第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。

(1)会社の経営方針

当社は、医療現場の課題を解決するための多様なモダリティ(医薬品、医療機器、AIを活用したプログラム医療機器)を、医療現場で研究開発し、医療イノベーション創出に貢献することで、ヒトが心身ともに生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造することを経営理念として掲げています。

 

(2)経営戦略

① 多様なモダリティ開発

当社は特定の技術に特化したベンチャーでは無く、広くモダリティ(医薬品、医療機器など治療の様式)の開発に取り組みます。医薬品産業も、低分子医薬品を中心とした開発から、バイオ医薬品(抗体医薬、核酸医薬品、遺伝子治療、細胞治療)へと、モダリティが多様化しつつあります。更には近年の工学系や情報系技術の進歩により、情報・工学技術との融合による新たな医療の模索も進んでおり、欧米や国内の大手製薬企業では既に医薬品単体のビジネスから医療ソリューション全般にわたるビジネスへの転換を迎えております。医薬品、医療機器、更にはAIを活用したプログラム医療機器など、医療現場での治療のオプションも広がりつつあります(図表23)。当社もこれまで主体であった化学系や生物系の研究に加えて、工学系や情報系の研究にも視野を広げ、医療課題を解決する多彩で魅力ある研究と事業のポートフォリオを創出します。

 

< 図表23 医療の変遷とモダリティの広がり >


(出典:当社作成)

 

広くモダリティ開発に取り組むことには、早期の黒字化と将来の収益確保の両立という経営面での利点もあります。医薬品事業は、研究開発費や研究開発期間が比較的大きく事業リスクが高い分野ですが、上市後には極めて高い収益が期待できる事業です。一方、医療機器やプログラム医療機器の事業収益は医薬品と比べると小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。当社は、これら2つの事業ポートフォリオを、同時に複数のパイプラインで進めることにより、リスクを分散しながら早期の黒字化と将来の収益の拡大を目指します。

 

 

<図表24 当社の事業ポートフォリオ >


(出典:当社作成)

 

② 少子高齢化の医療課題。

世界保健機関(WHO)では、高齢化や生活習慣に伴う重要な疾患(老化関連疾患)を「非感染性疾患(NCDs)」として位置付け、がん・糖尿病・呼吸器疾患・循環器疾患が対象となっています。2023年の全世界の死亡者数の74%がこれら疾患で亡くなっています(世界保健機関、Newsroom)。当社の開発品目は、これら4疾患を全て対象としており、先進国のみならず新興国でも重要な医薬品を開発しています。また、少子化問題も重要な社会的課題ですが、少子化問題に注力している製薬企業は多くはありません。当社は、女性(月経前症候群/月経前気分不快障害、更年期障害、乳がん病理診断プログラム医療機器)や小児の医療課題にも注力しています。

 

アカデミアなどの研究機関や医療機関とのネットワーク

医療イノベーション創出におけるアカデミアなどの研究機関や医療機関の役割が広がりつつあります。低分子医薬品と異なり、バイオ医薬品の技術基盤やシーズは研究機関にあります。また、AIを活用したプログラム医療機器の開発に必要な医療データは企業ではなく医療機関が有しています。当社は、多くの医療機関や診療科と複数の医療分野で医師主導治験を実施しているので、医師から医療現場の課題を把握する機会が多く、またAI開発に必要な医療データも比較的短期間でビッグデータが取得しやすい環境にあります。アカデミアなどの研究機関や医療機関とのネットワークを更に効率的に拡大することを目的として、東北大学などに研究開発拠点を持ち、オープンイノベーションを推進しています(図表25)。

 

< 図表25 当社が有する研究機関・医療ネットワーク >


(出典:当社作成)

 

 

④ 基礎研究から医師主導治験まで一気通貫での開発

当社は基礎研究から治療のコンセプトやアイデアを着想し、医薬品や医療機器などの「モノづくり」を行っています。適切な動物や細胞を用いた非臨床試験を終了し、必要なヒトにおける臨床試験(治験)で実証し、販売の許可を受けるための承認申請に近いところまで自社で対応します(図表26)。例えば、血液がんの一種である慢性骨髄性白血病の治療薬は現在、承認申請に必要な最後の臨床試験である第Ⅲ相試験を実施中ですが、第Ⅲ相試験まで自社で実施する予定です。その理由は、希少疾患などの治療薬は大手製薬企業からは注力されにくい場合が多いことや、更に第Ⅲ相試験まで自社で実施することで大きな事業収益が期待できるからです

 

< 図表26 当社のビジネス・モデル >


(出典:当社作成)

 

 

医師主導治験の活用

当社は、基礎研究から臨床試験まで広く研究を実施している医師(physician-scientistという)との共同研究を重視しています。基礎研究分野で共同研究を行っている多くの研究者は医師でもあり、自ら治験調整医師(治験責任者)として医師主導治験を実施することが可能です。基礎研究と臨床研究を実施する研究者が同じである場合が多いので、基礎研究から医師主導治験まで一気通貫で実施、効率的な開発ができます。当社の治験は基本的に医師主導治験で実施しています。

当社は、これまで28件に至る医師主導治験の実績(図表27)があり、医師主導治験には多くの利点があります。医師自ら治験を立案及び実施できますので、医療現場での課題や実情に合った試験計画や枠組みで実施できます。2003年の薬事法改正によって、医師自らが治験を実施する医師主導治験の道が開けましたが、治験に必要な医薬品を安全性試験、製剤を含めて全て自ら準備することは依然として難しい状況です。当時は、海外承認国内未承認の新薬や適応外使用薬(いわゆるドラッグラグ)も数多く存在したので、国内未承認薬や適応外使用薬が医師主導治験の主流でした。治験の実施し易さ(製造から安全性試験など既存のデータで対応可能)という点からも、多くの大学等の医療機関の医師が海外承認(国内未承認)の新薬や適応外使用薬の治験を医師主導で取り組みました。また、製薬企業が取り組まない希少疾患を対象に既存医薬品を用いて医師主導治験として実施される場合もありました。そのような背景から、「医師主導治験は適応拡大やオーファン疾患が対象」という印象が定着していた時期もございます。しかし、当社が行う治験は全て未承認の薬剤(first-in-human)を対象としており、海外承認薬(国内未承認)や既存薬の適応拡大のための治験ではありません。

 

< 図表27 医師主導治験等の数 >


(28件の内訳は、医師主導治験25件、臨床性能試験2件、治験外臨床性能試験(臨床研究)1件)

(出典:当社作成)

 

 

⑥ 外部機関とのエコシステムの形成

これまでの製薬企業や創薬ベンチャーの多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程の積み上げ)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。しかし、医薬品のように成功確率が極めて低く、開発期間が長く、投資が大きな分野では研究開発及び事業リスクが大きいため、多くのパイプラインを組み合わせたポートフォリオを形成し、リスク分散をすることが不可欠です。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くはパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成するという既存の枠組みでの開発ができますが、ベンチャーのように資金が潤沢でない場合なかなか難しいのが現状です。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティを展開し、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみに注力するのではなく、むしろ外部資源や外部環境にも注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えています。オープンイノベーションラボの設立もその一環として推進しています(図表28)

 

< 図表28 当社の事業戦略 >


 

 

⑦ オープンイノベーションラボ(TREx、HiREx)の設立

当社は創業当時、腎臓病の疾患動物モデル飼育施設を含む研究所を神奈川県・川崎バイオ特区に有しておりましたが、研究対象が腎臓病から多くの疾患領域に拡大し、研究段階が基礎から治験へ進むにつれ、当初の腎臓病の疾患動物モデルを主体とした研究所は閉鎖しました。しかし、多くの疾患領域に対する最先端の科学技術成果の活用の「場」、医師や研究者とのFace to Faceの交流の「場」、行政や医療産業企業とのオープンイノベーションの「場」が必要であると考え、2022年1月、東北大学に東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience Open innovation Labo:TREx)を開設しました(図表29)。TRExは2021年4月に締結された「仙台市と東北大学との地域経済発展に関する協定」に基づく拠点立地の第一号案件でもあります。TRExでは、1)東北大学大学院医学系研究科の研究者、東北大学病院の医師、東北大学メディシナルハブに参画する企業、行政など異業種との連携が加速され、2)既存の開発パイプラインの研究推進と複数の新規シーズの導入ができ、3)医師主導治験の実施、医療データの取得、公的資金獲得、許認可戦略の立案などを効率的、迅速に対応できており、4)人材の育成と確保にもつなげられています。

更に、第二のオープンイノベーションラボとして、2023年4月には広島大学に広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を開設しました。広島大学は、経済産業省の「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」に国内大学では唯一採択され、2022年10月に「PSI GMP教育研究センター」を新設し、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンをはじめ、核酸やペプチド等、中分子を主体とした治験薬製造施設を有しています。また、広島大学は学術・社会連携室の中にオープンイノベーション本部を設置し、地方におけるイノベーション拠点として新産業の創出を目指しています。広島大学の特色や強みを生かした研究開発拠点として、産学の連携を通して、医師主導治験実施を含めた医薬品及びプログラム医療機器の共同研究開発を行い、研究開発の効率化及び推進並びに人材育成などを目的とし「包括的研究協力に関する協定」を締結しました。本協定では、HiRExを活用し複数の医師主導治験(医薬品)、臨床性能試験(プログラム医療機器)を継続的に実施しつつ、広島大学の医療シーズの共同開発も視野に入れています。

具体的に2023年度から非小細胞肺がん及び皮膚血管肉腫の第Ⅱ相医師主導治験並びに維持血液透析医療支援プログラム医療機器及び糖尿病治療支援プログラム医療機器の臨床性能試験を実施しています。

 

< 図表29 TRExの風景 >


 

(3)目標とする経営指標

当社の事業収益は、医薬品、医療機器、プログラム医療機器の研究開発成果を実用化企業に導出して得る一時金、マイルストーン及びロイヤリティ収入がメインです。そのため下記の4つの経営指標を掲げています。

① 臨床段階にある開発パイプライン数

パイプラインを実用化企業に導出するためには、非臨床試験や第Ⅰ相試験(健常者での安全性確認試験)では難しく、少なくとも患者での有効性の確認(第Ⅱ相試験)の治験が終了していることが必要です。そのため、臨床段階(特に第Ⅱ相試験以後)にある開発パイプライン数は重要な数値目標になります。当社は当事業年度末日現在において、2025年3月期に臨床試験を実施予定のパイプラインを10本(医師主導9本、企業治験1本)有しており、内訳は第Ⅲ相試験2本(慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫)、第Ⅱ相試験4本(非小細胞肺がん、皮膚血管肉腫、全身性強皮症、月経前症候群及び月経前不快気分障害)、第Ⅰ相試験1本(脱毛症)、臨床研究1本(更年期障害)、承認申請のための臨床性能試験2本(糖尿病治療支援プログラム医療機器、維持血液透析医療支援プログラム医療機器)です。2023年3月期、2024年3月期に臨床段階にある開発パイプライン数がそれぞれ7本及び9本であることからも、順調に開発パイプライン数は増加しています。

臨床開発は販売の許可を受けるための承認申請に近いところまで自社で対応します。例えば、2022年12月に承認を得た医療機器(極細内視鏡)は、製品コンセプトから試作品開発、非臨床試験の実施、検証のための医師主導治験まで複数の大学と共同で開発を進め、当社が取得した成績で承認申請を行いました。また、血液がんの一種である慢性骨髄性白血病の治療薬は現在、承認申請に必要な検証試験である第Ⅲ相試験を実施中ですが、今後も可能な場合は第Ⅲ相試験まで自社で実施したいと考えています。その理由は、希少疾患などの治療薬は大手製薬企業からは注力されにくい場合が多いことや、更に第Ⅲ相試験まで自社で実施することで大きな事業収益が期待できるからです。AIを活用したプログラム医療機器も承認申請のための臨床性能試験まで実施します(糖尿病治療支援プログラム医療機器、維持血液透析医療支援プログラム医療機器)。

今後は慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫の第Ⅲ相試験に特に注力するものの、継続的に少なくとも年間5件程度の治験を医師主導治験で実施することを目標として掲げています。

 

② 契約締結パイプライン数

当社は、製品の開発権、製造権、販売権等をライセンスアウトすることで、契約一時金、開発の進捗に応じて支払われるマイルストーン収入、製品上市後に売上高の一定割合が支払われるロイヤリティ収入、売上高に対する目標値を達成するごとに支払われる販売マイルストーン収入等を得る事業モデルを採用しています。また、出口企業とは、ライセンス契約に至る前の比較的早期の研究開発段階において、将来のライセンス契約を前提としたオプション権付き共同研究契約(オプション契約)を締結することもあります(図表4 事業系統図の(共同研究))。この場合、当社は、パートナー企業から共同研究費を得ることで、自社の費用負担を抑えつつ研究開発を実施できるメリットを得られます。

当社は、現在7本の契約締結パイプライン数を有しており、内訳はライセンス契約3本(エイリオン社に脱毛症など皮膚疾患治療薬、ハイレックスメディカル社にディスポーザブル極細内視鏡、チェスト株式会社に呼吸機能検査診断プログラム医療機器)、オプション契約等4本(あすか製薬株式会社に月経前症候群及び月経前不快気分障害治療薬、第一三共株式会社に肺疾患治療薬、ニプロ株式会社に維持血液透析医療支援プログラム医療機器、東レ・メディカル株式会社に透析装置搭載型AI)です。

 

医師主導臨床試験数

当社は、これまでに蓄積してきた多くの医師や医療機関とのネットワークから、多くの診療科にわたる開発が可能で、開発領域も特定の疾患に偏っていません。当社の医薬品・医療機器開発における開発パイプラインの多様性と多くの疾患・診療科・医療機関で行われている28件に至る医師主導臨床試験の実績は、当社の有する医療機関とのネットワークと医療現場を重視する特徴の証です。当社には、医師主導臨床研究の経験やノウハウが蓄積されており、これを更に加速することで事業価値を向上できると考えています。

2023年3月期の医師主導臨床研究実施数は7件(医師主導治験6件、臨床研究1件)、2024年3月期の医師主導臨床研究実施数は9件(医師主導治験6件、臨床研究1件及び検証試験である臨床性能試験2件)、2025年3月期の医師主導臨床試験実施予定数は9件(医師主導治験6件、臨床研究1件及び検証試験である臨床性能試験2件)と徐々に増加しています。慢性骨髄性白血病治療薬は第Ⅲ相試験を実施中であり、2024年度から悪性黒色腫治療薬の第Ⅲ相試験を開始予定ですが、今後も希少疾患では第Ⅲ相試験まで自社で実施したいと考えています。AIを活用したプログラム医療機器においても承認申請のための検証試験である臨床性能試験を実施しています(糖尿病治療支援プログラム医療機器、維持血液透析医療支援プログラム医療機器)。

今後も継続的に少なくとも年間5件程度の治験及びその他検証試験等を医師主導で実施することを目標として掲げています。AIを活用したプログラム医療機器に関しては、探索レベルでは年間10件程度のシーズ開発が当社のリソースから適した数と判断しています。この中で約3割程度が実用化レベル(臨床性能試験など臨床試験を実施)に移行すると考えています。

 

④ 研究開発費

当社の成長や将来の収益を考えると、上記経営指標である臨床段階にある開発パイプライン数、契約締結パイプライン数、医師主導を含む臨床試験実施数の拡大が望ましい一方、医薬品の研究開発、特に治験の実施には多額の研究開発費が必要です。当社は、開発シーズを、医師主導治験を含む臨床試験を活用しながら開発し、製薬企業等へライセンスアウトするビジネス・モデルを基本としているため、高額な研究開発費を自社で負担する必要があります。そこで、研究開発費(特に自己資金)は重要な経営指標と考えています。開発パイプライン数及び医師主導臨床研究の実施数は順調に増加しており、全体の研究開発費は2022年3月期8,271万円、2023年3月期23,524万円、2024年3月期23,633万円と確実に増加しています。これらリスクの高い医師主導治験に対しては、公的研究助成金を積極的に活用することで、研究開発費の自己負担の軽減に努めてきました。その結果、2022年3月期6,108万円、2023年3月期19,280万円、2024年3月期13,317万円の公的資金が獲得でき、自己負担の研究開発費は2022年3月期2,163万円、2023年3月期4,244万円、2024年3月期10,316万円に抑えることができました。現在、医薬品では医師主導治験を実施中の慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫、全身性強皮症、PMS/PMDD及び臨床研究実施中の更年期障害が、プログラム医療機器では糖尿病治療支援プログラム医療機器及び維持血液透析医療支援プログラム医療機器が公的資金を確保できています。

