、気候変動対応策の経営戦略への反映に向けた検討を進めており、ステークホルダーに対する情報開示にも積極的に取り組んでまいります。
以下は、TCFD提言に沿った取組み事項です。
① ガバナンス
当社は、環境・社会・ガバナンスに関する委員会やマネジメントシステムを複数設置し、ESG課題に取り組む中で、気候変動問題についても対応しております。気候変動問題に対する最高責任者はCEOです。
取締役会は、年に一度以上、気候変動問題を含むサステナビリティ関連報告及び適時適切なマネジメントシステムからの報告を受け、必要に応じた議論と課題についての監督、及び重要な決定事項についての承認を行っています。
② 戦略
当社グループは、温室効果ガス排出量削減に向け、脱炭素社会を実現するための省エネの推進、再生可能エネルギー活用の検討等を行っています。気候変動による気温上昇が社会に及ぼす影響は甚大と認識し、2022年度から1.5℃、4℃シナリオを用いて、2050年までのシナリオ分析を実施しました。このシナリオ分析に基づいて特定された重要なリスクと機会を踏まえて、戦略的な気候変動対策の策定を目指してまいります。下表は当社のリスクと機会要因と事業へのインパクトに対する対応策の一例です。
当社のリスク・機会、事業インパクト及び対応策の一例
分類
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リスクと機会
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対応策
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移行 リスク
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新たな規制
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炭素税上昇に伴う原材料コスト増加
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・サプライチェーンサステナビリティ推進ガイドブックへの気候変動要素の追加(2025年1月改訂) ・調達基本契約書の条項への気候変動項目の追加(2024年10月改訂)
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炭素税上昇に伴う製造委託費増加
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・委託先の排出量や削減活動に関する調査の実施 ・サステナビリティ推進ガイドブックに気候変動要素の追加(2025年1月改訂)
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炭素税による課税コスト増加
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・再生可能エネルギー導入の推進 ・SBT設定と当該目標達成に向けた取組み推進
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評判
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気候変動問題への取組み姿勢が不十分とされ、顧客のサプライチェーンから外れることによる売上減少
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・TCFDフレームワークに基づく活動の推進
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物理 リスク
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急性リスク
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自然災害の頻発化・甚大化に起因するサプライチェーンの混乱による売上減少
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・主要サプライヤーへの製造/供給拠点のマルチ化要請 ・サプライチェーン推進ガイドブックへのBCP項目の追加(2025年1月改訂) ・販社での製品在庫の一定量確保
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慢性リスク
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自然災害の頻発化・甚大化によるBCP対応コスト増加
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・危機管理委員会による継続的なBCP見直し ・リスク評価と対応策実施による災害リスクの影響度軽減
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機会
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製品・サービス
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温室効果ガス削減等に貢献するeLEAP及び大幅な消費電力低減を実現するHMO技術のライセンス提供による収入増加
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・ライセンス提供による技術収入の拡大 ・新規顧客層へのライセンス拡大に向けた戦略立案・実行
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市場の変化
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低消費電力を実現するeLEAPの需要増加
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・ファウンドリーパートナーとの協業による製品供給 ・継続的な技術改良による市場優位性の確保 ・新規顧客層への販売拡大に向けた戦略立案
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車載部品の環境負荷低減(従来2枚のディスプレイで表示した映像を1枚で表示可能)ニーズに対応する高画質2VD製品の売上増加
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・新規顧客層への販売拡大に向けた戦略立案
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(シナリオ分析の結果)
2050年の1.5℃世界では、eLEAP、2VD、HMO等の低炭素社会への移行に有効な独自技術の活用により、大きな機会獲得が期待できることが分かり、これら独自技術で高成長分野へ参入する戦略の推進が、長期的な機会をもたらすことを確認いたしました。
また、対応策の実行によるリスク低減を図り、当社の強みである独自技術によって、2050年1.5℃世界の実現を目指してまいります。
③ リスク管理
サステナビリティ推進部が主管部署となり、気候変動を含む全社リスクの識別・評価、管理プロセスについて、リスク管理規則に基づき適切な管理を行っています。
各リスクの担当各部門では、事業活動に関連するリスク管理フローに従って、想定される新たな規制、製品・サービス、市場に関する気候関連リスクと機会の特定を行っています。
④ 指標及び目標
環境負荷の指標であるScope1、Scope2に加えて、Scope3排出量についても、該当カテゴリー全ての排出量を算定し開示しています。これらの温室効果ガス排出量データについては、2024年度に第三者保証を取得しました。温室効果ガス排出量削減に向けては、2025年度の再生可能エネルギー比率の目標達成に取り組むとともに、バリューチェーン全体の中長期的な削減目標の設定に向けても検討を進めています。また、将来的なSBT認定取得を目指してまいります。
気候変動への対応
指標
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2024年度実績
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目標
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エネルギー起源CO2排出削減量
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1,433t-CO2
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2025年度:695t-CO2
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再生可能エネルギー比率
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0.03%
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2025年度:1.5%
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(注)実績及び目標は、国内生産拠点が対象です。
気候変動への対応の詳細については、2025年8月発行予定の当社「サステナビリティレポート 2025」をご参照ください。
3 【事業等のリスク】
当社グループでは、「内部統制システム構築の基本方針」に規定する「損失の危機の管理」に基づき、リスクの未然防止及び発生時の影響最小化を目指し、「リスク管理規則」等の必要な規則及び体制を整備しています。リスク管理規則では「リスクを特定・分析し、対策を講じる」プロセスを毎年実行し、持続的かつ円滑な事業運営を図ることを目的としたリスク管理の運用ルールを定めています。その運用は、サステナビリティ推進部が主管部門となって運用を行っています。
具体的には、リスク管理フローに基づき、担当各部門が想定されるリスクの発生可能性(頻度)とその影響度(売上・利益への影響等)を評価し、重要度の高いリスクに対しては優先的に回避策・軽減策・移転策を検討・立案・実行しています。これらの対策について、担当各部門に対してサステナビリティ推進部がヒアリング等を通じて実施状況の確認及び有効性の評価を行っています。年度毎のリスク評価結果は、マネジメントレビューを経て取締役会に報告され、全社員に展開されます。また、事業計画や中期事業計画等の策定においては、策定プロセスでのリスク分析と対策を計画に織り込んでいます。
当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況等に重大な影響を与える可能性がある主要なリスクを以下に記載します。ただし、これらのリスクは必ずしも全てのリスクを網羅したものではなく、想定していないリスクや重要性が低いと考えられる他のリスクからの影響を将来的に受ける可能性もあります。
なお、文中における将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。
(1) 戦略リスク
① 市場動向・競争環境の変動
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発生可能性:高
