第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものです。

 

(1)会社の経営の基本方針

当社グループは、企業理念において「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションの下、「ビジネスインフラになる」というビジョンを掲げています。このミッション、ビジョンの実現に向けて、さまざまなビジネス課題を抱える企業やビジネスパーソンの働き方を変え、DXを促進するサービスを展開しており、これらの事業活動の推進が株主価値及び企業価値の最大化につながるものと考えています。

 

(2)目標とする経営指標

連結売上高の成長を重視した経営を行っています。Sansan事業においては、売上高の継続的かつ累積的な増加を実現するため、契約件数や契約の継続率(解約率)等を重要指標としています。また、Eight事業においては、BtoBサービスの成長や、ユーザーネットワークの構築・拡充を目的としたユーザー増加数等を重要指標として運営を行っています。そのほか、「Bill One」においては、有料契約件数の拡大や契約当たり売上高の拡大等を重視しています。

 

(3)中長期的な会社の経営戦略

当社グループの事業や事業領域には次のような特徴があり、これらに基づいて中長期的な経営戦略を立案しています。

 

①企業のDXを促進するBtoBサービス(マルチプロダクト)の展開

昨今の新型コロナウイルス感染症の拡大によるリモートワーク等の働き方の変化やDXへの意識改革、SaaSビジネスへの関心の高まり等によって、市場規模はさらに拡大が続いています。また、DX市場は2030年において3兆425億円(2019年比2兆2,513億円増)(注1)、国内SaaS市場は2024年には1兆1,178億円(2019年比5,162億円増)(注2)の規模に達すると予想されています。

このような市場環境を背景に、当社グループでは名刺管理をはじめ、請求書や契約書、ビジネスイベント分野等で、さまざまなビジネス課題を解決し、企業やビジネスパーソンの働き方を変え、DXを促進するBtoBサービスを展開しており、マルチプロダクトとしての事業ポートフォリオを構成しています。今後、このマルチプロダクトが「ビジネスインフラ」として広く認識されるよう、自社開発や他社連携等を通じたサービスの強化・拡充に取り組みます。

 

(注)1. 富士キメラ総研「2020 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望」

2. 富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場 2020年版」

 

②名刺の持つユニークな価値と市場機会

名刺は、ビジネスの出会いのシーンで交換される慣習が根強く、そこには、氏名や所属する会社、組織、役職、連絡先等のビジネスパーソンを表す正確な情報が記載されています。また、名刺交換の履歴情報自体にもユニークな価値があるほか、現在でも紙のままで日常的に利用されていてデジタル化が進んでおらず、業務効率化や有効活用の余地が大きく残されていると考えています。

当社が2007年の創業当時から手掛ける、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」は、自ら市場を創り上げてきたことで、法人向けクラウド名刺管理サービス市場で83.5%(注3)のシェアを有しており、パイオニアとして市場をリードしています。また、2012年に開始した名刺アプリ「Eight」のユーザー拡大と合わせて、当社及び当社サービスのブランド認知度は高まっているものと考えています。

しかしながら、日本国内に存在する企業数や従業者数でみた場合には、「Sansan」のカバー率は未だ低水準です。例えば、国内における総従業者数に占める「Sansan」利用者数の割合は、約2%に留まっており、利用者数ベースでは潤沢な開拓余地が残されていると考えています(注4)。

 

(注)3.シード·プランニング「名刺管理サービスと営業サービス(SFA/CRM/オンライン名刺交換)の最新動向

4.2021年5月期末における「Sansan」合計ID数を分子とし、分母となる国内の総従業者数は、総務省統計

   「2016年経済センサス活動調査」を基に算出

 

③アナログ情報のデータ化精度99.9%を実現する仕組みとテクノロジー

名刺管理サービスにおける名刺データ化の精度は、サービスの本質的な品質・競争力に資するものであり、「Sansan」では99.9%の精度を、そして「Eight」でもそれに準ずる高い精度を有しており、事業共通の強みとなっています。当社グループのサービスでは、機械学習等によって日々進化するテクノロジーと、人力の組み合わせによって名刺のデータ化を行っており、創業以来、人力による名刺データ入力を中心に、膨大な名刺をデータ化してきたことで、現在では、大量の名刺を正確かつ効率的にデータ化する独自システムの開発・運営が可能となりました。この技術力と独自の仕組みが競争力の源泉であり、継続的なサービス品質・競争力の向上に向けて、新技術の開発やオペレーションの改善を追求しています。また、これらの仕組みやテクノロジーは、さまざまな領域で活用が可能であるという特徴を有しています。

