当中間会計期間における当半期報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクの発生又は前事業年度の有価証券報告書に記載した「事業等のリスク」についての重要な変更はありません。
文中の将来に関する事項は、当中間会計期間末日現在において、当社が判断したものであります。
(1)経営成績の状況
当中間会計期間において、当社は新規がん免疫治療薬の創出を目指して研究開発を推進いたしました。
細胞医薬
〔iPS細胞由来再生NKT細胞療法:BP2201〕
BP2201(iPS-NKT)は、がん細胞の殺傷を含め多面的な抗腫瘍効果をもつナチュラル・キラーT(NKT)細胞*1を、iPS細胞技術を使って大量製造し、がん治療に用いる新規の他家細胞医薬品候補です。
これまでに当社は、開発元の国立研究開発法人理化学研究所(以下「理研」)から、iPS細胞由来NKT細胞(iPS-NKT)のCAR-T(キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞療法)をはじめとする他家細胞療法使用を広範かつ排他的に保護する特許(日米欧で登録済み)の独占使用権を取得し、マスターiPSセルバンクからNKT細胞へ高純度で大量に分化誘導させる製造法の構築や、遺伝子編集技術の導入等を進めてまいりました。一方で、2000年代初期より自家NKT細胞療法の臨床研究を進めてきた国立大学法人千葉大学において、世界初のiPS-NKTを用いた頭頚部がん患者を対象とする医師主導の第Ⅰ相臨床試験(2020年6月開始)が実施され、2024年1月に終了しました。本治験について、2024年2月に学会で発表されたトップライン・データでは、主要評価項目である忍容性および安全性に問題がないこと、並びに初期的な臨床活性の確認が示されました。
本治験で用いられた非遺伝子改変iPS-NKT細胞は、いろいろながん種のがん抗原に対するCAR(キメラ抗原受容体)遺伝子を導入した、新たな遺伝子改変iPS-NKT細胞医薬へ展開する土台/プラットフォームとなり、幅広いがん種と世界の幅広い地域への展開を可能にします。
〔CAR-iPSNKT細胞療法:BP2202〕
BP2202(CAR-iPSNKT)は、非遺伝子改変iPS-NKT細胞にがんの目印(抗原)を認識するキメラ抗原受容体(CAR:Chimeric Antigen Receptor)を付加し、がん細胞殺傷能を高めた新規のCAR-T細胞療法*2です。
当社が試作したHER2を標的抗原とするCAR-iPSNKTは、非遺伝子改変iPS-NKTと比較して抗腫瘍効果が高まることをマウスモデルで確認しています。
当社は2023年5月にSTAR-CRISPRTM遺伝子編集技術をライセンス導入し、固形がんを含む様々な適応症に対して高度な遺伝子組換型CAR-iPSNKT細胞療法プログラムを創出することが可能となり、現在そのプロトタイプ製品である血液がん対象のBP2202の研究開発を進めています。また、これと並行して、当該プロトタイプ製品のマスターセルバンクの構築と、GMP準拠での治験薬製造準備を進めています。
〔HER2 CAR-T細胞療法:BP2301〕
BP2301は、様々な固形がんで高発現するHER2を標的抗原とするCAR-T細胞療法です。これまで血液がんを標的とするCAR-T細胞療法は、優れた臨床効果が臨床試験で示され、グローバルで承認されてきました。しかし、より多くの方が罹患される固形がんへの展開においては、投与されたCAR-T細胞が、免疫抑制的な腫瘍微小環境において疲弊して機能を喪失し、十分に臨床効果を発揮できないという課題が明らかになってきました。
この課題を解決するために、BP2301 では、体内での優れた複製能と長期生存能を特徴とし、それによって腫瘍微小環境における疲弊抵抗性と持続的抗腫瘍効果が期待される幹細胞様免疫記憶型(ステムセル・メモリー・フェノタイプ)細胞を多く含むCAR-T細胞を用いる技術の開発に成功しました。これは、信州大学の中沢洋三教授の非ウイルス遺伝子導入法に基づき、中沢教授及び同大学柳生茂希教授と新規の細胞培養法を共同開発したことによって可能になりました。
2022年5月より国立大学法人信州大学においてHER2陽性の再発・進行骨・軟部肉腫及び婦人科悪性腫瘍を対象とする遺伝子改変HER2 CAR-T細胞の臨床第Ⅰ相医師主導治験が行われています。
抗体医薬
抗体医薬では、腫瘍組織においてがん細胞を排除する免疫の働きを抑制する免疫チェックポイント分子*3もしくは免疫調整分子に結合し、その機能を阻害する抗体の開発を進めています。がん免疫を抑制するアデノシン産生に介入するCD73分子とCD39分子をそれぞれ標的とするBP1200とBP1202、免疫細胞に発現し、その抑制に関わるTIM-3分子を標的とするBP1210のほかに、CD39分子とTIM-3分子を双方発現する免疫細胞においてこれらを同時に阻害する抗CD39×抗TIM-3二重特異性抗体BP1212を開発パイプラインとして有します。これらの抗体医薬パイプラインについて、ライセンス活動の過程で望まれる非臨床コンセプトを裏付けるための追加データを取得しているところです。
その過程で、CD39分子をがん細胞の標的として、T細胞を活性化させてがん細胞へ誘導する二重特異性抗体であるBP1223を創製しました。急性骨髄性白血病をはじめとする血液がんを対象とする薬効薬理試験及び作用機序解析を国立がん研究センター東病院と共同研究で進めています。BP1223については、2024年12月開催の米国血液学会(ASH2024)にて発表する予定です。
