第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1) 経営の基本方針

当社は、「私たちは、がん免疫治療分野の最先端を切り拓くことにより、一人ひとりが自らの力でがんを克服する世界を実現します。」を経営理念として、新規がん免疫治療薬を創製することによって、現在進行しているがん治療革新の一翼を担いたいと考えております。

これを実現するために、当社は①開発領域をがん免疫治療薬に特化し、②シーズ導入・創製において国内外のアカデミアやベンチャー企業と広く連携するオープンイノベーションを進めながら、③ライセンスアウト型事業モデルによる好循環で持続可能な開発及び企業成長を目指してまいります。

 

① がん免疫治療薬にフォーカスするのは、がん免疫に働きかけてがんを排除するという創薬コンセプトの有効性が免疫チェックポイント阻害抗体によって証明されており、この創薬コンセプトを具現化する方法を拡げることによって、従来の治療法では治療効果を得られなかったアンメットメディカルニーズを満たすことができるフロンティアが依然として大きく存在するからです。それは、当社が創業以来取り組んで来た経験とノウハウの蓄積がある領域であり、世界の医薬品市場の成長を他のどの医薬品カテゴリーよりも牽引している領域でもあります。

 

② オープンイノベーションを進めるのは、今や日進月歩でサイエンスが更新されていくがん免疫療法の領域において、最先端のサイエンスへのアクセスを可能にするためです。がん免疫治療のフロンティアには、アンメットメディカルニーズを満たすためのサイエンスがまだ数多く存在しています。創薬ベンチャーとして創薬を好循環で進めるために、当社は③のライセンスアウト型の事業モデルを採っています。知的財産を導出することによって収益化を図るモデルで、その知的財産は、最先端のサイエンスが織り込まれていないと成立しません。

 

③ ライセンスアウト型の事業モデル(シーズの創製や創薬コンセプト証明に集中し、大掛かりな組織体制を必要とする後期臨床試験以降は、製造販売網を有する製薬企業にライセンスアウトして早期収益化を図る事業モデル)を採るのは、創薬ベンチャーとして開発を持続して行えるようにするためです。一つひとつの新規医薬品候補物質の研究開発は、シーズの創製から規制当局の承認を得て医薬品として製造販売に至るまで、薬事規制等に則って探索的研究から第三相臨床試験まで段階を踏みながら進められ、全体として長期間に及ぶとともに多額の資金を必要とします。よって、財務負担が蓄積し経営の機動性を喪失する前に、早期収益化を図ります。

 

(2) 目標とする経営指標

当社では、ライセンスアウト時の契約一時金と、その後の継続的なマイルストン報酬(マイルストン収入、販売ロイヤリティなど)を収益とするビジネスモデルを採っているため、製薬企業へのライセンスアウト(タイミングとライセンス取引額)、原則としてライセンスアウト成立の前提となる、創薬コンセプトを証明する非臨床試験または臨床試験成績の取得、そこに至るまでの開発イベント(例えば、当局による治験開始申請の受理)が、重要な経営イベントとなります。

持続可能な企業成長と企業価値の向上を目指して、また技術革新著しいがん免疫治療薬分野における事業機会を逃さないために、開発ポートフォリオの継続的な更新を重視しており、既存のパイプラインの開発推進や新規パイプラインの自社創製のみならず、新規パイプラインの導入やオープンイノベーションに基づく共同創出も積極的に進めてまいります。

なお、研究開発型の創薬ベンチャーは、研究開発投資からライセンスアウトによる収益化までの長期間に及ぶ事業サイクルが、開発パイプライン複数個によって資産(企業価値を構成するソフトな資産)構成されるため、売上高や当期純損益や、ROE、ROAといった年単位で見る指標は、適切な経営指標となりにくいと考えております。

 

 

(3) 中長期的な会社の経営戦略

現在当社は、免疫システムに働きかけ免疫を使ってがんを排除させるメカニズムの「がん免疫治療」薬に開発領域を定め、その医薬品形態としてがんワクチン、細胞医薬、抗体医薬という3つのモダリティでパイプラインを構成し、医薬品開発プロセス上は探索研究から早期臨床試験までを国内外で手掛け、早期収益化を図るために国内外の製薬企業に開発途中段階でライセンスアウトしていく事業モデルを採っています。

中長期的には、開発領域は、軸足をがん免疫治療薬に置き続けることは変わりませんが、がん免疫治療薬で築いた創薬プラットフォームを他の疾患の治療薬(例えば感染症)に用いる可能性はあり、モダリティも現在の主力の3つに軸足を置きながらもより新しいモダリティ(例えば核酸、融合タンパク)を採用していく可能性はあります。手掛ける医薬品開発プロセスは、現在のモデルでいずれかのパイプラインのライセンスアウトが成功し、開発費の負担に耐えうる資金力がついた暁には、より多くの収益を当社が取り込めるよう、それに続く複数のパイプラインのうちいくつかは後期臨床試験以降まで進め、創薬ベンチャーから製薬企業へ転換を図っていくことも想定しています。そのときには、各パイプラインの開発が進み、一つひとつを独立したものでなく、複合的に治療に用いて相乗効果を引き出す統合的ながん免疫治療アプローチを採ることができるようになっていると考えています。

 

(4) 会社の対処すべき課題

持続的な企業価値の向上を図るうえで、当社が対処すべき課題として認識している事項は、以下のとおりです。

 

① 各開発パイプラインの次の開発段階への移行

当社は、資金や人的リソースを効率的に活用して研究開発を推進するために共同開発パートナーやアカデミア等の連携先と綿密なコミュニケーションをとり、協業を進めることが既存の開発パイプラインの価値を高め、次の開発段階へと前進させる原動力と認識しています。当社はパイプライン別に他社の開発動向を精査した上で競争力を保ちつつ開発を進めるための戦略・戦術を策定し、製薬企業等へのライセンスアウトを模索しております。

 

   ② 競争力のあるパイプラインのポートフォリオ構築

当社は、現時点では新薬候補を後期臨床試験に至る前に製薬企業にライセンスアウトする事業モデルを採っています。ライセンスを成功させるためには当該新薬候補がその時点でサイエンスの面で陳腐化していてはならず、さらにがん免疫療法は全医薬品業界の成長を牽引する領域であるからこそ日進月歩でサイエンスが進んでいるため、当社は常に同分野全体のサイエンスが向かう方向性と進捗をみながら、各パイプラインの開発ステージを探索から非臨床試験、そして臨床試験へと一定期間内に上げて行くとともに、必要に応じてパイプラインの入れ替えを図っていくことを求められています。

