当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは、『こころ 動かそう いのち つなごう』を標語として、ひとびとが、命ある限り、健康で幸せな生活を送るために、技術とこころ、科学と人間をつなぎ、世界中のひとびとの健康と人生に貢献する新たな医療を作り出していくことを経営理念としております。当社グループはヒトiPS細胞由来の細胞加工物の製造方法に関する研究開発を推進し、安定的かつ効率的で、安全で信頼性の高い細胞加工物を生み出す高レベルな生産技術を確立した上で再生医療等製品としての製造販売の承認を目指しております。また、ヒトiPS細胞由来の再生医療等製品に限らず、新しい細胞製品の製造・実用化にも取り組み、その周辺技術とともに次世代の革新的な細胞治療モダリティを提供してまいります。
(2)経営環境
2025年3月期においては、日本経済は緩やかな回復基調を維持していたものの、依然続くロシアのウクライナ侵攻や中東地域における紛争、日本を含む各国の政治体制の変動、為替相場の円安継続並びに世界各国での物価上昇等、当社グループを取り巻く経営環境においては依然として不確定要因が多い状況でありました。今後も当社グループを取り巻く経営環境においては不透明な状況が続くと予想されます。
一方で、再生医療等製品の将来市場規模については、一般社団法人再生医療イノベーションフォーラムが作成した資料によれば、世界全体で2020年時点では約7,000億円と推計されているのに対し、2030年時点には6.9兆円、2040年時点には12兆円まで拡大すると推計されており、今後の拡大が見込まれます。
( https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/saisei_saibou_idensi/dai10/siryou1-5.pdf)
再生医療について、国内外の数多くの企業や研究機関等により技術革新は急速に進んでおります。
日本では、2014年11月に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(以下、「再生医療等安全性確保法」)及び「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、「医薬品医療機器等法」)により、再生医療分野の産業化が加速しておりますが、本格的な普及段階までには至っておりません。
(3)経営戦略
当社グループの経営戦略は以下のとおりであります。
① 大阪大学との共同研究開発を通じて、日本国内における、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの研究開発の推進、製造販売承認の取得、適用拡大を推進すると共に、本製品の製造及び販売体制を整備する。
② 各病院にヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを搬送するロジスティックス体制を構築する。
③ 海外での事業展開を見据えて、海外のアカデミアや大手製薬企業等との共同研究開発、提携等を推進する。
④ 当社製品の将来的な需要増及び海外での販売に備えて、細胞の大量製造及び省力化を目的とした共同研究をパートナー企業と推進する。
⑤ ヒトiPS細胞由来心筋細胞を使用した製品の改良、より侵襲性の低い製品の新規開発等を通じ、マーケットの拡大を図る。
⑥ 財務基盤の向上を図るため、CDMO事業を推進する。
⑦ 経営基盤の安定化及び向上を図るために、心臓以外の臓器の治療薬開発を行い、製品パイプラインの充実を図る。
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは研究開発費が先行するタイプの企業であり、また過年度より損失を計上していることから、ROEやROA等の財務指標は、当面、当社グループの経営指標として馴染まないものと考えております。したがって、各パイプラインにおける研究開発の進捗状況を経営上の目標の達成状況を判断するための指標としております。
なお、当社グループは、従来の創薬系バイオベンチャーが直面する、安定的な売上が計上されないまま研究開発費が先行する企業とは異なる経営戦略を採用しております。具体的には、製造拠点を自社で保有している強みを活かし、上市製品がなくてもCDMO事業で売上を安定的に獲得することや、共同研究パートナーから共同研究開発費を受領することにより、Cash burn rate(手元流動性が減る速度)を抑え、財務体質の強化を図ることで、投資家への収益還元を早期に実現することを目指しております。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループはヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの早期実用化を目指し、引き続き、大阪大学による医師主導治験の支援を行うと共に、下記の課題に対して経営陣、社員一丸となって取り組んでまいります。なお、現時点で当面の運転資金は確保していることから、優先的に対処すべき財務上の課題で特筆すべきものはありません。
[短期的な課題]
① ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの製造販売承認の取得への対応
・ガバナンス体制の構築:
当社は、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの製造販売承認の取得を見据え、製造販売業許可を2024年8月に取得し、また製造業許可についても2024年12月に申請しておりますが、これらの許可の要件となっているGQP/GVP省令に基づく組織の整備等について、当社の事業規模に見合った適切かつ合理的なガバナンス体制を構築してまいります。
・製造販売承認に向けた対応:
ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートについて、製造販売承認を取得した後に必要となる製造販売後調査のための体制の整備、及び当該製品の販売・流通のためのロジスティクスの構築等に引き続き取り組んでまいります。
② 海外展開:
当社製品の海外展開の実現に向けて、共同研究先や将来のパートナーの探索、体制の構築を行い、海外での事業化を目的とした取り組みを推進してまいります。
③ 新たなパイプラインへの対応:
ヒトiPS細胞由来細胞をカテーテルによる新たなアプローチで心臓へ移植する治療技術や、体内再生因子誘導による治療薬のみならず、新規開発パイプラインの拡充を図るべく、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートに続くパイプラインの試作品の開発や治験準備等、製品化に向けた取り組みを推進してまいります。
④ 細胞の大量培養システムの開発に向けた取り組み:
当社製品の将来的な需要増及び海外での販売を見据えて、細胞の大量製造及び省力化を目的とした共同研究をパートナー企業と推進してまいります。
⑤ 社内管理体制等の強化:
制定した社内規程の定着化に向け社内研修・啓発に努めてまいります。また、内部監査を継続的に実施し、内部監査室、監査役会及び会計監査人の三者間で緊密な連携を図ることにより社内管理体制及びコーポレート・ガバナンスの強化を図ってまいります。
[中期的な課題]
① 販売流通及び情報提供等の体制の整備:
基幹業務システムの導入、並びにロジスティクス、適正使用に必要な情報提供及び製造販売後調査に係る体制の整備・構築に取り組んでまいります。また、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの国内販売については、当社自身での販売及びプロモーション活動を行い、販売先を確保する方針であり、必要なリソースの確保を行っておりますが、しかるべきタイミングで医療機関との交渉を開始し、販売先の確保に取り組んでまいります。
② 人材の確保及び獲得:
