(1)経営方針
当社グループは、「海の恵みを絶やすことなく世界中の人々に届け続ける。」ことをMissionとし、サーモン養殖事業、国内加工事業、海外加工事業、海外卸売事業の4つの事業を柱としてビジネスを展開しています。
日本において水産業は衰退産業といわれています。しかし海外において水産業は成長産業であります。私たちは日本の水産業において成長を阻害しているのは二つの要因、すなわち「供給の不安定性」と「消費の減少」であると考えております。養殖を推し進めることで「供給の不安定性」を解消し、また水産物の消費拡大が期待されるアジア圏での販売を促進することで「消費の減少」を解消していきたいと考えております。そして、これらの活動を通じて新しい水産業を切り開き、衰退産業とされた日本の水産業の成長産業化を実現することを経営方針としております。

(2)経営環境
当社グループを取り巻く環境は以下のとおりと認識しております。
①水産資源の需要はグローバルでは増加傾向
世界的にみると、一人当たりの食用魚介類の消費量は過去50年で約2倍に増加し、近年でもそのペースは衰えていません。とりわけ元来魚食習慣のあるアジアやオセアニア地域では、生活水準の向上に伴って顕著な増加を示しています(※1)。

②養殖への需要の高まり
世界の漁業と養殖業を合わせた生産量は増加し続けています。その一方で、持続可能な(適正レベルよりも資源量が多く、生産量拡大の余地がある)レベルで漁獲されている状態の水産資源の割合は低下傾向です。1974年には90%の水産資源が適正水準以内で利用されていましたが、2021年にはその割合は62.3%まで低下したとも言われています(※2)。この状況を背景に養殖の重要性はますます高まっており、漁業・養殖業生産量のうち漁業の漁獲量は1980年代後半以降横ばい傾向となっている一方で養殖業の収獲量は急激に伸びています(※3)。
③サーモン需要の増加と養殖量拡大ペースの鈍化
世界中でサーモンの人気は高く、世界のサケ・マス類養殖生産量は1990年の57万tから2021年の421万tと、約30年で7倍程度に増加しています(※4)。日本国内においてもサーモンの人気は高く、各種調査でも人気の魚種として常に上位にあげられています。養殖効率に優れていて比較的低価格で購入しやすいサーモンの需要は、今後も伸びていくものと期待されています。
一方でノルウェーやチリといったサーモン養殖大国における養殖適地の開発は既に概ね行われていることから、今後の養殖量拡大のペースは、これまでとは異なってくると予想されています。
(※1)令和4年度 水産白書(水産庁) P.149
(※2)令和6年度 水産白書(水産庁) P.164
(※3)令和6年度 水産白書(水産庁) P.162
(※4)FAO Fishstat
(3)経営戦略
このような環境を踏まえ、当社では養殖事業と海外卸売事業の成長を牽引する二つの事業として位置づけており、中長期の主な戦略として以下を計画しております。
①国内養殖規模の拡大
当社の成長のエンジンの一つはサーモン養殖事業であります。そして生産量を拡大していくことが当社の成長の基礎になると考えています。サーモン養殖事業はデンマーク及び日本国内において展開しております。
当社グループはサーモン養殖には以下のような限りない可能性があると考えており、それがこのような戦略を採る背景となっています。
・ サーモンは4大動物性タンパク質の供給源として、牛肉、豚肉、鶏肉と並ぶ存在になりうる。
・ 肉類と同等の高タンパクでありながら、低いカロリーが健康志向にも合致する。
・ 完全養殖が実現されていて、海から天然の稚魚の捕獲が不要。生態系に影響を与えない。
・ 生産効率が高い。具体的には、増肉係数(FCR)が低く、かつ可食部分が多く、捨てる部位がほぼない。
・ 低魚粉飼料で養殖が可能。植物性タンパク原料から、海由来タンパクを生産できる。
・ サーモンの市場は世界中に存在しており、市場規模が大きい。回転寿司でも定番の人気ネタとなっている。

なおデンマークでは、主に魚卵の採取を目的としてサーモンを養殖しております。デンマークでは近年養殖の拡大による環境負荷が懸念されていることや、適地が限られていることを理由に、新たなライセンスが発行されておりません。そのため、急激な規模拡大は容易ではない状況ですが、引き続きライセンス取得のための活動は継続してまいります。
一方、日本国内においては特に北日本では養殖適地が多数存在していることや、国の方針として養殖を増やすことが決定されていることから、当社グループにおける養殖規模拡大は国内養殖が主となります。国内養殖量は継続的な設備投資を背景に、2025年4-7月の3,476トンから、順次拡大していく計画としています。引き続き、この国内養殖における水揚げ量増に対応するため、養殖設備の増強を継続してまいります。
②国内養殖事業の効率性向上
養殖については、量の拡大とともに効率性の向上も重要な課題です。特に国内養殖においては改善の余地が大きく、当社グループでも屋外循環式の大規模中間育成魚高密度生産システムや給餌用バージ船(※)などを導入し効率化に取り組んでいるところであります。引き続き最新の養殖技術を持つデンマーク子会社Musholm A/Sの技術を取り入れながら、日本国内においてもサーモン養殖先進国並みの養殖技術を確立すべく、取組みを継続してまいります。
(※)バージ船とは、船底が平らになっている船舶のことであり、当社の連結子会社である日本サーモンファーム株式会社ではこのバージ船タンクに養殖用の餌を保管し、船外から自動で給餌できるシステムを構築しております。
③海外卸売事業の強化
養殖事業と並ぶ当社の成長エンジンは海外卸売事業であります。日本食ブーム、あるいは人口増を背景に海外、特にアジアにおいて日本食マーケットが大きく成長を続けております。このマーケットの成長の波をしっかりキャッチし、当社の成長にも繋げてまいります。すでにシンガポール、マレーシア、台湾及びタイに子会社を有し、着実に成長してきておりますが、日本食需要の大きい地域を中心に今後も進出先を増やし、さらなる成長に繋げていく計画です。また、シンガポールでは自社保有の超低温倉庫(-60℃)による徹底した温度管理や迅速できめ細やかな配送を行っており、オカムラ食品工業独自のコールドチェーンを築いておりますが、さらに超低温倉庫や配送能力への投資を進めていく計画としております。マレーシアにおいては、ハラール食品(※)のニーズが高いことから、ハラール食品の強化を重点課題とし、ハラール対応を目的とした新倉庫を2024年1月より稼働しています。その他、水産専門会社であることや、養殖や加工部門を有していることの強みをより活かせるよう、カバーエリアの拡大、ヒトやモノへの先行投資を進めてまいります。
(※)ハラール食品とは、イスラム教で食べることが許されている調理法等に従い生産した食品のことを指します。
(4)対処すべき課題
経営戦略を進めていくうえで当社グループが優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題は以下のとおりであります。
養殖事業
① 国内養殖規模の拡大
当社の成長エンジンの一つはサーモン養殖事業であり、その養殖量を拡大していくことが当社の成長の基礎になると考えています。養殖規模拡大のためには生産能力を上げていくことが必要で、特に不足しがちな中間養殖場の確保が課題です。中間養殖場の新設にあたっては、適地の選定、地元との調整、設備投資資金の確保、養殖施設の建設と、一朝一夕に進むものではないため、中長期的な視点に立って着実に設備投資計画を進めてまいります。
