文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2025年6月24日)現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) 当社グループの経営方針
当社グループは、信頼に値する企業を目指すことを第一に掲げ、2024年6月に修正公表した「Sawai Group Vision 2030」達成に向けた道筋をつけるため、2026年度(2027年3月期)を最終年度とする3か年の中期経営計画(以下、「新中計」という。)を策定しました。
長期ビジョン「Sawai Group Vision 2030」
①2030年度に目標とする企業グループイメージ
(創りたい世界像)
より多くの人々が身近にヘルスケアサービスを受けられ、社会の中で安心して活き活きと暮らせる世界
(ありたい姿)
個々のニーズに応じた、科学的根拠に基づく製品・サービスを複合的に提供することで、人々の健康に貢献し続ける、存在感のある会社
②財務目標
売上収益 3,100億円 ROE 13%以上
中期経営計画「Beyond 2027」
①重点テーマ
「信頼される企業の地位確立」を土台となるテーマとして設定し、その上でさらに成長するために下記の重点テーマを設定
②株主還元方針
a.配当
中長期的な利益水準、DOE等を総合的に勘案しながら安定的かつ継続的な配当を目指す
b.自己株式取得
資本効率向上と株主還元策の一環として、フリーキャッシュフロー、市場動向等を踏まえ、機動的に実行
③定量目標
売上収益 2,200億円 ROE 10%以上
(2) 当社グループの現状認識
日本の医薬品市場を取り巻く環境としては、1961年に実現された国民皆保険制度の恩恵を受け、日本は世界最高水準の長寿社会を実現してきました。その反面、医療費をはじめとする社会保障費用は、年々増加の一途を辿っているため、少子高齢化も相まって現役世代の負担がますます重くなり、一定の自己負担で高水準の医療を受けられる仕組みの維持が困難になりつつあります。
このような状況に対して、近年、医療の質を落とすことなく、医療の効率化(医療費の削減)を図るべく、ジェネリック医薬品の使用促進が図られてきました。
政府は2017年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2017~人材への投資を通じた生産性向上~」(骨太方針)及び、2019年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2019~『令和』新時代:『Society5.0』への挑戦~」(骨太方針2019)において「2020年9月までの後発医薬品使用割合80%」を目標として、「後発医薬品の使用促進について、安定供給や品質のさらなる信頼性確保を図りつつ」、「インセンティブ強化も含めて引き続き取り組む」とし、さらに、2021年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太方針)では、「後発医薬品の品質及び安定供給の信頼性の確保を柱とし、官民一体で、製造管理体制強化や製造所への監督の厳格化、市場流通品の品質確認検査などの取り組みを進めるとともに、後発医薬品の数量シェアを、2023年度末までに全ての都道府県で80%以上とする」とされています。
ジェネリックシェア80%時代を迎え、ジェネリック医薬品が担う責任と重要性の高まっていく中で、グループの中核会社である沢井製薬の九州工場で製造するテプレノンカプセル50mg「サワイ」の安定性モニタリングの溶出試験において、不適切な試験が継続的に行われていたことが判明し、沢井製薬が2023年12月に厚生労働省、大阪府及び福岡県から「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」違反を理由とする行政処分を受けました。不適切な方法による試験行為に対する再発防止策に取り組み、当社グループ製品の品質に対する信頼性を確保するとともに、安定供給体制を構築していくことが、当社グループとして果たすべき社会的責任であると認識しています。
一方、政府により決定された薬価制度の抜本改革によって、通常の2年に1度の薬価改定の間の年度においても薬価調査・薬価改定(中間年改定)が導入されたことで毎年の薬価改定が行われる状況になっており、今後薬価の下落影響が拡大し続ける可能性があります。
このような経営環境の中で当社グループは、ジェネリック医薬品業界のリーディング・カンパニーとして、いち早く新しいジェネリック医薬品を開発・上市するとともに、品質・安定供給・情報提供においてトップレベルの水準を維持し続けることにより、ブランド価値を高め、競争に打ち勝つことが、持続的に成長していくために不可欠との判断の下、その達成のために次の(3)にあげた7点が最重要課題であると認識しております。
(3) 当面の対処すべき課題及び具体的取組状況等
① 信頼性の向上
ジェネリック医薬品の品質を確保し、信頼性を向上していくことが、医薬品メーカーとしての当社グループの責務です。こうした中、沢井製薬の九州工場で不適切な試験が継続して実施されてきた原因を踏まえ、再発防止策として、a.沢井製薬社長直轄の企業風土改革プロジェクトの実施、b.既存上市品の製造面及び品質面での再評価とその対策実施、c.全従業員に対する製造管理・品質管理基準(以下、「GMP」という。)教育の再実施や、管理職・監督職の責任の明確化、工場の品質管理部門、品質保証部門への社内外からの人材確保推進などの沢井製薬生産本部における再発防止策の実施を掲げ、すでに取り組みを開始しており、グループ一丸となって継続して取り組むことで、信頼性の回復と向上に努めてまいります。
② 安定供給の維持・確保
治療を必要とする患者さんの元に高品質な医薬品を安定的に供給することは、医薬品メーカーにとって最も重要な使命の一つです。生産設備の拡充による生産能力の増強をはじめとし、世界中から高品質で適切な原材料を確保し、適宜適切かつ継続的な設備投資、厳格な基準による製造管理・品質管理を行うとともに、的確な需要予測と適正在庫の確保を行うことを通じて、安定供給の維持・確保を図り、ジェネリック医薬品の需要増に対応してまいります。また、災害時にも安定供給を維持できるよう策定したBCP(事業継続計画)に基づき、原材料の複数ソース化、生産機械の共通化、代替要員の確保、人財の多能職化並びに工場間の人財交流及び技術の標準化等に取り組んでまいります。
③ 高付加価値ジェネリック医薬品のいち早い開発と確実な上市
競合が多いジェネリック医薬品業界において競争に打ち勝つためには、市場環境、患者さんや医療従事者のニーズに応えた他社品目との差別化が重要であり、また、一番手で上市することがジェネリック医薬品として患者さんのニーズに応えることにもなります。特許・技術・コスト・効率化等の諸課題に挑戦し、高付加価値ジェネリック医薬品の確実な一番手上市を目指してまいります。
④ 情報提供の充実
医薬品は、正確な情報を伴ってはじめて患者さんの治療目的が達成されるものであります。MRの活動のみならず、ウェブやコールセンター等のマルチチャネルを効率的に活用し、情報提供力の充実・強化を図ります。正確な効能・効果、用法・用量、副作用、品質や付加価値といった医薬品情報のほか有用な情報を医療関係者に迅速かつ確実に提供し、顧客満足度の向上に努めてまいります。
⑤ マーケティング機能の充実
競争優位を確立するためには、マーケット分析に基づいた的確な開発品目の選定、ターゲティングの明確化によるMRの生産性の向上が不可欠であります。マーケティング機能の充実と薬価制度改革や医療政策の変化等に伴う競争環境の変化を踏まえた営業戦略の見直しを図ってまいります。
⑥ 企業体質・経営管理の強化
沢井製薬が行政処分を受けた不適切な試験の背景としてa.安定性モニタリングを軽視する風潮の蔓延、b.上司の指示に疑問を持たずに従う傾向、c.試験関与者のGMPに対する理解の欠如といったコンプライアンス体制、意識に関連する事象が挙げられており、企業理念の浸透、コンプライアンス委員会の活動強化、リスク管理の充実、内部統制の整備・拡充といったコーポレート・ガバナンスの強化とSDGsに沿った取り組みによって企業体質の改善、強化を図ってまいります。また、環境変化に的確に対応できるよう意思決定や事業展開のスピードを追求するとともに、コスト削減等による徹底したコスト競争力の強化や業務の効率化、業容拡大に伴う経営基盤の整備・強化、会社の成長を支える人財の育成、ダイバーシティへの取り組みといった企業体質及び経営管理の強化に取り組んでまいります。
⑦ 新規事業基盤の構築・強化
当社グループが中長期ビジョンの達成を目指すにあたり、また、将来にわたって持続的成長を遂げていくためには、既存のジェネリック医薬品事業以外の新規領域への展開を図っていく必要があります。併せて、ジェネリック医薬品事業の周辺ヘルスケア分野への新たな展開に向け、事業分野調査をはじめとした新たな事業分野の開拓、展開に取り組んでまいります。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2025年6月24日)現在において当社グループが判断したものであります。
今やジェネリック医薬品は医療においても必要不可欠なインフラとなり、その公共性は極めて高くなりました。当社グループは、中核事業であるジェネリック医薬品の提供を通じて、患者さんの医療へのアクセス向上と医療財政の健全化に貢献することが最大の社会貢献であり、当社の存在意義であると考えています。
近年、医薬品全体で生じている供給不安を踏まえ、患者さんや医療関係者を始めとするステークホルダーの皆様に安心してご使用いただけるように取り組んでいる事項、例えば、高品質の原薬の確保、生産人員をはじめとする雇用・人財育成、省エネかつ低炭素排出の製造機器の導入、健康的な職場環境の整備等は、サステナビリティの取り組みと密接に関連しております。
(基本的な考え方)
1.当社グループにとって、「健全な社会の存在とその持続的(サステナブル)な発展」こそがその存立の基盤である。
2.「持続可能な社会の実現」のために、当社グループが必要な存在(=「社会の公器」)であると認められ、かつ、当社グループがすべてのステークホルダーとの間でしっかりとした信頼関係を継続できてこそ、当社グループのサステナビリティが実現できる。
3.社会は絶えず変化するものであり、当社グループも社会の変化に即応して絶え間ない進化を遂げることにより、サステナブルな存在であり続けることができる。
(基本方針)
1.「なによりも健やかな暮らしのために」という企業理念のもと、事業そのものを通じて、人々の健やかな暮らしと優れた医療制度等の維持・発展に貢献することで、サステナブルな社会実現の一翼を担うこと。
2.患者さん・生活者、医療機関等ヘルスケア従事者、取引先、社員、株主、地域社会、地球環境など、すべてのステークホルダーとの継続的なエンゲージメント(相互信頼に基づく絆の構築)に努めること。
3.当社グループがサステナブルな存在であり続けるために、創造性を追求し、社会とともに絶え間ない進化を遂げること。
この基本方針に沿って、当社グループで進めるサステナビリティに関する取り組みは次のとおりであります。
