第2【事業の状況】

1【事業等のリスク】

 当中間会計期間において、新たな事業等のリスクの発生、又は、2024年6月26日に提出の有価証券報告書に記載した事業等のリスクについての重要な変更はありません。

 

2【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 文中の将来に関する事項は、当中間会計期間の末日現在において判断したものであります。

 

(1)財政状態及び経営成績の状況

① 経営成績の状況

 当社は、抗体に継ぐ次世代新薬として期待されているアプタマー(核酸医薬の一種)に特化して医薬品の研究開発を行うバイオベンチャーです。当社は、アプタマー創製に関する総合的な技術や知識、経験、ノウハウ等からなる創薬プラットフォームである当社独自の「RiboARTシステム」を活用して、革新的なアプタマー医薬の研究開発(「アプタマー創薬」)を行っております。

 当社の企業理念は「Unmet Medical Needs(未だに満足すべき治療法のない疾患領域の医療ニーズ)に応えること」であり、その実現のための最重点経営目標を、「自社での臨床Proof of Concept※1の獲得に向けた開発」として、当中間会計期間においても様々な取り組みを進めてまいりました。

 その具体的な進捗を以下に要約いたします。

 

※1:臨床Proof of Concept(臨床POC):新薬の開発段階において、投与薬剤がヒトでの臨床試験において意図した薬効を有することが示されること。

 

「umedaptanib pegol」の開発について

 

(イ)「umedaptanib pegol」(抗FGF2アプタマー、RBM-007の国際一般名)による臨床開発の狙い

 当社では、自社で創製したumedaptanib pegol(FGF2に結合し、その作用を阻害するアプタマー)を、自社での臨床開発のテーマに選び、「軟骨無形成症(Achondroplasia、ACH)」と「滲出型加齢黄斑変性(Wet Age-related Macular Degeneration、wet AMD)」の治療薬としての開発を進めております。

 

(ロ)開発状況、及び既存治療法との比較

a)軟骨無形成症(ACH)

・臨床試験

ACHに関するプロジェクトは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の助成(2015年度から合計6年間)を受け、2020年7月~2021年5月にかけて、国内の1施設において第1相臨床試験を実施いたしました。さらに、2021年度から3年間は、AMEDの希少疾患用医薬品指定前実用化支援事業として助成を受け、ACHの小児患者(5~14歳)における、身長の伸びを含む臨床的基礎データの取得と前期第2相臨床試験の被験者選定を目的とした前期第2相観察試験、及びACHの小児患者でのumedaptanib pegolの有効性と安全性を調べる前期第2相臨床試験と、これに引き続き実施する前期第2相長期投与試験の3つの臨床試験を開始いたしました。

 ACHの小児患者を対象とする前期第2相観察試験(26週)については、東京、岡山及び関西地区の8施設で13名の患者組み入れが完了し、前期第2相臨床試験の低用量群(コホート1、6名、週1回の0.3mg/kg皮下投与、26週)の投与が完了いたしました。その結果、途中休薬の1名を除いた5名のうち、2名で身長の伸展速度が、被験薬投与前(観察試験)に比較して、+4.6cm、+3.3cm/年と増加いたしました。この結果は、現在ACH治療薬として承認されているボックスゾゴ(ボソリチド、BioMarin社製、毎日皮下投与)の身長平均伸展速度+1.6cm/年※2を顕著に上回る成績でした。3名については、低用量下では被験薬に対して無反応でした。

コホート1を完了した6名のうち、5名の被験者は低用量(0.3mg/kg)の長期投与試験に移行しており、継続して被験薬の有効性及び安全性を評価いたします。また、高用量(0.6mg/kg)の皮下投与(1回/2週)試験(コホート2)も4名で投与が開始されており、全員の結果は来年9月に明らかになる予定です。

 

 なお、これまでにumedaptanib pegolを投与したACH小児患者において、安全性等の問題は発生しておりません。

 

※2:https://clinicaltrials.gov/study/NCT03197766?tab=results

 

