第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、提出日現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1) 経営方針

ゲノム編集治療薬の研究開発及び製造を営む当社グループは、そのコアとなるプラットフォームである『切らないCRISPR技術(CRISPR-GNDM®技術)』を用いた創薬によって、その多くが希少疾患に属する遺伝子疾患に対して治療薬を次々と生み出し、企業理念である「Every life deserves attention (すべての命に、光を)」のとおりに、病気で希望を失わなくてすむ社会の実現に貢献してまいります。

 

(2) 経営戦略

当社グループでは、独自の創薬プラットフォームシステムCRISPR-GNDM®技術を活用し、遺伝子治療薬を生み出すことにより、数千あるといわれる遺伝子疾患で苦しむ方々に貢献することを目的とし、新しい創薬技術(モダリティ)である「遺伝子治療」あるいは「ゲノム編集治療」市場の創成に寄与し、世界の医療の進歩に貢献してまいります。

 

(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

遺伝子治療薬は、世界的にもまだ本格的な普及段階には至っていない最先端のものであり、当社グループを取り巻く環境の今後の動向は不確実性が高くあります。また、医薬品の開発においては、研究開発段階から上市に至るまでの研究期間が長期間にわたるため、一般的なROAやROE等の財務指標を目標とすることは適さないと考えております。

そのため、当社グループは、開発パイプラインの量と質を経営上の目標の達成状況を判断するための指標としております。開発パイプラインの量とは開発パイプラインの本数のことであり、質とは開発パイプラインにおける研究開発や臨床試験等の進捗状況のことであります。開発パイプラインの量と質を充実させていくことが、経営の安定を図りながら企業価値を高めることになると認識しています。

 

(4) 経営環境

2017年にLuxtrnaが遺伝性疾患に対する最初の遺伝子治療薬としてアメリカ食品医薬品局(FDA: Food and Drug Administration)で製造販売承認を受けたことを皮切りに、複数の遺伝子治療薬が毎年承認される状況になっております。現在遺伝子治療は世界で3,000本のアクティブ治験が行われている状況で、またゲノム編集においては、クリスパーセラピューティックス社の血液疾患治療薬が、バーテックス社と共同で製造販売承認を2024年にFDAから受けております。

各国の当局機関は遺伝子治療に対して引き続き前向きな姿勢を維持しており、ガイドラインの制定、治験のための環境整備を通じ、遺伝子治療に係る承認制度の整備や新薬承認のスピードアップが継続的に図られていくことが予想されます。日本でも2014年11月に施行された「再生医療安全性確保法」及び「薬機法」において、再生医療とともに遺伝子治療も産業促進化が進むなか、2015年9月には、新制度の早期承認制度下で初めてとなる国内の再生医療等製品(遺伝子治療を含む)に対しての条件・期限付き販売の承認がされるなど、遺伝子治療推進への意識は見られています。しかしながら、現実的には欧米や中国に比べても臨床試験の本数は圧倒的に少ない状況となっています。これはカルタヘナ法対応など米国等に比べてよりハードルの高い規制対応があることも原因ですが、根本的には先端医療に対する保守的なパブリック・アクセプタンスや、医療側の経験がまだ十分でないことにより大きな原因があり、ファースト・イン・ヒューマン試験(世界で最初に開発薬を投与する試験)を日本で行うには引き続き障害が大きいと考えています。当社としては、こうした日本の遺伝子治療がさらに水をあけられかねない状況を危惧しつつも、各国の規制などの状況を鑑みて、最適、最速の開発が実現するために、開発国の選択を含めた開発戦略を構築してまいります。

また、遺伝子治療の対象領域は、その裾野が初期の眼科領域などの局所投与による治療から、肝臓疾患や筋肉疾患領域などの全身投与を必要とする疾患へとターゲットが広がりつつあります。また全身投与による治療においては、ターゲット組織への組織選択性が課題となることから、組織特異的な送達を行うことができるような改変型送達方法が開発されるようになり、組織特異的ウィルスベクターなどのデリバリー技術があらたなフロントラインとして脚光を浴びるに至っております。こうしたことを含めて、遺伝子治療の進歩は他分野の技術との融合によってさらに加速し、実用化ステージから、拡大収穫期へと進んだと当社は考えています。

一方で当社を取り巻く経済的な環境は、米国を中心に市場全体としては良好であるにも関わらず、上場バイオテック株のパフォーマンスが主要国において市場平均を下回っていることなどから、業界への資金供給が細っており、極めて厳しい資金環境であると考えられております。結果として、多くのレイオフが米国のバイオテック・製薬会社で見られ、パイプラインの絞り込みなどが多くアナウンスされています。また当社の場合、円安の進行などもあり、人件費をはじめとした費用高騰の形で支出サイドにインパクトを与えております。今後、事業遂行上で様々な制約を受ける可能性が否めず、また受ける制約は広範かつ予測が困難であるために、慎重に注視する必要があると考えております。

 

(5) 事業上及び財務上の対処すべき課題

当社グループでは、当社が継続企業として成長し続けるために対処しなければならない課題を以下のように考えております。

 

① 研究開発活動における課題

当社グループは、創薬プラットフォームシステム:CRISPR-GNDM®技術を保有・活用しており、既存のモダリティでは実現しえなかったターゲットに対する創薬を実現できるという大きな技術的優位性があると考えております。また、CRISPR-GNDM®技術により創出される遺伝子治療の活用はこれまで困難であった希少疾患への医薬品開発への大きな可能性を秘めております。現在、当社ではCRISPR-GNDM®技術の更なる強化とそれを用いた自社・提携プログラムの開発を進めております。当社グループは、自社技術の優位性を確保し続けるため、国内外の製薬企業及び研究機関等との共同研究を推進しつつ、今後も自社内における研究開発、その体制の強化及び知財ポジションの強化を進める所存であります。

 

② 営業活動における課題

当社グループのCRISPR-GNDM®技術を利用した治療薬をより多くの疾患に対して提供するためには、「幅のある開発」と「バリューチェーンの補完」を実現しなければなりません。そのためには、パートナーとより多くのターゲットに対する共同研究開発を実現する連携体制を構築し、また成果物の販売までの道筋をつくっていく必要があります。国内外の製薬企業あるいは製造・販売を業とするパートナーと戦略的かつ補完的な相互関係をさらに広げ、研究開発体制の進捗と連動した戦略的な営業活動が重要だと考えております。

 

③ 内部管理・統制における課題

当社グループの創薬によって患者や医療システムを通じて社会に貢献するため、また事業活動を円滑に行っていくために、コーポレート・ガバナンスの強化が重要な課題の一つであると認識しております。研究開発の適正な意思決定と運営管理を行い、経営の健全性、透明性を高め、長期的、安定的かつ継続的に治療薬を生み出すことが、ひいては企業価値を向上させることに繋がると考えております。患者、医療従事者、株主をはじめ、全てのステークホルダーから信頼をいただけるよう、社会に対して説明可能な意思決定及び事業の遂行をしていくことが重要だと考えております。

 

④ 資金調達における課題

当社グループは、CRISPR-GNDM®技術による創薬を拡大し、また今後の自社開発を実現するために、研究開発で必要とする資金を充当していく必要があります。そのため、提携などを通じた研究開発資金の獲得の他、資金調達手段の確保・拡充に向けて、株式市場からの必要な資金の獲得や銀行からの融資、補助金等を通して、開発に必要な資金調達の多様化を図ってまいります。

 

⑤ 人材の獲得における課題

当社グループは、世界中の製薬会社・バイオベンチャーが研究拠点を置く米国マサチューセッツ州ケンブリッジ市を中心とするボストンエリアのウォルサム市に100%出資の研究開発拠点となる現地法人 Modalis Therapeutics Inc.を置き、Ph.D.(博士)研究者を中心に世界中から集まる研究人材へのアクセスを高めております。これによりコア・コンピタンスとなるプラットフォーム技術の強化及び創薬研究開発を高いレベルで維持し、国際的な競争力を実現しております。また、治験薬製造などコア以外の機能は外部協力事業者を活用し、資本効率を高められるようなリソース配分を行っております。今後、開発の加速、適応疾患の拡大、パイプラインの進捗等に応じて、必要に応じて適切かつ十分な人材確保に努めてまいります。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社は、「Every life deserves attention(すべての命に、光を)」の企業理念に基づいて、遺伝子疾患に対する治療薬の研究開発を行っています。私たちが取り組んでいる遺伝子治療やゲノム編集は、病気の原因となっているヒトの遺伝子の修復等を行う先進的な治療法であり、世界的にまだまだ普及段階にあります。しかし、世界中で遺伝子疾患を抱える患者が多く存在しているのが現状です。