 

   ③ 最先端のサイエンスへのアクセスを可能とする研究開発体制の構築

当社が関わるがん免疫療法は、医薬品業界の成長を牽引するとともにサイエンスが日進月歩で進展する領域であるため、社内に専門性の高い研究員と充実した研究施設を有することが不可欠で、常にこれを向上させていく必要があります。

 

   ④ 経営体制の強化

   (ⅰ)人材の確保と育成

他の創薬ベンチャーと同様に当社も新規性のある医薬品の開発を行っておりますので、個々の社員には非常に高度な専門性が要求されます。そのため、適切な人材の確保が重要な課題となります。十分な技術・知識のみならずベンチャーマインドを有し、成長意欲のある人材を全部門において採用し、OJTによる人材育成により、今後拡大・加速していくことが予想される事業・研究開発スピードに対応してまいりたいと考えております。

 

   (ⅱ)コーポレート・ガバナンスの強化

当社にとって前述のアライアンス・ネットワーク体制の構築は重要な課題であり、また株主を含めたステークホルダーとの良好な関係も重要な課題であります。社外関係者との良好な関係の構築のためには、社会的信用を維持・向上させていく必要があると認識しております。特に、当社の取引先は主に上場企業、医療機関、公的な研究機関でありますので、協業体制を構築し、取引関係を維持していくには、当社も社会的信用を維持していく必要があります。また、世間に広く製品を提供していく創薬企業としての社会的責任を果たしていく必要があると認識しております。

そのため、当社は小規模ではありますが、コーポレート・ガバナンス体制を構築し、内部管理体制及び管理部門の強化を推進してまいります。また、内部監査の充実及び監査役との連携強化などの施策により業務執行の適法性・妥当性を監視する機能を強化し、財務報告に係るリスクを最小化して、経営の健全化に努めてまいります。

 

   (ⅲ)資金調達・財務基盤の強化

当社は創薬ベンチャーであり、実際の製品化までの研究開発活動において年単位での時間を要します。製品化までの研究開発活動において設備投資、人材の採用・育成、また、企業価値向上のための新規パイプラインの創製(最新の技術の探索、導入及び共同研究など)に多額の資金が必要となります。これらの資金を外部から調達する必要があり、中長期的な視点から、財務基盤の強化のためにも、様々な資金調達の可能性を検討してまいります。

 

   ⑤ IR活動の推進

当社は、株主・投資家等のステークホルダーからの意見を収集し、経営のさらなる改善に努め、また、企業情報及び研究開発の状況等を正確、適時及び適切に発信し、信頼と正当な評価を得ていくことを目指します。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社のサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1) サステナビリティに関する考え方

 当社は創業以来、がん細胞を排除する免疫の仕組みを利用してがんを治療する新規医薬品の開発を行ってまいりました。がんの個別性や免疫応答の多様性にどう対応していくか、未解明の領域、満たされていない医療ニーズがたくさん残されていると考えています。当社は、コーポレート・アイデンティティである「一人ひとりが、自ら(備え持つ免疫)の力でがんを克服する世界の実現」を目指しておりますが、当社の研究開発活動は、国連で定められたSDGs(持続可能な開発目標)「17の目標」に含まれる「3 すべての人に健康と福祉を」に通ずるものです。当社の事業活動の原動力は当社で働くすべての従業員であり、従業員がいきいきと働き続けられるような「働きやすい職場づくり」を今後も継続して整備してまいります。

  また、気候変動に関連する問題は様々な形で社会・経済活動に影響を与えており、サステナビリティを語るうえで避けては通れない課題ですが、研究開発活動を主体とする当社の現在の状況を鑑みた際に著しく重要である課題とは認められませんでした。従いまして、当社のサステナビリティ戦略上重要課題として取り扱いませんが、社会の一構成員の責任としてペーパーレス化や節電節水など資源を無駄にしないよう引き続き取り組んでまいります。

なお、情報管理に関する事項については「第2 事業の状況 3 事業等のリスク (7) 社内体制について ② 情報管理について」に、ガバナンス体制に関する事項については「第4 提出会社の概況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要」にそれぞれ記載しております。

 

(2) サステナビリティに関する取組

 ① ガバナンス

当社では、かねてよりリスク管理規程を設け、取締役社長は、全社的なリスクの統括実施管理に当たる総括実施責任者を任命し、かつリスク管理のための組織としてリスク管理委員会を設置しています。リスク管理委員会は、代表取締役社長が委員長を務め、総括実施責任者及び各部長が委員を構成しています。取締役会は、四半期ごとに開催されるリスク管理委員会から報告、提案された内容について審議・監督を行っています。

 ② リスク管理

 リスク管理委員会では、事務局である管理部が中心となって、当社に影響を与えると思われるリスクの洗い出しと評価を行い、その影響度と発生の可能性から議題を選定しています。当事業年度においては、リスク管理委員会において、主に防災対策の立案や、労働環境の安全衛生環境の整備について議論し、それぞれの対策を実施しました。

(3) 人的資本に関する戦略(方針)、指標及び目標

 ① 戦略(方針)

当社では、当社のコーポレート・アイデンティティに基づき、「がんを克服する世界の実現」に向けてともに目指していける人材を、様々な経験、スキルを鑑み、積極的に中途で採用し、多様性のある組織を目指しています。小規模な組織であるがゆえに経験を積んだ人材を登用する傾向があり、従業員の平均年齢が比較的高くなっておりますので、積極的に若い世代の従業員を採用しています。

そのような人材が当社の研究開発を進めるうえでの最も重要な財産ですので、育児や介護といった個々の抱える事情が、能力を十分に発揮することの妨げとならないよう環境整備を行ったり、管理職にマネジメント研修を行いハラスメント防止に努めたりすることで「働きやすい職場づくり」の実現を目指しています。

また、それらの対応策として、管理職へのリーダーシップ教育やハラスメント防止の研修を継続して実施するとともに、当社のコアスキル以外の専門業務のアウトソース化や、派遣社員の正社員登用などの施策を推進しました。

