当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 経営方針
当社グループは、優れた特性を持つダイヤモンドの広い応用によって、様々な分野でのイノベーションの創出を進め、地球規模での地球環境維持や社会問題の解決を通じ、世界への貢献を目指しています。
当社グループで活動する従業員が、健康で充実した日々を送れるよう、様々な施策を講じています。また、株主や顧客、取引先などのあらゆるステークホルダーへの責任を果たすことを、経営方針としています。
(2) 経営環境等
当社グループの事業は、基本的には人工合成のダイヤモンドを販売する材料ビジネスですが、ほとんどがダイヤモンドの新しい応用を目指す分野に向けられています。天然のダイヤモンドは形状や組成が広い応用に適さないことから、人工合成のダイヤモンドを使った開発が進められています。また、伝統的な分野である宝石についても、人工合成ダイヤモンドへの転換が進んできており、米国では既に50%を超えるシェアになっているとの報道もあります。これに伴って多数の企業が設立され、活発な市場環境となっています。
しかし、2024年3月期後半から、小型宝石を中心に価格低下が急激に起こり、製造会社の採算が悪化しました。このために当連結会計年度においてイスラエル、米国、インド、欧州等で倒産や製造の停止が起こり、当社の種結晶事業にも大きな影響を与えました。特に、当社の主要ユーザーの中には、小型宝石の生産を主体とする企業があり、その倒産などによる受注の減少が、売上の減少につながりました。
一方、工具用素材としての利用も既存市場と言えます。その市場規模は安定的ではありますが、種結晶や基板及びウエハの市場と比較して低い利益水準であり、当社が幅広く参入する環境ではありません。宝石及び工具用素材以外の応用については、未だ創成期にあるため市場規模が小さく、個々の案件ごとの対応になっております。2インチウエハなどのインパクトのある製品が実用化できれば、大きな展開が可能となると考え、開発に注力しております。
現在製品を供給している分野について、市場環境を以下に示します。
①人工ダイヤモンド宝石製造用の種結晶市場
a.人工宝石の製造と市場
人工ダイヤモンド宝石は超高圧合成法と気相合成法によって製作されるダイヤモンド宝石です。ダイヤモンドとしては、天然に比べ不純物が少なく純粋で、無色だけでなくピンク、ブルー、グリーン等の色がついたものも販売されております。「The Business Research CompanyのLab Grown Diamonds Global Market Report 2024」によれば、2023年のLGD市場は235億ドルにのぼり、年率10.2%の成長をしている、と報告されております。このようにLGDは大きな市場を獲得しており、さらに高速に市場拡大が進むと見られます。一方、生産量の拡大によって価格低下も進行しております。欧米においては、天然ダイヤモンドの採掘による自然破壊や、以前から指摘されている鉱山における児童労働等の問題があるため、人工ダイヤモンドのSDGsにおける優位点を意識する消費者が増加しております。これに対応して、宝飾店においても人工宝石を積極的に販売するところが増加しております。
人工合成のダイヤモンドを製造する方法は、超高圧法と気相合成法があります。気相合成法で作る人工ダイヤモンド宝石は、超高圧法で製造される宝石に比べ、高品質で大型のものを作ることが可能です。このため、新規に人工宝石に参入する企業の多くは、気相合成法で製造しております。特にインドにおいては、毎年多くの新規企業が設立され、既存企業の生産能力も大幅な拡大を続けております。
b.種結晶に要求される形状
この気相合成法で製作している宝石は、製作するに際して種結晶が必要とされます。通常は0.2mmないし0.3mm厚の薄い単結晶を種結晶として使用し、3~10mmの厚さに成長し、これをカット、研磨して宝石に仕上げます。
気相合成法では、結晶の成長は厚さ方向のみ成長しますが、面積方向の成長がほとんどありません。このため、成長によって種結晶の形状からの面積的な拡大が無く、宝石としての形状は上部から見た形状と厚さの関係が一定であるため、種結晶形状が宝石の大きさ(カラット数)を決定します。例えば、ブリリアントカットの場合では、直径と厚さの関係は約0.6です。このように、種結晶のサイズが、最終的に宝石となるダイヤモンドの大きさを決めるため、大きな宝石の製造を目指すには、大きな種結晶が必要となります。
最近の人工宝石市場では、大型宝石の出荷が活発となっています。天然ではほとんど市場で見られない5カラット以上の宝石を目指す動きもあって、当社は大型種結晶のニーズがあると見込んでおります。当社は5x5mm~15x15mmの広い範囲の形状を持つ種結晶を製作できますが、当連結会計年度において12x12mm以上の大型種結晶の販売数が大幅に増加しています。
現在では成長装置を1,000台以上も保有する人工宝石製造会社が複数あり、これらの会社が必要とする月当たりの一つのサイズの種結晶は1,000個を超える場合もあります。このような大量の種結晶を、品質の揃ったものとするためには、生産技術の安定が必要です。
c.種結晶ビジネスの競合
当社は種結晶を独自技術により製造し人工宝石製造会社等に販売しておりますが、当社の販売先である人工宝石製造会社の一部が、成長した結晶を薄く切断して、その表面を研磨することで、種結晶を製作しております。その場合には、当社と競合することになります。この手法の製造コストは、現時点では当社より高いと判断しております。また、金属等の基板上に成長した疑似単結晶を、種結晶として製造している企業もありますが、種結晶としての性能は当社種結晶より劣ることが判明しております。
インドの人工宝石製造会社は、大型の種結晶から大型の原石を製作し、そこから大小織り交ぜて複数個の宝石を切り出す技術を持っております。このことによって、小型の宝石を大型の種結晶から作る技術が実現できており、小型種結晶の需要が減少したと考えられます。また、このような技術を保有しない企業は、採算性の悪化から事業を停止することも起こったと考えられます。宝石の結晶としての品質は、後述するような半導体デバイスに要求される結晶品質に比べると、一般的には悪いものでも使用できます。宝石としての見映えは重要で、カラーやクラリティーは宝石鑑定の重要項目ですが、これらと結晶品質が必ずしも直接結びついているわけではありません。そのため、当社の種結晶より品質が劣るとされている疑似単結晶の種結晶を利用する企業もたくさんあります。
②基板及びウエハ
ダイヤモンドの優れた半導体特性を生かすデバイス開発に必要な、基板やウエハを供給しております。ウエハについては、半導体デバイス製造プロセスに適用できるような大型のウエハが無いため、未だ市場ができておりません。ダイヤモンドの物性評価等の基礎研究や、現時点のデバイスの研究開発用に、当社は様々なサイズの基板やウエハを、各国の研究機関や企業に販売しております。半導体デバイス製造プロセスに適用するためには、2インチ以上の口径を持つウエハが必要ですが、現時点では基礎研究段階であり、30x30mmを最大とする単結晶基板もしくは、38x38mmまでのモザイク結晶基板を販売しております。当社は、単純な基板だけでなく、結晶方位、基板上にボロンを混入させた半導体層を形成したエピ基板、結晶品質を制御した基板等の多様な要求に対応できる製品群があります。当社は単結晶の大型化や、大型モザイク結晶等で、大型化の先頭に立っており、ウエハ市場の創成をけん引して参ります。
③光学部品及びヒートシンク
ダイヤモンドの持っている高熱伝導率や、光やX線を透過する特性を利用し、デバイスの除熱や、各種計測器、放射光施設等の部品などに利用されております。
5Gシステムに代表される先端通信分野では、高発熱デバイスの使用が必要で、熱を除去して安定的なデバイスの動作をするため、ダイヤモンドの利用検討が進んでおります。また、高出力レーザーやパワーデバイスの実装において、ダイヤモンドの高熱伝導率を利用する試みも、広く行われています。
ダイヤモンドを光学部品として利用し、大エネルギー密度光の透過窓として利用したり、検査機器で使用するX線源のX線を透過する窓としての利用が開始されております。また、放射光施設の窓材や計測機器に、適用することも検討が進んでいます。
これまでの市場は、散発的なアイデアで開発される部品の供給が多かったのですが、X線用窓が量産に移行した等の新しい動きがあります。当社は現在開発が進んでいるヒートシンクとしての利用について、実現性が高く、将来の大型市場を形成できることを、期待しています。
④工具素材
ダイヤモンド単結晶を利用する切削、耐摩耗工具は、加工する相手材料が限定され、特殊な加工に限られております。また、工具素材の全市場では、ほとんどが超高圧合成単結晶を使用しております。超高圧合成単結晶のサイズが限定されていることから、当社の大型結晶への要求があります。なお、工具素材については、積極的に販売拡大を行わない方針であります。
(3)目標とする経営指標
当社グループは先端技術を使っている製造業であり、製造設備への投資を継続的に行っていく必要があります。このために、高い利益率を維持し、確固たる資金調達手段を保持することが重要と考えられます。このような観点から、主な経営指標として、以下の経営指標を重視しております。
①売上高成長率
②経常利益率
③ROE
④自己資本比率
(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループのビジネス分野はLGD(Laboratory Grown Diamond:人工ダイヤモンド宝石)と半導体応用開発に必要な素材であるウエハ・基板等(ダイヤモンドデバイス)の2つで構成されております。当社グループ共通の課題、それぞれの事業分野ごとの課題は以下のとおりです。
①LGD分野の活動に係る課題
LGDの本格的な宝石ビジネスは10数年前に始まりましたが、市場アナリストの情報として、現在ではダイヤモンド宝石市場における流通量の20%以上にも達しているとの推定もあります。米国では50%を超えたとの情報も出ており、いよいよLGDが本格的に天然ダイヤモンドを置き換える方向に進んでいます。ビジネス規模は依然として急速に拡大しており、当社はこの分野で種結晶のみを販売するビジネス形態では発展が望めないと判断し、このために2024年1月にSFDを設立し、宝石販売を行うことを決断いたしました。
このビジネスを実施するためのグループとしての構造は、当社が原石を生産し、インド等で加工し、SFDが国内及び海外で販売することを想定しています。このために、この1年で、SFD Indiaを設立いたしました。
SFD Indiaが種結晶販売と共に、宝石加工の委託を行います。この方針でのビジネス展開に必要な拠点を築き、オペレーションを開始する準備を進めて来ました。当社グループにとって初めての海外展開であり、必ずしも順調に進みませんでしたので、2025年3月期末においては、SFD Indiaは十分な活動をできておりません。しかし、2026年3月期においてLGD分野のビジネスを進展させるための環境は整っています。
当社グループは今後以下の2つの製品でこの分野のビジネスを進めてまいります。種結晶、宝石及び宝飾品が製品となります。