当社は、独自の創薬プラットフォームシステムCRISPR-GNDM®技術を活用して、遺伝子治療薬を開発し、社会に有益な治療薬を提供してまいります。これにより、病気に苦しむ人々が希望を持ち続けられる社会を実現し、産業や社会の成長への貢献につながるものと考えております。

 

(1)ガバナンス

当社グループでは、サステナビリティに関連するリスクや機会を、その他の経営上のリスクや機会と一体的に監視及び管理しています。詳細については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要」をご参照ください。

 

(2)戦略

当社では、研究開発分野における専門的な人材の増強、組織の強化が重要な経営課題と考えており、人的資本の拡充に向けて積極的に取り組んでまいります。

具体的には、フレックスタイム制度、ストックオプション制度や事後交付型株式報酬制度など人材確保のための各種制度の整備並びに社内外の機会をとらえた社員教育を実施しております

 

(3)リスク管理

当社では、サステナビリティ関連のリスクや機会を、その他経営上のリスクや機会と一体的に監視及び管理しております。詳細は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 ②リスク管理について」をご参照ください。

 

(4)指標及び目標

当社のサステナビリティへの取組みに係るリスクの評価と対応については、経営資源の有限性の観点から、影響の重要性に応じて取り組むべき優先順位を決定し、目標を設定することとしております。当社の人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針に関する具体的な指標について、現時点では定量的な指標や目標は設定しておりませんが、達成に向けて進捗を注視していくとともに、指標や目標の設定要否についても引き続き検討する予定です。

 

3 【事業等のリスク】

当社グループの事業運営及び展開等について、リスク要因として考えられる主な事項を以下に記載しております。中には当社グループとして必ずしも重要なリスクとは考えていない事項も含まれておりますが、投資判断上、もしくは当社グループの事業活動を十分に理解する上で重要と考えられる事項については、投資家や株主に対する積極的な情報開示の観点からリスク要因として挙げております。

当社グループはこれらのリスクの発生の可能性を十分に認識した上で、発生の回避及び発生した場合の適切な対応に努める方針ですが、当社株式に関する投資判断は、本項及び本項以外の記載も併せて、慎重に検討した上で行われる必要があると考えます。また、これらは投資判断のためのリスクを全て網羅したものではなく、さらにこれら以外にも様々なリスクを伴っていることにご留意いただく必要があると考えます。当社グループは、医薬品等の開発を行っていますが、医薬品等の開発には長い年月と多額の研究費用を要し、すべての開発が成功するとは限りません。特に販売開始前の研究開発段階のパイプラインを有する製品開発型バイオベンチャー企業は、事業のステージや状況によっては、一般投資者の投資対象として供するには相対的にリスクが高いと考えられており、当社への投資はこれに該当します。

なお、文中の将来に関する記載は、提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)  遺伝子治療薬の研究開発に関するリスク

① 遺伝子治療薬について

当社グループは、遺伝子治療薬の研究開発を主な事業活動の領域としております。遺伝子治療は国内外において治験のための環境整備や新薬承認のスピードアップが図られ、将来的な拡大が想定される事業領域でありますが、遺伝子治療の領域は新規領域であるため、研究開発の動向や規制の強化、競合技術の台頭、資金調達等において当社の想定通りに事業が進展しなかった場合には、当社グループの事業戦略や経営成績に影響を与える可能性があります。対策としては、常に最先端の科学技術や関連企業の動向をモニタリングし、適切な対応を取っていく所存です。

 

② 先端医療に関する事業であることに由来するリスクについて

遺伝子治療薬の開発は、遺伝子治療薬の基盤となる学問や技術が急速な進歩を遂げている中で、遺伝子治療薬そのものに関する研究開発も非常に速いスピードで進んでおり、日々新しい研究開発成果や安全性・有効性に関する知見が生まれている状況にあります。当社グループの基盤技術であるCRISPR-GNDM®については、現時点で先進的技術であり、また学術的に見ても一部の遺伝子疾患に対して安全性・有効性・応用可能性ともに他の遺伝子治療・ゲノム編集薬よりも優位性を持つ分野があると考えております。しかしながら、当社グループの技術が常に急激な技術革新の波に追い越される可能性があります。

また、世界的な遺伝子治療薬の開発状況は、欧州、米国等の一部の国や地域で医薬品として当局より製造承認を受けて実用化され始めている段階です。これまでに網膜疾患や脊髄性筋萎縮症(SMA)、サラセミア病、血友病や筋ジストロフィーなどに対する治療薬が承認を受けていますが、今後より広範な対象疾患に対する治療薬が承認をうけることが期待されています。日本国内においても、提出日現在で遺伝性疾患に対する遺伝子治療薬(ガン治療を目的としたものを除く)として当局から製造承認を受けたものは2つだけであり、主に特定の医療機関や研究機関が用いる高度な医療技術として比較的限定された範囲での臨床研究・臨床試験を中心として行われている段階です。

一方で、筋ジストロフィーなど全身性疾患へと適用が広げられつつある結果、いくつかのハードルも明らかになりつつあり、2021年9月初旬に米国FDAにおいて細胞・組織・遺伝子治療諮問委員会(Cellular, Tissue, and Gene Therapies Advisory Committee)が開催され、開発が活発化している遺伝子治療等の安全性に関しての情報共有と議論がなされ、最新の知見に基づきモニタリングすべき事項が示されました。2022年3月に米国FDAよりゲノム編集医療に対するドラフトガイダンスが発行され、ゲノム編集治療薬はすでに臨床試験中のものも複数ある中で、開発、特に治験申請に対するフレームワーキングの動きが出てくるに至っています。こうしたことを含め、まだ発展途上にある遺伝子治療薬の開発実績が他の医薬品開発と比較して豊富でないことから、想定していない副作用が出る可能性があります。こうしたリスクの発生により、当社グループの事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

対策としては、遺伝子治療に対する対応と同様に、常に最先端の科学技術や関連企業をモニタリングし、適切な判断、アクションをとっていく所存です。

 

③ 法規制改正・政府推進政策等の変化に由来するリスクについて

遺伝子治療薬に関連する本邦内外の法規制については、最新の技術革新の状況に対応すべく常時変更や見直しがなされる可能性があります。例えば、法律・ガイドライン等の追加・改正により、これまで認められてきた開発方針が認められなくなるリスクや当社グループの想定通りの開発契約や申請内容で薬事承認が下りない、または薬事承認の取得に想定以上の時間を要するといったリスクも否定できません。たとえ当社の製品候補が薬事承認を得られたとしても、承認後の法律・ガイドライン等の追加・改正により新たな規制に服する可能性もあります。このような事象が顕在化した場合には、当社グループの事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

また現在、米国や日本をはじめとする医療先進国においては先端医療に係る各種の推進政策が実施されております。これらの推進政策は、当社が推進する遺伝子治療薬に大きな影響を与える可能性がありますが、その影響の内容・大きさは現時点で定かではないことから、当社が予見しえない推進政策が採られた場合には、当社グループの事業戦略及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

対策としては、法規制の流れをモニタリングしていくと同時に、必要な場合には独自あるいは業界団体を通じてしかるべき働きかけを行い、当局の合理的な政策形成に関与していくことも必要であると考えています。

 

④ ヒトまたは動物由来等の原材料の使用に関するリスクについて

一般的に遺伝子治療薬は、ヒト細胞・組織を利用したものであり、利用するヒト細胞・組織に由来する感染の危険性を完全に排除し得ないことなどから、原材料の安全性に関するリスクが存在するとされています。また遺伝子治療薬は、原材料や製造工程で使用する培地に動物由来原料を使用しており、この動物由来原料の使用によって未知のウィルスによる被害等が発生することが否定できないため、これらのリスクが当社グループの事業戦略及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。対策としては、技術的にこうしたリスクを生じる原料の使用を回避する手段を模索すると同時に、現行の方法でも必要なリスク低減措置を行なっていく所存です。

 

⑤ ゲノム編集技術における競合リスクについて

CRISPR/Cas9は、2012年にUCB及びブロード研などで発見された新たなゲノム編集技術ですが、以前から研究されてきたジンクフィンガー(ZFN)、メガヌクレアーゼ(Meganuclease)、タレン(TALEN)及びその派生型といった別のゲノム編集技術もあります。さらにCRISPR技術においてもCas9の他にCas12a、Cas12f、Cas13、Cas14、CasX、CasΦといった別のCasファミリーが見つかっており、CRISPR/Cas9の代替手段となり得る可能性があります。ゲノム編集は、国際的な巨大企業を含む国内外の数多くの企業や研究機関等による激しい競争状態にあり、その技術革新は急速に進んでいる状況であります。

