文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において、当社グループが判断したものであります。
当社グループのミッションは、軌道上サービスを通じて宇宙機の安全な航行を確保し、宇宙空間の持続的な利用を実現することにあります。このミッションの実現に向けて、当社グループは、技術開発、事業開発、さらには法規制作りへの働きかけなど、複数の課題解決に同時並行で取り組んでおります。当社グループは、高速道路におけるロードサービスのように、軌道上サービスを宇宙空間における定常的・恒久的な基盤インフラサービスとして確立し、成長著しい軌道上サービス分野において世界のリーダーとなることで、グローバルな収益機会の獲得を目指しています。
当社グループの事業は、技術開発を中核とするディープテック領域に属し、市場が未成熟な段階から立ち上げる市場創造型のビジネスであり、ミッションの性質に即したグローバル経営を特徴としております。草創期にある軌道上サービス市場において、当社グループは世界に先駆け着実に受注を積み重ねています。当社グループは、常に企業価値の継続的な向上を目指し、その目指す姿を見据えた経営を行っております。
当社グループは、企業価値の継続的な向上を図るための客観的な指標として、①軌道上サービスミッションの受注状況並びに②ミッションごとの開発スケジュールの進捗管理を重視しております。
「第1 企業の概況 3 事業の内容 3.3 開発・運用状況」に詳述の通り、当社グループは各国のオフィスを通じて多様な用途の軌道上サービスミッションをグローバルに受注しており、技術革新の加速と市場シェアの拡大が、当社グループのミッション実現への近道であると考えております。このため、①軌道上サービスミッションの受注状況を重視しています。具体的には、当社グループの将来収益を生み出し事業の推進・成長を支えるパイプラインの確保状況を測定するための「受注残総額」を重要な経営指標等として位置づけております。受注残総額の詳細については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 3 生産、受注及び販売の実績 b. 受注実績」をご参照ください。
また、「第1 企業の概況 3 事業の内容 3.2 開発方針」に詳述の通り、当社グループは開発スケジュールに沿って、システムズエンジニアリングのⅤ字モデルにおける各審査を着実にクリアすることが、品質管理、事業の進捗及びプロジェクト収益の実現に直結すると考えており、②ミッションごとの開発スケジュールの進捗管理も重視しております。
当社グループの競争優位性は、以下の点にあります。
まず技術面においては、世界初となるデブリ除去実証衛星「ELSA-d」による宇宙実証及びデブリ観測衛星「ADRAS-J」の打上げに成功しております。当社は、2025年6月時点において、当社グループ以外に、非協力物体に対するRPO技術の宇宙実証に成功した競合事業者の存在を認識しておりません。当社グループは、軌道上サービスのコア技術であるRPO技術を自社開発し、当該技術に関する知的財産権を保有しております。コア技術を自社開発することで初めて、継続的な技術改善を行うことができると当社グループは考えております。
次に事業面では、日本、英国、米国、フランスといった宇宙産業の主要地域に拠点を構え、各地域において研究開発チームを組成し、契約を受注しております。当社グループのミッションの達成のためには、グローバルに同時並行で活動することが不可欠であり、当社グループ各社は、各地域において、豊富な経験に加え、政府機関や宇宙機関及び各地域の宇宙産業界等との広範なネットワークを兼ね備えた経営陣を擁し、各地域に根ざした企業として活動しております。
加えて、当社グループは、各国・各地域における宇宙政策や法規制づくり等の整備に関しても積極的に提言・関与しており、軌道上サービスの利用拡大を通じた当社グループのミッションの実現に取り組んでおります。また、それらの国・地域での取り組みを統括し、当社グループをグローバルに成長させるため、多様かつ多面的なバックグラウンドを有する経営陣及び取締役会を構成しております。
一般に、企業価値とは、企業が生み出すキャッシュ・フローを、割引率(将来の価値を現在の価値に換算する際の利率)とキャッシュ・フローの成長率との差で除したものとして算出されます。この計算式において、分子であるキャッシュ・フローの最大化を図り、分母にあたる割引率は、キャッシュ・フローを損なうリスク(割引率)を低減させることで安定性を高め、さらにキャッシュ・フローの成長率を向上させることが、企業価値の最大化に寄与すると考えられています。
このような考え方を踏まえ、当社グループが捉える企業価値向上の要因は、以下の式によって表すことができます。

当社グループは、企業価値を持続的な価値創造の原動力と位置付けております。具体的には、(1)財務価値、(2)無形資産から創出される将来価値、そして(3)当社グループの存在の不可欠性に基づく総合的な価値を当社グループの企業価値の主要な構成要素と考えております。
上記(2)における当社グループの無形資産とは、特許群や営業秘密といった知的資産、当社グループのブランド、国際的な会議体や各国の政府、宇宙機関、宇宙関連企業、アカデミアなどとのネットワーク、さらに世界5カ国に亘るグローバルな経営管理プロセスなどを指します。
また、上記(3)における当社グループの存在の不可欠性とは、宇宙の持続的開発がグローバルアジェンダになる中、当社グループの技術開発の進展状況、顧客との取り組み、軌道上ミッションにおけるベストプラクティスや法規制づくりに関する考え方や知見が、多くの場面で参照され、また必要とされていることを意味します。
このように、宇宙の持続的開発に不可欠な存在としての立ち位置を維持することは、当社グループが最先端の情報を取得・発信し、様々なステークホルダーとの信頼関係を醸成し、ひいては市場におけるリーダーとしての地位を確立することに貢献すると考えております。
当社グループは、技術開発型かつ市場創造型の企業として、これまで投資活動によるキャッシュ・アウトフローが先行しており、営業活動によるキャッシュ・フローも赤字の状態にあります。こうした状況を踏まえ、当社グループではフリー・キャッシュ・フローの創出に向けて、戦略的なKPIと財務的なKPIを設定しております。
定性的な観点では、世界に先駆けて実証したコアRPO技術を活用し、ビジネスセグメントの拡充と各サービスの事業化を推進することが重要であると考えております。そのため、当社グループは、まず4つの軌道上サービスについて、最短で2028年4月期までに顧客との契約に基づく宇宙空間でのミッションを完了することで、サービスの提供事例と提供価値を証明することを目指しております。また同時に、軌道上ミッションの機会をより多く獲得することで、技術の革新と成熟化を加速させ、コスト削減を図り、市場において先行的にシェアを獲得することを目指しております。当社グループは、2025年4月期以降、各国拠点において複数のミッションを同時に開発するフェーズへと段階的に移行しつつあり、最短で2030年には、各種軌道上サービスがあたりまえと認識されるようになることを目指しております。
財務的なKPIとしては、損益計算書(PL)面では売上総利益の黒字化、営業利益の黒字化に向けて、キャッシュ・フロー(CF)面ではフリー・キャッシュ・フローの黒字化に向けて取り組んでまいります。貸借対照表(BS)面では、仕入債務回転期間や売上債権回転期間の最適化に加え、設計・開発から製造工程までを常に見直し、バランスシートが過度に膨まないよう事業活動を遂行してまいります。
当社グループが開発する軌道上サービスにおいては、現在、各ミッションに係る顧客からのサービス仕様に関する要求がそれぞれ異なっております。そのため、現段階でサービサーの設計において汎用性を追求すると、当社グループのソリューションは重厚超大になりコストが増大する可能性があります。したがって、当社グループでは、安全性や品質を一定に保ち、また、可能な範囲で共通化を進めながらも、まずは個別ミッションにおける顧客の要求の最適化を優先しております。コスト最適化のためには、まずコストの透明化が重要であると考えており、ヒト・モノ・カネ・情報を集約し適切に分配し活用することを実現するべく、2023年4月期よりERP(Enterprise Resource Planning)システムの導入を検討し、2025年4月期中より運用を開始いたしました。中長期的には、各拠点間ですべての技術を共有・共通化することには、各国間の輸出管理規制等の法令遵守の観点から制約があるものの、可能な範囲で汎用的な設計への進化を図ってまいります。
また、技術戦略及び技術ロードマップについては、CTOを中心に常に見直しを行っており、当社グループの技術が各国で成熟化していく過程において、常に最適なコスト構造を追求し、フリー・キャッシュ・フローの創出につなげてまいります。
資本コストの低減は、事業の不確実性を抑え、持続的な成長を支える体制を整えることと同義であると当社グループは認識しております。当社グループでは、単一のミッションや地域への集中を避け、ISSA、LEX、ADR、EOLといった複数のサービスを複数地域にわたって展開しており、本書提出日現在、9件の顧客ミッションに取り組んでおります。今後も複数のミッションを受注し、パイプラインのさらなる分散を進めることで、事業全体の不確実性の低減を図ってまいります。
また、当社グループは、事業面での進捗に加え、社会的にも持続可能な企業であることを目指し、ESGの観点を常に意識した経営に取り組んでおります。
(i) 環境(E:Environment)
当社グループの事業は、宇宙環境の持続利用や宇宙技術・データの活用を通じて、地球社会の持続的開発に資するものであり、「E」は当社グループの中心的なテーマとなっております。
(ii) 社会(S:Social)
当社グループは、企業価値を高める行動が豊かな社会の実現につながると考えており、その観点から、従業員のダイバーシティの確保や労働環境の改善に日々取り組んでおります。2025年4月末時点において、当社グループの従業員は35カ国以上の国籍で構成されており、女性比率(28%)やエンジニア比率(73%)は先端技術企業としては高い水準を維持しております。
(iii) ガバナンス(G:Governance)
当社グループは、健全な経営を行うための管理体制を重視しており、取締役会は国籍・性別・専門的背景において多様性に富み、卓越した経歴を有するメンバーによって構成されています。2025年4月末時点において、社内取締役と社外取締役の比率は3対3です。
当社グループのESGに関する取り組みについては、下記「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」もご参照ください。
これらの取り組みを前提としつつ、当社グループは資本コストや財務の安定性に十分配慮しながら、負債(Debt)と資本(Equity)の最適な構成についても検討を進めております。
当社グループでは、事業の成長の維持・促進とは、中長期的な価値創造のための基盤を築くことであると考えております。当社グループは、事業の成長に向けて、保有するコアRPO技術を以下のように活用してまいります。
短中期的には、世界各国で増加しつつある軌道上サービスの事業機会を獲得し、ミッションを成功に導くことが、当社グループの成長の促進に繋がります。そのためには、世界の主要国に事業拠点及び研究開発チームを保有する必要がありますが、2023年に新たにフランス子会社を設立したことで、宇宙産業における主要国・地域を網羅できる体制が整いました。現在、当社グループは宇宙産業における世界の主要地域である日本、英国、米国、フランスに拠点を有し、各地域で研究開発チームを組成し、契約を受注しております。特に、直近では防衛関連需要が急速に高まっており、日本、英国、米国においてそれぞれ防衛関連のミッション契約を受注しております。当社グループは、非防衛の政府機関からの需要の伸びに加え、防衛関連需要を軌道上サービスの成長ドライバーと考えており、引き続き米国をはじめとする各国の政府機関・防衛機関との間で、軌道上サービスの提供に関する積極的な協議を継続してまいります。当社グループ各社は、各地域において豊富な経験を有する経営陣を擁し、政府機関・宇宙機関・宇宙産業界との広範なネットワークを活かし、地域に根ざした企業として活動しております。なお、案件獲得には1件につき1〜5年程度の期間を要するため、常に将来の顧客ニーズを見据えた営業活動を展開しております。
中長期的には、政府機関からの需要を契機として民間需要の創出・取り込みを図ることが、事業成長の促進に繋がると考えております。EOLサービス及びLEXサービスに関して潜在的な民間需要が存在しており、中長期的に民間事業者向けのLEXサービスが立ち上がり、その後、EOLサービスが立ち上がると想定しております。LEXについては、サービサーがクライアント衛星を捕獲したまま軌道変更や軌道維持を支援する方法に加え、捕獲後に燃料補給を行い離脱する方法についても、主要国において研究が進められており、当社グループは燃料補給ミッション2件について契約済又は選定済です。EOLについては、打上げ前の衛星へのドッキングプレート装着に関する契約を着実に受注しておりますが、さらなる契約獲得に向けて、衛星運用者や衛星メーカーとの議論を継続しております。当社グループでは、LEXサービサーがクライアント衛星の燃料補給口に対応できるように、また、EOLのサービサーがドッキングプレートに接近・捕獲できるように、エコシステム構築に尽力してまいります。さらに、軌道上サービスに対応した衛星バスの他企業への提供についても検討を進めております。
長期的には、RPO技術を活用した新たなビジネスセグメント、すなわち衛星やその部品の再利用・交換、製造・修理といったサービス市場の創出を目指し、技術ロードマップの策定と技術開発に取り組んでまいります。
また、軌道上サービスに必要なRPO技術以外の周辺技術についても、当該技術が当社グループの企業価値向上に資すると判断した場合には、自社開発に加え、M&Aによる獲得も視野に入れてまいります。AI技術については、すでにシミュレーション、契約書作成、マーケティング等に活用しておりますが、RPO技術への応用に関する研究も開始しております。さらに、後述のような世界的な法規制づくりへの積極的な参画も、当社グループの市場規模拡大及び事業成長の維持・促進に寄与すると考えております。
当社グループは世界に先駆け着実に受注を積み重ねているものの、軌道上サービス市場は草創期にあり、当社グループを取り巻く環境には引き続き高い不確実性が存在しております。また、宇宙事業は、研究開発から顧客開拓、衛星の設計・開発、打上げ、運用等に至るまで、長期間を要する特性を有しています。