② 養殖の効率性向上
養殖については、量の拡大とともに効率性の向上も重要な課題です。特に国内養殖においては改善の余地が大きく、当社グループでも屋外循環式の大規模中間育成魚高密度生産システムや給餌用バージ船などを導入し効率化に取り組んでいるところであります。引き続き最新の養殖技術を持つデンマーク子会社Musholm A/Sの技術を取り入れながら、日本国内においてもサーモン養殖先進国並みの養殖技術を確立すべく、取組みを継続してまいります。
海外卸売事業
③ 海外市場での営業基盤の強化
アジアにおける日本食マーケットの成長の波を確実にキャッチすることが、当社の成長には重要です。そのための配送・保管設備の増強は計画しておりますが、それに加えて、新しい顧客の開拓に努めるとともに、既存の顧客のご不満を聞き、顧客にご満足していただける製品開発やサービス提供を行うことで、営業基盤の強化を図っていくことが課題であると認識しております。
国内加工事業、海外加工事業
④ 安定的な加工体制の確保
安定的な加工体制の確保は、当社の基盤となります。これが確保されてこそ、加工事業の拡大だけでなく、養殖した青森サーモンの加工品マーケットへの展開や、海外卸売事業における顧客ニーズへのきめ細やかな対応といったことが可能になります。加工拠点の分散によるリスクヘッジ、工場従業員の教育による品質や効率性の向上といった点を推し進めてまいります。
その他
⑤ 品質管理に関する継続的な向上
消費者の安全・安心へのニーズはますます高まっており、食料品を取り扱う当社グループにおきましても、食品表示も含め、食の安全性を確保してお客様に安心してご利用いただけることが最重要事項であると認識しております。品質管理体制の強化、業務フローの標準化、食品表示や食品関連法規に関する情報の社内共有等を進め、品質管理に関する継続的な向上に取り組んでまいります。
⑥ 環境への配慮
製造の原料となる水産物や養殖事業は大自然からの恩恵です。我々の事業は自然環境、特に海に大きく依存しています。自然への感謝の気持ちを忘れずに、自然を大切にすることこそ、当社の持続・発展にとって不可欠のことと考えています。
(原料について)
我々が製造に使用する原料は資源として持続的に調達出来るものでなければなりません。絶滅が危惧される原料、資源管理が徹底されていない原料を使用した製品加工は控えるべきです。資源管理が十分に行われていると認定されたASC・MSC(※)認証原料の使用を推進いたします。
(※)MSC認証とは、水産資源や海洋環境に配慮し適切に管理された持続可能な漁業に対する認証制度を指し、海洋管理協議会(Marine Stewardship Council)が管理運営しています。
(養殖事業について)
養殖事業を拡大すれば、周辺海域に影響を与えてしまう可能性が生じます。もし我々の事業が水質汚染や生態系破壊の原因となってしまえば、事業を継続することは出来なくなってしまいます。魚を育てるためには大量の飼料が必要となりますが、その主成分である魚粉や魚油は天然水産物由来のものです。飼料の成分やその原材料について注意を払う必要があります。
⑦ 地域との共生の推進
自然環境に加え、我々の事業は地域社会の理解と協力の基に成り立っています。事業の継続とその拡大には地域との共生の実現が不可欠です。そのためには地域の方々と十分に話し合い、それを通じて地域との信頼関係を築くことが重要です。我々企業と地域社会とのコミュニケーション推進を通じて地域社会に理解されるとともに、青森やミャンマーなどでの雇用創出という形でその地域に貢献する企業となることを目指してまいります。
(5)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社では養殖量、特に拡大余地の大きい国内養殖量を重要な経営指標と考えております。水産物については漁獲や商品相場の変動が大きなリスクとなっていますが、養殖量の拡大によってこれらのリスクを低下させることができ、安定的に水産原料を確保することに繋がります。また、養殖事業の利益率は相対的に高いため、養殖規模の拡大によって当社グループ全体の利益率をさらに向上させることに繋がります。
現在、国内養殖量拡大のためのネックとなっているのは、中間養殖場を主とした養殖設備の不足にあります。当社グループでは、養殖量拡大に向けて積極的に養殖設備への投資を行っていきたいと考えております。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は次の通りです。
当社は、「海の恵みを絶やすことなく世界中の人々に届け続ける。」ことをMissionとして掲げており、その実現に向けて「サステナビリティ基本方針」を策定しています。
(2)ガバナンス及びリスク管理
当社グループは、社会・環境問題を含むサステナビリティを巡る諸課題について、経営の重要課題として取り組んでいます。サステナビリティを含む経営に重大な影響を与えるおそれのある事項につきましては、取締役会に付議し、経営レベルでの充分な検討と対応策の決定を行う体制としております。また、取締役、監査等委員、執行役員、各部門長、内部監査室長から構成されるリスク・コンプライアンス委員会を定期的に開催し、現場レベルで認識された課題の共有と対応策検討を行っています。
リスク管理としては、毎月、連結子会社の代表者が出席するグループ経営会議を開催し、この中でグループ各社の代表からサステナビリティに関する論点も含め(リスクのみならず機会も含む)、論点の共有及び意見交換を行っています。これらの会議体で協議された方針や論点などは、経営会議及び取締役会へ付議又は報告され、取締役会はこのプロセスを定期的に監督し、必要に応じて対応の指示を行っています。
(3)戦略
<環境>
①国内養殖事業の拡大
世界では、一人当たりの食用魚介類の消費量は増加傾向であり、とりわけアジア地域では生活水準の向上、人口増加とともに、水産資源の消費量が大きく伸び続けています。一方、供給サイドでは持続可能なレベルで漁獲されている状態の資源の割合は世界的に漸減傾向にあり、1974年には90%の水産資源が適正レベル又はそれ以下のレベルで利用されていましたが、2019年にはその割合は65%まで下がってきています。このため、世界的に水産資源管理は厳格化に向かい、漁業の漁獲量は1980年代後半以降横ばいとなっている一方で、養殖業の収穫量は急激に伸びています。
また、当社グループの養殖事業で取り扱っているサーモン類については、現在国内及びアジアのサーモン市場では北欧・南米をはじめとした海外から空路・海路で長距離輸送される輸入品が供給の大部分を占めています。
このような環境下において、当社では国内養殖事業を拡大することで、世界の水産資源状況に悪影響をもたらすことなくアジアを中心とした世界の増え続ける需要に応えるとともに、アジア内での地産地消割合を上昇させていくことで、グローバルでの温暖化ガス排出量削減に寄与したいと考えています。
<人的資本>
①人材育成
当社グループでは、問題解決能力の高い人材、個人ではなくチームの成功に貢献できる人材、グローバルに活躍できる人材、チャレンジできる人材を育成したいと考えています。