CRISPR-GNDM®技術は、遺伝子を切らない方法による安全性への訴求及び酵素の小型化による細胞内部への到達性の高さから、ゲノム編集や一般の遺伝子治療と棲み分けができる分野が多数ある一方で、一部の対象疾患においては他のモダリティによる開発品と競合するものがあります。また、CRISPR-GNDM®技術と同じようにエピジェネティクスの操作により遺伝子制御をする技術として、Sangamo社(Sangamo Therapeutics Inc. 米国カリフォルニア州、ティッカーシンボル「SGMO」)が開発を行うZFP-TFのように他のDNA結合モチーフを用いることにより遺伝子制御を実現することも可能です。Chroma Medicine(Chroma Medicine, Inc. 米国マサチューセッツ州)あるいはTune Therapeutics (Tune Therapeutics, Inc. 米国ノースカロライナ州)といったエピジェネティクスの直接制御を標榜する会社がここ数年で複数設立されています。さらにはウィルスベクターやナノカプセル(LNP)などの技術革新により、より大きいサイズの分子を遺伝子導入するような技術も模索されております。これらは小型化を必要としないことにつながり、当社技術を迂回してCRISPRに基づく遺伝子制御を行なうことを可能にします。これらの競合相手や今後開発されてくる可能性のある新技術との競争において必ずしも当社グループが優位性をもって継続できるとは限らず、研究、開発、製造及び販売のそれぞれの事業活動における競争の結果により、当社グループの業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。

対策としては、各要素技術のさらなるバージョンアップを行っていくと同時に、最新の技術の動向をモニタリングしながら必要な技術については導入などを検討していくことで、当社技術の保護・強化にむけて努力を続けてまいります。また、当社グループの技術等の優位性を確保できるパイプラインを優先しながら研究開発を進めて、仮に競合優位性を保てないと判断したものについては、中止等の判断を含むポートフォリオの見直しを随時行なっていきます。

 

⑥ 遺伝子治療及びゲノム編集に対する社会的意識形成のリスクについて

遺伝子治療やゲノム編集は、病気の原因となっているヒトの遺伝子を操作する治療方法です。一方で、遺伝子操作に対する社会の理解は、食品や植物などに使われている遺伝子組み換え技術などの様々な遺伝子関連技術と混同されて正しい理解が進んでいない状況にあります。また、2018年末に中国の研究者がヒト受精卵のゲノム編集を行い、操作された受精卵から実際に子供が産まれたと報告し、ゲノム編集に対する倫理面での課題を提起させるきっかけとなりました。こうした当社グループ以外の他グループによる社会倫理または生命倫理から逸脱した行為が発生した場合、遺伝子治療やゲノム編集に係る自由な研究活動に対する規制の強化や社会的信頼の失墜を通じて、当社グループの事業展開にも重大な影響を及ぼす可能性があります。対策としては、当社グループは遺伝子治療やゲノム編集に対する正しい理解とその中で当社技術の安全面における優位性の理解を浸透させるべく、各種シンポジウムなどに参加するなど情報発信を行い、啓蒙によってこれらのリスクを低減する努力をしてまいります。

 

⑦ 遺伝子治療薬に係る将来的な治験の実施について

当社グループは、将来的にパートナーあるいは当社グループにより開発されたCRISPR-GNDM®に基づく遺伝子治療薬の治験を計画しております。治験計画は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA:Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)やFDAなどの当局と事前に相談し、綿密な計画を立てていくことになりますが、いまだ遺伝子治療薬の治験実施例は多くはないことなどから、治験の準備、治験実施施設における各種手続きが計画通り進行しないこと、治験に必要とされる患者を適切に確保できないこと等の様々な要因によって遅延する可能性があります。さらに、安全性に関する許容できない問題が生じた場合や、期待した有効性を確認できない場合には、開発を中止するリスクがあります。このような場合、当社グループの事業戦略及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。対策としては、規制動向のモニタリングと同時に患者団体などとの連携を図ることで、適切な患者リクルートのアセスメントと実行を実現できる方法を模索してまいります。

 

(2) 医薬品業界に関するリスク

① 新薬開発の不確実性について

医薬品の開発には多額の研究開発投資と長い時間を要しますが、臨床試験や前臨床試験で有用な効果を発見できないこと等により研究開発が予定通りに進行せず、開発の延長や中止の判断を行うことは稀ではありません。また、日本国内はもとより、海外市場への展開においては、各国の薬事関連法規等の法的規制を受けており、新薬の製造及び販売には各国別に厳格な審査に基づく承認を取得しなければならないため、有効性、安全性、品質等に関する十分なデータが得られず、予定していた時期に上市ができず延期になる、または上市を断念する可能性があります。上市時期の延期となった場合には、当社グループのパイプラインにおいて追加の資金投入が必要になるほか、特許権の存続期間までの期間が短くなり、投資した資金の回収に影響を及ぼす可能性があります。また、上市を断念した場合には、投じた研究開発資金が回収できなくなります。こうした事象は当社グループのパイプラインを他社にライセンスアウトする協業モデルパイプラインでも同様であり、想定したマイルストン収入やライセンス収入が得られなくなるなどの影響が生じます。こうした事態が発生した場合には、当社グループの業績や財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。対策としては、パートナー企業との連携やパイプラインのポートフォリオ化を行うことでリスクの分散を行うとともに、適切なポートフォリオの入れ替えを含む見直しを随時行うことで不確実性を可能な限りヘッジしていく予定です。

 

② 副作用発現及び製造物責任について

医薬品は、臨床試験段階から上市後において、予期せぬ副作用が発現する可能性があります。当社グループは、こうした事態に備えて、前臨床段階から多面的な安全性の検討や可能な限りのリスクを低減する努力を行い、然るべき研究開発段階において製造物責任を含めた各種賠償責任に対応するため適切な保険に加入する予定でおりますが、最終的に当社グループが負担する賠償額の全てに相当する保険金が支払われる保証はありません。また、当社グループに対する損害賠償の請求が認められなかったとしても、製造物責任請求等がなされたこと自体によるネガティブ・イメージにより、当社グループ及び当社グループの製品に対する信頼に悪影響が生じる可能性があります。これら予期せぬ副作用が発現した場合、当社グループの業績及び財政状態に重大な影響が及ぶ可能性があるとともに、社会的信頼の失墜を通じて当社グループの事業戦略及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 国内外の薬事法その他の薬事および研究開発に関する規制について

医薬品業界は、研究、開発、製造及び販売のそれぞれの事業活動において、各国の薬事法(我が国においては「薬機法」)及びその他の関連法規等により、様々な規制を受けております。

現在のところ、当社グループのパイプラインは研究開発段階にあり、我が国の厚生労働省、FDA、欧州医薬品庁(EMA)等から上市のための認可は受けておりませんが、今後、各国の薬事法等の諸規制に基づいて医薬品の製造販売承認申請を行い、承認を取得することを目指しております。

当社グループのパイプラインについても、上記の規制をクリアするための体制整備が求められることになります。また、各国の薬事法及びその他の関連法規等は随時改定がなされるものであり、さらなる体制の整備・変更を求められることが考えられます。こうした規制への対応を適切に行えなかった場合、また規制対応に多額のコストを要すことにより、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

なお、当社グループでは米国マサチューセッツ州ウォルサム市に研究開発拠点を有しており、州及び市当局の各種規制等に準拠して研究開発活動を行っております。

 

④ 国内外における医療費抑制策について

当社グループの遺伝子治療薬の最重要ターゲットである米国において、2010年3月に改定された医療保険改革法案等による先発医薬品への価格引下げ圧力及び低価格のジェネリック医薬品の使用促進が進んでいます。また米国でも医療費抑制政策を発表しており、保健医療制度に大きなインパクトがある可能性があります。日本国内においても、政府は増え続ける医療費に歯止めをかけるため、医療費の伸びを抑制していく方針を示しており、定期的な薬価引き下げ及びジェネリック医薬品の使用促進等が進んでいます。当社グループ、またはパートナーにライセンスした医薬品候補が上市された場合には、各国政府の医療費抑制に基づく薬価政策の影響を直接、若しくは間接に受け、当社グループの収益、若しくはパートナーからのロイヤルティ収入に影響を及ぼすことになり、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) 事業遂行上のリスク

① 主要な事業活動の前提となる事項について

当社グループは、国立大学法人東京大学(以下、「東京大学」という。)との間において特許権について共同保有するなどしております。同大学との間では、改変Cas9にかかる同大学との共有特許について、独占的実施権の許諾を受け、その対価として、契約一時金及びかかる特許権を第三者に実施許諾した場合の収入(契約一時金、マイルストン収入、ロイヤルティ収入)の一定料率に相当する金額を同大学に支払うこと等を定めた下記の契約を締結しており、事業に関わる重要な契約であると認識しております。