 

④高い安定性を誇る財務・収益モデル

当社グループの「Sansan」の課金モデルは、継続収入が見込めるサブスクリプションモデル(月額課金)が中心であることから、安定的かつ継続的な事業進捗が見込める収益モデルです。また、サービスの月次解約率は直近12か月平均で1.0%以下に留まっており、契約当たり売上高の拡大に努めることで、顧客LTV(ライフタイムバリュー)の最大化を推進しやすい魅力的なモデルであると捉えています。

 

具体的な当社グループの経営戦略は、以下の通りです。

 

(ⅰ)Sansan事業のさらなる成長

「Sansan」は、コロナ禍において一定の制約を受けたものの、マーケティング活動から新規受注までの一連の業務プロセスが確立しており、安定的な成長が続いています。今後のさらなる成長に向けては、引き続き「オンライン名刺」やデータ活用を促進するオプション機能等、コロナ禍における新しい働き方に対応し、企業のDXを促進する機能の普及・拡大を図ることで、「Sansan」のビジネスプラットフォームとしての価値向上を推進していきます。加えて、営業体制の強化による契約件数の拡大や、ユーザー企業の全社員によるサービス利用(全社利用)を前提とした新規顧客獲得や既存顧客の利用拡大の促進等についても継続的に取り組むことで、契約当たり売上高のさらなる拡大を図ります。

 

(ⅱ)Eight事業のマネタイズ(収益化)

事業全体でのマネタイズを加速すべく、採用関連サービス「Eight Career Design」や広告サービス「Eight Marketing Solutions」等の「Eight」のネットワークを活用した各種BtoBサービスの展開を強化していきます。また、「オンライン名刺」機能やビジネスイベントメディア「Eight ONAIR」の利便性を向上させることで、ユーザー数のさらなる拡大を目指します。

 

(ⅲ)クラウド請求書受領サービス「Bill One」の拡大

「Bill One」は、あらゆる請求書をオンラインで受領可能にするというユニークなモデルが受け入れられ、2020年5月にサービスを開始して以降、高成長が継続しています。業種や規模を問わず、国内の全企業を対象とすることができるサービスであるため、大きな開拓余地が存在しており、「Bill One」のさらなる普及拡大に向けてさまざまな施策を積極的に実施していきます。具体的には、売上高の最大化に向け、組織改編によって機動的かつ柔軟なリソース配分が可能となった事業運営体制を背景に、営業活動やテレビCMを中心とした広告宣伝活動・マーケティング活動等を強化していきます。

 

(ⅳ)新たなサービスの創出

企業の各種業務フローにおいては、効率性に関するさまざまな課題が山積しており、当社グループは、これまで既存サービスで培った強みや知見を活かして、企業のDXを促進する新規サービスの創出に注力しています。具体的には、契約書やビジネスイベント・セミナーの領域でサービス提供を開始しており、これらの業務プロセスの確立や安定的な提供拡大を図っていくほか、新たなサービスの創出に向けた取り組みも推進していきます。

 

(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

当社グループの対処すべき主な課題は以下の通りです。

 

①優秀な人材の採用・育成と多様性の確保

当社グループの持続的な成長のためには、多岐にわたる経歴を持つ優秀な人材を多数採用し、営業体制や開発体制、管理体制等を整備していくことが重要であると捉えています。当社グループの企業理念や事業内容に共感した優秀な人材が、高い意欲を持って働ける環境や仕組みの構築を進めるとともに、人材の多様性確保にも取り組んでいきます。

 

 

②セキュリティリスクに対する管理体制の継続的な強化

当社グループは個人情報等の重要な情報資産を多く扱っており、情報管理体制を継続的に強化していくことが重要であると考えています。現在においても個人情報保護方針及び情報セキュリティ方針を策定した上で、情報資産を厳重に管理する等、個人情報保護に係る施策には万全の注意を払っていますが、今後も社内体制や管理方法の強化・整備を行っていきます。

 