そのために、当社では、人事評価制度の等級定義をこれらの観点で見直し、期待する人材像と人事評価制度の整合性を図っています。また、語学力強化へのサポート制度や海外経験の機会を用意し、意欲のある人材がチャレンジできる機会を提供しています。また、出張や出向を通じ、当社グループ会社との連携を深めグローバルな視点をもった人材の育成に努めております。さらに、海外の当社グループ企業から当社へオンラインのみならず、出張を通じた研修の機会を与え、双方向で当社グループ全体の成長に向けた人材育成に取り組んでおります。
②ダイバーシティの推進
当社グループでは国内生産活動のほとんどを青森県在住者で担っていることから、事業の維持・拡大のためには、青森県の人口減少や高齢化等の背景を踏まえた、多様な従業員が活躍できる労働環境の整備が不可欠です。高齢者でも安心して働けるような職場環境を整備するとともに、デンマーク子会社であるMusholm A/Sから養殖先進国の知見・ノウハウを取り入れることで長年過疎化が進む地域の若者に働きがいのある職場を提供しています。
また、ベトナム、ミャンマー及びインドネシアからの技能実習生の受け入れと職場環境・生活環境整備など、多様な人材が力を合わせて働く環境を提供していきたいと考えています。さらには、役員を含む管理者層の多様化も課題です。様々な視点が経営や管理に持ち込まれることにより、新たな気付きが生まれやすい体制を今後築いていきたいと考えています。
③労働環境整備
海面養殖場は沖合に設置されています。養殖魚への毎日の給餌は、通常は給餌船で海面生簀まで行く必要があるため、悪天候時には危険を伴います。当社グループは、養殖を持続可能な事業とするため、養殖事業に携わる従業員の安全性を一層高めていくことが課題であると考えています。当社ではこの課題を解決するため、給餌用バージ船を用いた遠隔操作での給餌を導入しています。バージ船への飼料補給は気象条件の良いときにまとめて行うことが可能なため、飼料補給を行う作業員の安全性が向上します。また、従来肉体労働であった給餌が事務作業に変わったことで女性従業員の数も増えました。今後も規模の拡大に応じてバージ船を追加投入し、海での作業の安全確保に努めていく方針です。
また、従業員の多様化、青森本社工場で働くワーカーの高齢化、女性社員の積極的なキャリアアップ推進等を背景に、健康経営優良法人2025(中小企業法人部門)の認証を取得しました。
(4)指標及び目標
<環境>
当社グループにおきましては、上記「(3)戦略」において記載した天然水産資源の漁獲量の減少を受けて、増肉係数(FCR)を指標に設定し、飼料に含まれる天然魚の漁獲を抑えるためにFCRそのものの低減に取り組んでいます。既に北欧の養殖先進国ではFCR1.2以下とこれ以上の改善が難しいレベルまで進んでいます。一方で当社の国内養殖事業のFCRは1.5程度ですので、これを養殖先進国に近づけていくことを通じて天然水産資源の保全に貢献していきたいと考えています。また、国内養殖量拡大を通じて輸送に伴うCO2排出量削減に貢献していきたいと考えています。当社グループの国内養殖量は年々拡大し、2025年シーズン実績では約3,500トンとなっています。今後も順次国内養殖量を拡大し、結果として輸送におけるCO2 排出量の削減に貢献していきたいと考えています。
<人的資本>
当社グループでは、海外駐在者および女性役員の増加を特に重視しています。当事業年度末時点で当社からの海外駐在者は11名ですが、この人数を毎年着実に増やしていきたいと考えています。当社グループ全体で、女性管理職社員は複数存在するものの、女性役員は現在1名のみとなっており、この点は課題であると認識しています。女性社員が管理職や役員候補へ着実にステップアップしていくためにも、女性が活躍しやすい職場環境の整備が急務であり、在宅勤務、時差出勤等の柔軟な働き方ができる施策を随時取り入れながら環境整備に努めてまいります。
本書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、提出日現在において当社グループが判断したものであります。
1.気候変動(温暖化)によるリスク
(1)資源アクセス確保に与える影響
(発生可能性:中/発生時期:特定時期無し/影響度:大)
地球温暖化による海洋環境の変化により、下記のようなリスクが生じることが考えられ、当社グループの経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。
① 各水産品種の生息可能な水域が変化することにより、当社グループが取扱う水産品種における従来の漁場、海面養殖場の環境(海水温条件など)が、その魚種の生息条件に適さなくなり、漁獲量・養殖生産量が減る可能性があります。
② 海洋環境が変化した場合には、当社グループに限らず、水産業界全体に及ぶ可能性があることから、漁獲量・養殖生産量減少により水産物の流通量が減ることで、水産物の価格が上昇し、当社にとっての原料仕入価格が高騰するおそれがあります。
(2)自然災害の頻度増加と激甚化によるリスク
(発生可能性:高/発生時期:特定時期無し/影響度:中)
地球温暖化による気候変動は、近年、台風、ハリケーン、時化、豪雨、洪水、赤潮、津波、干ばつ等の自然災害の頻度を増加させ、激甚化させる傾向にあります。特に、当社の主力工場のある青森県青森市、当社グループの養殖場が集中する青森県西津軽郡深浦町及び青森県東津軽郡今別町、デンマークMusholm島周辺に想定外の災害が生じた場合には、当社グループの経営成績に下記のような大きな悪影響を及ぼす可能性があります。
① 当社グループの養殖魚、食品製造や冷蔵倉庫、養殖場、工場、漁船への直接被害
② 台風等の悪天候による時化の増加により、海面養殖の生簀損壊、給餌回数の減少による魚の成長不足
③ 長期停電や水道水停止等による生産・物流への影響
④ 予防・安全対策コストとしての設備費や保険費用の増加
以上のリスクに対処するため、事業セグメントの分散、養殖拠点や製造拠点の分散を進めております。これにより、特定の事業や拠点に大きな損失が生じた場合でも、他の事業や拠点でその損失を吸収しうる体制を構築してまいります。
2.海外事業の拡大に関連するリスク(カントリーリスク)
(発生可能性:高/発生時期:特定時期無し/影響度:中)
当社グループは、「海の恵みを絶やすことなく世界中の人々に届け続ける。」をMissionとして掲げているとおり、海外での事業展開を積極的に行っております。海外への展開においては、以下を含む様々なリスクにさらされております。
・政情や治安の不安
・外国為替相場の変動
・将来起こりうる不利益な税制
・法令や規制の予期せぬ変更
・顧客ニーズ、市場環境及び現地の規制に関する理解不足
・人財の採用・雇用及び国際的事業管理の難しさ
・新たな多国籍企業との競争
海外事業の拡大に取り組む中で、上記のような事業展開に関連する様々なリスクが顕在化し、想定した事業展開を行うことができない可能性があります。また、海外企業への投資に関連して減損が生じる可能性や、当社グループの目標を達成できない市場から撤退する可能性があります。これらの結果、当社グループの事業展開、財務内容及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