当社グループは、社歴が浅く小規模な組織であるため、今後の企業価値向上に向けては、研究開発活動のみならず全社的に人材の確保及び拡充が重要な課題であると認識しております。当社グループは、次世代の治療技術の開発に従事できる点や、様々な研究開発パイプラインを有する点では、従業員に様々なキャリアプランを提供できると考えております。この優位性を人材の育成及び採用に活かすことで、優秀な人材の確保及び拡充を図ってまいります。
③ 知財戦略:
当社グループの研究開発活動(第三者との共同研究開発を含む)により獲得した知的財産についてそれらの権利を確保し、また第三者の知的財産権を侵害しないための体制整備を構築していることが将来の事業活動を推進していく中で重要な課題であると認識しています。そのため、当社グループの知的財産権を維持及び確保し、また第三者の知的財産権を侵害しないよう、顧問弁理士と緊密な連携を図り知的財産管理を行ってまいります。
④ Cash burn rate(手元流動性が減る速度)を抑える取り組み:
当社グループは、研究開発型の企業であり、研究開発にかかる先行投資として長期にわたり多額の資金を必要とするため、営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなる状況が継続しております。当社グループは早期の営業活動によるキャッシュ・フローのプラスへの転換に向け、製造販売承認の取得に向け取り組んでいるものの、再生医療等製品の研究開発期間は長期に渡ることから、上市製品がなくてもCDMO事業での売上を安定的に獲得することや、共同研究パートナーからの共同研究開発費の受領及び支出の抑制を通じて、Cash burn rateを抑える取り組みを行ってまいります。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1) サステナビリティに関する考え方
当社グループは、『こころ 動かそう いのち つなごう』を標語とし、世界に誇る日本の先端的な医療を基盤とした確かで安全な技術を活用し、世界中の人々の健康と人生に貢献する新たな医療を作り出すことを目標としており、現在は、主に重症心不全の患者に対する治療のための再生医療等製品の研究開発に取り組んでおります。
当社グループの製品が患者のQOL(Quality of Life)を改善することは、患者及びその家族にとって有益となるだけでなく、患者自身の社会及び経済活動への復帰が可能となることで、持続可能な社会の継続に貢献すると考えております。
また、当社グループが新たな医療手段を提供するための事業基盤を構築する上で、優秀な人材を確保及び維持することが重要であり、人材の育成、社内労働環境の整備、産業医による各従業員の健康管理、ワークライフバランスの取れた働き方の実現等を通じた人的資本の充実に全社的に取り組む必要があると考えております。
当社グループは重症心不全及びその他の疾病の治療を通じて、持続可能な社会の継続に貢献すべく、長期的な視野に立って経営活動を推進いたします。
(2) 具体的な取り組み
① ガバナンス
当社グループは、当社グループが直面する、あるいは将来発生する可能性のあるリスクを識別し、識別したリスクに対して組織的かつ適切な予防策を講じ、またこれらのリスクに関して何らかの事象が実際に発生した場合に適切な対応を行うため、取締役会の諮問機関として、取締役副社長を委員長とし、常勤監査役及び顧問弁護士を構成員とする「リスク管理委員会」を開催し、その審議結果を必要に応じて代表取締役社長及び取締役会に報告しております。
また、人的資本の充実に係る取組については、社外の社会保険労務士が労務状況をモニタリングし、その運用状況の確認を行っております。
② 戦略
当社グループは、商業用細胞培養加工施設と細胞培養加工技術を活用し、アカデミア、製薬企業、医療機器メーカー等をつなぎ合わせ、探索研究から商用生産までワンストップで提供すること、及び難治性疾患に対するものを含む次世代の治療モダリティや関連するソリューションを創造し、迅速に提供することを目指しており、従来の研究開発を中心としたバイオベンチャーとは異なった経営戦略を採用しております。
競争力の源泉は、先端的な研究開発を行う研究者及び研究開発成果を製品として実現する製造担当者にあり、人材の育成及び社内環境の整備は優先して取り組むべき事項であると考えております。そのため、当社グループは、戦略的に社内環境の整備や教育等の人的資本に対する投資を積極的に行うことを計画しております。
当社グループでは、人材の育成及び社内環境整備及びワークライフバランス等を踏まえた人的資本の充実を図る取組を進めております。
・男性の育児休業及び在宅勤務の促進。
・有給休暇の取得促進。
(有給休暇取得日数 当連結会計年度:平均9.8日)。
・小学3年生までの子の看護休暇について、無給休暇を年5日間(子が2人以上の場合は10日間)、有給休暇を年5日間付与。また、看護しながら仕事ができる在宅勤務制度を導入。
・要介護状態にある家族の介護休暇について、無給休暇を年5日間(介護対象者が2人以上の場合は10日間)、有給休暇を年5日間付与。
・看護休暇及び介護休暇において、更なる利便性向上の為、半日・時間単位での取得も可能。
・育児介護中の勤務者に対し短時間勤務制の適用や、インターバル制の適用等、各人に合った働き方の提供。
・社外の専門資格の取得・維持の補助、学会等への参加の推奨。
③ リスク管理
リスク管理委員会では、当社グループに影響を与えると思われるリスクの洗い出しと評価を行い、その影響度と発生の可能性から議題を選定しています。定期及び必要に応じ臨時に会議を開催し、リスク事例の共有や、リスク対策課題の策定とその対応策について議論しています。
リスク分析の結果につきましては、「
④ 指標及び目標
当社グループは、「② 戦略」に記載のとおり、ワークライフバランスを踏まえた取り組みを行っております。その指標目標として、以下のとおり、有給休暇の取得の促進を設定しております。
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当連結会計年度 |
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目標 |
実績 |
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有給休暇取得日数 平均 |
有給休暇取得日数 平均 |
当連結会計年度では前連結会計年度実績(平均8.6日)と比較して有給休暇取得日数が増加し、概ね目標を達成しております。また、取得日数の更なる増加のため、制度の改正を検討しており、引き続き有給休暇の取得を促し、従業員のワークライフバランスの向上を目指してまいります。
当社グループでは、「② 戦略」に記載のとおり、人的資本の充実を図る取組に関して、今後も検討、策定を進めてまいります。
当社グループの事業運営及び展開等について、リスク要因として考えられる主な事項を以下に記載しております。また、投資判断上、当社グループの事業活動を十分に理解する上で重要と考えられる事項についても、投資家や株主に対する積極的な情報開示の観点からリスク要因として挙げております。ただし、これらは投資判断のためのリスクを全て網羅したものではありません。
当社グループはこれらのリスクの発生可能性を十分に認識した上で、発生の回避及び発生した場合の適切な対応に努める方針ですが、当社株式に関する投資判断は、本項及び本項以外の記載も併せて、慎重に検討した上で行われる必要があると考えます。当社グループは再生医療等製品及び医薬品、バイオ原料及びバイオ製品並びにその他の製品(以下本項目において、総称して「再生医療等製品等」という。)の研究開発を行っておりますが、それらの研究開発には長い年月と多額の費用を要し、またすべての研究開発が成功するとは限りません。特に研究開発段階のパイプラインを有する製造・開発型バイオベンチャー企業は、事業のステージや状況によっては、投資家の投資対象として相対的にリスクが高いと考えられており、当社株式への投資はこれに該当します。
なお、文中の将来に関する記載は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、不確実性を内包しているため、実際の結果とは異なる可能性があります。