③技術力の強化

アナログ情報を正確にデジタル化する技術は、当社グループの競争力の源泉であり、当社グループが手掛けるさまざまなサービスの成長を支える共通基盤でもあることから、継続的な改善、強化が重要であると考えています。優秀な技術者の採用や先端技術への投資・モニタリング等を通じて、国内を代表する技術者集団になるべく、技術力の向上に取り組んでいきます。

 

2【事業等のリスク】

 

 以下において、当社グループの事業及び財務・経理の状況等に影響を及ぼす事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を記載しています。当社グループは、これらのリスクの発生可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針ですが、当社グループの株式に関する投資判断は、本項及び本書中の本項以外の記載内容も併せて、慎重に検討した上で行われる必要があると考えています。

 なお、以下の記載のうち将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであり、不確実性を内在しているため、実際の結果と異なる可能性があります。

 

(1)新型コロナウイルス感染症拡大について

 新型コロナウイルス感染症拡大により、国内において緊急事態宣言が出される等、経済の先行きに対する不透明感が増加しています。現時点では、新型コロナウイルス感染症拡大の影響の及ぶ期間と程度を合理的に推定することは困難ですが、沈静化が遅滞した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。具体的には、Sansan事業において、企業の投資行動が慎重化すること等による新規契約獲得ペースの鈍化や新規契約に係る一部の初期売上高の減少、対面での商談ができない等の営業活動の制約による商談数やリード数の減少等が生じる可能性があります。また、Eight事業においては、企業の採用活動の手控えによる採用サービスの成長鈍化等の可能性があります。

 

(2)インターネットの利用環境について

 当社グループはインターネット関連事業を主たる事業対象としているため、インターネットの利用環境は当社グループ事業の基本的な条件です。インターネットの利用に関する新たな規制の導入や弊害の発生、その他予期せざる要因により、今後、インターネットの利用環境に大きな変化が生じた場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3)クラウド事業について

 クラウドとは、アプリケーション機能をインターネット経由で提供するサービスで、ソフトウエア販売における新しい方法・概念として認知され、浸透が進みつつあります。その一方で、今後クラウドを扱う企業レベルの競争も激化する可能性があります。このような事業環境の下で、他社においてより画期的なコンセプトをもった商品・サービスが出現した場合、またはクラウド自体の需要が当社グループの予測を大きく下回る場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(4)競合について

 当社グループは、機械学習等によって日々進化するテクノロジーと、人力の組み合わせによって名刺をはじめとしたアナログ情報のデータ化を行っていますが、創業以来、大量の名刺を正確かつ効率的にデータ化する独自のシステムの開発・運営をし続けてきたことが競争力の源泉となっています。しかしながら、既存事業者との競争の激化や、新たな参入事業者の登場により競争が激化した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(5)技術革新への対応について

 当社グループは新技術の積極的な投入を行い、適時に独自のサービスを構築していく方針ですが、技術革新等への対応が遅れた場合や、予想外に開発費等の費用が発生した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(6)名刺及び名刺交換の位置づけについて

 当社グループの提供するサービスは、名刺交換というビジネスシーンにおける慣習に依存しています。名刺交換という商習慣の変化及び技術革新等によって、名刺交換の重要性や名刺そのものの価値、文化的背景、顧客企業における名刺管理ポリシーや社会通念上の位置づけ等に変化が生じる場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(7)個人情報の取り扱いについて

 当社グループは、当社グループ従業員の個人情報に加えて、当社グループが提供するサービスにおいてユーザーの個人情報、さらにはユーザーが保有する第三者の個人情報に関与するケースがあります。当社グループは個人情報の取り扱いに関する重要性を十分に認識し、個人情報保護マネジメントシステムを構築・運用し、個人情報の管理に最大限の注意を払っており、また、2005年4月に全面施行された「個人情報の保護に関する法律」や、当局となる個人情報保護委員会が制定した「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」の要求事項の遵守に努めています。当社は、2007年10月、「個人情報保護マネジメントシステム‐要求事項(JISQ15001:2017)」を満たす企業として、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)より「プライバシーマーク」付与の認定を受け、その後2007年11月12日より2年毎に登録を更新しています。さらに当社グループは、全従業員に一般財団法人全日本情報学習振興協会が認定する個人情報保護士の資格取得を強く推奨しています。