ⅰ.種結晶ビジネスの進め方
2023年3月期までは主力製品として当社グループの発展に貢献して来ましたが、その第4四半期から製品価格が大幅に低下し、小型宝石を中心にLGD生産が縮小したことで、種結晶需要も後退しました。他の原因としてLGD製造企業が自家用に製作する種結晶が増加したことと、LGD生産手法が変化し、LGD製造企業は成長した原石から複数の宝石を切り出すCAD-CAM技術も確立したため、種結晶サイズごとに大きさの異なる宝石を製作するという方式自体が減少しています。当社グループの種結晶の品質の高さは現在でも多くのLGD製造企業で認められているものの、現在の製造状況で当社製品に対する購買意欲は低下しております。また、当社グループはLGDビジネスの状況変化に対する情報収集能力が十分ではなく、このような変化への対応を遅らせ、大幅な売上減少に結びついたと考えられます。
このような状況を改善するため、世界的なダイヤモンド加工産業の集積地であるインド・グジャラート州において、タイムリーに顧客のニーズに応えていくことを目的として、2024年7月に当社は、当社100%子会社であるSFDとともに、インドにおいてSFD Indiaを設立いたしました。
この現地法人では、従来からの当社グループの製品である種結晶を、インドのLGDメーカーに対し現地販売いたします。また、SFDが計画している宝石の製作を可能とするため、当社で製作した原石を、現地法人を通じて当地で宝石に加工いたします。完成した宝石はSFDが購入して、日本及び世界で販売してまいります。
このような活動を行うために、現地法人には販売や加工等に必要な要員を配置し、場合によっては加工設備を設置して、試作や加工技術の開発を行うことも検討しております。スーラット市の事務所の設置が完了し、当社から種結晶の売却を行う準備を進めております。さらに、一部の宝石につきましては、当地での加工テストを行っております。
ⅱ.宝石ビジネスの展開
SFDは宝石を販売するために、当社が製造した原石を購入し、インド等で加工を行って、宝石としての試作を進めました。また、宝石をある程度の量を確保しないと販売が難しいため、海外の市場から宝石を調達して、販売ルートの構築を行ってきました。当連結会計年度においては、少量の販売実績しか出来ませんでしたが、大手の宝飾品企業との製品開発についての検討を開始しております。
ベルギーの子会社(孫会社)であるSFD Antwep BVが営業を開始できておりませんので、早急にこれを開始し、製作した宝石を販売する計画です。もちろん、SFDは継続して国内の販売を進めます。また、欧州の大手宝飾品企業への参入を計画しており、同社との交渉を開始しています。これが実現しますと大口の受注を得られる可能性が高く、当社としては体制を整えて対処します。
新しいデザインの宝石については、宝石販売の実績がある日本人を雇用して、検討を進めて来ました。当社の大型の種結晶を使い、大型の原石を作製することで、新たなデザインが可能となっています。また、ブリリアントカットのような厚い原石を必要としないデザインを作り、生産歩留が高い薄い原石を製作して、原石生産コストの低減も進める計画です。LGDのインド企業は、成長装置に自家製作等によって、低価格ルースを供給していますので、それに対抗できる商品の開発を進めた参ります。
②ダイヤモンドデバイス分野の活動に係る課題
ダイヤモンドの持つ優れた半導体特性を利用して、パワーデバイスや量子デバイス等に応用するための研究が、世界各地で進められています。各国政府も、ダイヤモンドの持つポテンシャルを評価し、この開発に資金を投入しています。しかし、現在は未だ基礎的な研究開発段階であり、ウエハ等の材料が大きな市場を形成するには時間が必要です。
半導体プロセスを使ったデバイス製作を行うには、最低の大きさとして2インチウエハ(直径50mm)が必要です。このサイズへの到達時期が早まれば、これを使用して量産技術開発が促進され、デバイスの実用化が早まると見られます。
当社グループは単結晶の大型化を進め、最終的に4インチウエハを目指すロードマップを2024年11月28日に開示いたしました。当時開発を進めていた30x30mmの単結晶を、2025年2月までに実用化し、これから1インチ(直径25mm)を実用化することを目標といたしました。
2025年2月13日に30x30mm単結晶の実用化を開示し、このロードマップの最初のマイルストーンについて予定通り進めることができました。1インチウエハにつきましては、多少遅れましたが、2025年4月の製品化となっております。
この30x30mm単結晶を4個接合したモザイク結晶は、50x50mm以上のサイズとなるので、そこから直径50mmの円盤を作製すれば、2インチウエハができます。この2インチウエハを2025年末までに完成させることを目標とし、開発を継続しております。2インチウエハの製品化には、単にモザイク結晶の作製だけでなく、研磨技術もこれまでのレベルを一段上げる必要があります。特に表面粗さの改善と、反りやうねりによる表面の凸凹を抑えることが求められます。表面形状の計測は、それ自体が他の半導体材料で行われている手法を採ることが必要ですので、既に計測装置を発注しております。
その後、単結晶形状をさらに拡大するために、50x50mm単結晶を目標とする開発に着手し、これが完成すれば単結晶の2インチウエハが実用化できます。この実用化は、本格的にデバイス量産を行うための大きなマイルストーンでもありますので、なるべく早期に実現できるように取り組みます。しかし、開発の難易度を考えると2ないし4年位の期間が必要と考えています。
また、この単結晶を4個接合することで、100x100mm以上のモザイク結晶を作製し、そこから直径100mmの円盤を切断すれば4インチウエハが実用化できます。4インチウエハを製作するには、成長装置の形成面積を大きくすることが必須で、この検討を行います。もちろん、研磨は2インチに比べ格段に難しくなると予測され研磨装置の開発も同時並行で検討する必要があると考えています。
ウエハの2インチ以上の拡大へは、長期的な大型結晶開発と共に、デバイスの製作プロセスに使用するためのウエハとしての規格に当てはまることが必要です。そのためには、表面の粗さ、うねり、欠陥密度等が、既存の半導体材料のレベルに達していることが要求されます。これらの課題を乗り越えるためには、それぞれの課題において相応の開発期間と投資が必要となります。
当社グループはこのような課題を乗り越え、規格化にも取り組んで、ダイヤモンドデバイスの実用化に向けて素材面からの後押しを続けます。
③当社グループの共通の課題
当社が東京証券取引所グロース市場へ上場して3年程度経過しましたが、さらに成長していくためには、ガバナンスの強化に引き続き取り組んでいく必要があると認識しております。また、開発体制、工場運営、人材等に対しても、以下の課題があると考えております。
ⅰ.技術開発
当社グループのビジネス分野では、多くの技術で世界的に優位な地位にあり、今後もこの地位を維持することが重要であると認識しております。製品そのものだけでなく、製造技術や評価技術等幅広い分野での研究開発活動が必要です。当社グループのビジネス分野においては、状況の変化は常に発生しており、これらの情報を確実に入手し、対応策を講じることが重要です。このために、営業情報だけでなく、大学、公的研究機関及び他企業と連携することで、多角的に情報を入手して、計画の立案、策定に生かしてまいります。これまでも大学、公的研究機関及び他企業と委託研究や共同研究を行ってまいりましたが、海外の機関を含めさらに拡大することを検討いたします。
技術開発の人材を確保することも大きな課題と認識しております。日本の中小企業は人材確保に大きな困難がありますが、とりわけ技術者の確保は難しい状況があります。当社の技術状況を社外にアピールし、雇用条件などを改善することで、開発に必要な人材の確保を進めて参ります。
ⅱ.工場運営とコスト削減
当社グループは、事業構造を変革するために、従来以上に製品の種類が増加しております。製品の多様化に対応するために、必要な設備投資を進めておりますが、必要な人材の確保は十分な状況にはありません。新たな製品を輩出するためには、既存の生産方式及び体制とは異なる生産方式ならびに体制を構築していく必要があると認識しております。新しい製品を作るために工場運営の柔軟性や、異なった視点からコスト削減への取り組みが必要となることは確実です。このために情報の収集及び新たな人材獲得を積極的に進めてまいります。
ⅲ.連結会社の管理
当社グループは2024年3月期から連結子会社を設立してきました。これらの会社に対する統制や資金的なバックアップが重要となっております。経理業務だけでなく、コンプライアンス管理や従業員の状況把握なども、複雑な管理が必要となっています。当社において確立しているガバナンスを、これらの連結子会社にも適用するよう、順次対応を進めております。また、このために各地の状況に精通した人材の確保も必要で、採用活動を進めております。
ⅳ.人材育成
当社グループの置かれた状況から、上場企業としてのガバナンスの強化、生産体制の維持と発展、新規技術の開発、新たな営業活動のための海外拠点の設置、グループ企業としての運営等に必要な人材の確保が急務であります。当社グループはこれまで必要な人材を外部から採用してまいりましたが、当社グループの事業活動に適した人材を育成することも、重要になっております。これを進めるために、教育システムを構築し、長期的に当社グループを担う人材を養成してまいります。また、連結子会社の運営にも人材が必要で、海外子会社においては現地従業員の雇用を行っています。これ等の従業員の管理体制も喫緊の課題であり、経験を有する人材の確保を進めて参ります。
ⅴ.ダイバーシティーの重視
当社グループはESGを重視する経営方針の中で、ダイバーシティーを意識して、女性の管理職への登用や障害者の雇用等を進める必要があります。当連結会計年度におきまして、部長クラスに女性を1名登用いたしました。また、今般の役員改選で、社外取締役に女性を1名選任しております。中間管理職への女性の登用も進める計画で、女性にとっても働き甲斐のある会社にしていく所存です。
ⅵ.経営陣の高齢化と後継者の育成
当社グループの部長以上の経営陣は、60歳以上の比率が高く、将来の後継者の育成とあわせて、年齢構成を検討する必要があると認識しております。また役員についても、平均年齢を引き下げて、将来の当社グループを担う経営体制を構築することを検討してまいりました。今般の役員改選で、その方針が実現する予定です。
ⅶ.輸出管理
経済安全保障の観点から、2022年12月に輸出貿易管理令の一部を改正する政令が施行され、ダイヤモンドの基板等が、新たな規制品目に入りました。しかし、当社グループはこの改正に対する対応が遅れ、2022年12月から2023年4月にかけて規制品目であるダイヤモンド基板等を、経済産業省の許可を得ずに輸出しておりましたことに関し、経済産業省より2024年5月21日に「厳正な輸出管理の徹底について(厳重注意)」を受領しました。当社グループとしては、この事態を厳粛に受け止め、これまで以上に法令遵守を徹底し、社内体制を整備することにより、再発防止に努めてまいりました。