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影響度:大
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リスク
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当社グループが製造・販売するディスプレイ製品は、それを搭載する製品市場の変動や競争環境の影響を受けます。具体的には、景気の変動、消費者嗜好の変化、季節性等により市場が大幅に変動した場合、売上高の減少、過剰在庫に伴うコスト増加や評価損、さらには工場稼働率の低下による機会損失が発生する可能性があります。さらに、競合他社との競争が激化した場合、売上高が減少し、販売価格が低下する可能性もあります。
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対応策
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顧客の需要動向を注視し、適切な在庫管理や生産管理に努めるとともに、BEYOND DISPLAY戦略のもと、製品ポートフォリオの変革を通じた売上高の維持・拡大、及び販売価格の維持・適正化を目指しています。 ・ディスプレイ事業は、アセットライト化による費用の極小化と生産効率向上を目指すとともに、ファウンドリーパートナーへの生産委託を通じた事業の強化を推進します。 ・センサー及び先端半導体パッケージング事業では、当社グループがディスプレイ事業で培った独自技術を活用するとともに、外部企業との協業等を通じて競合他社との差別化を図り、競争優位性を確保します。 ・自社の競争環境をより正確に把握するため、競合分析と外部環境分析を継続します。
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② 技術・研究開発
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発生可能性:低
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影響度:大
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リスク
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当社グループは、高度な技術を必要とするディスプレイの製造・販売を行っており、その技術優位性の確保は、当社グループの競争力にとって極めて重要です。次世代OLED「eLEAP」等の新たな「世界初、世界一」の独自技術を開発するなど、高い技術優位性の維持・向上のために弛まぬ研究開発活動を推進しています。しかしながら、当社グループの技術が顧客に採用されない場合や、他社の技術開発により当社グループの技術優位性が相対的に低下した場合は、売上高の減少により当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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対応策
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・当社グループは独自技術を基盤とする「技術立社」として、社会と人々の課題解決に取り組んでいます。技術の研究開発においては、競合他社の開発・製品化情報の把握や顧客のニーズを考慮した当社の技術戦略のもと、研究開発対象の厳選、開発段階での進捗レビュー及び継続是非の判断を行っています。また、技術開発における優位性を継続的に確保するために必要な新たな技術知識の習得と開発・製造のリードタイム短縮のため、2021年から「高度専門教育」と「デジタル・AI教育」を中心としたリスキリング教育を開始しました。教育実施後の効果として、既にデジタル技術を活用した効率的な開発と製造が開始されており、今後さらにその範囲を広げていく予定です。
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③ 他社との協業・提携
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発生可能性:中
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影響度:大
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リスク
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当社グループは、競争力強化や収益性向上、長期的な供給体制の維持、及び新技術・新製品の開発のため、部材サプライヤー、装置メーカー、顧客を含む外部企業との協業を行っています。今後も競争力強化のため、新たな協業の推進、戦略的提携、出資・買収等を実施する可能性があります。これらの企業戦略が、資金の制約、戦略上の目標変更、技術管理又は製品開発等における問題の発生、あるいは関係当局からの許認可等の規制、市場の変動等により、維持又は実施できなくなった場合、又は実施後に十分な成果が得られない場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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対応策
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・当社グループは、協業や出資等の企業連携に際して、対象となる市場や事業並びに相手先企業の経営状況等のリスク分析を行った上で判断をしています。また、実行中は協業や提携の進捗をモニタリングし、必要に応じて戦略の軌道修正や組織再編を行い、事業ポートフォリオマネジメントの実行に取り組んでいます。直近では、米国企業と資本業務提携契約を締結し、米国におけるディスプレイ工場設立に向けた協業を開始しています。
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(2) 財務リスク
① 資金調達
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発生可能性:高
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影響度:大
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リスク
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当社グループでは、運転資金の調達を目的としたいちごトラストからの借入を行っています。今後の資金需要の発生時には、借入の実行、低効率資産の売却、営業債権等の流動化など、適切な資金調達策を講じてまいります。また、いちごトラストに付与した新株予約権の行使要請についても、資金調達の一環として検討してまいります。 しかしながら、いちごトラストや金融機関等からの借入が困難となった場合、その他の資金調達手段が十分に機能しない場合、あるいは資産売却が計画通りに進まない場合には、必要な資金を確保できず、当社の事業遂行に支障をきたす可能性があります。また、借入に伴う金利の増加による負担が当社の財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。加えて、新株予約権の行使がなされない、または一部のみの行使にとどまった場合には、資金不足に陥るリスクがあり、一方で、新株予約権が行使された場合には、株式の希薄化により既存株主の持分比率が低下し、株主価値に影響を及ぼす可能性があります。
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対応策
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・2025年2月に発表した茂原工場での生産停止、並びに2025年5月に発表した人員削減等の施策を通じて、事業規模に見合った組織・人員体制の構築を進めております。加えて、BEYOND DISPLAY戦略の推進による業績改善を図ることで、資金調達手段の多様化と選択肢の拡大を目指しております。これらの施策によりキャッシュ・フローの改善を図るとともに、キャッシュマネジメントの強化を通じて、外部資金への依存度を段階的に引き下げ、財務の安定性向上に努めてまいります。
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② 為替変動
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発生可能性:高
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影響度:中
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リスク
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当社グループの顧客や取引先には、欧米や中国等の海外企業が多く含まれており、為替相場の変動は外貨建てで取引される製品・サービスの売価や費用に影響を与え、当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。さらに、海外子会社の現地通貨建ての資産・負債は、連結財務諸表作成時に円換算されるため、当社グループの財政状態もまた為替相場の変動により影響を受けます。
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対応策
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当社グループでは、主要通貨の短期的な為替変動の影響を最小限に抑えるため、ドル建ての支払いとドル建ての回収を組み合わせる為替マリーや、外貨建債権・債務の決済期間を短縮するネッティング等のオペレーショナルヘッジを活用し、為替変動リスクを低減しています。現在、当社では長期的なヘッジ取引の設定に制約を受けていますが、当社の信用状況が改善した際には、改めて最適なヘッジ戦略の検討を行う予定です。
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③ 支配株主との関係
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発生可能性:高
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影響度:大
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リスク
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いちごトラストは、2025年3月31日現在、当社の議決権の78.2%を保有する支配株主であり、株主総会における決議に対して重大な影響力を有しています。また、当社の取締役であるスコット キャロン氏は、いちごトラストとの間の投資一任契約に基づき、いちごから投資運用に関する権限を受託しているいちごアセットマネジメント・インターナショナル・ピーティーイー・リミテッドへの投資助言を行う、いちごアセットマネジメント株式会社の代表取締役社長です。さらに、いちごトラストが当社株式を売却する場合、その方式や規模によっては、当社株式の需給関係や市場価格に影響を及ぼす可能性があります。