当社の研究開発の強みは高い効率性とスピード感と考えています。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティも展開できていますので、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみに注力するのではなく、むしろ外部資源や外部環境にも注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えます。TRExやHiRExなどオープンイノベーションラボの設立もその一環として推進しています。

自己負担の研究開発費を抑えつつ、多くの臨床段階にある開発パイプライン数と医師主導治験実施数を増やし、最終的に契約締結パイプライン数を増やすことが重要な経営指標と考えています。当社は、2021年9月に東京証券取引所マザーズ市場に上場し、公募増資及びオーバーアロットメントによる売出しに関連した第三者割当増資により総額1,653,616千円の資金調達を行いました。この調達資金を活用して、既存のパイプラインの開発(慢性骨髄性白血病や悪性黒色腫などの医師主導治験の実施)、新規プロジェクトの導入と医師主導治験の実施、AIを用いたプログラム医療機器の開発を計画していました。しかし、医薬品では慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫、全身性強皮症、PMS/PMDD及び更年期障害が、プログラム医療機器では糖尿病治療支援プログラム医療機器及び維持血液透析医療支援プログラム医療機器も公的資金が確保できていることから、当初の充当予定時期よりも資金の充当時期が大幅に先送りになっております。

 

 

< 図表30 当社の経営指標 >


 

 

(4)経営環境

バイオベンチャーの取り組む最先端医療研究は、環境変化のスピードが極めて早いと考えられ、潜在的な競争相手に先行し、他社の知的財産権を上回る開発をする必要性があります。医薬品もこれまでの化学を基盤とする低分子と異なり、近年は抗体医薬、核酸医薬や遺伝子治療といったバイオ医薬品が主流に成りつつあります。更に、今後は、ビッグデータや人工知能など情報系技術を取り入れないと、競争の激しい医療分野での開発は難しくなります。医療のあり方もブロックバスターから個別化医療へ大きく変遷しています。技術も日進月歩で進んでいます。重要なことは、最先端の研究、技術、シーズをいち早く取り入れる枠組み、速やかに臨床現場で実証することと考えます。このため、多くの疾患領域に対する最先端の科学技術成果の活用の「場」、医師や研究者とのFace to Faceの交流の「場」、行政や医療産業企業とのオープンイノベーションの「場」が必要であると考え、2022年1月、東北大学に東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience Open Innovation Labo:TREx)を開設しました。TRExでは、1)東北大学大学院医学系研究科の研究者、東北大学病院の医師、東北大学メディシナルハブに参画する企業、行政など異業種との連携が加速され、2)既存の開発パイプラインの研究推進と複数の新規シーズの導入ができ、3)医師主導治験の実施、医療データの取得、公的資金獲得、許認可戦略の立案などを効率的、迅速に対応できており、4)人材の育成と確保にもつなげられています。具体的には、全身性強皮症や血管肉腫などの新規医薬品パイプライン、乳がん病理診断、心臓植込み型デバイス患者における不整脈・心不全発症予測、人工心臓患者における血栓発生予測などの新規プログラム医療機器パイプラインが新たに立ち上がりました。更に、第一三共株式会社、日本電気株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社、チェスト株式会社、株式会社ハイレックスコーポレーション、株式会社ハイレックスメディカル、ニプロ株式会社、東レ・メディカル株式会社などの契約締結につながっています。

更に、第二のオープンイノベーションラボとして、2023年4月には広島大学に広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を開設しました。広島大学は、経済産業省の「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」に国内大学では唯一採択され、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンをはじめ、核酸やペプチド等、中分子を主体とした治験薬製造施設を有しています。広島大学の特色や強みを生かした研究開発拠点として、産学の連携を通して、医師主導治験実施を含めた医薬品及びプログラム医療機器の共同研究開発を行い、研究開発の効率化及び推進並びに人材育成などを行います。具体的に2023年度から非小細胞肺がん及び皮膚血管肉腫の第Ⅱ相医師主導治験並びに維持血液透析医療支援プログラム医療機器及び糖尿病治療支援プログラム医療機器の臨床性能試験を実施しています。

TRExやHiRExの研究環境を活用することにより、更に効率的かつ迅速な研究開発が期待できます。また、社員は積極的にオープンイノベーション拠点でTRExやHiRExに参画しています。特に研究開発に携わる社員はこのような外部環境で研究開発に取り組んでおり、多様な環境ならではの経験と教育や啓発が可能となります。

 

(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

コーポレート・ガバナンス及び経営体制の強化

当社は、事業環境の変化に対応した迅速な意思決定を重視し、経営の効率性を一層高めるとともに、継続的な事業発展、持続的な企業価値の向上に資するようコーポレート・ガバナンスの一層の充実に取り組むことで、これまで以上にステークホルダーに公正な経営情報を開示し、その内容の適正性を確保します。

当社は、取締役の職務執行の監査等を担う監査等委員を取締役会における議決権を有する構成員とすることにより、取締役会の監査・監督機能を強化し、更なる監視体制の強化を通じて、より一層のコーポレート・ガバナンスの充実を図るため、2022年6月29日開催の第23回定時株主総会の決議により、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行しました。社外取締役からの客観的な意見を意思決定に反映させることで透明性の高い経営ができ、効率的かつ迅速な経営判断を行うための最適なガバナンス体制となっています。また、これに併せて執行役員制度を導入し、経営の監督機能である取締役会からの権限委任を通じた業務執行体制を採っています。

 

パイプラインの拡充

これまでの製薬企業や創薬ベンチャーの多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程の積み上げ)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。しかし、医薬品のように成功確率が極めて低い一方で、開発期間が長く、投資が大きな分野では研究開発及び事業リスクが大きいため、多くのパイプラインを組み合わせたポートフォリオを形成し、リスク分散をすることが不可欠です。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くはパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成するという既存の枠組みでの開発ができますが、ベンチャーのように資金が潤沢でない場合は、なかなか難しいのが現状です。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、多様なモダリティを開発し、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみにこだわるのではなく、むしろ外部資源や外部環境の積極的活用に注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えています。当社は、大学や様々な異業種企業との連携や協業を基にオープンイノベーションを推進し、効率的な開発を実施しています。具体例として、2022年1月東北大学に東北大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Tohoku University x Renascience Open innovation Labo:TREx)を設立し、新たなオープンイノベーションラボとして、2023年4月には広島大学に広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を開設しました。これら研究開発拠点を活かして、新たなシーズの導入や医師主導治験を含む臨床研究を実施します。

医薬品開発において重要なことは安全性と有効性の確認です。安全性は、一般毒性や遺伝毒性など薬事規制上で決められた試験に従い実施するので、時間と資金があれば対応可能です。一方、有効性の評価は単純ではなく、医薬品がどの疾患に有効かを見出すことは難しい課題です。1つの医薬品の開発には多くの時間と費用がかかります。当初想定された疾患での有効性は得られなくても、別の疾患には有効である可能性はあるので、多くの疾患で医薬品の効能性を検討することが、成功確率を高める(失敗しない)上でも重要になります。この医薬品の適応疾患を広く検討すること(ドラッグリポジショニング)は難しく、全ての疾患で検討することは現実的に無理です。当社は、国内外の公的研究機関に所属する研究者に当社開発の化合物を「オープンリソース」として提供しています。最先端の基礎研究を展開する様々な領域の研究者と共同で開発できる当社の枠組みは、自社の限られたリソースのみで基礎研究を行うより、遥かに効率的かつ広範囲にわたったドラッグリポジショニング研究が実施できます。「オープンリソース」の取り組みは、新たな治験対象疾患の広がりにつながっており、パイプラインの拡充にも寄与しています。自社リソースを特に必要としないので、非臨床試験(疾患動物モデルでの試験)のプロジェクト数に制約はありません。臨床開発は医師主導治験で実施し、医薬品開発業務受託機関 (Contract Research Organization:CRO)などを活用するため自社の人的リソースは少なくて済みます。

当社の臨床段階にあるパイプライン数は、2023年3月期は7本、2024年3月期は9本、2025年3月期予定数は10本と徐々に増加しています。今後も継続的に少なくとも年間5件程度の治験及びその他検証試験等を医師主導で実施することを目標として掲げています。

 

AIを活用したプログラム医療機器開発の加速

AIを活用した効率的な研究がライフサイエンス領域でも重要になっています。医師主導治験の患者選択、治験デザイン、データ解析などにもAIがますます活用されていくはずです。これまで当社の事業パートナーは、製薬企業が主でしたが、最近は、医工学機器企業だけではなく、NECやNESといったIT企業との研究及び事業開発連携にも注力しています。多彩な分野の企業との研究開発及び事業開発連携を行うことが魅力あるポートフォリオを創生する上で重要と考えます。医療機器やプログラム医療機器の事業収益は医薬品と比べると小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。当社は、医療機器やプログラム医療機器事業を同時に複数パイプラインを進めることにより早期の黒字化を目指しておりますが、これらパイプラインについての契約(共同研究、オプション、ライセンス等)、特に安定収入となるロイヤリティの獲得が重要と考えます。

医療分野へのAIの応用は大きな可能性を秘めたテーマですが、研究開発に重要な役割を担うステークホルダーが、個々に課題を抱えている状況です。医師などの医療者(医療機関)は、医療の課題や問題(ニーズ)を熟知し、豊富な医療データやアイデアなどを有してはいるものの、AI技術の活用方法やITベンダーとのネットワークが乏しく、研究開発に具体的に着手できない状況です。一方、AI技術を有するITベンダーは、成長が見込める医療分野への応用に興味はあるものの、医療者(医療機関)とのネットワークが少ないため、医療ニーズや医療データの取得が困難です。更に薬機法など薬事行政の経験も不充分なため、実用化は簡単ではありません。また、AIの医療応用を事業化したいと考える出口の製薬・ヘルステック企業も、研究から事業開発までを自社単独で全て対応することは時間的にもリソースの観点からも困難な場合も多いです。そこで、課題を有する医療者(医療機関)、AI技術を有するITベンダー、出口の製薬・ヘルステック企業が当初から連携し開発を進める枠組みが重要になります。

AIを活用したプログラム医療機器のプロダクトライフサイクルは医薬品ほど長くないため、効率的な研究開発には開発初期から許認可や実臨床への出口を見据えた計画が不可欠になります。そのためにも、異分野分業のオープンイノベーションが重要で、医師に加えて、データサイエンティスト、AI研究者、薬事専門家が連携して取り組む必要があります。当社は、多くの医師主導治験の実施の過程で多数の医療機関や複数の診療科とのネットワークを構築しており、医療課題や医療データにアクセスしやすいこと(医療面でのサポート)、オープンイノベーションを通して複数のIT企業と共同研究事業契約を締結できていること(技術面でのサポート)、医薬品の医師主導治験を実施する過程で薬事規制にも対応できることなど利点を有しています。

 

④ 医師主導治験の推進

当社の臨床試験は、研究者でありかつ医師であるphysician scientistによる医師主導治験です。当社は、これまでに蓄積してきた多くの医師や医療機関とのネットワークから、多くの診療科にわたる開発が可能で、開発領域も特定の疾患に偏っていません。当社の医薬品・医療機器開発における開発パイプラインの多様性と28件に至る医師主導治験等(多くの疾患・診療科・医療機関)の実績は、当社の有する医療機関とのネットワークと医療現場を重視する特徴の証です。当社には、医師主導治験の経験やノウハウが蓄積されていますが、これを更に加速することで事業価値を向上できると考えております。

当社では6本のパイプラインが第Ⅱ相試験(医薬品候補の有効性/安全性を確認する試験)段階以上にあり、特に慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫は有効性/安全性を確認済みで、現在検証試験(第Ⅲ相試験)を実施中あるいは準備段階にあります。これらのパイプラインを早期に導出することにより契約収入を得ること、特に安定的なロイヤリティ収入を獲得することが重要と考えます。

医師主導治験の圧倒的な利点は、「質」と「スピード」、すなわち「効率」です。医師主導治験では、最新の研究成果に触れることが可能な研究の最前線にいて、医療現場では患者を日々診療している医師が、適切な患者対象と試験計画を立案することができます。また、医師自ら治験を実施できるので、未承認薬の初期段階の治験(有用性や安全性を最初に確認する段階で、探索的臨床試験と言われる)には、適した治験の枠組みです。また、オーファン疾患(希少疾患のこと。患者数が少ないので売上も多くを望めない。)の治療薬開発は、収益性が低いために製薬企業が着手しないことから、最初から最後まで医師主導治験で行わざるを得ない場合もあります。研究開発費用のほぼ大半は、基礎研究段階では無く、臨床開発段階で費やされます。医師主導治験は、最先端の大学等の科学技術成果を速やかに活用でき、治療の対象となる患者を治験実施医師が適切に選択できることから、開発コストを削減できます。適切な治験調整医師を見出し、大学など複数の大きな医療機関の支援を得られた場合、企業治験に比べて医師主導治験は大きなアドバンテージがあり、短期間に大型の治験も実施できるために、当社は他社と異なりこの治験の形を優先しています。2003年の薬事法改正によって、医師自らが治験を実施する医師主導治験の道が開けました。しかし、治験に必要な医薬品を安全性試験、製剤を含めて全て自ら準備することは依然として難しい状況です。法改正当時は、海外承認(国内未承認)の新薬や適応外使用薬(いわゆるドラッグラグ)も数多く存在したので、国内未承認薬や適応外使用薬の適応拡大が医師主導治験の対象の主流でした。治験の実施し易さ(製造から安全性試験など既存のデータで対応可能)という点からも、多くの大学を含む医療機関の医師が海外承認(国内未承認)の新薬や適応外使用薬の治験を医師主導で取り組みました。また、製薬企業が取り組まない希少疾患を対象に既存医薬品を用いて医師主導治験として実施される場合もありました。そのような背景から、「医師主導治験は海外承認薬(国内未承認)や既存薬の適応拡大が対象」という印象が未だに強いのだと考えております。しかし、当社が行う治験は全て未承認の薬剤(first-in-human)を対象としており、海外承認薬(国内未承認)や既存薬の適応拡大のための治験ではありません。当社の医薬品は未承認の薬剤で知財も確保していますので、独占的な事業化が可能であり、充分な収益を得ることが可能です。当社の医薬品開発においては、非臨床試験はGLP(Good Laboratory Practice、医薬品の安全性の実施に関する基準)、治験薬の製造は治験薬GMP(Good Manufacturing Practice、治験薬の製造管理及び品質管理に関する基準)を遵守して実施しています。また、医師主導治験は、企業治験と同様にGCP(Good Clinical Practice、医薬品の臨床試験の実施に関する基準)を遵守して実施しています。そのため、当社の実施する医師主導治験は承認申請や許認可を得る上で問題なく使用することができます。

医師主導治験を含む臨床試験実施数は2023年3月期7件、2024年3月期9件、2025年3月期9件と徐々に増加しています。今後も継続的に少なくとも年間5件程度の治験を医師主導で実施することを目標として掲げています。

 

⑤ 重点開発領域

医薬品ではプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター1(plasminogen activator inhibitor-1, PAI-1)阻害薬のがん領域及び呼吸器領域での開発に注力しています。PAI-1の発現が高いがんは悪性度が高く、予後不良であることがわかっています(PAI-1パラドックス)。当社は、PAI-1ががん細胞の免疫チェックポイント分子(PD-L1など)の発現を促進することを共同研究で見出しました。当社のPAI-1阻害薬の投与でがん細胞の免疫チェックポイント分子の発現が低下し、腫瘍内の細胞障害性T細胞の浸潤が増加し、腫瘍関連マクロファージを抑制することも大腸がんや悪性黒色腫モデルマウスで明らかになりました。これら非臨床試験の成績に基づき、悪性黒色腫(第Ⅲ相試験実施準備中)を対象とした治験を実施しています。PAI-1パラドックスが実際にがん治療でも関与しており、一部のがん種ではPAI-1阻害薬の併用が有効であることを実証しています。がん領域では、慢性骨髄性白血病が第Ⅲ相試験実施中、悪性黒色腫が第Ⅲ相試験を実施準備中です。また、皮膚血管肉腫、非小細胞肺がんが第Ⅱ相試験実施中です。

PAI-1は血栓の溶解に必要なタンパク質ですが、炎症や組織の線維化にも深く関与しています。この作用に基づき、呼吸器疾患を対象とした開発を進めています。具体的には、COVID-19に伴う肺傷害(第Ⅱ相試験終了)、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(第Ⅱ相試験実施中)、特発性間質性肺炎(非臨床試験)などのプロジェクトが進行中です。