各種の規定を整備し、貿易管理に関する新たな組織を立ち上げ、連結子会社2社も当社と同様の規制内容の遵守を行っております。既に一般包括輸出許可を取得しており、欧米等への輸出には許可申請を必要としておりません。当連結会計年度において、輸出について特段の支障はありませんでしたが、引き続き法令遵守を徹底してまいります。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組みは、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1) サステナビリティ
当社グループは、サステナビリティを実現するため、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で定める2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標であるSDGsの達成に、LGDの供給を通じて貢献しており、加えて企業行動規範の1つとして、地球環境の保全に貢献する活動に積極的に取り組み、持続可能な社会の実現に向けて貢献することを定めております。
①ガバナンス
当社では、サステナビリティの実現のため、関係各部門がそれぞれの業務分掌に基づき、責任をもって推進しておりますが、原則として四半期に1度の頻度で開催しているリスク管理委員会において、組織横断的に、関係各部門の活動に伴うサステナビリティに関するリスク及び機会を識別し、目標設定を行い、その進捗を管理しております。また、結果については、取締役会に報告しております。
また、後述する人的資本に関する項目以外に、気候変動に関するリスクもテーマとして取り組んでおります。具体的には、当社は、製品の製造過程で多くの電力を消費しており、CO2排出量を削減することは、重要な課題となっております。本社及び横江工場においては再生可能エネルギーで発電した電力を使用しておりますが、島工場と開発部においては再生可能エネルギーを使用した電力の使用を行っておりません。今後可能な限り早期に、島工場と開発部においても、再生可能エネルギーを使用した電力に切り替える計画です。
また、島工場のCO2排出量削減のため、2025年3月期において同工場に太陽電池を設置し、昼間に消費する電力の一部を太陽電池で賄うことを開始いたしました。これにより、同工場の昼間の電力使用量の約6%の電力を、この太陽電池によって賄っておりますが、引き続きCO2排出量削減に取り組んでまいります。
②リスク管理
当社では、サステナビリティに関するリスクを含むリスク全般について、リスク管理の全社的推進とリスク管理に必要な情報の共有化を図ることを目的とし、原則として四半期に1度の頻度で開催しているリスク管理委員会において、発生したリスク及び予想されるリスクの評価や対応等に関する審議をしております。当該リスク管理委員会において、サステナビリティに関するリスク及び機会を識別、評価し、発生可能性と影響度合により、優先順位付けを行って、回避、軽減するか受容するか等の対策の決定を行うとともに、対策の進捗を管理しております。また、結果については、取締役会に報告しております。
③SMETA (Sedex Members Ethical Trade Audit)を受審する計画
当社は宝石の供給を行う上でSMETAの監査に合格することが必要と考え、所定の手続きを開始しています。SMETA監査は、世界で最も広く利用されている社会監査の一つであり、サプライチェーンにおける持続可能性を推進するために重要な位置付けとなります。この監査に合格するために、社内規程の整備、法的規制に対する確実な処置、社外の関係機関へのガバナンス、等を徹底する所存です。
(2) 人的資本
当社は、優れた特性を持つダイヤモンドの広い応用によって、様々な分野でのイノベーションの創出を進め、地球規模での地球環境維持や社会問題の解決を通じ、世界への貢献を目指しています。そのために「健康経営」を推進すべく、当社で活動する従業員及び派遣社員が健康で充実した日々を送り、活発に業務を遂行することを支援するために、以下の施策を進めております。
①戦略
a.人材育成方針
リスキリングのための講習等受講
当社の各種の業務を遂行するために、各種のスキルが必要であります。技術の変化、法令の改定、業務ソフトの変更等によって、必要なスキルが変化していくため、常に最新の必要なスキルを身に付ける必要があります。このため、社内及び社外において講習等を受講することで、最新の知識を習得し、これを業務に活用していきます。受講する回数は重要な指標となるため、一人当たりの年間受講回数の目標を設定しております。
b.社内環境整備方針
イ 業務遂行中の無事故を継続する
当社は生産現場を有しているため、事故発生の可能性があります。安全については十分注意をしているものの、対応が不十分であることによって、事故の発生が危惧されます。このために部署ごとに無事故時間の目標を設定して、これを管理しております。2024年3月期に引き続き、2025年3月期も完全無事故でしたが、引き続き無事故労働時間500,000時間の達成を目指します。
ロ 女性管理職比率
当社はジェンダー平等を重要視する観点から、女性従業員の登用を進めております。当社製品は消費者から遠い製造業であるため、ともすれば男性中心の活動になりがちです。このような状態を改善するため、女性管理職を登用することを目標として、取り組んでおります。部長職を2ポイント、課長職を1ポイントとして点数化し、目標値を決定しております。
②指標及び目標
当社では、人的資本に係る上記の人材育成方針及び社内環境整備方針について、各施策における指標を設定しておりますが、当面の目標及び実績(2025年3月期)は以下のとおりです。
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施 策 |
到達目標 |
2025年3月期の実績 |
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約 |
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本書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1) 人工宝石ビジネス市場の状況
当社の最大の製品である種結晶の販売先市場であるLGDの市場は、順調に拡大しております。
「The Business Research CompanyのLab Grown Diamonds Global Market Report 2024」によれば、2023年のLGD市場は235億ドルにのぼり、年率10.2%の成長をしている、と報告されております。また、米国においては既にLGDは50%以上の市場を獲得しているとの報道が、多数見られます。このような情勢から、当連結会計年度においてもLGDは順調にそのシェアを広げ、天然との比率が逆転するのもそれほど遠くないと推察されます。
天然ダイヤモンドの有力な供給者であるデビアス社が、2024年3月期に2件の値下げを公表しました。2023年10月に、天然ダイヤモンドを使ったブライダル用途の宝飾品を30%程度値下げすると公表し、2024年1月には、天然ダイヤモンド全般を30~40%値下げすると公表いたしました。このことは、デビアス社が、天然ダイヤモンドがLGDに価格競争で負けたことを認めた、と報道されております。このようにLGDは大きな市場を獲得しており、さらに高速に市場拡大が進むと見られます。一方、生産量の拡大によって価格低下も進行しております。
また、欧米においては、天然ダイヤモンドの採掘による自然破壊や、以前から指摘されている鉱山における児童労働等の問題があるため、人工ダイヤモンドのSDGsにおける優位点を意識する消費者が増加しております。これに対応して、宝飾店においても人工宝石を積極的に販売するところが増加しております。
気相合成法で作る人工ダイヤモンド宝石は、超高圧法で製造される宝石に比べ、高品質で大型です。このため、新規に人工宝石に参入する企業の多くは、気相合成法で製造しております。特にインドにおいては、毎年多くの新規企業が設立され、既存企業の生産能力も大幅な拡大を続けております。
上述のとおり、当社は、宝飾品としてのLGDの認知は十分進んでおり、何らかの理由によって市場が消滅する可能性は、現時点でほとんどなくなったと考えております。しかし、国内外の経済情勢の悪化や景気動向の減退等の理由により、市場の成長が鈍化したり、市場規模が縮小したりする場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。LGDの販売価格の低下が進んでも、魅力的な商品が出てこない場合には、市場規模の拡大が遅くなる可能性はあります。このような変化に対しては、当社はその間に他の製品への転換を進めることで、当該リスクを抑えることができると考えております。
(2) 特定ユーザーへの過度の依存
当社の売上に占める種結晶の比率は、当連結会計年度の売上高の58.9%となっており、前年度比では5%ほど低下しました。種結晶市場の大幅な変化で、従来の方針であった長期的な受注の獲得は、期待できない状況になっております。しかし、最も大口のユーザーの売上比率は35.4%と、依然として依存率は高い状況にあります。さらに、基板、ウエハ関係のユーザーが第2位の大口ユーザーで、2社を合わせると47.9%に達します。このように、分野の異なる2ユーザーへの過度の依存状態ですので、単純な方針の変更でこれを解消できる状況にはありません。
種結晶の販売に関しては、インドに設置しました現地法人での販売を進める計画で、これによって現地での小口顧客への販売が始まると見られます。これ等の顧客への販売量がどれほどとなるかは不明ですが、スーラットには多くのLGD製造企業が集積しておりますので、販売先は分散されると考えられます。
また、基板、ウエハは、2025年2月の30x30mm大型単結晶基板の発売によって、デバイス試作が進展すると考えられ、多くの企業や研究機関が購入すると見られます。さらに、各国がこぞってダイヤモンド半導体デバイス開発に向けてのプロジェクトを開始しており、それによって新たな研究機関(含む企業)が参入し、新たなユーザーとなると考えられます。
しかし、特定ユーザーへの過度の依存が継続すると、その企業やそれを取り巻く環境の変化によって、当社の受注が減少し、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。当社としては、全体の企業規模拡大に並行して、ユーザーの分散や販売分野の分散を、積極的に推進してまいります。
(3) 知的財産権管理
①産総研との独占実施契約
当社の生産技術は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、「産総研」といいます。)が開発した手法を元にしており、この技術の知的財産権は産総研が有しております。当社は、産総研との間において、当社の製造技術に係る産総研が保有する特許の独占的通常実施権の許諾契約(以下、「原契約」といいます。)を締結しております。