一方で、宇宙環境問題の深刻化と宇宙空間の持続利用に対する社会的な認識は、2020年以降急速に高まりを見せています。2023年5月には、G7外務大臣会合、科学技術大臣会合、そしてG7広島サミットにおいてデブリ問題が取り上げられ、公式声明(コミュニケ)において、宇宙の持続利用が喫緊の課題であること、及びデブリの低減(これ以上増加させないこと)並びに改善の必要性が明記されました。さらに、2024年6月のG7プーリア・サミットのコミュニケでは、宇宙の持続可能性に関する基準及び規制の策定に向けた取り組みが明記され、デブリ低減に向けてより踏み込んだ内容が示されました。また、2024年9月に開催された国際本部の未来サミットにおいて、「未来のための協定(Pact for the Future)」が全193か国の加盟国が参加する国連総会において全会一致で決議されました。協定の行動目標56番に、宇宙の探査と利用に関する国際協力を強化することが規定されており、具体的には、宇宙の安全で持続可能な利用は、SDGsの達成において重要な役割を果たすとし、スペースデブリや宇宙交通管理等に関する新たな枠組みについて、国連宇宙空間平和利用委員会(UN COPUOS:United Nations Committee on the Peaceful Uses of Outer Space)で議論すること、関係する民間セクターを含め利害関係者が宇宙の安全性と持続可能性の向上に関する政府間プロセスに貢献できるように関与を求めること等が決定されました。
このように、宇宙の持続利用は、主要先進国のみならず世界における重要課題の一つとして認識されるようになり、各国において具体的な行動が求められる段階に至っております。
こうした状況を受け、軌道上サービス市場の拡大を見越した企業による参入表明が世界各地で相次いでおりますが、当社グループはその中にあって、先駆的な技術開発企業としてのポジションを確立してまいりました。競争環境が今後さらに激化することが予想される中、技術開発の推進、事業化の加速、関連法規制の整備への働きかけ、そして安定的なキャッシュ・フローの創出をいかに継続していくかが、当社グループにとって極めて重要な課題であると認識しております。
これらの課題に対処し、中長期的な持続的成長の実現のため、当社グループは以下の通り取り組んでおります。
軌道上サービスに使用される衛星の開発、打上げ及び運用は、極めて複雑なプロセスを伴います。開発の過程では、地上において宇宙環境を模擬的に再現した各種試験を実施した上で宇宙空間へ打ち上げますが、宇宙空間において衛星に予期せぬ故障が発生し、システム全体に影響を及ぼすことでミッションの成否に関わるリスクが生じる可能性があります。さらに、コストやスケジュールに関する制約、政府等による許認可制度や公募内容などの条件も加わり、先進的な技術開発を進めることは非常に困難な課題となっております。
このような状況を踏まえ、当社グループでは、開発段階に応じた審査体制の整備、品質・信頼性に関する管理基準等の策定、開発工程の文書化の徹底など、再現性があり、かつ改善可能な開発手法を採用しております。
当社グループが必要とする技術のうち、非協力物体へのRPO技術を含むコア技術については、自社設計・自社開発を行っており、継続的な技術向上が可能な体制を構築しています。これにより、非協力物体へのRPO技術等を活用した軌道上サービスという新たな選択肢を衛星オペレーターに提供してまいります。
また、自社技術の優位性を確保するため、当社グループでは長期的な技術ロードマップを定期的に更新し、様々な事業機会を通じて技術的優位性を継続的に維持できるよう、研究開発体制の強化及び知的財産ポートフォリオの充実を図ってまいります。
なお、本書提出日現在における当社グループの技術開発に関する取り組みについては、「第1 企業の概況 3 事業の内容 3 研究開発の状況」に記載しております。
政府機関・宇宙機関からの事業機会を獲得するためには、宇宙産業における世界の主要地域に拠点を保有すること、並びに各拠点がそれぞれの国・地域の政府機関・宇宙機関及び宇宙業界と密接な関係を築き、関係性を深めていくことが必要です。
本書提出日現在における事業上の取り組みについては、「第1 企業の概況 3 事業の内容 2.3 4つの軌道上サービス、3.3 開発・運用状況」に記載しております。
宇宙業界では、政府機関・宇宙機関、民間事業者のいずれも、数年から数十年単位で政策や事業計画を策定しています。当社グループは、ISSA、LEX、ADR、EOLといった各種サービスに関し、中長期的な視点から潜在顧客との議論を重ね、コア技術であるRPO技術に対する顧客ニーズやサービス提供のタイミングについて理解に努めてまいります。
草創期にある軌道上サービス市場において、当社グループは世界に先駆け着実に受注を積み重ねています。当社グループは、獲得した事業機会を確実に遂行し、提供価値をグローバルに具現化することで更なる需要を喚起し、事業の加速を図ってまいります。さらに、後述のような法規制づくり等に関する議論にもリソースを配分し、グローバルな貢献を通じて軌道上サービスの活性化と、当社グループのミッションである宇宙の持続利用の早期実現に取り組んでまいります。
デブリ除去に必要な環境整備としての「法規制作り」は、2つの観点に分類することが可能です。当社グループでは、ひとつを「制度構築」、すなわち「宇宙の持続利用に資するような、各国の宇宙法政策及び二国間・多国間等の国際的な協調関係に基づく枠組みづくり」と定義し、もうひとつを「標準化」、すなわち「宇宙の持続利用に資するような、宇宙機の設計や運用に関する基準づくり」と定義しております。
それぞれの観点に基づき、当社グループは以下のとおり取り組みを進めております。
制度構築とは、各国においてデブリ増加への対応やデブリ除去を促進・実現するための国内法規制等を整備することに加えて、長期的には各国間の国際的な連携・協調を通じて、デブリ除去がグローバルに実施される体制を構築することを目指しております。
例えば、各国は強制力を伴う国内法規制により、ミッション許可等の制度(米国では、衛星運用事業者に付与される周波数ライセンスの管理も含む)を通じて、デブリ増加を抑制するための措置を事業者に要求することができます。また、各国は、行動計画の策定等の政策を通じて、自国由来のデブリの低減・除去を推進することも可能です。
デブリ低減に関する議論は、2000年代以降、国際機関間スペースデブリ調整委員会(IADC)やUN COPUOSなどの国際機関において進められてきましたが、米国、欧州、日本などの各国では、さらなる措置に関する議論が活発化しており、当社グループも可能な限りこれらの議論に参画しております。
米国では、深刻化するデブリ問題を受けて、米国連邦通信委員会(FCC)が2004年に策定した周波数の許可に際して考慮されるデブリ低減ガイドラインの見直しに関するパブリックコメントを募集しました。これに対し、当社グループは米国企業7社をとりまとめ、2019年2月に計8社共同でコメントを提出しました。このコメントは米国内の関係者の間で広く参照され、2020年4月に公表された新たなFCCの立法案公告においても、当社グループの共同コメントが言及されています。その後、FCCは、同ガイドラインを見直し、2022年9月には、いわゆる「25年ルール」(高度2,000km以下の軌道を周回する衛星の場合、運用終了から25年以内に大気圏に突入するような設計にする旨のガイドライン)を「5年」に短縮する命令を発出し、2024年9月に発効しました。さらに、2024年1月には、軌道上サービス認可の枠組みに関する立法案公告の草案が発出されました。
欧州では、宇宙機関の宇宙活動に関するイニシアティブとして、ESAが2022年に「Zero Debris Approach」を公表し、2030年までに地球軌道及び月軌道におけるデブリの生成を停止することを目標に掲げました。これに基づき、ESAは2023年11月に、デブリ低減に関する要求を定めた技術ガイドラインである「ESA Space Debris Mitigation Requirements」を見直し・公表するとともに、民間事業者等40団体と共同で「ゼロ・デブリ憲章」を策定・公表しました。同憲章では、2030年までにデブリ生成ゼロを実現するための基本原則や目標値などが定められています。
英国では、2023年6月にチャールズ国王が、宇宙の持続可能性を促進するための枠組みとして「アストラ・カルタ(宇宙大憲章)」を公表しました。
さらに、国際連合の専門機関である国際電気通信連合(ITU)は、2023年11月の無線通信総会において、デブリ除去を含む軌道上サービスなどの新技術を考慮し、低軌道上の衛星に対する「安全かつ効率的な軌道離脱および/または廃棄の戦略と方法論に関するガイダンス」の研究を行うことを決議しました(決議ITU-R 74)。
また、先述の2023年のG7広島サミット及び2024年G7プーリア・サミットのコミュニケや、2024年に国連総会において決議された「未来のための協定(Pact for the Future)」のように、宇宙空間の持続利用に対する社会的な認識は世界レベルに拡大しております。
このように、世界の主要国及び国際的な団体において、宇宙の持続利用に向けた対応は、提案・検討の段階から実施の段階へと移行しつつあります。
衛星の設計や運用に関する国際的な標準化の議論は、衝突回避能力、運用終了時の廃棄処理、無害化、デブリ低減、打上げサービスの選択、デブリ除去サービス、サイバーセキュリティ、RPO実施時の安全性確保や情報の共有など、多岐にわたるテーマを対象としています。これらの事項については、国際団体、政府機関、NPOなど、様々な場で議論が進められております。
当社グループは、先端技術を保有する企業として、標準化を最重要課題の一つと位置付け、積極的に取り組んでおります。日本、米国、英国、フランスにグローバルなポリシーチームを配置し、標準化に関する主要な会議体に参加するとともに、一部の会議体ではリーダーシップを執るなど、独自のポジションを築いております。また、各国の宇宙機関や主要国の政策決定者・担当省庁とも緊密に連携し、世界各国の議論動向を踏まえた整合性の確保に貢献するとともに、当社グループのミッションにも先進的に反映させることで、業界全体のベストプラクティスの形成に寄与してまいります。
当社グループが積極的に関与している標準化に関する会議体の一つに、Consortium for Execution of Rendezvous and Servicing Operations (以下「CONFERS」)があります。本会議体は、米国国防総省の国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency、以下「DARPA」)がシードマネーを提供して設立された業界団体です(現在はDARPAからの資金的援助を受けずに運営されています)。CONFERSは、RPOに関する自主的なコンセンサスに基づくベストプラクティスを策定しており、ISOなどの標準化団体によって、軌道上サービスに関するこれらのベストプラクティスが採用されることが期待されています。当社グループは、CONFERSの設立初期から主要メンバーとして参画しており、現在はExecutive Memberとして活動しております。
当社グループは、必要な許認可の取得を行い、適用される各国の法令を遵守するよう努めております。
一般的に、衛星の運用に関しては、衛星を運用する事業主体が所在する国の当局が求める技術・安全性などの要件を満たすことで、当該当局から運用の許可を得ることができます。これを「ミッション許可」と呼びます。ELSA-dでは英国宇宙庁(UKSA)から、ADRAS-Jでは内閣府から、それぞれミッション許可を取得しました。衛星の物体登録については、ELSA-d及びADRAS-Jともに日本が登録国となっております。
衛星との通信に使用する周波数の利用についても、ITUの規定に基づき、各国の法令に従って必要な手続きが定められています。日本の場合、電波法に基づき、他国の地上無線局に有害な干渉を与えない(または他国から干渉を受けない)ようにするため、総務省を通じて国際周波数調整を行った上で、総務大臣への申請により無線免許を取得します。また、衛星の運用に必要な地上局(人工衛星との通信を行うために地上に設置するアンテナやデータ送受信装置等)の使用については、地上局が所在する国ごとに必要な許可を取得する必要があります。当社グループは、ELSA-d及びADRAS-Jの運用に関して、日本、米国、カナダをはじめとする複数の国から必要な許可を取得しております。その他にも、輸出管理に関する許可や危険物輸送等に係る許可の取得など、必要な手続きを適切に実施しております。
今後実施予定のISSA、LEX、ADR、EOLといった各ミッションにおいても、上記のような許認可の取得が必要となります。
さらに、当社グループは、RPO技術が先進的な技術であることを踏まえ、ミッションの目的や運用の透明性を確保するため、自主的な取り組みも行っております。ELSA-dやADRAS-Jのミッションの目的・内容については、国際的な学会等での発表や論文提出に加え、展示会、講演会、SNS、メディアなどを通じた広報活動を通じて開示しているほか、政府関係者などに対しても必要な説明を行っております。加えて、両衛星にはレトロリフレクター(レーザ反射を有する機構)を搭載しており、地上から軌道上での位置を詳らかに把握できるよう配慮されています。
また、当社グループは、衛星とデブリとの衝突可能性のリスク評価及び衝突回避のため、世界の主要なSSA(Space Situational Awareness:宇宙状況把握)プロバイダーと契約を締結しております。
保険の組成については、顧客との責任分担のあり方や保険料の相場などを踏まえて、ミッションごとに適切に対応してまいります。例えば、ELSA-dは自社資金によるミッションであり、打上げ失敗に備えた打上げ保険、ミッション失敗に備えたミッション保険及び軌道上で第三者に損害を与えた場合に備えた第三者賠償責任保険に加入しました。ADRAS-Jでは、軌道上での第三者賠償責任保険にのみ加入しております。
なお、宇宙条約第6条では、非政府団体(企業、研究機関など)による宇宙活動であっても、「自国の宇宙活動」については当該国が国際的な責任を負うことが定められており、また、宇宙活動に起因する損害についての国際的な責任については、損害責任条約が具体的な定めを設けております。特定のミッションについて複数の国が関係する場合に、条約上は複数の打上げ国間で連帯して責任を負うこととされていますが、その具体的な責任分担のあり方などについては十分な国家実行がなく民間事業主体の責任のあり方(当該国と民間事業主体との関係や、民間事業者間での責任分担)についても現時点では不明確な点が多く残されています。
このため、当社グループでは、保険の組成を通じてこれらのリスクを事前に低減しておりますが、保険に加入している場合であっても、ミッション遂行に際して予期せぬ損害賠償責任を将来的に負う可能性があることを認識しております。
当社グループは、多額の先行投資と長期の開発期間を要する人工衛星及び宇宙機器の研究開発に従事していることから、2020年4月期以降、フリー・キャッシュ・フローの赤字が継続しております。今後も、軌道上サービスを目的とした人工衛星の開発を加速するとともに、多種多様な軌道上サービスの需要に対応するための技術適用の拡大を図るため、先行投資を継続する必要があり、資金調達を行っていく必要があります。