・ACHの既存治療法と課題

 ACHは四肢短縮による低身長を主な症状とする希少疾患で、厚生労働省から難病指定を受けております。umedaptanib pegolは疾患モデルマウスを利用した実験で、体長の短縮を約50%回復する効果を示しました。さらに、軟骨細胞への分化誘導が欠損していることが知られているACH患者由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)について、umedaptanib pegol存在下で、その分化誘導が回復することも確認いたしました(非臨床POC獲得)※3。本邦ではこれまで治療薬として成長ホルモンが使用されてきましたが、その効果は十分とは言えず、骨延長術(足の骨を切断して引き離した状態で固定し、骨の形成を促す)といった非常に厳しい治療が幼い子供に施されることもあり、効果の高い新薬が待ち望まれていました。

ようやく、2022年6月にACH治療薬としてBioMarin社のボックスゾゴの製造販売が承認されました。しかし、その効果は十分とは言えず、毎日の投与が必要となっているため、小児のACH患者にとって、もっと効果が強く、皮下注射の間隔が長く取れる新薬の開発が望まれています。

今般、当社のumedaptanib pegolの臨床試験において、5名中2名の患者において、低用量の1週間1回の皮下投与でボックスゾゴを上回る顕著な成長速度の増加が確認されたことは、ACHの小児患者にとっては朗報となるものです。今後、umedaptanib pegolの用量を更に増やし投与間隔も伸ばして、さらに優れた治療方法を確立していくことを検討しております。

 

※3:Kimura T, Bosakova M, Nonaka Y, Hruba E, Yasuda K, Futakawa S, Kubota T, Fafilek B, Gregor T, Abraham SP, Gomoklova R, Belaskova S, Pesl M, Csukasi F, Duran I, Fujiwara M, Kavkova M, Zikmund T, Kaiser J, Buchtova M, Krakow D, Nakamura Y, Ozono K, Krejci P. RNA aptamer restores defective bone growth in FGFR3-related skeletal dysplasia. Sci. Transl. Med., 13, eaba4226 (2021)

 

b)滲出型加齢黄斑変性(wet AMD)

・臨床試験

 umedaptanib pegolの複数回投与による臨床POC獲得を目的とした第2相臨床試験(試験略称名:TOFU試験)を米国で実施いたしました(被験者86名)。TOFU試験は、標準治療の抗VEGF治療歴のあるwet AMD患者を対象に、①umedaptanib pegolの硝子体内注射による単剤投与群、②既存の抗VEGF薬であるaflibercept(商品名アイリーア)とumedaptanib pegolの硝子体内注射による併用投与群、及び③afliberceptの硝子体内注射による単剤投与群の3群間で、umedaptanib pegolの有効性及び安全性をafliberceptと比較評価する、無作為化二重盲検試験でした。

また、TOFU試験の進捗に基づき、長期投与に伴う本薬剤の有効性と安全性、及び瘢痕形成を含む網膜の構造異常に対する効果を評価する目的で、umedaptanib pegolを単剤で投与するオープン試験としてのTOFU試験の延長試験(試験略称名:RAMEN試験)を行いました。RAMEN試験では、TOFU試験を完了した22名の被験者に対して、追加のumedaptanib pegolの硝子体内投与を1ヶ月間隔で計4回行いました。

さらに、治療歴のないwet AMD患者を対象にumedaptanib pegolの単独投与の有効性及び安全性を評価することを目的に、米国で医師主導治験(試験略称名:TEMPURA試験)を実施いたしました(被験者5名)。

 これらの結果は、英国王立眼科学会誌Eyeに2報の論文として掲載されました※4,5

 その要約は以下のとおりです。

 

 [論文要点]

・いずれの試験においても、umedaptanib pegolによる安全性に関する問題は発生しなかった。

・治療歴のないwet AMD患者においては、umedaptanib pegolの投与により、劇的な治癒例を含め、視力や網膜厚の改善が確認された(TEMPURA試験)。