またEditas Medicine, Inc.(米国マサチューセッツ州、ティッカーシンボル「EDIT」。以下、「エディタス社」という。)との間においては、特許のライセンス契約を締結しております。同社との間では、同社がライセンス権を有するCRISPR/Cas9特許について、非独占的実施権の許諾を受け、その対価として、契約一時金を支払っております。これに加え、事業の進捗に伴うマイルストン、サブライセンス収入及び上市後のロイヤルティ等を同社に支払うことを定めた下記の契約を締結しており、事業の根幹に関わる重要な契約であると認識しております。

現時点では、東京大学及びエディタス社との取引については良好な関係を維持しつつも、当社グループまたは株主の利益を害することのないよう法規制を遵守するとともに、取締役会の監視等を通じて十分留意しております。下記契約の継続に支障をきたす要因は発生しておりませんが、今後、当該契約の継続に支障をきたす要因が発生した場合、あるいは当社にとって不利な契約改定が行われた場合及び契約期間満了後に契約が継続されない場合は、当社グループの利益及び社会的評価を損ねる可能性があり、その結果として当社グループの事業、業績や財務状況等に重大な影響を及ぼす可能性があります。

いずれの契約においても当該条項に該当する事案が発生する可能性は極めて低いと考えておりますが、何らかの理由により当該条項に抵触した結果、契約が解除された場合に当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

契約書名

契約会社名

(契約締結日)

契約内容

発明の特許共同出願に関する契約

国立大学法人東京大学、

株式会社東京大学TLO

(2018年10月15日)

後述の「5 経営上の重要な契約等 (1)基盤技術に関する独占ライセンス契約」をご参照ください。

Non-Exclusive License Agreement

Editas Medicine, Inc.

(2020年4月1日)

後述の「5 経営上の重要な契約等 (2)当社が実施許諾を受けているライセンス契約」をご参照ください。

 

 

② 特定の技術への依存について

当社の協業モデルパイプライン及び自社モデルパイプラインは、いずれも当社の創薬開発プラットフォームシステム(CRISPR-GNDM®)により創製される遺伝子治療薬で構成されています。CRISPR-GNDM®技術は新規性・進歩性を有するオリジナリティの高いものであり、容易に代替技術が生まれて当社の存在価値が危ぶまれるような事態になることは想定し難いと考えております。しかしながら、CRISPR-GNDM®技術に対する製薬企業の評価が変化した場合や当社のCRISPR-GNDM®技術がパートナーの医薬品開発に貢献できない事態が生じた場合には、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 協業モデルパイプラインについて

当社グループは、開発中の遺伝子治療薬に関し、パートナーである製薬会社と共同研究開発契約及びライセンス契約を締結しており、これらの契約によるパートナーと締結する共同研究開発契約による開発協力金並びに現在開発中のパイプラインのライセンスアウト時の契約一時金、開発進捗に伴うマイルストン収入及びロイヤルティ収入等による収入を元にした事業収益計画を有しています。

しかしながら、このような提携契約には、パートナーによる解除が可能である旨の条項が含まれていることがあるため、パートナーの経営方針の変更や経営環境の極端な悪化等の当社がコントロールし得ない何らかの事情により、期間満了前に終了する可能性があります。現時点では現在のパイプラインに対してこれらの契約が終了となる状況は発生していませんが、本契約が期間満了前に終了した場合は、当社グループの業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。

また、当社がパートナーにライセンスアウトした医薬品候補は、パートナーが主体となって臨床試験及び承認申請を行うことになりますが、その進捗と結果が当社の事業戦略及び経営成績に大きな影響を及ぼします。当社は、ライセンスアウト後もパートナーをサポートしますが、臨床試験及び承認申請はパートナーが行うものであり、当社でコントロールすることはできません。したがって、臨床試験及び承認申請の進捗が当社の予期しない事由により遅滞が発生すること、臨床試験及び承認申請が断念されることによりマイルストン収入やロイヤルティが得られず、当社の事業計画や経営成績、財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

なお、当社グループでは今後、こうした開発中のパイプラインの中断や中止による経営成績や財政状態への影響を避けるため、パイプラインの複線化を行うとともに、早期より共同開発パートナーとの提携やライセンスアウトすることによって将来収益の一部を提供することと引き換えにリスクの低減を行います。また、技術的問題が要因で開発の中断が発生した際には、成功確率がより高いターゲットへ研究資源の再配分を実施します。一方でパートナーの戦略的判断による場合で当社グループが開発継続に合理性があると判断する場合は、自社または別のパートナーとの協業によって開発を継続することを検討いたします。

さらに、製造販売承認後の販売計画はパートナーに依存しており、パートナーの経営方針や販売計画の変更、経営環境の悪化等により販売計画を達成できない等の可能性があります。

そのほか、医薬品の研究開発には多額の資金が必要となることから、当業界においては組織再編やM&Aが盛んであり、パートナーの組織再編、競合他社による買収(競合他社から買収される)など、業界における競争の構図が短期間に塗り替えられる可能性があります。こうした大規模な企業組織再編が当社のパートナーに生じた場合、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

対策としては、パートナー企業との連携やパイプラインのポートフォリオ化を行うことでリスクの分散を行うとともに、適切なポートフォリオの入れ替えを含む見直しを随時行うことで不確実性を可能な限りヘッジしていく予定です。

 

④ 共同研究開発間のコンフリクトについて

提出日現在、当社の協業先としてのパートナーがあります。パートナーまたはパートナー候補の製薬会社は、独自戦略に基づきターゲット遺伝子を絞り込んでおります。遺伝子疾患のターゲットとなる遺伝子は数千ありますが、パートナーまたはパートナー候補の間で意中のターゲット遺伝子が競合してしまう可能性があります。当社はターゲット毎に排他的契約を結んでいることから、後から既にパートナーと契約を締結済みのターゲットを希望する製薬会社が現れた場合には、当社は新たな共同研究開発契約や新たなターゲットが獲得できないなど、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑤ 自社モデルパイプラインについて

当社グループでは、協業モデルパイプラインの他に自社モデルパイプラインの研究開発を進めております。これらのプログラムは非臨床試験において、GMPに準拠した原体の製造を行い、GLP準拠の前臨床試験を行う計画です。自社モデルパイプラインについては、研究開発が順調に進展し、臨床試験まで当社の負担で実施する段階になると、多額の開発費用を要する状態になる可能性があります。また、自社モデルパイプラインの研究開発が自社の理由あるいは外注先などの理由によって順調に進展しない場合には、将来の事業化のタイミングが遅れることによって収益化のタイミングが遅延したり、あるいは競合企業の事業化に遅れをとることで事業化の可能性を失ったりする可能性があります。さらに開発の各段階で、技術上の理由あるいは戦略上の理由でパイプラインの開発を中断することがあり、その場合にはそれまでに投資した研究開発費を回収できない可能性があり、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。対策としては、適切なプロジェクト管理を行うことによって遅延のリスクを低減するとともに、複数の委託先候補との協議を並行して行い、必要なプロレスについては複線化を検討することによってバックアップが可能な体制を構築することでタイムラインに遅延が生じないようなスロットの確保を目指してまいります。

 

⑥ 情報管理について

当社グループの事業は、パートナーである製薬会社からターゲットの情報を預かる立場にあります。そのため、当社グループは、従業員との間において顧客情報を含む会社の情報の保護に係る誓約書を徴求し、会社情報の漏洩の未然防止に努めております。また当社グループの固有の技術、パイプライン、それらの開発の進捗状況などは重要な情報であり、これらにアクセスが可能な役員、従業員、共同研究先、アドバイザーなどから漏洩する可能性があります。当社グループは漏洩防止のためのセキュリティー対策を行っておりますが、万一顧客の情報を含む会社の情報が外部に漏洩した場合は、当社グループの信用低下を招き、事業戦略に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑦ 投資に関するリスク

当社グループでは、常に最先端の技術開発に取り組み、周辺領域を含め当事業に参入している企業や潜在的な競争相手に先んじるため、関連する技術や特許を保有する企業に対して投資という形で提携を進める可能性があります。投資先の選定やその投資価額の妥当性等においては、第三者機関の評価を得たうえで慎重に進めてまいりますが、投資先において予期せぬ問題が生じた場合や、予想通りに研究開発が進まない場合には、投資したものの価値が毀損し、当社グループの事業戦略及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

⑧ 他社との戦略的提携・企業買収等の成否について

当社グループは、競争力の強化及び事業分野の拡大等のため、他社の事業部門の譲受け、他社の買収、他社との業務提携、合弁会社の設立、他社への投資等の戦略的提携など(以下、「戦略的提携等」という。)を行うことがあります。こうした戦略的提携等については、提携先企業との思惑に相違が生じて提携・統合が円滑に進まない可能性や当初期待していた効果が得られない可能性、投資した金額の全部または一部が回収できない可能性があります。また、提携先企業が当社グループの利益に反する決定を行う可能性があり、提携先企業が事業戦略を変更した場合など、当社は戦略的提携等の関係を維持することが困難になる可能性があり、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) 知的財産権に関するリスク