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対応策
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当社は、2021年3月期に指名委員会等設置会社へ移行し、社外取締役が過半数を占める監査委員会、指名委員会、報酬委員会を設置することで、経営の独立性と透明性の確保を図っています。また、取締役会全体でも独立取締役が過半数を占め、支配株主の影響を適切に監視・抑制する体制を整備しています。さらに、いちごトラストおよびその関係会社との取引については、利益相反の懸念を回避するため、スコット キャロン氏は当該取引に関する取締役会の審議及び決議には参加していません。加えて、東京証券取引所プライム市場の上場維持基準への適合を目指し、いちごトラストの持株比率の低下を図るなど、株主構成の健全化にも取り組んでいます。
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④ 上場維持基準への不適合
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発生可能性:高
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影響度:大
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リスク
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2025年3月31日現在、当社の「流通株式比率」は20.1%であり、東京証券取引所プライム市場の上場維持基準(35%以上)を満たしておりません。当社は、いちごトラストとの資本提携により、2028年3月末までを適合に向けた計画期間とする特例の適用を受けていますが、この期間内に基準を満たせない場合は、上場廃止となります。なお、いちごトラストの普通株式保有比率は79.2%であり、優先株式の転換や新株予約権の行使により、流通株式比率がさらに低下する可能性があります。 また、当社は2026年3月期末までに債務超過となる可能性があり、上場維持基準に適合しない状態となるおそれがあります。この場合、上場維持のためには、2027年3月期末までに債務超過を解消する必要があります。当社は、資産売却やその他の財務施策により、債務超過の回避・早期解消を目指しますが、これらの施策が想定どおりに進まない場合には、上場廃止となる可能性があります。
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対応策
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流通株式比率に係る上場維持基準への適合には、いちごトラストの持株比率低下が不可欠であることから、当社は、当社株式の新たな保有先となり得る投資家との接触及び交渉を継続的に行ってまいります。また、投資家による当社株式の保有を促すためには、業績の改善に加え、その取組み状況や進捗、将来の展望について、投資家及び市場関係者の皆様に対する理解を深めることが重要であると認識しております。このため、当社は、積極的な情報開示に努めるとともに、国内外向けの説明会開催等を通じて、情報発信の強化を図ってまいります。 債務超過への対応としては、上記のとおり資産売却による譲渡益の計上を主な回避策として取り組んでおります。併せて、茂原工場の生産停止や人員削減、役員報酬・賞与及び従業員賞与の減額等、固定費の大幅な削減を実施しているほか、BEYOND DISPLAY戦略のもとでの収益力強化を通じて、財務体質の改善を進めております。さらに、いちごトラストに対する新株予約権の行使要請についても、上場維持に向けた資本政策の一環として検討してまいります。 これらの施策を総合的に講じることで、債務超過の回避及び流通株式比率の改善を図り、上場維持を確保してまいります。
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⑤ 継続企業の前提に関する重要事象等
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発生可能性:高
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影響度:大
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リスク
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当社グループは、当連結会計年度において8期連続で営業損失及び重要な減損損失を、11期連続で親会社株主に帰属する当期純損失を計上したことにより、純資産の額が減少し、株主資本合計がマイナスになっていることから、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しています。 加えて、依然として厳しい競争環境が継続しており、米国の関税政策の影響、世界的なインフレによる原材料費・エネルギー費・輸送費等のコストの高止まり、及び顧客需要の低下に伴う売上減少等により早期の業績回復による黒字転換が遅延する懸念があります。さらに、今後の資金調達策の結果によっては、当社グループ資金繰りに重大な影響を及ぼす可能性があることから、現時点において継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在していると認識しております。
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対応策
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当社は、これまでのディスプレイ専業メーカーから脱却し、センサー及び先端半導体パッケージングを新たな事業の柱に加えるBEYOND DISPLAY戦略を推進しております。これにより、製品及び事業ポートフォリオの再編を通じて、早期の黒字体質への転換と事業成長を目指しております。ディスプレイ事業においては、茂原工場での生産を2026年3月までに終了し、石川工場への生産集約を進めて、コストの極小化を図っております。また、車載用ディスプレイ関連の事業については、BEYOND DISPLAY戦略の実現と競争力強化のため、2025年10月1日付で新設分割により新設予定の「株式会社AutoTech」に承継する計画です。 財務面では、資金需要に応じた機動的な借入の実施、事業規模に見合わない資産の売却や営業債権等の流動化、及びいちごトラストに対する新株予約権の行使要請等、適時適切な資金調達策を講じることで、財務基盤の安定化を図ってまいります。
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(3) ハザードリスク
① 大地震・自然災害・感染症等
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発生可能性:中
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影響度:大
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リスク
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・大地震や気候変動に伴う大型台風、洪水等の自然災害によって、従業員、設備、サプライチェーン等が被害を受けたことにより、市場への製品供給に大きな支障をきたした場合、当社グループの経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、火災、爆発事故等により従業員や周辺地域に大きな被害が発生した場合、経営成績に重大な影響を及ぼすとともに、社会の信用を失う可能性があります。パンデミックが発生した場合、ロックダウンや当社グループの拠点やサプライチェーン上での集団感染の発生により、製品やサービス提供に支障が生じる可能性があります。 これらの災害による損害に備え、当社グループは適切と判断するレベルの補償範囲をカバーする各種保険に加入していますが、全ての損害額がカバーされるものではありません。
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対応策
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・当社グループは、不測の事態による生産活動への影響を最小化し、早期復旧を図ることを目的としたBCP規則を定め、危機管理委員会を設置しています。有事が発生した場合は、災害エスカレーションによる最新状況の共有と対策本部の設置を行い、関連部門と連携して正確で迅速な行動が取れる体制を構築しています。また、安全衛生基本方針や安全関連規則等を制定し、安全衛生管理推進体制を構築することで、火災、爆発及び化学物質漏洩を防止し、安全で安定した操業を維持しています。 ・大規模自然災害や事故への対応として、全社員を対象とした防災訓練や安否確認システムの利用訓練等を定期的に実施しています。また、製造拠点では火災の発生や使用する薬液・ガス体の漏洩等、様々なリスクに対する緊急事態想定訓練を定期的に実施しています。 ・パンデミックへの対応は、ガイドラインと行動計画を定めて運用しています。状況に応じて出勤・出張・面会等を制限し感染リスクを低減するとともに、従業員の同居家族を含む陽性者が発生した場合の社内アクションや出社条件等を設定し、感染拡大を防止し事業活動への影響を最小化しています。
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② 情報セキュリティ
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発生可能性:中
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影響度:中
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リスク
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当社グループは、自社・顧客・サプライヤーの技術、研究開発、製造、販売及び営業活動に関する機密情報、並びにステークホルダーの個人情報を多様な形態で保有しています。これらの情報を保護するために適切な管理を行っていますが、かかる管理が将来にわたって保証されるわけではありません。サイバー攻撃等により当社グループが管理・保有する情報が流出し、第三者がこれを不正に取得又は利用する事態が生じた場合、損害賠償訴訟の提起等により、当社グループの事業、業績、財政状態、及び社会的評価に影響を及ぼす可能性があります。
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対応策