・抗VEGF標準治療歴のあるwet AMD患者においては、umedaptanib pegol単剤投与、及びumedaptanib pegolとafliberceptの併用投与において、aflibercept単剤投与を上回る臨床有効性は観察されなかったものの、umedaptanib pegolの効果はafliberceptに対して非劣勢であり、症状の進行抑制が確認された(TOFU試験)。

・すべての試験を通じ、umedaptanib pegolはすでに形成された瘢痕(線維化)を除去する作用はなかったものの、瘢痕形成を抑制する効果が確認された。

 

 [今後の開発方針]

 今般、umedaptanib pegolの臨床POCが獲得されたと同時に、umedaptanib pegolは抗VEGF薬に先立つ処方が推奨される“first-line”治療薬となる可能性が示唆されました。現在標準治療となっている抗VEGF薬には、瘢痕化抑制作用がないため、既存療法の大きな Unmet Medical Needs になっています。そのため、今後、umedaptanib pegolを用いた未治療のwet AMD患者に対する臨床試験において瘢痕化抑制効果を証明することができれば、既存療法との重要な差別化ポイントとなり、“first-line”の新薬の実現に近づくものと考えます。そのため、他企業との提携・ファンド等からの資金調達を含めて検討してまいります。

 

※4:Pereira DS, Akita K, Bhisitkul RB, Nishihata T, Ali Y, Nakamura E, Nakamura Y: Safety and tolerability of intravitreal umedaptanib pegol (anti-FGF2) for neovascular age-related macular degeneration (nAMD): a phase 1, open label study. Eye, 2024 Apr;38(6):1149-1154. DOI: 10.1038/s41433-023-02849-6. Epub 2023 Dec 1.

 

※5:Pereira DS, Maturi RK, Akita K, Mahesh V, Bhisitkul RB, Nishihata T, Sakota E, Ali Y, Nakamura E, Bezwada P, Nakamura Y: Clinical proof of concept for anti-FGF2 therapy in exudative age-related macular degeneration (nAMD): phase 2 trials in treatment-naïve and anti-VEGF pretreated patients.Eye, 2024 Apr;38(6):1140-1148. doi: 10.1038/s41433-023-02848-7.Epub 2023 Nov 30.

 

c)増殖性硝子体網膜症(PVR)

 PVRの疾患内容や当社の取り組みについては、次の「その他の臨床開発優先度の高い自社パイプライン」(イ)RBM-006(抗Autotaxin(オートタキシン)アプタマー、増殖性硝子体網膜症(PVR)等の網膜疾患)にて記載の通りですが、umedaptanib pegolの適応疾患拡大を目指して、日本大学とPVRの薬物療法の開発に関する共同研究も2023年2月より実施しております。

 

その他の臨床開発優先度の高い自社パイプライン

 

 当社は、既存パイプラインを継続的、重層的に拡大し、中長期的に成長するために、特に優れた薬効が確認されているRBM-006及びRBM-011を、umedaptanib pegolに次ぐ臨床開発優先度の高いパイプラインと位置づけております。また、アプタマーに適した疾患領域である眼科疾患と希少疾患を今後の重点領域と考え、RBM-003及びRBM-010に関しては優先順位を変更し、以下にパイプラインの優先順位順に概要をまとめております。

 

(イ)RBM-006(抗Autotaxin(オートタキシン)アプタマー、増殖性硝子体網膜症(PVR)等の網膜疾患)

 RBM-006が対象とする増殖性硝子体網膜症は、網膜剥離や糖尿病網膜症の放置、網膜剥離の手術によって併発する網膜疾患です。多種の細胞が網膜表面や網膜内、硝子体腔内で増殖膜を形成し、当該増殖膜が収縮することによって網膜に皺壁(しゅうへき)形成や牽引性網膜剥離が生じ、重篤な視力障害や失明に至ります。硝子体手術などの治療によっても重篤な視力障害や失明に至る事が多く、また現在のところ有効な医薬品は存在しません。