原契約及びその後の原契約の独占的通常実施権の許諾期間の変更契約による許諾期間が2023年10月31日に満了いたしましたため、2023年12月21日に、産総研の保有する特許の再実施許諾権付通常実施権を有する株式会社AIST Solutionsとの間において、原契約の独占的通常実施権の許諾期間の変更契約を締結し、許諾期間について3年間の延長を行っております。
なお、原契約及び原契約に基づく許諾期間の変更契約について、継続に支障をきたす要因は発生しておりませんが、当社の帰責事由により、原契約及び原契約に基づく許諾期間の変更契約が解約され、原契約に基づく許諾期間の変更契約の許諾期間満了前に終了した場合には、当社の財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
2023年12月21日に締結した原契約に基づく許諾期間の変更契約による許諾期間は、2026年10月31日に満了を迎えますので、今回と同様に許諾期間の変更契約を締結する所存です。仮に、この満了時期に許諾期間の変更契約が締結できない場合でも、非独占的通常実施権が特許の存続期間満了日まで付与される契約となっておりますが、他社が産総研に対して実施権を要求すること等により、産総研が他社と非独占的通常実施権を付与する契約を締結した場合は、当該他社は当社の競合となる可能性があり、当社の財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。仮に、他社が産総研から実施権の許諾を受けた場合でも、多くのノウハウの確立や多数の親結晶の作製に年単位の時間が必要と考えられるため、当社が競争優位性を継続して確保できると考えております。
②知的財産権の取得方針、侵害等
当社は、生産技術が漏洩することを防ぐため、これまで特許などの出願を行わない方針としておりました。生産技術には多数のノウハウがあり、これが技術の実現には重要なカギとなっています。しかし、製品に関連する特許などについては、当社が権利を保有することが重要である場合が出てきているため、前事業年度において、製品に係る特許を出願いたしました。当連結会計年度において、実用製品をいくつか発売開始したこともあり、知的財産権の出願は重要な状況になっております。今後もこのような知的財産権について権利化できるように、出願及び審査を進めてまいります。また、技術的なよりどころとなっている産総研の特許群については、維持及び他社による模倣状況のチェックを行っております。しかしながら、他社との間で知的財産権を巡る紛争が生じた場合や、他社から知的財産権を侵害された場合には、事業活動に支障が生じ、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
主力製品である種結晶については、これまで出願された特許は見つかっておらず、公知となって長期を経過していることもあり、特許上の係争が起こる可能性は低いと考えております。
(4) 生産技術の模倣
当社は、産総研が保有する特許について、独占的通常実施権の許諾契約(その後の許諾期間の変更契約を含む。)を締結して利用しております(許諾期間満了日:2026年10月31日、契約に含まれる特許数:特許の存続期間満了となったものを除き国内外の総件数15件、独占的通常実施権の継続はその時点で産総研及び産総研の保有する特許の再実施許諾権付通常実施権を有する株式会社AIST Solutionsと協議を予定、許諾期間満了後も各特許の存続期限まで非独占実施権は付与されます。)。
当社では、特許の技術による種結晶製造のノウハウを確立するため、産総研と共同研究を行って来ており、製品化までのノウハウについては特許に記載されていないこともあり、他社が容易に模倣することは難しいと考えております。しかしながら、他社が当社の技術を模倣し種結晶等の製造を行うことになった場合、事業活動に支障が生じ、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
なお、現在の独占的通常実施権の許諾契約は15件の特許を包括的に締結していますが、個々の特許の存続期限が今後次々に到来するので、それらの重要性に鑑み、契約書の内容を変更する必要が出てくると考えられます。その時には、当社の事業継続と特許の期限を迎えていない技術の占有状況が維持でき、リスクを最小限とするよう、産総研及び株式会社AIST Solutionsと契約内容を協議いたします。
(5) 退職者による技術・ノウハウ流出
当社の生産技術には産総研の特許権のほかに生産ノウハウがありますが、当社は漏洩が起こらないよう常に管理を行なっており、役職員の退職時には秘密保持誓約書を提出させることとしております。しかし、生産ノウハウ等の情報流出及び新規製品の開発計画の漏洩が発生し、他社が当社の生産技術を模倣したり、同様の製品開発を行ったりする場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。産総研特許の範囲である基幹技術については、独占実施権で守られておりますので、流出してもリスクは大きくないと判断しております。
(6) 競合他社について
①ユーザーが自家生産する種結晶との競合
当社は種結晶を独自技術により製造し人工宝石製造会社等に販売しておりますが、当社の販売先である人工宝石製造会社から取引に際して当社から購入した種結晶から種結晶を再製作しない旨の宣誓書を入手しております。しかし、当社の販売先である人工宝石製造会社の一部が、当社から購入した種結晶を利用して成長させた結晶を薄く切断して、その表面を研磨することで、種結晶を製作しています。その場合には、当社と競合することになります。このやり方の製造コストは、現時点では当社より高いと判断しておりますが、宝石製造会社の技術進捗や購入する装置が安価化することによって、当社の製造コストの優位性がなくなり、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
既にこの手法で種結晶を生産しているユーザーもありますが、一方では継続して当社の種結晶を購入しており、販売先としての関係は、状況を監視しながら継続いたします。
②疑似単結晶ダイヤモンドの種結晶への適用
ダイヤモンド単結晶以外の物質を使って、その上に成長したダイヤモンドが、一定以上大きな結晶粒径となる場合があり、疑似的な単結晶と扱う場合があります。セラミック単結晶基板にIr(イリジュウム)薄膜を成長させて一定の方向を向い結晶の基板を作る技術と、剣山状に加工したセラミック基板にダイヤモンドを成長することで単結晶の成長数を限定する技術が知られております。20x20mm以上の大型の結晶を製作できるとの報告があります。この結晶を種結晶として発売している企業があるとの情報を入手しております。
しかし、この結晶は宝石用結晶の成長時に亀裂が発生するなどの問題に加え、カラーや結晶のゆがみ等のために、できあがった宝石は当社種結晶を使用した場合に比べ、歩留が悪いことが判明しております。これは、完全な単結晶でないために、種結晶に残留する応力が影響するためと考えられております。
また、この製品を販売してきた企業は、2022年に米国のLGD製造企業に買収されました。その後インドにおいて、その結晶のコピーが販売されております。
上記のように、LGD企業は自家生産した種結晶を製作していますが、この疑似単結晶を作る動きが多く見られ、当社にとって大きな脅威となっております。前事業年度において当社15x15mm種結晶を実用化しましたが、ブリリアントカットの場合この単結晶は10ct相当のルースを生産できますので、多くのユーザーにとっては十分な形状の種結晶を販売できる状況になっております。
当社は、2025年2月に30x30mm単結晶を実用化しましたが、15x15mm以上の種結晶を製品化することは、当社の強みを削ぐことになると懸念しておりますので、種結晶の更なる大型化については慎重に検討してまいります。
③疑似単結晶大型ウエハ
上記の疑似単結晶で、2インチ以上の大型ウエハが開発されたとの報告があります。米国企業の1社は、4年前に4インチウエハの公開も行っていますが、未だに2インチウエハすら実用化出来ておりません。この原因として、出来上がったウエハ素材が、フラットな形状となっておらず、研磨が出来ないという問題点が指摘されています。また、実質的に多結晶としての特性で、単結晶をして使用するのには多くの問題点がある、との指摘もあります。
当社は、大型の単結晶を開発し、それを横方向に接続するモザイク結晶で2インチ以上の大型ウエハを開発すべく取り組んでおり、2025年2月には30x30mmの世界最大の単結晶を実用化しました。これを使った1インチウエハは時を置かず実用化し、さらに4個の結晶を接続した2インチウエハを、2025年末までに実用化するというロードマップを公開しております。
しかし、先行してこのようなウエハが実用化する可能性もあります。大型のウエハが利用できることは、デバイス製造工程にとっては大きな利点があります。このようなウエハの性能が向上すれば、当社が製品化を計画している大型ウエハの実用化に大きな影響を与える可能性があります。
(7) 生産装置の陳腐化
当社では種結晶の成長装置の性能向上等を目的として、産総研や装置製造会社との共同開発を実施し、2022年11月に新設された島工場において、新成長装置が稼働しました。その性能は計画段階の想定と差異がなく、従来の成長装置よりも30%以上生産の効率が向上しました。しかし、競合他社でもある人工ダイヤモンド宝石製造会社が成長装置の大幅な技術革新を実現した場合、当社の成長装置の性能が陳腐化することでコスト競争力が失われ、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。また、産総研とも共同研究などを通じて、成長装置の高度化を進める所存で、リスクを下げるような各種の対策を講じております。
(8) 重要な生産装置の重大な故障
当社の生産工程において、必ず使用する必要があるイオン注入装置を2台保有しております。当社では定期的な設備点検により故障を防止する対策を行っておりますが、主要部品が壊れるなど長期にわたって当該装置が稼働できないという状況になった場合には、生産が完全に止まることとなり、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
(9) 特定人物への依存
これまでの当社の新製品開発や新技術開発については、当社の代表取締役社長である藤森直治を中心として推進してまいりました。当社は、産総研ダイヤモンド研究センター長であった藤森直治を中心に、ダイヤモンド単結晶製造技術の事業化を目的として設立されており、その技術の知見に対する依存度は極めて高いと言えます。開発や生産に係る技術者を雇用、育成することで、藤森直治に依存しない体制の構築は進展しており、何らかの理由により業務執行できない事態となった場合でも開発や生産に大きな問題が発生する状況ではありません。しかし、今後の新製品の開発遅れや、生産効率化の遅れなどにより、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
(10) 小規模組織であること及び人材確保