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・当社グループは、不正行為等による機密情報の紛失、漏洩等の防止を目的に、情報セキュリティ方針や情報セキュリティ規則を定め、情報セキュリティ委員会を設置し、国際標準(ISO27001)に準拠したセキュリティマネジメントを実施しています。 ・セキュリティリスク対応としては、ネットワークの監視や定期的な侵入テストによる潜在的な脆弱性への対策、ワークスタイル変化へのセキュリティ強化、及び全社員を対象としたセキュリティ教育やサイバー攻撃対策訓練の定期的な実施等によりリスク低減を図っています。 ・情報セキュリティ事故発生時は、対応フローによるエスカレーションにて最新状況の共有を行い、関連部門と連携して正確で迅速な行動が取れる体制を構築しています。
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➂ 地政学的リスク
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発生可能性:低
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影響度:大
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リスク
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当社グループは、日本とフィリピンに製造拠点を有し、中国と台湾に後工程の製造委託をしています。また、グローバルに販売拠点を有し、海外顧客への売上高が当社グループ全体の売上高の大きな割合を占めています。海外事業の展開にあたっては、地政学的リスク要因として、外国における経済情勢や政治情勢の不安定化、現地従業員との関係悪化、外国為替管理の強化、予期しない法規制の新設又は変更、税制、法制度及び事業環境の差異及びその変更による不利益、課税等の行政上の措置、戦争及びテロ等の軍事的影響、反日感情による非買運動等があり、これらの要因が当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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対応策
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・地政学的リスクの高まっている国、地域に対しては、多方面から情報を収集して迅速に対応できる体制を構築し、サプライチェーン全体の複線化を検討・実行しています。さらに、BCP(事業継続計画)の観点から、日本を含めた代替生産体制の実現等による生産体制の分散化を進めています。また、サプライチェーンの混乱や半導体不足による顧客の生産調整、部材・エネルギー・輸送費高騰等の影響を最小化するよう事業活動を進めています。
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(4) オペレーションリスク
① 品質
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発生可能性:低
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影響度:大
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リスク
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当社グループは、国内外の製造拠点及び生産委託先において厳格な品質保証体制を構築し、顧客に対して高性能かつ信頼性の高い製品及びサービスを提供しています。しかしながら、万が一、当社グループの製品又はサービスに欠陥が発生した場合、製造物責任その他の責任を負う可能性があります。さらに、大規模な訴訟やリコールの発生が、顧客の信頼や社会的信用の低下を引き起こし、企業ブランドの価値と当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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対応策
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・当社グループは、品質方針に基づき、品質マネジメントシステムを構築し、企画・設計・製造・販売・サービスに携わる全ての部門がPDCAサイクルを運用し、サプライヤーの協力のもとで継続的な改善を実施しています。 ・ディスプレイ製品に関してはグループ全体で品質マネジメントシステムであるISO9001:2015の認証を取得しており、車載用のディスプレイの製造拠点では自動車の製造領域に特化した品質マネジメントシステムIATF16949:2016の認証も取得しています。 ・製品の品質・製造物責任に対する予防・対応プロセスとして、FMEA(故障モード影響解析)運用規則、製品安全規則等を制定し運用しています。 ・万が一、品質上の問題が発生した場合に備え、迅速かつ確実な是正措置及び顧客対応が行える体制を整備しています。
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② 原材料・部品調達
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発生可能性:高
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影響度:大
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リスク
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当社グループは、原材料・部品等を複数のサプライヤーから購入しています。そのため、供給遅延、供給不足又は価格高騰等が生じた場合は、生産遅延、代替調達による費用増加、調達コストの上昇等が生じる可能性があります。さらに、調達した原材料や部品に欠陥・瑕疵や、仕様の不備があった場合、顧客への製品供給の遅延や顧客からの返品、製品の評価減の発生、又はクレームや訴訟といった問題が発生する可能性があります。当社グループは、仕入品の品質管理やサプライヤーの多様化によるこれらリスクの低減に努めておりますが、原材料・部品等の一部については、その特殊性からサプライヤーが限定されているものやサプライヤーの切替えが困難なものもあり、これら調達品に係るリスクが顕在化した場合は、当社グループの財政状態や業績に影響を及ぼす可能性があります。
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対応策
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・当社グループは、原材料価格の上昇に対し、製品売価への転嫁要請や原価低減策を行い、影響の軽減を目指しています。安定調達については、適正在庫の確保やサプライチェーンの複線化、仕入先のBCP体制の事前確認等を通じてリスクの軽減を図っています。また、サプライヤーの生産地域等をデータベース化し、災害発生時に迅速にサプライヤーと連携できる体制を整えています。 ・持続可能かつ責任ある調達の推進に向けては、「JDIサプライチェーンサステナビリティ推進ガイドブック」を全ての1次サプライヤー及び商社経由の調達先である2次サプライヤーに配布し、遵守を要請しています。さらに、「JDIサプライヤーサステナビリティ自己監査票」による定期的な自己監査を行い、サプライヤーの遵守状況を確認しています。
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③ 気候変動・環境規制
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発生可能性:中
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影響度:大
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リスク
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慢性的な気温上昇に伴う自然災害の頻発化・甚大化によるサプライチェーンの混乱や生産性の低下、BCP対応コストの増加に加え、今後の脱炭素化(カーボンニュートラル)への取組み強化に伴う費用負担の増加や、顧客要求水準未満の取組みによる取引の減少、将来的なカーボンプライシングの導入等が、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。 また、国内外の様々な環境関連法規制の強化に伴う遵守対応費用の増加や、法規制の違反が発生した場合には、当社グループの業績や社会的評価に影響を与える可能性があります。
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対応策
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・当社グループは、気候変動問題を経営重要課題の一つと認識し、環境最高責任者であるCEOの下で、環境活動を推進しています。また、TCFDの枠組みに基づくシナリオ分析を実施し、気候変動に伴うリスクと機会を明確化しています。 ・気候変動による物理的影響への適応策として、サプライヤーの複線化や製品在庫の一定量確保を行い、BCP検証に基づく原材料・部品の適正在庫量を検討し、外部製造委託の拡大を計画的に進めていく方針です。 ・環境規制に対しては、環境マネジメントシステムを構築し、環境関連法の遵守徹底と規制変化へのタイムリーな対応を行っています。また、環境パフォーマンスデータを開示し、温室効果ガス排出量データについては第三者保証を取得するなど透明性・信頼性の確保に努めています。また、カーボンプライシング導入等への対応として、省エネ・再エネ活動をさらに推進していきます。
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④ 内部統制とコンプライアンス
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発生可能性:中
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影響度:大
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リスク
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当社グループは、2020年3月期に、過年度決算において不適切な会計処理が行われていたことが判明し、財務報告に係る内部統制に重要な不備がありました。これにより損害を被ったとして、2020年7月に株主から当社及び元取締役10名に対し、約3,858百万円の損害賠償請求が提起されています。この不備を是正するため、ガバナンス向上委員会を設置し、再発防止策を全社で実行いたしました。その結果、2021年3月期末には重要な不備が解消され、これまで有効な内部統制報告が確保されています。しかしながら、再発防止に取組みつつも、対応が有効に機能せず、又は新たな内部統制の不備が発生した場合には、財務報告の信頼性に影響が出る可能性があります。 また、当社グループは、国内外で商取引、独占禁止法、知的財産権、製造物責任、環境保全、人権、労働安全、輸出入規制等様々な公的規制を受けています。これらの違反が発生した場合、課徴金納付命令、刑事罰、取引停止、社会的信用の失墜等、会社に甚大な損害を与えるリスクがあります。