 ② 指標及び目標

当社は、従来「働きやすい職場づくり」の実現に向けて、社内管理職への啓蒙活動の実施と、各事案への個別対応に努めてまいりました。小規模な組織であるため、適切なKPIの定義と目標設定に時間を要しており、現在具体的な指標及び目標を定めるに至っておりません。今後においては、現状把握を行った上で適切なKPIの定義と目標設定を行い、その進捗管理に努めることで一層の「働きやすい職場づくり」への改善に取り組んでまいります。

 

 

3 【事業等のリスク】

当社の事業展開その他に関するリスク要因となる可能性があると考えられる主な事項を以下に記載しております。また、当社として必ずしも重要なリスクと考えていない事項及び具体化する可能性が必ずしも高くないと想定される事項についても、投資判断の上で又は当社の事業活動を理解する上で重要と考えられる事項については、投資家に対する積極的な情報開示の観点から開示しております。当社は、これらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針でありますが、それらのすべてについて回避できる保証はありません。また、以下の記載内容は当社のリスクすべてを網羅するものではありませんのでご留意ください。
なお、本項記載の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであり、不確実性を内包しているため、実際の結果とは異なる可能性があります。

 

(1) 創薬事業全般にかかるリスクについて
 当社の手掛ける創薬事業では、一つひとつの新規医薬品候補物質の研究開発が、シーズの創製から規制当局の承認を得て医薬品として製造販売に至るまで、薬事規制等に則って探索的研究から第三相臨床試験まで段階を踏みながら進められ、全体として長期間に及ぶとともに多額の資金を必要とします。
そのため、財務状況への負荷の蓄積をところどころで緩和し、持続可能な成長を実現させるために、当社は医薬品候補物質毎に、シーズの創製や創薬コンセプト証明に集中し、大掛かりな組織体制を必要とする後期臨床試験以降は、製造販売網を有する製薬企業にライセンスアウトして早期収益化を図る事業モデルを採っています。
 ライセンスアウトは、開発の段階毎に目標とする試験成績が積み上げられていくことが前提となるので、いずれにせよ研究開発の進捗がライセンスアウトの成否を大きく左右します。そのため、試験成績の目標未達、開発が先行する競合新薬候補が及ぼす影響や、技術革新がもたらす当該技術の陳腐化等により、研究開発が進行遅延若しくは終了・中止を免れない状況になった場合には、ライセンスアウトが成立しなくなる可能性があり、成立した後でも、ライセンス契約解消若しくはロイヤリティ収入の低迷の可能性があります。その場合には、当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(2) 法的規制等にかかる不確実性について
 当社が携わる研究開発領域は、研究開発を実施する国ごとに薬事に係る法律、薬価等が関係する医療保険制度及びその他の関係法規・法令による規制が存在します。当社の事業計画・研究開発計画は、現行の薬事関連法規・法令や規制当局の承認・認可の基準(Good Laboratory Practice、Good Manufacturing Practice、Good Clinical Practice等)を前提に作成しておりますが、これらの法律・法令及び基準は技術の発展・市場の動向などにより適宜改定されます。これにより既存の研究開発の体制(組織的な体制、製造方法、開発手法、臨床試験の進め方、追加試験を行う必要性の発生など)の変更が必要となる場合、その体制の変更に速やかに対処できず研究開発が遅延・中止となるリスク、人員確保や設備投資に計画外の追加資金が必要となり、追加資金確保のために新たな資金調達が必要となるリスクがあり、当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) 競合について
 当社が携わる研究開発領域は、急激な市場規模の拡大が見込まれており、欧米を中心にベンチャー企業を含む多くの企業が参入する可能性があります。競合他社の有する医薬品候補物質の研究開発が当社の有する医薬品候補物質と同じ疾患領域で先行した場合又は競合新薬が上市された場合、当社の開発品の競争力が低下する可能性があります。その結果として、当社が進める臨床試験の被験者登録が停滞する等により臨床試験が遅延する可能性若しくは目標被験者数に届かない等により臨床試験が中止となる可能性、導出していた場合はライセンス契約解約の可能性又は上市後に想定したロイヤリティが得られない可能性があり、当社の事業戦略や経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) 研究開発活動について
 ① 製造物責任のリスクについて
 臨床試験実施中に使用する治験薬、大学及びその提携施設が実施する医師主導治験用に提供する治験薬等並びに当社が研究開発した上市後の医薬品に起因して、未知の重篤な健康被害を被験者又は患者に与えた場合、製造物責任を当社が負う可能性又は治験薬等の提供先若しくは導出先の企業から損害賠償の請求を受ける可能性があります。これらの場合には、当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。

 

② 副作用に関するリスクについて
 当社が研究開発を実施した治験薬及び上市後の医薬品で、臨床試験段階から製品上市後にかけて、予期せぬ重篤な副作用が発現する可能性があります。重篤な副作用が発現した場合、製造物責任等の損害賠償リスクが発生する可能性がありますが、保険の加入などにより財政的な影響を回避又は最小限にしていくよう対応しておりますが、当社の業績及び財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 研究開発施設等における事故等の発生に関するリスクについて
 当社は、本店及び事業所に研究開発施設を有しております。事故防止の管理教育は徹底しておりますが、何らかの原因により火災や環境汚染事故、感染等が発生した場合、研究開発活動の中断、停止、又は、損害賠償や風評被害等重大な損失を招く可能性があります。また、当社は、経営の機動性・効率性の観点、コスト低減や専門性の高い分野における協業などの観点から、研究開発業務の一部を専門機関である外部委託先(CRO-医薬品開発業務受託機関、治験実施施設、原薬・製剤の製造業者等)に委託しており、これら外部委託先において何らかの原因により火災や環境汚染事故等が発生した場合にも、当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(5) 知的財産権について
 ① 特許の状況について
 現在出願中の特許については、特許出願時に特許性等に関する調査を行っておりますが、すべてのものが特許として成立するとは限りません。出願中の特許が成立しなかった場合又は登録された特許権が無効化された場合、当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。また、特許の出願は、特許の内容、対象国などについて費用対効果を考慮して行いますので、研究開発で得られたすべての特許を出願するものではありません。また、出願費用・維持費用等のコストを回収できない可能性があります。
 なお、当社のパイプラインにおいて、その実施に支障又は支障をきたす可能性のある事項は、当社が調査した限りにおいて存在しておりません。