このため、当社は資金調達手段の確保・拡充に向けて、2024年6月に東京証券取引所グロース市場に株式上場し、6月から7月にかけて20,070百万円を調達いたしました。その後、2025年3月に株式会社りそな銀行とのコミットメントラインにより3,000百万円を調達し、2025年5月には、上場時には見られなかった防衛関連需要の顕在化や民間向け寿命延長サービスの急速な関心の高まりを背景とした事業機会の確実な獲得と競争優位性の向上のため、海外募集による新株式の発行により10,985百万円を調達いたしました。
今後はこれまでに調達した資金で実施した投資を基に事業進捗を更に加速し、早期の損益分岐及びフリー・キャッシュ・フロー黒字化を目指してまいります。借入金の借り換えを除き、現時点で資金調達は計画しておりませんが、今後魅力的な投資機会が生じた場合、必要に応じて機動的な調達を可能とすべく、引き続き資金調達手段の多様化を図ってまいります。
当社グループは、軌道上サービスに必要な先進技術の研究開発、衛星の設計から製造・試験に至る衛星製造プロセス、さらには衛星の運用までを自社で一貫して行っております。そのため、今後の人工衛星の開発や技術適用の拡大に伴い、複数の開発ラインを同時に進行させるためには、適切な人材の確保が不可欠です。
具体的には、株式上場等を通じて当社グループの知名度を高め、新卒・中途を問わず積極的な採用活動を推進してまいります。また、長期的な雇用の安定を図るため、社内における教育・研修体制を充実させ、人材の育成にも注力してまいります。
当社グループは、先端的なRPO技術等を活用した軌道上サービス事業に特化し、これらの技術の多角的な展開・拡大を目指しております。これまでに構築してきた研究開発技術を最大限に活用し、対象となるデブリや運用中の衛星に対して、コストパフォーマンスに優れたソリューションを提供することで、安定的なキャッシュ・フローの創出を図ってまいります。
このように、当社グループは経営環境における課題を解決しつつ、デブリ除去を含む軌道上サービスを通じて安定的なキャッシュ・フローを確保し、それを背景とした規律ある成長投資と継続的な株主価値の向上の両立を目指してまいります。
2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次の通りであります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループは、長期的かつ持続可能な宇宙利用の実現に貢献する軌道上サービス事業の多角的な展開・拡大を目指す企業であり、サステナビリティは当社グループのビジョン及びミッションの中核をなしております。そのため、経営の意思決定や行動において最優先される共通の価値基準のうち、「Space Sustainability」や「ESG経営による顧客への付加価値の提供」を最重要テーマとして事業運営に取り組んでおります。
また、当社グループは、持続可能な宇宙利用の実現に留まらず、地球環境の保全や人的多様性の確保といったサステナビリティ(持続可能性)に関する取り組みが、経営上の重要な課題であると認識しております。当社では、取締役兼COOを筆頭として各主要部門の役職員により構成される「ESGワーキンググループ」がサステナビリティ及びESGに関する検討を行い、経営課題としての内容の重要性に応じて、適宜取締役会への報告・付議を行ってまいります。
当社グループでは、こうした取り組みをより一層推進するべく、ガバナンス体制の強化に努めてまいります。詳細につきましては、「
当社グループは、「将来の世代の利益のための安全で持続可能な宇宙開発」というビジョンを追求するなかで、宇宙においても地球においても、すべての人にとって持続可能な未来を実現できるような事業運営に取り組むことを基本方針としております。かかる基本方針の下、ESGワーキンググループでは、外部のコンサルタントと連携して、当社グループに関連するESG関連トピックの特定及び現状分析のほか、ESGへの取り組みに関するフレームワークの検討を進めております。また、2023年には、当社のグローバル事業全体を通じて、企業としてのカルチャー及びサステナビリティへのコミットメントの根拠となる全社的なサステナビリティ戦略を策定いたしました。同戦略においては、製品やサービスのライフサイクルの最適化(環境保全)、ダイバーシティ・公平性・インクルージョン、従業員の健康と安全の追求並びに人材採用及び育成(人材)、ガバナンス強化及び企業倫理(責任ある事業展開)、法規制の策定への働きかけや国際的な標準化の推進(Space Sustainabilityの構築)などを注力すべき領域として掲げております。
当社グループでは、リスク管理が経営の最重要課題の一つであるとの認識から、「グローバルリスクマネジメント規程」を定め、独立したリスク管理機関としてリスク管理委員会を設置しております。当社では、サステナビリティ関連のリスク及び機会についても、その他経営上のリスク及び機会と一体的に、リスク管理委員会において監視及び管理しておりますが、今後の状況に応じて、サステナビリティに係るリスク管理の強化を検討してまいります。事業活動に伴う重大なリスクの顕在化を防ぎ、万一リスクが顕在化した場合でもその影響を最小限に留めることで、企業価値の維持・向上を図っております。
リスク管理委員会の詳細につきましては、「
本書提出日現在において、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関して、当社グループの実績を長期的に評価し、管理し、及び監視するために用いられる情報のうち重要なものについて、該当事項はありません。
また、本書提出日現在において、当社は、「(2) 戦略」に記載の人材の採用及び育成並びに社内環境整備に関する方針に係る指標及び当該指標を用いた具体的な目標を設定しておりません。今後、これらの方針に関連する指標のデータ収集及び分析を進め、目標を設定し、その進捗に合わせて開示項目を検討してまいります。
本書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主なリスクは、以下のようなものがあります。
当社グループでは、リスクの顕在化の可能性及び顕在化した場合の影響度を十分に認識し、顕在化の回避及び顕在化した場合の対応に努めておりますが、このような諸策の成否には不確実性が存在します。したがって、当社株式に関する投資判断は、本項及び本書中の本項以外の記載内容を併せて、慎重に検討した上で行われる必要があります。また、必ずしも事業上のリスクに該当しない事項についても、投資家の投資判断上、重要であると考えられる事項については、積極的な情報開示の観点から記載しておりますが、以下の記載は、当社株式への投資に関連するリスクをすべて網羅するものではない点にご留意ください。
当社グループは軌道上サービスの研究開発を行っておりますが、当社グループが想定する軌道上サービスやその提供に必要な技術の開発及び実証は未だ完了しておらず、また、研究開発・実証ミッションを除く商業サービスとしての顧客への提供実績もありません。軌道上サービスの研究開発及び実証は、長い年月をかけて複数の段階を経て行われるものであり、多くの時間と多額の研究費用を要するとともに、すべての研究開発及び宇宙空間でのミッションが成功する保証はなく、様々な事情による遅延のリスクもあります。また、軌道上サービス市場は、当社グループは世界に先駆け着実に受注を積み重ねているものの未だ市場草創期にあり、確立した市場は存在しておらず、将来の市場規模及びその拡大には不確実性を伴います。このように、当社グループの事業はその性質上、様々な不確実性とリスクを有しており、当社株式への投資は、一般投資者による投資対象としては相対的にリスクが高いものといえます。当社株式に関する投資判断は、本項及び本書中の本項以外に記載される当社グループの事業の性質、事業環境、研究開発・実証の状況、不確実性、リスク等を慎重に検討した上で行われる必要があります。
なお、本項における将来に関する事項については、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)技術開発・実証に係るリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループ事業の成長には、軌道上サービスに必要な技術開発が完了し、当該技術が実証実験を通じて確認されることが不可欠です。
本書提出日現在において、当社グループの想定するビジネスモデルに対して、軌道上サービスやそれに必要な技術のうち、ELSA-dミッション及びADRAS-Jミッションにおいて、非協力物体への接近、観測、手動制御による模擬デブリの捕獲など、RPO技術の実証に成功しております。ISSA以外のサービス(LEX、ADR、EOL(一部を除く))に関して、いずれも実証できてはおりません。
EOLサービスの技術開発については、2021年8月25日に、実証実験機であるELSA-dが宇宙空間で磁石を使用した手動制御による模擬デブリの捕獲実験を成功させたほか、2022年1月25日より実施した一連の実証実験において、自律的な軌道維持アルゴリズムにより模擬デブリから30メートルの距離を維持するとともに、最大1,700キロメートル離れた模擬デブリに対して安全に160メートルの距離まで接近し、遠距離からの物体の観測及び追跡、非制御物体への誘導接近、絶対航法から相対航法への切替えなど、複雑で高難度な技術を実証いたしましたが、現在完了しているEOLサービスの技術に関する宇宙空間での実証実験はこれらに限られ、協力物体又は非協力物体の自律的な捕獲等については、今後も更なる実証実験が必要です。また、ISSAサービスの技術開発については、同サービス初となる実証ミッションのサービサー衛星であるADRAS-JでRPO技術実証に成功しております。(ミッション詳細については、上記「第1 企業の概況 3 事業の内容 3.5 ADRAS-J(アドラス・ジェイ)」参照)。ADR及びLEXにつきましては、本書提出日現在において、地上での技術開発や試験の実施にとどまっており、宇宙空間での実証実験はなされておりません。そのため、今後も技術開発・実証実験等を進める必要があり、そのために更なる時間を要する見込みです。
当社グループは、前記「第1 企業の概況 3 事業の内容 3 研究開発の状況」に記載のとおり、必要となる技術開発を進めておりますが、技術開発に想定以上の期間を要する場合や技術開発に失敗するリスクも考えられます。このような場合には、軌道上サービスとしての提供開始が遅延し、又は軌道上サービスとしての提供を断念する可能性があります。また、予期せぬ事故などによってサービサー衛星が故障又は喪失する事態が発生した場合、原因究明や実証実験の再開に相応の期間を要する可能性もあります。加えて、実証実験に成功した場合でも、軌道上サービスとしての提供に至る保証はなく、また、軌道上サービスの提供が実現した場合においても、顧客に提供する将来の各ミッションの成功が保証されるものではありません。さらに、実証実験やミッションの失敗や遅延等によって当社グループに対する評価が低下し、既存顧客との契約解除が増加し、新規顧客の獲得が困難となる可能性や、顧客からの損害賠償請求や契約に基づく補償請求など、保険では賄いきれない金額の損害を当社グループが負う可能性があります。これらの事態が発生した場合には、軌道上サービスの提供の時期が想定よりも大幅に遅れたり、提供を断念せざるを得なくなったりすることで、当社グループの事業、業績及び財政状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
(2)人工衛星の開発・製造及び運用に係るリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループは、将来に向けて継続的に軌道上サービスを提供・維持・拡大するために、効率的な人工衛星の開発・製造と打上げが欠かせません。人工衛星は極めて精密な機器であり、僅かな欠陥でもシステム全体に対して甚大な影響を及ぼす可能性があります。例えば、ELSA-dにおいては、サービサーに搭載されたスラスタの一部が故障したため、予定されていた実証の一部を実施することができませんでした。そのため、細心の注意を払いつつ、輸出入規制を含む複雑な規制要件を遵守した開発・製造に努めておりますが、他の業界と比較して、経費増大や設計・開発・製造に関するスケジュール遅延が生じる可能性が高いといえます。例えば、当社は2023年4月にELSA-Mの構造適格性評価モデル(SQM)について一連の試験を実施し、その結果、一部の部品に構造上の脆弱性があることが判明いたしました。この問題に対処し、追加テストを実施した結果、ELSA-Mの開発に遅れが生じる結果となりました。
上記に加え、人工衛星の製造から運用開始までの過程で発生するサプライヤーによる部品納入遅延、許認可取得の遅れなど、何らかの事由により、運用開始の遅延が生じる場合があります。商業サービスにおいては、サービスの提供を既存の他の衛星で代替できない場合、顧客の利益の喪失及び損失が生じる可能性もあり、これらのリスクは当社グループの事業、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(3)人工衛星の打ち上げに係るリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループは、衛星の打上げ技術を有していないため、契約を締結するロケット打上げ事業者の打上げ時期の遅延や軌道投入の精度の低さなどによって、運用開始までの期間が当初の想定より延びる可能性があります。また、当社グループは、打上げに失敗した場合、サービサー衛星を完全に喪失する可能性があります。さらに、打上げ契約は、打上失敗時の相互免責条項など、技術提供者側にとって有利な契約条件で締結されることが一般的であり、また、打上げに必要な許認可の取得や打上げ時の天候条件、技術提供者側の都合等によって、当社グループの想定通りの内容で打上げ許可が下りない、打上げ許可の取得に想定以上の時間を要する、又は何らかの事情により打上げが遅延若しくは再契約を要することとなる可能性もあります。その結果、打上げ機会が制限され、次の打上げ機会までに相応の時間を要する場合があります。実際に、ADRAS-Jミッションにおいては、当初2023年9月の打上げを予定していたところ、直前のRocket Lab社の打ち上げ失敗の影響を受け、打上げが遅延したことにより、最終的には2024年2月18日付での打上げとなりました。更に、打上げに関しては、契約の相手方が、当社グループのような民間事業者よりも国家プロジェクトを優先する可能性があり、これによるスケジュールの変動や費用の増大も予想されます。
これらのリスクは当社グループの事業、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(4)衛星関連部品等に関するサプライチェーンに関するリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループが人工衛星の研究開発及び製造を行うにあたり、原材料の高騰や重要部品の供給不足が生じた場合、開発及び製造のスケジュールに遅延が生じる可能性があります。