医療機器(極細内視鏡)の研究開発は終了しており、メイン部分のファイバースコープに関しては2022年12月に承認が下り、付属部分のガイドカテーテルの開発はほぼ完了したので、現在承認準備を進めております。AIを活用したプログラム医療機器に関しては、糖尿病治療支援や維持血液透析医療支援などのプログラム医療機器の開発が先行しており、今後承認申請のための臨床性能試験を実施する予定です。

 

⑥ 公的研究費の獲得

医薬品の研究開発、特に治験の実施には多額の研究開発費が必要です。本来当社は、開発シーズを、医師主導治験を活用しながら開発し、製薬企業等へライセンスアウトするビジネス・モデルを基本としていますので、高額な研究開発費を自社で負担する必要があります。しかし、公的研究助成金を積極的に活用することで、これらリスクの高い医師主導治験に要する研究開発費の自己負担を軽減しています。

現在、医薬品では慢性骨髄性白血病(第Ⅲ相医師主導治験実施中)、悪性黒色腫(第Ⅱ相医師主導治験完了)、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(第Ⅱ相医師主導治験実施中)で、また、プログラム医療機器では糖尿病治療支援プログラム医療機器及び維持血液透析医療支援プログラム医療機器も公的資金を確保できています。今後も引き続き公的研究助成金を積極的に獲得し活用したいと考えております。

 

⑦ 優秀な人材の採用と育成

当社は、公的資金や外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用することで、効率的かつ迅速な研究開発を心がけています。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理が異なります。当社を取り巻く外部環境(例えば、東北大学や広島大学とのオープンイノベーション拠点であるTRExやHiREx)に優秀な人材が集結するため、必ずしも当社に多くの人材を抱える必要はありません。一方で、当社が取り組む医療分野(医薬品、プログラム医療機器)は、国内外バイオベンチャーや製薬企業との競争が激しく、より一層の研究開発の加速と競合他社との差別化が必要になります。そのため、創造的かつ独創的な研究活動を推進し、会社の経営を支える優秀な人材の獲得は、当社の重要な経営課題でもあります。そこで、年齢や性別に関わらず、事業の拡大に貢献できる人材や意欲溢れる優秀な人材については積極的に採用する予定です。当社社員は、積極的にオープンイノベーション拠点であるTRExやHiRExに参画しています。研究開発に携わる社員はこのような外部環境で研究開発に取り組んでおり、多様な環境ならではの経験と教育や啓発が可能となります。

 

⑧ 財務基盤(黒字化)

安定的な黒字化を達成できる時期を明言することは難しいですが、単年度の黒字化につきましては数年のうちに達成したいと考えます。その根拠を以下記載します。医薬品事業は、研究開発費や研究開発期間が大きく事業リスクが極めて高い分野ですが、上市後には極めて高い収益が期待できます。医薬品の研究開発、特に医師主導治験の実施には多額の開発費が必要であり、同時に開発リスクを伴います。そこで当社は、公的研究助成金を積極的に活用することで、これらリスクの高い医師主導治験に要する研究開発費の負担を補うことに注力してきました。現在、医師主導治験を実施中あるいは準備中の慢性骨髄性白血病、悪性黒色腫、全身性強皮症も公的資金を確保できており、自己研究資金の負担が軽減されています。

一方、医療機器やプログラム医療機器の事業収益は医薬品と比べて小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。医療機器(極細内視鏡)及びプログラム医療機器の研究開発も順調に進んでいます。極細内視鏡は2022年12月に厚生労働省からファイバースコープ(内視鏡本体)の薬事承認を取得しました。プログラム医療機器については、糖尿病治療支援プログラム医療機器・維持血液透析医療支援プログラム医療機器についてはそれぞれ2022年4月、2023年2月に公的資金が確保でき、承認申請のための検証試験である臨床性能試験を実施中です。嚥下機能低下診断プログラム医療機器や呼吸機能検査診断プログラム医療機器の開発も順調に進んでいます。公的資金獲得に伴い、これらプログラム医療機器の自己研究資金の負担が軽減されるとともに、ライセンス一時金やマイルストーン受領など収入源となることが見込まれます。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社のサステナビリティ(持続可能な社会の実現)に関する考え方及び取組みは、以下のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、本報告書提出日現在において当社が判断したものです。

 

(1) ガバナンス

当社は、2021年9月に東京証券取引所マザーズ市場に上場し、2022年6月29日開催の第23回定時株主総会において監査等委員会設置会社に移行しました。これは、経営に関する意思決定スピードを加速し、監督機能の強化と取締役会の審議の一層の充実を図るためです。当社のコーポレート・ガバナンスの概要については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」に記載のとおりです。

また、当社では、サステナビリティを含むリスクについて、定期的に開催される取締役会や経営会議、コンプライアンス委員会などの会議体で適宜確認・管理をする体制を構築しています。

 

(2) 経営方針(戦略)

当社は医療課題を解決し、ヒトが心身ともに生涯にわたって健康を享受できるための新しい医療を創造したいと考えます。特定の技術に特化したベンチャーでは無く、広くモダリティ(医薬品、医療機器など治療の様式)の開発に取り組みます。医薬品開発も、低分子医薬品を中心とした開発から、バイオ医薬品へと多様化しています。更に、近年の工学系や情報技術の進歩により、情報・工学技術との融合による新たな医療の展開が進んでおり、欧米や国内の大手製薬企業でも医薬品単体の事業から医療ソリューション全般にわたる事業への転換を迎えております。医薬品、医療機器、更にはAIを活用したプログラム医療機器など、医療現場での治療のオプションも広がりつつあります。これまでの当社の主体である化学系や生物系の研究に加えて、工学系や情報系の研究にも視野を広げ、多彩で魅力ある研究と事業のポートフォリオを創出しています。

世界保健機関(WHO)では、高齢化や生活習慣に伴う疾患(老化関連疾患)を「非感染性疾患(NCDs)」として位置付け、がん・糖尿病・呼吸器疾患・循環器疾患の4つの疾患を重点疾患と認識していますが、2023年の全世界の死亡者の74%がこれら疾患で亡くなっています。当社の開発品目は、これら4疾患を全て対象としています。また、少子化問題も重要な社会的課題ですが注力している製薬企業は多くはありません。当社は、女性に特有の疾患や小児の疾患の医療課題にも注力しています。

医薬品事業は、研究開発費や研究開発期間が比較的大きく事業リスクが高い分野ですが、上市後には極めて高い収益が期待できます。一方、医療機器やプログラム医療機器の事業収益は医薬品と比べて小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。当社は、これら2つの事業ポートフォリオを、同時に複数のパイプラインを進めることにより、リスクを分散し早期の黒字化と将来の収益の確保を目指します。

医療イノベーションの創出における大学などの公的研究機関や医療機関の役割は広がりつつあります。従来からの低分子医薬品と異なり、遺伝子工学等を利用したバイオ医薬品の技術基盤やシーズは大学などの公的研究機関にあります。また、AIを活用したプログラム医療機器の開発に必要な医療データも医療機関が有しています。当社は、多くの医療機関の複数の診療科と医師主導治験を実施しているために、医療現場の医療課題を把握する機会が多く、またAI開発に必要な医療データも比較的短期間で取得しやすい環境にあります。当社は自社のリソースや研究環境にこだわるのではなく、むしろ外部リソースや外部環境を積極的に活用することにも注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築します。

当社は基礎研究から治療のコンセプトやアイデアを着想し、医薬品や医療機器などの「モノづくり」を行っています。適切な動物や細胞を用いた非臨床試験を終了し、必要なヒトにおける臨床試験(治験)で実証し、できれば販売の許可を受けるための承認申請に近いところまで自社で対応します。例えば、2022年12月に承認を得た医療機器(極細内視鏡)は、製品開発から非臨床試験の実施、臨床試験(研究を実施している医師が自ら行う医師主導治験)の終了まで複数の大学と共同で開発を進め、当社が得た成績で承認申請が行われました。また、血液がんの一種である慢性骨髄性白血病の治療薬は承認申請に必要な最後の臨床試験である第Ⅲ相試験を実施中で、悪性黒色腫においても第Ⅲ相試験を準備しております。今後も希少疾患では第Ⅲ相試験まで自社で実施したいと考えています。

当社は、基礎研究から臨床試験まで広く研究を実施している医師(physician-scientistという)との共同研究を重視しています。基礎研究分野で共同研究を行っている多くの研究者は医師でもあり、自ら治験調整医師(治験責任者)として医師主導治験を実施することが可能です。基礎研究と臨床研究を実施する研究者が同じである場合が多いので、基礎研究から医師主導治験まで一気通貫で実施、効率的な開発ができます。当社の治験は基本的に医師主導治験で実施します。

これまでの製薬企業や創薬ベンチャーの多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程の積み上げ)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。しかし、医薬品のように成功確率が極めて低く、開発期間が長く、投資が大きな分野では研究開発及び事業リスクが大きいため、多くのパイプラインを組み合わせたポートフォリオを形成し、リスク分散をすることが不可欠です。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くはパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成するという既存の枠組みでの開発ができますが、ベンチャーのように資金が潤沢でない場合は、なかなか難しいのが現状です。当社は外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティを展開し、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみにこだわるのではなく、むしろ外部資源や外部環境の積極的活用に注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えています。当社は、大学や様々な異業種企業との連携や協業を基にオープンイノベーションを推進し、効率的な開発を実施します。

 

(人材育成方針や社内環境整備方針について)

当社は創業時以来、企業の最大の資源は人であり、既存の価値観にとらわれず自ら考え行動できる人材を育成することは企業の成長・発展の礎となるとともに社会を活性化するとの基本的な考え方に立ち、「社員が自ら長期的な視野で考え行動すること」「多様性を尊重し、相互に影響し成長し合うこと」「立場や状況に捉われず積極的に意見を述べ参加すること」「迅速かつ効率的に情報発信と情報共有に努めること」を重視し、社内人材の育成及び社内環境整備を推し進めています。

① コアとなる社員の育成

将来、当社を牽引する人材の育成と、社員各人が当社の掲げる経営方針を理解しその意思を周囲の社員と共有できるよう、経営者はコアとなる社員と直接意見を交わす機会を頻繁に設け、情報を共有しています。多くの社員が重要な会議を含めた経営者の意思に触れられることは少数体制であることの利点であり、社員自身も自分の成長が会社の成長・維持に不可欠であると自覚し、ともに成長ができる体制となっています。更に、大学など外部環境(例えば東北大学とのオープンイノベーション拠点であるTREx)に若手社員のみならず執行役員も積極的に参画しており、異分野共同研究、学際研究、橋渡し研究など社内では育成が難しい教育にも積極的に取り組んでいます。

 

② 多様な人材の採用

当社は広くモダリティ(医薬品、医療機器など治療の様式)の開発に取り組んでいるため、専門性を有する多様な人材の招聘が会社の成長に不可欠です。社員がそれぞれの分野で身に着けた専門的な知識や経験を共有し合うことで、社員自身のキャリア形成を実現しつつ相互に成長・発展することができると考えます。幅広い人材を採用し、意欲溢れる優秀な人材には経歴、年齢、性別を問わず機会とポジションを提供する方針です。

 

③ 効率的な業務のための環境整備

当社では、正規雇用者を対象にフレックスタイムを導入しています。また、COVID-19の拡大以前からリモートワーク制度を導入しており、場所、時間によらない多様な働き方ができる環境を整備し、ライフスタイルや勤務場所が変わっても効率的、持続的に勤務できる体制を採っています。

また、東北大学にTREx(Tohoku University x Renascience Open innovation Labo)、広島大学にHiREx(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo)を、それぞれ2022年1月と2023年4月に開設し、最先端の科学技術成果の活用の「場」、医師や研究者とのFace to Faceの交流の「場」、医療産業企業とのオープンイノベーションの「場」として、社員が直接最先端の研究や医療分野に触れられる効率的で価値のある情報収集の環境を作っています。TRExでは、既に、1)東北大学大学院医学系研究科の研究者、東北大学病院の医師、東北大学メディシナルハブに参画する企業、行政など異業種との連携が加速され、2)既存の開発パイプラインの研究推進と複数の新規シーズの導入ができ、3)医師主導治験の実施、医療データの取得、公的資金獲得、許認可戦略の立案などを効率的、迅速に対応できており、4)人材の育成と確保にもつなげられています。

 

④ 社内教育制度

社内教育は、OJTを基本とし、業務に直接関わりのある上司や先輩はもとより、部署の垣根なく必要な知識やスキルを共有し、社員全体が効率的にスキルアップできる環境となっています。また、自由で発展的な考えを尊重しつつ、企業の存続に影響を及ぼすような重大な事象が起きないよう、コンプライアンスやリスクに関する研修を、新規採用時には必ず実施し、また定期的な研修を開催しています。

当社は、公的資金や外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用することで、効率的かつ迅速な研究開発を心がけており、大学など外部環境(例えば東北大学とのオープンイノベーション拠点であるTREx)に社員が積極的に参画しています。現在の社員の半数以上はこのような外部環境で研究開発に取り組んでおり、多様な環境ならではの経験と教育や啓発が可能となります。

 

⑤ 社内人事評価制度

当社では、年齢や性別に関わらず、事業の拡大に貢献できる人材や意欲溢れる優秀な人材を積極的に評価し、管理職や執行役員に採用する方針です。人事考課は、毎年度3月に実施され、直接の上長及び部門長により所属社員の能力や取組について評定が行われ、面談により改善点を話し合うなど社内での意思疎通を図っています。人事考課は、当社と従業員の目標達成に対するベクトルの一致を図ることを主眼とし、ひいては適切な人員配置の実現による当社全体の業務の最適化を目指します。

 

(3) リスク管理

当社が抱える多くのリスクは研究開発に起因します(治験成否、開発費用の拡大、導出、製造物責任、知的財産、情報管理、治験薬副作用、研究人材確保など)。そこで、研究開発の状況を管理部を含めた社内全員が遅延なく把握し、情報共有とリスクの早期把握、また問題が発生あるいは想定される場合には、迅速に対応することが重要です。そこで、週1回毎朝1時間程度「研究開発会議」として、管理部を含めた社員が参加する会議を継続的に実施しています。取締役会(月1回開催)や経営会議(月1回開催)とは違い、社員の意見を広く取り入れることが可能となり、情報共有と問題の把握、解決に大きく貢献しています。このような地道な取り組みは、コーポレート・ガバナンスへの意識を高める上でも有効です。取締役会や経営会議、またコンプライアンス委員会では当然のことながらサステナビリティを含むリスクについて定期的に報告と適切な議論を行っています。

 

(4)指標及び目標

当社は、持続可能な社会の実現に向けての開発目標(SDGs)の中で、特に「全ての人に健康と福祉を」に対しては必ず貢献できると考えます。当社は、高齢化や少子化(女性・小児)の疾患といった医学的また社会的に重要な課題解決を図っており、当社の研究開発を推進することが持続可能な社会の実現につながります。世界保健機関(WHO)では、高齢化や生活習慣に伴う重要な疾患(老化関連疾患)を「非感染性疾患(NCDs)」として位置付け、がん・糖尿病・呼吸器疾患・循環器疾患の4つの疾患が対象となっています。2023年の新興国を含めた全世界の死亡者の74%がこれら疾患で亡くなっています。当社の開発品目は、これら4疾患を全て対象としております。また、少子化問題も重要な社会的課題ですが、少子化問題に注力している製薬企業は多くはありません。当社は、女性に特有の疾患や小児の疾患の医療課題にも注力しています。フェムテック[生理や出産、不妊、更年期など女性特有の健康課題を支援するテクノロジー(医薬品、プログラム医療機器)]活動を行政(仙台市)と協力して支援し、女性の健康や生活に関わる医療課題(月経困難症、更年期障害、月経前気分不快障害)を解決し、生活や仕事のうえで女性が自分らしく生きることの実現に貢献します。

 

(人材の育成及び社内環境整備に関する方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績、指標及び目標について)

① 採用指針

当社は、公的資金や外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用することで、効率的かつ迅速な研究開発を心がけています。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理が異なります。少ない人的リソースや経費で多くの開発パイプラインを広げ、モダリティを展開し、成果も出つつあります。自己資源や社内環境のみにこだわるのではなく、むしろ外部リソースや外部環境の積極的活用に注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築しており、大学や様々な異業種企業との連携や協業を基にオープンイノベーションを推進し、効率的な開発を実施しています。当社を取り巻く外部環境(例えば、東北大学や広島大学とのオープンイノベーション拠点であるTRExやHiREx)に優秀な人材が集結するため、必ずしも当社に多くの人材を抱える必要はありません。一方で、当社が取り組む医療分野(医薬品、プログラム医療機器)は、国内外バイオベンチャーや製薬企業との競争が激しく、より一層の研究開発の加速と競合他社との差別化が必要になります。そのため、創造的かつ独創的な研究活動を推進し、会社の経営を支える優秀な人材の獲得は、当社の重要な経営課題でもあります。そこで、年齢や性別に関わらず、事業の拡大に貢献できる人材や意欲溢れる優秀な人材については積極的に採用する予定です。