(1) サステナビリティ共通
当社グループの企業理念「なによりも健やかな暮らしのために」には、ジェネリック医薬品事業を中核に、社会とともに持続的に発展するヘルスケア企業グループとして、ひとりでも多くの人々の健康に貢献していきたいという願いを込めています。この実現のため、当社グループが取り組むべきテーマがサステナビリティの推進であり、気候変動及び生物多様性への取り組みやダイバーシティ&インクルージョンの推進、コーポレート・ガバナンスの強化などについて、定期的に取締役会及びグループサステナビリティ委員会等で議論しております。
<ガバナンス>
サステナビリティは、環境、社会、従業員、人権の尊重、贈収賄・腐敗防止、ガバナンス、サイバーセキュリティ、データセキュリティ等、多岐にわたる重要課題を包含することから、当社ではテーマごとにグループサステナビリティ委員会、グループリスクマネジメント委員会、グループコンプライアンス委員会、グループ情報セキュリティ委員会等を設置し、全社的なサステナビリティ推進体制を構築しています。これらの委員会は、各テーマを所管する部門の担当役員を委員長とし、グループ各社の代表者等で構成され、サステナビリティに関する課題の特定、施策の検討及び実行状況の評価を行っています。
取締役会は、これらの委員会の活動を通じて特定されたサステナビリティ関連のリスク、機会、戦略及び目標に対する達成状況等について、少なくとも年1回の報告を受け、重要施策や対応方針等の承認を行うことで監督責任を果たしています。加えて、委員会での協議内容や対応状況については、必要に応じて経営会議等での議論を経て取締役会に報告され、経営層との間で議論や意見交換が行われるほか、委員会を通じて各担当部門へ経営層からのフィードバックがなされ、改善される仕組みになっています。こうしたプロセスを通じて、取締役会はサステナビリティに関する意思決定や施策の実行に対する適切な統制と監督を実現しています。
また、これらの取り組みを統括・支援するため、グループサステナビリティ推進部を設置しており、担当役員のもと、全社方針の策定、KPIの設定とモニタリング、各委員会・各社との連携、情報収集・共有などを担う実務部門として機能しています。グループサステナビリティ推進部は、各委員会と連携しながら、施策の実効性を高めるとともに、全社的なサステナビリティ推進を着実に進めています。
<サステナビリティに関する取締役会への報告内容>
<戦略>
当社グループでは、企業理念やグループビジョンのもと、「ジェネリック医薬品を通じて、すべての人々の健康に貢献する」という社会的使命を果たすとともに、環境・社会・経済に対する影響を踏まえたサステナビリティ経営を推進しています。その一環として、様々な社会課題の中から、当社グループが中長期的に優先して取り組むべき重要な課題(マテリアリティ)を特定し、持続的成長の実現と企業価値の向上につなげています。
マテリアリティごとに目指す姿や中期的な目標を設定し、これらを新たな中期経営計画に戦略として反映することで、経営とサステナビリティの一体化を図っています。また、マテリアリティに関する取り組み状況は、関係部門の連携のもとグループサステナビリティ委員会にて定期的に確認し、PDCAを通じて実効性のある対応に取り組んでいます。
2024年度からの新中期経営計画の策定にあたっては、「ステークホルダーの関心」と「当社グループにとっての重要度」の双方を踏まえ、マテリアリティの見直しを行いました。その結果として、2023年度に「価値創造につながるマテリアリティ」と「持続的成長の基盤となるマテリアリティ」の観点から整理及び見直しを行ったマテリアリティは、2024年度も継続させることを確認しました。

マテリアリティの特定にあたっては、外部評価や国際ガイドラインも参照しながら、次のステップで進めました。
STEP1:課題のリストアップ
SASBスタンダード(バイオテクノロジー・医薬品)、GRIスタンダード、SDGsなどの国際的イニシアチブ、ならびに当社グループの企業理念・行動基準、事業特性やバリューチェーンに基づいて、ESGの各観点からグループサステナビリティ委員会メンバーによるワークショップを行い、中長期的な企業価値に関連する課題を抽出しました。
STEP2:課題の抽出と重要度評価
STEP1でリストアップした課題を、「ステークホルダーの関心」と「当社グループにとっての重要度」の2軸で評価・マッピングし、影響度の大きい領域を「価値創造につながるマテリアリティ」と「持続的成長の基盤となるマテリアリティ」に分類・評価しました。
STEP3:妥当性の確認と戦略への反映
特定されたマテリアリティに対しては、それぞれに関連する目標・取り組み・モニタリング指標を設定し、グループサステナビリティ委員会にて妥当性を検証。経営陣との議論を経て、取締役会で承認されたうえで、中期経営計画へ戦略として統合しました。
今後も、社会課題やステークホルダーの期待の変化に応じてマテリアリティの見直しを行いながら、企業としての責任を果たすとともに、持続可能な社会の実現と当社グループの持続的成長を両立させてまいります。
<リスク管理>
当社グループでは、収益や損失に影響を与えると考えられる事象発生の不確実性をリスクと定義し、これらを低減・回避・移転、戦略的保有するためのリスクマネジメント体制を整備しています。
全社的なリスク管理は、グループリスクマネジメント委員会が統括しており、各部門や関連委員会と連携しながら、当社グループを取り巻く環境を踏まえたリスク及び機会の洗い出しと現状分析を行っています。これらのリスク及び機会については、過去の発生事実、他社事例その他様々な公開資料を参考に、発生頻度と事業に与える影響度の二軸で評価を行い、グループ全体として重要性の高いものを合理的と考えられる範囲で特定します。特定された事項に関しては、各担当部門が対応策を策定し、その進捗状況や有効性を定期的にモニタリングし、継続的な改善に取り組んでいます。これらの状況は、グループリスクマネジメント委員会での審議を経て、年1回、取締役会に報告され、経営層による監督の下で適切な統制が図られる体制を構築しています。
主要なリスクの詳細については、
また、サステナビリティ課題に係るリスク及び機会についても、全社的なリスク管理の枠組みの中で特定・評価・管理・対策等の対応を行っています。具体的には、当社が特定したマテリアリティのうち、「環境に配慮した事業」「働き方・働きがい・人権尊重」「コーポレート・ガバナンス」「人財育成」などの領域は、対応を誤ると企業価値の毀損につながる重大なリスクであると同時に、適切に対応することで新たな機会の創出につながる可能性を持った重要分野であると認識しています。
例えば、生活に必要なインフラとしてのジェネリック医薬品の社会的役割の拡大に伴い、当社が医療アクセスの向上に貢献し続けることによって、ステークホルダーからの信頼獲得につながる可能性があります。また、安全・品質管理を徹底し、信頼性の高い医薬品を安定的に供給することで、顧客ロイヤリティの向上につながります。さらに、CO2排出量の削減などの環境対応は、社会的責任を果たす企業としてのブランド価値向上にも寄与します。
こうした機会の特定と対応にあたっては、グループサステナビリティ推進部が中心となり、関係部門と連携しながら横断的な情報共有や取り組み状況の把握を行っています。これにより、サステナビリティに関するリスクと機会を包括的に捉え、持続可能な成長に資するマネジメントを推進しています。
<指標及び目標>
当社グループが特定したサステナビリティ重点課題(マテリアリティ)に対し、それぞれの目標を設定し、その達成に向けて、進捗をモニタリングしながら取り組みを推進しております。「気候変動」及び「人的資本」に関する目標及び実績は、それぞれの項目をご確認ください。
(2) 気候変動
気候変動が社会や経済にもたらす影響は大きく、当社グループに重大な財務的影響を与える可能性があるため、気候変動への対応を当社グループとして取り組むべき重要課題(マテリアリティ)の1つと捉えております。そのため、当社は、気候関連財務情報開示の重要性を認識し、2021年9月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明いたしました。
当社グループは、パリ協定を始めとする国際的方針、日本国が決定する貢献(NDC)や気候変動に関連する法規制や政策を支持し、温室効果ガス排出量の低減に取り組むとともに、TCFDの開示枠組みに沿った情報開示を行ってまいります。
<ガバナンス>
当社グループでは、環境課題への対応を企業の重要な責務と位置づけ、取締役会の監督のもとでサステナビリティに関する体制を整備・運用しています。気候変動への対応や生物多様性の保全、ネイチャーポジティブの達成に対する責任は、グループCOO(GCOO)およびグループサステナビリティ推進部担当役員に割り当てられており、取締役会がその職務執行状況を監督しています。
執行面では、GCOO、統括役員、担当役員およびグループ各社の代表者で構成される「グループサステナビリティ委員会(以下、委員会)」を設置し、年4回の開催を通じて、気候変動課題やその他の自然関連課題を含むサステナビリティ全般に関する方針や施策について協議・検討を行っています。委員長はグループサステナビリティ推進部担当役員が務め、委員会の審議内容は取締役会へ年1回以上定期的に報告されます。また、取締役会からの指示・助言を受けながら、必要な意思決定を迅速に行う体制としています。
委員会の下部組織として、グループ各社の実務担当者で構成される「地球環境チーム」を設置し、省エネルギーや再生可能エネルギーの導入、温室効果ガス排出量の削減等の気候変動対応と生物多様性の保全及び復興を含む環境課題への具体的な施策を推進しています。同チームは四半期ごとに委員会へ報告を行い、委員会からの指示や助言をもとに取り組みや改善活動を継続しています。
なお、グループにおける投資判断や環境コスト評価の高度化を目的に、2024年度には委員会においてインターナルカーボンプライシング(以下、ICP)の導入を審議し、グループ戦略会議およびグループ投資委員会の承認を経て導入を決定しました。ICPは今後も、委員会におけるモニタリングと定期的な見直しを通じて、グループ全体の意思決定に活用してまいります。
<戦略>
当社グループは、企業理念「なによりも健やかな暮らしのために」および中核企業である沢井製薬の企業理念「なによりも患者さんのために」のもと、ジェネリック医薬品の製造販売を主たる事業として展開しています。人々の生命と健康に深く関わる事業を担う企業として、医薬品やヘルスケアサービスの安定供給を果たしつつ、気候変動リスクにも対応していくことが極めて重要な責務であると認識しています。
一方、事業活動の拡大に伴い、当社グループにおける温室効果ガスの排出量も増加傾向にあります。当社では、短期的には原単位ベースでの排出量削減、中長期的には再生可能エネルギーの導入なども含めた排出量削減の取り組みを進めており、気候変動への対応と事業の持続的成長の両立を図っています。