① 自社特許等の取得・出願状況等について

当社グループは事業において様々な発明及び特許の出願をしておりますが、これらは単独、あるいは東京大学やパートナーと共同で出願したものを含みます。さらには東京大学が単独で出願し、ライセンス契約により当社グループに独占的あるいは非独占的な実施権が許諾されているものが存在します。

これらの特許の一部は審査中の段階にありますが、出願中の発明すべてについて特許査定がなされるとは限らず、特許権が設定登録された場合でも特許異議申立制度により特許の全部または一部の請求項が無効化される可能性があります。また、特許権侵害訴訟の提起や特許無効審判が請求されるなど特許権の有効性、帰属などに係る法的な紛争が生じ、当社グループが実施する権利に何らかの悪影響が生じる可能性があります。さらに、当社グループが実施する特許権を上回る優れた技術の出現により、当社グループが有する特許権に含まれる技術が陳腐化する可能性があります。こうした事態が生じた場合には、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

そのほか、東京大学が出願人である発明または特許権に関して、当社グループは契約により第三者サブライセンス権付き独占実施・許諾権を獲得しておりますが、当該契約の内容が変更されることや、期間満了及び解除等により契約が終了した場合において、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

 

② 職務発明に対する社内対応について

当社グループが職務発明の発明者である役職員等から特許を受ける権利を譲り受けた場合、当社グループは日本の特許法が適用されるときには、同法に定める「相当の利益」を支払うことになります。職務発明の取扱いにつき、相当の利益の支払請求等の問題が生じた場合には、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。対策としては、その取扱いについて社内規則等でルールを定めると同時に職務発明に関しては研究員との間でPatent Assignment Agreement(特許譲渡契約)を締結しており、これまでに発明者との間で問題が生じたことはありません。

 

③ 第三者知的財産権について

当社グループは、その事業を遂行していく中で、自社で特許権または特許権にかかる独占的な実施権など一定の排他的権利を確保した上で事業を行っておりますが、その他にも第三者が有する知的財産権を使用することがあります。CRISPRによるゲノム編集領域では現在知的財産権が複雑に入り組んでおり、当社グループでその事業に必要な知的財産であると特定している知的財産権以外のグループの知的財産に抵触している可能性があります。当社では適法な手続きのもとに知的財産権を使用することとしており、必要な知的財産権は製造販売に至るまでにライセンス契約などにより順次取得していく計画にしておりますが、第三者の知的財産権に関連して係争が生じる可能性もあります。当社では、第三者の知的財産権に抵触することを回避するため、調査、検討及び評価等を随時実施し、必要に応じて遅滞なく実施許諾契約(ライセンス契約)を締結しておりますが、今後、事業の拡大とともにこのようなリスクは増大するものと思われます。またライセンス契約などにより利用許諾をうけた実施権についても期間満了や解除等により権利が失われる可能性があります。当社グループは、知的財産権に関する管理体制をより強化していく方針でありますが、訴訟等が提起された場合、当社の事業戦略及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

また、当社グループが有する知的財産権が第三者により侵害される可能性もあります。当社グループとしては、このような場合には知的財産権保護のために必要な法的措置を検討していく方針ですが、費用対効果や第三者から特許無効審判等を提起される可能性なども勘案し、あえて法的措置に踏み切らない可能性も否定できません。その場合、当該第三者が当社グループと競合する事業を行う可能性も否定できないことから、当社グループの事業戦略及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループが有する特許出願、ライセンスされた特許及びその他の知的財産は、優先権紛争または発明者紛争及び同様の手続きの対象となる場合があります。当社グループまたは当社グループのライセンサーが、これらの手続きのいずれかで失敗した場合、第三者からライセンスを取得することが必要となる場合がありますが、これらの場合にライセンスを商業的に合理的な条件で利用できない、または全く利用できないことにより、当社グループの事業戦略に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

④ CRISPR領域に係る知的財産権について

当社の事業領域にしているCRISPR領域は、基本特許が紛争中の状況下で新しい特許が次々に生み出されている状況にあり、関連領域の知的財産権の全体像は引き続き混沌としたままであることが予想されています。

また、これまでにCRISPRの有力な基本特許を有するブロード研の知的財産を元にエディタス社、もう一方の有力な基本特許を有するUCB=オーストリアVienna大学特許を元にインテリアセラピューティックス社(Intellia Therapeutics Inc. 米国マサチューセッツ州、ティッカーシンボル「NTLA」)及びクリスパーセラピューティックス社(CRISPR Therapeutics AG スイスバーゼル市、ティッカーシンボル「CRSP」)が設立されています。

現在、いずれのグループも完全な形での特許ライセンスを取得しないまま開発を行っている状況です。これは、医薬品開発において、承認申請にかかるあらゆる情報の作成と合理的に関連する特許発明の使用は、ボーラー条項の免責範囲(セーフハーバー)に当たるとの判決にしたがっています。当社グループを含めていずれの会社も必要な知的財産権が明確になり、かつ開発段階が進んで上市が近づいたところではライセンスを取得していくことになると考えられています。しかしながら、当社グループまたは当社グループのライセンサーがこれらのライセンスの取得手続きのいずれかで失敗した場合、ライセンスを商業的に合理的な条件で利用できない、または全く利用できないことにより当社グループの事業戦略に重大な影響を及ぼす可能性があります。

対策としては、自社特許を含めて各プロダクトに係るその他の特許の保護を図る一方で、必要な特許の導入も並行して検討していきます。

 

⑤ CRISPR/Cas9 に係る特許のライセンスについて

当社グループは、CRISPR/Cas9の基本特許に関して、米国ハーバード大学(以下、「Harvard」という。)、ブロード研(本項には、ブロード研-米国マサチューセッツ工科大学(以下、「MIT」という。)、ブロード研-Harvard-MIT及びブロード研-Harvard-MIT-米国ロックフェラー大学で共同保有する特許も含む)(総称して以下、「ボストンライセンスパーティ」という。)、米国マサチューセッツ総合病院及び米国デューク大学がそれぞれ保有する特許などについてライセンスを受けているエディタス社とライセンス契約を締結しています。エディタス社がライセンス権を有する「ボストンライセンスパーティ」特許は、現在、カリフォルニア大学、ウィーン大学、及びエマニュエル・シャルパンティエ氏(総称して以下、「カリフォルニア大グループ」という。)が共同で所有する米国特許出願とインターフェアランス※32(インターフェアランス番号106,048号)という先発明者を争う紛争下にありましたが、2018年9月10日に連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、米国特許商標庁審判部(以下、「PTAB」という。)が出した「事実上の干渉はない」との決定を是認する判決を下しました。

また、2019年6月24日にPTABは、当社グループがライセンス権を有するボストンライセンスパーティが共同所有している13の米国特許と1つの米国特許出願※33と、カリフォルニア大グループが出願する10件の米国特許出願※34との間で、ボストンライセンスパーティがシニアパーティ(senior party:最先の出願日を有する出願人、または特許権者)、カリフォルニア大グループをジュニアパーティ(junior party:自己が先に発明した事実の立証責任を負います)としてインターフェアランス(インターフェアランス番号106,115号)の手続きに入ったと宣言を行い、その後、PTABは、2019年8月26日、ジュニアパーティの4件の特許出願をインターフェアランスの対象に追加しました。そしてPTABは、2022年2月28日に本件インターフェアランスについても「事実上の干渉はない」とするボストンライセンスパーティの権利を認める判決を下しました。

上記2件の米国のインターフェアランスの結果はボストンライセンスパーティの権利について、当事者に有利に解決されることとなり、従って当社がエディタス社を通じて受けるCRISPR基本特許が有効であることが示されたことになります。しかしながらこれはカリフォルニア大グループの特許を否定するものではなく、将来的に製造販売の段階においてカリフォルニア大グループの特許が引き続き必要となった場合において、商業的に合理的な条件でライセンスを取得することができない、または必要なライセンスを取得する交渉に時間が掛かる場合には製造販売ができない、あるいは遅延する可能性があります。また基本特許が非独占的でライセンスされる場合で、かつ当社がコントロールする他の特許によって他者排除ができなかった場合には、競合他社や他の第三者が当該基本特許にアクセスをすることによって類似したあるいは同等の効果を与える技術によって当社製品と競合する製品が上市される可能性があります。このような場合で、かつ当社技術による製品がそれらの他技術による競合製品に開発時期、性能などの面で劣後する場合には、製品候補について商品化できない、または商品化の取り組みが大幅に遅れる可能性があり、その結果として当社事業や経営成績に重大な影響を与える可能性があります。