なお海外加工事業においてはベトナムとミャンマーに加工拠点を有しており、このうちミャンマーにおいては本書提出日現在においても不安定な情勢が継続しております。現在もミャンマー工場は稼働を抑えた形で継続稼働しておりますが、情勢が悪化した場合は、海外加工事業における加工能力に影響を及ぼす可能性があります。今後も従業員の安全確保を最優先しつつ、引き続き情勢を注視してまいります。
3.養殖事業に関するリスク
(1)国内養殖において区画漁業権や水利権の維持や新規取得ができなくなるリスク
(発生可能性:低/発生時期:特定時期無し/影響度:大)
国内養殖において河川を利用した中間養殖を行うにあたっては水利権が、海面養殖を行うにあたっては区画漁業権の行使が必要になります。何らかの理由によりこれらの権利の使用や拡大に制約が生じた場合、当社グループの養殖事業の維持や拡大に支障を及ぼす可能性があります。
当該リスクに対応するため、当社グループでは法令遵守や環境配慮、行政、地域住民、地元漁協などとの対話を通じて、これらの権利の維持・拡大に努めております。
(2)養殖事業による海洋汚染に関するリスク
(発生可能性:中/発生時期:特定時期無し/影響度:中)
海面養殖では、残餌や糞尿等の海底堆積や逃亡魚等による海の汚染リスクが大きな課題です。当社がこの課題に適切に対処できない場合、ASC認証取消による当社養殖魚の付加価値の低下、地元漁協との関係悪化等により、養殖事業に悪影響を与える可能性があります。
当該リスクに対応するため、当社ではASC認証の維持を通じて環境に配慮した養殖を継続するとともに、潜水調査を含む継続的な環境影響調査や適正給餌などに努めております。
(3)養殖事業における環境規制の強化に関するリスク
(発生可能性:中/発生時期:特定時期無し/影響度:中)
環境保護の観点から、養殖事業に関する規制は強化される傾向にあります。新たな国内外の法規制等が制定された場合、当社グループにおいて、これら法規制等への対応のために新たな環境保全コストの負担等が生じることが予想されます。当社が現在又は将来の環境規制を遵守できなかった場合、当社に対する損害賠償請求や罰金の賦課、一定地域における生産・操業停止、当社の評判・信用の低下を招き、当社グループの事業展開、経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
なお、当社グループに重大な影響を及ぼす可能性のある法規制等の改正は、本書提出日現在においてはありません。
(4)養殖用卵の調達に関するリスク
(発生可能性:低/発生時期:特定時期無し/影響度:中)
本書提出日現在において養殖事業における養殖量の約3割程度を占める日本国内においては、サーモンの養殖用卵の仕入は国家間の魚病防疫の契約上、米国もしくはカナダからの仕入れに規制されています。当社グループの国内養殖では米国の業者から仕入れた発眼卵を使って養殖を行っていますが、何らかの理由で当該仕入先からの発眼卵仕入が滞った場合、当社グループの国内養殖事業に大きな影響を及ぼす可能性があります。
(5)MSC認証およびASC認証について
(発生可能性:低/発生時期:特定時期無し/影響度:中)
当社グループが認証取得している持続可能な漁業認証(MSC)および養殖認証(ASC)においては、規格の要求事項を満たしたマニュアルを作成・運用し、定期的に認証審査機関による継続審査及び更新審査を受けることが求められます。当社グループでは、最新の規格要求事項に合わせてマニュアルをアップデートすることで、MSC・ASCを適切に運用しておりますが、当該審査で認証継続不可となる重大な不適合あるいは不適合品発生時の不適切な対応により、認証継続が一時停止又は取消された場合、当社グループが継続的に取り組んでいる事業に大きな影響を及ぼす可能性があります。
(6)疾病による大量斃死(へいし)
(発生可能性:低/発生時期:特定時期無し/影響度:中)
サーモン養殖においてはIHNやIPNといった抗生物質の効かないウイルス性の病気が発生することがあります。これらの病気が蔓延すると大量斃死が発生し、当社の業績に大きな影響を及ぼす可能性があります
当社では病気が持ち込まれるリスクに対処するため、他社で養殖した種苗は一切扱わず、発眼卵から自社で養殖するのみとしています。また、野生動物(特に鳥)による水平感染予防のための鳥よけ網、人的な水平感染予防のために場内入場時の全ての人、車に関する殺菌を実施しております。また、ワクチン開発を支援するため、ワクチン開発会社の行う治験へは積極的な協力を行っていく方針です。
(7)日本国内における養殖ライセンスの導入
(発生可能性:低/発生時期:特定時期無し/影響度:中)
デンマークをはじめ養殖先進国においては、淡水養殖を行う際は、取水量のライセンス、排水基準の規制などが存在し、海面養殖を行うためには、飼育生物量(バイオマス)ライセンスや使用給餌量ライセンスの取得が必要とされています。多くの国でこのライセンスの取得要件がネックとなり、それ以上の規模拡大が困難になるという状況が発生しています。
日本国内においてはこのような規制は現在はありませんし、規制が導入されることも現時点では予定されていません。しかしながら、長期的に見れば諸外国と同様にこのような規制が導入される可能性は排除できず、その場合は国内の養殖事業の大きな制約要件になる可能性があります。
当該リスクも見据え、当社では長期的な成長を想定して行使可能な水利権や区画漁業権の拡大を先行して進めております。また、ASC認証の取得率向上を通じて高い環境基準に対応できる体制の構築に努めてまいります。
4.製品の安全性について
(発生可能性:中/発生時期:特定時期無し/影響度:中)
食品の安全性に対する消費者の関心や要求は年々高まっております。
当社グループでは安全で、顧客に安心していただける商品をお届けするよう、経営責任者直轄の品質管理室を設置し、製造現場の衛生管理を推進しております。自社工場ではHACCPの管理手法を導入し、より高いレベルの食品安全マネジメントシステムの認証取得に取り組み、継続的な改善活動と、徹底した衛生管理を実践しております。また、検査室を設置して、食品の安全性を保証する微生物検査をはじめ各種検査を実施しております。さらに商品だけでなく製造環境の衛生状態も検査し、適切に管理しております。海外協力工場においても、自社工場と同等の管理手法を要求しており、緊密に連絡を取りながら当社主導で衛生管理の徹底と向上に取り組んでおります。食品表示につきましては、小さな誤りでもお客様の健康危害に直結することを踏まえ、製品開発時や原材料購買時における食品表示の確認、不当表示とならないようなチェック体制の構築等、継続的に体制の充実を図っております。
以上のように、食品の安全性に対しては万全を期しておりますが、それでもなお品質に関する問題が生じた場合は、消費者の健康を脅かし、企業の信用を失墜させるおそれがあります。
5.特定の外注先への依存に伴うリスク
(発生可能性:中/発生時期:特定時期無し/影響度:中)
海外加工事業では、サーモンやサバ製品の外注加工に関して、ベトナムのTrung Sonグループに加工業務の過半を依存しています。そのため、災害等の要因によって同社の稼働に影響が生じた場合、あるいは同社との取引条件が大きく変動した場合などは、当社グループの経営成績等に影響を及ぼす可能性があります。
このようなリスクに対応するために、当社グループでは自社工場の拡大及び加工先の分散に努めております。