(1) 再生医療等製品等の研究開発及び製造販売に関するリスク
① 医薬品医療機器等法及び再生医療等安全性確保法等の法的規制について
(発生可能性:小、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
当社グループは、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを始めとする再生医療等製品等の開発、製造及び販売を行うため、「医薬品医療機器等法」、「再生医療等安全性確保法」、「製造物責任法」及び「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」等、多数の国内外の法的規制を受けております。
当社グループは、事業に関連する法規制について、業界団体等を通じた情報収集、社内チームでの検討や、専門家からの助言に基づき、関連法令等の遵守の徹底と管理体制の構築を図っておりますが、当社グループが法規制に抵触しているとして、法令等に基づく許可・登録の取り消し処分等を受けた場合、事業の停止や当社グループに対する社会的信用の失墜により、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループに関連する法令等の改廃や新規の法的規制の制定により、事業の継続が困難になる場合や、多額の追加コストが発生する場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
② 薬価制度と医療費抑制政策について
(発生可能性:中、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
当社グループは、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートについての日本国内での製造販売承認の取得を最優先に取り組んでいます。
日本においては、増嵩する医療費を抑制するため、定期的な薬価の引き下げや後発医薬品の使用促進等が進んでいます。当社グループが開発するヒトiPS細胞由来心筋細胞シート等の再生医療等製品及び医薬品が国内での製造販売承認を取得した場合、当然ながら薬価政策の影響を受けることになりますが、将来的に薬価が大きく引き下げられる場合には、収益性の低下により当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
③ 製品の安全性について
(発生可能性:小、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
再生医療等製品等の研究開発においては、新しい研究開発成果や安全性及び有効性に関する知見が日々発見されております。
現在、治験などの研究開発活動を通じてヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの安全性を慎重に確認している段階でありますが、重大な健康被害につながる顕在化したリスクとしては確認されたものはありません。
しかしながら、今後、治験実施時又は製造販売承認の取得後であっても、研究開発段階又は製造販売承認時には想定できなかった又は発見できなかった事由による健康被害が発生する可能性は否定できません。また、多様な再生医療等製品においては、製品ごとに安全性に関する懸念事項は異なることもあり、現段階では再生医療等製品として安全性が一般的に確立された状況ではありません。
同様に、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート以外の研究開発中の再生医療等製品等についても、その安全性及び有効性を慎重に確認しておりますが、研究開発段階には想定できなかった又は発見できなかった事由による健康被害が発生する可能性は否定できません。
そのため、そのような健康被害が発生した場合には、販売停止による売上高の減少等により、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
④ 研究開発の不確実性について
(発生可能性:中、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
当連結会計年度末現在、当社グループはヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの製造販売承認の取得に向けた開発を行っているほか、複数の製品の研究開発を行っている段階であり、売上高を獲得できる段階には至っておりません。当社は引き続きヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの開発及びその他の製品の研究開発を進めてまいりますが、それらの研究開発には不確実性が伴うため、開発活動が想定どおり進まない、又は承認の取得に想定以上の時間を要することで、製品の上市時期に遅れが生じた場合には、売上高の獲得の開始時期が遅れ、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼします。
また、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの安全性や有効性が認められず、製品の開発を中止する場合若しくは製造販売承認が取得できない場合、又は適応対象の限定など当初想定どおりの内容の承認を取得できない場合には、売上高の全部又は一部を獲得できず、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼします。承認が下りた後においても、再審査の結果、承認が取り消される可能性や、追加調査に伴うコストが発生する可能性があります。
さらに、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートが当初想定どおりの製造販売承認の取得に至った場合であっても、複数のパイプラインによる収益の多角化を進め、特定のパイプラインによる収益の依存度を低減する必要があると考えておりますが、特定の製品に依存するビジネスモデル下において、当該製品の収益性を損なうような事象が発生した場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
⑤ 技術革新と競合について
(発生可能性:中、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
国内外の数多くの企業や研究機関等により、再生医療領域に限らず、新たな再生医療等製品等に関する研究開発が行われており、技術革新は急速に進んでいる状況にあります。したがって、当社グループがこれからも優位性をもって事業を継続できるとは限らず、競合相手の研究開発の成果、新たな製造方法の確立、競合製品の安全性・有効性によっては当社グループの優位性が損なわれ、売上高が減少することで、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
⑥ 製造販売体制について
(発生可能性:中、発生する可能性のある時期:2年以内、影響度:大)
当社グループは、再生医療等製品等に関する研究開発のみならず、その製品化並びに製造及び販売も事業の目的としております。そのため、当社グループでは、自社で商業用細胞培養加工施設を保有するなど、製品の製造及び販売に向けた体制の確立に向けて注力しております。しかしながら、製造及び販売に従事する人材の確保が計画どおりに進まない場合や、大量培養技術の確立や大量培養をするための体制構築が想定どおり進まない場合、また、原材料等及び製品に係るロジスティクスの構築が想定どおり進まない場合若しくは想定以上のコストを要する場合、天災地変により細胞培養加工施設の稼働維持が困難となった場合等には、当社グループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループの再生医療等製品等の製造に当たっては、特定のサプライヤーのみ供給可能である特殊な原材料等があるため、それらの不足が生じないように一定量の事前確保等の対応を講じておりますが、当該原材料が不足した場合には、再生医療等製品等の安定的な供給に問題が生じる可能性があり、それによって当社グループの事業活動に支障が生じ、経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