 当社は、日本大学医学部視覚科学分野・長岡泰司教授(現 旭川医科大学教授)との共同研究において、ブタPVRモデルにおける抗オートタキシンアプタマーの効果を検討した結果、当該アプタマーが網膜細胞の増殖を抑制すること、及び当該モデルにおける増殖膜の形成を抑制し網膜剥離を抑制する効果があることが明らかになり、その成果が学術誌International Journal of Molecular SciencesにONLINE掲載されました※6

Autotaxinは脂質メディエーターであるLPA(リゾホスファチジン酸)の合成酵素であり、緑内障や特発性肺線維症等の複数の疾患においてLPAやAutotaxinの亢進が見られることから、新規治療薬の標的として注目されております。

 

また、当社は2024年7月に東京大学医学部眼科学教室と眼科疾患に関する2年間の共同研究を締結いたしました。本共同研究では、主要な眼科疾患である緑内障や糖尿病網膜症などをターゲットに治療薬の開発を目指します。これらの共同研究の成果が眼科疾患に対して新たな薬物治療の道を切り開くことを期待しております。

 

※6:Hanazaki H, Yokota H, Yamagami S, Nakamura Y, Nagaoka T: The effect of anti-autotaxin aptamers on the development of proliferative vitreoretinopathy. Int. J. Mol. Sci. 24, 15926 (2023).

 

(ロ)RBM-011(抗IL-21(インターロイキン21)アプタマー、肺動脈性肺高血圧症)

 RBM-011が対象とする肺動脈性肺高血圧症は、難病に指定されている病気であり、肺動脈壁が肥厚して血管の狭窄が進行した結果、高血圧をきたして全身への血液や酸素の供給に障害が生じ、最終的には心不全から死に至ることのある重篤な疾患です。プロスタグランジンI2誘導体製剤などの既存治療薬が十分な効果を発揮しない患者の予後は依然として極めて悪い状態です。これらの既存治療薬は、いずれも血管を拡張させる作用を持つものであり、血管壁の肥厚を改善する作用を持つ薬はなく、その開発が強く望まれています。

 2017年度から3年間は、AMEDの難治性疾患実用化研究事業の一環として、また2020年度からの3年間は、AMEDの治験準備(ステップ1)研究として助成を受け、肺動脈性肺高血圧症の国内での専門医療機関である国立研究開発法人国立循環器病研究センター(国循)との共同研究を進めてまいりました。当該共同研究において、抗IL-21アプタマーが肺動脈性肺高血圧症モデル動物において、肺動脈壁の肥厚を顕著に抑制することが明らかにされました。

 また、国循との共同研究と並行して、原薬合成を完了し、PMDAと協議の上、第1相試験のための毒性試験を実施し2023年6月に完了しております。

 

 

その他のプロジェクト並びに自社創薬に付随する事業

 

(イ)RBM-003(抗キマーゼアプタマー、心不全)

 心筋梗塞直後に、Chymase(キマーゼ)は肥満細胞と心筋細胞等の組織損傷部位から分泌され、アンジオテンシンⅡ等の活性化をとおして、心筋に悪影響を及ぼすことが知られております。ハムスターを用いた冠動脈結紮による心筋梗塞急性期モデルにおいて、抗キマーゼアプタマーの投与は、梗塞後のキマーゼ陽性肥満細胞の集積及びキマーゼ活性を抑制し、顕著な心機能改善効果を示しました※7。さらに、抗キマーゼアプタマーの投与は、冠動脈結紮の前投与のみならず、後投与においても顕著な心機能改善効果を示し、冠動脈結紮を行った実験動物(ハムスター)の生存率を著しく改善いたしました。抗キマーゼアプタマーは他のキマーゼ阻害剤と比べて非常に強い酵素阻害活性を持つことが確認されており、急性心不全に対する注射薬の開発を目指しております。

 

※7:Jin D, Takai S, Nonaka Y, Yamazaki S, Fujiwara M, Nakamura Y. A chymase inhibitory RNA aptamer improves cardiac function and survival after myocardial infarction. Mol. Ther. Nucl. Acids, 14, 41-51 (2019).