こうした認識のもと、当社グループではサステナビリティ課題への対応を経営の重要テーマと位置づけ、日本国のNDCも念頭に2030年度および2050年度に向けたCO₂排出量削減目標を中期経営計画に明記しております。これらの目標に向けた具体的施策として、省エネルギー設備への更新や、再生可能エネルギー電力の活用検討、また排出量の削減効果を定量的に把握し投資判断に活かすため、ICPを設定し、省エネ投資に反映する仕組みを整えています。ICPは国際エネルギー機関(IEA)のネットゼロシナリオを達成するために必要な2050年時点の予想炭素価格を参考とし、WACCおよび社内為替レートをもとに毎年算出・設定しています。これにより、CO₂排出量に価格を付けて将来的なコストとして見積もることで、省エネ設備の導入によりどれだけのCO₂排出量の削減効果が見込めるかを比較評価して投資判断材料として活用します。
また、当社ではIEAやIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が提示するシナリオを参照し、気温上昇が1.5℃に抑えられるケース(脱炭素が進む社会)と、対策が進まず平均気温が4℃程度まで上昇するケース(物理的リスクが顕在化する社会)の両シナリオを想定し、短期(1年~3年)、中期(4年~9年)、長期(10年以上)の3期に分類した分析を実施しています。これにより、規制強化に伴うコスト増加(例:カーボンプライシング)や、災害リスクの増大によるサプライチェーンへの影響など、多様なリスクを検討し、当社グループが想定する主なリスクおよび機会について、以下のとおり整理しています。
なお、移行リスクのうちカーボンプライシングに伴う炭素コストは、1トンあたり14,500円と想定した場合、当社グループの2024年度のScope1とScope2の排出量に対して、理論上は最大で年間およそ10億円規模のコスト影響が生じる可能性があります。これはエネルギーコストや製造原価への影響が大きいため、経営判断における重要な評価項目と位置付けています。実際、操業への影響を考慮し、一度にすべての設備を更新することはできません。そのため、事業拡大や設備の老朽化に合わせて、計画的かつ段階的に設備更新を進めていく必要があります。また、当面は省エネ設備への投資に限ってICPを活用する予定です。さらに、クリーン電気や非化石証書の購入によって、理論上の単価よりも低いコストで削減効果を得られる場合もあります。これらを踏まえると、気候変動対応の取り組みが財務に与える影響は、毎年1億円未満にとどまる見込みであり、これが今後緩やかに増加していくと考えられます。
なお、製薬業界においては気候変動が直接的な事業機会に結びつく例は多くありませんが、例えば温暖化に伴い感染症の流行範囲が変化する可能性や、災害時の医薬品供給体制の強化といった面で、社会的な役割の拡大が求められる可能性もあります。当社グループは、こうした社会的要請を機会ととらえ、医薬品の安定供給体制やBCPの強化といった取り組みの検討を継続してまいります。
今後も当社グループは、気候関連リスクと事業成長の両立を図りながら、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを着実に進めてまいります。
<リスク管理>
当社グループでは、気候変動を含むサステナビリティ関連リスクを、経営に影響を与え得る重要なリスクの一つとして認識しています。原材料の調達から製造・販売に至るまでのサプライチェーンの各段階において、気候変動に関連する移行リスクおよび物理リスクを把握・評価し、必要な対応策を講じています。
気候変動に関連するリスクの特定および評価プロセスは、グループサステナビリティ委員会の下部組織である「地球環境チーム」のメンバーを中心に、関係部門および関連会社の協力を得て実施しています。これにより、気候変動の関連するリスクの発生可能性および財務的影響度を評価し、当社グループにとって重要なリスクを特定しています。
評価されたリスクは、グループサステナビリティ委員会および取締役会に報告され、経営層により検討・審議が行われます。こうした議論を経て、対応方針が定められ、毎年の事業計画と中長期的には中期経営計画に取り込まれます。
また、今後の炭素税や排出権取引制度の導入・強化といった外部環境の変化に備えるため、当社グループでは、将来のCO₂排出に伴うコストを投資判断に組み込む手段としてICPを導入しています。ICPは、省エネ投資等に対する費用対効果の定量的評価に活用され、長期的なコスト回避の観点からもリスク管理に資するツールとして位置付けられています。
<指標及び目標>
当社グループは、気候変動対応に取り組むにあたって温室効果ガス排出量の削減に向けた目標を設定し、毎年のScopeごとの実績を当社コーポレートサイト(注.1)に開示しております。
Scope1、Scope2の排出量については、2013年度を基準年とし、2030年度までに総量で2013年度+α(注.2)比46%削減、および2050年までにネットゼロを目指しています。さらに、事業拡大が続く中にあっても短期目標として毎年度、Scope1、Scope2とも前年比少なくとも1%以上の削減を目標としています。また、Scope3についても算定範囲の拡大・精緻化を進めており、重要なカテゴリーについてモニタリングを行っています。
2025年度においては、CO₂排出量10,000トン相当以上の削減を見込んでおり、その実現に向け、非化石エネルギーの導入(約6,000トン相当)や省エネルギー設備投資、非化石証書の活用等の施策を計画的に進めています。また、ICPを1トンあたり14,500円に設定し、投資判断やコスト評価に活用しています。
加えて、排出量データの透明性・信頼性向上の観点から、2024年度のScope1、Scope2の実績については、一般社団法人日本品質保証機構(JQA)に第三者検証を依頼し、検証報告書を取得しています。
(注)1.URL https://www.sawaigroup.holdings/sustainability/environment/tcfd/
2.比較対象となる2013年度時点における当社グループの構成会社状況が変化しているため、基準となるCO2排出量を適宜調整するため+αで表現しております。
(3) 生物多様性に関する取り組み
自然資源や生物多様性の損失は社会に大きな影響を与えており、当社としても重要課題(マテリアリティ)に省資源、水の使用削減、生物多様性の保全を掲げています。自然関連課題に取り組むため、2024年度よりTNFD(※1)フレームワークで提供されている考え方に基づき、グループの自然関連課題の把握や整理を行っています。
当社グループは、昆明・モントリオール生物多様性枠組みをはじめとする国際的方針や、日本国の生物多様性国家戦略や関連する法規制および政策を支持して、循環型社会の実現や生物多様性の保全を目指し、TNFD提言に沿った情報開示を行ってまいります。
※1 TNFD:企業・団体に自然資本と生物多様性に関連する財務情報の分析および開示を推奨するために2021年に発足した、自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)の略称。
<ガバナンス>
生物多様性に対する当社グループのガバナンスは、(2)気候変動に関する取り組みに記載のとおりです。
<戦略>
当社グループの事業活動は、地球上の多様な生物がつながることで生まれる生物多様性の恵みに大きく支えられています。また、事業を継続する過程で自然環境に一定の負荷をかけていることも認識しており、その負荷を低減し、ネイチャーポジティブの達成に向けて進めることが重要だと考えています。こうした認識から、生物多様性に関わる課題を当社グループの重要課題の一つと位置づけ、生物多様性の保全および復興に向けた活動に取り組んでいます。
当社グループでは、自然との重要な接点や、そこから生ずるリスクや機会を特定する際に、TNFDが推奨する「LEAPアプローチ(※2)」に基づき、事業活動における自然への依存度や影響、リスクおよび機会の識別・評価を行っています。また、この考察にあたっては、ENCORE、IBAT、WWF Biodiversity Risk Filterなど、国際的に広く利用されている代表的な外部ツールを活用し、状況の把握や評価を実施しています。
※2 LEAPアプローチ:自然との接点を発見(Locate)、依存・影響関係などの接点を診断(Evaluate)、リスク・機会の特定・評価(Assess)、対応および情報開示(Prepare)という分析ステップに焦点を当てた、自然関連課題評価の統合的アプローチ
① 依存影響関係の把握
当社グループの医薬品製造販売事業、並びにサプライチェーン上流である原材料の調達過程、下流である廃棄過程における自然との依存影響関係のスクリーニングにあたっては、外部ツール「ENCORE」を活用して、その関連性を確認しています。また、ENCOREの評価結果についてはその評価ロジックをベースとしながら、当社グループの医薬品製造販売事業における活動実態やサプライヤーポートフォリオの事情を鑑みて、出力結果を踏まえた定性的な依存影響の程度を再評価しています。
ENCOREによる評価の結果、当社グループは医薬品の製造過程において、汚染物質の流出リスクや清浄な水資源の利用といった観点から、水資源との関わりが深いことが示されています。実際、当社グループの医薬品製造工程では、取水量や排水量の把握、水質や大気の汚染につながる物質の管理に努めており、取水や汚染物質の排出を通じて自然環境に影響を及ぼし得ることを認識しています。
また、医薬品の製造には動植物や石油由来の原料、包装材などが必要であり、自然資源そのものへの依存に加え、資源生産に不可欠な気候や環境条件を調節する生態系サービスにも依存しています。
これらのENCORE分析結果および当社の実態を踏まえ、水資源や原材料などの項目は、自然関連課題を検討するうえで特に重要な自然との関わりであると考えています。
また、サプライチェーンにおける評価結果としては、自然への影響面では原材料となる植物の栽培過程における、土地や水などの自然資源利用、土壌や流域への汚染物質の排出、大気汚染物質の排気、廃棄物の排出を通じて自然に大きく影響を与え得ることが示唆されています。また、依存の側面でも植物生育の面では、気候システムや水資源の循環システムを支える生態系サービスへの依存度が大きいことが示されています。
その他、石油由来の原材料や包装材の他、プラスチック素材、原薬の製造過程においても、特に水資源との関連性が強く示唆されており、バリューチェーン全体を通して、水資源との深い関連性が示唆される形となっています。
② 要注意地域の把握
TNFDでは、生物多様性の観点から重要とされる「要注意地域」と、企業にとって重要なリスクや自然への影響が伴う「マテリアルな地域」という2つの視点から、特に企業として懸念するべき自然環境を有する「優先地域」を把握することが推奨されています。
この考え方に基づき、当社グループの医薬品製造事業に関わるバリューチェーン上の要注意地域について調査を行いました。その結果、当社グループの保有拠点の中では、仙台にある一つの支店が鳥獣保護区内に所在していることが判明しました。また、他にも東京と福岡の2支店、および大阪の同じビル内にある支店と営業所が、保護区やKBA(※3)に近接していることも特定できました。これらの拠点は販売や製品管理といったオフィス業務が主であり、上下水道の利用以外に顕著な自然資源の利用や環境汚染物質の排出といった活動はない事から、自然との依存影響関係の程度は工場拠点と比べて低いことが想定されます。なお、医薬品製造を担う工場拠点については、要注意地域に該当する場所はありませんでした。