 また、個人情報の取り扱いについては、国内の法令のみならず、EU一般データ保護規則(GDPR)をはじめとする海外における法令や規則(以下、「海外法令等」という)の適用を受けることがあります。当社グループでは適用可能性のある地域について現地法律事務所等を通じて必要な調査を実施し、加えて海外法令等の動向調査レポート等を利用する等して、海外法令等の情報を適宜収集し、これらを踏まえた必要な対策を講じています。

 当社のサービスの提供に際しては、名刺のデータ化業務の一部を当社の責任において第三者となる業務委託先に再委託する場合があります。その場合においても、国内の法令及び海外法令等を遵守し、適切かつ合理的な方法で業務委託先の安全管理を行っています。

 しかしながら、上記の取り組みにも関わらず、自然災害や事故、外部からの悪意による不正アクセス行為及び内部の故意または過失による顧客情報の漏洩、消失、改ざんまたは不正利用等、万一当社グループまたは当社グループの業務委託先から個人情報が漏洩した場合には、信用の失墜または損害賠償による損失が生じ、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(8)法令について

 当社グループは、「(7)個人情報の取り扱いについて」に記載のほか、電気通信事業者として電気通信事業法及びプロバイダーとしてのプロバイダー責任制限法等の総務省所管の法令等や、有料職業紹介事業者として職業安定法をはじめとする厚生労働省所管の法令等、企業活動に関わる各種法令の規制を受けています。また、今後国内において新たにプライバシー関連法規の制定やインターネット関連事業者を規制する新たな法律等による法的規制の整備が行われる可能性があります。さらに、インターネットは国境を超えたネットワークであるため、海外諸国からの法的規制による影響を受けることも想定されることから、これらが将来的に当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(9)知的財産権の侵害等について

 当社グループで開発・設計しているソフトウエアやプログラムは、当社グループが独自に開発・設計したものであり、当社グループは特許権侵害の調査等を、特許事務所を通じて行っています。さらに、当社グループはサービスの名称等について商標の出願、登録を行う等、第三者の商標権を侵害しないように留意しています。

 しかしながら、第三者から特許権侵害や商標権侵害を理由とする損害賠償請求や差止請求を受ける可能性は完全には否定できず、その場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループが保有している知的財産権が第三者により侵害された場合には、法的措置を含めた対応を要する等、当社グループの事業運営に影響が及ぶ可能性があります。

 

(10)広告宣伝活動等の先行投資について

 当社グループの手掛ける事業では、先行者メリットを活かしつつ売上高拡大を目指すため、広告宣伝活動や開発活動、営業体制の強化等において一定の先行投資が必要となります。特に、当社グループの知名度を高めるためのテレビCM等を中心とした広告宣伝投資は、「Sansan」「Bill One」の新規契約の獲得に直接的に寄与することから、これまでも積極的に実施しています。

 今後の広告宣伝活動については、その費用対効果を見ながら慎重に行っていく方針ですが、広告宣伝投資の方針によっては当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(11)企業買収等の投資について

売上高成長をはじめとした事業拡大や競争優位性の強化等を目的に、企業買収や出資等を含めたさまざまな投資を実行しています。対象企業について事前に可能な限り詳細な審査を行い、十分にリスクを検討した上で投資を実行しますが、買収や出資後に事業展開等が計画通りに進捗しないこと等が生じた場合には当社グループの業績に影響を及ぼす場合があります。

 

(12)システムインフラ等への投資について

 当社グループは、事業の拡大に応じて、システムインフラ等への投資を実施、計画していますが、当社グループの想定を超える急激なユーザー数やアクセス数の増加、インターネット技術の急速な進歩に伴い、予定していないハードウエアやソフトウエアへの投資等が必要となった場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

(13)Eight事業について

 当社グループのEight事業は、個人向けの無料サービスをベースとした名刺アプリを運営していますが、事業全体としては先行投資の段階にあることから、セグメント損失を計上しています。現在、Eight事業においてはBtoBサービス(企業向け有料プラン)の開発・展開に注力していますが、今後ユーザーの獲得やマネタイズ(収益化)方策の進捗等が計画通りに推移しない場合には、Eight事業の黒字化が遅滞し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(14)海外展開について