 

② 女性活躍推進等

当社は、設立当初から年齢や性別に関わらず採用し、個人の希望や能力に応じて役職や業務内容を判断する経営方針を取ってきました。当期は従業員の入れ替わりにより女性従業員比率は30.8%となりましたが、継続して女性従業員比率30%超を達成しており、積極的に女性が活躍できる環境づくりを行っております。また、2024年6月の株主総会には女性の社外取締役を選任するなど、経営に関しても積極的に女性の意見を取り入れていきたいと考えております。

今後も、会社の重要な業務に女性を抜擢し、経営にも参画する機会を提供し、女性管理職や役員の採用を目指し、女性が活躍できる機会の提供に心がけます。また、将来的には外国人などその他のダイバーシティにも配慮した経営を行いたいと考えます。

 

[女性の状況]

 

男性

(人)

女性

(人)

女性比率

(%)

2023年

54.5

2024年

30.8

 

※両年とも4月30日時点

※人数には、執行役員、正規雇用者のほか臨時従業員(嘱託社員、パートタイマー)を含む。

 

 

3 【事業等のリスク】

当社の事業展開その他に関するリスク要因となる可能性があると考えられる主な事項を以下に記載しております。なお、当社として必ずしも重要なリスクと考えていない事項及び具体化する可能性が必ずしも高くないと想定される事項についても、投資判断や当社の事業活動を理解する上で重要と考えられる事項については、投資家に対する積極的な情報開示の観点から開示しております。当社は、これらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針でありますが、リスクの発生を全て回避できる保証はありません。また、以下の記載内容は当社のリスク全てを網羅するものではありません。

当社は、医薬品等の開発を行っていますが、医薬品等の開発には長い年月と多額の研究費用を要し、各パイプラインの開発が必ずしも成功するとは限りません。特に研究開発段階のパイプラインを有する製品開発型バイオベンチャー企業は、事業のステージや状況によっては、一般投資者の投資対象として供するには相対的にリスクが高いと考えられており、当社への投資はこれに該当します。

また、本項記載の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであり、不確実性を内包しているため、実際の結果とは異なる可能性があります。

 

(1) 医薬品、医療機器及びプログラム医療機器開発の事業全般に係るリスクについて

当社は、研究の初期段階の探索的研究から承認申請に必要な試験(医薬品の場合は第Ⅲ相臨床試験、プログラム医療機器の場合は臨床性能試験)に至るまで、幅広い段階の医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発経験を有しておりますが、研究の初期段階から医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の製造販売の段階に至るまでには、数多くの課題・項目をクリアし、規制当局からの承認及び認可の取得を要し、薬事規制等の法的な規制にも対応していく必要があります。そのため、長期間に及ぶ研究開発体制を維持するために多額の資金を必要とします。また、新規の医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発市場は、国内外を問わないことから、資金力の豊富な国際的な製薬企業、医療機器会社等や、国内においても多くの企業・研究開発機関と競合しております。

① 収益の不確実性について

当社の主たる事業は、医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の候補の有効性及び安全性を評価するための初期段階の研究開発(探索的研究、非臨床試験、初期臨床試験等)から承認申請に必要な試験(医薬品の場合は第Ⅲ相臨床試験、プログラム医療機器の場合は臨床性能試験)までをアカデミアや研究機関との共同研究及び医師主導治験などの創薬エコシステムを活用して行い、その後、製薬企業、医療機器会社等に対して当社が有する医薬品・医療機器・プログラム医療機器の候補の開発製造販売に係る知的財産権の使用実施許諾(ライセンスアウト)を行い、当該製薬企業、医療機器会社等からライセンス収入を得るものです。

ライセンス収入の形態は、ライセンス契約締結時に発生する契約一時金、開発進捗に伴って発生するマイルストーン収入(臨床試験の開始や終了時又は製造販売承認申請時等の予め定めた開発の節目(マイルストーン)ごとに支払われる収入)、上市後において導出先である製薬会社、医療機器会社等が行う医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の販売に対するロイヤリティ収入等があります。

ライセンス契約の締結は、製薬企業、医療機器会社等から、それまでの研究開発で得られた医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の候補の有効性及び安全性、並びに予想される対象患者数や保険償還価格、特許存続期間等の事業性に関して一定の評価を獲得する必要があります。したがって、製薬企業、医療機器会社等から研究開発成果に対する評価が得られない可能性、研究開発の遅延により想定どおりのタイミングで評価されない可能性、想定どおりの評価が得られず、契約一時金をはじめ上記の各種収入を当社の想定する規模の金額で契約できない可能性、当社が想定するタイミングでライセンス契約を締結できない可能性又はライセンス契約に至らない可能性があります。

また、導出後も次の開発段階に進むために必要な臨床試験成績等が得られない可能性、開発途中で競合する医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の上市、疾病の治療法そのものの変化のほか、特許係争の発生等で事業性が大きく毀損されたと導出先製薬企業、医療機器会社等が判断する場合は、開発スケジュールが遅延する可能性やライセンス契約解消に至る可能性があります。

更に上市に至った場合においても、保険償還価格が当初の想定を大きく下回ることや、市場環境等の状況が当初の想定より悪化する可能性がありますが、このような場合には、当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。

マイルストーン収入及びロイヤリティ収入の発生については、導出先製薬企業、医療機器会社等の研究開発の進捗及び医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の発売・販売の状況等に依存するものであることから、営業収益として計上されるまでに長期間を要する可能性があり、また、マイルストーンを達成できない場合、これらの営業収益が計上されない可能性があります。

更に契約一時金収入、マイルストーン収入は継続的な収入ではなく、医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発に係る一定の条件の達成等を前提として一時的に発生する収入であることから、当該収入の計上時期により、年度決算・四半期決算の売上高・利益等が非連続的に偏重する可能性、年度決算比較・四半期決算比較の売上高・利益等において大幅な変動・乖離が生じる可能性があります。

また、上記の収入の計上時期が想定から遅れた場合、決算短信で公表した業績予想が大幅に変更される可能性があります。

当該リスクへの対応については、パイプラインプロジェクトの数を増やすとともに、複数の医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発等経験者及びビジネスディベロプメント経験者を社内外に確保するよう努めております。また、研究開発の開始時から開発の体制・期間・資金、知財、薬事などロードマップを明確にして取り組んでいますが、特に出口の戦略を重視しています。研究開発の初期から導出候補企業と導出条件などを協議しながら、なるべく出口の方針が定まった後に開発を実施しています。更に、自社シーズを、オープンリソースとして外部研究者に提供し研究いただくことで新たな医療用途を発見し、この中から科学性、医学性、経済性(事業性)の観点から取捨選択し医師主導治験につなげることで、自社シーズの価値向上に努めています。

 

② 医薬品、医療機器及びプログラム医療機器開発の不確実性について

当社が開発している医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の候補が上市に至るまでには、有効性及び安全性の評価に関する数多くの探索及び検証並びに規制当局からの承認が必要とされます。研究開発の各段階において、次の段階へ進むか否かの判断は、導出前であれば当社が、導出後であれば導出先製薬企業、医療機器会社等が行いますが、有効性及び安全性に良い評価が得られなかった場合、外部環境の変更等で事業性の喪失が懸念された場合などには、次の研究開発段階への進行が遅れる可能性、研究開発自体を中止・終了せざるを得ない状況になる可能性があります。

研究開発が遅れた場合や追加試験が必要となる場合には、計画外の追加資金が必要となり、追加資金確保のために新たな資金調達が必要となる可能性があり、また、その資金調達の実現自体にも不確実性があります。更に、ライセンス契約の存続期間は、特許権の存続・有効期間が終了するまでの期間とされることもあり、その場合ライセンス契約中にマイルストーンが達成できず、当初想定した投資回収額を回収できないリスクがあります。

研究開発を中止・終了せざるを得ない状況になった場合又は研究開発を終えて製造販売に関する承認申請を規制当局に行っても規制当局から承認されなかった場合には、当初想定していた投資回収額を回収できないリスクがあります。これらの事象が発生した場合、当社のような規模においては影響が大きく、当社の事業、業績や財務状況等に甚大な影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクへの対応については、医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発の不確実性を低減するために、試験の設計及び実施においては、外部の開発ターゲットの疾患領域に精通する医師(キー・オピニオン・リーダー)、非臨床試験・臨床試験・CMC(Chemistry, Manufacturing and Control:原薬及び製剤の開発)・薬事それぞれに精通する外部専門家(コンサルタント)及び規制当局との事前相談を通じた情報収集に基づき試験の立案と実施を行っております。

 

③ 法的規制等に係る不確実性について

当社が携わる研究開発領域は、研究開発を実施する国ごとに薬事に係る法律、保険償還制度及び医療保険制度並びにその他の関係法規・法令による規制が存在します。

非臨床試験においては、医薬品等の安全性試験の実施に関する基準であるGLP(Good Laboratory Practice)、原薬等の治験薬の製造においては、医薬品の製造管理及び品質管理に関する基準であるGMP(Good Manufacturing Practice)に準ずる治験薬GMP、そして臨床試験においては、医薬品等の臨床試験の実施に関する基準であるGCP(Good Clinical Practice)を確実に実施していることが研究開発上必須条件となっており、製造販売の段階においては、販売を行う各国で定められている薬事関連法規・法令に従った承認・認可・許可を得る必要があります。

当社の事業計画・研究開発計画は、現行の薬事関連法規・法令や規制当局の承認・認可の基準を遵守した治験実施計画を基に作成しておりますが、これらの法律・法令及び基準は技術の発展、市場の動向などにより適宜改定されます。

医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発・販売等事業は、年単位の長期間にわたる事業であり、その間にこれらの法律・法令・基準等が大きく改定される可能性、これら法令等が変更される可能性があります。これにより既存の研究開発の体制(組織的な体制、製造方法、開発手法、臨床試験の進め方、追加試験を行う必要性の発生など)の変更が必要となる場合、その体制の変更に速やかに対処できず研究開発が遅延・中止となるリスク、人員確保や設備投資に計画外の追加資金の確保が必要となるリスク等があり、当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクへの対応については、治験の実施や計画立案の前に、可能な限り医薬品医療機器総合機構(PMDA)などの事前相談を活用して、適切な助言を受けるよう心がけています。

 

④ 競合について

当社が携わる研究開発領域は、急激な市場規模の拡大が見込まれており、欧米を中心にベンチャー企業を含む多くの企業が参入する可能性があります。

競合他社の有する医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の候補の研究開発が当社と同じ疾患領域で先行した場合、当社の事業の優位性は低下する可能性があります。競合他社による医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の登場により当社の臨床試験において被験者の登録が停滞し臨床試験が遅延する可能性、目標被験者数に届かず臨床試験が中止となる可能性があります。また、この場合、当社事業において想定以上の資金が必要となる可能性があり、当社の事業戦略や経営成績等に甚大な影響を及ぼす可能性があります。

更に、競合する医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の開発が先行し又は競合品が上市されたことにより、当社の医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の候補の事業性が大きく毀損されたと導出先製薬企業、医療機器会社等が判断する場合は、開発スケジュールが遅延する可能性や、ライセンス契約解消に至る可能性があります。上市に至った場合においても、他社が同様の効果や、より安全性のある製品を販売した場合など、期待された売上が達成できず、想定したロイヤリティが得られない等により、当社の事業、業績や財務状況等に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクへの対応については、①パイプラインプロジェクトを増やし、リスクの軽減を図り、②プロジェクトごとの開発計画を戦略的に策定し、経営会議などで計画を審議することで競合の少ない適応症パイプラインの獲得を図るように努めております。

 

(2) 事業体制について

① 小規模組織及び少数の事業推進者への依存

当社は、本書提出日現在、取締役5名(非常勤取締役2名を含む。)、執行役員2名、従業員1名及び臨時雇用者7名の小規模組織であり、現在の内部管理体制はこのような組織規模に応じたものとなっています。今後、業容拡大に応じて内部管理体制の拡充を図る方針であります。

また、当社の事業活動は、事業を推進する各部門の責任者及び少数の研究開発人員に強く依存するところがあります。そのため、優秀な人材の育成に努めておりますが、人員確保及び育成が順調に進まない場合、並びに人材の流出が生じた場合には、当社の事業活動に支障が生じ、当社の業績及び財務状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクへの対応については、①経営理念、経営戦略を随時社内に浸透させ、やりがいのある会社風土を醸成し、②HP改修、公的資金の獲得等による知名度向上により新規採用を図るように努めております。

 

② 特定人物への依存

当社はこれまで、創業者であり、多くの社有特許の発明者でもある国立大学法人東北大学大学院医学系研究科の宮田敏男教授(現 当社取締役会長)を中心として、基礎研究をはじめとする事業を推進して参りました(宮田敏男教授は、PAI-1阻害薬物質特許、用途特許及び用法用量特許、ピリドキサミン用途特許及び物質特許、糖尿病治療支援プログラム医療機器の特許並びに維持血液透析医療支援プログラム医療機器の特許の発明者)。当社設立の発端は、同氏の研究成果の事業化を目的とするものであり、当社の研究開発活動において重要な位置付けを有しており、その依存度は極めて高いと考えております。

当社は、今後も取締役会長としての同氏の会社経営の執行が必要不可欠であると考えており、何らかの理由により同氏の会社経営の執行が困難となった場合等には、当社の事業等に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 情報管理について

当社は、情報管理について、情報セキュリティ管理規程、個人情報取扱要領、特定個人情報取扱要領、情報セキュリティ・マニュアルに沿って情報セキュリティ管理担当責任者が中心となって運用を行っておりますが、当社の研究又は開発途上の治験、技術、ノウハウ等、重要な機密情報が流出した場合には当社の事業戦略及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。このリスクを低減するため、当社は役職員、取引先との間で、守秘義務契約等を定めた契約を締結しております。また、重要な機密情報を含む社内クラウドサーバーへは必要最低限の役職員のみしかアクセスできない様にするなど、厳重な情報管理に努めております。

しかし、役職員、取引先等により、これらが遵守されなかった場合には、重要な機密情報が漏えいする可能性があり、このような場合には当社の事業に影響を与える可能性があります。

 

(3) 知的財産権について

① 当社が保有する知的財産権について

当社は研究開発活動において様々な特許等の知的財産権を保有しております。しかし、当社の研究開発を超える優れた研究開発が他社によってなされた場合や、当社の出願した特許申請が成立しないような場合にも、当社の事業戦略や経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクへの対応については、①競合品の開発状況を随時把握し、プロジェクトの優先順位付けを行い、②パイプラインを増やし、リスクの軽減を図るように努めております。

 

② 知的財産に関する訴訟及びクレーム等の対応に係るリスクについて

当事業年度末において、当社の事業に関連した特許等の知的財産権に関して、第三者との間で訴訟やクレームといった問題が発生したという事実はありません。当社は現在、早期の特許出願を優先する方針をとっており、特許出願後において事業展開上の重要性等を考慮しつつ必要な調査等の対応を実施しておりますので、本書提出日現時点においては他社が保有する特許等への抵触により、事業に重大な支障を及ぼす可能性は低いものと認識しております。もとより、当社のような研究開発型企業において、この様な知的財産権侵害問題の発生を完全に回避することは困難であります。

今後において、当社が第三者との間で法的紛争に巻き込まれた場合には、弁護士や弁理士との協議のうえ、その内容に応じて対応策を講じていく方針でありますが、法的紛争の解決に多大な労力、時間及び費用を要する可能性があり、その場合当社の事業戦略や経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクへの対応については、顧問弁護士及び特許事務所と連携し訴訟及びクレーム等に迅速に対応する体制としております。

 

③ 職務発明に係る社内対応について

2005年4月1日に施行された特許法の法改正に伴い、職務発明の取扱いにおいて、労使間の協議による納得性、基準の明示性、当事者の運用の納得性が重視されることとなりました。これを受けて、当社では経営陣と研究開発部門とが協議のうえ、発明考案取扱規程を作成し運用しております。しかし、将来係る対価の相当性につき紛争が発生した場合には、当社の事業戦略や経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) 製造並びに安定供給に関するリスクについて

当社の外部委託先である製造施設等において、技術的・規制上の問題若しくは自然災害・火災などの要因により生産活動の停滞・遅滞若しくは操業停止などが起こった場合、当社の事業に影響を及ぼす可能性があります。