さらに、当社グループは、製造販売承認された再生医療等製品及び医薬品等については、販売先となる医療機関等との交渉を進め、またバイオ原料及びバイオ製品並びにその他の製品についても積極的に販売先を確保する方針ですが、競合製品の台頭等により当社グループの事業計画を達成するための販売先の確保ができない場合や各販売先への販売数量が当社グループの想定する需要を下回った場合、販売先及び販売数量の確保が計画どおりに進まず、当社グループの経営成績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
⑦ 製造物責任について
(発生可能性:中、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
当社グループが再生医療等製品及び医薬品の製造販売承認を取得した場合、製造物責任賠償のリスクが存在しております。また、バイオ原料及びバイオ製品並びにその他の製品についても当社が製造を行うことから、同様に製造物責任賠償のリスクが存在しております。当社グループは、必要に応じて製造物責任保険を付保する予定でおりますが、最終的に当社グループが負担すべき全額を補填できるとは限りません。
そのため、当社グループの再生医療等製品等が患者又は消費者への健康被害を引き起こし、当社グループが製造物責任を負う場合には、売上高の減少、賠償額の支払、販売製品の回収の他、当社グループの信用失墜を招くことになり、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
⑧ 知的財産権について
(発生可能性:中、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
当社グループは、研究開発活動等により獲得した技術・ノウハウ等について、顧問弁理士等の助言に基づき、日本国内外での特許権等をはじめとした知的財産権を確保するよう努めております。また、当社グループが第三者の知的財産権を侵害しないよう顧問弁理士等に調査を依頼しております。
しかしながら、第三者により当社グループの知的財産権が侵害された場合や当社グループが第三者の知的財産権を侵害したことにより差止命令・処分を受け又は損害賠償を支払う場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループは職務発明規程その他の社内規程を制定しており、役員及び従業員等の職務発明等の譲渡を受ける体制を整えておりますが、特許法等の定めにより、それらの譲渡を受けるに当たっては「相当の対価」を支払う必要があるとされています。これまで発明者等との間で問題は生じておりませんが、将来において発明者等との間で対価についての紛争が生じた場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
さらに、当社グループが日本及びその他の国において出願した知的財産権が拒絶査定により登録されなかった場合、又は競業他社が先んじて出願し権利を取得した場合には、当社グループが当該知的財産権について法的保護を受けることができない状況、又は当該知的財産権を使用できない状況となり、当社グループの事業活動に影響を及ぼす可能性があります。
また、製品の開発及び製造等の当社グループの事業活動において、他社の知的財産権を利用する必要がある場合には、当該他社との交渉等を行いますが、他社から知的財産権の利用の許諾を得られない場合、又は交渉の過程で想定を上回る利用料を提示された場合は、当社グループの事業活動に支障が生じ、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(2) 事業活動に関するリスク
① 小規模組織及び少数の事業推進者への依存について
(発生可能性:中、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
当社グループは、従業員56名(臨時雇用者除く)の小規模組織であり、現在の内部管理体制はこのような組織規模に応じたものとなっています。今後、業容拡大に応じて内部管理体制の拡充を図る方針であります。
また、当社グループの事業活動は、経営者、各部門責任者及び特定の研究開発要員に強く依存するところがあります。特に、当社グループが製造販売を目指しているヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの主たる開発者であり、当社の取締役 最高技術責任者でもある澤芳樹大阪大学大学院医学系研究科名誉教授は、その経験、見識及び人脈等を含め当社グループの事業活動において非常に重要な役割を果たしています。そのため、常に優秀な人材の確保と育成、経験、見識及び人脈等の承継に努めてまいりますが、人材の確保や育成が順調に進まない場合、また人材の流出が発生した場合には、研究開発活動や製造活動等に遅延が生じるため、当社グループの事業活動に支障が生じる可能性があります。
② 特定の取引先への依存について
(発生可能性:小、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
当社は、2017年9月に第一三共株式会社と「共同研究開発契約」を締結し、心不全治療に用いるヒトiPS細胞由来心筋細胞製造法及びシート化技術の確立、製造販売承認申請に必要な非臨床及び臨床試験の実施、当該製品の製造販売承認の取得を目的とした共同研究開発を行ってまいりました。
これにより、当該共同研究開発に関して、当社は第一三共株式会社から研究開発費の受け入れを行うと共に、知的財産権等のライセンスの供与を受けております。
当社は、今後も第一三共株式会社とは良好な関係を維持し、共同研究開発等を継続していく方針でありますが、当社にとって不利な条件で契約が改定され又は契約が終了した場合には、研究開発活動の遅延、販売計画の未達等、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
③ 特定団体への依存について
(発生可能性:小、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
当社は、国立大学法人大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科の研究成果であるヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを再生医療等製品として製造及び販売することを目的として設立した企業であります。大阪大学とは、2016年9月に「共同研究講座設置契約書」を締結し、iPS細胞を用いた重症心不全治療の実用化に向け研究を進めてまいりました。現在においても大阪大学は、当社グループの研究開発活動において重要なパートナーであります。
また、当社グループが使用しているiPS細胞に直接関連する特許は、iPS細胞と同様、国立大学法人京都大学のiPS細胞研究所において確立されたものであり、同大学より当該特許権の実施許諾事業を任されているiPSアカデミアジャパン株式会社との間で特許ライセンスに係る契約をそれぞれ締結しております。
当社グループは、今後も大阪大学及びiPSアカデミアジャパン株式会社等とは良好な関係を維持し、共同研究開発等を継続していく方針でありますが、当社グループにとって不利な条件での契約改定又は契約が更新されなかった若しくは解除に至った場合には、研究開発活動の遅延等、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
④ 風評被害の発生について
(発生可能性:小、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:中)