また、当社グループは、人工衛星の研究開発・製造にかかる部品の製造、外注加工及びそれらに付随する業務の一部について、他社に委託しています。調達先が輸出規制その他の事由により部品の品質や供給を確保できない場合や、新規委託先における供給体制の整備が当社グループの想定どおりに行われない場合には、当社グループによる開発・製造に遅延が生じる可能性があります。現在進行中の国際的な貿易摩擦に伴う関税の引き上げやその他の貿易障壁も、部品や装置のコスト増加や必要な部品・装置の調達の混乱を引き起こす可能性があります。かかる部品の品質や供給を当社グループが完全にコントロールできる保証はなく、また、調達先の業務に影響を及ぼす部品の不足や価格上昇等を、事前に予想することも容易ではありません。特に、長納期部品の需要が急増した場合、部品不足が起きる可能性が高まります。さらに、原材料や燃料価格の高騰、災害や感染症の発生・拡大等により、調達先の製造能力や財政状態に悪影響が生じる可能性もあります。また、調達先との間で既に締結されている契約を、当社グループが想定する条件で更新することができない可能性もあります。
当社グループでは、部品単位で、製造拠点・調達先における対策状況などを定期的に確認し、サプライチェーンに関するリスクの低減に努めておりますが、サプライチェーンに関するこれらの問題が発生した場合、期待したとおりの外注サービスの提供を受けることができない、又は必要な部品の確保ができない状況が生じ、また、代替となる調達先や部品の選定等にも困難をきたす可能性があります。その結果、当社グループの衛星開発・製造に遅延が生じ、計画を断念せざるを得ない可能性があります。その際には、当社グループの評判、事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(5)衛星の稼働と寿命に関するリスク
(顕在化可能性:中~大、発生時期:特定時期無し、影響度:中~大)
当社グループの衛星運用において、いくつかの重要なリスクが考えられます。まず、研究開発における不確実性が挙げられます。複雑な宇宙技術の開発には多額の資金と時間を要しますが、地上試験で問題が発生し、開発が遅延、若しくは中止される可能性があります。
また、宇宙空間は極めて厳しい環境であり、真空状態、温度変化、放射線などが衛星に影響を及ぼす可能性があります。これにより、地上試験で問題なく作動した機器や部品及びシステムが宇宙環境下で予期せぬ誤作動や故障を引き起こす可能性が考えられます。加えて、宇宙空間での実証実験で問題なく作動した衛星についても、商業サービス時に同様の性能を発揮できない可能性もあります。
更に衛星の運用中に不適正な指示などの人為的なミスが生じ、サービサー衛星又はクライアント衛星の機能に重大な影響を及ぼす可能性も考えられます。
衛星の寿命設計も重要なポイントであり、設計段階で設定された寿命が、宇宙環境の影響などにより達成できない可能性があります。このため、予定よりも早い段階で衛星の機能が低下することとなります。設計寿命前に衛星が機能停止した場合、顧客へのサービス提供に重要な影響が生じる恐れがあります。
加えて、クライアントとなる衛星のPMD率の向上等の技術の進歩により、既存のサービサー衛星がその設計寿命を迎える前に、当該既存サービサー衛星又はその部品が陳腐化し、有用性が失われる可能性もあります。
当社グループでは、これらの不測の事態に対し事前に取り得る限りの対策に努めておりますが、かかる対策にもかかわらず上記のリスクが現実化した場合、顧客へのサービス提供に影響を及ぼす可能性があります。特に、商業サービスの提供が想定通りに進まない場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(6)打ち上げ時や運用中の事故により衛星が損傷若しくは喪失し、保険でも損失を回収できないリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループが宇宙事業を行う際には、故障、爆発、デブリとの衝突などの事故によって、衛星が損傷又は喪失するリスクがあります。加えて、LEXサービスにおいて、運用中のクライアントの衛星との衝突によりクライアントの衛星に損傷等が生じた場合に、クライアントから損害賠償請求を受けるリスクもあります。また、宇宙業界の慣行として、打上げ時に発生した事故による損失に対する求償権は、打上げを実施する政府機関・事業者と顧客が相互に放棄することが一般的であるため、当社グループに原因がない打上げ時の事故によって、当社グループの衛星に損傷や喪失が発生した場合でも、補償を受けることができない可能性があります。
当社グループは、実施するミッションの契約内容と費用対効果を考慮し、打上げ危険担保保険や第三者賠償責任保険などに必要に応じて加入することで、事故に伴うリスクを一部カバーすることを基本方針としております。しかし、ミッションの途中に既存の保険が解約される可能性があることに加え、保険の適用期間や補償金額には限界があり、例えば、打上げ危険担保保険については、人工衛星の損傷の度合いや原因によっては十分な補償を得られない可能性があります。
また、当社グループの保険調達先である宇宙保険市場環境の変動性が大きいことから、当社グループの今後のミッションの成否等の実績によっては、将来打ち上げられる人工衛星について、当社グループの希望どおりの条件で保険を付保できず、又は保険を一切付保できない可能性があります。
これらの結果、事故により当社グループの衛星の損傷又は喪失が発生した場合、保険でも損失を回収できないリスクがあり、その場合には当社グループの事業、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
加えて、宇宙活動において第三者に損害を生じさせた場合の責任について、宇宙条約等の国際的な取り決めは存在するものの、国家間の具体的な責任分担のあり方や、民間事業主体の責任のあり方については、不明確な点が多いのが現状です。従って、保険の組成にもかかわらず、当社グループが第三者に対して、現時点で予期し得ない損害賠償責任を負う可能性もあります。
(7)特定の顧客への依存について
(顕在化可能性:中、発生時期:長期的に低下、影響度:中~大)
当社グループは政府機関及び防衛機関と多数の契約を締結しており、これらの政府機関及び防衛機関から獲得する収入は、2025年4月期のプロジェクト収益の99.0%を占めています。取引先別には、米国宇宙軍30.9%、文部科学省 28.7%、JAXA 14.3%、ESAからプロジェクトの資金提供を受けているNetwork Access Associates Limited (Eutelsat OneWeb社) 13.9%となっております。
政府予算の縮小や事業環境の悪化、他の事業者との組織再編等といった主要顧客側での事情又は当社グループによるサービス提供の遅延等により、主要顧客との関係が悪化した等の事情により、当該主要顧客との取引が縮小、又は解除された場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
また、政府機関及び防衛機関が実施するミッションでは、フェーズごとに入札手続が設けられていることがあります。当社グループが初期フェーズを受注しているミッションについても、特に競合入札事業者が存在する場合には、当社グループが当該ミッションの後続フェーズを受注できない可能性があります。
今後も、ISSA、LEX(主に燃料補給)、ADRの各サービスについては、政府機関及び防衛機関が需要の大部分を占めると考えられ、当社グループの収益の大部分を政府機関及び防衛機関に依存する状況が継続する可能性があります。当社グループは、民間事業者からの新規契約の獲得を通じて収益の分散化を図っていきますが、今後何らかの事情により、収益分散が予定通り実現できない可能性も考えられます。なお、上記「(6)収益認識方針に関するリスク」のとおり、政府機関から当社グループに拠出される資金は、会計上、その他の収益のうち政府補助金収入として計上されることがあり、その場合、当該資金の受領は当社グループの売上収益として計上されず、売上収益の伸長に貢献しないことになります。また、当社グループは、将来実施するプロジェクトについても政府補助金の申請をすることがありえますが、申請した政府補助金を取得できない可能性があります。
政府機関や防衛機関との契約は、相手国の政策方針の変更その他当社グループのコントロールが及ばない要因によって終了となる可能性があります。また、一部の契約では、当社グループが追加の規制、監督、報告義務等の対象となる可能性があり、これに対応するために追加的費用が発生し、利益の減少、法令や契約上の義務違反時の課徴金及び他のミッションへの入札禁止等につながる可能性があります。加えて、特に機密性の高い案件に関与した場合、機密保持の観点で案件情報の開示が制約される可能性もあり、その場合は投資家への情報提供が十分に行えない可能性があります。また、当社米国子会社のAstroscale U.S. Inc.が、米国における国防に関する一定の事業(Classified Business)に関与する場合等においては、米国のFOCI(Foreign Ownership, Control, or Influence)規制等に基づき、非米国企業である当社による米国子会社等の管理について、一定の制約が生じる可能性があります。さらに、政府機関や防衛機関との契約においては、当社グループに支払われる対価の額が契約時点で確定額として設定されることが一般的であるため、契約締結後に当社グループにおいて予期せぬサービス提供費用の増加等が生じた場合、これを顧客に転嫁することができず、当初想定していた利益を得られなくなる可能性があります。
また、政府機関や防衛機関からのISSA、LEX及びADRのサービス収益は、プロジェクトの進捗度に応じて測定され、その収入は所定の成果達成に基づくマイルストーン収入となることを見込んでいます。しかし、この収益及び収入の発生時期は、開発・実証の進捗に依存する不確実なものです。したがって、開発・実証の遅延や未達が生じた場合、当社グループの業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(8)事業の急成長に伴うリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループは、2013年にシンガポールで設立され、その後、日本、英国、米国、イスラエル、フランスに拠点を広げ、企業として成長してきました。今後も高い成長性を維持するためには、技術開発の進展、製造設備の充実、事業運営体制の強化、人材等の拡充などが必要となります。
しかしながら、これらの課題に対する対策が適時かつ適切に実行されない場合、失注による成長の鈍化、市場シェアの低下、事業の効率性低下などにつながり、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。また、成長に応じた管理体制の整備が追いつかない場合、事業運営の失敗やサービス品質の低下を招く可能性があり、当社グループに対する評価の低下につながる可能性があります。このような事態が生じた場合、その対応に経営陣や主要な従業員のリソースが割かれ、他の経営課題への対応が遅れることで、当社グループの成長や業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
更に、製造設備への投資や人材採用等において、想定を上回る費用が必要となる場合にも、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響が及ぶ可能性があります。
(9)人材の獲得・維持ができないリスク
(顕在化可能性:低~中、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループ事業の成功には優秀な人材の獲得と維持が不可欠です。特に、当社グループの技術開発やミッションを推進する上で、高度な技術者の存在が極めて重要です。
当社グループはグローバル企業であり、世界中の人材を採用対象としておりますが、宇宙業界全般において人材不足が常態化しており、人材獲得競争も激しくなっております。政府機関や大手企業との競合もあり、優秀な人材を獲得及び維持するためには高額の報酬や働きやすい環境を提供する必要があります。現在の当社グループの人材採用における優位性については、当社グループが軌道上サービス業界のリーディングカンパニーであるとの市場からの評価が大きく寄与していると認識しており、今後の採用活動においても、かかる評価を維持・向上させることが不可欠となります。
しかし、当社グループが想定通りに適切な人材を確保できない場合や、既存の人材が他社へ流出する場合には、新規案件への取り組みや新技術の開発を断念する場合や、顧客満足度の低下による顧客流出により、予定していた成長を実現することができず、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(10)サイバーセキュリティに関するリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループが日常業務で使用するデータ・ネットワーク基盤の防御が十分でない場合、外部攻撃やハッキングなどのサイバー攻撃により、個人情報や技術情報の喪失や流出が発生するリスクがあります。また、当社グループは、事業を展開する上で、政府機関や防衛機関、民間事業者の宇宙開発技術に関する情報や機密情報等、守秘性の高い情報・技術を取り扱っていることに加え、当社グループの事業は民間需要向け及び軍事用途というデュアルユースの可能性を有するため、他の業界と比べてサイバー攻撃の対象となる可能性が相対的に高いと認識しております。したがって、当社グループ(役職員や委託先の関係者を含む。)の故意・過失、又は悪意を持った第三者によるサイバー攻撃、ハッキング、その他不正アクセス等により、これらの情報の流出や消失等が発生する可能性があり、それにより当社グループの競争力の著しい低下や適用法令への抵触が生じた場合には、当社グループの損害その他の影響は甚大なものとなる可能性があります。特に、当社グループは現時点で政府機関及び防衛機関案件の比重が高いため、新規商談案件への入札の停止や対策完了までの取引停止などが生じた場合には、当社グループの事業、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループの提供する軌道上サービスにおいて、ハッキングや通信妨害等により不適切な干渉が行われた場合には、当社グループが提供すべきサービスを適切に遂行できなくなる可能性があります。こうした事態が生じた場合、当社グループの信頼性や企業イメージが低下し、顧客の維持・獲得が困難になるほか、競争力が低下したり、損害賠償やセキュリティシステム改修のために多額の費用負担が発生したりする可能性があります。その結果、当社グループの事業、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