 

(ロ)RBM-010(抗ADAMTS5アプタマー、変形性関節症)

RBM-010は、当社と大正製薬株式会社との共同研究で創製されたアプタマー製品で、変形性関節症の増悪因子の一つであるADAMTS5(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs 5)の働きを抑制する作用があります。変形性関節症は、種々の原因により、膝や足の付け根、肘、肩等の関節に痛みや腫れ等の症状が生じ、その後関節の変形をきたす病気です。現在、治療法としては痛みや腫れを和らげる薬の服用や関節置換術などの手術しかなく、寛解させる薬はありません。本邦には、変形性関節症を有している人が、2,500万人以上、また、世界では、変形性関節症の患者が約2億4,000万人以上と推定されており、今後高齢化に伴いさらに増加が予測されております。

 RBM-010は、関節での軟骨成分の分解を促進しているADAMTS5を抑制することにより、変形性関節症の症状進行を遅らせることが期待でき、現在、局所投与による徐放性製剤の開発を目指しております。

 

(ハ)自己免疫疾患に対する治療薬の創製

多くの自己免疫疾患において自己抗体の関与が示唆されており、当社は自己抗体の産生に重要な役割を果たす生体シグナル分子を阻害するアプタマーを非臨床開発ステージのパイプラインに所有しております。

 これらを活用することにより自己抗体が原因となる自己免疫疾患に対する効果的な治療薬を創製することが出来ると考えており、国立大学法人北海道大学大学院保健科学研究院とANCA関連血管炎に対する薬理作用を検討するための共同研究契約を2023年10月に締結いたしました。

 本共同研究において、自己抗体産生やそれに伴う炎症反応を抑制することを示すことができれば、ANCA関連血管炎のUnmet Medical Needsを満たす薬剤の開発につながるとともに、他の自己免疫疾患に対する適応拡大も期待されます。

 

(ニ)AIアプタマープロジェクト

アプタマー医薬品の汎用性をさらに活かすため、国立研究開発法人科学技術振興機構から委託されているコンピューター科学を応用した技術開発(JST委託事業)等を継続して進めております。2018年度から開始されたJST委託事業において、当社は早稲田大学と共同し、バイオインフォマティクスを駆使したアプタマー探索技術(RaptRanker)を開発いたしました※8。さらに、2021年4月から3年間の事業として、「AIアプタマー創薬プロジェクト」がJST委託事業に採択され、当社は早稲田大学と共同で、RNAアプタマーの創薬プロセスを、深層学習などの人工知能技術を活用することで、創薬期間の短縮及び創薬成功確率の向上を実現させることを目指し、研究を進めております。この研究におきまして、変分オートエンコーダを応用した革新的な配列生成技術であるRaptGenを新たに開発いたしました。SELEXで得られた特定の標的に対する多数の標的結合アプタマーの配列を、RaptGenを用いて解析することにより、もともとのSELEXデータに含まれていない、前記標的に強く結合する新規のアプタマー配列の生成も可能となりました。RaptGenについては、2022年6月3日にNature Computational Scienceに掲載されております※9。また、JST委託事業では課題事後評価結果に基づき、研究期間延長及び研究費の追加によって戦略目標達成に大きく貢献する研究成果が期待できる課題に対し1年間の追加支援を実施しており、「AIアプタマー創薬プロジェクト」は、これまでAI(人工知能)を用いたRaptGenの開発等、革新的な成果を挙げていることから、他領域も含む課題の中から追加支援に採択されました。

 さらに、2023年度から2025年度の予定で、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施する「量子・AIハイブリッド技術のサイバー・フィジカル開発事業」において、当社と産業技術総合研究所及び早稲田大学を実施予定先とする研究課題「量子・AI次世代創薬」が採択されました。本研究課題では、RNAアプタマーの最適化を題材として、量子計算技術と人工知能を組み合わせた“量子・AIハイブリッド技術”の活用により、従来技術では達成困難な医薬品創生プラットフォームの確立を目指します。