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対応策
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・不適切会計処理の再発防止に向けては、会計業務のシステム化等に継続して対応しています。訴訟の提起については、原告の主張を踏まえて適切に対応してまいります。 ・「コンプライアンス基本規則」に基づき、コンプライアンス推進体制や諸制度の確立、浸透、定着を目的に、関連部門が集まり諸施策を審議・推進する場としてコンプライアンス委員会を設置しています。また、コンプライアンス違反の是正を図り、社会的信頼を確保することを目的として「内部通報制度」を設けているほか、コンプライアンス遵守状況の把握、内部通報の掘り起しを目的として、従業員へのコンプライアンスアンケートを定期的に行っています。 ・独占禁止法及び各国競争法の遵守徹底のため、各国競争法の遵守、教育活動及び発生時対応の強化に努めています。
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⑤ 人財確保
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発生可能性:中
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影響度:大
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リスク
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当社グループは、優秀な人材の採用と育成を重要課題と認識しています。しかし、人材確保の競争激化や育成計画の遅れ、又は専門性の高い人材が競合他社に移籍した場合、これらは当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
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対応策
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・新卒採用、中途採用を計画的に行い、フレキシブルな働き方の推進や社内公募制度の活用を含む多様な人財が活躍できる環境を整備しています。また、教育制度の拡充による社員の能力開発や、適性を重視した配置、ワークライフバランスを支援する制度の整備により、社員のモチベーションを高めていきます。
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⑥ 知的財産権
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発生可能性:中
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影響度:中
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リスク
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当社グループは、自社技術の保護のために適切な国・地域での知的財産権の取得を目指していますが、一部の国・地域では十分な保護が得られない可能性があります。また、当社グループは、第三者からの知的財産権の実施許諾を受ける場合がありますが、今後、必要な実施許諾を得ることができなくなる、不利な条件での実施許諾しか受けられなくなる、競合他社が有利な条件で実施許諾を受けることにより、当社グループの競争力が相対的に低下する可能性があります。
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対応策
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・新規の技術開発や設計にあたっては、先行技術調査を徹底し、各国の知的財産法、審査基準やプロセスを把握し、知的財産権獲得の精度向上に努めています。自社製品を市場に提供する前にも、第三者の知的財産権調査を精度よく実施しています。また、知的財産権を事業戦略や研究開発と連動させて最大限活用し、強みのある知的財産権を蓄積しています。 ・万が一、他社から知的財産権侵害の指摘を受けた場合や実施許諾条件の変更等を求められた場合に備え、専門人財を配置し、外部弁護士とも連携して適切に対応する体制を整えています。 ・なお、当社は、2025年5月15日付基本合意書に基づき、特許権等の知的財産権の一部をいちごトラストに譲渡することに合意しております。但し、当社の事業規模に見合う知的財産権については引き続き当社が保有し、譲渡対象の知的財産権についても、当社が実施権を確保することでいちごトラストと合意する予定であり、本件譲渡が当社の今後の事業展開に支障をきたすことはないと考えております。
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⑦ 人権
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発生可能性:中
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影響度:大
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リスク
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サプライチェーン上における強制労働や児童労働等の人権侵害が発生した場合、原材料・部品調達が困難となることや、顧客や他のサプライヤーとの取引停止により、当社グループの業績、財務状況、社会的評価に影響を及ぼす可能性があります。 また、米国の「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」により、中国の新疆ウイグル自治区が関与する製品は、強制労働により生産されたとみなされ輸入が原則禁止されています。これによるサプライヤーとの取引関係悪化や国レベルでの貿易制限が生じた場合、当社グループの業績、財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
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対応策
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・当社グループは、国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)」に沿った対策を推進しています。サプライチェーン上の人権課題に対しては、「JDIサプライチェーンサステナビリティ推進ガイドブック」を配布し、遵守を要請しています。また、自己監査を定期的に実施し、遵守状況を確認しています。 ・責任ある鉱物調達のため、紛争鉱物調査を実施し、武装勢力への資金供給がないことを確認しています。 ・人権、ハラスメント問題等の注意喚起のため従業員教育も定期的に行っています。
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4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」といいます。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営成績
当連結会計年度(以下「当期」といいます。)は、ディスプレイ市場における激しい競争状況が続く中で、エネルギー費の高止まりや部材費・加工費の上昇が継続し、事業環境は厳しさを増しました。
このような状況のもと、当社グループは引き続き業績改善と収益力向上に取り組みました。固定費削減に向けては、2024年4月に旧東浦工場(現・東浦エンジニアリングセンター、愛知県知多郡)の建物譲渡を完了し、2025年3月には鳥取工場(鳥取県鳥取市)でのパネル生産を終了しました。また、価格競争が厳しい液晶スマートフォン事業を戦略的に縮小し、そのエンジニアリングリソース等の経営資源を次世代製品にシフトしたほか、一部の車載用不採算製品からの撤退等を通じて製品ポートフォリオの改善に取り組みました。
2024年11月には、更なる改革のため、ディスプレイ専業メーカーから「BEYOND DISPLAY」への進化に向けた新たな戦略を公表し、高い成長が見込まれるセンサー事業の拡大と先端半導体パッケージング事業への参入を目指した取組みを開始しました。この取組みを加速するため、2025年2月に固定費負担が大きい茂原工場(千葉県茂原市、パネル基板サイズG6)でのパネル生産を2026年3月を目途に終了することを決定いたしました。国内の生産は、固定費がより低い石川工場(石川県能美郡、同G4.5)に集約し、高付加価値ディスプレイ、センサー、先端半導体パッケージの生産を行うMULTI-FAB工場として活用することといたしました。
当社が世界で初めてマスクレス蒸着及びフォトリソ方式による量産技術を確立した次世代OLED「eLEAP」については、中国の蕪湖経済技術開発区(中国安徽省蕪湖市)でのeLEAP事業の立ち上げに関する最終契約締結を2024年10月末までに完了することを目指しておりましたが、最終契約締結には至らず、同年10月に本プロジェクトに関する覚書の延長を行わないことを決定いたしました。また、2024年度中に茂原工場でのeLEAPの量産開始を目指しておりましたが、同工場での生産終了決定に伴い自社生産を停止いたしました。その一方で、eLEAPのファブレス事業展開とグローバルエコシステムの構築に向けて、委託生産先となるファウンドリーパートナーとの協議を進めました。
以上のような取組みを通じて、当社グループは厳しい事業環境に対応しつつ、業績の早期改善と持続可能な成長に向けた戦略を推進いたしました。
上記の結果、当期の売上高は、液晶スマートフォンからの戦略的撤退とスマートウォッチ・VR等の分野での需要減少により、前期比51,140百万円減少(21.4%減)の188,012百万円となりました。売上高の減少に伴う利益の減少は、上述の固定費削減や製品ポートフォリオ改善効果によりほぼ相殺できましたが、売上規模の縮小に伴う固定費率の上昇や部材費・加工費の上昇により、営業損失は37,068百万円(前期は34,145百万円の損失)となり、赤字が続きました。
経常損失は、営業外収益として為替差益1,027百万円を計上した一方、営業外費用として支払利息4,409百万円を計上したこと等により、40,415百万円(前期は33,188百万円の損失)となりました。親会社株主に帰属する当期純損失は78,220百万円(前期は44,313百万円の損失)となりました。これは、旧東浦工場の売却を主とした固定資産売却益1,830百万円の特別利益を計上した一方で、茂原工場のeLEAP生産設備を主とした減損損失21,563百万円、茂原工場の生産終了決定に伴う事業構造改善費用13,418百万円、及び鳥取工場の生産終了に伴う事業構造改善費用3,275百万円の特別損失の計上等によるものです。