上記のリスクを最小にするため、当社グループではカリフォルニア大グループの特許に関してもライセンスの取得などに向けて適切な行動をとっております。

 

(5) 業績・財政状態等に関するリスク

① マイナスの繰越利益剰余金の計上

当社グループは、遺伝子治療薬の研究開発を行う創薬ベンチャー企業であります。一般的に医薬品の研究開発には多額の初期投資を要し、その投資資金回収も他産業と比較して相対的に長期に及ぶため、ベンチャー企業が当該事業に取り組む場合は、期間損益のマイナスが先行する傾向にあります。当社グループも、提携締結や開発の進捗に応じて契約一時金や開発マイルストンなど一時的に収益が計上されることがあるものの、開発中の新薬の販売が開始されるまでは事業収益、当期純利益(損失)は不安定に推移する可能性があります。また、開発の進捗や結果によっては、将来において計画通りに当期純利益を計上できない可能性があります。さらに、当社事業が計画通りに進展せず当期純利益を獲得できない場合には、一時的に繰越利益剰余金がマイナスとなる可能性があります。対策としては、自社モデル及び協業モデルの2種類のパイプラインを組み合わせたハイブリッドモデルにより、安定的な将来の利益拡大を目指しております。

 

② 収益計上が大きく変動する傾向

当社グループの事業収益は、現在開発中のパイプラインのライセンスアウト時の契約一時金、開発進捗に伴うマイルストン収入及びロイヤルティ収入に大きく影響されるため、その計上時期や金額によっては事業収益、当期純利益(損失)は不安定に推移する可能性があります。対策としては、自社モデル及び協業モデルの2種類のパイプラインを組み合わせたハイブリッドモデルにより、パイプラインの更なる重層化及びポートフォリオ化を図ることで、安定的な将来の利益拡大を目指しております。

 

③ 為替変動について

当社グループの主たる事業である研究開発は、現在、米国子会社を中心として活動しております。米国子会社の取引通貨は米ドルであり財務諸表も当該通貨で作成されます。したがって、連結財務諸表を作成する過程において、当該財務諸表は、外貨建取引等会計処理基準に沿って日本円に換算されるため、大幅な為替相場の変動があった場合には、当社グループの業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。

 

④ 資金繰りについて

当社グループが属する研究開発型企業は、一般的に多額の研究開発資金を必要とし、また研究開発費用の負担により長期にわたって先行投資の期間が続きます。この先行投資期間においては、継続的に営業損失を計上し、営業活動によるキャッシュ・フローはマイナスとなる傾向があります。当社も営業活動によるキャッシュ・フローのマイナス計上期間が長く、かつ現状では安定的な収益源を十分には有しておりません。このため、必要なタイミングで資金を確保できなかった場合には、当社事業の継続に重大な懸念が生じる可能性があります。対策としては、安定的な収益源を確保するまでの期間においては、必要に応じて適切な時期に資金調達等を実施し、財務基盤の強化を図る方針であります。

 

⑤ 調達資金使途について

当社グループが上場時の公募増資により調達した資金は、医薬品の研究開発を中心とした事業費用に充当しております。ただし、新薬開発に関わる研究開発活動の成果が収益に結びつくには長期間を要する一方で、研究開発投資から期待した成果が得られる保証はなく、その結果、調達した資金が期待される利益に結びつかない可能性があります。対策としては、調達した資金が期待される利益に結びつくように自社モデル及び協業モデルの2種類のパイプラインを組み合わせたハイブリッドモデルにより、安定的な将来の利益拡大を目指しております。

 

⑥ 新株発行による資金調達について

当社グループは将来の研究開発活動の拡大に伴い、増資を中心とした資金調達を機動的に実施していく可能性があります。その場合には、当社の発行済株式数が増加することにより、1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。対策としては、新株発行による資金調達した資金が期待される利益に結びつくように安定的な将来の利益拡大をさせることで、希薄化を少なくする方針であります。

 

⑦ 新株予約権について

当社は、長期的な企業価値向上へのインセンティブや優秀な人材の確保等を目的に、ストック・オプション制度を採用しています。会社法第236条、第238条及び第239条の規定に基づき、株主総会の承認を受け、当社取締役、従業員、子会社従業員及び外部協力者に対して新株予約権の発行と付与を行っています。今後も優秀な人材の確保のため、同様のインセンティブ・プランを継続する可能性があります。提出日の前月末現在、これら新株予約権による潜在株式数は1,379,800株であり、当社の発行済株式総数73,548,998株の1.9%に相当しています。

また当社は、2024年8月7日取締役会決議に基づき、2024年8月23日にEVO FUNDを割当先とする第三者割当による第2回無担保転換社債型新株予約権付社債(転換価額修正条項付)、第14回新株予約権(行使価額修正条項付)、及び第15回新株予約権(行使価額修正条項付)を発行しました。提出日の前月末現在、これら新株予約権による潜在株式数は3,355,000株であり、当社の発行済株式総数73,548,998株の4.6%に相当しています。当該新株予約権の詳細につきましては、「第4 提出会社の状況 1株式等の状況 (2)新株予約権等の状況 ③その他の新株予約権等の状況 及び (3) 行使価額修正条項付新株予約権付社債券等の行使状況等」をご参照ください。

これら新株予約権の権利が行使された場合は、当社の1株当たりの株式価値は希薄化する可能性があります。

対策としては、新株予約権の発行により期待される利益に結びつくように安定的な将来の利益拡大をさせることで、希薄化を少なくする方針であります。

 

⑧ 配当政策について

当社は創業以来、株主に対する剰余金の分配を実施しておりません。現時点においては、繰越利益剰余金がマイナスであるため当分の間は配当を実施せず、研究開発資金の確保を優先し、研究開発活動の継続的な実施に経営資源を投入して医薬品の承認取得・上市することが、企業価値向上、ひいては株主利益の最大化に繋がるものと考えております。対策としては、株主への利益還元について重要な経営課題と認識しており、将来的には経営成績及び財政状態を勘案しつつ剰余金の分配を検討する方針であります。

 

⑨ 国際税務について

当社グループは、日本法人である当社、米国法人であるModalis Therapeutics Inc.より構成される資本関係となっております。このため、親子間の資本関係や取引関係から生ずる課税上の取扱いについては、国際税務、具体的には日米両国の税法及び日米租税条約の適用を受けることとなります。その中で、当社グループに不利となる税務事象の発生及び将来的に当社グループに不利となる国際税務関連の税制改正が行われる可能性を否定できません。その場合は、将来の税負担額が増加し、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。対策として、日米双方の税務につき、税理士等の専門家と顧問契約を締結し、当社グループに適用される税法に関して情報を収集し税務リスクの確認及び排除に努めております。

 

⑩ 継続企業の前提に関する重要事象等

当社グループは、遺伝子治療薬の研究開発を行う創薬ベンチャー企業です。協業モデルパイプラインと自社モデルパイプラインを組み合わせた、「ハイブリッドモデル」のビジネスモデルで研究開発を進めることで収益機会の幅を広げ、事業の選択肢を最適化することで経営基盤の安定化を図る計画を有しておりますが、医薬品の研究開発には多額の資金を要し、その投資資金回収も他産業と比較して相対的に長期に及ぶため、継続的な営業損失の発生及び営業キャッシュ・フローのマイナスを計上している状況にあり、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しております。

当社は引き続き9期にわたるCRISPRを用いた遺伝子制御治療薬の開発の知見を踏まえて、10期目以降もMDL-101を軸に研究開発を行っていきます。MDL-101プログラムの臨床試験開始に集中して事業を進めている中で、経営及び組織の効率化を図る一環として、米国子会社の研究・開発及び製造部門を2024年中に縮小しておりますが、人的リソースとしてはMDL-101を臨床に向けた取り組みを継続できる体制にあり、1日でも早く患者様の治療ができるよう開発を進めていく計画です。また、従来通り開発と並行してパートナリングの交渉も継続していきます。併せて、後続のパイプラインに関しても早期のパートナリング獲得を目指しながら、引き続き研究開発体制の適正化を図り効率化によるコストの低減に取り組んでいきます。

資金面においては、当連結会計年度末現在で、現金及び預金3,575,277千円を有しており、上記の取り組みにより、翌連結会計年度の事業活動を展開するための資金は十分に確保していると判断しております。

以上のことから、継続企業の前提に関する重要な不確実性はないと認識しております。

 