6.相場変動リスクについて
(発生可能性:高/発生時期:特定時期無し/影響度:小)
当社グループが取り扱う水産物は漁獲量や市況により相場が大きく変動するものがあります。当社ではこの相場変動が仕入と販売の両局面で影響を及ぼしますが、両者の相場変動の波にはタイムラグがあり、それによって利益率も大きく変動するため、当社の業績もその影響で大きく変動するリスクを抱えています。特に近年は不安定な世界情勢などを背景に、当社グループの取扱うサーモンや魚卵原料の相場が大幅に上昇をしてきました。今後はその反動減も想定されうる状況にありますので、この相場変動リスクは顕在化しやすい環境下にあると考えられます。
これらのリスクに対処するため、当社グループでは、漁獲量や市況のタイムリーな状況把握とその状況に応じた調達・販売に努めております。
7.原料調達リスク(仕入先への依存リスク)
(発生可能性:低/発生時期:特定時期無し/影響度:中)
国内加工事業では、他の仕入先への代替が難しく、原料の総仕入高の約半分程度が特定の仕入先に集中しております。特定の仕入先とは取引開始以来、良好な関係を継続しており、今後も仕入取引を継続していく方針であり、また継続的かつ安定的に仕入ができるよう連携を強化しております。また、自社養殖原料を増やすことによってもリスクヘッジを図るよう努めております。
しかしながら、今後、自然災害、品質問題及び仕入先の経営悪化等何らかの要因により継続的かつ安定的に仕入れることが困難な状況となった場合、当社グループの事業展開、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
8.有利子負債への依存について
(発生可能性:中/発生時期:特定時期無し/影響度:小)
当社グループの事業の性質上、在庫残高は多くなる傾向にあり、2025年6月末時点における在庫残高(貯蔵品を除く)は17,378百万円(総資産の42.1%)となっております。これは、養殖在庫については販売までに一定の養殖期間を要すること、仕入在庫のなかには仕入時期に季節性があり買付が一時に集中するものがあること、長期保存が可能な凍結原料があること、などに起因しています。当社ではこれらの在庫資金の多くを借入金で賄っているため、事業規模の拡大に伴って有利子負債残高も多くなっており、2025年6月末時点の有利子負債残高は17,288百万円、総資産に占める負債の割合は41.9%と大きくなっています。そのため、今後の金利情勢の変動によっては経営成績が影響を受ける可能性があります。
なお当社では、財務体質強化のために負債比率の削減が課題であると認識しており、それに向けて自己資本の充実に努めて参る所存です。
9.法的規制等について
(発生可能性:低/発生時期:特定時期無し/影響度:中)
当社グループの事業に適用される「食品安全基本法」「食品衛生法」「食品表示法」「製造物責任法」「廃棄物処理法」等の様々な規制・規則が存在しております。今後各省庁等における現行の法解釈に何らかの変更が生じた場合、もしくは新たに当社グループの事業を規制する法律等が制定・施行された場合、その内容によっては当社グループの事業が制約を受けたり、当社が新たな対応を余儀なくされたりする可能性があります。このような場合には、当社グループの経営成績又は今後の事業展開が影響を受ける可能性があります。
当社グループでは、専門家の活用や行政とのコミュニケーション等を通じて、タイムリーな情報収集や適切な対応策の策定など、当該リスクの低減に努めております。
10.個人情報の管理について
(発生可能性:低/発生時期:特定時期無し/影響度:中)
当社グループは、通信販売等を通じて顧客の個人情報を入手する機会があります。何らかの理由でこれらの個人情報が漏洩した場合には、損害賠償請求の発生や社会的信用の低下等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、これらの情報についての厳格な管理体制を構築し、情報の取扱い等に関する規程類の整備・充実や従業員等への周知・徹底を図るなど、情報セキュリティの強化に努めております。
11.訴訟・係争等について
(発生可能性:低/発生時期:特定時期無し/影響度:中)
当社グループでは、現在係争中の案件はありません。当社グループでは法令遵守をはじめコンプライアンスを常に考慮した経営に努めておりますが、意図せざる理由により製品回収、法令違反又は訴訟提起等が生じた場合、その結果によっては、当社グループの経営成績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
12.人財の確保、育成について
(発生可能性:低/発生時期:特定時期無し/影響度:小)
当社グループは、世界の多くの国と地域で事業活動を推進しております。そのため、継続的に事業を発展させるためには、専門性のある多様な人財及び経営戦略やグローバルな組織運営といったマネジメント能力に優れた人財の獲得、育成を継続的に推進していくことが重要となります。
しかしながら、必要な人財を継続的に獲得し定着させるための競争は厳しく、特に日本国内においては、少子高齢化や労働人口の減少等を背景に雇用環境の変化が急速に進んでおり、人財獲得や育成が計画通りに進まなかった場合、長期的視点から、事業展開、業績及び成長に大きな影響を及ぼす可能性があります。当社グループでは人財獲得のために新卒採用や経験者の通年採用を積極的に展開しております。また、期待水準の明確化に基づいた公平な評価・処遇制度の充実などの仕組みの構築により、従業員のエンゲージメントを高め、人財の定着を図っております。さらには、自律型人財やグローバル人財を育成し、当社グループの価値観を伝える教育プログラムの充実を図っております。
13.知的財産権に関するリスク
(発生可能性:低/発生時期:特定時期無し/影響度:小)
国内外において、当社グループの商標権が侵害されるなどした場合、当社グループ又はそのブランドのイメージを侵害し、当社グループの事業及び経営成績に影響を与える可能性があります。
また、当社グループが意図せず第三者等の知的財産権を侵害してしまった場合には、当該第三者から訴訟等を提起される可能性があり、損害賠償や補償等、又は訴訟等に対応するための多大な時間、労力、費用を要する可能性があることに加え、当社グループ又はそのブランドのイメージ、評価、社会的信用を害する可能性があり、その結果、当社グループの事業、財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、保有する知的財産権を適切に管理し、第三者の知的財産権を侵害しないよう必要な調査を行う等、当該リスクの低減に努めております。
14.大株主について
(発生可能性:低/発生時期:特定時期無し/影響度:小)
当社の代表取締役社長である岡村恒一は、当社の大株主であり、自身の資産管理会社である株式会社オカムラ、配偶者、二親等内の血族の所有株式数を含めると本書提出日現在で発行済株式総数の64.6%を所有しております。同人は、安定株主として引続き一定の議決権を保有し、その議決権行使にあたっては、株主共同の利益を追求するとともに、少数株主の利益にも配慮する方針を有しております。当社といたしましても、同人は安定株主であると認識しておりますが、何らかの事情により、大株主である同人の株式の多くが減少した場合には、当社株式の市場価格及び議決権行使の状況等に影響を及ぼす可能性があります。