 本事業は初期仮説検証フェーズと本格研究フェーズから構成されており、中間時点において約半数のプロジェクトを打切りとするステージゲート審査が設けられておりますが、2024年9月にステージゲート審査を通過し、本格研究フェーズへ移行しております。

 

※8:Ishida R, Adachi T, Yokota A, Yoshihara H, Aoki K, Nakamura Y, Hamada M. RaptRanker: in silico RNA aptamer selection from HT-SELEX experiment based on local sequence and structure information. Nucl. Acids. Res., 48, e82 (2020).

 

※9:Iwano N, Adachi T, Aoki K, Nakamura Y, Hamada M. : Generative aptamer discovery using RaptGen. Nat. Comput. Sci., 2, 378–386 (2022).

 

(ホ)DDSアプタマープロジェクト

当社では、RaptRanker及びRaptGenを含むRiboARTシステムをさらに発展させると共に、今後は、RiboARTシステムを用いて、ドラッグデリバリーシステム(DDS)用のアプタマー開発に取り組んでおります。DDSとは、体内における薬剤の分布を制御することで、薬剤の効果を最大に高める一方で、薬剤の投与回数及び副作用を軽減するための、薬剤の体内動態を制御する技術です。近年の医薬品開発を取り巻く環境は著しい変化を遂げており、ブロックバスター創出のための疾患発症の標的分子の枯渇や、Unmet Medical Needsの高まりなどを理由に、多数のモダリティ(治療手段)が生まれてきております。特に核酸医薬を中心として、さまざまな生体内バリアを突破させ、標的部位(臓器、組織、細胞等)へと効率的に送り込むにはDDSが必要不可欠となります。

 アプタマーは化学合成品であり、抗体、低分子化合物、及びASO、siRNA、mRNAなどの核酸医薬等に化学的に結合させることが可能です。DDSとして利用可能なアプタマーを取得するための期間は1年から2年単位と短いため、アプタマー取得後は、大手製薬企業を含む様々な企業に提供することで、基礎段階より早期に収益をあげていきたいと考えております。

 DDSアプタマープロジェクトの一環として、当社の所有するアプタマーの光免疫療法への応用可能性を検討するために学校法人慈恵大学との共同研究契約を2023年9月に締結いたしました。光免疫療法は、標的特異的な薬剤送達と腫瘍に限局した光照射を組み合わせることで、正常組織へのダメージを最小限に抑えた、患者負担の少ない治療法として、がん領域を中心に注目を集めております。共同研究先である学校法人慈恵大学・光永眞人講師らのグループは光免疫療法に関する高い研究実績があり、細胞試験系、動物実験系のノウハウを保有しております。

 当社では、膜タンパク質を認識する複数のアプタマーを開発しており、本共同研究においてこれらアプタマーの光免疫療法への応用可能性を検討しております。

 

(ヘ)製剤化技術開発

次世代型アプタマー医薬品に関する技術開発を目的として、ポリエチレングリコール(PEG)の代替技術を研究開発しております。PEGは粘性が高く、過酸化物を生成する等、化学的性質に課題があることがわかっており、この課題を解決するため、味の素株式会社との共同研究契約を2023年10月に締結いたしました。

 本共同研究では、当社独自の核酸アプタマー化合物作製及び測定技術と、味の素株式会社が有する抗体-薬物複合体製造技術AJICAPを組み合わせ、アプタマーの体内動態制御技術の確立を目指します。

 さらに、当社は、アプタマーとポリエチルオキサゾリン(PEOZ)とのコンジュゲートが優れた体内動態を示し、PEGの代替化合物となることを見出しました。PEOZはPEGに比べて低粘性で、過酸化物等が生じず、化合物の品質管理が容易であることが知られております。またPEOZは、市販の材料から容易に合成可能であり、将来的に低コストで供給できることが期待されます。当社の検討において、アプタマーとPEOZとのコンジュゲートを作成することにより、現在汎用しているPEGを上回る血中半減期延長効果を示すことが明らかになったため、特許出願するに至りました。