当社グループや当社グループが属する業界に対する否定的な風評が、マスコミ報道やインターネット上の書き込み等により発生・流布した場合、それが正確な事実に基づくか否かに関わらず、当社の社会的信用に影響を及ぼすため、売上高の減少や取引先との契約解消等、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
⑤ 情報管理について
(発生可能性:中、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
当社グループの事業において、研究又は開発途上の知見、技術、ノウハウ等は非常に重要な秘密情報であります。当社グループは、その流出リスクを軽減するため、役員及び従業員並びに取引先等への守秘義務の設定、並びにクラウドストレージサービスを利用しての細かいアクセス制限の設定や会社指定デバイス以外からの社内ネットワークへの接続の禁止等、秘密情報の管理体制の整備などに努めております。しかしながら、不正アクセス等により、当社グループの知見、技術、ノウハウ等が流出した場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループの事業運営においては、クラウドサービスなどを積極的に活用し、システムダウンリスクの低減に努めていますが、それらのクラウドサービスの障害、停止などにより、当社グループの業務が長時間にわたり中断した場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
⑥ 電力不足による研究開発活動及び生産活動の停滞について
(発生可能性:中、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
当社グループは、研究開発活動及び生産活動において、多数の電子機器や機械装置を使用しております。当社グループは重要な原材料の分散保管や施設での緊急時の電力確保等、その対応に努めておりますが、電力不足による停電等が生じた場合には、当社グループの研究開発活動及び生産活動等、事業活動に支障が生じる可能性があります。
⑦ 大規模な自然災害又は感染症の流行の発生について
(発生可能性:中、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
当社グループの事業拠点の周辺地域において大規模な自然災害や感染症の流行等が発生した場合、当社グループは従業員及び関係者等の安全を最優先に考え事業運営を行います。当社グループは重要な原材料の分散保管や施設での緊急時の電力確保等、その対応に努めておりますが、施設や設備機器の損壊、サプライチェーンの分断による長期間の原材料の供給不足や高騰、出荷の停滞、従業員の就労不能等が発生する場合には、当社グループの継続的な事業活動に支障が生じ、また代替品の調達や施設等の修補のために追加費用が生じるため、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
⑧ 海外原材料及び資材の不足及び入手困難について
(発生可能性:中、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
当社グループは、研究開発活動及び生産活動に使用するヒトiPS細胞については当面必要となる量を既に確保しておりますが、原材料及び資材については、日本国外で製造されるもの又は日本国外の原材料を使用して製造されるものがあります。そのため、戦争・紛争や経済情勢の変動等による製造の停止・遅延、取引の禁止・制限、物流の停滞、価格の高騰等が発生した場合には、当社グループの研究開発活動及び生産活動等の事業活動に支障が生じ、経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(3) 業績・財政状態に関するリスク
① 損失計上と資金繰りについて
(発生可能性:中、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:大)
当社グループは、現状、公募増資及び第三者割当増資による資金調達や、共同研究開発のパートナー企業からの共同研究開発費を受領しており、資金繰りを維持できております。
しかし、当社グループは、研究開発型の企業であり、研究開発にかかる先行投資として長期にわたり多額の資金を必要とするため、その費用負担により当期純損失を計上し、営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスとなる状況が継続しております。また一方で、当社はCDMO事業を開始したものの、現状では黒字化を達成するほどの安定的な収益源を獲得するには至っておりません。
このため、当社グループは、製品が上市し、安定的な収益源を確保するまでの期間においては、必要に応じて適切な時期に増資等を含めた資金調達等を実施する可能性がありますが、必要なタイミングで資金を確保できなかった場合は、当社グループの事業の継続に重大な懸念が生じる可能性があります。
② 固定資産の減損について
(発生可能性:中、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:中)
当社グループは、自社研究施設を兼ね備えた商業用細胞培養加工施設を設置したこと等による固定資産を多額に計上しております。保有する固定資産については、固定資産の減損に係る会計基準等に従い、減損の兆候を識別した場合には、将来キャッシュ・フローを見積り、減損損失の認識の要否を検討しております。
現時点で固定資産の回収可能性に問題はないと判断しておりますが、経営環境の悪化等により、保有する固定資産から十分な将来キャッシュ・フローを生み出せないと判断した場合には、減損損失を認識することになり、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
③ 株式価値の希薄化について
(発生可能性:中、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:小)
当社グループは、業績向上に対する意欲や士気を高めることを目的として、当社グループの役員及び従業員等に対し新株予約権を発行しております。新株予約権が行使された場合には、発行済株式総数が増加し、株式価値が希薄化することとなります。ただし、第1回新株予約権は、契約上ノックアウト条項が付されており、当社の株価が所定の株価を終値ベースで一日でも下回った場合には消滅します。新株予約権の内容及び本書提出日の前月末現在における未行使残高は、「第4 提出会社の状況 1 株式等の状況 (2)新株予約権等の状況 ① ストックオプション制度の内容」をご参照ください。
さらに、当社グループは、研究開発型の成長企業であり、将来の研究開発活動の拡大に伴い、新株発行による増資を中心とした資金調達、及び人材確保のための新株予約権発行を機動的に実施していく可能性があります。
これらの新株発行及び新株予約権発行により、当社グループの1株当たり株式価値が希薄化する可能性があります。
④ 配当政策について
(発生可能性:大、発生する可能性のある時期:特定時期なし、影響度:小)
当社は、設立以来、株主に対する配当実績はありません。また、今後についても、当面は研究開発活動の継続的な実施に備えた資金の確保を優先する方針です。しかしながら、株主への利益還元は当社の重要な経営課題であると認識しており、積極的な投資による企業価値の向上を通じて、将来において十分なキャッシュを獲得した時点で、経営成績、財政状態及び更なる投資による企業価値向上との比較結果等を勘案しつつ、配当による利益還元の実施を検討したいと考えております。現時点において、配当実施の可能性及びその実施時期等については未定です。
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は以下のとおりであります。
① 財政状態の状況
(資産)