そのため、当社グループは、災害復旧計画の策定や事業保険への加入等、サイバーセキュリティに対する適切な対策を講じることが事業継続と競争力の維持に不可欠であると認識し、これらの対策を実行しております。しかしながら、これらの対策を講じていても、実際に当社グループに生じる悪影響や損害に対して不十分である可能性があります。
(11)主要経営陣への依存リスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループの運営において、経営陣や特に重要な従業員が果たす役割は極めて大きなものです。特に、当社の創業者であり代表取締役社長兼CEOである岡田光信は、ミッションの策定や実行、企業理念、文化、戦略的方向性、サービス戦略、ブランドの確立等に大きな役割を負っているとともに、2023年9月まで国際宇宙航行連盟(IAF)の副会長として、また、現在は、IAF名誉アンバサダーとして、引き続き業界の規制の発展にも深く関与しています。重要な経営陣及び従業員につき、不測の事態や辞任が発生した場合、また、準備された代行体制が十分に機能しない場合、当社グループの事業に支障が生じる可能性があることを認識しております。
なお、当社が株式会社三菱UFJ銀行との間で2022年9月30日付で締結した実行可能期間付タームローン契約(借入実行可能額5,000,000千円)、2024年3月15日付で締結したリボルビング・クレジット・ファシリティ契約(借入実行可能額5,000,000千円)及び2024年3月15日付で締結した劣後特約付金銭消費貸借契約(借入実行金額2,000,000千円)においては、代表取締役社長である岡田光信が当社の代表取締役社長でなくなった場合には、一定の例外を除き、同契約に基づき当社が負う一切の債務(借入金返還債務を含む。)につき、期限の利益を喪失し、直ちに支払い義務が生じることが規定されており、かかる事態が顕在化した場合には、当社グループの事業や業績及び財務状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
(12)当社グループのブランド・評判に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループでは、既存顧客の維持と新規顧客の獲得、さらには新規採用等の観点で、宇宙空間の持続利用に資する軌道上サービス業界のリーディングカンパニーとしての評判を保持し、向上させることが不可欠です。そのためには、ミッションの成功を重ねること、革新的な技術開発の継続、営業活動、広報活動等、多岐にわたる取組みが求められます。
しかしながら、実証実験やミッションの失敗、サービス上の瑕疵、サイバー攻撃による技術や顧客情報の漏洩、メディアによる不利な報道や風評、労務管理その他の事象に関する従業員による告発、不法行為等によって当社の評判に悪影響が及ぶ可能性があります。また、競合他社が市場での認知度を高めることで、当社グループのブランド価値が相対的に低下する可能性も考えられます。こうした状況が発生した場合、当社グループの事業の成長が阻害され、競合対比での競争優位性が低下し、顧客獲得や維持に課題が生じる可能性があります。それに伴い、当社グループの事業、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性もあります。
(13)軌道上サービスの市場が想定通りに創造・拡大しないリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループでは、合理的と考えられる情報に基づき軌道上サービスの市場規模を推計しておりますが、当該市場は当社グループは世界に先駆け着実に受注を積み重ねているものの、未だ草創期にあり、現時点では正確な市場規模の測定や予測は困難です。政府機関、防衛機関や民間事業者から寄せられる軌道上サービスに対するニーズは近年著しく増加しているものの、軌道上サービス市場が、以下のような要因等により、当社グループの想定する規模に達しない可能性があり、その場合は当社グループが目指す収益性を達成することができず、当社グループの事業、業績及び財政状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
① 民間事業者の需要の変化
当社グループのEOLサービスは、コンステレーション事業者を主な顧客として想定しています。2025年7月時点の軌道上の衛星の数は約12,000機(ESA Space debris by the number)ですが、コンステレーション事業者による打ち上げを中心として、2030年までに新たに約20,000機が打ち上げられると推計(Space News(2023) "Industry report: Demand for satellites is rising but not skyrocketing")されています。しかしながら、景気減速その他様々な理由によるコンステレーション事業者の財政状態の悪化、技術的な障害、デブリ抑制に関する規制の動向、コンステレーション事業者のサービスへの需要の減退、事業者間での統合その他の組織再編等の原因により、現在予定されているコンステレーションの打ち上げが予定通りに実現しない可能性があります。また、当社グループでは、顧客衛星の寿命を概ね5~7年と想定し、かつ、ミッション期間中の故障率を7~8%と見込んでおりますが、当社グループが想定する技術レベルを上回る技術革新等により、想定以上に顧客衛星の寿命が延びた場合、故障率が低下した場合、軌道修正能力が向上した場合のほか、近年向上傾向にある顧客衛星のPMD率がさらに向上し、当社グループによるデブリ除去と遜色ないコストで実現可能となった場合等においては、軌道上サービスの市場が当社グループの想定通りに拡大しない可能性があります。
また、民間事業者向けLEXサービスについては、静止軌道(GEO)の衛星を想定しています。官民合わせて、現在、静止軌道衛星は590機存在しますが、毎年20-30機程度の衛星が燃料切れによる退役を迎えると見込まれます。技術が確立されれば、経済合理性の観点で、LEXサービスの需要が増えると見込んでおりますが、当社グループが想定する技術レベルを上回る技術革新等により、想定以上に顧客衛星の寿命が延びた場合、または経済合理性に基づく判断がなされない場合等においては、軌道上サービスの市場が当社グループの想定通りに拡大しない可能性もあります。
② 宇宙環境の悪化
過去、一部の国による衛星破壊実験が実施されており、一回の実験当たり数千個のデブリが発生しています(出所:https://www.nasa.gov/mission_pages/station/news/orbital_debris.html、NASA「Space Debris and Fuman Spacecraft, May 27, 2021」)。また、2024年には破砕事故の頻度が増え、少なくとも6件の破砕事故が宇宙空間で発生し、宇宙に1,500個以上の観測可能な破片が発生いたしました。今後、衛星破壊実験が更に増加することや、宇宙空間における武力行為等やデブリ同士の衝突によって、デブリの急速な増加が起きる可能性があります。小さな破砕の生成が指数関数的に増加する可能性もあります。その場合、宇宙環境の悪化により、宇宙空間での活動自体が難しくなり、軌道上サービスの市場が当社グループの想定通りに拡大しない可能性があります。
③ 法規制改正、政府推進政策及び予算の変化
本書提出日現在、国際機関や業界団体、米国、EUや日本をはじめとする宇宙開発先進国等においては、宇宙開発やそれを取り巻く環境に係る各種の政策推進・取り組みが実施されております。その中でも、デブリ除去を促進し、若しくは義務付ける関連法規や業界内のベストプラクティス等が確立しない(若しくは、確立に時間を要する)、又は、違反時の罰金が低額であるなど確立した関連法規の実効性が低い等の理由により関係者がこれを遵守しようとしないことにより、軌道上サービス市場の需要が当社グループの想定ほど顕在化しない(又は、顕在化が遅れる)リスクが存在します。また、各国政府における政策上の優先度の変化や景気減速等を要因とした宇宙関連予算の削減等によっても、軌道上サービスの市場が想定通りに拡大しない可能性があります。
④ その他の要因
デブリ問題に対する社会全体の関心の低下、或いは軌道上サービスに対する社会的評価の低下が生じた場合、軌道上サービスの市場が想定通りに拡大しない可能性があります。
(14)当社グループが目指すビジネスモデルが実現できないリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループは、サービサー衛星ADRAS-JでISSAサービスに必要となる一部のRPOコア技術実証に成功しておりますが、大半のサービスに対しては現在も、研究・開発段階にあります。政府機関及び防衛機関からは、具体的な大型の実証ミッションの獲得に成功し始めている一方で、民間事業者との間では、複数のミッションに関する商談を継続しておりますが、現状、民間事業者からの実際の収益寄与は限定的であります。現時点では、各事業について以下のようなビジネスモデルを想定しているものの、想定通りのビジネスモデルが実現できない場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
① ISSA
ISSAサービスにおいては、主に政府機関及び防衛機関を顧客とし、マイルストーン収入を前提とした収入体系を想定しています。しかしながら、かかる収益体系、ミッション当たりのマイルストーン収入などが想定通りに実現できない場合、当社グループは計画通りの業績を達成することが難しくなる可能性があります。
② LEX
LEXサービスにおいては、政府機関、防衛機関及び民間事業者を顧客として想定しており、顧客の属性に応じた収益体系を想定しています。
政府機関や防衛機関に対しては、当社グループからサービサー衛星を提供し、静止衛星等へのドッキングによる引渡し以降は、当社はサービサー衛星の運用に関与しない形態を想定しており、収入体系としてはサービサー衛星の販売収入を見込んでいます。しかしながら、かかる収益体系、一基当たりの販売価格などが想定通りに実現できない場合、当社グループは計画通りの業績を達成することが難しくなる可能性があります。
一方で、民間事業者に対しては、年間の手数料収入を前提とした収入体系を予定しています。しかしながら、かかる収益体系、ミッション当たりの年間手数料収入などが想定通りに実現できない場合、当社グループは計画通りの業績を達成することが難しくなる可能性があります。
③ ADR
ADRサービスにおいては、主に政府機関を顧客とし、マイルストーン収入を前提とした収入体系を想定しています。しかしながら、収益体系やミッション当たりの収入などが想定通りに実現できない場合、当社グループは計画通りの業績を達成することが難しくなる可能性があります。
④ EOL
EOLサービスでは、当社グループは顧客となる民間衛星コンステレーション事業者から、サービス提供の対価として、研究開発段階ではマイルストーン収入を受領することを想定しております。また、商業サービス段階では、衛星開発や打上げに関する費用の大部分に対応する打上げ前のマイルストーン収入とミッション成功時の支払いの組み合わせを標準的な支払モデルとして想定しておりますが、当社グループとしては、事業運営上確保されるべき資金回収のタイミング及びマージンを堅持しつつ、支払モデルの変更(定額払い等の採用)については顧客の要望に柔軟に対応する方針でおります。
しかしながら、実際に顧客との間で当社の想定通りの契約内容で合意できる保証はなく、また、サービサー衛星の製造費用、顧客衛星の寿命、故障率、運用高度及び重量等により、前述の収益体系、顧客衛星一基あたりの除去収益、一つのミッションで除去する顧客衛星の数などは、当社の想定通り実現できない可能性があり、その結果、当社グループは計画通りの業績を達成することが難しくなる可能性があります。
(15)軌道上サービス市場における競合に関するリスク
(顕在化可能性:低~中、発生時期:特定時期無し、影響度:小~中)
軌道上サービス市場はまだ草創期にあり、技術実証に成功している当社グループは世界に先駆け着実に受注を積み重ねているものの、国内外を問わず、国際的な巨大企業を含む数多くの企業や研究機関等との激しい競争状況が存在しています。当社グループは、本書提出日現在において、軌道上サービスの技術に関する先導的な立場に位置していると認識していますが、新たな企業の参入が始まっており、当社グループが今後常に優位性を維持できる保証はありません。また、競合他社が、提携や統合、政府からの支援等を背景に多くの経営資源を投入し、技術開発を急速に進展させ、当社グループを超える技術水準を達成する可能性や、当社グループが研究開発中の磁力捕獲等の技術よりも低コスト又は効果的な技術を新たに開発する可能性も考えられます。競合他社との競争が、研究、開発、製造及び販売のそれぞれの事業活動に影響を与え、当社グループの競争優位性が低下し、事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
同時に、デブリ除去サービスに関する法規制の整備は、当社グループにとって重要ですが、その進捗や内容によっては、新規事業者の参入が容易になる可能性があります。
(16)知的財産権の保護及び侵害防止に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループの事業において、研究開発活動に関わる成果を、特許やその他知的財産権として確保することは、事業推進上の技術開発戦略及び知的財産権戦略として極めて重要であると認識しております。しかしながら、全ての研究成果を適切に権利化できる保証はなく、既に保有している特許や将来取得する特許によって、当社グループの権利を確実に保全できるという保証もありません。また、研究成果を機密情報として公開しないことを企図し、敢えて特許を取得しない場合もあります。
現時点では、当社グループの研究開発に関連した特許権等の知的財産権について、第三者との間で訴訟やクレームが発生している事実はありません。当社グループでは、このような問題を未然に防止するため、弁護士/弁理士の協力を得て知的財産権の侵害等に関する事前調査を実施しておりますが、知的財産権の侵害に関する問題を完全に回避することは困難であると認識しております。また、仮に当社グループが第三者との法的紛争に巻き込まれた場合、その第三者の主張の正当性の有無にかかわらず、解決に多大な時間と費用を要する可能性や、当社グループの信頼性や企業イメージが低下する可能性が考えられるため、当社グループの事業戦略、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