 当社グループは、高い成長を実現するため海外展開を進めていく方針ですが、海外における名刺に関わる商習慣や事業環境の差異等を含め、国内における事業展開以上に高いリスクが存在することは否めず、そのリスクに対応しきれない場合や国内と比較してマーケットの開拓や収益化が想定通り進まない場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(15)経営管理体制の確立について

 当社グループは、業容の拡大及び従業員の増加に合わせて内部管理体制の整備を進めており、今後も一層の充実を図る予定ですが、適切な人的・組織的な対応ができずに、事業規模に応じた事業体制、内部管理体制の構築が追いつかない場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(16)人材の育成及び確保について

 当社グループは、積極的に優秀な人材を採用し、社内教育等を行うことによって体制の拡充を図っています。しかし、適切な人材を十分に確保できず、あるいは在職中の従業員が退職等をした場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、Sansan事業においては、今後の事業拡大に向け、特に営業人員の確保が必要となりますが、採用が計画通り進まなかった場合、あるいは営業人員の流出が生じた場合には、事業拡大の制約となり、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(17)特定の人物への依存について

 当社代表取締役である寺田親弘は、当社の設立者であるとともに、大株主であり、経営方針や事業戦略の決定において重要な役割を果たしています。このため、当社グループは、同氏に過度に依存しない体制を作るために、取締役会等における役員間の相互の情報共有や経営組織の強化を図っています。しかし、現状において、何らかの理由により同氏が当社グループの業務を継続することが困難になった場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(18)インセンティブの付与について

 当社グループは、役員及び従業員のモチベーション向上のためストックオプションを付与しており、本書提出日の前月末現在(2021年7月31日)、その数は834,414株、発行済株式総数の2.68%となっています。今後も、役員及び従業員のモチベーション向上のため、ストックオプション導入等のインセンティブプランを継続する方針です。なお、これらストックオプションが行使された場合、既存株主の株式価値を希薄化させる可能性があります。

 

(19)設備及びネットワークの安定性について

 当社グループの事業を支えるサーバーは、当社グループが契約するクラウドサービスプラットフォームで管理され、複数のサーバーによる負荷の分散、定期的なバックアップの実施等を図り、システム障害を未然に防ぐべく取り組みを行っています。障害が発生した場合に備え、リアルタイムのアクセスログチェック機能やソフトウエア障害を即時にスタッフに通知する仕組みを整備し、また、障害が発生したことを想定した復旧訓練も実施しています。

 しかしながら、上記の取り組みにも関わらず、火災、地震等の自然災害や外的破損、人的ミスによるシステム障害、その他予期せぬ事象の発生により、万一、当社グループの設備及びネットワークの利用に支障が生じた場合には、サービスの停止等を余儀なくされることとなり、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(20)サービス等の不具合について
 一般的に、高度なソフトウエアは不具合の発生を完全に解消することは不可能であると言われており、当社グループのアプリケーション、ソフトウエアやシステムにおいても、各種不具合が発生する可能性があります。

 今後も信頼度の高い開発体制を維持・構築していきますが、当社グループ事業の運用に支障をきたす致命的な不具合が発見され、その不具合を適切に解決できない場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

3【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績に関する説明

 当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次の通りです。

 

①経営成績の分析

 当連結会計年度においては、継続的な売上高の成長の実現に向け、人材採用をはじめとした営業体制の強化に取り組んだほか、法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」や名刺アプリ「Eight」における各種機能強化を行いました。また、「Bill One」の成長実現に向け、営業体制の強化やテレビCMを中心とした広告宣伝活動等を行った結果、当連結会計年度末における有料契約件数は239件となり、2021年2月末比で73.2%の高い成長となりました。人材採用や広告宣伝活動、サービスの改善等の推進によって、2022年5月末の有料契約件数1,000件以上を目指しています。加えて、2020年8月にはログミー株式会社(以下、「ログミー社」)を連結子会社化し、当社グループがこれまで培ってきた各種ノウハウ等の導入等によって両社サービス価値のさらなる向上に取り組んだほか、2021年5月には、当社による将来的な連結子会社化も見据えた上で、Fringe81株式会社(以下、「Fringe81社」)と資本業務提携契約を締結しました。さらに、当社は株式会社東京証券取引所の承認を受け、2021年1月21日付で、当社株式の上場市場を東京証券取引所マザーズから東京証券取引所市場第一部へ市場変更しました。

 