当連結会計年度末の流動資産の残高は、前連結会計年度末に比べ487,021千円減少し、5,125,116千円となりました。これは主に、有価証券(外貨建てMMF)が177,738千円、CDMOサービスに関連する契約資産が153,792千円増加した一方で、研究開発費、事業運営費の支出や運転資本の増加等により現金及び預金が966,183千円減少したことによるものであります。固定資産の残高は、前連結会計年度末に比べ43,892千円増加し、616,493千円となりました。これは主に、投資その他の資産が30,141千円増加したことによるものであります。
この結果、総資産は、前連結会計年度末に比べ443,128千円減少し、5,741,609千円となりました。
(負債)
当連結会計年度末の流動負債の残高は、前連結会計年度末に比べ11,300千円増加し、177,315千円となりました。固定負債の残高は、前連結会計年度末に比べ349千円減少し、34,595千円となりました。
この結果、負債合計は、前連結会計年度末に比べ10,950千円増加し、211,911千円となりました。
(純資産)
当連結会計年度末の純資産の残高は、前連結会計年度末に比べ454,079千円減少し、5,529,698千円となりました。これは主に、新株予約権の行使等により資本金が72,403千円、資本剰余金が72,141千円増加した一方で、親会社株主に帰属する当期純損失を644,342千円計上したことによる減少であります。
② 経営成績の状況
当連結会計年度における経済情勢は、我が国においては春闘による大幅な賃上げや日銀の金融政策正常化の動きがあり、国内景気は一部で足踏みするも緩やかに回復しました。しかしながら、依然としてエネルギー価格の高騰や円安による物価上昇が継続しています。
米国においてはFRBが利下げを開始しましたが、トランプ政権の政策動向への不透明感やインフレ再燃への警戒感、地政学リスクの高まり等もあり、当社グループを取り巻く経営環境は不透明な状況が続いております。
このような状況下で、当社グループはヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを中心として事業を推進してまいりました。主なプロジェクトの研究開発状況は以下のとおりであります。
PJ1 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート(対象疾患:虚血性心疾患(国内))
当社は、虚血性心疾患(ICM)による重症心不全を適応症とするヒトiPS細胞由来心筋細胞シートの製造販売承認の取得に向け、国立大学法人大阪大学(以下、大阪大学)が実施する医師主導治験を支援しております。本医師主導治験は、2020年1月に1症例目の被験者に移植が行われ、2023年3月には予定した8症例の被験者に対する移植が完了しております。
当連結会計年度においては、役員及び従業員が一丸となって承認申請業務に取り組み、2025年4月に厚生労働省に対し、再生医療等製品製造販売承認申請を行いました。今後は、患者様に一日も早くヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを提供できるよう、規制当局による審査等に迅速に対応し、承認取得を目指してまいります。
PJ2 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート(対象疾患:拡張型心疾患(国内))
大阪大学はヒトiPS細胞由来心筋細胞シートに拡張型心疾患(DCM)を効能追加するための研究開発を進めています。拡張型心疾患(DCM)の研究開発は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の令和5年度「再生医療等実用化研究事業」として採択されています(公募課題「拡張型心筋症に対するヒト(同種)iPS細胞由来心筋細胞シートを用いた臨床試験」)。当社は分担機関として、その一部の研究開発の再委託を大阪大学から受けており、大阪大学が進める臨床試験を支援しております。
当連結会計年度においては、大阪大学で医師主導治験が開始され、2症例の被験者に移植が行われました。当社は被験者に移植するヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを作製し、大阪大学に提供いたしました。
PJ3 ヒトiPS細胞由来心筋細胞シート(対象疾患:虚血性心疾患(海外))
ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートについては、日本だけでなく海外でも製造販売承認の取得を計画しております。
当連結会計年度において、米国における当社製品の研究開発、事業化及び将来のパートナー探索等の現地活動強化を目的に、経済産業省が米国カリフォルニア州パロアルトに設立したビジネス拠点「ジャパン・イノベーション・キャンパス」内に連結子会社としてiReheart Inc.を設立いたしました。
また、2024年12月には、スタンフォード大学心臓胸部外科と共同研究開発契約を締結いたしました。米国では、既存の心筋細胞シートを米国向けに改良した製品及び新しいコンセプトのiPS細胞由来製品の開発を行う予定であり、心筋梗塞ブタの心臓に移植する動物実験からなる共同研究プログラムを実施いたします。本大学病院は、2024 年-2025 年の「U.S. News & World Report 」誌の Best Hospitals Honor Roll 特集号において、循環器科、心臓・血管外科、肺・呼吸器外科で全米トップの病院の一つに選ばれています。本共同研究を通じ、FDAへの治験薬申請に使用するデータを収集し、米国での治験の実施を目指してまいります。
さらに、来年度の上半期にFDA相談の実施を目指し、外部専門家との協議を開始いたしました。
PJ4 カテーテル
ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートと比べ、軽度の心疾患に対応するパイプラインとして、カテーテルによる新たな血管内アプローチによりヒトiPS細胞由来心筋細胞を心臓へ移植する治療技術の開発を、朝日インテック株式会社(本社:愛知県瀬戸市)との共同開発により進めております。同社が有するカテーテル製品開発技術と当社のヒトiPS 細胞由来心筋細胞を組み合わせることにより、新しい治療技術を創出します。
本製品は、循環器内科医が急性心筋梗塞(AMI)、慢性完全閉塞性病変(CTO)等の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)と併用することにより、開胸等の新たな侵襲を患者に加えることなく、心機能の回復を高める治療技術の開発を目指しております。
当連結会計年度において、朝日インテック株式会社との共同研究開発では、大動物実験を行いました。
PJ5 体内再生因子誘導剤
オキシム誘導体(YS-1301)の低用量使用により体内再生因子(HGF、VEGF、SDF-1、HMGB1等)が誘導される薬理作用に基づき、細胞保護、抗線維化、抗炎症作用による血管新生、組織再生が期待されます。肝硬変・非アルコール性脂肪肝炎(NASH)(※4)、閉塞性動脈硬化症(ASO)(※5)、慢性腎不全(CKD)(※6)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(※7)等への治療薬としての研究開発を行っております。小野薬品工業株式会社及び株式会社カルディオより各種特許・ノウハウ等の承継を完了しており、対象疾患の薬効メカニズム検証・製剤開発を進めております。
当連結会計年度においては、大阪大学と肝硬変・肝切除等を対象とする共同研究を継続しております。
上記の他、大阪府大阪市北区にオープンした未来医療国際拠点Nakanoshima Qrossにて、次世代モダリティの開発を促進する細胞大量製造バリューチェーン開発コンソーシアムを発足いたしました。