さらに、当社グループは、前述の通り、営業秘密や独自のノウハウを特許化せずに機密情報として管理する場合もあります。これらの情報に関しては、従業員や取引先との間で機密情報に関する譲渡契約や秘密保持契約を締結しております。ただし、これらの契約により機密情報の管理が確実となる保証はありません。これらの機密情報は当社グループの競争力の源泉であり、その管理に失敗した場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(17)収益認識方針に関するリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループは、政府機関や防衛機関の研究開発案件等、長期にわたるプロジェクトにおいて、財又はサービスを顧客に移転する履行義務の充足に対応する形で、一定の期間にわたり収益を認識しております。履行義務の完全な充足に向けた進捗度を合理的に測定できる場合には、発生したコストに基づいたインプット法などにより進捗度を測定し、当該進捗度に基づき収益を認識しております。また、進捗度を合理的に測定できない場合には、履行義務の結果を合理的に測定できるようになるまでに発生した原価のうち、回収可能性が高いと判断される部分と同額を収益として認識しております。
本書提出日現在における主要なプロジェクトについては、発生した原価のうち、回収可能性が高いと判断される部分と同額を収益として認識しておりますが、今後のプロジェクトの内容及び契約条件によって、現在とは異なる収益認識方針が適用された場合には、当社グループの業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループのいずれの事業も、本書提出日現在において商業サービスを開始しておらず、将来において商業サービスが開始された際に採用される収益認識方針も、現時点で確定しておりません。実際に適用される会計処理及び採用される収益認識の方針が現時点での想定と異なる場合、収益認識額や収益認識のタイミングが想定と異なるものとなり、当社グループの期間損益に影響を与える可能性があります。
(18)収益の不確実性について
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
本書提出日現在、当社グループは、締結済みの軌道上サービスの提供に関する法的拘束力のある契約件数を着実に積み上げています。一方で、本書に記載された当社グループが取り組むプロジェクト(上記「第1 企業の概況 3 事業の内容 3.3 開発・運用状況」に記載されたものを含みます。)には、当社グループがその全部又は一部のフェーズにつき法的拘束力のある契約を締結していないものが含まれます。そして、当社グループがこれらのプロジェクトにつき法的拘束力のある契約を締結し、また、契約上定められたマイルストーンを達成するなどして想定される収益を確保できる保証はありません。また、法的拘束力のある契約は、一般に、当社グループによる契約違反、顧客側の都合、不可抗力等を理由として、顧客側より解除される可能性があります。そして、顧客が契約を解除した場合、当社グループは、当該契約から得られるはずであった潜在的な収益の全てを失う可能性があります。
また、当社グループは、本書提出日現在において、少数の見込み顧客との間で、将来のLEXサービスの提供に関する一定の覚書等を締結しています。しかしながら、これらの覚書等は、将来のサービス提供に関する拘束力のある契約ではなく、また、かかる契約を将来締結する義務を課すものでもありません。また、これらの覚書等には多くの場合、サービス提供価格やサービスの独占提供に関する具体的な合意が含まれておらず、また、見込み顧客による必要な許認可の取得が拘束力のある契約の締結の前提条件とされている場合もあります。そのため、覚書等の締結によって、当社グループが想定する条件での将来のサービス提供やそれに伴う収益が確保されたわけではなく、また、かかる契約が将来締結される保証もありません。加えて、当社グループが締結するこれらの覚書等は、何年も先のサービス提供開始を見据えたものであることも多いため、覚書等を締結した見込み顧客が覚書等の締結時に想定していた取引や条件を実行可能な経済的基盤を将来にわたり有している保証はなく、覚書等が締結されていても実際には当社グループが想定した収益にはつながらない可能性があります。また、覚書等において想定されているサービスは、当社グループにおいて研究開発途上の技術に依拠したものである場合があり、その場合、当社が実際にかかるサービスを想定する条件で提供できるか否かは、当該研究開発の成否に依存することになります。他方で、宇宙ミッションの計画及び開発には長期の準備期間を要するため、当社グループは、見込み顧客との法的拘束力のある契約の締結を待たずにミッションの開発に着手する場合があります。そのため、当社グループの想定するタイミングや条件でサービス提供に関する契約が締結されない場合や、最終的にかかる契約の締結に至らない場合には、当社グループが現時点で想定するタイミング及び金額での収益を実現することが難しくなるほか、当社グループが先行して支出したミッションの開発費用が回収不能となり、当社グループの事業、業績及び財政状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
(19)「受注総額」、「受注残総額」及び「想定受注残総額」の数値について
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社は、当社の軌道上サービスミッションの受注状況を管理するための経営指標である「受注総額」及び「受注残総額」を開示しております。当社グループの技術開発の進捗その他当該契約において定められた条件が実現に至らない場合、サービス提供に応じて支払われるマイルストーン収入の一部が支払われない可能性があり、そのため、当社が開示した「受注残総額」の全てにつき、収益認識に至らない可能性があります。加えて、当社は本書において、特定の連結会計年度又は四半期連結累計期間の末日時点において、当社が選定済みのミッション及び契約の締結には至っていないものの、当社が現時点で競合の存在を認識していないことから、当社グループによる受注が期待できると認識する既存ミッションの後続フェーズに係る「想定受注残総額」を開示しておりますが、かかる後続フェーズについては契約の締結に至っていないため、当社グループが後続フェーズを受注できず、又は、実際の受注金額が当社の想定と異なる可能性があります。
(20)黒字化を達成及び維持できないリスク
(顕在化可能性:低~中、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループは、軌道上サービスに関する宇宙技術開発を主軸とするベンチャー企業です。このような宇宙技術の研究開発には多額の初期投資が必要であり、その回収も他産業と比べて長期に及ぶ特徴があります。そのため、ベンチャー企業が宇宙技術開発分野に取り組む場合は、一般的に期間損益において損失が先行する傾向にあります。当社グループも、第2期以降継続的に営業損失及び当期純損失を計上しています。
当社グループは、軌道上サービスに関する宇宙技術開発を通じて、将来の利益拡大を目指していますが、現在まで当期純損失を計上しており、今後も研究開発や人員増加に伴う経費が増加することにより、一定期間は損失が続く可能性があります。
また、既存の顧客契約の途中解約や顧客の倒産による収益源の喪失が生じた場合、想定顧客の獲得に失敗した場合、技術開発や衛星製造における遅延、打上げの遅延や失敗が発生した場合等には、想定した収益の達成やコスト管理が困難となり、黒字化達成が遅延し若しくは困難となり、又は黒字化達成後にそれを維持できなくなる可能性も考えられます。これらの要因により、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響が及ぶ可能性があります。
(21)収益化サイクルの長期化と収益未確保の営業活動のリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループは、当社グループのサービスの価値を伝えるために、営業活動に多くの時間と労力を投下しています。また、顧客との契約締結にあたっては、初期の研究開発段階において、見込み顧客との間で法的拘束力のない覚書を締結し、その後時間をかけて実際のミッションに係る契約に移行するケースが一般的となっています。当社グループは、経営陣や技術者の深い関与の下、顧客ニーズを正確に理解するように努めておりますが、上記の要因により、収益化までのサイクルが長く、長期間にわたって収益が得られない営業活動が継続する可能性があります。さらに、見込み顧客との間で最終的にミッションの受注に至らず、これまでの営業活動が収益に繋がらない可能性もあります。当社グループは、営業活動を通じて、経費を賄える十分な水準の収益を確保することを目指しておりますが、収益化が遅れる場合や見込み収益が実現しない場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(22)為替変動に関するリスク
(顕在化可能性:高、発生時期:1年以内、影響度:中)
当社グループは、事業が複数の国にまたがっていることから、為替変動リスクにさらされております。
当社グループにおいては、今後、日本円、米ドル、英ポンド、ユーロが主な機能通貨になると想定されますが、連結財務諸表を作成する過程において、各子会社の財務諸表は、IFRSに沿って日本円に換算されるため、大幅な為替相場の変動があった場合には、当社グループの業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
また、人工衛星に必要な部品等の購買については、海外との取引が重要な部分を占めるため、日本円以外の通貨が取引通貨として使用されます。一方、当社グループの資金調達は日本円が重要な部分を占めると想定されるため、円安が進んだ場合、かかる為替変動の影響により、それらの国際的な取引で使用可能な金銭の額が実質的に目減りすることとなり、当社グループの事業、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
現在、当社グループは為替変動リスクをヘッジするための取引を検討していますが、実行には至っておらず、また、仮に将来かかるヘッジ取引を行う場合でも、必ずしも為替変動リスクを全てヘッジできるとは限りません。
(23)金利変動に関するリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループは資金調達の手段として、借入を積極的に活用しております。現在の借入の大部分は借入時に固定金利が設定されていますが、将来的に借入の借り換えや新たな借入を行う場合、金利の変動によって借入コストが影響を受ける可能性があります。現在のインフレ環境では、各国の中央銀行および市場金利が上昇しており、将来的な金利上昇は借入コストの増加につながる可能性があります。
日本では金利は比較的低水準にありますが、近年はある程度上昇しており、2024年3月には日本銀行が長期国債利回りの操作をほぼ撤廃し、翌日物金利をマイナス0.1%から0〜0.1%に引き上げました。その後、2024年7月および2025年1月にさらに引き上げられ、現在は0.5%となっています。今後も日本銀行の政策変更などにより金利がさらに上昇する可能性があります。
さらに、当社はグローバルに事業を展開しているため、将来的に日本円以外の通貨で借入を行う場合、他国の中央銀行の政策の影響を受けやすくなります。必要なときに十分な資金を、満足のいく条件で調達できない場合、事業の運営および成長を支える能力が著しく損なわれ、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(24)受注損失引当金について
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループが受注するプロジェクトについて、見積総原価が見積総収益を超過する可能性が高く、かつその金額を合理的に見積ることができる場合、受注時に損失見込額を受注損失引当金として計上し、引当金の変動額については連結損益計算書の売上原価に計上しております。そのため、見積総原価が見積総収益を超過する案件を受注した場合は、当社グループの事業、業績及び財政状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループにおいては、プロジェクトの開始時点において最善の見積を行い、プロジェクトに対する見積総原価及び見積総収益を算定しておりますが、原価総額の見積りは、プロジェクトに対する専門的な知識と経験に基づく一定の仮定を伴い、またプロジェクトの状況に応じて、契約金額の変更や追加コストの発生等によって当初見積りの修正が発生した場合、翌連結会計年度以降の連結財務諸表において認識する金額に重大な影響を与える可能性があります。
(25)減損損失に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループは、事業を遂行する過程で、資金をさまざまな資産に投資します。その結果、例えば、軌道上サービス事業に関する人工衛星の製造工場、人工衛星のために必要な管制局、地上局等の有形固定資産や、ソフトウエアなどの無形資産、他社との業務提携にあたり出資した株式等の金融資産を含む資産を保有しています。
これらの固定資産の連結貸借対照表計上額につきましては、IFRSに準拠しており、当該資産から得られる将来のキャッシュ・フローの見積りに基づく残存価額の回収可能性を定期的に評価しています。そのため、資産の陳腐化やその他の理由によって事業収益性が低下し、当該資産が十分なキャッシュ・フローを創出できないと判断される場合は、減損損失が発生し、当社グループの事業、財政状態及び業績に重大な影響を与える可能性があります。
(26)買収、ジョイント・ベンチャー、戦略的提携に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:小)
当社グループは、成長戦略の一環として、他社の事業や技術に対する投資や買収、ジョイント・ベンチャー及び戦略的提携を含む機会を探求し、実行する可能性があります。しかしながら、これらの取引には、適切な投資や提携の機会を見いだせない機会探求リスク、適切な資金調達を行えず、計画した取引を実行することが難しくなる資金調達リスク、買収や提携に必要な規制当局の承認が得られない規制リスク、買収や提携後、組織の統合が円滑に進まない統合リスク、買収によって取得したのれんが期待通りの価値を生み出せず、また、これによりのれんの減損が生じるリスク、合弁事業や提携により、既存の取引先や第三者との関係が悪化するリスクなど、多岐にわたるリスクが想定されます。
なお、当社は、米国法人を通じて、2020年にLEXサービスに関連してイスラエルのEffective Space Solutions R&D Ltd.の寿命延長サービス事業を買収しています。当該買収はLEXサービスの推進に大きく貢献しておりますが、将来の買収でも同様に期待通りの成果が達成できるとは限らず、事業環境の変化や様々なリスクに対処する体制を整えることが重要と考えております。