 

② 知的財産権に関する訴訟及びクレーム等について
 本書提出日現在において、当社の事業に関連した特許権等の知的財産権について、第三者との間で訴訟やクレームといった問題が発生した事実はありません。当社は、弁護士及び弁理士との連携を図って可能な限り特許侵害・被侵害の発生リスクを軽減する対策を講じております。
 ただし、今後において当社が第三者との間の法的紛争に巻き込まれた場合、弁護士等と協議のうえ、その内容によって個別に対応策を検討していく方針でありますが、解決に時間及び多大の費用を要する可能性があり、場合によっては当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(6) 研究開発費が多額の見通しであることについて
 当社による医薬品候補物質の研究開発の期間は長期間にわたります。また、研究開発の期間においては非常に多くの実証・確認すべき事項があること、また当社では日本国内のみならず海外においても研究開発活動を行っていることなどから研究開発費は多額となる見通しであります。
 製薬企業等とのライセンス契約から発生する契約一時金収入、マイルストン収入、ロイヤリティ収入を研究開発中のパイプライン及び新規パイプラインに再投資することを事業及び資金サイクルとしていくこととしておりますが、製薬企業等との契約締結が想定通りに進まない場合又は既存のパイプラインにおいて想定以上の研究開発費が必要となった場合などにおいては、当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(7) 社内体制について
 ① 小規模組織であることについて
 当社は、役員8名(取締役5名、監査役3名)、従業員は24名(2024年3月31日現在)であり小規模な組織となっており、内部管理体制も規模に応じたものとなっております。人員については、研究開発の状況に応じて増員を図っていく予定であり、内部管理体制も規模に応じて体制の強化を図っていく予定であります。
しかし、小規模組織のため、役員はじめ従業員においてもそれぞれが重要な役割を持って業務に従事しており、特定の役員・従業員への過度な負担・依存とならないよう経営組織の強化を図る予定でありますが、退任・退職により人材が流出した場合、長期休養等により長期間業務の遂行が困難となった場合、代替要員を適時に確保できない場合、業務の引継ぎが不十分となった場合などにおいては、当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。

 

② 情報管理について
 当社の事業においては、研究開発におけるデータ、ノウハウ、技術など、経理業務における財務データ、人事業務における役員、社員に関する情報などは非常に重要な機密事項になります。また、業務を通して入手した個人情報も重要な機密事項となります。その機密事項の流出リスクを低減するために、機密事項を取り扱う役員、社員に対しては規程等を整備し、情報管理の重要性を周知徹底するとともに、取引先等と守秘義務に関する契約を締結するなど、厳重な情報管理に努めております。
 しかしながら、当社の通信インフラの破壊や故障などにより当社が利用しているシステム全般が正常に稼働しない状況に陥ってしまった場合、システムに不具合が発生した場合、又は役員・職員、取引先等により情報管理が十分に遵守されず、重要な機密情報・個人情報などが漏えいした場合には、当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(8) その他
 ① 新株予約権にかかる事項
 当社は、優秀な人材を確保するため、また当社の事業及び研究開発活動へのモチベーションの維持・向上を目的として、新株予約権(ストック・オプション)を役員、社員及び社外の協力者等に付与しております。今後においても上記の目的のため新たに新株予約権を付与していく予定であります。また、研究開発領域の拡大に伴い、研究開発費及び事業運営経費が多額に必要となることから新株予約権を活用した資金調達を実施する可能性があります。これらの新株予約権が行使された場合には、1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。

なお、当社が発行した新株予約権にかかる潜在的株式の数は8,400,800株(2024年5月31日現在)であり、発行済株式総数に対する潜在株式数の割合は11.84%であります。

 
 ② 資金使途にかかる事項
 2015年10月の株式上場時における公募増資の資金使途につきましては、主にGRN-1201の臨床開発試験、新規パイプライン導入のための研究開発費及び事業運営上必要となる経費等に充当しております。また、2016年5月に開示いたしました第三者割当増資の資金使途につきましては、主にGRN-1201の新規適応症への新規パイプラインに関する臨床開発試験、新規パイプラインの探索・研究開発のための研究開発費、M&A資金及び事業運営上必要となる経費等に充当しております。2017年11月に開示いたしました第三者割当増資の資金使途につきましては、がん免疫治療領域における研究開発費用及び事業運営上必要となる経費等に充当しております。2020年4月に開示いたしました第三者割当増資の資金使途につきましては、次世代型へのシフトを進める「ワクチン」、固形がんへの展開を図るiPS-NKT細胞療法やHER2 CAR-T細胞療法を始めとする「細胞医薬」、抗PD-1抗体の次に来る免疫調整因子を標的とする「抗体」の3分野のがん免疫治療薬パイプライン開発の推進に充当しております。2022年1月に開示いたしました第三者割当増資の資金使途につきましては、次の開発ステージに移行するとともに新規展開を含む細胞医薬と抗体医薬パイプラインの開発に充当しております。2023年11月に開示いたしました第三者割当増資の資金使途につきましては、主にBP2202の非臨床試験や製造移管の準備に充当しております。

しかしながら、今後において事業環境の変化等により、また、上記本項目「事業等のリスク」に記載のリスクの発生により、たとえ計画通りに使用した場合でも、想定している成果を達成できない可能性があります。
 なお、当社が携わる研究開発の領域においては、技術開発の変化など外部環境が急速に変化する可能性があります。新薬の上市、法令等の改正、当社の研究開発・臨床試験の進捗状況によっては、上記の資金使途以外の事象に資金を充当する可能性があり、今後の戦略の策定において新たな事象の発生、新たな戦略の実行により、研究開発資金が想定以上に増加する可能性もあります。

 

 

③ M&A等(買収、合併等)による事業拡大に関する事項
 当社は、事業拡大へ向けた新たな経営資源を取得するため、また保有する経営資源の効率的運用と企業価値を最大化するため、M&A等を活用して事業規模の拡大を図ることを検討してまいります。M&A候補の選定に当たりましては、詳細なデューデリジェンスを行うことにより極力リスクを回避してまいりますが、買収後の偶発債務の発生や、のれんが発生する場合は買収後の事業環境や競合状況の変化等により想定通りの効果が得られない場合にのれんの減損損失を計上する等、当社の財政状態及び経営成績に重大な影響が及ぶ可能性があります。