キャッシュ収益指標であるEBITDAは、マイナス33,048百万円(前期はマイナス28,221百万円)となりました。
なお、当期の対米ドルの平均為替レートは152.6円(前年同期は144.7円)となりました。
アプリケーション分野別の売上高の状況は次のとおりです。
分野別売上高
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(単位:百万円)
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前連結会計年度
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当連結会計年度
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前期比
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金額
|
割合
|
金額
|
割合
|
金額
|
増減率
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車載
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133,216
|
55.7%
|
125,857
|
66.9%
|
△7,359
|
△5.5%
|
スマートウォッチ・VR等
|
73,522
|
30.7%
|
53,566
|
28.5%
|
△19,956
|
△27.1%
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液晶スマートフォン
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32,414
|
13.6%
|
8,589
|
4.6%
|
△23,824
|
△73.5%
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(車載)
当分野には、計器クラスターやヘッドアップディスプレイ等の自動車用ディスプレイが含まれています。
当期の売上高は前期比5.5%減少の125,857百万円となりました。これは、収益改善を図るため低採算品からの撤退を進めた影響等によるものです。全売上高に占める割合は、前期の55.7%から66.9%に上昇しました。
(スマートウォッチ・VR等)
当分野には、スマートウォッチやデジタルカメラ、VR機器等の民生機器用ディスプレイ、医療用モニター等の産業用ディスプレイ、さらに特許収入等が含まれています。
当期の売上高は前期比27.1%減少の53,566百万円となりました。これは、主にスマートウォッチ用OLEDディスプレイの需要が下期に軟化したことと、VR用液晶ディスプレイの需要減少が続いたことによるものです。全売上高に占める割合は、前期の30.7%から28.5%に低下しました。
(液晶スマートフォン)
当分野は、価格競争の厳しい液晶スマートフォン用ディスプレイで構成されており、ノンコア事業と位置付けています。
当期の売上高は前期比73.5%減少の8,589百万円となりました。これは、エンジニアリングリソース等の経営資源をコア事業の次世代製品に集中させるため、戦略的にこの分野の縮小を進めた結果です。全売上高に占める割合は、前期の13.6%から4.6%に低下しました。
生産、受注及び販売の実績は、次のとおりであります。
① 生産実績
当社グループの生産品目は、広範囲かつ多種多様であり、その性能、構造、形式、販売条件等は一様ではないこと、受注生産形態をとらない製品も多いこと等から、販売価格による生産額の集計は行っておりません。また、当社グループの生産体制は、主として国内の生産拠点で担っている前工程、海外の製造子会社による後工程に区分して管理されております。
そのため、前工程及び後工程の生産量の単純合計がそのまま連結ベースの生産量ともならないことから、生産実績を金額又は数量で示すことはしておりません。
② 受注実績
当社グループは顧客から提示された生産計画に基づく見込生産を行っているため、記載を省略しております。
③ 販売実績
当連結会計年度の販売実績を示すと、次のとおりであります。なお、当社のグループは単一セグメントであるため、アプリケーション分野別に記載を行っております。
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(単位:百万円)
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アプリケーション分野
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当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日)
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前年同期比(%)
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車載
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125,857
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△5.5
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スマートウォッチ・VR等
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53,566
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△27.1
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液晶スマートフォン
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8,589
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△73.5
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合計
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188,012
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△21.4
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(注) 最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
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(単位:百万円)
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相手先
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前連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日)
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当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日)
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金額
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割合(%)
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金額
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割合(%)
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株式会社デンソー
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25,441
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10.6
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31,599
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16.8
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Apple Inc.グループ
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66,443
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27.8
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30,587
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16.3
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日本精機株式会社
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26,648
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11.1
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21,651
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11.5
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(2) 財政状態
当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末(2024年3月末)比75,957百万円減少し、148,031百万円となりました。これは主に、eLEAP用生産設備の減損に伴う建設仮勘定19,787百万円の減少に加え、棚卸資産19,875百万円、未収入金10,546百万円、現金及び預金8,265百万円及び売掛金6,464百万円の減少、旧東浦工場の売却等による建物及び構築物6,391百万円の減少等によるものです。
負債合計は、前連結会計年度末比2,813百万円増加し、141,141百万円となりました。これは主に、短期借入金26,000百万円の増加及び茂原工場の生産終了決定等に伴う事業構造改善引当金12,717百万円の増加、買掛金17,842百万円及び未払金10,973百万円の減少によるものです。
純資産合計は、前連結会計年度末比78,771百万円減少し、6,890百万円となりました。これは主に、親会社株主に帰属する当期純損失の計上による利益剰余金78,220百万円の減少によるものです。