当社は小規模な組織であり、現在の人員構成における最適と考えられる内部管理体制や業務執行体制を構築しております。当社は事業の拡大を目指していますが、その実現には管理体制強化及び絶え間ざる技術革新が必要であり、管理部門、生産部門、開発部門で幅広く人材確保を進めています。特に、今後海外での事業展開が始まるため、そのための要員の確保は、非常に重要となると考えております。特に、海外子会社を設立しましたので、その業務管理や今後の発展のための企画等に、相応の人材が必要です。しかしながら、計画通り人材の採用が実現できなかったり、必要とする能力を有する人材の応募が無かったりした場合には、適切な人材配置が困難となり事業拡大に制約が発生するなどにより、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(11) 感染症等の影響(新型コロナウイルス等の感染症問題)について
当社は新型コロナウイルス蔓延時においては、役職員に対し、テレワークやオフピーク通勤を奨励し、定期的にPCR検査を実施しました。また、遠距離の出張の原則禁止や宴会を行わない等の蔓延防止策を講じました。全国的な患者発生数の減少や、政府の蔓延防止施策の変更があり、当社は既に通常時の業務体制に戻っております。
しかし、新たな変異株などで、当社において感染症等が蔓延した場合、業務停止及び遅延によって、売上の減少、納期遅延等が生じる可能性があります。また、当社の顧客に感染症等が蔓延した場合、顧客からの発注が止まることや、出荷停止、遅延等が生じる可能性があります。さらに、当社の仕入先や外注先に感染症等が蔓延した場合には、調達及び製品製造の停止や遅延等が生じる可能性があります。これら諸要因の動向によっては、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(12) 自然災害等
当社の活動拠点の本社、横江工場及び島工場は、大阪府北摂地区に立地し、外注先は愛知県西部の臨海地域に立地と、活動拠点は分散しているため、両地域が同時に台風や地震で壊滅的な被害を受ける可能性は低い、と判断しております。しかしながら、当社の生産能力の大部分は大阪府北摂地域に集中しているため、大阪府北部で大地震やその他操業に影響する災害などが発生した場合には、売上の減少、装置類の損傷による多額の補修費用の発生、停電による情報管理ネットワークの遮断等により、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
(13) 当社製品へのクレーム
当社では生産する全ての製品について、万全の品質管理に努めるとともに、全ての工場の設備の予防保全に努めており、現時点において、品質に関する重大なクレーム及び納期に関するクレーム等は発生しておりません。また、軽度のクレームには迅速に対応し、顧客の信頼を損ねないような対応を行っております。クレームには真摯に原因の究明と、改善策の立案を行い、これを顧客に報告しております。しかし、将来、製品の重大な品質クレームや重大な生産トラブルによる納期クレームが発生した場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(14) 為替リスク
当社は数多くの海外顧客との取引があり、海外顧客との取引(日本の商社経由の取引を含む)は外貨建て取引を採用しており、当社の取引高に占める外貨建の取引の割合は2023年3月期が95.3%、2024年3月期が67.4%、2025年3月期が65.0%となっております。為替に関して円高のトレンドが明確となった場合には、為替予約によってリスクを回避することとしており、既にこのための体制を整えております。最近3年間の変動状況から、130円/$以上の円安の水準では、為替予約を基本的には行わず、130円/$の水準に近づいた段階で為替予約を執行することを検討いたします。
(15) 米国の関税政策の影響
トランプ大統領の就任で、米国の関税政策は大幅に変化しており、各国へ10%の関税率を適用し、交易の状況によってその上積みを行うとの方針が示されました。このような関税が日本の輸出品に適用されますと、当社製品の米国内の価格が上昇します。ユーザーから値下げ要求が来ることは予想されますが、米国への輸出品のほとんどが基板やウエハで、当社製品は他社が発売していないか、形状や特性で優位な位置にあります。従って、値下げ要求に応じなくとも購買される可能性はあると考えられますが、先方の予算状況等によっては値下げが避けられない可能性もあります。
トランプ大統領の政策は日々変化する状況にあり、先を読み切れないところが対応の難しいところです。日本とトランプ政権との交渉が上手く行かず、過大な関税がかかることとなれば、米国ユーザーとの取引が難しくなる可能性もあります。その場合は、計画している基板やウエハの販売が増加せず、当社の経営成績及び財政状態が想定よりも悪化する可能性があります。
(16) 情報漏洩
当社は、開発段階から顧客と共同で取り組んでいる案件について、秘密保持契約を締結し情報管理を行っております。また、共同開発(研究)契約を締結して進めている案件もあります。これらの契約は、契約していること自体が重要情報である場合もあり、役職員にはこの重要性を知らしめ、啓発、教育を行うと共に、秘密保持誓約書を提出させる等、情報漏洩の防止には万全を期しております。
しかし、情報の漏洩が発生した場合には、当社が賠償責任を負う可能性があり、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(17) 訴訟に関するリスク
当社の事業又は活動に関連して、知的財産権、環境、労務等、様々な訴訟、紛争、その他の法的手段が提起される可能性があります。現在、当社の経営成績と財政状態に重大な影響を及ぼす訴訟は提起されておりませんが、将来において、重要な訴訟等が提起された場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。特に、主要製品である種結晶、ウエハに関する係争については、注意を払っております。
(18) ストック・オプション及び新株予約権の行使による株式価値の希薄化
当社は、取締役、監査役及び従業員等に対するインセンティブを目的として、ストック・オプションを付与しております。これらのストック・オプションが権利行使された場合、当社株式が新たに発行され、既存の株主が有する株式の価値及び議決権割合が希薄化することとなり、将来における株価に影響を及ぼす可能性があります。
当社は2024年9月に新株予約権の発行による資金調達を開始しました。これによって当連結会計年度においては、1,220,000株が行使され、853,014千円の資金を調達しました。当連結会計年度における希薄化率は9.29%でした。当連結会計年度末において1,080,000株の新株予約権の行使が行われる可能性があり、その希薄化率は7.51%であります。
本書提出日の前月末現在のこれらのストック・オプション等による潜在株式数は、1,589,500株であり、本書提出日の前月末現在の発行済株式総数14,457,600株の10.99%に相当しております。
(19) 配当政策
当社はこれまでの経営状況から、配当を行っておりません。将来の社債発行や増資に際して、配当を行っていないことでの不利が発生し、必要な資金調達が出来ない事態がリスクとなる可能性があります。それによって、必要な設備投資ができなかったり、遅れたりすることで、ビジネスの拡大が妨げられたり、顧客を失ったりする可能性があります。
当社は2024年11月26日に、「設立15周年記念株主優待の実施に関するお知らせ」を開示し、2年以上当社株を保有された株主に、ギフト券を進呈することと致しました。
今後当社は、利益を確保でき、配当に十分な剰余金を確保した場合には、配当の実施を検討いたしますが、現時点では実施時期は未確定です。
(20) 各工場及び土地の賃貸借契約が解除され、継続使用が困難となるリスク
当社が活動している本社、各工場及び土地は、賃貸借契約で入居しております。災害あるいは貸主の都合によって、この契約を解除され、退出を余儀なくされれば、全般の活動や生産活動に支障を来たします。工場の移転期間中の減産や、インフラ設備の除去費用、さらに移転費用の負担があり、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。現状の契約期間は、横江工場が3年、開発部が2年と比較的短期間であることから、今後、契約期間の長期化に向けた対応を検討いたします。
(21) 法的規制等
当社は事業活動において、輸出貿易管理令、製造物責任法、外国為替及び外国貿易法、特許法、下請代金支払遅延等防止法、建築基準法、借地借家法、労働安全衛生法、消防法、廃棄物処理法、大気汚染防止法等の各種法的規制を受けておりますが、上記法的規制等の新設や改正等が行われた場合には、当社の事業活動が制約を受け、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、当社は、法令等の遵守に努めておりますが、何らかの理由で上記法的規制等への抵触が発生した場合、当社の事業活動が制約を受け、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
経済産業省は、経済安全保障強化のため、「輸出貿易管理令の一部を改正する政令」を制定し、2022年12月6日に施行されました。その中に規制対象として半導体基板としての三酸化二ガリウム(Ga2O3)とダイヤモンドが追加されました。当社は、研究用基板のみならず主力製品の種結晶等についても、関係機関や当局とコミュニケーションをとり、改正後の法令に則した対応等について確認を行ってきました。
当社は、当社の製造するダイヤモンドが半導体材料として不十分な特性を持っていることから、同政令改正後も輸出を継続しておりました。これに対し2023年4月に経済産業省から、政令の趣旨に沿った的確な対応するようにとの指示があり、2023年4月以降、一時的に製品の輸出取引を保留しておりました。2023年5月に、当局から、1,000千円/件以下の輸出案件に対して輸出を承認されたので、一部の製品の出荷を開始いたしました。さらに、2023年6月に改正後の法令に則し、規制対象品として輸出許可申請を行って輸出許可を得るようにとの見解が示されました。そのため、2023年6月下旬から各種製品の輸出申請を開始し、7月以降には、順次輸出許可を得て、出荷を開始いたしました。
しかし、輸出許可を取得するまでに時間を要することから、製品の納期が長期化し、一部の顧客からはこのことが理由で受注に結び付かない事態も発生しました。
2023年10月には一般包括許可を取得し、欧米やオーストラリアに対しては輸出許可を得ずに出荷できるようになりました。これによって、これらの地域に関しては納期が長くなる事態は避けられるようになりました。引き続き、特別一般包括許可を取得し、規制対象国以外には輸出許可を得ずに出荷できるように、申請手続きを準備しております。
なお、当社が2022年12月から2023年4月にかけて規制品目であるダイヤモンド基板等を、経済産業省の許可を得ずに輸出しておりましたことに関し、経済産業省より2024年5月21日に「厳正な輸出管理の徹底について(厳重注意)」を受領しました。当社としては、今回の事態を厳粛に受け止め、貿易管理委員会を設置し、これまで以上に法令遵守を徹底し、社内体制を整備することにより、再発防止に努めております。