(1) 経営成績等の状況の概要
①当期の経営成績の状況
当連結会計年度における当社グループの経営成績の状況の概要は次のとおりであります。
当連結会計年度におけるわが国経済は、外国の政情・政策不安に端を発した為替相場の乱高下や株式市場の不安定な動きなど、不透明な状況が続いています。一方、当社グループの主な事業地域である東南アジアの経済環境は、堅調な内需外需により好調に推移しています。
当社グループにおきましては、中長期的な成長に向けて、中期経営目標2030を本年2月に公表いたしました。このなかでは、国内養殖量の拡大と海外卸売事業売上の拡大を最重要課題として位置付けています。当連結会計年度においてこの二つの最重要課題はいずれも期待どおりに推移しました。
当連結会計年度の業績につきましては、養殖量の拡大と海外販売の拡大を背景に、養殖事業と海外卸売事業が売上増収と営業増益を牽引しました。国内加工事業と海外加工事業も、全体としては堅調に推移したと捉えています。
経常利益については、外貨建債権の為替換算損益が営業外損益の大きなファクターになっています。当連結会計年度においては、これが前期比で578百万円マイナスに作用しています(当連結会計年度は為替差損222百万円、前連結会計年度は為替差益355百万円)。
以上の結果、当連結会計年度の売上高は前連結会計年度に比べ2,680百万円増の35,345百万円(前期比108.2%)、営業利益は前連結会計年度に比べ473百万円増の3,021百万円(前期比118.6%)、経常利益は前連結会計年度に比べ117百万円減の2,815百万円(前期比96.0%)、親会社株主に帰属する当期純利益は前連結会計年度に比べ51百万円増の2,020百万円(前期比102.6%)となりました。
各セグメントの事業概況は次のとおりであります。
(単位:百万円/%)
※調整額はセグメント間取引及び全社費用等であります。
(養殖事業)
当連結会計年度の国内養殖量については、ほぼ期初計画どおりの3,476トンの水揚量となり、前期比で800トン近い増産となりました。養殖における各指標も良化しており、ノウハウの蓄積も進んでいるものと捉えています。販売面においては、ノルウェー産アトランティックサーモンの供給増から安価な生鮮品の販売が広がりました。その影響で、当社グループの生鮮品の販売量及び価格が抑えられるという状況も一部みられたものの、全体では対前期比で増収増益となりました。
デンマーク子会社による海外養殖においては、天候不順等もあり育成が期待どおりには進まず、重量当たりの固定費負担が想定よりも高くなりました。販売面では魚卵販売価格の上昇や繰越在庫の消化も順調に進んだことから、対前期比で大幅増収となりました。
上記の結果として、売上高は前連結会計年度と比べ2,510百万円増の9,260百万円(前期比137.2%)、セグメント利益は466百万円増の1,238百万円(前期比160.3%)となりました。
なお、デンマーク子会社であるMusholm A/Sは国際財務報告基準(IFRS)を採用しており、養殖事業の損益には、IAS第41号「農業」に従った売却コスト控除後の公正価値により評価した結果(売上原価△59百万円)が含まれております。
(単位:百万円)
(国内加工事業)
当連結会計年度においては、漁獲量不足から魚卵供給量が減少し、魚卵相場が上昇しました。そのような状況のなか、他社製品と比較して相対的に安価であった当社製品の販売は好調に推移しました。
上記の結果として、売上高は前連結会計年度と比べ1,118百万円増の9,398百万円(前期比113.5%)、セグメント利益は88百万円増の1,177百万円(前期比108.1%)となりました。
(海外加工事業)
当社の主力商材であったサーモンハラスに関しては、サーモン価格の高騰に起因して、世界的に原料としての供給不足が継続しています。そのため、当該製品の販売数量は減少しましたが、国内外の旺盛な需要により販売単価を押し上げ利益率は改善しました。
上記の結果として、売上高は前連結会計年度と比べ1,168百万円減の14,087百万円(前期比92.3%)、セグメント利益は24百万円減の1,040百万円(前期比97.7%)となりました。
(海外卸売事業)
東南アジア諸国における日本食マーケットの拡大を背景に、当事業は拡大を続けてきました。当連結会計年度においてもこの傾向は継続しており、売上は順調に拡大しました。利益率については、販管費率の改善と円安による仕入価格の低下により、大きく改善されました。販管費率の改善は、前連結会計年度に行ったヒト・モノへの集中投資が一巡したことで販管費率が平準化したことによるものです。
上記の結果として、売上高は前連結会計年度と比べ2,174百万円増の11,044百万円(前期比124.5%)、セグメント利益は349百万円増の603百万円(前期比237.3%)となりました。
②当期の財政状態の状況
当社グループの財政状態は次のとおりであります。
(資産)
当連結会計年度末における流動資産は30,327百万円となり、前連結会計年度末に比べ1,078百万円増加しました。これは主な要因としては、上場時の調達資金を設備投資に活用したことなどにより現金及び預金が418百万円減少したこと、加工委託先への原料支給が進んだことにより、未収入金が910百万円増加したこと等によるものです。固定資産は10,944百万円となり、前連結会計年度末に比べ1,023百万円増加しました。これは主に養殖用施設への投資等で建物及び構築物が32百万円増加したことや、建設中の資産として、建設仮勘定が470百万円増加したことによるものです。
この結果、総資産は41,271百万円となり、前連結会計年度末に比べ2,101百万円増加しました。
(負債)
当連結会計年度末における流動負債は20,036百万円となり、前連結会計年度末に比べ916百万円増加しました。これは主に、事業拡大に伴って支払手形及び買掛金が508百万円増加したこと等によるものであります。固定負債は5,191百万円となり、前連結会計年度末に比べ707百万円減少しました。これは主に設備投資資金として長期借入金の返済により665百万円減少したこと等によるものです。
この結果、負債合計は25,228百万円となり、前連結会計年度末に比べ209百万円増加しました。
(純資産)
当連結会計年度末における純資産合計は16,043百万円となり、前連結会計年度末に比べ1,891百万円増加しました。これは主に親会社株主に帰属する当期純利益を2,020百万円計上したこと等により利益剰余金が1,728百万円増加したこと等によるものです。
③当期のキャッシュ・フローの状況
営業活動によるキャッシュ・フローは、3,536百万円の収入(前期比3,258百万円の収入増加)となりました。
これは主に、税金等調整前当期純利益が2,815百万円となった一方で、当社主要事業がそれぞれ事業拡大傾向であることにより売掛金残高の増加が232百万円生じたことに加え、養殖量拡大に伴う養殖コストの増加等により棚卸資産残高の増加が555百万円、合わせて仕入債務の増加が541百万円生じたこと、製品加工用として原材料の加工委託先への預け入れが増加したことに伴い、有償支給取引に係る負債の増加が893百万円生じたことによるものです。