当該リスクへの対応について、現在、当社の医薬品パイプラインは低分子化合物かつ製造施設は容易に代替可能であり、原薬及び治験薬製剤製造委託候補施設を複数確保するように努めております。

 

(5) 業績等に関する事項

① マイナスの繰越利益剰余金を計上していることについて

当社は研究開発型企業であり、ロイヤリティ収入が得られるようになるまでは営業収益が安定せず多額の研究開発費用が先行して計上されることとなります。そのため、第18期(2017年3月期)から第25期(2024年3月期)まで連続して当期純損失を計上したことにより、第25期末においてマイナスの繰越利益剰余金を計上しております。

当社は、将来の利益拡大を目指しておりますが、将来において計画どおりに当期純利益を計上できない可能性があります。また、当社の事業が計画どおりに進展せず当期純利益を獲得できない場合には、マイナスの繰越利益剰余金がプラスとなる時期が遅れる可能性があります。

 

② 資金繰りについて

当社は、研究開発型企業として、医薬品、医療機器及びプログラム医療機器の臨床試験を実施する開発パイプラインの拡充や積極的な研究活動等により、多額の研究開発費が必要となっております。一方で、特に医薬品の開発期間は基礎研究から上市まで通常10年以上の長期間に及ぶものでもあり、収益に先行して研究開発費が発生しているなどにより、継続的に営業損失及びマイナスの営業キャッシュ・フローが生じております。今後も事業の進捗に伴って運転資金、研究開発投資等の資金需要の増加が予想され、収益確保又は資金調達、資金繰りの状況によっては、当社の事業活動等に重大な影響を与える可能性があります。

当該リスクへの対応については、営業キャッシュ・フローの早期黒字化に加え、金融機関との取引実績を積み重ねること等により、安定した資金調達を行えるようにします。

 

③ 税務上の繰越欠損金について

本書提出日現在において、当社は税務上の繰越欠損金を有しております。しかし、繰越欠損金の繰越期間内に、繰越欠損金の全て又は一部を利用するために十分な課税所得を当社が得られるという保証はありません。また、当社の業績が順調に推移する結果、繰越欠損金が解消され課税所得控除が受けられなくなった場合、通常の税率に基づく法人税、住民税及び事業税が課せられることとなり、現在想定している当期純利益及びキャッシュ・フローの計画に影響を与える可能性があります。

 

(6) 為替変動リスク

当社は、海外企業とライセンス契約を締結しており、主に外貨建での決済が行われておりますが、当社においては特段の為替リスクヘッジは行っておりません。そのため、想定以上に為替相場の変動が生じた場合には、当社の業績はその影響を受ける可能性があります。

 

(7) 調達資金の使途について

2021年9月の株式上場時の公募増資等により調達した公募増資資金の使途については、引き続き主に研究開発費に充当する計画でありますが、当初想定よりも公的資金の獲得が順調に進んでいるため、2024年5月9日に支払予定時期及び資金使途の内容並びに充当金額の変更を行いました。今後も、資金需要の発生時期及びその規模については大幅に変更される可能性があり、当社の事業展開、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。調達資金の使途を変更した場合には直ちに開示する予定です。

 

(8) 大株主について

当社の取締役会長である宮田敏男及び二親等内の親族の実質議決権所有割合は、当事業年度末日現在で48.46%です。同株主等は、安定株主として引続き一定の議決権を保有し、その議決権行使にあたっては、株主共同の利益を追求するとともに、少数株主の利益にも配慮する方針です。やむを得ない事情により、大株主である同株主等の持分比率が低下する場合には、当社株式の市場価格及び議決権行使の状況等に影響を及ぼす可能性があります。

 

(9) ベンチャーキャピタル等の当社株式保有比率

当事業年度末における当社の発行済株式のうち、ベンチャーキャピタル(VC)が組成した投資事業有限責任組合が所有している株式の所有割合は11.49%であります。一般に、VCが未公開株式に投資を行う目的は、株式上場後の当該株式を売約してキャピタルゲインを得ることであり、VCは当社の株式上場後に、それまで保有していた株式の一部又は全部を売却することが想定されます。なお、当該株式売却によっては、短期的な需給バランスの悪化が生じる可能性があり、当社株式の市場価格が低下する可能性があります。

 

 (10) 自然災害等の発生について

自然災害、事故、重大な感染症の流行等が発生した場合には、リスクマネジメント規程に基づいてリスク低減の措置を講じます。しかし、事業所周辺においてあるいは世界的に大規模な自然災害等が発生した場合には当社の設備等に大きな被害を受け研究開発が遅延する可能性があり、また感染症の流行等が発生した場合には事業所の一時閉鎖等の事態により研究開発が遅延する可能性があり、その結果、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当社の経営成績、財政状態、キャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)及び研究開発活動の概要は、次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものです。

 

① 経営成績の概要

当社は、医療現場の課題を解決するために、多様なモダリティ(医薬品、医療機器、AIを活用したプログラム医療機器)を医師/研究者とともに医療現場で研究開発しています。医薬品事業は、研究開発費や研究開発期間が比較的大きく事業リスクが高い分野ですが、上市後には極めて高い収益が期待できる事業です。一方、医療機器やプログラム医療機器パイプラインの事業収益は医薬品と比べると小さいですが、研究開発費や研究開発期間のリスクは小さく、早期に当社収益につながります。当社は、これら2つの事業ポートフォリオを、同時に複数のパイプラインを進めることにより、リスクを分散しながら早期の黒字化と将来の収益の拡大を目指します。

これまでの製薬企業や創薬ベンチャーの多くはパイプラインのバリューチェーン(開発の全ての工程の積み上げ)を自社で全て構築し、事業価値を高めることに注力してきました。大手製薬企業は潤沢な資金を背景に、多くのパイプラインのバリューチェーンを自社独自で形成するという既存の枠組みでの開発ができますが、ベンチャーのように資金が潤沢でない場合は、なかなか難しいのが現状です。当社は、公的資金や外部機関(研究機関、医療機関)のリソースを活用してコストを抑えるなど、効率の高い開発を実践してきました。外部機関とのアライアンスをもとに多くのバリューチェーン構築を考えており、既存ベンチャーとは戦略、研究開発、人的資源管理などが異なります。少ない人的リソースや経費で多くのパイプラインを広げ、モダリティを展開し、成果も出つつあります。自社資源や社内環境のみにこだわるのではなく、むしろ外部リソースや外部環境の積極的活用に注力し、効率的にイノベーションを創出する枠組みを構築していきたいと考えています。当社は、大学や様々な異業種企業との連携や協業を基にオープンイノベーションを推進し、効率的な開発を実施しています。

当社は、COVID-19が蔓延し世界的にも大きな医学及び社会の課題として認識されていた2021年9月24日に東京証券取引所マザーズ市場に上場いたしました。上場後約2年半経過しましたが、第Ⅲ相試験のパイプラインを2本有するなど研究開発は予定どおり順調に進展しています。当該事業年度においても、東北大学メディシナルハブに設置したオープンイノベーション拠点(Tohoku University x Renascience Open innovation Labo:TREx)及び広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を活用することにより、これら多様なモダリティの効率的な研究開発を実施し、また新たな研究開発パイプラインも拡大しています。当事業年度の医薬品、医療機器及びAIを活用したプログラム医療機器の進捗並びに特に注力しているパイプラインを下記に記載します。

 

(研究開発活動の実績)

a. 医薬品

特に、PAI-1阻害薬RS5614のがん領域及び呼吸器疾患領域での臨床開発に注力しています。

(がん)

   - 慢性骨髄性白血病(CML、第Ⅲ相):2022年3月に国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「革新的がん医療実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて第Ⅲ相試験(医師主導治験)を開始しました。2023年12月末で症例登録を終了し、最終的に解析に必要な症例数を上回る57例が登録されました。

 - 悪性黒色腫(第Ⅱ相終了):2021年5月にAMED「橋渡し研究プログラムシーズC(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され、同年7月に第Ⅱ相試験(医師主導治験)を開始しました。2022年6月に目標の半数の登録を達成し中間解析を実施し、2023年3月末時点で目標症例数40例全例の患者登録が完了しました。外科的切除が難しく、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが無効な悪性黒色腫患者に対して、ニボルマブとPAI-1阻害薬RS5614を8週間併用することにより、既承認の治療であるニボルマブとイピリムマブ併用以上の奏効率が得られました。また、実臨床で問題となっているニボルマブとイピリムマブ併用による重篤な副作用は、ニボルマブとRS5614の併用では見られず、安全性が確認されました。また、2024年3月に悪性黒色腫治療薬を希少疾患用医薬品指定制度に申請しました。

 - その他:上記2つの疾患での治験が順調に進んでいることから、新たながん領域の適応症で臨床開発を展開することを決定しました。具体的には、2022年10月に広島大学と非小細胞肺がんに関する共同研究契約を締結しました。その後研究段階が非臨床試験から臨床試験(医師主導治験)に移行したため、2023年4月には「広島大学レナサイエンスオープンイノベーションラボ(HiREx)」を開設し、2023年9月から非小細胞肺がんの第Ⅱ相試験、2023年10月から皮膚血管肉腫の第Ⅱ相試験(いずれも医師主導治験)を開始しました。また、当社のがん治療薬の取材記事が、2023年9月に科学誌『Nature』に掲載されました。

 

(呼吸器)

 - COVID-19に伴う肺傷害(後期第Ⅱ相終了):2021年6月からAMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて後期第Ⅱ相試験(医師主導治験)を開始しました。2022年10月に患者登録を完了し、2023年4月に治験総括報告書が纏められました。本後期第Ⅱ相試験はオミクロン株の変異等により対象となる新型コロナウイルス肺炎患者(中等症、入院患者)数が減少し、目標より少ない症例数で治験を終了しましたが、特に早期治療におけるRS5614の有効性を示唆する結果を得ることができました。また、2022年11月に第一三共株式会社と、抗がん剤治療等から生じる間質性肺炎に対するRS5614の有効性を確認する臨床試験も視野に入れ、オプション契約の期間を延長し契約一時金を受領しました。前期及び後期第Ⅱ相医師主導治験の成績は、2024年1月に科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。

 - 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(第Ⅱ相試験):2023年3月にAMED「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けて、2023年10月から第Ⅱ相試験(医師主導治験)を開始しました。

- 特発性間質性肺炎(非臨床試験):RS5614が間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症)を改善することを示唆する非臨床試験の成績に基づき、特発性間質性肺炎の急性増悪を対象とした臨床開発を視野に入れ、2022年12月に京都大学と共同研究契約を締結しました。肺障害領域での研究開発を展開するために、2023年6月に京都大学及び第一三共株式会社と当社の3者での共同研究契約を締結しました。

 

b. 医療機器

 - ディスポーザブル極細内視鏡(薬事承認済):2022年8月にはファイバースコープがPMDAに承認申請され、同年12月に厚生労働省から薬事承認されました。2022年9月に株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと付属品であるガイドカテーテル作成を含めた医療機器開発に関する共同研究契約を締結しました。2024年5月、株式会社ハイレックスメディカルとライセンス契約を締結し、ガイドカテーテルとファイバースコープを合わせて2024年度後半~2025年度に薬事申請する予定です。

 

c. AIを活用したプログラム医療機器

特に、呼吸機能検査診断、維持血液透析医療支援、糖尿病治療支援、嚥下機能低下診断の領域におけるプログラム医療機器(SaMD)開発に注力しています。また、当社は、2024年度から国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)(代表機関:東北大学)に参画し、災害医療を支援するためのAIを活用した医療ソリューションに基づくデジタルツインモデルの開発を進めています。なお、当社のAIを活用したプログラム医療機器に関する取材記事が、2024年3月に科学誌『Nature』に掲載されました。

 - 呼吸機能検査診断SaMD(開発研究終了):京都大学、チェスト株式会社、NECソリューションイノベータ株式会社(NES)と共同開発を実施しています。2023年3月に開発段階の研究を完了し、同年6月にはチェスト株式会社より事業化段階への移行に関するマイルストーンを受領しました。

 - 維持血液透析医療支援SaMD(開発研究):聖路加国際大学、東北大学、ニプロ株式会社、日本電気株式会社(NEC)、NESと共同開発を実施しています。2023年2月にはAMED「医療機器開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は協力機関)」に採択されました。2023年4月にPMDA開発前相談を実施し、2024年1月にはPMDAプロトコール相談を完了しました。現在、実用化へ向けた臨床性能試験の準備を進めています。更に、血液透析における除水量や血流量の調整を制御する血液透析装置搭載型AIの開発に着手し、2023年12月に東レ・メディカル株式会社、2024年3月にニプロ株式会社と共同開発契約を締結しました。2022年10月に基本となる知的財産権を出願し、2023年5月に国際出願を行いました。また、2024年1月には新たな知財を追加出願しました。

 - 糖尿病治療支援SaMD(開発研究):東北大学、NEC、NESと共同開発を実施しており、2022年4月にAMED「医工連携イノベーション推進事業(開発・事業化事業)(当社が代表機関)」に採択されています。2022年12月にはPMDA開発前相談を終了し、臨床性能試験のための予備的な試験を実施しました。この予備試験の結果を基に2024年2月にPMDAプロトコール相談を実施し、臨床性能試験のプロトコールが確定しました。2024年度に試験を開始する予定です。また、2022年6月に基本となる知的財産権を出願し、2023年4月には国際出願を行いました。

 - 嚥下機能低下診断SaMD(開発研究):東北大学、NECと共同開発を実施しており、音声から嚥下機能の低下を診断するプログラム医療機器を開発しています。既に、健常者と嚥下機能低下患者の音声を区別できるAIが開発し、2023年3月に基本となる知的財産権を出願しました。更に、2023年12月にはPMDA開発前相談を実施しました。

 - その他SaMD:乳がん病理診断、心臓植込み型電気デバイス患者における不整脈・心不全発症予測、人工心臓患者における血栓発生予測などの新たなAIを活用したプログラム医療機器研究を開始しました。人工心臓患者における血栓発生予測では株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと共同研究を開始しました。

 

(事業収益に関する実績)

米国のEirion Therapeutics, Inc.(エイリオン社)とPAI-1阻害薬RS5441の皮膚科領域における独占的実施権を許諾するライセンス契約を締結しており、オプション権行使の対価を受領しました。

呼吸機能検査診断プログラム医療機器においては、チェスト株式会社と共同開発及び事業化に関する契約(ライセンス契約)を締結しており、事業化段階移行への合意の対価として一時金を受領しました。

血液透析装置搭載型AIにおいては、東レ・メディカル株式会社と共同開発契約を締結し、契約一時金を受領しました。

また、当社ではCML、悪性黒色腫、糖尿病治療支援SaMDに関するAMED採択プロジェクトにつき、研究開発主体として研究業務を受託しています。当事業年度は、当該受託研究業務が全て計画どおりに完了したことから、受託業務の対価を受託研究収入として計上しています。

 

以上の結果、当事業年度における事業収益は、皮膚疾患治療薬(RS5441)及び呼吸機能検査診断プログラム医療機器及び人工知能(AI)搭載型血液透析医療機器に係る一時金の受領に加え、AMED事業に係る受託研究収入の計上などにより194,165千円(前事業年度100,545千円)となりました。また、営業損失は、慢性骨髄性白血病(CML)治療薬や月経前症候群(PMS)及び月経前不快気分障害(PMDD)治療薬に加え、非小細胞肺がん治療薬及び皮膚血管肉腫治療薬等に係る研究開発費236,331千円を含む事業費用417,979千円を計上したことにより252,335千円(前事業年度営業損失333,870千円)、経常損失は、為替差益394千円を計上したことなどにより251,875千円(前事業年度経常損失333,839千円)、当期純損失は、減損損失4,502千円、法人税、住民税及び事業税1,957千円を計上したことにより258,335千円(前事業年度当期純損失335,797千円)となりました。

なお、当社の事業は単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。

 

② 財政状態の概況

(資産)

当事業年度末の流動資産は、前事業年度末の2,267,362千円と比べて180,888千円減少し、2,086,473千円となりました。これは主として研究開発費や人件費などの支払いにより、現金及び預金が185,586千円減少したことなどによるものです。

また、当事業年度末の固定資産は、前事業年度末の7,456千円と比べて5,096千円減少し、2,360千円となりました。これは主として減損損失の計上などによるものです。

この結果、資産合計は、前事業年度末の2,274,818千円と比べて185,984千円減少し、2,088,833千円となりました。

 

(負債)

当事業年度末の流動負債は、前事業年度末の100,158千円と比べて25,850千円増加し、126,008千円となりました。これは主として、研究開発費などに係る未払金が25,750千円増加したことなどによるものです。

また、当事業年度末の固定負債は、前事業年度末の309,600千円と比べて46,500千円増加し、356,100千円となりました。これは、AMED採択プロジェクトであるPMS/PMDD治療薬の開発に関し、研究開発費を長期借入金としてAMEDから借入れたものによるものです。

この結果、負債合計は、前事業年度末の409,758千円と比べて72,350千円増加し、482,109千円となりました。

 

(純資産)

当事業年度末の純資産は、前事業年度末の1,865,059千円と比べて258,335千円減少し、1,606,724千円となりました。これは当期純損失258,335千円を計上したことによるものです。

 

③ キャッシュ・フローの概況

当事業年度における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前事業年度末の1,831,780千円に比べ185,586千円減少し、1,646,193千円となりました。

当事業年度における各キャッシュ・フローの状況と主な変動要因は次のとおりです。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当事業年度の営業活動資金の支出額は230,519千円(前事業年度は284,641千円の支出)となりました。これは主として、税引前当期純損失256,377千円の計上などによるものです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当事業年度の投資活動資金の支出額は1,567千円(前事業年度は232千円の収入)となりました。これは、有形固定資産の取得による支出1,577千円を計上したことなどによるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当事業年度の財務活動資金の収入額は46,500千円(前事業年度は110,371千円の収入)となりました。これは、長期借入れによる収入46,500千円を計上したことによるものです。

 

④ 生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

当社は研究開発を主体としており生産活動を行っておりませんので、該当事項はありません。

 

b.受注実績

当社は研究開発を主体としており受注生産を行っておりませんので、該当事項はありません。

 

c.販売実績

当社の事業セグメントは医薬品等の開発・販売等事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の販売実績の記載はしておりません。前事業年度及び当事業年度における販売実績は、次のとおりであります。

 

金額(千円)

前年同期比(%)

事業収益

※1 194,165

193.1

 

(注)1.最近2事業年度における主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。

相手先

前事業年度

(自 2022年4月1日

  至 2023年3月31日)

当事業年度

(自 2023年4月1日

  至 2024年3月31日)

事業収益(千円)

割合(%)

事業収益(千円)

割合(%)

Eirion
Therapeutics, Inc.