一方、バリューチェーン全体では、当社グループが直接調達している植物の栽培拠点の中に、保護区や生物多様性の重要地域に所在、または近接している拠点が複数あることが確認できました。さらに、当社グループ主要製品の原材料製造を行うサプライヤーの国内の工場拠点が保護区に近接していることや、海外拠点において水ストレスの高い地域に立地するサプライヤーの工場が存在することも把握しています。
※3 KBA:Key Biodiversity Areaの頭文字で、生物多様性の保全上重要な鍵となる地域が存在する。
③ リスクと機会の特定
自然関連リスクおよび機会は、自然との依存影響関係から生ずるという認識の下で、当社グループにもたらされるリスクと機会、また当社グループの事業活動が環境や社会に及ぼすリスクと機会の双方向の観点で、重要課題の特定を行っています。リスク項目については、TNFDの提供するTNFD Risk and opportunity registersやセクター別ガイダンスを参考に洗い出しを行い、シナリオ分析の手法を通じて、バリューチェーンにおいて発生することが想定されるインパクトや、当社グループにもたらされる財務的影響の規模感を想定しています。
④ シナリオを考慮したリスクおよび機会の評価
当社では、TNFDが推奨する移行リスクと物理リスクの2軸の相互関係から想定されるシナリオに基づき、当社グループの事業活動と自然との依存・影響について、要注意地域分析、WWFが提供するBiodiversity Risk Filterのデータ、ハザードマップによる被災リスク調査、地域固有の自然環境の状態や法令規制の調査を踏まえて、リスクと機会を期間と重要度の観点から検討・評価するとともに、当社グループのみならず社会や自然環境にとっての重要度も考慮し、定性的に評価しました。特定、評価したリスクおよび機会については、以下の表に示すとおりです。

⑤ 優先地域の選定
以上のLEAPアプローチに基づく調査分析工程を踏まえ、当社グループは、医薬品の研究開発や試験、製造、販売を行っていますが、製造工場拠点に対する自然関連課題の重要性が高いことが想定されます。製造段階における汚染物質の取り扱いや製造に使用する原材料の調達、資源の有効活用が、リスクおよび機会においても重要な要素であると考えられるため、工場拠点は要注意地域には該当していませんが、当社グループにとっての優先地域と認識しております。
また、要注意地域に該当または近接した拠点については、自然保全活動を行う際に優先的に選定してまいります。
上流サプライヤーについては、今後サプライヤーにおける自然保全や環境負荷低減の取り組みについてヒアリング等を行う際に、要注意地域に所在または近接しているかどうかが判断指標の一つになると認識しています。
これらの分析結果は現在、当社グループの医薬品製造販売事業における一部のバリューチェーンを対象に実施した分析結果です。今後は、サプライチェーン全体の事業活動が環境に与える影響やリスクを事前に評価するプロセスである、環境デューデリジェンスの整備と実施を通じて、適宜対象の範囲を拡げ、ネイチャーポジティブへの貢献を念頭に取り組みを深化してまいります。
⑥ 生物多様性の保全および復興に向けた取り組み
当社は、一般社団法人日本経済団体連合会に加入しており、「経団連生物多様性宣言」の趣旨に賛同し、「経団連生物多様性宣言イニシアチブ」に参加して、生物多様性の保全に取り組んでいます。
今回の調査の結果、特に懸念が示唆された水資源に関連する取り組みとしては、淀川の「生物多様性民間参画パートナーシップ」行動指針シンボルフィッシュでもあるイタセンパラ(※4)の保護を目的として、当社発祥の地に近い大阪市旭区の城北ワンドで、外来魚の駆除や河川敷の清掃活動に参加しています。
また、優先地域として選定した沢井製薬関東工場では、法令の定めに従った適切な排水処理と管理に加え、洪水対応を兼ねた調整池を整備・保全することにより、工場周辺の生物が生息しやすいような環境を整えています。
有害物質管理の観点では、製品の有害物質生成関連リスクの低減に向けた開発努力も推進しています。代表的な例では、医薬品製剤中に発生する有害物質であるニトロソアミン生成のリスクを抑えた新規製剤開発手法の確立などがあり、本件については外部からの表彰(※5)も受賞するなど評価を得ています。
※4 イタセンパラ:タナゴの一種で国の天然記念物に指定され、絶滅危惧種となっている魚類。
※5 旭化成創剤開発技術賞:国際的な製剤の品質に関する考え方の変貌に応える製剤・創剤開発の基礎および応用に関するハードおよびソフトの優れた研究を対象として授与される学会賞。
<リスク管理>
当社グループでは、「地球環境チーム」のメンバーを中心に、サプライチェーンの各段階に関係が深い部門または関連各社の関与と協力を得て、自然関連リスクおよび機会の識別・評価・特定を実施しています。
自然関連リスクおよび機会の識別と評価にあたっては、当社グループのバリューチェーンの各段階における自然との関連性(依存影響関係)の把握を踏まえ、想定されるリスクおよび機会の洗い出しを実施しています。洗い出されたリスクおよび機会項目については、関連する活動量の測定、政府や研究機関による関連公開データ、シナリオ分析の手法を通じて、「深刻度」および「発生頻度」の2つの観点で重要性を評価し、優先課題を特定しています。
特定された優先課題は「グループサステナビリティ委員会」ならびに取締役会へ報告されるとともに、当該報告をもとに「グループサステナビリティ委員会」ならびに取締役会における検討・審議を経て決定がなされた自然関連リスクおよび機会に対する取り組みは、短期的には毎年の事業計画に、中長期的には中期経営計画に適宜組み込まれる仕組みになっています。
なお、「グループサステナビリティ委員会」には自然関連リスクおよび機会のほか、サステナビリティ関連課題が集約され、各課題の相互関係も考慮の上、総合的な重要性判断を行っています。
また、経営成績およびキャッシュフローの状況に重要な影響を及ぼす可能性があるリスクについては、「グループリスクマネジメント委員会」による全社的なリスクマネジメントプロセスに統合され、各担当部門が講じるリスク対策を確認し、その進捗管理および評価を行うことで、継続的な改善が行われる体制を構築しています。
<指標及び目標>
当社グループでは、各自然資源の利用状況を含むESG関連データについて、専用ページにて公開しています。また、現在の中期経営計画「Beyond 2027」の中で、自然資源の利用および排出に関する環境関連目標として、2023年度比での原単位水使用量の3%削減、2030年までに廃プラ再資源化率65%の達成を掲げ、取り組みを推進しています。(詳細はそれぞれ、各専用ページをご確認ください。)
なお、TNFDが定めるコアグローバル指標と当社の開示状況については以下のとおりです。
※2023年度のデータとなります。ESGデータのURLは以下のとおりです。
https://www.sawaigroup.holdings/sustainability/esg/
(4) 人的資本・多様性に関する取り組み
当社グループでは「社会インフラとして国民の生命と健康を守るために、高品質なジェネリック医薬品を安定供給し続け、業界をリードする存在となる」「ジェネリック医薬品を中核にしつつ、予防や診断領域まで含めた製品・サービスを提供することで、社会課題の解決と社会の発展に寄与する」という2030年Visionの実現に向け、多様な視点を持ち、状況変化を素早く感じ取って自ら判断し、自律的に行動に移せる人財が必要であると考えております。
<ガバナンス>
当社グループは、中期経営計画及び長期ビジョンに基づき、グループ人事部門の責任者と各事業責任者が議論・検討を重ね、求める人財要件を定義しています。人財の採用及び育成に関する方針・計画については、グループ戦略会議における審議を経た後、グループ人事部担当役員が経営会議に付議し、取締役会において審議・承認されるプロセスとなっています。
また、当社は人的資本に関わるリスク管理の観点から、人財の確保、育成、評価、報酬、離職や定着率の管理などの重要課題について継続的にモニタリングを行い、適切なマネジメントを行っています。取締役会は、人員計画の充足状況や各種研修の実施状況について、適宜グループ人事部門の責任者に報告を求めることで、監督機能を果たすとともに、人的資本経営の実効性を確保しています。
<戦略>
現在の中期経営計画では、2027年3月期に生産能力を220億錠に拡大して、高品質なジェネリック医薬品の安定供給を目指します。この実現のためには、製造及び品質管理、品質保証を担う人財の確保と育成が不可欠です。同時に、多様な人財が活躍できる環境の整備も重要な戦略の一つです。さまざまな医薬品市場のニーズに応えるため、異なる専門性や経験を持つ人財が協働し、革新を生み出せる組織づくりが求められています。また、人財確保の手段としても、柔軟な働き方の推進やキャリアの選択肢を広げることで、多様な人財が能力を最大限に発揮できる環境を整備していきます。
①人財の確保と育成
当社グループでは、事業の成長を支える優秀な人財の確保に向けて採用活動を強化しています。2025年4月にはグループ全体で214名の新卒社員が入社しました。また、2024年度の中途採用では、グループ全体で321名を採用しました。
当社グループの企業理念に共感する主体性のある人財を迎えられるように、採用活動の専任部署としてグループ人事部に採用・要員グループを設置するとともに、各部門にも採用担当者を配置し、全社一体となって採用活動に取り組んでおります。未来を担う若手を求める新卒採用では、初任給の引き上げを実施して待遇面の魅力を高めるとともに、実際の業務を体験できるインターンシッププログラムを開催しています。また、各本部に所属する社員が学生向けの説明会に参加し、当社の業務内容や職場環境を第一線の社員から直接感じられる機会を提供しています。学生と社員の接点を増やすこれらの取り組みにより、応募者と当社グループが求める人財のニーズのマッチングを重視し、入社後にすぐに活躍できる仕組みを整えています。特に、製薬会社間で激しい競争となっている品質管理や品質保証を担う人財の採用力を高めるため、職場紹介の動画を作成し、当社グループで働くことの魅力と安心を伝えています。
即戦力を求める中途採用では、他社で豊富な経験を有する方が、当社グループの技術力や品質へのこだわりに共感して応募されることが増えています。当社グループの高品質なジェネリック医薬品を生み出す環境で、さらに自身を成長させたいと望む人々が増えていると感じています。このような期待に応え、社員と企業がともに成長し続けられる組織力の強化に取り組みます。
多様な人財がそれぞれの強みを発揮し、活躍できる環境を整えることも持続的な成長には不可欠です。当社グループの女性管理職比率は2025年3月時点で9.5%という現状にあります。この数字は単なる統計上の課題ではなく、多様な視点やアイデアを活かしきれていない組織としての重要な経営課題を示しています。この状況を改善するためには、数値目標の達成だけを目指すのではなく、組織全体の意識改革と行動変容を通じた持続的な変革が必要と考え、この課題に取り組む専任部署である「ID&E推進室」を中心に、女性活躍を支援する次の施策を継続して実施しています。