 

共同研究事業

 

 三菱商事ライフサイエンス株式会社(旧:ビタミンC60バイオリサーチ株式会社)との共同研究開発契約に基づき、化粧品原料候補の創製・開発に関する共同研究を実施し、有望なアプタマーの創製に成功しており、先方にてアプタマー評価を継続して行っております。

 

世界におけるアプタマー医薬品の臨床開発動向

 

Macugenは世界初のwet AMD治療薬として承認されましたが、その後VEGFを標的とする抗体や可溶性のデコイ(おとり)受容体を利用した、さらに有効な医薬(Lucentis、Eylea、Avastin等)が開発されて、現在、Macugenはほとんど使用されなくなりました。2004年のMacugenの成功は、アプタマー医薬の開発を鼓舞する意味も大きく、その後、複数のアプタマー医薬候補品が臨床試験に進みました。その中でも注目された二つのアプタマー(REG1、Fovista)の治験が最終の第3相試験で成功せず、アプタマー創薬に関してネガティブな印象を残し、その後、アプタマー医薬品の開発は世界的に停滞しているようにもみえました。しかし、ようやく最近、補体C5に対するアプタマー(ARC1905: IZERVAYTM)が萎縮型加齢黄斑変性(dry AMD)に有効であることが、第3相試験で証明され、2023年8月米国FDAは製造を承認しました。IZERVAYTMを開発したIveric Bio社は、アステラス製薬に総額約8,000億円で買収されております。

現在、当社のumedaptanib pegolを含めて9種類のアプタマーが臨床試験の過程にあり、アプタマー医薬品開発の機運が再び盛り上がっております。これらの動向において、MacugenやIZERVAYTM、そしてumedaptanib pegolがいずれも眼科疾患に対して奏功したことから、アプタマーは眼科疾患にフィットするモダリティ(治療手段)であることが示唆されました。眼は閉鎖系の小さな器官であるため硝子体内投与に必要な薬剤量が少なく、全身への薬剤の暴露が少なく安全性にも優れているため、眼科疾患に対する新薬の開発はアプタマーに最適な疾患だと考えております。

眼科疾患には様々な免疫系や炎症系サイトカインや増殖因子が複雑に絡みあい発症することがこれまでの薬理研究によって明らかになってきました。当社保有のアプタマーのパイプラインには、これらの炎症や免疫に関与する因子(FGF2、autotaxin、IL-21、ST2等)に対する阻害剤が多数含まれているため、今後アカデミアや企業との共同研究や自社開発によって、各種の眼科疾患モデル動物でこれらの薬理効果を調べていく予定です。同時に、世界におけるアプタマー医薬品の臨床開発動向を注視してまいります※10

 

※10:中村義一.アプタマー:加齢黄斑変性への適応. Clinical Neuroscience Vo.41(No.5) 630-634 (2023).

 

 これらの結果、当中間会計期間において、事業収益2百万円(前年同期の事業収益はありません。)、事業費用として研究開発費を321百万円、販売費及び一般管理費を192百万円計上し、営業損失は512百万円(前年同期の営業損失は581百万円)となりました。

 また、営業外収益として、コンピューター科学を応用した技術開発を目的としたJST委託事業や量子計算技術と人工知能を組み合わせた技術の活用により、医薬品創製プラットフォームの確立を目的としたNEDO委託事業等による助成金収入35百万円を計上した一方で、営業外費用として、保有する外貨の評価替えによる為替差損2百万円等を計上したことにより、経常損失は479百万円(前年同期の経常損失は554百万円)となりました。これにより中間純損失は479百万円(前年同期の中間純損失は554百万円)となりました。

 また、当社は創薬事業及びこれに付随する事業を行う単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。

 