83,499

43.0

国立研究開発法人

日本医療研究開発機構(AMED)

64,999

64.6

47,666

24.5

国立大学法人東北大学

39,000

20.1

ニプロ株式会社

20,000

19.9

 

2.売上高割合が10%未満の相手先については、記載を省略しております。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものです。

① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社の財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成されております。

財務諸表の作成にあたっては、一定の会計基準の範囲内で見積りが行われている部分があり、これらについては、過去の実績や現在の状況等を勘案し、合理的と考えられる見積り及び判断を行っております。ただし、これらには見積り特有の不確実性が伴うため、実際の結果と異なる場合があります。

なお、当社が財務諸表を作成するに当たり採用した重要な会計上の見積りは、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

 

② 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
a.財政状況

財政状況につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ② 財政状態の概況」に記載のとおりです。

 

b.経営成績

(事業収益)

当事業年度の事業収益は、194,165千円(前事業年度100,545千円)となりました。前事業年度は、維持血液透析医療支援プログラム医療機器及び糖尿病治療支援プログラム医療機器における契約一時金、ディスポーザブル極細内視鏡及び呼吸機能検査診断プログラム医療機器に係るマイルストーン収入、COVID-19に伴う肺傷害治療薬及び悪性黒色腫に係る受託研究収入などを計上した一方、当事業年度における事業収益は、皮膚疾患治療薬(RS5441)及び呼吸機能検査診断プログラム医療機器及び人工知能(AI)搭載型血液透析医療機器に係る一時金の受領に加え、AMED事業に係る受託研究収入を計上したことによるものです。

(事業原価、売上総利益)

当事業年度の事業原価は、28,521千円(前事業年度250千円)となりました。前事業年度は、COVID-19に伴う肺傷害治療薬に係るオプション料に係るレベニューシェア支払額を計上した一方、当事業年度は、悪性黒色腫における治験薬の製造にかかる費用を計上したことによるものです。

この結果、当事業年度の売上総利益は、165,643千円(前事業年度100,295千円)となりました。

(事業費用、営業損失)

当事業年度の事業費用は、417,979千円(前事業年度434,166千円)となりました。主な要因は、研究開発費が前事業年度に比べて1,087千円増加した一方、専門家への業務委託費が前事業年度に比べて10,061千円減少したことなど、全社的なコスト削減の効果によるものです。

この結果、当事業年度の営業損失は252,335千円(前事業年度333,870千円)となりました。

(営業外収益、営業外費用、経常損失)

当事業年度の営業外収益は、460千円(前事業年度31千円)となりました。主な要因は、為替差益394千円や雑収入40千円を計上したことなどによるものです。

当事業年度の営業外費用は、未発生(前事業年度未発生)となりました。

この結果、当事業年度の経常損失は251,875千円(前事業年度333,839千円)となりました。

(特別利益、特別損失、当期純損失)

当事業年度は特別損失として減損損失4,502千円を計上しております。これらの結果を受け、当事業年度の当期純損失は、258,335千円(前事業年度335,797千円)となりました。

 

c.キャッシュ・フローの状況の分析

キャッシュ・フローの状況につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ③ キャッシュ・フローの概況」に記載のとおりです。

 

d.資本の財源及び資金の流動性についての分析

当社は、創薬等のコンセプトやシーズの研究費及びパイプラインの製品化に向けた開発費並びに係る販売費及び一般管理費等の事業用費用について資金需要を有しております。当社は、主に公的機関の研究開発助成金や第三者割当増資により調達を行った手許資金により事業用費用に充当して参りましたが、現下では、金融機関の当座貸越枠を確保するなどしており流動性に支障はないものと考えております。中長期眼では、次世代の医療ソリューション開発を掲げ一層の事業拡大や係る投資を想定しており、第三者割当増資などによる財務基盤の増強が必要であると認識しております。

なお、現状の現金水準については、2021年9月の株式上場による資金調達や上記当座貸越枠も確保していることから、2年分の研究開発費は十分維持しております。

 

e.経営成績等の状況に関する認識

経営成績に重要な影響を及ぼす要因につきましては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりです。

 

5 【経営上の重要な契約等】

当社の経営上の重要な契約は次のとおりであります。

① 導出に関する契約

相手先の名称

国名

契約品目

契約
締結日

契約期間

契約内容

Eirion
 Therapeutics, Inc.

米国

License Agreement (ライセンス契約)

2016年
10月31日

契約締結日から国別・製品別に、実施料支払いが完了するまで

PAI-1阻害剤及び本化合物を含む製品(以下「製品」という)に関して、皮膚疾患の治療・予防について全世界における独占的実施権を許諾する。

あすか製薬株式会社

日本

共同開発

及び

オプション契約

2019年
12月24日

オプション契約締結日からあすか製薬がオプション権を行使するまで

精神症状を伴うPMS/PMDDの第Ⅱ相医師主導治験の独占的ライセンスに関する独占的なオプション権を許諾する。

チェスト株式会社

日本

共同開発

及び

事業化に関する契約

2020年

7月3日

契約日から事業化支援料支払い期限

スパイロメトリー測定データの正確な判定及び結果解釈を補助するソフトの国内における共同開発及び事業化に関する契約

第一三共株式会社

日本

オプション権付優先交渉権に関する契約

2020年

12月25日

契約日から2025年3月31日まで

新型コロナウイルス肺炎及びその他肺傷害等の肺疾患治療薬について第一三共株式会社に優先交渉権を許諾する。

2021年10月26日付、2022年6月9日付、2022年11月28日付で期間延長に関わる変更覚書締結済み。

ニプロ株式会社

日本

共同研究
契約

2021年

5月17日

契約締結日の翌日から起算して3年間

血液透析中の低血圧を予測するAIアルゴリズムに関する共同研究を実施する。2022年5月26日付で期間延長に関わる変更覚書締結済み。

株式会社ハイレックスメディカル

日本

ライセンス契約

2024年
5月20日

最初の製造販売承認取得後5年間有効とする(双方異論がない場合に限りさらに5年間更新)

ディスポーザブル極細内視鏡における独占的なライセンス契約

 

 

 ② 導入に関する契約

相手先の名称

国名

契約品目

契約
 締結日

契約期間

契約内容

日本電気株式会社

日本

開発等に係る技術実施・利用許諾

2023年
 3月8日

契約締結日から2028年2月20日まで

知的財産の実施及び利用許諾に係る契約

 

 

 

③ 共同研究に関する契約

相手先の名称

国名

契約品目

契約
締結日

契約期間

契約内容

国立大学法人

東北大学

日本

共同研究
契約

2013年
4月9日

契約締結日から2026年3月31日まで

医薬、医療機器、医療プログラムの開発に関する共同研究を実施する。

国立大学法人

京都大学

日本

共同研究

契約

2020年

6月3日

契約締結日から2025年3月31日まで

呼吸機能検査診断プログラム医療機器に関する共同研究を実施する。

2022年3月2日付、2024年2月27日付で期間延長に関わる覚書締結済み。

学校法人

聖路加国際大学

日本

共同研究

契約

2020年

8月11日

倫理委員会承認日から2025年3月31日まで

AIを応用した血液透析支援システムの開発に関する共同研究を実施する。

2022年3月28日付で期間延長に関わる覚書締結済み。

メリーランド大学

米国

Memorandum of Understand-ing

2021年

7月6日

契約締結日から3年間

グリオブラストーマ治療薬に関する共同研究を実施する。

 

国立大学法人

東京医科歯科大学

日本

共同研究

契約

2021年

12月15日

契約締結日から2026年3月31日まで

更年期障害に対するピリドキサミンの探索的臨床試験を実施する。

 

国立大学法人

東北大学

日本

研究に関する提携協定

2021年

12月16日

契約締結日から2024年12月31日まで

東北大学医薬品開発オープンイノベーションプラットフォーム(メディシナルハブ)におけるオープンイノベ―ションによる医療ソリューション研究提携に関する協定

 

国立大学法人

東北大学

日本

研究に関する提携基本合意

2021年

12月16日

契約締結日から2025年3月31日まで

オープンイノベーションによる医療ソリューション研究に関する提携協定書の基本的事項に関する合意

2022年9月30日付、2022年11月7日付、2024年1月16日付で期間延長等に関する変更覚書締結

 

国立大学法人

東京医科歯科大学

日本

共同研究
契約

2022年

3月17日

契約締結日から2024年12月31日まで

FGF23関連性低リン血症性くる病に対するPAI-1阻害薬(TM5614)の効果に関する探索的臨床研究を実施する。2024年5月20日付で期間延長に関わる覚書締結済み

 

株式会社ハイレックスコーポレーション

及び

株式会社ハイレックスメディカル

日本

共同研究

契約

2022年

9月1日

契約日から2025年3月31日まで

AIを含む医療機器の開発に関する共同研究契約の締結

 

国立大学法人

広島大学

日本

共同研究

契約

2022年

10月31日

契約締結日から2025年12月31日まで

非小細胞肺がんへのPAI-1阻害薬と抗がん剤等併用投与による有効性と安全性を検討するための共同研究契約の締結

 

NECソリューション

イノベータ株式会社

日本

共同研究

契約

2022年

11月30日

契約日から2025年3月31日まで

医療分野におけるイノベーション創出のためのAIを活用した共創活動検討に関する基本合意の締結

 

国立大学法人

京都大学

日本

共同研究

契約

2022年

12月23日

契約締結日から2027年9月30日まで

特発性間質性肺炎の急性増悪に対するPAI-1阻害薬の有効性と安全性を検討するための共同研究契約の締結

 

国立大学法人

広島大学

日本

包括的研究協力に

関する協定

2023年

4月24日

契約締結日から3年間

オープンイノベーションによる医薬品及びプログラム医療機器の包括的共同研究開発推進の協力に関する協定

 

国立大学法人京都大学及び第一三共株式会社

日本

共同研究

契約

2023年

5月31日

2023年6月1日から2025年3月31日まで

肺障害におけるPA-1の関与に関する非臨床研究に関する共同研究契約の締結

 

日本電気株式会社

日本

共同研究

契約

2023年

6月12日

契約締結日翌日から3年間

人工知能の医療応用に関する共同研究契約の締結

 

東レ・メディカル

株式会社

日本

共同開発

契約

2023年

12月7日

契約締結日から3年間

人工知能(AI)搭載型血液透析医療機器の開発に関する共同開発契約

 

NECソリューションイノベータ株式会社

日本

基本合意

2024年

2月9日

契約締結日から2026年3月31日まで

維持血液透析医療支援プログラム医療機器の事業化という共創活動

 

ニプロ株式会社

日本

共同開発

契約

2024年

3月14日

2024年1月31日から2025年3月31日

AIを応用した血液透析支援の事業化に向けたシステム開発に関する共同開発契約

 

 

 

 

④ 委託研究に関する契約

相手先の名称

国名

契約品目

契約
締結日

契約期間

契約内容

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)

日本

委託研究開発契約

2020年
3月26日

契約締結日から2024年6月30日まで

精神症状を伴う月経前症候群/月経前不快気分障害患者に対するピリドキサミンの臨床研究(AMED事業)に関する委託研究開発契約

学校法人近畿大学

日本

再委託研究開発契約

2020年

6月8日

契約締結日から2024年6月30日まで

精神症状を伴う月経前症候群/月経前不快気分障害患者に対するピリドキサミンの臨床研究(AMED事業)に関する再委託研究開発契約

国立大学法人

東北大学

日本

再委託研究開発契約

2020年

7月1日

契約締結日から2024年6月30日まで

精神症状を伴う月経前症候群/月経前不快気分障害患者に対するピリドキサミンの臨床研究(AMED事業)に関する再委託研究開発契約

国立大学法人

東京医科歯科大学

日本

再委託研究開発契約

2020年

7月1日

契約締結日から2024年6月30日まで

精神症状を伴う月経前症候群/月経前不快気分障害患者に対するピリドキサミンの臨床研究(AMED事業)に関する再委託研究開発契約

学校法人

東京女子医科大学

日本

再委託研究開発契約

2020年

7月1日

契約締結日から2024年6月30日まで

精神症状を伴う月経前症候群/月経前不快気分障害患者に対するピリドキサミンの臨床研究(AMED事業)に関する再委託研究開発契約

学校法人

岩手医科大学

日本

再委託研究開発契約

2020年

7月1日

契約締結日から2024年6月30日まで

精神症状を伴う月経前症候群/月経前不快気分障害患者に対するピリドキサミンの臨床研究(AMED事業)に関する再委託研究開発契約

国立大学法人

広島大学

日本

業務委受託契約

2023年

5月11日

2023年3月9日から2026年3月31日まで

皮膚血管肉腫第Ⅱ相試験に関する治験調整事務局業務等における業務委受託契約

NECソリューションイノベータ株式会社

日本

支援サービス見積書兼注文書(準委任契約)

2024年

4月1日

契約締結日から2025年3月31日

糖尿病治療支援プログラム医療機器に関する業務委託契約

国立大学法人

東北大学

日本

再委託研究開発契約

2024年

4月1日

契約締結日から2025年3月31日まで

慢性骨髄性白血病第Ⅲ相試験に関する日本医療研究開発機構・革新がん医療実用化研究事業における再委託研究開発契約

国立大学法人

東北大学

日本

再委託研究開発契約

2024年

4月1日

 

契約締結日から2025年3月31日まで

全身性強皮症に伴う間質性肺疾患第Ⅱ相試験に関する日本医療研究開発機構・難治性疾患実用化研究事業における再委託研究開発契約

国立大学法人

東北大学

日本

委託研究開発契約

2024年

4月1日

契約締結日から2025年3月31日まで

糖尿病治療支援プログラム医療機器に関する日本医療研究開発機構・医工連携イノベーション推進事業における委託研究開発契約

国立大学法人

広島大学

日本

委託研究開発契約

2024年

4月1日

契約締結日から2025年3月31日まで

糖尿病治療支援プログラム医療機器に関する日本医療研究開発機構・医工連携イノベーション推進事業における委託研究開発契約

 

 

 

6 【研究開発活動】

当社は、医薬品・医療機器・AIを活用したプログラム医療機器など、多様なモダリティ(治療様式)にわたる複数パイプラインの研究開発を進めており、当事業年度における主要パイプライン開発の進捗及びこれまでの開発実績は以下のとおりです。

なお、当事業年度における研究開発費は236,331千円であり、当事業年度末日の当社研究開発従事者人員は8名(臨時雇用者を含む)です。

 

a.RS5614(PAI-1阻害薬)