 以上の結果、当連結会計年度における売上高は16,184,553千円(前連結会計年度比21.1%増)となり、コロナ禍における一定のマイナス影響を受けたものの、総じて堅調な実績となりました。また、売上総利益は14,192,200千円(前連結会計年度比23.0%増)、売上総利益率は87.7%(前連結会計年度比1.3ポイント増)となりました。営業利益は、順調な業績進捗に鑑み、中長期的な成長実現に向けた戦略を推し進めたことから広告宣伝費や人件費等が増加し、736,613千円(前連結会計年度比2.7%減)となりました。また、経常利益は375,062千円(前連結会計年度比13.9%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は182,654千円(前連結会計年度比46.2%減)となりました。

 

セグメント別の業績は以下の通りです。

 

(ⅰ)Sansan事業

 当連結会計年度においては、「Sansan」の契約件数及び契約当たり月次売上高のさらなる拡大に向け、人材採用をはじめとした営業体制の強化のほか、オプション機能の拡充に取り組みました。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、新規契約獲得に一定のマイナス影響が生じたものの、営業体制の強化等が奏功し、大手メーカーや中小企業の新規契約獲得が進みました。この結果、当連結会計年度末における「Sansan」の契約件数は、前連結会計年度末比14.7%増の7,744件と順調に推移しました。また、契約当たり月次売上高は、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、「Sansan」の初期導入時に提供するサービス料金等で構成される一部の売上高が低調に推移したこと等から、前連結会計年度比4.9%増の170千円に留まりました。直近12か月平均の月次解約率(注1)は、強固な顧客基盤の実現に向け、既存顧客の利用拡大に対する継続的な取り組みを行った結果、0.63%(前連結会計年度比0.03ポイント増)となり、コロナ禍においても1%以下の低水準を維持しました。

 

 以上の結果、当連結会計年度における売上高は14,583,951千円(前連結会計年度比18.7%増)、うち「Sansan」における固定収入であるストック売上高は13,800,163千円(前連結会計年度比23.6%増)、その他の売上高は783,787千円(前連結会計年度比29.7%減)となりました。また、セグメント利益は6,143,129千円(前連結会計年度比28.1%増)となりました。

 

(注)1.「Sansan」の既存契約の月額課金額に占める、解約に伴い減少した月額課金額の割合

 

(ⅱ)Eight事業

 当連結会計年度においては、「Eight 企業向けプレミアム」等の各種BtoBサービスのマネタイズ強化に取り組んだほか、新たなビジネスイベントとして、若手ビジネスパーソンを対象とした「Climbers」をオンライン形式で2回開催し、2021年5月に開催した2回目のイベントでは、これまで当社が主催した中で過去最多のエントリー数を獲得しました。加えて、「Eight」ユーザー数の拡大を目的として、「Eight」ユーザーにビジネスイベント情報を届け、また、イベント主催者にはイベント集客のサポートをするビジネスイベントメディア「Eight ONAIR」の提供を2021年5月より開始しました。この結果、当連結会計年度末における「Eight 企業向けプレミアム」の契約件数は前連結会計年度末比46.8%増の2,253件、「Eight」ユーザー数(注2)は前連結会計年度末比21万人増の292万人となり、順調に伸長しました。そのほか、連結子会社化したログミー社の業績が2020年9月より寄与しています(当セグメントのBtoBサービス売上高に計上)。

 

 以上の結果、当連結会計年度における売上高は1,604,351千円(前連結会計年度比48.8%増)、うちBtoCサービス売上高は296,722千円(前連結会計年度比1.8%増)、BtoBサービス売上高は1,307,629千円(前連結会計年度比66.3%増)となりました。セグメント損益については、現在は将来の収益化に向けた先行的な投資を行っているフェーズであることから、セグメント損失732,622千円(前連結会計年度はセグメント損失894,281千円)を計上しました。

 

(注)2.アプリをダウンロード後、自身の名刺をプロフィールに登録した認証ユーザー数

 

②財政状態の分析

(資産)

 当連結会計年度末における総資産は24,310,195千円となり、前連結会計年度末に比べ、1,490,427千円増加しました。これは主に、投資有価証券の取得及び期末評価による増加1,403,351千円、ログミー社の取得によりのれんが185,662千円増加したこと等によるものです。

 

(負債)