(27)内部統制に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループでは、財務報告に係る内部統制を構築しております。当社グループでは、内部統制は、その基本的要素が組み合わさり一体となって機能することで、その目的を合理的な範囲で達成しようとするものと捉えており、このような内部統制が十分に機能しない場合、財務報告の虚偽記載を完全には防止又は発見することができないリスクが存在します。当社グループが適正な財務報告に係る内部統制を維持できなかった場合、適切なタイミングで正確な財務報告を提供できず、投資家の信頼が低下し、当社の株式価値に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(28)法的規制に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループの事業は、人事労務、労働安全衛生、税務、輸出入管理、個人情報及びデータの保護、人の身体の健康・安全、環境保護、危険物取扱いなど、様々な関連法令による規制を受けております。
また、当社グループは、宇宙に関連する事業を行う上での様々な規制も受けます。各ミッションに関して、適用法令上必要となる許認可を適切な時期に都度取得する必要があると当社グループは認識しております。
取得が必要な主な許認可として、人工衛星の運用に関わる許可、無線免許に関わる許可(人工衛星及び地上局の無線局免許)、人工衛星に関わる許可(人工衛星の管理に係る許可、軌道上サービスを実施する人工衛星の管理許可、衛星リモートセンシング装置使用許可、宇宙物体登録)、輸出入管理に関わる許可(人工衛星及び測定機器類)、米国・国際武器取引規則(ITAR)、一般包括許可(輸出及び役務取引)、運用に関わる対応(監視システムSWライセンス、打上げ許可、ペイロードライセンス、米国FCCの許認可など)、などがあります。上記以外にも、プロジェクト遂行に必要な許認可を事前に取得する方針です。当社グループでは法令遵守を徹底し、免許等の取消事由や更新欠格事由が発生しないように努めておりますが、将来、当社グループの免許等が何らかの理由により取消し等になった場合には、当社グループの事業や業績及び財務状態に影響を及ぼす可能性があります。
宇宙開発に関連する法規制は、国際法及び各国の国内法の両方で整備途上にあり、最新の技術革新に適応するために常に変更や見直しがなされる可能性があります。当社グループは、現時点では、当社グループの事業活動に直接的な制約を与える宇宙法や規制等の基本的枠組みは存在しないと認識しておりますが、今後、法律やガイドラインの追加・改正により、これまで使用が認められてきた部品等が突然全く使用できなくなるリスクや、当社グループの想定通りの内容で打上げ許可が下りないリスク、又は打上げ許可の取得に予想以上の時間や費用がかかるリスクが生じる可能性も排除できません。このような場合には、当社グループの事業戦略、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、事業の継続性を保つためにコンプライアンスを徹底し、法令遵守のための体制を整備しております。現時点では、事業の継続に支障をきたす事項は認識しておりませんが、将来において適用法令への違反が発生する可能性も排除できません。かかる違反が発生した場合、刑罰、業務停止を含む行政処分その他の制裁が課される可能性があり、社会的信用やイメージが毀損されることによって、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
また、法令の改廃や新たな法令規制が設けられた場合、かかる改廃等が当社グループの研究開発及びサービスの提供にとって不利に働いたり、当社グループのさらなる体制の整備・変更等が必要になる可能性があります。こうした規制への対応は、当社グループの事業戦略に悪影響を与え、また、これに対応するために多額の費用を要するなど、当社グループの事業、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(29)重要な訴訟等に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:小)
当社グループは、顧客、取引先、従業員、株主等を含む第三者の権利・利益を侵害したとして、損害賠償請求などの訴訟を提起される可能性や、行政機関による調査等の対象となる可能性があります。当社グループでは、法令や契約の遵守に関する従業員への教育などの対策を積極的に講じるなど、法的問題の発生を最小限に抑えるために、リスクマネジメントに注力しておりますが、将来において法的紛争が発生し、又は行政機関による調査の対象となる可能性は排除できません。仮に法令違反等が発生した場合は、当社グループの企業イメージが低下する可能性が考えられます。さらに、損害賠償責任や課徴金等の金銭負担の発生等により、当社グループの事業、業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
なお、本書提出日現在において、重要な訴訟等の事象は発生しておりません。
(30)国際課税に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:小)
当社グループは、2019年1月の組織再編により、日本法人である当社と、シンガポール法人であるAstroscale Singapore Pte. Ltd.を含む当社の子会社より構成される資本関係を有しております。このため、親子間の資本関係や取引関係に起因する課税上の取扱いは、国際税務に関わる問題となります。
当社グループは、国際税務に関する課題に対処するため、専門家である税理士と業務委託契約を締結し、税務情報の収集や税務リスクの排除に努めております。しかしながら、現在想定していない国際税務リスクが潜在的に存在している可能性や、将来的に当社グループに不利な国際税務関連の税制改正が行われる可能性を否定できません。
仮にこれらのリスクが顕在化した場合、追徴税額を含む将来の税負担額が増加し、当社グループの業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループは海外法人間の取引も行っており、移転価格税制等の国際税務リスクの低減に、大手税理士法人から助言を受けて取り組んでおります。ただし、国家間の法解釈の相違による紛争が発生する可能性があり、その結果として将来の税負担が増加し、当社グループの業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(31)地政学及び海外展開に関する事業リスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループは、事業戦略の一環として、海外に拠点を構え、海外市場における事業の拡大を図っております。また、政府機関との複数の契約を締結しており、その事業は契約相手である政府の施策やその優先順位、政策決定及び国際的な地政学的状況の影響を受ける可能性があります。これらの地政学的事象は、当社グループの事業や輸出権限に影響を与えるだけでなく、必要なライセンスの取得を困難にし、国家側での意思決定や商品・サービスの提供・支払いに遅延をもたらす可能性があります。
例えば、米国の政府機関や企業との関係性を考慮し、当社グループは、本書提出日現在において、ロシア又は中国に所在する政府機関や企業を顧客とする契約を締結しない方針を採用しています。
また、中東情勢も、イスラエルに製造拠点を有する当社グループのLEXサービスに影響を及ぼす可能性があります。本書提出日現在において、事業面への影響は認識しておりませんが、今後情勢が悪化した場合には、予備兵招集による人的リソースへの影響、サプライチェーンやロジスティクス面での影響、製造拠点への物理的損害などの影響も想定されます。
本書提出日現在において、当社グループは不安定で流動的な国際政治情勢の影響を大きく受けておりませんが、将来的には当社グループの調達、事業提携の機会、顧客基盤などが制約を受け、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
さらに、当社グループの海外事業は、事業を行う海外の各国において、以下を含む様々な要因による悪影響を受ける可能性があります。
・投資及び輸出入に関する規制、関税、公正な競争に関する規制、贈賄禁止、消費者及び企業に関する税制(国際課税を含む。)、知的財産に関する規制、外国貿易及び外国為替に関する規制、人権や雇用・労働に関する規制、宇宙関連の事業に関する規制
・契約条項等に関する商慣習の相違、不公正な取引慣行
・各国の言語や文化の違い
・人事採用、従業員研修、労使関係その他労働慣行における相違
・その他の政治的及び社会的要因、経済の動向
当社グループは、各国の制度改定や社会・経済情勢の変化の把握に努めております。本書提出日時点において、当社グループの事業等に重大な影響を与えるこれらの事象等を認識してはおりませんが、今後、想定を超える制度改定や情勢の変化等が生じた場合には、これらの要因により、当社グループが、海外における成長戦略の目的を達成できる保証はなく、当社グループの事業の成長見通し及び経営成績に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
(32)新型ウイルスや未知のウイルスによる感染症の事業への影響に係るリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大は、当社グループの事業に様々な影響を及ぼしたと認識しています。特に、国際的な事業展開を行っている当社グループでは、国境を超える拠点間の移動制限により、研究開発や事業活動等に一定の影響が生じました。過去には、感染拡大防止のための渡航制限がELSA-dの打上げ延期につながるなど、ミッションの実施に直接的な影響が及んだこともあります。
今後も新型コロナウイルスの感染拡大が継続した場合や、未知のウイルスの感染拡大が生じた場合、サプライヤーからの調達に影響が生じる可能性や、経済環境の悪化による宇宙関連事業に係る政府予算の縮小や顧客企業の財務体質悪化などが生じ、顧客需要に悪影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループでは従業員の安全への配慮にも努めていますが、当社グループ内で感染が拡大した場合には、当社グループの事業活動に悪影響が発生する可能性があります。
上記のような影響が発生した場合、当社グループの事業、業績及び財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(33)自然災害など予測困難な事情に関するリスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループは、宇宙技術の開発や軌道上の人工衛星との通信など、軌道上サービスの提供のため、通信ネットワークや情報システムの整備と構築を行っております。しかしながら、地震・台風・洪水・津波・竜巻・豪雨・大雪・火山活動などの自然災害、太陽フレアや微小隕石の衝突など、宇宙空間における災害、火災や停電・電力不足、テロ行為などの要因により、製造施設、通信ネットワーク、情報システムが正常に稼働せず、当社グループの軌道上サービスの提供に支障を来す可能性や、ミッションのスケジュールの遅延を生じさせる可能性が考えられます。
これらの影響が広範囲にわたり、復旧に相当時間を要する場合、当社グループの信頼性や企業イメージが低下し、顧客の維持・獲得が困難になる可能性があります。また、通信ネットワークや情報システムの復旧や改修にあたり、多額の費用負担が発生する可能性があります。
更に、大規模な自然災害は、当社グループが事業を行う国の経済に減速をもたらし、人工衛星の部品や原材料の調達先における工場の閉鎖など、当社グループのサプライチェーンを停滞させる可能性があります。当社グループでは、これらの自然災害等による損害に対処するため保険に加入しておりますが、全ての潜在的損失に対して保険が付保されているわけではなく、保険の対象となる損失であっても、その全額が補償されない可能性があります。また、保険金の支払いについて保険会社から異議が申し立てられること等により、損害の補填に遅延が生じる可能性も考えられます。
以上の要因により、当社グループの事業、業績及び財政状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
(34)資金調達リスク
(顕在化可能性:低、発生時期:特定時期無し、影響度:大)
当社グループは、研究開発型企業として多額の研究開発資金を必要とし、長期にわたって先行投資の期間が続きます。研究開発型企業は一般に、この先行投資期間において、継続的に営業損失を計上し、営業活動によるキャッシュ・フローはマイナスとなる傾向にあり、当社グループも、創業以降営業キャッシュ・フローのマイナスが続いており、かつ現状では安定的な収益源を十分に有しておりません。
今後も、軌道上サービスを目的とした人工衛星の開発を加速するとともに、多種多様な軌道上サービスの需要に対応するための技術適用の拡大を図るため、先行投資を継続する必要があり、資金調達を行っていく必要があります。
このため、安定的な収益源を確保するまでの期間においては、必要に応じて適切な時期に資金調達等を実施し、財務基盤の強化を図る方針ですが、必要なタイミングで資金を確保できなかった場合、或いは適切な条件で資金調達ができなかった場合は、当社グループの事業、業績及び財政状態に深刻な影響を及ぼす可能性があります。そのため、当社グループでは、長期的視点での資金調達戦略の検討や適切なリスク管理対策の実施を進めております。
なお、当社グループは複数の金融機関からコベナンツ条項が付された借り入れを行っております。当社グループは、本書提出日現在において財務制限条項には抵触しておりませんが、今後、当該コベナンツ条項を遵守できなかった場合には、期限の利益を喪失し、返済を余儀なくされる可能性があります。また、今後、当社グループが負債性の資金調達を行う場合には、当社グループの事業活動を制約する契約条件が付される可能性があります。
(35)資金使途に関するリスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社は2024年6月に実施した上場時の公募増資並びに2025年5月の海外公募による資金調達を実施し、調達資金を主に軌道上サービス事業に関するプロジェクト開発費・研究開発費や設備投資及び当社グループの人件費や物件費等の運転資金に充当しております。ただし、当該研究開発に関わる研究開発活動の成果が収益に繋がるまで長期間を要する一方で、研究開発投資から期待通りの成果が得られる保証はありません。研究開発の成果が実際に収益を生むまでの過程は複雑であり、収益計上時期の予測は困難です。さらに、想定される需要に対応した設備投資を行った場合でも、期待通りの需要を獲得できる保証はありません。そのため、調達した資金が期待される利益に結び付かない可能性があります。
当社グループは、慎重な投資と事業計画の実行に努め、資金の適切な充当と成果の最大化のためのリスクマネジメントを行っており、事業の不確実性を考慮しつつ、将来リターンの最大化を見据えた計画と実行を進めていくことが重要と捉えています。
(36)四半期或いは事業年度の収益変動による株価の変動リスク