 ② 財政状態に関する説明

  (イ)資産の部

 当中間会計期間末における総資産は、前事業年度末に比べて152百万円減少し、3,394百万円となりました。これは有価証券が200百万円増加した一方で、現金及び預金が336百万円減少したこと等によるものです。なお、当中間会計期間末において保有している有価証券は、第17回新株予約権等により調達した資金の一部について、研究開発への充当時期まで、一定以上の格付けが付された金融商品で元本が毀損するリスクを抑えて運用することを目的としたものです。

 

(ロ)負債の部

 当中間会計期間末における負債は、前事業年度末に比べて47百万円減少し、108百万円となりました。これは、未払法人税等が11百万円増加した一方で、その他が35百万円、未払金が24百万円減少したこと等によるものです。

 

(ハ)純資産の部

当中間会計期間末における純資産は、前事業年度末に比べて105百万円減少し、3,286百万円となりました。これは、第17回新株予約権の行使に伴い、資本金及び資本準備金がそれぞれ188百万円増加した一方で、中間純損失479百万円を計上したこと等により、利益剰余金が同額減少したことによるものです。

 

 (2)キャッシュ・フローの状況

 当中間会計期間末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前事業年度末に比較し336百万円減少し1,763百万円となりました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動の結果使用した資金は475百万円(前年同期は547百万円の支出)となりました。主な資金減少要因は、税引前中間純損失479百万円によるものです。

 

 

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動の結果使用した資金は231百万円(前年同期は321百万円の支出)となりました。資金減少要因は、有価証券の増加額200百万円、有形固定資産の取得による支出31百万円によるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動の結果得られた資金は372百万円(前年同期は得られた資金はありません)となりました。資金増加要因は、第17回新株予約権が行使されたことに伴う株式の発行による収入372百万円によるものです。

 

 (3)会計上の見積り及び見積りに用いた仮定

 前事業年度の有価証券報告書に記載した「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」中の会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定の記載について重要な変更はありません。

 

 (4)事業上及び財務上の対処すべき課題

 当中間会計期間において、当社が対処すべき課題に重要な変更はありません。

 

 

 (5)研究開発活動

 当中間会計期間の研究開発費の総額は321百万円であります。

 なお、当中間会計期間において、2024年6月26日に提出の有価証券報告書に記載した研究開発活動(研究開発に関する活動の状況(戦略、成果、特徴、並びに体制)について、新薬候補化合物の主な開発状況)に関し重要な変更はありません。

 

3【経営上の重要な契約等】

 当中間会計期間において、締結した経営上の重要な契約は以下のとおりであります。

 

共同研究開発に関する契約

契約書名

共同研究契約書

契約相手方名

国立大学法人東京大学

契約締結日

2024年7月19日

契約期間

2024年7月19日~2026年7月31日

主な契約内容

核酸アプタマーの眼科疾患に対する新たな治療薬としての可能性の検討。

当社は、共同研究契約期間の研究費を支払う。

 

契約書名

共同研究契約書

契約相手方名

日本大学産官学連携知財センター(以下「NUBIC」)

契約締結日

2023年2月9日

契約期間

2022年12月1日~2024年11月30日まで

主な契約内容

①当社はNUBICに対し、本契約において予め定められた研究費を支払う。

②RBM-007を含む複数のアプタマーについて、増殖性硝子体網膜症(PVR)に対する薬理作用を検証するための共同研究を行う。

(注)1.2024年5月31日までの契約期間を2024年11月30日まで延長しております。

   2.本契約は、国立大学法人旭川医科大学を含めた3者間契約に変更しております。

 

契約書名

共同研究契約書

契約相手方名

学校法人慈恵大学

契約締結日

2023年9月8日

契約期間

守秘義務により非公開

主な契約内容

①当社は慈恵医科大学に対し、本契約において予め定められた研究費を支払う。

②当社の所有するアプタマーの光免疫療法への応用可能性を検討する。

(注)本中間会計期間において、契約期間を延長しております。