(6) 会社組織に関するリスク

① 社歴が浅いことについて

当社は、2016年1月に設立されており、設立後の経過期間は9年程度と社歴の浅い会社であります。当社の過年度の経営成績は期間業績比較を行うための十分な材料とはならず、過年度の実績のみでは今後の業績を判断する情報としては不十分である可能性があります。その対策として、当社は今後もIR活動などを通じて経営状態を積極的に開示に努めております。

 

② 小規模組織及び少数の事業推進者への依存について

当社グループは提出日の前月末現在、取締役6名(非常勤取締役4名を含む。)及び従業員4名、子会社従業員10名の小規模組織であり、現在の内部管理体制はこのような組織規模に応じたものとなっています。その対策として、今後業容拡大に応じて内部管理体制の拡充を図る方針であります。

また、当社グループの事業活動は、当社グループの創業者である代表取締役CEO森田晴彦をはじめとする現在の経営陣、事業を推進する各部門の責任者及び少数の研究開発人員に強く依存するところがあります。そのため、常に優秀な人材の確保と育成に努めていますが、人材確保及び育成が順調に進まない場合、並びに人材の流出が生じた場合には、当社グループの事業活動に支障が生じ、当社グループの業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。対策として、多様な人材が活躍できる人事制度や風土、従業員が働きやすい環境の整備等を通じて優秀な人材の確保に努めております。

 

③ 人材の継続的な獲得について

当社グループは、創薬基盤技術の深化、創薬研究開発の進展を図るには、研究開発分野における専門的な知識・技能をもった優秀な人材の確保が必要であると考えております。当社グループの想定した人材の確保に支障が生じた場合、または優秀な人材の社外流出が生じた場合には、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。対策として、多様な人材が活躍できる人事制度や風土、従業員が働きやすい環境の整備等を通じて優秀な人材の確保に努めるとともに、新株予約権プランや事後交付型株式報酬制度の導入を含めた競争力のある条件での採用に努めております。

 

④ 自然災害等の発生

当社グループは、東京都中央区に当社、米国マサチューセッツ州ウォルサム市に研究部門である子会社を設置しております。このため、現所在地の周辺地域において、地震、噴火、水害等の自然災害、大規模な事故、感染症の蔓延、テロ等が発生し、当社設備の損壊、各種インフラの供給制限等の不測の事態が発生した場合、また取引先からの試薬品等の供給不足や仕入価格の高騰、欠品による機会損失の発生により、当社グループの事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。対策として、新規調達先の開拓・育成、最適な調達先の選定、調達先の分散化等により、サプライチェーンの強化に努めております。

 

⑤ 犯罪行為のターゲットとなる可能性

インターネット犯罪を含む様々な形態の犯罪行為が内外に存在しておりますが、当社の事業、情報、金融を含む財産がハッキングやランサムウェア等によって破壊、妨害、搾取を受けたり、または当社の役員や従業員が犯罪組織のターゲットとなり、身代金目的などで誘拐されたり、あるいは傷害、殺害されたりする可能性があります。その結果として当社の事業が遅延したり、中止を余儀なくされたり、あるいは財政状態に影響を及ぼす可能性があります。対策として、こうした保険の設定やセキュリティー対策を含めて犯罪行為に対する防御、対応策を十分に講じていく一方で、問題が生じた際には当局等と連携して適切に対応していくように努めております。

 

⑥ 風説・風評の発生

当社グループや当社グループの関係者、当社グループの取引先等に対する否定的な風説や風評が、マスコミ報道、アナリストレポートやインターネット上の書き込み等により発生・流布した場合、それが正確な事実に基づいたものであるか否かにかかわらず、当社グループの社会的信用に影響を与える可能性があります。当社グループや当社グループの関係者及び取引先等に対して否定的な風説・風評が流布した場合には、そのネガティブなイメージにより、当社グループに対する信頼性に悪影響が生じ、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。対策として、不当な風説・風評には厳正に対処していく一方で、常に公平公正かつタイムリーな開示を通じて当社の姿勢を堅持することに努めております。

 

<用語解説>

※32

インターフェアランス

先発明主義の下で、異なる出願人によって提出された特許出願において、クレームされた発明の先発明を決定するための米国特許商標庁内の手続き。

※33

ボストンライセンスパーティが共同所有している13の米国特許と1つの米国特許出願

米国特許番号8,697,359、8,771,945、8,795,965、8,865,406、8,871,445、8,889,356、8,895,308、8,906,616、8,932,814、8,945,839、8,993,233、8,999,641;及び9,840,713、米国シリアル番号14 / 704,551

※34

カリフォルニア大グループが出願する10件の米国特許出願

米国シリアル番号15 / 947,680、15 / 947,700、15 / 947,718、15 / 981,807、15 / 981,808、15 / 981,809、16 / 136,159、16 / 136,165、16 / 136,168及び16 / 136,175

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)  経営成績等の状況の概要

当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

① 財政状態及び経営成績の状況

文中の将来に関する事項は、特に記載が無い限り当連結会計年度の末日現在において判断したものであります。

 

当連結会計年度(2024年1月1日〜2024年12月31日)における我が国経済は、8月に日本の金利引き上げに伴う衝撃波が一時的にマーケットに生じたものの、一定の平静を取り戻したかのように見えます。一方で政治の世界では、中東やウクライナ情勢の緊迫や、欧米の主要国で国際協調に背を向ける政党・政権の躍進などもあり、不安定な地政学的環境が生じています。さらに、燻るインフレ、為替の不透明な状況、AIなど一部のセクターへの資金の集中などにより、市場全体の指標は好調を維持しているものの、製薬・バイオテックセクターの状況は芳しくなく、資金供給が停滞する状況が続いており、レイオフやパイプラインの整理・見直しなどが業界横断的に散見されています。

 

当社グループは、技術的基盤となるCRISPR-GNDM®プラットフォームを元に、世界初のCRISPRを用いた遺伝子制御治療を開発する会社として2016年の設立から9期目にいたるまで、リーディングカンパニーとして最先端の研究をリードし続けてまいりました。この成果を結実させるべく当連結会計年度は臨床試験開始に向けた取り組みを継続しております。

 

当社のリードプログラムであり、先天性筋ジストロフィー1a型(LAMA2-CMD)を対象としたMDL-101は、引き続き治験申請に向けてGLP毒性試験及びGMP治験薬製造の準備を進めています。5月に前臨床のデータをまとめた論文発表や後述のカンファレンス等でも報告を行っておりますが、世界各国からLAMA2-CMDに苦しむ患者やそのご家族、あるいは担当医師などから、治験参加への問い合わせを継続的に受けており、来る治験に向けた患者ネットワークとの連携が進んでおります。また、企業などからの提携の問い合わせも継続しております。

 

MDL-101は前年度のFDAとのpreINDミーティングで受けた課題を整理し、前臨床試験並びにGMP製造に向けた開発を実行中です。期中には資金的な問題で一時的に足踏みをする状況がありましたが、後述の資金調達によって開発資金の手当がついたことで、開発を加速することが可能になりました。こうした開発の成果については、5月の論文発表に加えて、本年度に開催された複数のミーティングで発表を行っております。細胞遺伝子治療サミット(7月8日から10日)、第5回次世代遺伝子治療免疫原性サミット(8月20日から22日)、第16回バイオプロセスサミット(8月19日から22日)、Nanoporeコミュニティーミーティング 2024(9月16日から18日)、第5回ゲノム編集治療サミット(12月3日から5日)における発表は、エピゲノム編集においてリーディングポジションを保ちながら開発している当社の成果として反響を受けております。

 

このMDL-101に対しては、米国食品医薬品局(FDA)からRare Pediatric Disease(RPD:希少小児疾患)指定を9月に、Orphan Drug Designation(ODD:オーファンドラッグ指定)を10月に、それぞれ受理しました。希少小児疾患指定は、米国で18歳までに発症し、患者数が20万人未満の希少疾患に対する新薬開発を促進することを目的とした制度で、開発品がFDAから製造販売承認を取得した際には、別の開発品についてFDAの優先審査を受ける権利が取得可能となります。またODD指定は、米国新薬承認申請時の申請費用の免除、臨床開発に係る連邦税の減免など、FDAからの各種薬事・研究費支援などの開発優遇・促進策が米国にて活用可能となるとともに、承認後には米国における7年間の排他的先発販売権が与えられ、希少疾患における医薬品開発を加速する上で大きな一歩となります。これらは当社の開発する遺伝子治療が医療上の必要性が高い医薬品として認められた結果だと考えております。

 

特許面においても本年度は進捗があり、MDL-202に関する特許出願(特願2022-518586)が9月に、年明けの2025年1月にはリードプログラムのMDL-101に関連する特許出願(特願2022-509664)がそれぞれ日本特許庁から査定の通知を受けております。

 