(a) 慢性骨髄性白血病(CML)治療薬

CML患者を対象とした後期第Ⅱ相医師主導治験において、チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor、TKI)とRS5614を併用し、RS5614投与開始後48週における累積の深い分子遺伝学的奏効(deep molecular response、DMR:がんの原因遺伝子が検出されない状態)の達成率(※1)は33.3%(33例中11例でDMRを達成)であり、TKI単独でのヒストリカルコントロール(8-12%)に比べて有意に上昇していることを確認しました(2021年3月治験総括報告書完成、POC取得)。特に、TKI治療期間が3年以上5年以下の患者での累積DMR達成率は50.0%に達しました。また、RS5614の1年間の長期投与でも治療薬と因果関係のある重篤な有害事象は認められませんでした。本試験結果は、科学誌『Cancer Medicine』に掲載されました。

後期第Ⅱ相医師主導治験の成績に基づいて、東北大学、東海大学、秋田大学等、12の大学/医療機関と共同で慢性期CML患者を対象にTKIとRS5614の併用効果を検証するプラセボ対照二重盲検(※2)の第Ⅲ相医師主導治験を実施中です。本試験は、2022年3月にAMED「革新的がん医療実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択されました。PMDAと2021年11月及び同年12月に対面助言を行い、2022年5月にPMDAに治験計画届を提出し、多施設共同の第Ⅲ相試験が開始されました。TKI治療期間が3年以上6年未満の慢性期CML患者60例を対象とし、TKI単独投与群よりも治験薬RS5614の併用群がTFRの指標である2年間以上のDMR維持率の有意な上昇の検証を行います(2026年まで実施予定)。2023年12月末の症例登録期間内に解析に必要な症例数を上回る57例が登録され、治験は予定通り進行中です。後期第Ⅱ相医師主導治験の結果が、2022年9月に科学誌『Cancer Medicine』に掲載されました。また、CMLを含む当社のがん治療薬の取組みが、2023年9月科学誌『Nature』に掲載されました。

 

(※1)DMR達成率とTFR:現在の慢性期CML治療では高額なTKIを生涯服用する必要がありますが、最も深い治療効果であるDMRを達成し、一定期間維持した一部の患者では、TKIを中止しても再発がないこと(無治療寛解維持;TFR)が近年明らかとなっています。これまでに既存TKIで公表されている1年間(48週)の累積DMR達成率は8-12%(ヒストリカルコントロール)です。なお、DMR維持とは、DMRを達成した状態が一定期間継続することです。

(※2)二重盲検:対象患者を無作為に、治験薬(今回はRS5614)を投与する群と対照薬(今回は効果がないプラセボ)を投与する群に分け、医師も患者もどちらが投与されるかを知らない条件で、両群同時に薬を投与する臨床試験方法。医師が効果の期待される患者に対して被験薬を投与するなどの故意が生じる怖れや、効果があるはずといった先入観が評価に反映される可能性や、患者が知った場合もその処置への反応や評価に影響が生じることを避けるための試験方法です。それぞれの群で出た結果を比較評価することで、治験薬の効果があるかを判断します。

 

(b) 悪性黒色腫(メラノーマ)治療薬

国内の悪性黒色腫患者では、海外とは異なるサブタイプの悪性黒色腫が多いことから、抗PD-1抗体(ニボルマブ)単剤療法による治療が奏効しにくいとされています。RS5614が免疫チェックポイント分子を制御しがん免疫系を活性化する作用に基づき、NPO法人「JSCaN」を立ち上げて悪性黒色腫の治療成績向上のために連携している東北大学、筑波大学、都立駒込病院、近畿大学、名古屋市立大学、熊本大学の6大学と共同で、悪性黒色腫治療薬としてのRS5614の有効性と安全性を確認するための第Ⅱ相医師主導治験を2021年7月に開始しました

本試験は、2021年5月にAMED「橋渡し研究プログラムシーズC(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」の支援を受けた、進行性悪性黒色腫患者40例を対象とする多施設共同、非盲検試験です。ニボルマブ併用のもと、RS5614を1日1回120-180 mgで投与し、8週間投与後に有効性と安全性の評価を行い、40例の患者登録が2023年3月で終了しました。本治験の結果、悪性黒色腫患者29例に対して、当社が開発した PAI-1阻害薬RS5614を8週間併用することにより、主要評価項目で7例において奏効が見られました(奏効率 24.1%)。

 

被験者数

29

 

分類

例数(%)

奏効(%)

7 (24.1%)

 

完全奏功(CR)

1 (3.4%)

95%信頼区間

[10.3%, 435.5%]

 

部分奏功(PR)

6 (20.7%)

 

 

 

安定(SD)

11 (37.9%)

 

 

 

進行(PD)

11 (37.9%)

 

この奏効率は、現在承認されている、ニボルマブとイピリムマブの併用の有効性と同等以上の成績でした(ニボルマブ無効例におけるニボルマブとイピリムマブ併用の奏効率は、海外21%、国内13.5%)。また、ニボルマブとRS5614の併用による疾患制御率は62%に達しました。ニボルマブとイピリムマブ併用では重篤な免疫関連副作用が多発することが問題となっていますが、ニボルマブとRS5614の併用においては特に問題となる重篤な副作用も見られていません。本試験の速報結果は2023年8月に開示しており、2024年2月に同内容で治験総括報告書が作成されました。

悪性黒色腫の次相試験に関して、2023年12月にPMDA対面助言を実施し、臨床プロトコールを確定しました。また、悪性黒色腫治療薬を希少疾患用医薬品指定制度に申請しました。希少疾患用医薬品指定を受けられた場合には、PMDAの優先的な指導・助言や、医薬基盤・健康・栄養研究所を通じての助成金交付などの優遇措置を得られる可能性があります。また、承認後の再審査期間が延長され、本治療薬事業の独占期間が長くなります。

2023年12月に、PAI-1阻害薬の新規用途特許「免疫チェックポイントの発現抑制剤」が日本において特許査定が得られ、2040年9月まで有効です(米国、欧州は出願中)。本特許により、免疫チェックポイント阻害薬としての当社PAI-1阻害薬の医薬用途に関する発明が保護され、更に特許期間の延長が可能となります。また、悪性黒色腫を含む当社のがん治療薬の取組みが、2023年9月科学誌『Nature』に掲載されました。

 

(c) 非小細胞肺がん治療薬

非臨床試験から、PAI-1が肺がんの腫瘍進展、更にはがん細胞の増殖能亢進や血管新生に関与していること、更に抗PD-1抗体に耐性となった肺がん細胞がPAI-1を高発現することなどの知見が明らかとなり、当社と広島大学との共同研究で小細胞性肺がんモデルマウスを用いた非臨床試験を実施した結果、抗PD-1抗体とRS5614の併用投与は抗PD-1抗体単剤投与よりも高い抗腫瘍効果を示すことを確認しました。そこで、2つ以上の化学療法歴を有する切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん患者(3次治療患者)39例を対象に、ニボルマブとRS5614との併用投与の有効性及び安全性を検討することを目的とした国内第Ⅱ相医師主導治験を開始しました。2023年3月にPMDA相談を終了し、治験実施計画書が確定したことから、広島大学、島根大学、岡山大学、鳥取大学、四国がんセンター、広島市民病院などの医療機関と協力して2023年9月から3年間を見込んだ治験を実施しています。2024年3月までに13例の症例が登録されました。本治験において有効性が確認できれば、3次治療以降で有効な治療法を提案できます。悪性黒色腫から肺がんへの適応拡大は、抗PD-1抗体などの免疫チェックポイント阻害薬と同じ展開です。

当社は、2022年10月に国立大学法人広島大学と非小細胞肺がんに対する非臨床試験及び臨床試験に向けての共同研究契約を締結しました。研究段階が非臨床試験から臨床試験(医師主導治験)に移行したこと、更には広島大学の特色や強みを生かし、医師主導治験実施を含めた医薬品及びプログラム医療機器の共同研究開発を行い、研究開発の効率化及び推進並びに人材育成などを目的としたオープンイノベーション拠点(Hiroshima University x Renascience Open innovation Labo:HiREx)を設けるため、2023年4月に広島大学と包括的研究協力に関する協定書を締結しました。本治験はHiRExを主体に実施しています。

 

(d) 血管肉腫治療薬

東北大学との共同研究において、血管内皮細胞の腫瘍である血管肉腫はPAI-1を高発現しており、その発現頻度が高い患者では1次治療でのタキサン系抗がん剤の効果が得られにくいことが報告されています。タキサン系抗がん剤の作用機序としては、アポトーシスの誘導が考えられていますが、1)PAI-1は主として血管内皮から産生され、2)PAI-1を高発現しているがん細胞はアポトーシス耐性であることから、タキサン系抗がん剤とPAI-1阻害薬RS5614を併用することにより、タキサン系抗がん剤の血管肉腫治療効果を増強できる可能性が強く示唆されます。

2023年1月にPMDA相談を終了、治験実施計画書が確定し、同年8月に治験計画届を提出しました。東北大学、自治医科大学、九州大学、名古屋市立大学、国立がん研究センター中央病院、がん研究会有明病院などの大学/医療機関と共同で、タキサン系抗がん剤パクリタキセルが無効となった皮膚血管肉腫患者16例を対象にパクリタキセルとRS5614の併用による有効性及び安全性を評価する第Ⅱ相医師主導治験を2023年10月に開始しました。治験期間は2年間を見込んでいます。2024年3月までに5例の症例が登録されました。本研究で有効性を検証できれば、有効な治療薬のない皮膚血管肉腫患者に対して新たな治療法が提案できます。本治験はHiRExを主体に実施しています。

 

(e) 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う肺傷害治療薬

当社は、RS5614の肺微小血栓、線維化、肺気腫改善作用及び肺(上皮)保護作用に着目し、COVID-19に伴う肺傷害治療薬(経口薬)を開発しています。2020年秋から前期第Ⅱ相医師主導治験(非盲検)を実施し、2021年6月に治験総括報告書が完成しました。特筆すべき副作用は無く、肺傷害で入院し本治験薬を投与された26名全員が無事退院されました。

前期第Ⅱ相医師主導治験の成績に基づき、東北大学、京都大学、東京医科歯科大学、東海大学等国内20の大学等の医療機関と共同で、COVID-19に伴う肺傷害患者(中等症、入院患者)を対象とするプラセボ対照二重盲検の後期第Ⅱ相医師主導治験を実施しました。本治験は、2021年3月にAMED「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択され、2021年4月のPMDA事前面談に基づき実施計画書を確定して2021年6月から開始しました。本治験は、COVID-19の流行時期やウイルス株変異の影響を受け、治験の対象となる肺炎入院患者数が減少したため、最終的に入院患者75例(RS5614群39例、プラセボ群36例)を対象にプラセボ対照第Ⅱ相試験を実施し、2023年4月に治験総括報告書を纏めました。有効性の主要評価項目である「酸素化悪化指標スケール(※1)の総和」は、両群間で統計学的な有意差は認めませんでしたが、プラセボ群に対してRS5614群で悪化の抑制が見られ、特に中等症Ⅰ患者(※2)での有効性が示唆されました。更に、酸素治療が必要となる症例の割合も、入院後3~5日でRS5614群の方が少ないことから、早期治療でのRS5614の有効性が示唆されました。また、RS5614群では、プラセボ群と異なり、肺炎画像所見の改善も認めました。副作用発現率はRS5614群とプラセボ群で同程度であり、COVID-19に伴う肺傷害患者に対する本被験薬(RS5614)投与の安全性も確認できました。

RS5614は抗ウイルス薬とは作用機序が全く異なり、肺炎に対する内服薬です。現時点で抗ウイルス薬以外のCOVID-19に伴う肺傷害に対する治療薬は高額な注射薬ですが、RS5614は経口投与が可能であり、化学合成で製造される低分子医薬品であるため、その価格も低く抑えられます。現在、COVID-19は落ち着いていますが、肺炎を惹起する新たな株の発生に際して速やかに次相臨床試験(軽症から中等症Ⅰの肺炎患者を対象)を実施できるよう準備をし、2023年4月にPMDA事前面談を実施しました。

2020年12月にCOVID-19に伴う肺傷害及びその他肺傷害等の肺疾患治療用途について第一三共株式会社とオプション権付優先交渉権に関する契約を締結しました。本契約締結時はオプション期間を1年後の2021年12月としていましたが、後期第Ⅱ相医師主導治験の期間に合わせてオプション期間を2022年12月まで延長しました。更に、2022年11月には、COVID-19に伴う肺傷害だけではなく、抗がん剤治療等から生じる間質性肺炎に対するRS5614の有効性を確認する臨床試験も視野に入れ、オプション期間を2025年3月まで延長する覚書を締結し、オプション期間延長の対価を受領しました。

2023年10月に、PAI-1阻害薬の新規用途特許兼用法用量特許「線溶系亢進薬、及びその用途」が日本において特許査定が得られ、2041年5月まで有効です(米国、欧州は出願中)。本特許により、当社PAI-1阻害薬の医薬用途及び用法用量に関する発明が保護され、更に特許期間の延長が可能となります。

 

(※1)被験者の酸素化の状況を、酸素なし(0点)~人工呼吸器エクモ装着(5点)までの点(例えば、酸素投与2L以上、5L未満は2点)を毎日付けて14日間の合計で比較

(※2)定義は「新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き、第10.0版」」に記載

・ 中等症Ⅰ:新型コロナウイルス感染症で、血中の酸素の値が93%から96%の間で、呼吸困難や肺炎初見が認められるが、呼吸不全はなく、酸素投与治療は行われていないステージ

・ 中等症Ⅱ:血中の酸素の値が93%以下で、呼吸不全があり、酸素投与治療が必要なステージ

・ 重症:集中治療や人工呼吸器が必要なステージ

 

(f) 全身性強皮症に伴う間質性肺疾患(SSc-ILD)治療薬

数々の国内外との共同研究にてRS5614が非臨床試験で種々の肺傷害(気腫、線維化、炎症)の改善と上皮細胞保護作用を示すことから、SSc-ILDの線維化を抑制する治療薬としての開発に着手しました。SSc-ILDのモデルであるブレオマイシン誘導皮膚/肺線維化モデルマウスを用いて、SSc-ILD治療薬であるニンテダニブ(10、50 mg/kg/日)とRS5614(1、5 mg/kg/日)の4週間連続投与における有効性比較の非臨床試験を行った結果、肺傷害の抑制作用の指標であるヒドロキシプロリン量の増加及びAshcroft scoreにおいて、RS5614はニンテダニブに比して、より低用量で有意な改善を示しました。そこで、SSc-ILDに対するRS5614の安全性と有効性を検証する第Ⅱ相医師主導治験(プラセボ対照二重盲検試験)を開始しました。2023年2月に実施したPMDA事前面談に基づき同年5月に実施した対面助言で最終的な臨床プロトコールが確定し、2023年9月に治験計画届を提出しました。東北大学、東京大学、金沢大学、福井大学、大阪大学、和歌山県立医科大学、群馬大学、横浜市立大学、札幌医科大学、藤田医科大学の国内10の大学/医療機関と共同で、2023年10月からSSc-ILD患者50名を対象に2年半の治験を実施しています。本試験は、2023年3月にAMED「難治性疾患実用化研究事業(代表機関:東北大学、当社は分担機関)」に採択されました。

 

(g) 特発性間質性肺疾患治療薬

RS5614が間質性肺疾患(間質性肺炎・肺線維症)を改善することを示唆する非臨床試験の成績に基づき、特発性間質性肺炎の急性増悪を対象としたRS5614の臨床試験実施を視野に入れて、2022年12月に京都大学と共同研究契約を締結しました。また、抗がん剤投与に伴う間質性肺炎に対する本医薬品の有効性を確認する臨床試験も視野に入れ、第一三共株式会社との契約も延長しました。非臨床試験成績の結果で、RS5614の有効性を確認できれば、医師主導治験での臨床開発に進める予定です。肺障害領域での研究開発を更に展開するため、2023年6月に京都大学及び第一三共株式会社と当社の3者での共同研究契約を締結しました。

 

(h) RS5441(PAI-1阻害薬)脱毛症治療薬

当社は、2016年6月に皮膚科疾患用途におけるRS5441の独占的権利をエイリオン社に許諾しました。また2023年4月及び6月にエイリオン社が行使したオプション権の対価を受領しました。同社は、2024年度に第Ⅰ相試験を実施する予定です。

 

b.RS8001(ピリドキサミン)