 

④ 資金調達にかかる事項
 当社のパイプラインの研究開発が完了し製品化となるまでまだ長期間を要しますので、今後も多額の資金調達を必要とします。この期間において、事業計画の修正を必要とする状況になった場合、資金不足が生じる可能性があります。その場合、公的補助金の活用や日本国内のみならず海外企業・機関を含めた新規提携契約の締結、新株発行等により資金需要に対応していく予定であります。しかしながら、適切なタイミングで資金調達ができなかった場合には、当社の事業の継続に重大な懸念が生じる可能性があります。
 また、今後において、さらなる事業拡大等のための資金調達の方法として新株発行や新株予約権付社債などを発行する可能性があります。新株等発行の結果、1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。

 

⑤ 自然災害について
 当社は、東京都千代田区及び神奈川県川崎市に事業所及び研究施設を設けております。当社の事業地域で地震等の大規模な災害が発生した場合には、不測の事態の発生により事業活動が停滞する可能性があります。いずれかの地域で大規模な災害が発生した場合でも、いずれかで業務を継続できる体制となっており、また電子データ等のバックアップも前述の各地域以外の場所に設置しております。しかしながら、自然災害の規模、状況によっては、当社及び外部委託先の設備・インフラが支障をきたし稼働できない状況、従業員等が出社できない状況など一時的又は長期間業務が停止し、臨床開発及び事業活動を一時的又は長期間休止せざるを得ない状況が発生した場合には、当社の臨床開発、事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(業績等の概要)

(1) 業績

当事業年度(2023年4月1日から2024年3月31日まで)の世界経済は長引く国際紛争により不確実性を増し、欧米主要国ではインフレ抑制のため高止まりした政策金利が経済活動の重しとなりながらも、米国や主要新興市場国の底堅い景気に支えられ、堅調に推移しております。2021年末以降長らく低迷していたバイオテック企業の株価は、肥満関連薬や遺伝子編集細胞治療の領域で回復傾向が見られました。一方、我が国の経済はインバウンド需要の回復により景気に緩やかな回復が見られ、海外からの旺盛な投資により日経平均株価が史上最高値を更新しましたが、投資先は流動性の高い大手銘柄に集中し、国内バイオテック企業は引き続き厳しい資金調達環境に置かれています。

かかる環境下において、当社は第16回新株予約権の発行により資金を調達し、後述するとおりiPS細胞由来再生NKT細胞療法の研究開発環境を整え、事業化に向けて前進しております。

 

細胞医薬

〔iPS細胞由来再生NKT細胞療法:BP2201〕

BP2201(iPS-NKT)は、がん細胞の殺傷を含め多面的な抗腫瘍効果をもつナチュラル・キラーT(NKT)細胞を、iPS細胞技術を使って大量製造し、がん治療に用いる新規の他家細胞医薬品候補です。

これまでに当社は、開発元の国立研究開発法人理化学研究所(以下「理研」)から、iPS細胞由来NKT細胞(iPS-NKT)のCAR-T(キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞療法)を始めとする他家細胞療法使用を広範かつ排他的に保護する特許(日米欧で登録済み)の独占使用権を取得し、マスターiPSセルバンクからNKT細胞へ高純度で大量に分化誘導させる製造法の構築や、遺伝子編集技術の導入等を進めてまいりました。一方で、2000年代初期より自家NKT細胞療法の臨床研究を進めてきた国立大学法人千葉大学において、世界初のiPS-NKTを用いた頭頸部がん患者を対象とする医師主導の第Ⅰ相臨床試験(2020年6月開始)が実施されました。本治験について、2024年2月に学会で発表されたトップライン・データでは、主要評価項目である忍容性および安全性に問題ないこと、並びに初期的な臨床活性の確認が示されました。

 

本治験で用いられた非遺伝子改変iPS-NKT細胞は、いろいろながん種のがん抗原に対するCAR(キメラ抗原受容体)遺伝子を導入した、新たな遺伝子改変iPS-NKT細胞医薬へ展開する土台/プラットフォームとなり、幅広いがん種と世界の幅広い地域への展開を可能にします。

 

〔CAR-iPSNKT細胞療法:BP2202〕

BP2202(CAR-iPSNKT)は、非遺伝子改変iPS-NKT細胞にがんの目印(抗原)を認識するCARを付加し、がん細胞殺傷能を高めた新規の他家細胞医薬品候補です。当社が試作したHER2 CAR iPS-NKTは非遺伝子改変iPS-NKTと比較して抗腫瘍効果が高まることを示すデータを、2023年11月に開催された米国癌免疫療法学会(Society for Immunotherapy of Cancer、以下「SITC2023」)年次会議で報告しています。

また、当社は2023年5月にSTAR-CRISPRTM遺伝子編集技術をライセンス導入し、固形がんを含む様々な適応症に対して高度な遺伝子組換型CAR-iPSNKT細胞療法プログラムを創出することが可能となり、現在そのプロトタイプ製品の研究開発を進めています。

 

〔HER2 CAR-T細胞療法:BP2301〕

BP2301は、様々な固形がんで高発現するHER2を標的抗原とするCAR-T細胞療法です。HER2を発現する固形がんが対象となり、2022年5月より国立大学法人信州大学においてHER2陽性の再発・進行骨・軟部肉腫及び婦人科悪性腫瘍を対象とする遺伝子改変HER2 CAR-T細胞の臨床第Ⅰ相医師主導治験が行われています。

 

これまでCAR-T細胞療法は、血液がんでは優れた臨床効果が臨床試験で示され、グローバルで承認されてきました。しかし、より多くの方が罹患される固形がんへの展開においては、投与されたCAR-T細胞が、免疫抑制的な腫瘍微小環境において疲弊して機能を喪失し、十分に臨床効果を発揮できないという課題が明らかになってきました。この課題を解決するために、BP2301では、体内での優れた複製能と長期生存能を特徴とし、それによって腫瘍微小環境における疲弊抵抗性と持続的抗腫瘍効果が期待される幹細胞様免疫記憶型(ステムセル・メモリー・フェノタイプ)細胞を多く含むCAR-T細胞を用いる技術の開発に成功しました。これは、信州大学の中沢洋三教授の非ウイルス遺伝子導入法に基づき、中沢教授及び同大学柳生茂希教授と新規の細胞培養法を共同開発したことによって可能になったものです。