本年の4月と7月に、研究開発体制の見直しに伴って、当社米国法人の製造関連のチームを中心とした人員整理を行っております。結果的にリーンな体制で開発を進める組織にシフトし、これを維持しております。

 

また今後の事業を推進する目的で、第2回無担保転換社債型新株予約権付社債(転換価額修正条項付)、 第14回及び第15回新株予約権(行使価額修正条項付)を8月にEVO FUNDに対して割当を行いました。転換社債および第14回新株予約権は10月に全て転換および行使が完了し、結果的に約25.2億円の資金調達がこれまでに実現しております。また、2025年1月14日に第15回新株予約権の前倒し行使指示を行っておりますので、今後追加で資金調達を行うこととなりますが、いずれもMDL-101の前臨床試験と臨床PoCを中心とした開発に必要な当面の資金を調達する目的で行われ、結果的に当面の事業運営資金手当が実現できております。

 

以上の結果、事業収益は-千円(前期は事業収益千円)、営業損失は1,337,650千円(前期は営業損失2,370,666千円)、経常損失は1,303,099千円(前期は経常損失2,351,788千円)、親会社株主に帰属する当期純損失は1,317,894千円(前期は親会社株主に帰属する当期純損失2,391,821千円)となりました。

 

なお、当社グループは、遺伝子治療薬開発事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載は省略しております。

 

(流動資産)

当連結会計期間末の流動資産の残高は、前連結会計年度末に比べて1,660,755千円増加し、3,617,079千円となりました。これは主に、現金及び預金が1,691,839千円増加したためであります。

(固定資産)

当連結会計年度末の固定資産の残高は、前連結会計年度末に比べて4,868千円増加し、74,469千円となりました。これは主に、投資その他の資産が4,868千円増加したためであります。

(流動負債) 

当連結会計年度末の流動負債の残高は、前連結会計年度末に比べて80,778千円減少し、117,322千円となりました。これは主に、未払金が19,753千円、未払費用が71,481千円減少し、未払法人税等が10,523千円増加したためであります。

(固定負債)

当連結会計年度末の固定負債の残高は、前連結会計年度末に比べて421,252千円減少し、26,148千円となりました。これは主に、転換社債型新株予約権付社債が412,500千円減少したためであります。

(純資産)

当連結会計年度末の純資産合計は、前連結会計年度末に比べて2,167,655千円増加し、3,548,078千円となりました。これは主に、資本金が541,335千円、資本剰余金が541,335千円、及び利益剰余金が1,084,653千円増加したためであります。

 

② キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末の現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べて1,691,839千円増加し、当連結会計年度末には3,575,277千円となりました。当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果、使用した資金は1,432,005千円(前連結会計年度使用した資金は2,254,466千円)となりました。これは主に、税金等調整前当期純損失1,316,929千円によるものであります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果、使用した資金は188千円(前連結会計年度獲得した資金は39,699千円)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出188千円によるものであります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果、獲得した資金は3,044,985千円(前連結会計年度獲得した資金は1,216,451千円)となりました。これは主に、新株予約権の行使による株式の発行による収入2,384,161千円や転換社債型新株予約権付社債の発行による収入694,695千円によるものであります。

 

③ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績

当社グループは生産を行っておりませんので、記載を省略しております。

 

b.受注実績

当社グループの事業による共同研究は受注形態をとっておりませんので、記載を省略しております。

 

c.販売実績

当連結会計年度の販売実績がないため、記載を省略しております。

 

(2)  経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、提出日現在において当社が判断したものであります。

 

① 重要な会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたって、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額並びに開示に影響を与える見積りを必要とする箇所があります。これらの見積りについては、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は、見積りによる不確実性のため、これらの見積りとは異なる場合があります。

当社グループの連結財務諸表の作成における重要な会計方針及び見積りは、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表 (1) 連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項) 及び (重要な会計上の見積り)」に記載しております。

 

② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

経営成績及び財政状態の分析につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ①財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりであります。

 

③ 経営成績に重要な影響を与える要因について

経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。

 

④ 資本の財源及び資金の流動性

当社グループの資金の状況につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

当社グループは、事業上必要な資金を手許資金で賄う方針でありますが、事業収益から得られる資金だけでなく、株式市場からの必要な資金の獲得や銀行からの融資、補助金等を通して、安定的に開発に必要な資金調達の多様化を図ってまいります。資金の流動性については、資産効率を考慮しながら、現金及び現金同等物において確保を図っております。資金需要としては、継続して企業価値を増加させるために、主に継続した研究開発や必要な設備投資資金となります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1) 基盤技術に関する独占ライセンス契約

相手先の名称

国立大学法人東京大学、株式会社東京大学TLO

契約名称

発明の特許共同出願に関する契約

主な契約内容

(1)許諾内容

第三者に対する再実施権を含めた独占実施・許諾権

(2)対象となる特許・発明

下表参照

(3)契約期間

 下表参照

 

 

対象発明の名称

出願者

出願日

登録日

登録番号

契約期間

改変されたCas9タンパク質及びその用途

国立大学法人東京大学

及び

株式会社

モダリス

2018年9月5日

2019年12月13日

特許

第6628387号

2018年9月5日

〜特許権の存続期間

終了の日まで

 

 

なお、エピゲノム編集の事業に必要な知財として、国立大学法人東京大学との間で2017年に特許第6628385号に関してライセンス契約を締結いたしましたが、事業の進捗とともに現行および将来の開発に必要な知財の明確化、絞り込みが行われていく過程で、当社事業の当該特許に対する依存性が消失し、また当社の保有する、あるいは他社からライセンスを受けているその他の特許で事業を十分に保護することが可能であると考えるに至りました。一方で、当社は維持のために必要なコスト、リソースの観点から、本契約を維持していくことの蓋然性が薄れたと判断し、当社は当該契約を解消する判断を行い、東京大学に申し入れを行い、これが2025年3月に合意に至ったことから当該契約の解消となりました。当該契約の解除が当社業績に及ぼす影響はございません。

 

(2) 当社が実施許諾を受けているライセンス契約

相手方の名称

相手先の所在地

契約の名称

契約締結日

契約内容

Editas Medicine, Inc.

米国

Non-Exclusive License Agreement

2020年4月1日

Editas Medicine, Inc.社がライセンス権を有しているCRISPR/Cas9特許について、当社がCRISPR-GNDM®を用いた医薬品の開発、製造、使用、販売、輸出入等を全世界で行うための特許権等の非独占的実施権の許諾に関する契約。

<契約期間>

2020年4月1日から特許権の存続期間終了の日まで

 

 

(3) その他アライアンス契約

相手方の名称

相手先の所在地

契約の名称

契約締結日

契約内容

JCRファーマ株式会社

日本

Joint Development Agreement

2023年12月13日

J-Brain Cargo Conjuagete AAVを用いた中枢神経計細胞のデリバリー性能の評価・検証に関する共同研究契約

<契約期間>

2023年12月13日から共同研究の実施期間終了まで

Ginkgo Bioworks Inc

米国

GINKGO PARTNER MARKETING AGREEMENT

2024年3月22日

当社がCRISPR-GNDM®と Ginkgo 社の合成生物学、細胞プログラミングとバイオセキュリティのプラットフォームを提供し、クライアントネットワークの拡大を目指したパートナーシップ契約

<契約期間>

2024年3月22日から契約存続期間終了の日まで

JCRファーマ株式会社

日本

第二共同研究契約書

2025年1月6日

J-Brain Cargo Conjuagete AAV技術及びCRISPR-GNDM技術を用いたDravetモデルマウスの薬効を評価・検証に関する共同研究契約

<契約期間>

2025年1月6日から共同研究の実施期間終了まで

 

 

6 【研究開発活動】

(1) 研究開発体制

当社グループでは、米国子会社Modalis Therapeutics Inc.を研究開発の主要拠点として、遺伝子治療薬の開発を進めております。技術シーズは大学等の研究機関より導入し、それを基にCRISPR-GNDM®技術を確立し、対象疾患の選定、プロダクトのデザイン、非臨床試験、臨床試験のデザイン及び実施を当社グループで進めております。当社グループの技術プラットフォームによる創薬は、多くの遺伝子疾患に対して有効であるため、プラットフォームの利用を自社開発品目だけではなく、製薬企業などのパートナーとの提携を通じてより多くのターゲットに対しての創薬を目指します。

 

(2) 開発品の状況

開発品に関する詳細は、「第1 企業の概況 3 事業の内容」に記載しておりますのでご参照ください。

 

当連結会計年度における当社グループが支出した研究開発費の総額は1,092,174千円となりました。

研究開発費の主な内容は、米国子会社の研究開発人員10名の人件費、研究施設の地代家賃、研究の外注費及び研究に必要な試薬等購入の研究用材料費であります。