(a) 月経前症候群(PMS)及び月経前不快気分障害(PMDD)治療薬

PMS/PMDDに対するRS8001の第Ⅱ相医師主導治験を、AMED「医療研究開発革新基盤創生事業(CiCLE)(当社が代表機関)」として、近畿大学、東北大学、東京医科歯科大学、東京女子医科大学と共同で実施しました(プラセボリードイン方式(※1)プラセボ対照二重盲検3群比較試験、目標症例数105例、2023年12月終了)。本治験は、として実施されています。

精神領域における医薬品開発と同様に、本治験における最大の課題はプラセボ効果の影響です。そこで、プラセボ効果を排除するために、プラセボリードインという試験デザインを採用しました。当初、COVID-19拡大の影響により患者来院数が減少したため、症例登録促進を目的として、2021年度に新たに2施設を追加したほか、院内ポスターや啓発用の冊子の作成、治験調整医師による薬剤師対象Webセミナーを実施しました。2021年9月にはAMEDによる中間評価の結果、本治験支援の継続が承認されました。また2022年7月には、AMEDによる第2回中間評価が行われ、治験継続の判断とともに、症例登録加速のための支援を受けられることが決定しました。これを受けて、2022年11月に治験実施施設を3施設追加するとともに、ボランティアパネル(※2)の活用、治験責任医師等による公開講座の開催、症例登録加速のための全体会議の開催等を対応してきました。その結果、2023年7月までに近畿大学、東北大学、東京医科歯科大学、東京女子医科大学と民間5施設で434名の同意を取得し、最終的に2023年10月末までに目標症例数を超える120例の本登録を行い、2024年2月には問題となる有害事象等を生じることなく治験を終了し、2024年6月に治験総括報告書が纏められました。

有害事象及び副作用ともに、本剤低用量群及び本剤高用量群に、特に多く発現したものはなく、本剤の安全性に問題はありませんでした。有効性に関しては、「最終評価時点における黄体期後期のDRSP negative mood(※3)の総和の月経周期3周期目からの変化量」を主要評価項目としましたが、本剤低用量群、本剤高容量群、プラセボ群で、統計的な有意差は認められませんでした。副次評価項目である「DRSP Negative mood score及びDRSP総和のVisit3からの変化量(絶対値)の平均値」はプラセボ群に比べて低用量群、高用量群の順で大きく、また同じく副次評価項目である「黄体期HADS(※4)のVisit 3からの不安尺度合計点の変化量」においても実薬群で低下する傾向がみられましたが、いずれも統計的な有意差は認められませんでした。

プラセボリードインという試験デザインを採用しましたが、今回の症例数はばらつきが大きく統計的有意差は認められませんでした。ばらつきの原因として、評価指標が検査値などの客観的な数値ではなくインタビューフォームという主観的な評価であったことや、PMS/PMDDの疾患は、幅広い対象患者を含んでいる可能性があり患者集団の不均一差が影響していたことが考えられます。

 

RS8001のプラセボリードイン治験の概略図


 

2019年12月にRS8001のPMS/PMDD治療薬の日本における開発及び商業化の独占的実施許諾(ライセンス)に関する優先交渉権をあすか製薬株式会社に許諾しました。

 

(※1)プラセボリードイン方式:プラセボには有効成分は含まれていませんが、心理的な効果で病気の症状が改善することがあります(プラセボ効果)。そこで、実薬投与の前に一定期間プラセボを服用していただき、プラセボ効果の大きな被験者は試験に参加していただかない試験デザインを採用しています。

(※2)ボランティアパネル:治験支援企業・団体が運営する治験参加希望者の登録システムです。

(※3)DRSP negative mood:DRSPはDaily Records of Severity of Problemsの略です。PMSやPMDDは血液検査や画像検査での異常がありませんので、症状と月経周期との関連を観察することしか診断の手立てがありません。そこで、毎日自分の症状と月経周期を記録してその記録を医師が確認することが、正確な診断には必要です。DRSPは臨床試験でのPMSの重症度尺度としても、最も広く使用されています。21項目のPMS症状と、それによる日常生活への支障を問う3項目の、計24項目から成り、それぞれに1(全く無い)〜6(非常に強い)までの6段階を記載します。DRSP negative moodは、DRSPの中でもコア症状である、抑うつ、不安、怒り、興奮などの総和です。

(※4)HADS:HADSはHospital Anxiety and Depression Scaleの略で、患者の不安と抑うつを評価する質問票になります。14の設問に0~3点で回答し、不安と抑うつのそれぞれの合計点を算出します。合計点が高いほど不安と抑うつが強いことを示します。

 

(b) 更年期障害治療薬

2021年12月に東京医科歯科大学と共同研究契約を締結し、更年期障害の2大症状(ホットフラッシュ(※)とうつ)の治療薬としてRS8001の臨床研究を準備してきました。2023年3月にAMED「女性の健康の包括的支援実用化研究事業(代表機関:東京医科歯科大学、当社は協力機関)」に採択され、東京医科歯科大学などで3年間の臨床研究が開始されました。本臨床研究では、プラセボ効果をできる限り排除する目的でプラセボリードイン方式を採用した二重盲検法(各群25名)で実施しています。

 

(※)ホットフラッシュ:更年期障害の代表的な症状として上半身ののぼせ、ほてり、発汗等が起こります。

 

c.RS9001(ディスポーザブル極細内視鏡)

腹膜透析は透析液を注入するチューブを常に腹膜に挿入されていますが、当社は、この細いチューブを通して挿入し、開腹手術にも腹腔鏡にもよらず非侵襲的に腹腔内を観察する極細内視鏡(径1mm程度)を東北大学等複数の大学と共同開発しました。

2022年8月にはファイバースコープ(※1)がPMDAに承認申請され、同年12月に厚生労働省から薬事承認されました。本製品の詳細は、以下のとおりです。

・ 承認番号:30400BZX00294000

・ 一般的名称:軟性腹腔鏡

・ 販売名:経カテーテル腹腔鏡 PD VIEW

・ 類別コード:器 25

2022年9月に株式会社ハイレックスコーポレーション及びその子会社である株式会社ハイレックスメディカルと付属品であるガイドカテーテル(※2)作成を含めた医療機器開発に関する共同研究契約を締結しました。ディスポーザブル極細内視鏡については、2020年5月に米国Baxter Healthcare Corporation とライセンス契約を締結しておりましたが、2024年5月にBaxter Healthcare Corporationとのライセンス契約を解約し、新たに株式会社ハイレックスメディカルとライセンス契約を締結しました。ガイドカテーテルとファイバースコープを合わせて2024年度後半~2025年度に薬事申請する予定です。

 

(※1)ファイバースコープ(使い捨て):ディスポーザブル極細内視鏡の本体です。先端部は径1mm程度で、腹部に留置されているチューブの中を通ります。

(※2)ガイドカテーテル(使い捨て):ファイバースコープと組み合わせて使用することでファイバースコープの先端部分を自由に動かすことができます。ガイドカテーテルを使用しなくても、ファイバースコープのみで腹膜の状態を観察することが可能ですが、使用することで操作性が向上します。

 

d.AIを活用したプログラム医療機器の開発

(a) RSAI01(呼吸機能検査診断プログラム医療機器)

呼吸器疾患や呼吸機能の検査の中でスパイロメトリー(※)が最も重要ですが、その普及は進んでいません。被験者(患者)の協力(努力呼吸)が必要である点に加えて、正しく検査が行えたかどうかを判定し、かつ出力された結果(フローボリューム曲線)を解釈することが非専門医には難しいためです。非専門医でも簡便に結果を解釈できるシステムの開発は、呼吸器疾患を診断し、早期治療を行う上で重要な医療課題と考えられます。フローボリューム曲線を解釈するAIを、京都大学及びNESと共同で開発しています。約1,000症例(2,500データ)の医療データを取得、実用化へ向けた開発を進めています。

2020年7月にスパイロメトリーのリーディングカンパニーであるチェスト株式会社と共同開発及び事業化に関する契約(ライセンス契約)を締結し一時金を受領しました。また、2023年6月には事業化段階移行に合意し、対価としてマイルストーンを受領しました。

 

(※)スパイロメトリー:呼吸機能生理検査で、被験者が吐き出す息の量と吐き出す時間を測定します。慢性閉塞性肺疾患(COPD)及びその他の肺の病気の診断に重要な検査です。

 

(b) RSAI02(維持血液透析医療支援プログラム医療機器)

慢性腎不全患者は、廃絶した腎臓の代わりに除水と老廃物の除去を行うために週3回、生涯にわたって血液透析を受けます。除水不足は心不全、高血圧等心肺機能に障害を与える一方、過度な除水は透析中の低血圧を生じ、気分不良、意識消失といった有害事象をもたらします。不適切な除水量の設定により除水不足や過除水が生じ有害事象が発生すると医療従事者は患者対応に追われ、大きな負担となります。安全安心な血液透析を実現するために、適切な目標総除水量を予測するAI(Dual-Channel Combiner Network、DCCN)を、東北大学及びNECと共同で開発しています。聖路加国際病院や民間透析医療施設から取得した透析回数72.5万件の透析記録(患者情報、透析情報、検査情報)を学習させ、患者の過去の5回の透析記録及び透析当日の透析前データから、医師が経験的に設定した目標総除水量と7-8%程度の平均絶対誤差率(mean absolute percentage error、MAPE)で目標総除水量を予測するAIが開発できています。

2023年4月にはPMDA開発前相談を終了し、2024年1月に臨床性能試験実施のためのPMDAプロトコール相談を完了しました。現在、承認申請のための臨床性能試験の準備をしています。本AIプログラム医療機器の開発は、2023年2月にAMED「医療機器開発推進研究事業(代表機関:東北大学、当社は協力機関)」に採択されました。2022年10月に基本となる知的財産権を出願し、2023年5月に国際出願を行いました。また、2024年1月には新たな特許を追加出願しました。

2021年5月に本AIプログラム医療機器(ソフトウェア)の開発に関してニプロ株式会社と共同研究契約を締結し、2022年5月には契約期間延長に伴う契約一時金を受領しました。開発段階が臨床性能試験の実施まで進捗したことから、2024年3月にニプロ株式会社と共同開発契約を新たに締結し契約一時金を受領しました。さらに、血液透析における除水量や血流量の調節を制御する血液透析機器搭載型AIの開発に着手し、2023年12月に東レ・メディカル株式会社と共同開発契約を締結しました。

 

(c) RSAI03(糖尿病治療支援プログラム医療機器)

糖尿病の血糖値を厳格にコントロールし、糖尿病合併症を予防するためにはインスリン注射治療が必要です。しかし、インスリンの安全な用量域は狭く、過剰投与で低血糖を生じるために、患者ごとに最適な種類と投与量を選定する必要があります。一方、糖尿病専門医は医師全体の2%もおらず、地理的にも偏在しているため、現状では糖尿病患者の主治医が糖尿病専門医であるとは限らず、むしろ非専門医に受診することが多いです。非専門医にも専門医レベルのインスリン治療を実行できるよう支援するAI(Skill Acquisition Learning、SAiL: スキル獲得学習)を、東北大学及びNECと共同で開発しています。東北大学病院に入院する約1,000名(約1,080,000臨床パラメータ)の患者データに基づく学習が終了し、専門医の処方するインスリンの投与量から2単位程度の誤差で予測するAIを開発できています。現在、NESと共同で、本AIを医療機関で活用するためのシステム開発を進めており、デモシステムの開発を完了しました。

2022年12月にはPMDA開発前相談を終了し、2023年5月に実施したPMDAプロトコール相談の助言に従い、臨床性能試験のための予備的な試験を実施しました。予備試験の結果を基に、2024年2月にPMDAプロトコール相談を追加で実施し、承認申請のための臨床性能試験のプロトコールが確定しました。2024年度臨床性能試験を実施する予定です。本AIプログラム医療機器の開発は、2022年4月にAMED「医工連携イノベーション推進事業(開発・事業化事業)(当社が代表機関)」に採択されました。2022年6月に東北大学と共同で基本となる知的財産権を出願し、2023年4月には国際出願を行いました。

 

(d) RSAI04(嚥下機能低下診断プログラム医療機器

加齢に伴い口腔機能が低下しますが、その状態(オーラルフレイル)を放置すると摂食障害や構音(発話)障害等多くの身体的、社会的障害、更には全身性の筋肉虚弱(フレイル)につながるため、早期の診断と適切な処置が重要です。高齢社会において口腔機能低下のひとつである摂食嚥下障害は増加し、高齢者の主な死因とされる肺炎の約7割が誤嚥によるとの報告もあります。誤嚥性肺炎の予防には嚥下機能低下の早期発見とリハビリテーション等の治療介入が重要ですが、現在では、嚥下内視鏡検査、嚥下透視検査方法等患者負担の大きい嚥下評価法しかありません。嚥下と会話で使用する器官は舌や口腔・咽頭等共通部分が多く、会話から嚥下機能を評価できる可能性に着目し、嚥下機能障害を会話時の音声データから評価可能なAIを開発しています。東北大学の複数の診療科(耳鼻咽喉科、歯科、医工学部リハビリテーション科)及びNECと共同で、東北大学病院嚥下治療センターに受診する患者の話す音の全周波数を時系列データの分析に特化したAIエンジン(時系列モデルフリー分析)で解析することで、健常者の音声のベースライン(性差、年齢差、個人差等)を確認し、健常者の発音と患者の発音の違いを検出することで、嚥下機能の低下を診断するAIが開発できています。今後、嚥下機能低下を有する高齢者データで学習させることで、実用化に向け開発を進めます。2023年12月にPMDA開発前相談を終了、今後、臨床性能試験実施のためのPMDAプロトコール相談を予定しています。2023年3月に東北大学と共同で基本となる知的財産権を出願しました。また、2024年3月には新たな特許を追加出願しました。

 

上記の実用化に向けたプログラム医療機器の開発研究に加えて、下記の複数の探索的な研究開発を進めています。

 

(e) 探索研究(乳がん病理診断プログラム医療機器

乳がんは日本人女性のがんの中で最も患者数が多く、生涯に乳がんを患う日本人女性は11人に1人と言われています。しこりや画像診断等で乳がんが疑われた場合、最終診断は病理診断ですが、診断には経験を積んだ病理医が必要です。当社は東北大学と共同で、病理画像から乳がんの病変部を検出するAIを開発しています。現在、探索研究段階では、検出モデルを3クラス(良性、非浸潤がん、浸潤がん)または2クラス(良性、悪性)で分類し、それぞれ88.3%と90.5%での診断精度を達成しました(科学誌『Journal of Pathology Informatics』に掲載)。今後、乳がん領域では「術中迅速病理検体画像」を用いたAI診断にも取り組む予定です。

 

(f) 探索研究(心臓植込み型電気デバイス患者における不整脈・心不全発症予測プログラム医療機器)

心不全患者には植込み型除細動器(ICD)、両心室ペースメーカ(CRT-P)など心臓植込み型電気デバイスが広く使用されます。これら心臓植込み型電気デバイスを活用することで、自宅にいながら、刻々と変化する生体情報の経時的な遠隔モニタリングが可能となります。当社は東北大学と共同で、心臓植込み型電気デバイス患者の遠隔モニタリング情報を活用し、心不全及び致死性不整脈の発症を事前に予測するAIを開発しています。

 

(g) 探索研究(人工心臓患者における血栓発生予測プログラム医療機器)

植込み型補助人工心臓は末期心不全患者の生命維持には欠かせない治療ですが、血栓など合併症が課題です。当社は、株式会社ハイレックスメディカル及び東北大学と共同で補助人工心臓の血栓発生を予測するAIの開発に取り組んでいます。2022年9月に本AIの開発等に関して株式会社ハイレックスコーポレーション及び株式会社ハイレックスメディカルとの共同研究契約を締結しました。

 

e.診断薬:血中フェニルアラニン測定キット

フェニルケトン尿症は、適切な治療を行わないと知能発達遅延等の重篤な症状が出現します。1977年に生後マス・スクリーニング検査が実施され、ほぼ全ての患児が早期に発見されるようになりました。フェニルケトン尿症の治療には、フェニルアラニンを制限するための食事療法を正しく行う必要があり、定期的な医療機関での検査が必要ですが、数か月に1度の採血では、きめ細やかな食事管理ができません。自宅で簡便かつ正確に血中フェニルアラニン濃度を測定するシステムを、東北大学と共同で開発しています。糖尿病患者での自己血糖管理のように、家庭でいつでも自己測定が可能になれば、フェニルケトン尿症を有する患者のきめ細やかな食事管理が実現できます。2021年5月には診断薬に関する特許を東北大学と共同で出願し、同年6月にはPMDA相談を行いました。2023年5月に本研究内容が科学誌『Molecular Genetics and Metabolism Reports』に掲載されました。