当社は2023年11月開催のSITC2023において、開発コンセプトとなるCAR-Tの作用メカニズムが動物モデルで機能していることを再確認した旨報告しました。

 

  抗体医薬

抗体医薬では、腫瘍組織においてがん細胞を排除する免疫の働きを抑制する免疫チェックポイント分子もしくは免疫調整分子に結合し、その機能を阻害する抗体の開発を進めています。がん免疫を抑制するアデノシン産生に介入するCD73とCD39をそれぞれ標的とするBP1200とBP1202、免疫細胞に発現し、その抑制に関わるTIM-3を標的とするBP1210のほかに、CD39分子とTIM-3分子を双方発現する免疫細胞においてこれらを同時に阻害する抗CD39×抗TIM-3二重特異性抗体BP1212を開発パイプラインとして有します。

 

  BP1202に関しては、特定のがん種におけるがん細胞、腫瘍組織でがん免疫に強力な抑制をかける制御性T細胞(Treg)でのCD39が高発現していることから、がん細胞およびTregを選択的に排除する機能を加える改変を施しました。また、BP1212の標的の組み合わせは、ファースト・イン・クラス(同じカテゴリーの中で最初に認可された新薬のこと)を狙うものとなります。

 

    がんワクチン

〔免疫チェックポイント抗体連結個別化ネオアンチゲン・ワクチン:BP1209〕

BP1209は、がん細胞由来の遺伝子変異に由来しヒトの免疫システムが高い反応性を示すネオアンチゲンを標的とするがん免疫を、患者1人ひとりに対応して誘導するのに最適化された、完全個別化ネオアンチゲン・ワクチン・プラットフォームです。ワクチンとなるネオアンチゲン・ペプチドを、T細胞へ標的情報を伝える樹状細胞へ送達するのに免疫チェックポイント抗体を用います。同抗体への結合が可能となるよう当社オリジナルのリンカー技術が組み込まれています。抗腫瘍免疫を指令する樹状細胞に効率よくワクチン抗原を送達することによって、ネオアンチゲンを目印にがん細胞を殺傷するT細胞をペプチド単体よりもはるかに多く誘導することを、担がんマウスモデルで証明しました。

 

〔がんペプチドワクチン:GRN-1201〕

 GRN-1201は、欧米人に多いHLA(Human Leukocyte Antigen:ヒト白血球抗原)-A2型の共通抗原ペプチド4種で構成される、米国や欧州をはじめとするグローバル展開を想定したがんペプチドワクチンです。当社は、2022年5月、米国で実施してきたGRN-1201の非小細胞肺がんを対象とする免疫チェックポイント抗PD-11抗体併用第Ⅱ相臨床試験の早期中止を決定し、当初の治験対象と試験プロトコルを見直し、新たに臨床試験を開始するための開発パートナーを模索していました。

 しかしながら、新型コロナウイルス感染症へのワクチン開発以降、mRNAワクチンががん領域でも脚光を浴び、モダリティとしてペプチドワクチンは注目を失いつつあるなかで、医薬品市場の成長著しい中国をはじめグローバルで100社を超える共同開発・導出先候補とコンタクトしましたがパートナーを見つけるには至らず、パイプラインの研究開発・事業開発の優先順位付けの観点から、当社はGRN-1201の導出活動の継続を断念いたしました。

 

これらの結果、当事業年度につきましては、売上高は72千円(前年同期の売上高は5,280千円)、営業損失は1,155,078千円(前年同期の営業損失は1,467,059千円)、経常損失は1,158,929千円(前年同期の経常損失は1,473,774千円)、当期純損失は1,168,082千円(前年同期の当期純損失は1,485,633千円)となりました。

 

 

(2) 財政状態の状況

 ① 流動資産

当事業年度末における流動資産は前事業年度末より470,250千円減少1,180,960千円となりました。これは、現金及び預金が、株式の発行による収入があったものの、研究開発に関連する支出等で減少したことにより473,609千円減少したことが主な要因であります。

 

 ② 固定資産

当事業年度末における固定資産は前事業年度末より937千円減少49,296千円となりました。これは、人材派遣会社に差し入れていた保証金の返却により投資その他の資産が937千円減少したことが主な要因であります。

 

 ③ 流動負債

当事業年度末における流動負債は前事業年度末より114,453千円増加191,011千円となりました。これは、1年内償還予定の社債が112,500千円増加したことが主な要因であります。

 

 ④ 固定負債

当事業年度末における固定負債は前事業年度末より2,912千円増加60,258千円となりました。これは、退職給付引当金が2,821千円増加したことが主な要因であります。

 

 ⑤ 純資産

当事業年度末における純資産は前事業年度末より588,554千円減少し、978,987千円となりました。これは、新株予約権の行使により資本金及び資本剰余金の合計が576,950千円増加し、当期純損失により利益剰余金が1,168,082千円減少したことが主な要因であります。以上の結果、自己資本比率は前事業年度末の90.9%から77.7%となりました。

 

(3) キャッシュ・フローの状況

当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前事業年度末と比べて473,609千円減少し、1,057,360千円となりました。当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果使用した資金は1,156,920千円(前事業年度は1,204,401千円の支出)となりました。これは主に税引前当期純損失1,166,182千円を計上したことによるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果使用した資金は7,648千円(前事業年度は1,760千円の支出)となりました。これは、主に研究開発機器等の有形固定資産の取得による支出6,194千円によるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果得られた資金は690,959千円(前事業年度は432,104千円の収入)となりました。これは、主に新株予約権の行使による株式の発行による収入573,382千円によるものであります。

 

 

(生産、受注及び販売の状況)

(1) 生産実績

当事業年度における生産実績をセグメントごとに示すと、以下のとおりであります。

セグメントの名称

生産高(千円)

前年同期比(%)

医薬品開発事業

合計

 

(注)前事業年度及び当事業年度ともに生産実績がありませんでした。

 

(2) 受注実績

当事業年度における受注実績をセグメントごとに示すと、以下のとおりであります。

セグメントの名称

受注高

(千円)

前年同期比

(%)

受注残高

(千円)

前年同期比

(%)

医薬品開発事業

合計

 

(注)前事業年度及び当事業年度ともに受注実績がありませんでした。

 