本コンソーシアム発足の背景として、ヒトや動物の細胞を用いた技術は、再生医療等製品や医薬品にとどまらず、多方面でグローバルに進展していますが、これらに共通する課題は大量に細胞を製造する必要があること、さらに大量製造は多様かつ複雑な工程で構成されることから、製造装置及びシステム、利用されるデバイス、原材料等のアプリケーション開発において様々な企業が持つ技術や知見を結集する必要があります。当社グループとしても、日本のみならずグローバルでの事業展開を見据えた場合、さらなる製造能力の拡大や生産・製造技術の高度化を推進する必要があります。
当社グループは、iPS細胞由来再生医療等製品の製造及び品質管理技術、並びに大量製造を実現する独自の細胞培養加工施設の設計技術をもって本コンソーシアムに参加し、参画する各企業と共同で細胞の大量製造を構成する「培養~回収~充填・分注~凍結~保存」の各工程を統合したプラットフォームシステムと、本システムで利用されるアプリケーションの開発を世界に先駆けて行います。本コンソーシアムにおける活動の成果は、当社グループの事業への導入だけでなく、各社と協力して作り上げたパッケージシステムとして国内外で活用します。また、各社の独自事業での利用を促進するオープンイノベーション拠点として本コンソーシアムを位置づけ、特定の企業による独占的な開発や、原則的に当社グループが成果を独占しないことを方針として、様々な技術・ノウハウを有する企業との開発を推進してまいります。
売上高については、主に製造開発受託サービス(CDMOサービス)に係る売上を計上いたしました。
この結果、当連結会計年度の経営成績は、売上高175,205千円(前年同期比658.4%増)、営業損失590,262千円(前年同期は588,487千円の損失)、経常損失642,014千円(前年同期は627,930千円の損失)、親会社株主に帰属する当期純損失644,342千円(前年同期は632,183千円の損失)となりました。
当連結会計年度において発生した研究開発費(総額)は1,029,399千円(前年同期比30.5%増)でありましたが、共同研究開発パートナーから共同研究開発費(以下、共同研究開発費受入額)を受領しており、共同研究開発費受入額を控除した金額334,133千円(前年同期比59.3%増)を販売費及び一般管理費において研究開発費として計上しております。
なお、当社グループは、再生医療等製品事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載は省略しております。
③ キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ788,445千円減少し、4,793,824千円となりました。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、812,616千円の支出(前年同期は451,060千円の支出)となりました。これは主に、税金等調整前当期純損失642,014千円の計上や、売上債権及び契約資産の増加額160,035千円によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における投資活動によるキャッシュ・フローは、119,992千円の支出(前年同期は34,998千円の支出)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出80,196千円によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における財務活動によるキャッシュ・フローは、145,113千円の収入(前年同期は3,125,418千円の収入)となりました。これは主に、新株予約権の行使による株式の発行による収入141,000千円によるものであります。
④ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社グループが提供するサービスの性格上、生産実績の記載になじまないため、記載を省略しております。
b.受注実績
CDMO・コンサルティングサービスにおいては、一部受注生産を行っておりますが、ほとんどの場合において、生産に要する期間が短く、受注残高が僅少であることから記載を省略しております。
c.販売実績
当連結会計年度の販売実績は、以下のとおりであります。なお、当社グループは再生医療等製品事業の単一セグメントであるため、サービス別に記載しております。
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サービスの名称 |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
|
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金額(千円) |
前年同期比(%) |
|
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CDMO・コンサルティングサービス |
167,605 |
625.5 |
|
その他 |
7,600 |
- |
(注)最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は以下のと
おりであります。
|
相手先 |
前連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2024年4月1日 至 2025年3月31日) |
||
|
金額 (千円) |
割合 (%) |
金額 (千円) |
割合 (%) |
|
|
株式会社パソナグループ |
- |
- |
120,900 |
69.0 |
|
株式会社乃村工藝社 |
- |
- |
18,911 |
10.8 |
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
当連結会計年度の財政状態及び経営成績は、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要」に記載のとおりであります。
また、当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因として、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク (3)業績・財政状態に関するリスク」に記載のとおりであります。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
キャッシュ・フローの状況の分析については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ③キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
当社グループは、研究開発を行う上で必要な資金は、共同研究開発パートナーとの共同研究開発契約を通じて確保しております。また、設備投資や事業運営費等の資金は、第三者割当増資や公募増資により確保しております。
資金の流動性については、一時的な余資は主に流動性の高い金融資産で運用しており、投機的な取引は行わない方針であり、資産効率を考慮しながら、現金及び現金同等物によって確保を図っております。
③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づいて作成されております。資産・負債及び収益・費用の測定にあたり、金額を直接観察できない場合には、経営者は過去の実績やその他の様々な仮定を設定し、合理的に算定しておりますが、見積金額の測定には、固有の限界があるため、将来においてこれらの見積りとは異なる場合があります。
連結財務諸表等の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。
(1) 共同研究開発契約
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相手方の名称 |
契約名 |
契約締結日 |
契約内容 |
契約期間 |
|
国立大学法人大阪大学 |
共同研究講座設置契約書 |
2016年 9月26日 |