②階層別アプローチによる相乗効果の創出
組織変革を効果的に進めるためには、各階層での意識改革と実践が不可欠です。そこで、部門長層、管理職層、次世代女性リーダーという3つの階層に対して、それぞれの役割と課題に応じた研修プログラムを展開しました。特に、次世代女性リーダー育成研修と、その上長向けの管理職研修を連動させることで、日常業務における実践と支援の具体化を図りました。
③「知る」から「行動する」へ
単なる知識提供に終わらないよう、それぞれの研修では実践的なワークショップやディスカッションを重視しました。特に、アンコンシャスバイアス研修では具体的なデータと事例を用い、また、次世代リーダー育成研修では社内ロールモデルとの対話の機会を設けるなど、参加者の気づきを実際の行動変容につなげる工夫を取り入れています。
④組織全体での理解促進
女性活躍推進は特定の層だけの課題ではありません。そのため、WEBセミナーなど、より多くの社員が参加できる形式も取り入れ、組織全体での理解促進を図りました。両立支援と活躍支援の違いや、平等(equality)と公平(equity)の概念など、基本的な考え方の共有にも注力しています。
このように、複数の研修プログラムを有機的に連携させることで、組織全体での意識改革と実践的な行動変容の実現を目指しています。
<女性活躍の支援策として実施した研修>
一方、これらの研修プログラムを通じて、組織全体での意識改革と行動変容を進める中で、意識改革だけでは乗り越えられない、次のような課題が認識されました。
・育児や介護などのライフイベントとキャリア形成の両立
・時間的制約がある中でのマネジメント経験の獲得
・柔軟な働き方を実現するための職場環境の整備
これらの課題に対応するためには、意識面での改革に加えて、それを支える制度や仕組みの整備が不可欠です。そこで当社グループでは、「働き方改革」と「キャリア支援」の両面から、以下のような制度の整備を進めてきました。
<近年に整備した人事制度>
<リスク管理>
当社グループでは、人的資本に関わるリスクと機会の両面から課題にアプローチし、企業価値の向上を目指しています。特に、優秀な人財の確保・育成に加え、多様な人財が活躍できる環境の整備が、持続的な成長の基盤であると考えています。年齢、性別、国籍、キャリア志向など、多様なバックグラウンドを持つ人財が、それぞれの強みを発揮できるよう、公平な評価制度の整備や偏見のない職場環境の構築を進めています。そのために、社員が健康で安心して働ける環境を整えることを最優先課題の一つとし、高品質なジェネリック医薬品の安定供給や、予防・診断領域を含む製品・サービスの提供につなげています。
一方で、ハラスメントによる職場環境の悪化、長時間労働による生産性の低下、メンタルヘルス不調や労働災害の発生といったリスクを未然に防ぐための取り組みも推進しています。具体的には、ハラスメントの撲滅に向けた企業姿勢の明文化と「ハラスメントヘルプライン」の設置により、心理的安全性の確保を図っています。また、長時間労働の是正に向けた労務管理の徹底、国内主要事業所への保健師の配置、産業医との連携を通じたメンタルヘルスケアの強化、労働災害の未然防止策を実施しています。
これらの取り組みを通じて、多様な人財が活躍できる環境を整えながら、人的資本の価値を高め、企業の持続的成長の機会を創出してまいります。当社グループは今後もリスク管理を徹底しながら、社員が能力を最大限に発揮できる環境の実現に向けた取り組みを推進してまいります。
<指標及び目標>
当社グループは、高品質なジェネリック医薬品の安定供給を実現するため、優秀な人財の確保・育成に加え、多様な人財が活躍できる環境づくりを重要な課題と位置付けています。中期経営計画において従業員エンゲージメントの強化やダイバーシティ推進を目標として掲げ、具体的な指標を設定し、取り組みを進めてまいりました。
従業員エンゲージメントについては、従来の年1回の調査を半年ごとに実施する仕組みに変更し、調査項目も従業員満足度でなく、会社への貢献意欲をより的確に把握できる内容へと見直しました。調査結果は、本部長及び経営層と共有することで、調査により判明した課題や変化をタイムリーに捉え、速やかに対策を実施し、その効果を次の調査で測定することを可能としています。社員が抱える不満や課題を定期的に把握し、改善することで、より働きやすい職場環境の構築を推進しています。
2023年度に8.3%であった女性管理職比率は、2024年度には9.5%に向上しました。意欲と能力のある女性社員の管理職登用を積極的に進めるとともに、次世代女性リーダーの育成研修を実施し、管理職候補となる人財の育成にも注力しています。今後も毎年着実な向上を見込んでおります。
男性の育児休業取得率は、2023年度の37.3%から2024年度には44.0%に増加しました。対象となる男性社員への育児休業制度の周知に加え、その管理職に対しても部下が育児休業を取得できることを周知し、取得を積極的に支援するよう働きかけています。また、男性社員が安心して育児休業を取得できるよう、職場環境の整備を推進しています。2025年度は関連法令の改正も踏まえ、さらなる取得率向上を目指して取り組んでまいります。
障がい者雇用については、障がい者の特性に応じた業務の開発に努め、2024年度も多くの方を新たに雇用しました。しかし、グループ全体に及ぶ新規採用者の増加により、雇用率としては前年と同率にとどまっています。今後も引き続き、積極的な障がい者雇用を推進してまいります。
当社グループの事業の概況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす可能性があると認識している主要なリスクは、次のとおりであります。なお、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2025年6月24日)現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 「医薬品医療機器等法」等による規制
当社グループ傘下の企業は「医薬品医療機器等法」等関連法規の規制を受けており、事業所所在の各都道府県の許可・登録・免許及び届出を必要としております。当社グループは、十分な法令遵守体制をとっておりますが、かかる医薬品製造販売業の許可等に関して法令違反があった場合には、監督官庁から業務停止、許可等の取り消し等が行われ、当社グループの財政状態や経営成績に影響を与える可能性があります。
(2) 薬価制度及び医療制度の変更
当社グループの主要製品、商品である医療用医薬品を販売するためには、日本においては国の定める薬価基準への収載が必要です。薬価については市場実勢価の調査が行われ、その実勢価格をベースに政策的な側面も加味した薬価改定により多数の品目の薬価が引き下げられます。また、増大する医療費の適正化を目的として薬価制度や医療保険制度の改革議論が引き続き行われており、その動向には細心の注意を払って経営方針・経営戦略に反映させておりますが、薬価引下げ率や制度変更の内容によっては、当社グループの財政状態や経営成績に影響を与える可能性があります。
(3) 知的財産に関する訴訟
当社グループは物質・用途・製法・結晶形・用法・用量・製剤に関する特許並びに意匠及び商標等の知的財産権に関し徹底した調査を行い、また、不正競争防止法も十分に考慮した製品開発を心掛けておりますが、当社グループが販売するジェネリック医薬品の先発医薬品には物質・用途特許の期間満了後も複数の製法・結晶形・用法・用量又は製剤に関する特許等が残っていることが多く、当該特許等に基づき訴訟を提起される場合があります。このような事態が生じた場合には、当社グループの財政状態や経営成績に影響を与える可能性があります。
(4) 競合等の影響
当社グループは、日本において販売している製品が度重なる薬価引き下げのため不採算となり、販売中止を余儀なくされることのないように、適正利益を確保した価格で販売するように努めておりますが、多数のメーカーがジェネリック医薬品市場に参入すると、厳しい競争の中で価格の低下を招きやすくなります。さらには、先発医薬品メーカーが、オーソライズドジェネリックの投入等の諸施策により特許満了後の市場シェア低下への対応に努めており、その動向次第では当社グループが計画していた売上収益が確保できないことも想定されます。また、他社に先駆けて毎年数品目のジェネリック医薬品を上市できる研究開発力が当社グループの強みですが、競合他社の研究開発力の向上による競合リスクも高まってきており、当社グループの財政状態や経営成績に影響を与える可能性があります。
(5) 製品回収・販売中止
当社グループが販売するジェネリック医薬品の有効成分は、先発医薬品においてその使用実績から有効性と安全性が一定期間にわたって確認されており、また再審査・再評価を受けたものであり、基本的には未知の重篤な副作用が発生するリスクは極めて小さいものです。しかしながら、予期せぬ新たな副作用の発生、製品への不純物混入、新たな検査基準の設定又は厳格化といった事象が発生した場合には、製品回収・販売中止を余儀なくされるとともに当該事故等の内容によっては製造物責任を負う場合があり、当社グループの財政状態や経営成績に影響を与える可能性があります。
(6) 自然災害等による生産の停滞、遅延
当社グループでは、地震・風水害等の自然災害、その他新型コロナウイルス感染症を含むパンデミック等の重大な健康リスクに対しては、人命尊重を第一に事業が継続できるよう、BCPや危機管理規程等の整備・運用による対応を図っております。当社グループは、福岡県、兵庫県、千葉県、茨城県及び福井県に生産拠点を配置し製造所の分散及び製造機器の共通化等により操業停止リスクの低減を図っておりますが、自然災害、技術上・規制上の問題等の発生により、生産拠点の操業が停止した場合には、当該生産拠点で製造する製品の供給が停止し経営成績に影響を与える可能性があります。また、重要な原材料については、複数ソース購買などサプライチェーンリスクの管理・対応に努めておりますが、特定の取引先から供給を受けているものがありますので、自然災害等の要因によりその仕入れが停止し、その代替が困難である場合には、当社グループの財政状態や経営成績に影響を与える可能性があります。
(7) グローバル事業展開等
当社グループは、ジェネリック医薬品シェアの高まりに伴う国内市場の成長鈍化を見据え、従来から持続的な成長を目指し、海外展開、資本提携及び企業買収等による新規事業展開の検討を図っており、事業採算性のほか関連法令・政治経済情勢を含め十分な調査に努めておりますが、当初の想定を超える予期せぬ事情変更や投資に見合う効果が得られない場合があり、当社グループの財政状態や経営成績に影響を与える可能性があります。
(8) 情報管理