 (3) 販売実績

当事業年度における販売実績をセグメントごとに示すと、以下のとおりであります。

セグメントの名称

販売高(千円)

前年同期比(%)

医薬品開発事業

72

△98.6

合計

72

△98.6

 

(注)1.当事業年度において、販売実績に著しい変動がありました。これは、医薬品開発事業におきまして、

前事業年度に免疫測定検査の受託業務があったことによるものであります。

2.主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合

相手先

前事業年度

(自  2022年4月1日

至  2023年3月31日)

当事業年度

(自  2023年4月1日

至  2024年3月31日)

販売高(千円)

割合(%)

販売高(千円)

割合(%)

学校法人順天堂 順天堂大学

5,000

94.7

株式会社日本バイオセラピー研究所

280

5.3

72

100.0

 

 

 

(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)

当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析は下記のとおりであります。なお、当社は、医薬品開発事業の単一事業であるため、セグメント別の業績に関する記載を省略しております。また、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(経営指標について)

当社は、創薬ベンチャーであり、研究開発活動という投資期間が長く、その研究開発活動の成果として、ライセンスアウトによる契約一時金やマイルストン収入等などを獲得するビジネスモデルであります。

中長期的視点からの経営の安定化、企業価値の向上を目指して、また著しい技術革新がなされ、大きな期待を受けているがん免疫治療薬分野における大きな事業機会を逃さないために、既存のパイプラインの推進のみならず、新規のパイプラインを積極的に導入していく方針であります。

従いまして、売上高や当期純損益の推移やROE、ROAといった経営指標を目的とすることはせずに、現預金残高の推移、研究開発活動の効率化、パイプライン数の拡大・充実について、財務状況を勘案しながら、早期のライセンスアウト及び黒字化の実現に向けて、事業を進めてまいります。

 

(1) 重要な会計方針及び見積り

当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されております。この財務諸表の作成にあたり、見積りが必要な事項につきましては合理的な基準に基づき、会計上の見積りを行っております。この見積りに関しては、過去の実績や適切と判断する仮定に基づいて合理的に算出しておりますが、実際の結果はこれらの見積りと相違する可能性があります。

 

(2) 当事業年度末の財政状態の分析

①  資産の状況

当事業年度末における資産合計は、前事業年度末より471,187千円減少1,230,257千円となりました。

これは、現金及び預金が、財務活動による収入があったものの研究開発に関連する支出が大きかったこと等により473,609千円減少したことが、主な理由であります。

また、当事業年度末における資産の内訳としましては、現金及び預金が1,057,360千円と、資産の合計の85.9%を占めており、研究開発を推進していくにあたり、当面の資金は確保している状況にあります。

今後の現金及び預金の残高推移については、株式市場等からの資金調達やライセンスアウトによる契約一時金収入・マイルストン収入の獲得が実施されるまでの期間において、主に研究開発費用及び研究機器等の購入に伴う支出により減少する傾向にあります。現金及び預金の残高推移を注視しつつ、がん免疫治療薬分野の最先端の研究開発を積極的に推進してまいります。

 

②  負債の状況

当事業年度末における負債合計は、前事業年度末より117,366千円増加251,270千円となりました。

これは、1年内償還予定の社債が112,500千円増加したことが主な理由であります。

当事業年度末における総資産に占める負債の割合は、未償還の社債を一時的に有するため20.4%であります。当社の有するパイプライン開発の推進に伴い、未払金が負債の大部分を占める傾向にあります。また、当事業年度末における現金及び預金の残高に対する負債の割合は、比較的小さいと考えており、引き続き効率的な研究開発活動を推進してまいります。

 

③  純資産の状況

当事業年度末における純資産は、前事業年度末より588,554千円減少978,987千円となりました。

これは、新株予約権の行使により資本金及び資本剰余金の合計が576,950千円増加し、当期純損失により利益剰余金が1,168,082千円減少したことが主な理由であります。自己資本比率は前事業年度末の90.9%から77.7%となりました。

 

(3) 当事業年度の経営成績の分析

①  売上高の状況

当事業年度の売上高につきましては、前事業年度と比べ5,207千円減少98.6%減)し、72千円となりました。

これは、前事業年度に一時的な免疫測定検査の受託業務があったためです。

 

②  営業損益の状況

当事業年度における営業損失は、前事業年度と比べ311,980千円損失が減少1,155,078千円となりました。

当社は新規のがん免疫治療薬に開発領域を特化し、細胞医薬、抗体医薬、がんワクチンモダリティに関する探索から早期臨床試験段階にある複数のパイプラインの開発を同時並行で進めておりますが、当事業年度の研究開発費は前事業年度と比べ33.6%減少し775,556千円となりました。前事業年度の研究開発費には、米国臨床試験の早期中止決定に伴う前払金269百万円の費用化が含まれていたためです。

当社の販管費に占める研究開発費の割合は67.1%となり、研究開発費の推移が営業損益に直接影響を与える構造となっております。

各パイプラインの推進に加え、日進月歩でサイエンスが進む環境に迅速に適合していくためにも、新規シーズの導入は今後も引き続き積極的に行っていく方針であるとともに、川崎創薬研究所において創出している新規医薬品候補の開発を順次進めてまいります。

 

③  当期純損益の状況

当事業年度における当期純損益は、前事業年度と比べ317,550千円損失が減少1,168,082千円となりました。

当事業年度の売上総利益が前事業年度と比べ3,329千円減少した一方、販売費及び一般管理費が前事業年度と比べ315,310千円減少したこと、また特別損益では、減損損失が前事業年度と比べ2,705千円減少したことが主な要因であります。

 

(4) 当事業年度のキャッシュ・フローの分析

当事業年度のキャッシュ・フローの分析については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 業績等の概要 (3) キャッシュ・フローの状況」をご参照ください。

 

(5) 経営成績に重要な影響を与える要因について

経営成績に重要な影響を与える要因は、当社が推進する研究開発を遅延又は中止させる事象でありますが、詳細については「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」をご参照ください。

 

(6) 資金の財源及び資金の流動性についての分析

当社の資金需要は、研究開発にかかる人件費、試薬等材料費、消耗品費、外部委託費及び研究機器の購入等及び事業運営・上場維持にかかる人件費、外部委託費及び特許関連費用等であります。これらの費用及び研究機器の購入等については、自己資金により支出していく予定であります。自己資金については、すべて銀行預金としておりますので、すべての支出について迅速かつ確実に対応できるよう資金の流動性を確保しております。