上記の結果、自己資本比率は4.5%となり、前連結会計年度末比で33.6ポイント低下いたしました。
(3) 資本の財源及び資金の流動性についての分析
① キャッシュ・フローの状況
営業活動によるキャッシュ・フローは、減損損失や事業構造改善費用の計上や棚卸資産の減少による収入増加等の一方で、税金等調整前当期純損失77,062百万円の計上により、25,450百万円の支出(前期は17,576百万円の支出)となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、旧東浦工場を含む固定資産の売却による5,946百万円の収入と、固定資産の取得による10,514百万円の支出、投資有価証券の取得による3,018百万円の支出等により8,161百万円の支出(前期は13,433百万円の支出)となりました。
この結果、フリー・キャッシュ・フロー(営業活動によるキャッシュ・フローと固定資産の取得による支出の合計)は、35,965百万円の支出となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金の増加26,000百万円を主な要因とし、25,693百万円の収入(前期は32,901百万円の収入)となりました。
これらの結果及び為替の影響により、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は20,432百万円となり、前連結会計年度末に比べ8,292百万円減少いたしました。
② 資金需要及び資金調達の状況
当社グループの主な資金需要は、生産、販売活動に必要な運転資金、先端技術の開発や生産性及び品質の向上を目的とした研究開発費及び設備投資です。他方、当社グループでは、過年度に実施した大規模な設備投資や事業環境の急速な変化等の結果、当期純損失の計上が継続していることから、これらの資金需要が自社グループのキャッシュ・フローで賄えておらず、当連結会計年度まで長期にわたりフリー・キャッシュ・フローの赤字が継続しております。そのため、当社グループは、後述の財務戦略の基本的な考え方に沿って、適宜資金調達を検討してまいります。
③ 財務戦略の基本的な考え方
当社グループは、将来の成長のための設備投資等の資金需要に対応しつつ、流動性リスクを軽減し、経営の安定化を図るため一定の手許流動性を維持することが肝要だと考えており、手許流動性の水準を考慮するにあたっては、連結売上高1.0か月分を目安に、手許現預金及び追加ファイナンスによって賄う方針です。
また、事業活動を支える資金調達及び資金管理に関しては、安定的に資金確保し、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)改善によるキャッシュ・フロー創出、グループ内CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)等による資金効率化によって財務体質を強化することを目標として取り組んでいます。また、世界的なインフレ高進やサプライチェーンにおけるリスクの継続に備えた手許資金確保の重要性に鑑み、今後も資金需要に応じた機動的な借入実施、低効率資産の売却及び営業債権等の流動化のほか、いちごトラストによる第13回新株予約権の行使要請も含め、引き続き適時適切な資金調達策を講じてまいります。
(4) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。
5 【重要な契約等】
(いちごトラストとのSHORT-TERM LOAN AGREEMENTの締結)
当社は、2024年5月13日開催の取締役会の決議に基づき、いちごトラストとの間で①2024年7月30日付、②同年8月29日付、③同年9月27日付、④同年10月30日付、⑤同年11月27日付、⑥2025年1月30日付、⑦同年2月27日付、及び⑧同年3月28日付SHORT-TERM LOAN AGREEMENTを締結し、新規借入を実施しました。これによりいちごトラストからの借入残高は595億円となりました。借入の概要は下記のとおりです。
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借入実行日
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借入先
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金額
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内容
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①
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2024年7月30日
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いちごトラスト
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30億円
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・借入金利:10.0%(p.a.) ・返済期限:2024年10月31日(期限前弁済可)(注1) ・担保の有無:有
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②
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2024年8月29日
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いちごトラスト
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25億円
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・借入金利:10.0%(p.a.) ・返済期限:2024年11月29日(期限前弁済可)(注1) ・担保の有無:有
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③
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2024年9月27日
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いちごトラスト
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50億円
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・借入金利:10.0%(p.a.) ・返済期限:2024年12月27日(期限前弁済可)(注1) ・担保の有無:有
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④
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2024年10月30日
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いちごトラスト
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35億円
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・借入金利:10.0%(p.a.) ・返済期限:2025年1月31日(期限前弁済可)(注1) ・担保の有無:有
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⑤
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2024年11月27日
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いちごトラスト
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45億円
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・借入金利:10.0%(p.a.) ・返済期限:2025年2月28日(期限前弁済可)(注1) ・担保の有無:有
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⑥
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2025年1月30日
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いちごトラスト
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20億円
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・借入金利:10.0%(p.a.) ・返済期限:2025年4月30日(期限前弁済可)(注1) ・担保の有無:有
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⑦
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2025年2月27日
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いちごトラスト
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25億円
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・借入金利:12.0%(p.a.) ・返済期限:2025年5月30日(期限前弁済可)(注1) ・担保の有無:有
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⑧
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2025年3月28日
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いちごトラスト
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30億円
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・借入金利:12.0%(p.a.) ・返済期限:2025年6月30日(期限前弁済可) ・担保の有無:有
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※2025年4月28日付でSHORT-TERM LOAN AGREEMENTを締結し、55億円の追加借入を実施しております。