当社グループは、社内外の個人情報・営業秘密その他多くの重要な情報を保有しております。社内規程を整備し、ITセキュリティ対策や外部のデータセンターを含む複数拠点におけるデータの保存等を実施するほか、グループ情報セキュリティ委員会を設置して教育・啓発を実施する等、情報管理の徹底に努めておりますが、システム障害や事故、外部からの不正アクセス等により漏洩、改ざん、喪失等が発生した場合には、当社グループの財政状態や経営成績に影響を与える可能性があります。
(9) 米国事業
当社グループは子会社であるUpsher-Smith Laboratories, LLC(以下、「USL」という。)を通した米国ジェネリック医薬品市場におけるビジネス展開に伴い、USLの経営環境や事業の変化等に起因して、期待されていた効果が得られない場合、資産の減損処理を行う必要が生じるなど、当社グループの財政状態や経営成績に影響を与える可能性がありましたが、2024年4月2日をもって譲渡が完了したことにより、当該米国事業に係るリスクは著しく軽減されることになりました。なお、米国事業に起因する反トラスト訴訟に関して譲渡後一定の期間において発生する損失を一定限度内でBoraに対して補償する義務を負っているため、想定されるリスク等を踏まえ見積金額を計上しております。今後、判決等の結果により見積金額を超過する損失が発生した場合には、当社グループの財政状態や経営成績に影響を与える可能性があります。
(10) その他
上記のほか、金融市況・為替変動によるリスク、コンプライアンスを含むコーポレート・ガバナンスに関するリスク、気候変動をはじめとする環境問題リスク、少子高齢化に伴う中長期的な人手不足、地政学的リスク等、様々なリスクがあり、ここに記載のリスクが当社グループにおけるすべてのリスクではありません。当社は、グループリスクマネジメント委員会を年2回開催し、発生頻度と事業に与える影響度から特に重要なリスクを絞り込んでディスカッションを行うなど、リスクに対して必要な対応・対策の整備に努めるほか、関連テーマについて別途グループコンプライアンス委員会、グループサステナビリティ委員会等において、より詳細に検討いたします。また、eラーニング等のツールを活用した定期的な教育啓発活動等により、役職員が法令違反や社会規範に反するリスクの低減を図っております。
4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
当社グループでは、資本市場における財務情報の国際的な比較可能性を向上させることを目的として、IFRSを適用しております。前第3四半期連結累計期間より、米国事業を非継続事業に分類しており、2024年4月2日に当社の米国事業の持株会社であるSawai America Holdings Inc.(以下、「SAH」という。)の全株式、並びにその傘下にあるSawai America LLC(以下、「SAL」という。)の当社持分とUpsher-Smith Laboratories, LLC(以下、「USL」という。)の持分をSALへの共同出資者であるSumitomo Corporation of Americas(以下、「SCOA」という。)とともに、Bora Pharmaceutical Holdings, Inc.(以下、「Bora」という。)に譲渡しております。このため、売上収益、営業利益、税引前当期利益については、非継続事業を除いた継続事業の金額を、当期利益及び親会社の所有者に帰属する当期利益については、継続事業及び非継続事業を合算した金額を表示しております。
IFRSに基づいた当連結会計年度の業績につきましては、売上収益189,024百万円(前期比6.9%増)、営業利益4,050百万円(前期比78.3%減)、税引前当期利益3,161百万円(前期比82.7%減)、親会社の所有者に帰属する当期利益11,969百万円(前期比12.6%減)となりました。なお、当社は、IFRSの適用に当たり、会社の経常的な収益性を示す利益指標として、「コア営業利益」を導入し、経営成績を判断する際の参考指標と位置づけることとしております。「コア営業利益」は、営業利益から当社グループが定める非経常的な要因による損益を除外しております。同基準に基づいた当連結会計年度の「コア営業利益」は、25,703百万円(前期比7.4%増)となりました。
(注)売上収益、営業利益、税引前当期利益、コア営業利益は継続事業の業績を、親会社の所有者に帰属する当期利益は継続事業と非継続事業の合計の業績をそれぞれ表示しています。
当社グループは、持株会社体制の下、2027年3月期を最終年度とする中期経営計画「Beyond 2027(以下、「中計」という。)」を発表し、同時に定量目標を修正した長期ビジョン「Sawai Group Vision 2030」では、2030年度に目標とする企業イメージを(創りたい世界像)「より多くの人々が身近にヘルスケアサービスを受けられ、社会の中で安心して活き活きと暮らせる世界」、(ありたい姿)「個々のニーズに応じた、科学的根拠に基づく製品・サービスを複合的に提供することで、人々の健康に貢献し続ける存在感のある会社」と掲げると共に、「信頼される企業基盤の確立」を土台とし、さらに成長するために、「事業戦略」および「経営基盤」に重点テーマを設定しました。「事業戦略」は「GE市場における着実な成長」「GEビジネスの持続性確立」「成長分野への継続的投資」を重点テーマとして設定し、「経営基盤」では「持続的成長を支える人財の創出」「サステナビリティへの取り組み」「資本効率改善」を重点テーマとして設定しております。
2021年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」(骨太方針)において、「後発医薬品の品質及び安定供給の信頼性の確保を柱とし、官民一体で、製造管理体制強化や製造所への監督の厳格化、市場流通品の品質確認検査などの取組を進めるとともに、後発医薬品の数量シェアを、2023年度末までに全ての都道府県で80%以上とする」とされたのをはじめ、2022年4月の診療報酬改定では、後発医薬品(ジェネリック医薬品)のさらなる使用促進を図る観点から、ジェネリック医薬品の調剤割合が高い薬局や使用割合が高い医療機関に重点を置いた評価の見直し等が行われました。その結果、2024年9月の政府の薬価調査(速報値)による最新のジェネリック医薬品の数量シェアは85.0%となっています。さらに2024年9月の社会保障審議会医療保険部会では、「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」を改訂し、数値目標として、「主目標:医薬品の安定的な供給を基本としつつ、後発医薬品の数量シェアを2029年度末までに全ての都道府県で80%以上(旧ロードマップから継続)」、「副次目標①:2029年度末までに、バイオシミラーが80%以上を占める成分数が全体の成分数の60%以上」、「副次目標②:後発医薬品の金額シェアを2029年度末までに65%以上」が掲げられております(2024年9月の政府の薬価調査による後発医薬品の金額シェア62.1%)。また、2024年10月からはジェネリック医薬品のある長期収載品を患者さんが希望される場合は追加で患者負担を求める「選定療養」が導入され、これによりジェネリック医薬品の使用はさらに進むことが想定されます。
その一方、2020年末の準大手ジェネリック医薬品企業の製造する医薬品での健康被害の発生や、その後の大手ジェネリック医薬品企業をはじめとした複数のジェネリック医薬品企業の薬機法違反を起因として、医薬品全体で供給不安が生じています。このような状況の下、2022年8月から始まった厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」では医薬品の流通、薬価制度、ジェネリック医薬品産業の構造上の問題などについて幅広い議論が行われ、2024年5月には「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」報告書がまとめられ、6月に閣議決定された政府方針の「経済財政運営と改革の基本方針2024」(骨太方針)には「足下の医薬品の供給不安解消に取り組むとともに、医薬品の安定的な供給を基本としつつ、後発医薬品業界の理想的な姿を見据え、業界再編も視野に入れた構造改革を促進し、安定供給に係る法的枠組みを整備する」と明記されています。これを受け、令和7年度薬価改定においては、国民負担軽減の観点はもとより、創薬イノベーションの推進や医薬品の安定供給の確保の要請にきめ細かく対応する観点から、品目ごとの性格に応じて改定の対象範囲が設定されての改定や最低薬価の引上げが行われます。また、後発医薬品の安定供給に向けては、少量多品目生産の非効率な生産体制の解消に向けて計画的に生産性向上に取り組む企業に対する施策(支援事業)や安定供給確保に向けた法的枠組みの整備が計画されています。
このような環境におきまして、中計の下、ジェネリック医薬品業界のリーディング・カンパニーとして、信頼される企業基盤の確立に努めつつ、当社グループでは、社会インフラとして持続的に社会に貢献することを目指し、「着実な成長」と「ビジネス持続性の確立」に取り組んでおります。
品質管理面においては、中核会社の沢井製薬を中心に、製造管理・品質管理基準(GMP)を遵守した原薬の品質の確保、製造工場でのGMP遵守の恒常的確認による品質管理体制、国際基準であるPIC/S-GMPに基づく製造管理・品質管理を行う等の取組を行ってまいりました。また、2022年3月期には医療関係者の皆様が安心してご使用いただけるよう、沢井製薬では製品の製剤製造企業に関する情報と原薬製造所の監査に関する情報を公開し、「沢井製薬の品質に対する取組紹介動画」を公開する等の取組を行ってまいりました。しかしながら、沢井製薬の九州工場で製造するテプレノンカプセル50mg「サワイ」の安定性モニタリングの溶出試験において、不適切な試験が継続的に行われていたことが判明し、2023年12月に厚生労働省、大阪府及び福岡県から「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」違反を理由とする行政処分を受けました。当該不適切試験が継続して実施されてきた原因について、人的要因に起因する問題として、①安定性モニタリングを軽視する風潮の蔓延、②上司の指示に疑問を持たずに従う傾向、③試験関与者のGMPに対する理解の欠如が、物的要因に起因する問題として、①品質管理・品質保証の観点からの実効的な監督体制の不備、②試験記録管理の不十分さ、③試験を担当する品質管理部の業務過多及び人員不足が挙げられます。信頼の回復に向けた再発防止策として、①沢井製薬社長直轄の企業風土改革プロジェクトの立ち上げ、②既存上市品の製造面及び品質面での再評価とその対策実施、③全従業員に対するGMP教育の再実施や、管理職・監督職の責任の明確化、工場の品質管理部門、品質保証部門への社内外からの人材確保推進などの沢井製薬生産本部における再発防止策の実施に一丸となって取り組んでおります。また、2024年12月には発がん性物質「ニトロソアミン類」の分析研究に特化した「神戸分析研究センター」を開設し、製剤中にごく微量に含まれる可能性のある「ニトロソアミン類」を対象として、試験法開発難易度の高い品目や分析優先度の高い品目の試験法開発及び実測を行うとともに、社外分析受託会社や社内分析部門に試験法の技術移転を進めていく予定です。