がんワクチン
〔免疫チェックポイント抗体連結個別化ネオアンチゲン・ワクチン:BP1209〕
BP1209は、がん細胞由来の遺伝子変異に由来しヒトの免疫システムが高い反応性を示すネオアンチゲンを標的とするがん免疫を、患者1人ひとりに対応して誘導するのに最適化された、完全個別化ネオアンチゲン・ワクチン*4・プラットフォームです。ワクチンとなるネオアンチゲン・ペプチドを、T細胞へ標的情報を伝える樹状細胞へ送達するのに免疫チェックポイント抗体を用います。同抗体への結合が可能となるよう当社オリジナルのリンカー技術が組み込まれています。抗腫瘍免疫を指令する樹状細胞に効率よくワクチン抗原を送達することによって、ネオアンチゲンを目印にがん細胞を殺傷するT細胞をペプチド単体よりもはるかに多く誘導することを、担がんマウスモデルで証明しています。
これらの結果、当中間会計期間におきましては、営業損失は542,559千円(前年同期の営業損失は550,569千円)、経常損失は537,786千円(前年同期の経常損失は551,566千円)、中間純損失は538,736千円(前年同期の中間純損失は553,922千円)となりました。
なお、当社は単一事業であり、セグメントは「医薬品開発事業」でありますので、セグメントごとの記載はしておりません。
<語句説明>
*1(NKT細胞)
ナチュラル・キラー(NK)細胞とT細胞の特徴を併せもち、自然免疫と獲得免疫をつなぐ役割をもつ免疫細胞。がん細胞をT細胞受容体やNK細胞受容体を通して直接殺傷する能力をもつと同時に、T細胞や樹状細胞など他の免疫細胞を活性化させるアジュバント作用をもつ。活性化すると、多様なサイトカインを産生し、自然免疫系に属するNK細胞の活性化と樹状細胞の成熟化を促す。成熟した樹状細胞は、さらに獲得免疫系に属するキラーT細胞を増殖・活性化させることで、相乗的に抗腫瘍効果が高まる。
*2(CAR-T細胞療法)
Chimeric Antigen Receptor T-cell Therapy:キメラ抗原受容体遺伝子導入T細胞療法。がん細胞が発現する抗原を認識するキメラ抗原受容体を、T細胞(抗腫瘍免疫をもつリンパ球の一種)に遺伝子導入し、培養で増殖させて投与する治療法。
*3(免疫チェックポイント分子)
免疫恒常性を保つために自己に対する免疫応答を抑制するとともに、過剰な免疫反応を抑制する分子群のこと。がん免疫においては、過剰な活性化によって自己を攻撃するのを防ぐために存在しているが、発がん過程では、がん細胞が免疫系からの攻撃を回避し増殖するために利用される。
*4(完全個別化ネオアンチゲン・ワクチン)
個々の患者のがん細胞にあるネオアンチゲンを探索し、これに対するオーダーメイドのがんワクチン。海外ではアカデミアや先行開発企業による臨床試験が行われており、そのなかにはネオアンチゲンをコードするmRNAを脂質名ナノパーティクル(LNP)に格納したmRNAワクチンも含まれる。
(2)財政状態の状況
(資産)
当中間会計期間末における総資産は前事業年度末より465,967千円増加し1,696,224千円となりました。これは、現金及び預金が株式や社債の発行による収入等で482,034千円増加したことが主な要因であります。
(負債)
当中間会計期間末における負債は前事業年度末より210,847千円増加し462,117千円となりました。これは、1年内償還予定の社債が212,500千円増加したことが主な要因であります。
(純資産)
当中間会計期間末における純資産は前事業年度末より255,120千円増加し1,234,107千円となりました。これは、株式の発行により資本金及び資本剰余金の合計が794,520千円増加し、中間純損失により538,736千円減少したことが主な要因であります。
以上の結果、自己資本比率は前事業年度末の77.7%から71.4%となりました。
(3)キャッシュ・フローの状況
当中間会計期間末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前事業年度末と比べて482,034千円増加し、1,539,394千円となりました。当中間会計期間における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果使用した資金は520,584千円(前年同期は466,327千円の支出)となりました。これは、主に税引前中間純損失537,786千円を計上したことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動による資金の変動はありません(前年同期は1,454千円の支出)。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果得られた資金は1,002,619千円(前年同期は資金の変動はありません。)となりました。これは、主に新株予約権の行使による株式の発行による収入788,581千円によるものであります。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当中間会計期間において、重要な変更および新たに生じた課題はありません。
(5)研究開発活動
当中間会計期間における研究開発費の総額は399,969千円であります。
なお、当中間会計期間において当社の研究開発活動の状況に重要な変更はありません。
当中間会計期間において、経営上の重要な契約等の決定又は締結等はありません。