投資活動によるキャッシュ・フローは、1,985百万円の支出(前期比353百万円の支出減少)となりました。
当社の最重要課題である養殖量拡大に向けて養殖設備への投資を進めたことに伴い、有形固定資産の取得による支出が1,970百万円(前期比164百万円の支出減少)となったことなどによるものです。
財務活動によるキャッシュ・フローは、1,931百万円の支出(前期は4,727百万円の収入)となりました。
これは主に、原材料仕入等の運転資金目的での借入の返済を進めたことにより短期借入金の純増減額が△858百万円生じたことに加え、前連結会計年度以前の養殖事業規模拡大等に向けた長期借入の返済を1,001百万円進めたためです。
以上に加え、現金及び現金同等物に係る換算差額△37百万円を調整した結果、現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末に比べ418百万円減少し、4,415百万円となりました。
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1.セグメント間取引については、相殺消去しておりません。
2.金額は、販売価格によっております。
3.海外卸売事業については、自社生産設備を保有していないため、記載を省略しております。
当社グループは、需要予測に基づく見込生産を行っているため、該当事項はありません。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は提出日現在において判断したものであります。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
a. 経営成績の状況に関する分析
外国の政情・政策不安に端を発した為替相場の乱高下や株式市場の不安定な動きの中において、当社グループは増収・増益となりました。
増収の主な要因は、養殖事業における国内養殖量の拡大、海外市場の拡大です。国内養殖量は前シーズンから784トン増加して、当シーズンは3,476トン(2025年4月~7月までの水揚量)となりました。サーモンハラス原料の供給不足により、海外加工事業において売上が減少する一方で、アジア市場の拡大により、海外卸売事業で売上が順調に増加いたしました。なお、国内加工事業においては、魚卵漁獲量不足から魚卵供給量が減少し、魚卵相場が上昇した中で、他社と比較して相対的に安価な値付け設定だったことにより堅調に推移いたしました。
増益の主な要因は上記、国内養殖における売上高の増加に基づく利益額の増加と、海外卸売事業において、日本からの仕入商品が円安の影響により仕入原価が下がったことや、ヒト・モノ投資の一巡による利益率の改善が主な要因であります。
b. 財政状態に関する分析
棚卸資産の増加と有形固定資産の増加を主要因として総資産額が増加しています。負債純資産側では支払手形及び買掛金の増加、有償支給取引にかかる負債の増加、利益剰余金の増加を主要因として負債純資産が増加しています。
・棚卸資産の増加
当社グループではどの事業も拡大基調にあるため、棚卸資産は増加傾向にあります。当連結会計年度末においては、有償支給先への原料の支給が前連結会計年度と比較して増加し、営業倉庫に保管する商品及び製品についても順調に増加いたしました。
・有形固定資産の増加
有形固定資産の増加については養殖設備への増加が主な内容になります。特に国内養殖の規模拡大は当社の成長戦略の最重要課題となっていますので、今後も引き続き、積極的な設備投資を行っていく方針です。
・支払手形及び買掛金の増加
在庫仕入等に起因する支払手形及び買掛金について、棚卸資産の増加に伴い増加傾向となっています。
・有償支給取引に係る負債の増加
有償支給先への原料の支給をした場合において当該負債を計上することとなりますが、棚卸資産の増加で記載のとおり、当連結会計年度は前連結会計年度と比較して、有償支給先への原料の支給残高が増えたことにより、増加しています。
・利益剰余金の増加
親会社株主に帰属する当期純利益を順調に計上していることにより増加しています。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に関する情報
a. キャッシュ・フローの状況の分析
営業活動によるキャッシュ・フローは、3,536百万円の収入(前連結会計年度は277百万円の収入)となりました。
事業拡大に伴う棚卸資産残高の増減額△555百万円や売上債権の増減額△232百万円のキャッシュアウトがありましたが、税金等調整前当期純利益を2,815百万円計上したことや有償支給取引に係る負債の増減額893百万円を計上したことなどにより、営業キャッシュ・フローはプラスとなっています。
当社グループは事業の性質上、元々在庫回転期間が比較的長くなる傾向がありますが、そういったなかで事業規模拡大に伴い恒常在庫水準は年々上がっているため、大きなトレンドとして在庫投資に資金を要する傾向が継続しています。
投資活動によるキャッシュ・フローは、1,985百万円の支出(前連結会計年度は2,339百万円の支出)となりました。当社グループの成長に向けた主要課題として、国内の中間養殖場のキャパシティ拡大、成長するアジアの日本食需要への対応力強化があります。特に国内中間養殖場の拡大は重要課題であり、当連結会計年度においても泊川中間養殖場(秋田県八峰町)への建設工事着工をはじめ、生簀の増設等生産キャパシティ拡大のための投資を行いました。当連結会計年度に公表した中期経営目標2030に記載のとおり目標生産数12,000トンに向け、必要な設備を順次計画的に建設しています。
以上のように在庫投資や設備投資に多くの資金を投入していますが、その資金は自己資金及び外部借入で調達しています。当連結会計年度においては、過去に設備投資で使用した借入金の返済等を進めたことにより、財務活動によるキャッシュ・フローは1,931百万円の支出(前連結会計年度は4,727百万円の収入)となっています。現時点において、金融機関とは良好な関係を維持しており、資金調達環境に特段の懸念はありません。
なお、現金及び現金同等物の残高は、次期連結会計年度以降の資金繰り見込みを踏まえ、当連結会計年度末時点の必要水準を確保した残高となるよう、借入金返済とのバランスを考慮しております。
株主還元については経営における重要課題の一つと考えており、連結株主資本配当率(DOE)に基づく安定配当を行う方針です。当社の配当政策については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」をご確認ください。
b. 資本の財源及び資金の流動性に関する情報
当社グループの資本の財源は、自己資金及び金融機関からの借入であります。借入に関しましては、運転資金は主に短期借入金で、設備資金は主に長期借入金で調達しております。運転資金需要のうち主なものは、養殖事業における飼料代金、国内加工事業及び海外加工事業における原料仕入代金、海外卸売事業における商品仕入代金であります。設備資金需要のうち主なものは、養殖施設(冷凍設備や船等含む)や、国内加工工場(裁断機や浄化設備等)の設備投資代金であります。
当社グループでは、事業活動を円滑に行うため、金融機関との当座貸越契約等を利用し、実需に応じた資金調達を実施し、流動性を確保しております。当面の資金繰りのための資金は十分に確保していると判断しております。