2024年1月に100%子会社であるエス・エフ・ディー株式会社を設立しましたが、この輸出貿易管理令の遵守は、同社においても厳格に行う必要があり、今後その体制を構築してまいります。同社及び他の関係会社においても同様の処置を執る所存です。これらの管理が不十分な場合には、当社の輸出についても影響を受け、当社の営業成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(1)経営成績等の状況の概要
当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
なお、当社グループは、当連結会計年度より連結財務諸表を作成しております。従いまして、前連結会計年度との比較分析は行っておりません。
また、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
①経営成績の状況
当連結会計年度における世界経済は、ウクライナやパレスチナでの紛争が継続し、シリアでは反政府勢力によって政権転覆が起こりました。米国大統領選挙においてはトランプ氏が当選し、第2期目として米国第一主義を推進するために、関税政策の大幅な変更と、これを交渉材料にした外交政策が進められ、世界情勢を一変させました。
特に、従来からの友好国との貿易関係について、米国の貿易赤字を減少させることを各国に要求することで、冷戦終了後の世界の政治情勢そのものを根底から覆すこともあり得ることを予感させられました。
関税政策変更の影響の大きさから、為替や金利の変動幅が大きくなり、これに伴って株式市場も変調をきたしました。関税が大幅に上がることで、米国物価が一層上昇するとの予想もあって、比較的順調に推移してきた米国経済の先行きも、憂慮すべき事象が増加し、消費の先行きにも影を落とす可能性が出てきました。
当連結会計年度の前半は、米国景気が好調を維持し、米国の株価が高止まり傾向となり、ドル円の為替レートは円安方向に振れました。国内の株価も高止まり傾向で、物価上昇が続きましたので、日本銀行はこれまでの金融政策の方針を変更し、2024年3月にマイナス金利政策を終了させ、政策金利を引き上げました。年度末近くになって上記の経済情勢から円高方向に振れ、物価動向も見通しが難しくなりました。米国の関税政策によっては、日本経済が大幅な景気後退に襲われる可能性も出てきた点が、今後の懸案事項と考えております。
当社グループ製品の主要なビジネス分野であるLGD(Laboratory Grown Diamond:人工宝石)市場は、当連結会計年度においても引き続き規模が拡大しております。米国ではLGDのダイヤモンド宝石市場におけるシェアが50%を超えているとの報道もあり、いよいよ本格的なLGD市場形成が進むと見られます。
しかし、2023年3月期終盤から、特に小型宝石の供給過剰が発生し、そのことによってLGDの価格の下落傾向が大きくなり、その影響は天然ダイヤモンドの価格下落をもたらしました。LGDの価格が同じグレードの天然ダイヤモンドの価格の15%程度といった低価格で取引される事例が見られるなど、LGDの大幅な価格下落によって採算割れを起こしたと見られる一部の企業は倒産などの事業撤退に追い込まれ、一部は生産工場の操業を停止する事態になりました。特に小型宝石を中心に製造していた企業は、困難な状態が顕著に現れています。大手企業も例外ではなくその米国LGD工場の操業停止や、欧州企業の債務整理開始、といったニュースが飛び込んできました。多くのLGD製造企業が集積しているインド・スーラット市や、イスラエルでも有力企業の倒産が発生しました。
また、LGDメーカーが種結晶を自家生産する動きがさらに拡大し、インド及び中国の種結晶メーカーが、安価で大型の種結晶を供給し始めております。このような情勢から、種結晶価格は低位のまま推移いたしましたので、当社グループの種結晶の一部について収益性が悪化しました。また、小型宝石から高価な大型宝石へ軸足を移す動きが顕著となり、求められる種結晶のサイズは12x12mm以上の割合が大幅に増加しております。特に、15x15mm種結晶の需要が大幅に増加し、当社グループとしてもその生産体制を強化しております。
こうした状況下、当社グループは、2024年11月28日に公表いたしました「2025年3月期中間期決算説明資料」及び2025年2月21日に公表いたしました「2025年3月期第3四半期決算説明資料」で示しましたとおり、<EDPは変わります>と宣言し、種結晶偏重のビジネス形態からの離脱をテーマに、抜本的な事業構造改革に取り組んでまいりました。具体的には、種結晶偏重という事業構造から脱却し、LGD分野では、種結晶から宝石までの関連製品を取り扱うこととしました。また、デバイス分野への取り組みでは、とりわけ大型ウエハの実用化に向けた開発体制を強化しました。
当社グループは既に公表しましたとおり、2024年1月にエス・エフ・ディー株式会社(以下、「SFD」という。)を設立し、宝石の製造・販売企業としての事業開始準備をすすめ、各種の宝石の試作を行いました。また、SFD India Private Limited(以下、「SFD India」という。)をインド・スーラット市に設立し、業務を遂行するための体制を整えてきました。
当社グループでは宝石製作の原料となる原石製作について、当連結会計年度において鋭意取り組んでまいりました。その結果、当社グループの保有する大型単結晶を利用した高品質の原石生産が可能となりました。これらの原石を宝石に加工した結果からも、有効性が確認されました。
SFDは既に当社で生産した原石を購入し、これを海外の委託先において加工し、宝石としての完成品を保有しております。また、当面販売するために市場から宝石購入したものを、在庫の一部として保有し、ごく一部の宝石は国内で販売を行いました。
また、当連結会計年度においては、世界各国でダイヤモンドデバイスの開発が活発化し、各国が競ってこの開発に資金を投入する状況になりました。基板等の売上は2024年3月期に大幅に売上が増加いたしましたが、当連結会計年度においても増加傾向は変わりませんでした。また、デバイス開発を軌道に乗せるための2インチウエハの実用化に結び付く、30x30mm単結晶の開発を進め、2025年2月13日に当該サイズの基板の製品発売をいたしました。活発化している量子デバイス向けの低窒素(111)基板も発売し、エピタキシャル基板についても各ユーザーの要望に沿う形で多種類の構造を出荷できるようになりました。
このように、ダイヤモンドデバイス開発の進展を受けて、いよいよ本格的にダイヤモンドデバイスに向けた素材の市場が形成される時期が近づいており、当社グループは大型ウエハの実用化までの技術ロードマップを「2025年3月期中間期決算説明資料」及び「2025年3月期第3四半期決算説明資料」に開示し、当該技術ロードマップに沿った開発を進めております。半導体デバイスの製造プロセスを利用するためには、2インチウエハ(直径50mmの円盤状)より大型のウエハを使用することが必要です。この実現のためには、25x25mm以上の単結晶を4個接合したモザイク結晶(50x50mm以上の面積)を開発する必要があります。2025年2月13日に発売した、30x30mm単結晶が、その開発のキーとなる素材で、2025年12月末を2インチウエハの開発期限の目標として、取り組んでまいります。2インチウエハの実現のために、単に素材製作だけでなく研磨技術や成長装置の大面積化についても並行して開発に取り組んでおります。2インチ以上のウエハを使ったデバイスの量産に向けて、生産体制を整備して、ユーザーのニーズに適合したウエハを商品化していくことが重要となっており、これらに対する開発投資も行いました。
以上のような宝石の製品化や、大型ウエハの実用化に向けて、生産ならびに開発設備投資が必要と判断し、2024年9月に新株予約権による資金調達を開始いたしました。当連結会計年度末までに、853,014千円を調達いたしました。さらに、新たに銀行融資により、事業構造改革、開発投資を進めるための資金を厚めに手当ていたしました。一部の設備につきましては、当連結会計年度に購入を開始いたしましたが、引き続き宝石やウエハの生産体制の確立に向けて投資を行っていく計画です。
2024年3月期において当社は市況の急激な変化から、種結晶や素材の在庫が膨らんでおりました。当連結会計年度においては、種結晶の価格下落の影響もあって、利益率が大幅に低下しました。さらに在庫の製品や素材は、在庫評価損を計上しましたので、大幅な損失が発生しました。
また、当連結会計年度においては、事業環境の変化を考慮し、当社グループの固定資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額として減損損失1,300,371千円を計上いたしました。
上記から、当連結会計年度の連結損益計算書上、大きな損失を計上することとなりましたが、キャッシュ・フローは資金調達が進んだこともあって堅調に推移しており、最終的には大幅なプラスとなっております。
以上の結果、当連結会計年度の経営成績は、売上高は902,729千円、営業損失は976,294千円、経常損失は989,231千円、親会社株主に帰属する当期純損失は2,306,367千円となりました。
また、当連結会計年度の製品種類別売上高は、種結晶が531,811千円、基板及びウエハは329,712千円、光学部品及びヒートシンクは14,688千円、工具素材は26,162千円、宝石は355千円となりました。
なお、当社グループはダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
②財政状態の状況
(資産)
当連結会計年度末における流動資産は2,721,889千円となりました。その主な内訳は、現金及び預金が1,441,911千円、商品及び製品が383,532千円、仕掛品が600,691千円となっております。固定資産は1,655,877千円となりました。その主な内訳は、有形固定資産が1,551,463千円となっております。
この結果、総資産は4,377,766千円となりました。
(負債)
当連結会計年度末における流動負債は354,000千円となりました。その主な内訳は、1年内返済予定の長期借入金が155,700千円、未払金が85,640千円となっております。固定負債は604,896千円となりました。その主な内訳は、長期借入金が470,180千円、資産除去債務が104,394千円となっております。
この結果、負債合計は958,897千円となりました。
(純資産)
当連結会計年度末における純資産合計は3,418,869千円となりました。その主な内訳は、資本金が1,936,735千円、資本剰余金が2,466,335千円、利益剰余金が△983,645千円となっております。
③キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は1,441,911千円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における営業活動の結果使用した資金は516,715千円となりました。主な獲得要因として減価償却費が459,336千円、減損損失が1,300,371千円あったものの、主な使用要因として税金等調整前当期純損失が2,291,460千円あったこと等によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における投資活動の結果使用した資金は77,962千円となりました。これは主に固定資産の取得による支出が45,786千円、非連結子会社株式の取得による支出が32,175千円あったことによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における財務活動の結果獲得した資金は1,249,065千円となりました。これは主に長期借入れによる収入が500,000千円、新株予約権の行使による株式の発行による収入が849,070千円あったこと等によるものであります。
④生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社グループはダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであります。当連結会計年度における生産実績は以下のとおりであります。
|
生産高 |
当連結会計年度 (自2024年4月1日 至2025年3月31日) |
前年同期比(%) |
|
生産高合計(千円) |
856,470 |
- |
(注)1.金額は製造原価によっております。
2.当社グループの売上高及び生産高は、ダイヤモンド単結晶の製造のための設備の規模(生産能力)に依存します。なお、当連結会計年度の当社の生産能力(カラットベース)は、以下のとおりであります。
|
|
当連結会計年度 (自2024年4月1日 至2025年3月31日) |
|
(カラット) |
|
|
生産能力 |
210,000 |
3.当連結会計年度より連結財務諸表を作成しているため、前年同期比については記載しておりません。
b.受注実績
当社グループはダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであります。当連結会計年度における製品種類別の受注実績は以下のとおりであります。
|
製品種類 |
当連結会計年度 (自2024年4月1日至2025年3月31日) |
|||
|
受注高(千円) |
前年同期比(%) |
受注残高(千円) |
前年同期比(%) |
|
|
種結晶 |
516,585 |
- |
8,417 |
- |
|
基板及びウエハ |
310,154 |
- |
7,005 |
- |
|
光学部品及びヒートシンク |
9,784 |
- |
625 |
- |
|
工具素材 |
26,893 |
- |
1,210 |
- |
|
宝石 |
355 |
- |
- |
|
|
合計 |
863,772 |
- |
17,257 |
- |
(注)当連結会計年度より連結財務諸表を作成しているため、前年同期比については記載しておりません。
c.販売実績
当社グループはダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであります。当連結会計年度における製品種類別の販売実績は、以下のとおりであります。
|
製品種類 |
当連結会計年度 (自2024年4月1日 至2025年3月31日) |
前年同期比(%) |
|
種結晶(千円)(注)2. |
531,811 |
- |
|
基板及びウエハ(千円) |
329,712 |
- |
|
光学部品及びヒートシンク(千円) |
14,688 |
- |
|
工具素材(千円) |
26,162 |
- |
|
宝石(千円) |
355 |
- |
|
合計(千円) |
902,729 |
- |
(注)1.当連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は以下のとおりであります。
|
相手先 |
当連結会計年度 (自2024年4月1日 至2025年3月31日) |
|
|
金額(千円) |
割合(%) |
|
|
CBC株式会社 |
319,378 |
35.4 |
|
本田技研工業株式会社 |
113,197 |
12.5 |
2.当社グループは、大型のダイヤモンド単結晶を大量に製造することができますが、当社グループの主要な製品である種結晶について、人工宝石市場における種結晶の大型化のニーズが増大しております。なお、当連結会計年度におけるサイズ別の種結晶の出荷割合(出荷個数ベース)は以下のとおりであります。
|
種結晶サイズ |
当連結会計年度 (自2024年4月1日 至2025年3月31日) |
|
割合(%) |
|
|
7x7mm以下 |
0.4 |
|
8x8mm~9x9mm |
26.3 |
|
10x10mm~11x11mm |
38.2 |
|
12x12mm以上 |
35.1 |
3.当連結会計年度より連結財務諸表を作成しているため、前年同期比については記載しておりません。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。
①重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成されております。この連結財務諸表を作成するにあたり重要となる会計方針については「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載のとおりであります。
また、連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。
②経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容については、「(1) 経営成績等の状況の概要」に含めて記載しております。
a.経営成績に重要な影響を与える要因
当社グループの事業に重要な影響を与える要因の詳細につきましては、「第2 事業の状況3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。
b.資本の財源及び資金の流動性
当社グループの資金需要のうち主なものは、ダイヤモンド単結晶の製造のための設備投資、研究開発費、人件費等の営業費用であります。
当社グループは、事業運営上必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保することを基本方針としております。
当社グループは、日常の運転資金については自己資金で賄い、自己資金では賄えない設備投資資金等については金融機関からの長期借入で賄うとともに、資本での調達を検討することとしております。
なお、当連結会計年度末における借入金の残高は625,880千円であり、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は1,441,911千円であります。
c.経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、経営上の目標の達成状況を判断するための成長性を判断する客観的な指標として、①売上高成長率、②経常利益率、③ROE、④自己資本比率を重視しております。
なお、当連結会計年度より連結財務諸表を作成しているため、前年同期比については、記載しておりません。
①当連結会計年度における売上高成長率は、当連結会計年度より連結財務諸表を作成しているため、前年同期比については、記載しておりません。
売上高成長率は、当社グループの成長性や事業進捗のペースを表す指標として、重視しております。
当社グループの事業進捗において、設備投資及び研究開発活動が重要ですが、設備投資及び研究開発活動の結果が売上高に結びつくことが必要であるため、売上高成長率の確保に努めてまいります。
②当連結会計年度における経常利益率は、△109.6%となっております。
経常利益率は、当社グループの売上高に対する収益性を表す指標として、重視しております。
当社グループの事業進捗及び競争優位性の確保にとって、設備投資及び研究開発活動が重要ですが、そのための長期的な資金として自己資金を継続的に確保することが必要であるため、一定の経常利益率の確保に努めてまいります。
③当連結会計年度におけるROEは、△67.5%となっております。
ROEは、当社グループの投下資本に対する収益性を表す指標として、重視しております。
また、研究開発活動により、ダイヤモンド単結晶の新たな用途を開拓することにより事業領域の拡大を図ってまいります。具体的には、大型単結晶の開発、ダイヤモンド半導体デバイス開発に必要な素材の開発や光学部品として必要な高品質結晶の開発を推進してまいります。
④当連結会計年度の自己資本比率は、78.0%となっております。
当社グループの事業進捗にとって設備投資は重要ですが、財務の健全性を保つためには、自己資本比率を50%以上に保ちたいと考えております。過度な借入を行うことがないよう、キャッシュ・フローにも注意を払っております。
当連結会計年度末現在における重要な契約等は以下のとおりであります。
(1) 特許実施権許諾契約
|
契約締結先 |
契約締結年月日 |
契約期間 |
契約の名称 |
主な内容 |
|
国立研究開発法人産業技術総合研究所 株式会社AIST Solutions (注1) |
2020年5月1日 2023年12月21日 |
2026年10月31日まで |
特許実施権許諾契約 及び変更契約 |
当社の製造技術に係る産総研特許の独占実施権契約及び変更契約。全部で内外の15件の特許について、独占実施権を当社に付与する。 |
(注)1.契約締結先は、2015年に「独立行政法人産業技術総合研究所」から「国立研究開発法人産業技術総合研究所」に名称が変更されております。
また、産総研においては、現在、株式会社AIST Solutionsが産総研の保有する特許の再実施許諾権付通常実施権を有しており、2023年6月27日に産総研と当社との契約に関し、産総研の契約上の地位を株式会社AIST Solutionsへ移転する覚書を締結していることから、変更契約については、当社と株式会社AIST Solutionsの間の契約になっております。
2.上記の契約による独占的実施権の許諾期間満了後は、非独占的通常実施権が特許の存続満了日まで付与されることとなっております。
3.上記の契約は、以下の事由に該当する時は、書面による通知をもって株式会社AIST Solutionsが当社に解約を申し入れることができることとなっております。
(株式会社AIST Solutionsからの解約事由)
①当社が上記の契約に基づく特許実施権許諾の対価を支払わない時、又はそれらの支払いを著しく遅延した時
②当社が、上記の契約に定める当社製品の販売状況に関する報告書の提出を著しく遅滞した時、又は帳簿の閲
覧に正当な理由なく応じない時
③当社が上記の契約に定める秘密保持義務を怠った時
④当社が、直接間接を問わず、本契約に定める特許の有効性について争った時
⑤当社が、本契約の履行について虚偽の報告その他不法行為をした時
4.上記の契約は、以下の事由に該当する時は、書面による通知をもって当社が産総研及び株式会社AIST Solutionsに解約を申し入れることができることとなっております。