生産・供給体制面においては、ジェネリック医薬品の需要拡大や供給不安、エネルギー価格や原材料価格が高騰する中、さらなる高効率・低コストを追求しており、既存の沢井製薬の全国6工場それぞれの特徴を活かした生産効率のアップに取り組んでおります。それに加えて、2022年9月に、九州工場注射剤棟の竣工、並びに2024年7月に、第二九州工場の敷地内に最終的に35億錠の生産能力となる新たな固形剤棟が竣工しました。また、小林化工株式会社から生産活動に係る資産を譲受し、関連部門人員を受け入れたトラストファーマテック株式会社においては、沢井製薬の製品の受託製造を開始しております。今後、当社グループ生産能力年間250億錠体制に向け、引き続き体制の構築に取り組んでまいります。それらと合わせ、2022年3月期に開設・稼働した東日本第2物流センター、西日本第2物流センターを活用し、物流面での供給体制も強化しております。また、2024年6月には「後発品の安定供給に関連する情報の公表等に関するガイドライン」に従い、安定供給に関する情報開示を行う等、業界全体の安定供給体制構築に努めております。
販売面においては、原価高騰への対応策として、生産効率のさらなる改善と並行し、低薬価品を中心に原価高騰に伴う影響分を価格に反映しております。また、沢井製薬にて2024年6月に『ゾニサミドOD錠』を含む2成分3品目、12月に『リバーロキサバン錠』『リバーロキサバンOD錠』を含む5成分10品目が薬価収載されました。また、2025年3月には日本市場における経口抗凝固剤「ワーファリン」の権利をエーザイ株式会社から承継する契約を締結しました。循環器領域の製品ラインアップを拡充することで、当社ジェネリック医薬品とのシナジー効果を期待しております。
製品開発においては、沢井製薬にて、「お薬を服用する時により飲み心地がいいと感じられるような技術、お薬をより効率的に製造できる技術など、お薬に付加価値をプラスし、製剤上のハーモニーを生み出す技術」の中から6つを選択し、3つの技術カテゴリに分け、それらのオリジナル製剤化技術を総称して「SAWAI HARMOTECH®」と名付け、公開しております。そのうち「MALCORE®」の技術が旭化成創剤研究奨励賞を受賞しました。また、包装資材において、沢井製薬における最薄防湿PTPシートの開発や、一部製品のアルミピロー包材の変更等により環境に配慮した生産に取り組んでおり、8月にはゾニサミドOD錠TRE「サワイ」が、日本パッケージングコンテスト2024において「アクセシブルデザイン包装賞」を受賞し、7月には「安全という意識を醸成する・安心を提示することができる技術」として新技術ブランド「QualityHug®」を公開し、10月にはグッドデザイン賞を受賞しました。さらに、2025年1月には当社最薄防湿PTPシートを用いた包装パッケージがアジアスターコンテスト2024にて 「アジアスター賞」を受賞する等、患者さんの気持ちに寄り添った製品の研究開発を進めてまいります。
さらに新たな取組として、PHR(パーソナルヘルスレコード)事業に関しまして、2022年より大学、自治体、企業、医療機関等様々な団体との間で連携、利活用を進めており、2025年3月にFrontAct株式会社の全株式を取得し子会社化することについて、住友ファーマ株式会社と合意しました。デジタルヘルスケア事業での製品ラインナップの拡大とともに専門人材やノウハウを獲得して事業基盤の強化と成長をはかり、デジタル技術を活用して人々の生活・健康をより良い方向に変化させて参ります。また、治療アプリ(DTx)に関しまして、2022年8月にNASH(非アルコール性脂肪肝炎:Non-Alcoholic Steatohepatitis)領域におけるDTxの開発及び販売ライセンス契約、2024年8月にアルコール依存症を適応としたDTxの販売ライセンス契約をそれぞれ株式会社CureAppとの間で締結しました。アプリを通じて、デジタルヘルスケア領域での技術や知見の強化とともに、IT技術を活用したソリューションを直接、患者さん・医療従事者の皆様にお届けすることを目指してまいります。医療機器事業においては、2023年12月に片頭痛の急性期治療に用いる医療機器として、厚生労働大臣から製造販売承認を取得した非侵襲型ニューロモデュレーション機器「レリビオン®」を中心として取り組んでまいります。
また、2025年5月27日公表の「当社連結子会社に対する訴訟の判決に関するお知らせ」により、訴訟損失引当金に係る費用16,757百万円をその他の費用として計上しました。
この結果、当社グループにおける売上収益は189,024百万円(前期比6.9%増)、営業利益は4,050百万円(前期比78.3%減)、コア営業利益(参考値)は25,703百万円(前期比7.4%増)となりました。
当連結会計年度末における財政状態は、次のとおりであります。
(資産)
当連結会計年度末における流動資産は200,823百万円となり、前連結会計年度末に比べ39,162百万円減少いたしました。これは主に、現金及び現金同等物が12,417百万円増加、棚卸資産が安定供給力の強化に向けた生産の影響等により9,865百万円増加した一方、売上債権及びその他の債権が8,326百万円減少、売却目的で保有する資産が55,293百万円減少したためです。非流動資産は153,800百万円となり、前連結会計年度末に比べ11,761百万円増加いたしました。これは主に、沢井製薬第二九州工場における新固形剤棟建設等により有形固定資産が8,476百万円増加、経口抗凝固剤「ワーファリン」の権利承継等により無形資産が6,897百万円増加したためです。
この結果、資産合計は354,623百万円となり、前連結会計年度末に比べ27,401百万円減少いたしました。
(負債)
当連結会計年度末における流動負債は102,815百万円となり、前連結会計年度末に比べ9,197百万円増加いたしました。これは主に、売却目的で保有する資産に直接関連する負債が16,268百万円減少した一方、仕入債務及びその他の債務が5,155百万円増加、資金繰り計画に基づき借入金が5,453百万円増加、ナルフラフィン塩酸塩OD錠2.5μg「サワイ」に関連する特許権侵害訴訟に係る引当金の計上等により引当金が16,741百万円増加したためです。非流動負債は77,954百万円となり、前連結会計年度末に比べ7,579百万円増加いたしました。これは主に、社債の発行及び借入の実行により社債及び借入金が2,995百万円増加したためです。
この結果、負債合計は180,769百万円となり、前連結会計年度末に比べ16,776百万円増加いたしました。
(資本)
当連結会計年度末における資本合計は173,854百万円となり、前連結会計年度末に比べ44,177百万円減少いたしました。これは主に、当期利益の計上、自己株式の取得、剰余金の配当及び関係会社株式の譲渡等によるものであります。
この結果、親会社所有者帰属持分比率は49.0%(前連結会計年度末は55.7%)となりました。
② キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は38,785百万円となり、前連結会計年度末に比べて12,417百万円増加いたしました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、税引前当期利益3,161百万円、減価償却費及び償却費15,241百万円、棚卸資産の増加9,961百万円、引当金の増加16,741百万円を主因として27,851百万円の収入(前期比4,702百万円の収入増)となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の売却による収入28,233百万円、有形固定資産の取得による支出20,567百万円を主因として6,480百万円の収入(前期は23,112百万円の支出)となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入金の返済による支出30,858百万円、自己株式の取得による支出33,320百万円、長期借入れによる収入35,036百万円を主因として32,704百万円の支出(前期は2,363百万円の収入)となりました。
当社グループは「医薬品等の製造及び販売」のみの単一セグメントであり、当連結会計年度の生産実績は次のとおりであります。
(注) 上記金額は、売価換算額で表示しております。
当社グループは見込み生産が主で受注生産は僅少であるため記載を省略しております。
当社グループは「医薬品等の製造及び販売」のみの単一セグメントであり、当連結会計年度の販売実績は次のとおりであります。
(注) 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
a.概要
当社グループは、主としてジェネリック医薬品の研究開発、製造及び販売を日本で行っております。「なによりも健やかな暮らしのために」の企業理念の下で、ジェネリック医薬品事業では、いち早く新しいジェネリック医薬品を開発・上市するとともに、品質・安定供給・情報提供においてトップレベルの水準を維持し続けることにより、ブランド価値を高め競争に打ち勝つことに努め、持続的な成長を通じて企業価値向上を図りました。
当社グループは、循環器官用薬、中枢神経系用薬、消化器官用薬など、さまざまな薬効の約800品目を提供しております。当社グループは、当連結会計年度末現在で9の製造拠点を有しております。当社グループにおいて、生産能力及び生産数量(外注含む)は当連結会計年度末で約205億錠及び約166億錠(ともに錠換算)となっております。
b.経営成績の分析
当連結会計年度の業績を前連結会計年度と比較した表は、次のとおりであります。
売上収益は前連結会計年度より12,162百万円(6.9%)増加し、189,024百万円となりました。当社グループの薬効別売上収益は、次のとおりであります。
薬価改定による販売単価下落の影響を受けたものの、一部品目での薬価上昇、選定療養制度導入対象品目や限定出荷解除品目を中心とした既存品の売上増加や、低薬価品を中心に原価高騰に伴う影響分を価格に反映したことで売上収益が伸長しました。
売上原価は前連結会計年度より10,130百万円(8.3%)増加し、132,673百万円となりました。売上総利益率は29.8%と前年よりやや低下しました。売上原価は、主に原材料費、人件費、減価償却費で構成されております。売上総利益率が前年よりやや低下した主な要因は、薬価上昇による販売単価上昇、価格政策による単価上昇、売上総利益率が相対的に高い新製品の発売に伴う製品MIXの改善による上昇要素に対して、薬価改定による影響及びエネルギー価格の上昇並びに第二九州工場の稼働開始に伴う減価償却費、トラストファーマテック株式会社の先行コスト、棚卸資産の評価損、廃棄損による低下要素の影響の方が大きかったことであります。
販売費及び一般管理費は前連結会計年度より274百万円(1.2%)増加し、23,518百万円となりました。主な増加要因は、コスト削減に努めているものの、販売数量の増加に伴う運賃諸掛の増加と人員増加に伴う人件費増加等となっております。