 

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1) 技術導入

① 包括的業務契約

 

契約相手方名

契約品目

契約
締結日

契約期間

契約内容

久留米大学

包括的業務
契約

2011年3月11日

以下のいずれか長い時点まで

1.5年

2.特許及び産業財産権の権利消滅

3.特許及び産業財産権の権利の不成立または無効の確定

久留米大学免疫・免疫治療学講座の研究者個人もしくは久留米大学から譲渡を受けた特許出願もしくは特許につき、将来の自己実施もしくは第三者への使用許諾から得る収入のうち一定の割合を、ロイヤリティとして久留米大学に支払う旨など、上記①及び②「特許譲受けに関する契約」に記載している7件の譲渡契約の内容を補完する包括的契約

1.当社は、久留米大学に対し以下の支払いを行う。

a.当社が自ら本件特許及び本件技術を実施して製品を製造し、これを販売した場合は、当社は当該製品の正味販売金額の2%を久留米大学に支払う。

b.当社が第三者からの委託等に基づき、自ら本件特許及び本件技術を実施して得られた収入の2%を久留米大学に支払う。

c.当社が本件特許及び本件技術を第三者に実施許諾もしくは譲渡し、当社が得た収入については、当該収入の25%を久留米大学に支払う。

2.上記②の特許譲受けに関する契約を内包する。

3.契約解除の取扱いについて

  当社が下記の事項に該当した場合には、久留米大学は通告なしに直ちに、本契約を解除し、かつ損害賠償を請求できる。また、下記の事項により本契約を解除した場合、当社は本契約に定める特許及び技術を久留米大学に返還する。

 a.当社が支払停止、破産等の申し立てをしたとき、または他から受け、あるいは差押等を受けるなどの信用が著しく悪化し、もしくは営業停止を受けたとき。

 b.合併、吸収、役員の交代等の事由により、当社の会社運営の実権に大幅な変更が生じ、当該実権の変更が久留米大学に著しい悪影響があると判断されるとき。

国立研究開発法人理化学研究所

実施許諾契約書

2022年11月1日

契約締結日から本特許に基づく特許権が全て消滅した日から10年経過した日まで

当社は、理化学研究所より、iPS-NKT細胞医薬(医療用医薬品)に関する全世界における独占的通常実施権(再実施許諾権を含む)の許諾を受け、その対価として、契約締結時の一時金、マイルストン及びロイヤルティーを支払う。

 

 

6 【研究開発活動】

当社は、設立以来、新規作用メカニズムのがん免疫治療薬の研究開発を行っています。

なお、当社は医薬品開発事業及びこれに付随する単一セグメントであり、当事業年度における研究開発費は775,556千円であります。

 

(1)iPS細胞由来再生NKT細胞療法(BP2201)

当社は、これまでに本細胞療法の開発元である国立研究開発法人理化学研究所(以下「理研」)から、他家細胞療法使用を広範かつ排他的に保護する特許(日米欧で登録済み)の独占使用権を取得しております。

2020年6月より千葉大学医学部附属病院で進められた頭頚部がんを対象とする医師主導治験が2024年1月に終了しました。2024年2月に学会で発表されたトップライン・データでは、主要評価項目である忍容性および安全性に問題ないこと、並びに初期的な臨床活性が確認されました。

 

(2)CAR-iPSNKT細胞療法(BP2202)

2023年5月に米国Artisan Bio社から遺伝子編集技術を導入する契約を締結し、固形がんを含む様々な適応症に対して高度な遺伝子組み換え型CAR-iPSNKTを利用した細胞療法プログラムを創出することが可能となり、現在そのプロトタイプ製品の研究開発を進めています。なお、当該遺伝子編集技術の知的財産権は、2024年4月にベルギーCellistic社に譲渡されておりますが、当社の当該遺伝子編集技術使用に対する影響はありません。

2023年11月に開催された2023年度米国癌免疫療法学会(Society for Immunotherapy of Cancer、以下「SITC2023」)年次会議では、当社が試作したHER2を目標抗原とするCAR-iPSNKTが、非遺伝子改変iPS-NKTと比較してマウスモデルで抗腫瘍効果が高まることを示すデータを発表しました。

 

(3)HER2 CAR-T細胞療法(BP2301)

2022年5月よりHER2陽性の再発・進行骨・軟部肉腫及び婦人科悪性腫瘍を対象とする非ウイルス遺伝子改変HER2 CAR-T細胞の臨床第Ⅰ相医師主導治験が、信州大学医学部附属病院において進められています。本研究開発は国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究助成を受けています。数年間を予定する臨床第Ⅰ相医師主導治験で臨床上の安全性及び薬効が示唆された後は、企業治験となる第Ⅱ相臨床試験へ進みます。

当社は2023年11月開催のSITC2023において、HER2を発現するがんに現在標準治療として用いられる薬剤に対して抵抗性を示したがん細胞を用いた動物実験で、BP2301が抗腫瘍効果を示したことを発表しました。

 

(4)抗体医薬

     抗CD73抗体(BP1200)、抗CD39抗体(BP1202)、抗TIM-3抗体(BP1210)および抗CD39×抗TIM-3二重特異性抗体(BP1212)について、先行品と差別化されたリード抗体を有し、担がんマウスモデルでの有効性を確認し、非臨床コンセプト証明に至っています。今後はこれらの非臨床試験を進めてまいります。

 

(5)がんワクチン

 ・免疫チェックポイント抗体連結個別化ネオアンチゲン・ワクチン(BP1209)

抗腫瘍免疫を指令する樹状細胞に効率よくワクチン抗原を送達することによって、ネオアンチゲン(腫瘍抗原)を目印にがん細胞を殺傷するT細胞をペプチド単体よりもはるかに多く誘導することを、担がんマウスモデルで証明しています。

 ・がんペプチドワクチン(GRN-1201)

2022年5月に米国で実施してきた非小細胞肺がんを対象とする免疫チェックポイント抗PD-1抗体併用第Ⅱ相臨床試験の早期中止を決定し、当初の治験対象と試験プロトコルを見直し、開発パートナーと新しく臨床試験を開始する道を模索していましたが、外部環境の変化により導出活動の継続を断念いたしました。