(当社からの解約事由)
①株式会社AIST Solutionsが上記の契約に定める秘密保持義務を怠った時
②本契約に定める特許の全部について拒絶すべき旨の査定もしくは拒絶をすべき旨の審決又は特許を無効にす
べき旨の審決が確定した時
5.上記の契約上の義務を履行しない場合には、15日以上の期間を定め当該義務の履行に関する催告をし、当該期間内に相手方による履行がなされない時は、書面による通知をもって、株式会社AIST Solutions又は当社が相手方に対し解約を申し入れることができることとなっております。
6.上記の契約に定める特許権の概要及び存続期間満了日は、以下のとおりであります。
|
特許権の名称 |
対象国 |
出願 または 登録 |
出願番号または出願年月日 登録番号または登録年月日 |
存続期間満了日 |
|
ダイヤモンドの表面層又は成長層の分離方法 |
日本 |
登録 |
特許第4919300号 2012年2月10日 |
2027年8月31日 |
|
ダイヤモンドの表面層又は成長層の分離方法 |
米国 |
登録 |
米国特許9410241号 2016年8月9日 |
2027年8月31日 |
|
オフ角を有する単結晶基板の製造方法 |
日本 |
登録 |
特許第4873467号 2011年12月2日 |
2026年7月27日 |
|
オフ角を有する単結晶基板の製造方法 |
独国 |
登録 |
独国特許第2048267号 2013年11月20日 |
2026年7月27日 |
|
オフ角を有する単結晶基板の製造方法 |
仏国 |
登録 |
仏国特許第2048267号 2013年11月20日 |
2026年7月27日 |
|
オフ角を有する単結晶基板の製造方法 |
英国 |
登録 |
英国特許第2048267号 2013年11月20日 |
2026年7月27日 |
|
大面積ダイヤモンド結晶基板及びその製造方法 |
日本 |
登録 |
特許第4849691号 2011年10月28日 |
2028年12月25日 |
|
大面積ダイヤモンド結晶基板及びその製造方法 |
米国 |
登録 |
特許第8940266号 2015年1月27日 |
2028年12月25日 |
|
モザイク状ダイヤモンドの製造方法 |
日本 |
登録 |
特許第5621994号 2014年10月3日 |
2030年12月15日 |
|
モザイク状ダイヤモンドの製造方法 |
英国 |
登録 |
英国特許第2488498号 2017年11月22日 |
2030年12月15日 |
|
ダイヤモンドの表面層又は成長層の分離方法 |
独国 |
登録 |
独国特許第2058419号 2016年8月9日 |
2027年8月31日 |
|
ダイヤモンドの表面層又は成長層の分離方法 |
仏国 |
登録 |
仏国特許第2058419号 2016年4月2日 |
2027年8月31日 |
|
ダイヤモンドの表面層又は成長層の分離方法 |
英国 |
登録 |
英国特許第2058419号 2016年4月2日 |
2027年8月31日 |
|
単結晶の製造方法 |
日本 |
登録 |
特許第4613314号 2010年10月29日 |
2025年5月26日 |
|
単結晶の製造方法 |
米国 |
登録 |
米国特許7736435号 2010年6月15日 |
2025年5月26日 |
(2) 賃貸借契約及び借地権設定契約
|
契約締結先 |
契約締結年月日 |
契約期間 |
契約の名称 |
主な内容 |
|
株式会社イマス |
2014年10月14日 |
2015年2月1日から 2020年1月31日まで (注1) |
建物賃貸借契約書 |
当社の横江工場として使用する建物の賃借 |
|
小西ますみ 小西税 小西敦 |
2021年12月21日 |
2021年12月23日から 2023年12月22日まで (注2) |
事業用建物賃貸借契約書 |
当社の開発部の拠点として使用する建物の賃借 |
|
有限会社KND |
2022年3月22日 |
2022年5月20日から30年間 (注3) |
事業用定期転借地権設定契約書 |
当社の島工場用地として使用する土地の事業用定期転借地権の設定 |
(注)1.契約期間満了6ヶ月前までに、当社及び契約締結先双方より相手方に対し、書面による別段の申し出がない場合は、本契約は自動的に3年間更新されることとなっております。なお、本契約期間内に契約締結先の正当な理由及び当社の都合により本契約を解約する場合、当社及び契約締結先双方ともに6ヶ月前までに相手方に対し、書面にて通告することが必要であります。
2.当社及び契約締結先の協議により、本契約を更新することができることとなっております。ただし、契約締結先が当社に対して、契約期間満了の6ヶ月前までに、本契約を更新しない旨または本契約の条件を変更する旨の通知等、特段の意思表示をした場合は、この限りではありません。また、本契約期間内であっても、当社が契約締結先に対して、3ヶ月前までに書面により解約の申し入れを行うことにより、本契約を解除することができます。
3.当社及び契約締結先は、本契約期間中に本契約を解約することはできないこととなっております。ただし、当社は、本契約期間中であっても、やむを得ない事情により、本契約を解約する場合は、6ヶ月前までに契約締結先に対して書面で通知することにより、通知後6ヶ月を経過後に本契約を解約することができます。
当社グループの研究開発活動は、(ⅰ)生産技術に関する研究開発、(ⅱ)新製品に関する研究開発、(ⅲ)製造装置及び方法に関する研究開発の3つのカテゴリーにおいて、優先順位を考慮して実施しております。
開発テーマは開発審査会を経て選定され、年度計画の下で開発作業を行っています。また、半期単位で開発報告会を開催して、進捗状況を社内に周知しています。
当連結会計年度における研究開発費の総額は、
研究開発活動の結果、当連結会計年度において、①宝石原石の成長条件の開発、②大型単結晶の開発、③研磨速度の高速化、について成果がありました。
研究開発活動の結果の具体的な内容は、以下に示すとおりです。
なお、当社グループは、ダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
(1) 生産技術に関する研究開発
当連結会計年度においては、原石の生産に関する開発を実施してまいりました。当社グループは以前から原石成長条件の確立のための基礎的な検討を行ってきましたが、実際に原石を作製し、これから宝石を製作し、そのカラーなどの評価を実施しました。成長条件による宝石のカラーへの影響は、反応ガス組成、ガス圧力、マイクロ波パワー、成長温度、等の多岐に渡るパラメーターの影響を把握し、宝石として販売可能なGカラー以上のグレードの宝石を安定的に生産できる条件を開発しました。その条件で作製した原石を、SFDに販売し、SFDは宝石を試作して、このようなグレードの宝石が製作できることを実証しました。
SFDの宝石ビジネスを軌道に乗せるには、一定量以上の宝石を生産することが必要となります。このために、原石を生産するための種結晶サイズを成長装置ごとに決定し、実際にその生産を行うことで歩留や異常事態の発生について検証しました。これらの活動を行ったことで、当社グループの原石生産は順調に実施できるようになりました。
(2) 新製品に関する研究開発
当社グループが想定している新製品は、応用分野によって分かれており、以下のとおりであります。
①ダイヤモンド半導体デバイス開発等に必要な素材の開発
a.ウエハの開発
ダイヤモンド半導体デバイス等の製作において必須の素材であり、2インチウエハの実用化を目指しています。当社グループは2024年11月に大型ウエハ開発のロードマップを開示しました。そこには以下のような順序で開発を行うことを表明しました。
①25x25mm以上の単結晶開発
②1インチウエハの開発
③4個の25x25mm単結晶の接続によって、2インチモザイクウエハの開発
④50x50mm単結晶の開発
⑤5個の50x50mm単結晶の接続によって、4インチウエハの開発
このロードマップの①は2025年2月に到達する計画としましたが、2025年2月13日に30x30mm単結晶の実用化を開示することができ、この期限を守ることに成功しました。この大型単結晶の開発は、地道な単結晶の大型化を進めてきた成果であり、世界最大の単結晶を開発した成果として各方面から注目を浴びました。
1インチウエハは、この大型単結晶を切断することで製作できますが、表面状態やエッジの処理等の付帯的な加工技術が必要で、当連結決算年度には実用化できませんでした。
b.各種エピタキシャル基板の開発
現在開発が進められているダイヤモンドデバイスは、パワーデバイス、耐放射線デバイスから量子デバイスまで多岐に渡っています。各開発においては特性の異なったダイヤモンドが要求されます。特に、ダイヤモンド単結晶基板上に不純物原子をドーピングしたり、高純度の薄い膜を形成した、エピタキシャル基板が必要な場合が多くあります。開発するデバイスによって異なる要求に応えるため、当社グループは以前からB(ボロン)をドーピングするエピタキシャル成長技術を開発し、低濃度及び高濃度のエピ成長基板を販売してきました。
近年、デバイスの構成上、層間の絶縁特性を従前以上に要求される場合があり、N(窒素)をドーピングしたエピタキシャル層を新たに製品に加えました。このNドーピング層と、何も不純物が無いノンドープ層を、低抵抗Bドーピング基板上に形成することについても依頼が多数あり、このような構造のエピ基板も出荷しております。
この様に多様なユーザーからの要求に対応するには、当社グループのエピ成長装置が不足していることが判明しましたので、装置を増強すべく、生産部においてこのための装置改造に着手しました。2025年8月にはこの設備が整い、生産能力が従来の2倍に増強できる見込みです。
c.当社グループが出荷できる各種の基板
既に発売して来た各種の基板、エピ成長基板をまとめると、当社グループは以下の表のようなラインナップを持っております。非常に多種類の製品を実用化しておりますが、ユーザーからの要求に応えて更なる開発を継続しております。
②光学部品として必要な高品質結晶の開発
ダイヤモンドは、熱伝導率が高く、熱膨張係数が小さいため、高エネルギービームの光学部品として適した材料です。また、X線を透過するのにも適しています。このような特性の組み合わせとして、強力なX線ビームを作り出す放射光施設で使う光学部品(特にモノクロメーターと呼ばれる部品)をダイヤモンド化することが、期待されています。
モノクロメーターに使用する結晶は、極限までの高品質とする必要があり、当社グループはこの結晶の開発を進めています。この用途の場合は、X線ロッキングカーブ半値幅(FWHM)が理想値である4.1arcsecに近いことが必要ですが、当社グループは既に10arcsec以下の単結晶が製作できることを確認しています。
(3) 製造装置及び方法に関する研究開発
2022年11月に稼働しました島工場に、産総研などとの共同研究の成果である、新型成長装置を導入しました。この装置によって、成長面積が拡大出来ることが判明しました。さらに成長面積を拡大して、4インチウエハの製造時にも利用できるように、成長装置内のホルダー等の部品について、検討を継続しています。