研究開発費は前連結会計年度より404百万円(3.3%)増加し、12,593百万円となりました。主な増加要因は、当連結会計年度に減損損失3,076百万円を認識したことであります。
その他の収益は前連結会計年度より656百万円(347.4%)増加し、845百万円となりました。主な増加要因は、当連結会計年度に遊休資産を売却したことにより有形固定資産売却益が発生したことであります。
その他の費用は前連結会計年度より16,580百万円(3,638.7%)増加し、17,035百万円となりました。主な増加要因は、当社製品に関する訴訟損失引当金に係る費用となっております。
以上より、営業利益は14,570百万円(78.3%)減少し、4,050百万円となりました。
Ⅰ キャッシュ・フロー
当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、27,851百万円の収入となりました(前連結会計年度比4,702百万円の収入増)。当連結会計年度は3,161百万円の税引前当期利益となり、安定供給力の強化に向け棚卸資産の購入・製造に係るキャッシュアウトが大きかったものの、当社製品に関する訴訟損失引当金の計上や法人所得税の還付により、営業活動によるキャッシュ・フローは前連結会計年度比で収入増となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、6,480百万円の収入となりました(前連結会計年度は23,112百万円の支出)。当連結会計年度は、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の売却による収入が発生したことから、有形固定資産の取得による支出を上回る収入となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、32,704百万円の支出となりました(前連結会計年度は2,363百万円の収入)。2024年6月25日開催の取締役会決議に基づく自己株式の取得を機動的に進めたことや長期借入金の返済により、長期借入金による収入を上回る支出となりました。
Ⅱ 資金需要
当社グループにおける主な資金需要は、市場の環境変化に対応した安定供給及び生産効率の最適化を目的とした設備投資並びにニーズを捉えた高付加価値ジェネリック医薬品の実現を目的とした研究開発投資によるものであります。
Ⅲ 財務政策
当社グループでは、持続的な企業価値の向上とそれを通じた株主還元の向上を実現するために、資本効率を向上させつつ、財務の健全性・柔軟性も確保された、最適な資本構成を維持することを基本方針としております。設備投資及び研究開発投資による資金需要につきましても、営業活動によるキャッシュ・フローを継続的に確保していくとともに、市場の環境変化に対応した柔軟な財務政策を実現していくことで基本方針を実現していきます。
2024年6月に発表した中計でも示しているとおり、成長に向けた投資を積極的かつ効果的に継続実施していく予定であり、その内訳は中期経営計画期間の3年間合計で、研究開発投資約350億円、GE事業約785億円、新規事業35億円+α、機動的アロケーション約210億円+α、自己株取得約330億円+α、配当190億円以上となっております。このうち、GE事業投資については、将来の需要増に応じて生産キャパシティを拡大するべく、沢井製薬の第二九州工場新固形剤棟新設(ステップ1の一部、ステップ2の一部)等を見込んでおります。設備投資計画の詳細については、「第3 設備の状況 3 設備の新設、除却等の計画」をご参照ください。
当連結会計年度においては、営業活動によるキャッシュ・フローが27,851百万円の収入と、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の売却による収入によって投資活動によるキャッシュ・フローが収入に転じたことにより、それらの収入を原資にUSL買収時の借入金の一部を返済し、33,320百万円の自己株式取得を行いました。また、第2回無担保社債を発行し沢井製薬への貸付を通じて第二九州新固形剤棟建設資金として充当しております。
③ 経営成績に重要な影響を与える要因について
「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。
当社グループの連結財務諸表はIFRSに準拠しております。当連結財務諸表の作成にあたり、経営者は資産及び負債の金額、財務諸表の末日時点の偶発資産及び偶発負債の開示、並びに報告期間における収益及び費用の金額に重要な影響を及ぼす見積り及び仮定の設定を行うことが求められております。見積り及び仮定は継続的に見直されます。経営者は過去の経験、見積り及び仮定が設定された時点において合理的であると判断されたその他の様々な要因に基づき、当該見積り及び仮定を設定しております。実際の結果はこれらの見積り及び仮定とは異なる場合があります。
経営者の見積り及び仮定に影響を受ける重要性がある会計方針は次のとおりです。また、見積り及び仮定の変更が連結財務諸表に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(収益認識)
当社グループの収益は主に医薬品販売に関連したものであり、製品に対する支配が顧客に移転した時点で認識されております。収益の認識額は、当社グループが製品と交換に受け取ると見込まれる対価に基づいております。収益からは、主要顧客である卸売業者及び販売会社に対するリベート等の様々な項目が控除されております。これらの控除額は関連する義務に対し見積られますが、報告期間における当該収益に係る控除額の見積りには判断が伴います。総売上高からこれらの控除額を調整して、純売上高が算定されます。
収益に係る調整のうち最も重要なものは、次のとおりであります。
・顧客に対するリベート: 当社グループは、マーケットシェアの維持と拡大を確実にするために、卸売業者、販売会社等の顧客に対してリベートを付与しております。リベートは契約上取決めがなされているため、係る負債は各取決めの内容、過去の実績に基づく予想割戻率及び予想される流通チャネル内の在庫量を基に算定しております。
・返品に関する負債: 返品権付き製品を顧客に販売する際は、当社グループの返品ポリシーや過去の返品実績に基づいた予想返品率を考慮して返品見込み額を測定し、負債として計上しております。
引当額は見積りに基づくため、実際の発生額を完全に反映していない場合があり、特に予想される流通チャネル内の在庫数量及び当社グループの製品が最終的にどの卸売業者の顧客に販売されるのかの見積りにより変動する可能性があります。
これまで実績又は見積りの見直しの反映による当初の見積りに対する調整額が、当社グループの業績に重要な影響を与えたことはありません。しかしながら、当社グループが見積りに際して使用した比率、要因、評価、経験もしくは判断が将来の事象の見積りにおける適切な予測値ではなかった場合、当社グループの業績に重要な影響を与える場合があります。見積りの感応度は、制度及び顧客の種類により左右される可能性があります。
(無形資産の減損)
当社グループは、償却を開始している無形資産について、その資産の帳簿価額が回収不能であるかもしれないことを示す事象又は状況の変化がある場合、減損テストを行っております。また未償却の無形資産については、少なくとも年次で減損テストを実施しております。
資産は、通常、連結財政状態計算書上の帳簿価額が回収可能価額を超過する場合に減損していると判断されます。回収可能価額は個別資産、又はその資産が他の資産と共同で資金を生成する場合はより大きな資金生成単位ごとに見積られます。資金生成単位は独立したキャッシュ・インフローを形成する最小の識別可能な資産グループであります。製品に係る無形資産及び仕掛中の研究開発は、個別に回収可能価額を見積ります。
回収可能価額の見積りには、以下を含む複数の仮定の設定が必要となります。
・割引率
・将来キャッシュ・フローの金額及び時期
・競合他社の動向
キャッシュ・フローが変動する可能性のある事象としては、研究開発プロジェクトの失敗又は上市後製品の価値の下落があげられます。研究開発プロジェクトの失敗には、開発の中止、オーソライズドジェネリックの販売見込みや競合他社の参入等による収益性の悪化が含まれます。
当社グループは、これらの仮定を慎重に検討し、無形資産の減損損失は適切であると判断しております。
(繰延税金資産の回収可能性)
繰延税金資産及び負債は、期末日に施行又は実質的に施行される法律に基づいて一時差異が解消される時に適用されると予測される税率を用いて測定しております。
繰延税金資産は、未使用の税務上の繰越欠損金、税額控除及び将来減算一時差異のうち、将来課税所得に対して利用できる可能性が高いものに限り認識しております。繰延税金資産の回収可能性の判断に用いられる課税所得金額の発生見込みは事業計画を基礎としておりますが、当該事業計画には開発中の製品の上市及び市場シェアの拡大による販売数量の増加等並びに将来の薬価改定による影響等を主要な仮定として織り込んでおります。繰延税金資産は期末日毎に見直し、一部又は全部の繰延税金資産の便益を実現させるだけの十分な課税所得を獲得する可能性が高くなくなった部分について減額しております。
当社グループは、これらの仮定を慎重に検討し、繰延税金資産の回収可能性は適切であると判断しております。
(米国における広域係属訴訟(Multi District Litigation、以下「MDL訴訟」という。)に対する金融負債)
当社は、2024年1月16日に、当社が保有する米国事業の持株会社であるSAHの全株式、並びにその傘下にあるSALの当社持分とUSLの持分を、SALへの共同出資者であるSCOAとともに、Boraに譲渡することを決議し、2024年4月2日をもって譲渡が完了しました。
上記のBoraとの持分譲渡契約において、USLが被告となっている反トラストに係るMDL訴訟に関する訴訟対応費用及びその帰結(判決、和解等に基づく損害賠償)に対して一定の責任を負う旨が規定されております。
当社は、Bora及び訴訟代理弁護士と密接に連携をとるとともに、本件について対処する法律事務所を独自に起用することを通して、本訴訟の実態を適時に把握する体制をとっております。
当社グループは、上記体制に基づいて、現時点で見積もられた想定負債合計は適切であると判断しております。
①米国子会社(孫会社)の株式等譲渡
当社は2024年1月16日開催の取締役会において、当社が保有する米国事業の持株会社であるSAHの全株式、並びにその傘下にあるSALの当社持分とUSLの持分を、SALへの共同出資者であるSCOAとともに、Boraに譲渡すること(以下、「本株式等譲渡」という。)を決議し、同日付で当該契約を締結するとともに、2024年4月2日に当該譲渡を完了いたしました。
②経口抗凝固剤「ワーファリン」の製造販売承認の譲受
沢井製薬は、2025年3月25日に日本市場における経口抗凝固剤「ワーファリン」の権利をエーザイ株式会社から承継する契約を締結しました。
当社グループは研究開発体制として、中核会社である沢井製薬において研究開発本部を設け、製剤工夫を施した高付加価値製品の開発など、医療のニーズに応える医薬品の開発に重点を置いた研究開発活動を推進しております。
当連結会計年度の研究開発費の総額は