・iPS細胞を用いた重症心不全治療の実用化を研究目的とした最先端再生医療学共同研究講座を設置する。(本契約は2017年6月22日付で株式会社セルキューブより当社が契約上の地位を承継) ・当社は共同研究講座に対して研究員の参加と研究経費の負担を行う。研究開発の成果は貢献割合に応じ単独所有又は共有する。 |
2016年10月1日 から 2025年9月30日 まで |
|
第一三共株式会社 |
共同研究開発 契約書 |
2017年 9月29日 |
・心不全治療に用いる商業化可能なiPS細胞由来心筋細胞製造法及びシート化技術の確立、製品の製造販売承認申請に必要な非臨床/臨床試験の実施、当該製品の製造販売承認の取得を目的とした研究開発を行う。 ・同社は当社に対して人員の派遣及び研究開発費の交付を行う。研究開発の成果は共同保有とし、当社が独占的実施権を有する。 |
2017年9月29日から 契約の目的を達成したとき又は本共同研究開発を中止したときまで |
|
朝日インテック株式会社 |
共同研究契約書 |
2022年 4月4日 |
・iPS細胞の培養・分化・大量培養技術とノウハウを活かし、新たな治療法に適したiPS細胞由来細胞の開発、広く普及する新たな細胞移植方法の確立についての共同研究を行う。 ・研究開発の成果は貢献割合に応じ単独所有又は共有する。 |
2021年4月1日 から 2025年12月31日 まで |
|
国立大学法人新潟大学 |
共同研究契約書 |
2023年 10月3日 |
・非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)や肝硬変等の肝疾患モデル動物を対象に体内再生因子誘導剤を投与し、炎症や線維化の抑制、肝機能改善等の効果を確認する。 |
2023年10月3日 から 2025年12月31日 まで |
|
株式会社アデランス |
共同研究契約書 |
2024年 12月20日 |
・毛髪促進に関する共同研究を実施する |
2024年12月20日 から 2026年12月19日 まで |
|
スタンフォード大学 (当社子会社iReheart Inc.が締結) |
共同研究契約 |
2024年 12月16日 |
・新しいコンセプトのiPS細胞由来製品を、心筋梗塞ブタの心臓に移植する動物実験からなる共同研究プログラムを実施する。 |
2025年2月1日 から 2027年1月31日 |
(2) 実施許諾契約
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相手方の名称 |
契約名 |
契約締結日 |
契約内容 |
契約期間 |
|
国立大学法人大阪大学 |
特許権実施 許諾契約書 |
2014年 10月31日 |
・当社は大阪大学が保有する心筋細胞の分化に関する特許の独占的実施権の提供を受ける。(本契約は2017年7月31日付で株式会社セルキューブより当社が契約上の地位を承継) ・当社は成果の提供に基づき同大学に対して一定の対価を支払う。 |
2014年10月31日から 契約を解除した日まで |
|
国立大学法人大阪大学 |
ノウハウ供与 契約書 |
2018年 11月20日 |
・当社と大阪大学との共同研究講座によって得られた、大阪大学が保有する細胞加工物の製造に関するノウハウの再実施許諾権付きの独占的実施権の供与を受ける。 ・当社はノウハウの供与に基づき同大学に対して一定の対価を支払う。 |
2018年11月20日 から 2028年11月20日 まで |
|
国立大学法人大阪大学 |
再生医療等製品を使用する医師主導治験に係わる契約書 |
2019年 7月23日 |
・当社は大阪大学がヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを用いた虚血性心疾患(ICM)の医師主導治験の実施により取得した成果の提供を受ける。 ・当社は成果の提供に基づき同大学に対して一定の対価を支払う。 |
2019年7月23日 から 本治験が終了した日又は中止された日まで |
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公益財団法人京都大学iPS細胞研究財団 |
所有権譲渡 契約書 |
2022年 5月2日 |
・当社は一定の使用条件の下で、同財団が保有するiPS細胞の所有権を譲り受ける。 ・当社はiPS細胞の所有権の譲受けに基づき同財団に一定の対価を支払う。 |
2022年5月2日 から iPS細胞を利用した製品の開発、製造、販売等の断念又は中止の通知をした日まで |
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iPSアカデミアジャパン株式会社 |
人工多能性幹細胞(iPS細胞)使用に関する特許実施許諾契約書 |
2018年 8月6日 |
・当社は同社が国立大学法人京都大学から実施許諾を受けたiPS細胞の製造等に関する特許権の再実施許諾(非独占的通常実施権)を受ける。 ・当社はiPS細胞の使用等に関する再実施許諾に基づき同社に一定の対価を支払う。 ・現在の契約は研究用ライセンスであり、当社製品の承認申請等に際して、医療用途ライセンスへの切り替えを行う。 |
2018年4月1日 から 2025年3月31日 まで |
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第一三共株式会社 |
覚書((1) 共同研究開発契約に記載の「共同研究開発契約書」の関連覚書) |
2023年 3月20日 |
・iPS細胞由来心筋細胞シートの商業化に必要な知的財産権のライセンス条件を定める。 ・当社は知的財産権の独占的実施権許諾に基づき同社に対して一定の対価を支払う。 |
2023年3月20日から (終了期限の定めなし) |
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国立大学法人大阪大学 |
再生医療等製品を使用する医師主導治験に係わる契約書 |
2023年 11月14日 |
・当社は大阪大学がヒトiPS細胞由来心筋細胞シートを用いた拡張型心疾患(DCM)の医師主導治験の実施により取得した成果の提供を受ける。 ・当社は成果の提供に基づき同大学に対して一定の対価を支払う。 |
2023年11月1日 から 治験終了届提出まで |
(3) 知的財産権譲受契約
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相手方の名称 |
契約名 |
契約締結日 |
契約内容 |
契約期間 |
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国立大学法人大阪大学、 小野薬品工業株式会社 |
特許及びノウハウの譲渡に関する覚書 |
2022年 1月5日 |
・当社は一定の対価を支払う条件で同社より特許権及びノウハウを譲り受ける。 |
- |
|
株式会社 カルディオ |
特許契約上の地位譲渡契約書 |
2022年 4月18日 |
・当社は一定の対価を支払う条件で同社より特許権等を譲り受ける。 |
- |
当連結会計年度は、虚血性心疾患による重症心不全を適応症とするヒトiPS細胞由来心筋細胞シートに関連した研究開発に取り組むと共に、その他のパイプラインの研究開発に取り組みました。
当社グループの研究開発は、当社取締役最高技術責任者であり、大阪大学大学院医学系研究科において長年にわたり心臓血管外科領域で教授を務めた澤芳樹名誉教授を中心に、研究部、開発部、生産本部等で推進しております。研究開発に従事する従業員数は、49名(臨時雇用者を含む)であり、これは総従業員数(臨時雇用者を含む)の約78%に相当します。また、当社グループは大阪大学に共同研究講座を設置し、医薬品・医療機器メーカーや大学等の研究機関と共同研究開発契約を締結することで、研究開発体制を強化しております。
当連結会計年度における当社グループの研究開発費の総額は
なお、当社グループは再生医療等製品事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
具体的な研究の目的、主要課題、研究成果等は、「第1 企業の概況 3 事業の内容」をご参照ください。