(注1)①2024年10月22日付、2025年1月24日付、及び4月21日付②2024年11月25日付、2025年2月25日付、及び5月27日付③2024年12月26日付、及び2025年3月24日付④2025年1月24日付、及び4月21日付⑤2025年2月25日付及び5月27日付⑥2025年4月21日付け⑦2025年5月27日付でAMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENTを締結し、返済期限を③2025年6月30日、①④⑥2025年7月31日、②⑤⑦2025年8月29日に変更いたしました。また、上記のうち2025年2月25日以降に締結したAMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENTにおいて、借入金利を10.0%(p.a.)から12.0%(p.a.)に変更しております。
(いちごトラストとのAMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENTの締結)
当社は、2023年5月30日及び2023年11月10日開催の取締役会の決議に基づき、いちごトラストとの間で締結した①2023年5月30日付、②同年6月28日付、③同年7月28日付、④同年8月17日付、⑤同年10月30日付、⑥2024年1月30日付及び⑦同年2月28日付SHORT-TERM LOAN AGREEMENTに関し、いちごトラストとの間で借入金の返済期限変更について、③⑤⑥について2024年4月22日付、7月23日付、10月22日付、及び2025年1月24日付、①④⑦について2024年5月24日付、8月26日付、11月25日付、及び2025年2月25日付②について2024年6月21日付、9月25日付、12月26日付及び2025年3月24日付AMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENTを締結いたしました。AMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENT締結後の借入の概要は下記のとおりです。
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借入実行日
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借入先
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金額
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内容
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①
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2023年5月31日
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いちごトラスト
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40億円
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・借入金利:12.0%(p.a.) ・返済期限:2025年5月30日(期限前弁済可)(注2) ・担保の有無:有
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②
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2023年6月29日
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いちごトラスト
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80億円
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・借入金利:12.0%(p.a.) ・返済期限:2025年6月30日(期限前弁済可) ・担保の有無:有
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③
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2023年7月28日
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いちごトラスト
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40億円
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・借入金利:10.0%(p.a.) ・返済期限:2025年4月30日(期限前弁済可)(注1) ・担保の有無:有
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④
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2023年8月17日
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いちごトラスト
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40億円
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・借入金利:12.0%(p.a.) ・返済期限:2025年5月30日(期限前弁済可)(注2) ・担保の有無:有
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⑤
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2023年10月30日
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いちごトラスト
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40億円
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・借入金利:10.0%(p.a.) ・返済期限:2025年4月30日(期限前弁済可)(注1) ・担保の有無:有
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⑥
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2024年1月30日
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いちごトラスト
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50億円
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・借入金利:10.0%(p.a.) ・返済期限:2025年4月30日(期限前弁済可)(注1) ・担保の有無:有
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⑦
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2024年2月28日
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いちごトラスト
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45億円
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・借入金利:12.0%(p.a.) ・返済期限:2025年5月30日(期限前弁済可)(注2) ・担保の有無:有
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(注1)2025年4月22日付でAMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENTを締結し、返済期限を2025年7月31日に変更いたしました。
(注2)2025年5月27日付でAMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENTを締結し、返済期限を2025年8月29日に変更いたしました。
(OLEDWorksとの出資契約の締結)
当社は2024年10月11日開催の取締役会の決議に基づき、米国における最先端ディスプレイ工場設立等の協業のために、2024年10月11日付でOLEDWorksとの間で当社による出資契約を締結いたしました。
6 【研究開発活動】
当社は、先進の発想を具体化し、人々の生活と文化発展に貢献することを目標にし、商品開発から基礎的な要素技術開発まで幅広い研究開発活動を行っています。
顧客からの要求に即した商品開発及びそのための技術開発は事業部が担当しています。生産プロセス及び生産技術開発は生産・品質本部、近い将来から次世代までの技術開発はR&D本部が担当しています。また、大学、公的研究機関、関連メーカー、技術ベンチャーとの研究開発活動も積極的に行っています。
当連結会計年度の研究開発費は11,618百万円となりました。
当連結会計年度の主な研究開発の成果は、下記のとおりです。
・Dual Touch機能を搭載した高画質 2 Vision Display(2VD) 製品を開発
見る方向により異なる2つの映像を表示する2VDの画質を大幅に向上させ、車載用途で求められる画質に対応する2VD製品を開発しました。さらに、運転席/助手席からのタッチ操作を識別できるDual Touch機能も搭載し、1枚のディスプレイを2枚のタッチ機能付きディスプレイのように利用できます。
本開発品により、運転席には安全運転情報を表示し、助手席には大画面・高画質な映像を同時に提供することが、1枚のディスプレイで可能になりました。自動車メーカーの皆さまと共に、これまでにないレベルの安全性と快適性を追求してまいります。また、これらの技術は自動車業界だけでなく、空港等の交通機関での大型サイネージへの活用、視角制御によるセキュリティ強化、ゲームへの応用の可能性も考えられます。
・液晶反射板でミリ波を反射させ、屋外ビル間に電波を届ける実証に成功
5G通信で利用するミリ波は、超高速・大容量・低遅延な通信サービスを提供可能である一方、電波の強い直進性により、ビルや樹木の影等に電波の届きにくい場所を発生させやすい特徴を有します。特にビル間通路等電波が届きにくいエリアに対し、反射方向を切り替えてピンポイントに電波を届ける技術の開発が求められていました。
当社、KDDI株式会社、株式会社KDDI総合研究所は、電波の反射方向・範囲を変更できる可搬性のミリ波(28GHz帯)用液晶メタサーフェス反射板(液晶反射板)を開発し、ミリ波の電波が届きにくい屋外のビル間に電波を反射させて、目的地に電波を届ける実証に成功しました。さらに、低消費電力を活用し、汎用品の太陽光パネルとバッテリーで、液晶反射板が駆動することも確認しました。
今回の成果により、ビルや建物の遮蔽で電波が届きにくい場所や、人が密集するイベントでも柔軟にミリ波を届け、高速で安定した大容量通信をお客さまに提供することが期待できます。3社は今後、液晶反射板の実用化に取り組んでまいります。