 当連結会計年度末における負債合計は11,725,297千円となり、前連結会計年度末に比べ、541,849千円減少しました。これは主に長期借入金の返済による減少3,013,174千円及び1年内返済予定の長期借入金の減少181,922千円、顧客企業から契約期間分の料金を一括で受領すること等による前受金の増加1,429,855千円、繰延税金負債の増加571,290千円によるものです。

 

(純資産)

 当連結会計年度末における純資産額は12,584,898千円となり、前連結会計年度末に比べ、2,032,276千円増加しました。これは主に、新株予約権の行使による資本金の増加76,295千円、資本剰余金の増加76,295千円、投資有価証券の期末評価に伴うその他有価証券評価差額金の増加1,622,129千円及び親会社株主に帰属する当期純利益の計上による利益剰余金の増加182,654千円によるものです。

 

③キャッシュ・フローの分析

当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という)は、12,223,291千円となり、前連結会計年度末に比べ440,154千円減少(前年同期比3.5%減)しました。当該減少には資金に係る為替変動による影響2,357千円が含まれています。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次の通りです。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果得られた資金は3,011,227千円(前年同期は2,822,265千円の収入)となりました。主な資金増加要因は、税金等調整前当期純利益の計上370,414千円、非現金支出となる減価償却費の計上691,356千円及び未払金の増加620,663千円並びに前受金の増加1,401,290千円等であり、主な資金減少要因は、売上債権の増加121,524千円、未払消費税等の減少額162,259千円、その他の負債の減少額66,088千円及び法人税等の支払額246,997千円等によるものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果使用した資金は551,416千円(前年同期は7,189,107千円の支出)となりました。これは主に、関係会社株式の取得による支出660,573千円、無形固定資産の取得による支出636,059千円、投資有価証券の取得による支出336,320千円、有形固定資産の取得による支出273,646千円等の支出、投資有価証券の売却による収入1,680,107千円によるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果使用した資金は2,902,323千円(前年同期は11,563,071千円の収入)となりました。これは主に長期借入金の返済による支出3,220,929千円等の支出、短期借入金の純増加173,938千円、株式の発行による収入152,292千円等の収入によるものです。

 

④生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

 当社グループは、提供するサービスについて生産に該当する事項がないため、生産実績に関する記載はしていません。

 

b.受注実績

 当社グループは、受注から役務提供の開始までの期間が短いため、受注実績に関する記載は省略しています。

 

c.販売実績

 当連結会計年度の外部顧客への販売実績をセグメントごとに示すと、次の通りです。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2020年6月 1日

至 2021年5月31日)

前年同期比(%)

Sansan事業(千円)

14,583,951

118.7

Eight事業(千円)

1,600,601

148.5

合計(千円)

16,184,553

121.1

(注)1.主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合については、総販売実績に対する割合が10%以上の相手先がいないため記載を省略しています。

2.上記の金額には、消費税等は含まれていません。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次の通りです。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものです。

①重要な会計方針及び見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成に当たって、重要となる会計方針については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載しています。

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載の通りです。なお、新型コロナウィルス感染症の影響については、今後の広がり方や収束時期等を正確に予測することは困難な状況にありますが、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う経済への影響が2022年5月末まで続くとの仮定の下、繰延税金資産の回収可能性等の会計上の見積りを行っています。

 

②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容については、「(1)経営成績等の状況の概要」に含めて記載しています。

 

③資本の財源及び資金の流動性

当社グループは、認知度の向上及びユーザー数の拡大をすべく、積極的に広告宣伝活動を実施してまいりましたが、今後も広告宣伝投資を継続して実施する方針です。当社グループの資金需要の一定割合は広告宣伝投資であり、必要な資金は自己資金、金融機関からの借入及びエクイティファイナンス等で資金調達していくことを基本方針としています。なお、これらの資金調達方法の優先順位等に特段方針はなく、資金需要の額や使途に合わせて柔軟に検討を行う予定です。

 

④経営成績に重要な影響を与える要因について

 経営成績に重要な影響を与える要因については、「2 事業等のリスク」をご参照下さい。

 

⑤経営者の問題意識と今後の方針に関して

経営者の問題意識と今後の方針については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照下さい。

4【経営上の重要な契約等】

 該当事項はありません。

 

5【研究開発活動】

 該当事項はありません。