③ 重要な会計上の見積及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。連結財務諸表を作成するにあたって、棚卸資産の評価、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性等の資産、負債、収益及び費用に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いております。これらは、過去の実績や将来の事業計画等に基づき合理的に算出しておりますが、見積りの不確実性から実際の結果と異なる可能性があります。
また、海外子会社における生物資産評価については、生物資産を公正価値で測定し、取得価額との差額を損益(売上原価の繰入または戻入)として認識しており、その測定には生物資産の正味売却価額や生存率等を見積もる必要があることから、市場の動向等により結果が大きく変動する可能性があります。
(1)製品加工委託契約
(2)コミットメントライン契約等
(注) 財務制限条項の内容は以下のとおりです。
①連結財務諸表及び個別財務諸表における純資産の部の金額を2024年6月期決算における純資産の部の金額の75%以上に維持すること。
②連結財務諸表及び個別財務諸表における経常損益が2期連続して損失とならないようにすること。
当社グループは、大規模サーモン養殖を進めるべく、各種助成金制度等へ申請し採択を受ける他、大学等の研究機関や外部民間企業と共同研究開発等を行っております。実証実験や新設備によるテスト等を重ねておりますが、研究開発を専門とする部門はなく、また関連する支出は製造原価や一般管理費の一要素として捉えていて研究開発費部分だけを区分して把握するのが困難であるため、研究開発費の記載は省略しております。
なお、国内加工、海外加工、海外卸売事業については、新製品の開発は継続的に行っておりますが、いわゆる研究開発活動は行っておりません。
(1)養殖事業
ア 研究開発活動の方針および目的
「海の恵みを絶やすことなく世界中の人々に届け続ける。」という当社のMissionの下、水産資源を持続的に供給し続けるべく、2015年に青森県において大規模サーモン養殖を開始いたしました。2018年には「青森サーモン」の水揚げが本格的に始まり、2019年には水産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council)が管理運営する養殖に関する国際認証制度であるASC認証を取得し、今日に至っております。これからも海の自然環境を保全し、養殖業に関わる人々の暮らしを支えながら、世界中に高品質なサーモンを供給し続けるための研究開発を積極的に行っていく方針です。
イ 研究の目的
世界中に高品質なサーモンを供給し続けるうえでは、中間魚(※)の養殖がネックとなっております。すなわち、河川利用型の中間養殖場の適地は限られていることから、この方法では中間養殖場不足がボトルネックになっていたという状況です。この課題を計決するため、河川を利用しない屋外循環式中間養殖場の導入を進めており、今後この運用レベルを如何に上げて行くかは当社の研究開発の主要目的の一つとなっております。
また、気候変動の影響に如何に対処するかという点も大きな課題です。海水温上昇への対応、天候不順でも安全かつ安定的に給餌が行える仕組みの構築等も研究目的の一つとなっております。
その他、高品質のサーモンをより低価格で供給するため、養殖関連システムの開発、餌の開発なども目的とした研究を進めております。
(※)中間魚とは、陸上養殖場にて養殖されている養殖魚を指し、海面養殖用の生簀に移送する前段階の状況となります。
ウ 主要課題
①屋外循環式の大規模中間育成魚高密度生産システムの研究開発
屋外循環式の大規模中間育成魚高密度生産システムの開発を継続しております。
国内サーモン養殖においては、海面生産に必須である中間育成魚の供給不足がボトルネックとなっております。この供給不足(ボトルネック)を解消するため、本研究開発では高密度養殖技術体系とIoT活用による酸素供給自働化システムならびに従来技術 (屋内において少量の水資源で循環生産可能) の利点を組み合わせることにより、屋外の寒暖差が大きい水環境でも周年生産可能かつ中間育成魚の生産の低コスト化と量産化を実現する新技術を確立することを目指しております。
2019年から2020年にかけて、パイロットプラントを自社独自で設計、建設し、2020年にそのプラントで飼育した中間魚を海面生産へ出荷しております。現状は、大規模にプラントを拡張して飼育量を増やし、より良い中間魚並びに効率的かつ環境負荷の少ない養殖を目指していく為の飼料の改善や養殖技術の改善、オペレーションコストの改善について、研究を継続しております。
②バージ船を活用した大型サーモントラウトの大規模な海面養殖生産の研究開発
従来、日本サーモンファームにおいては漁船による近接給餌を行っておりました。すなわち、漁船で海面養殖用生簀に近接し海上と海中で目視を行いつつ給餌を行う方法です。しかし、この給餌方法は、大規模化による規模の経済が働きにくいことに加え、悪天候下では十分な給餌が行えないリスクや従業員の安全確保が困難になるリスクも抱えておりました。
これらの課題を解決するため、バージ船を用いた遠隔生産管理システムの研究開発を進め、2022年に農林水産業みらい基金の助成を受けてバージ船を導入し、運用を開始いたしました。引き続き、運用の高度化・効率化に向けて研究を進めてまいります。
③持続可能な環境負荷の少ない養殖の為の飼料開発
当社は、ASC認証をサーモン養殖の新規参入ながら試験養殖から4年目で取得をするなど、持続可能な養殖のリーディングカンパニーとして実際に活動しております。その中で、今後の大規模養殖を見据え、より持続可能で環境負荷の少ない飼料づくりを各飼料メーカーとともに継続的に改善中であり、給餌効率の向上や天然漁獲された魚を基にした魚粉率の低下など着実に成果を上げております。今後もこの方向性を堅持し研究開発に取り組んでいく予定です。
エ 研究開発体制等
国内養殖事業においては、大学等の研究機関や外部民間企業とも協力しながら研究開発を進めております。日本サーモンファーム株式会社の代表取締役がリーダーとなり、生産管理研究部のメンバーをサポートメンバーとする体制を採っております。
オ 研究開発費に対する基本的な考え方
国内養殖事業自体はまだまだ研究初期段階の事業であると考えており、短期的な利益よりも長期的目線で投資を行っていくべき段階であると考えております。従いまして、各種助成金制度あるいは大学等の研究機関や外部民間企業との共同研究開発等は最大限活用しながらも、当社Missionの実現に向けて積極的に研究開発は行っていく所存です。
(2)国内加工事業
国内加工事業においては、原料となる水産物を国内工場において加工し、販売しております。いわゆる研究開発活動は行っておりませんが、販売先のニーズの掘り起こし及び販路拡大を企図して、新製品の開発活動を継続的に行っております。
(3)海外加工事業
海外加工事業においては、原料となる水産物を海外工場において加工し、販売しております。いわゆる研究開発活動は行っておりませんが、販売先のニーズの掘り起こし及び販路拡大を企図して、新製品の開発活動を継続的に行っております。
(4)海外卸売事業
該当事項はありません。