(顕在化可能性:中、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当社グループの四半期或いは事業年度ごとの収益は、様々な要因により大きく変動する可能性があります。例えば、ミッションの進捗、売上や費用の増大、新サービスの導入や拡大、競争環境の変化、政府機関・防衛機関案件の入札・受注状況、予期せぬ問題の発生、訴訟の発生、経済や市場環境の悪化など、当社グループの管理が及ばない要因によって、当該期間に計上される当社グループの収益は影響を受ける可能性があります。
また、研究開発段階では、プロジェクトの計画の遅延、プロジェクトに関連する収益の減少や費用の増大が生じた場合、当社グループの収益に重大な影響を及ぼす可能性があります。
こうした収益の変動が市場の期待を下回る水準となった場合、当社の株価は大きく下落する可能性があります。
(顕在化可能性:大、発生時期:特定時期無し、影響度:中)
当事業年度末時点における当社の発行済株式総数は117,517,800株(潜在株式を含めると総数127,625,400株)であり、このうち22,687,000株(発行済株式の19.31%、潜在株式を含めた場合にはその17.78%)をベンチャーキャピタル及びベンチャーキャピタルが組成した投資事業組合(以下、「ベンチャーキャピタル等」)が保有しております。一般的に、ベンチャーキャピタル等が未上場会社の株式を取得する場合、上場時又は上場後に保有する株式を売却しキャピタルゲインを得ることがその目的のひとつであり、当社株式についても、今後ベンチャーキャピタル等による売却が発生する可能性があります。そのような場合には、短期的に需給が悪化し当社の株価が低下する可能性があります。一方で、上場時に当社発行済株式総数における所有割合14.60%を有する当社主要株主であった株式会社INCJは、所有していた全ての当社株式を2025年1月17日に売却を完了しております。
また、当社グループは宇宙開発の研究開発型企業であり、将来の研究開発活動の拡大に伴い、増資も含めた資金調達を機動的に実施していく可能性があります。その場合には、当社の発行済株式数が増加することにより、1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。
加えて、当社は、当社及び子会社の取締役、当社及び子会社の従業員、並びに外部協力者の業績向上に対する意欲や士気を高め、また、優秀な人材を確保する観点から、ストック・オプション制度を採用しており、当社及び子会社の取締役、当社及び子会社の従業員、並びに外部協力者に対して新株予約権の発行と付与を行っています。当事業年度末時点における当社の発行済株式総数は117,517,800株であり、これら新株予約権の権利が行使された場合は、新たに10,107,600株の新株式が発行され、これにより当社の1株当たりの株式価値は希薄化する可能性があります。また、当社は、今後も優秀な人材の確保のため、同様のインセンティブ・プランを継続する可能性があります。従って、今後付与される新株予約権が行使された場合やその他の株式報酬が付与された場合にも、当社の1株当たりの株式価値は希薄化する可能性があります。
なお、当事業年度末時点における、行使可能日が到来する期別の新株予約権の目的となる株式の数は以下の通りです。
(注) 1.2,243,000株のうち、1,796,000株は2026年1月24日より、447,000株は2026年2月9日より、それぞれ行使可能となります。
2025年5月には、上場時に想定していなかった防衛関連需要や民間向け寿命延長サービス需要が急速に顕在化したことを受け、市場創出型企業として、当該市場の立ち上がりを的確に捉え、当社競争優位性及び株主価値をさらに向上させるために、海外募集の新株式発行による資金調達を実施いたしました。本資金調達によって、18,000,000株を新規発行し、10,985百万円(うち手取り概算額10,660百万円)を調達いたしました。これに伴い、2025年5月末時点の発行済株式総数は135,523,300株、潜在株式含めた株式総数は145,625,400株となりました。なお、本資金調達による希薄化は13.28%です。
当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次の通りであります。
文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。
2025年1月のNovaspaceの発表によると、全世界政府の宇宙関連支出は2024年に前年対比10%成長して1,350億米ドルに達し、そのうち防衛関連は前年比約24%増の720億米ドルと顕著に増加しました。日本では、総額1兆円規模とされている宇宙戦略基金について、2024年7月より複数のテーマについて公募が開始されております。2025年3月には、内閣府より宇宙戦略基金第二期として各技術開発テーマの目標及び内容に関する実施方針が新たに公表されました。総予算3,000億円のうち、新たなサービスの創出として軌道上サービスに465億円程度の予算が割り当てられる予定であり、宇宙技術戦略にも位置付けられているキー技術のうち軌道上サービス分野等での投資を加速することも明記されています。また、2025年4月に発表された米国宇宙軍のSpace Force Doctrine Document 1(宇宙軍の基本方針文書)では、宇宙領域を再定義し、優れた国家宇宙能力の重要性、民間企業との強力なパートナーシップと商業宇宙ソリューションの統合に注力、などが明示され、今後の軌道上サービスの活用の可能性が示されております。上記のような取り組みを受けて、当社ビジネスの更なる拡大が期待されます。
軌道上サービスに必要不可欠なRPO(ランデブ・近傍運用)技術に関しまして、当社グループは、商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」のミッションにおいて、観測対象のデブリから約15mの距離までの近接に民間企業として世界で初めて成功し、2025年2月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)との契約を成功裏に完了いたしました。この成功は、RPO技術の実証という点において、当社グループにとって、大きな進展となりました。この重要な進展以外にも英国宇宙庁(UKSA)が主導する英国デブリ除去ミッションのソリューションであるCOSMIC(Cleaning Outer Space Mission through Innovative Capture)の開発において、2025年2月に現在の契約フェーズ(フェーズ2)の中間レビューを、2025年5月に最終レビューを達成するなど、着実に進展しております。
これらの取り組みの成果として、当社グループは軌道上サービス市場を創出し、着実にその高まる需要を取り込んでおります。2025年4月期における受注又は採択の実績は、20件41,613百万円となりましたが、主要な案件は以下の通りです。
(政府機関案件・民間案件)
・2024年7月、ELSA-M最終フェーズ(フェーズ4)の契約を締結。
・2024年8月、商業デブリ除去実証(CRD2)フェーズⅡの大型契約をJAXAと締結。
・2024年9月、COSMICフェーズ2の契約をUKSAと締結。
・2025年1月、CAT-IODフェーズAの契約を欧州宇宙機関(ESA)と締結。
・2025年1月、経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)における「衛星の寿命延長に資する燃料補給技術」に関する研究開発構想の委託先として採択。
・2025年1月、ISSA-J1に係るフェーズ2の交付決定通知書を受領。
・2025年3月、Airbus Constellations Satellites SASより、100個以上の第2世代ドッキングプレートの大規模契約を初めて受注。
(防衛関連案件)
・2025年1月、BAE Systems plcとOrpheusミッションに関する契約を締結。
・2025年2月、日本の防衛省と大型契約を締結。
・2025年4月、契約済のAPS-Rについて、打上げ及び軌道上実証も新たに含める延長契約を米国宇宙軍と締結。
当社グループでは、これらの契約を今後軌道上サービスの開発及び商業化に貢献する重要なミッションと位置付けております。このように、当社グループは各国で複数の案件の契約を締結し、受注実績において世界でリードしております。コアRPO技術の実証を2度成功させている当社グループが、軌道上サービスの担い手としての先駆的なポジションを引き続き堅持しております。
このように、世界的に宇宙関連支出や軌道上サービスに関する政府需要及び民間需要に繋がる政策推進等の機運が高まる中、当社グループは軌道上サービスの事業機会の拡大に向けて、積極的に事業提携や技術開発の強化に取り組んでおります。2024年8月には当社の英国連結子会社であるAstroscale Ltdが、Airbus Defence and Space社と軌道上サービスとデブリ除去における協業の可能性に関する覚書を締結し、2025年3月には当社の日本連結子会社である株式会社アストロスケールが、宇宙状況把握(SSA)や軌道上サービス分野において、インド市場及び第三国市場に向けた協業関係を構築すべく、インド現地企業3社(Digantara社、Bellatrix Aerospace社、MEMCO Associates (India) Private Limited社)それぞれとの間で、将来的な提携に向けて覚書を締結しました。
この結果、当連結会計年度の財政状態及び経営成績の状況は、以下の通りとなりました。
・資産
当連結会計年度における流動資産は26,224,713千円となり、前連結会計年度末に比べ8,478,596千円増加しました。これは主に、現金及び現金同等物が7,104,637千円増加したことによるものです。非流動資産は7,400,577千円となり、前連結会計年度末に比べ155,884千円増加しました。これは主に、その他の金融資産が308,790千円増加したことによるものです。
この結果、資産合計は33,625,291千円となり、前連結会計年度末に比べ8,634,481千円増加しました。
・負債
当連結会計年度における流動負債は20,507,468千円となり、前連結会計年度末に比べ11,643,042千円増加しました。これは主に、引当金が727,430千円減少し、営業債務及びその他の債務が455,497千円減少した一方で、借入金が6,038,000千円増加(うち、5,000,000千円は非流動負債からの振替による増加)し、顧客との契約に基づく前受金の受領により契約負債が5,379,596千円増加し、また、繰延収益が1,320,819千円増加したことによるものです。非流動負債は6,991,467千円となり、前連結会計年度末に比べ3,733,559千円減少しました。これは主に、引当金が1,595,355千円増加した一方で、借入金が5,099,960千円減少(うち、5,000,000千円は非流動負債への振替による減少)したことによるものです。
この結果、負債合計は27,498,936千円となり、前連結会計年度末に比べ7,909,483千円増加しました。
・資本
当連結会計年度における資本合計は6,126,355千円となり、前連結会計年度末に比べ724,997千円増加しました。これは主に、東京証券取引所グロース市場に上場した際の新株の発行によって資本金及び資本剰余金がそれぞれ10,035,054千円増加したこと、当期損失の計上によって利益剰余金が21,551,603千円減少したこと、また、その他の包括利益の計上によってその他の資本の構成要素が1,810,402千円増加したことによるものです。
当連結会計年度の売上収益は、ADRAS-Jのプロジェクトが完了したことやELSA-Mフェーズ3のプロジェクトが終盤を迎えたことを受けて減少する結果となり、売上減少に加えてELSA-Mフェーズ4に係る受注損失引当金繰入額を計上したことや、開発進捗に伴って補助金案件に係る開発費用(APS-R、ISSA-J1)及び未受注案件に係る先行開発費用(LEXI-P等)が増加していることを主な要因として、前連結会計年度に引き続き、営業損失、税引前当期損失、親会社の所有者に帰属する当期損失を計上することとなりました。
以上の結果、当連結会計年度における当社グループの業績は、売上収益2,456,956千円(前年同期比13.9%減)、営業損失18,755,004千円(前年同期は営業損失11,555,724千円)、税引前当期損失21,550,288千円(前年同期は税引前当期損失9,219,842千円)、当期損失21,551,603千円(前年同期は当期損失9,181,329千円)、親会社の所有者に帰属する当期損失21,551,603千円(前年同期は親会社の所有者に帰属する当期損失9,181,329千円)となりました。
ご参考までに、当連結会計年度における当社グループのプロジェクト収益(注)は6,088,555千円(前年同期比30.5%増)となりました(うち、政府補助金収入は3,631,599千円)。なお、セグメントごとの経営成績については、当社グループは、「軌道上サービス事業」の単一セグメントであるため、記載を省略しております。
(注)プロジェクト収益は、国際財務報告基準(IFRS)により規定された指標ではなく、投資家が当社グループの業績を評価する上で、当社が有用と考える財務指標です。プロジェクト収益は以下により算出しております。
「プロジェクト収益=売上収益+政府補助金収入」
なお、この数値は、当社グループが提供するサービスの対価として取得する政府補助金収入を売上収益に加算して算出しており、分析手段として重要な制限があることから、IFRSに準拠して表示された他の指標の代替的指標として考慮されるべきではありません。当社グループにおけるこの数値は、同業他社の同指標あるいは類似の指標とは算定方法が異なるために、他社における指標とは比較可能でない場合があり、その結果、有用性が減少する可能性があります。
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ7,104,637千円増加し、21,300,864千円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は以下の通りです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、12,250,750千円の支出となりました。これは主に、税引前当期損失(△)21,550,288千円の計上に対して、営業債務及びその他の債務の増加額や補助金収入、為替差損益等の調整項目があったことに加え、補助金の受取額5,566,176千円があったことによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、1,043,993千円の支出となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出582,015千円や定期預金の預入による支出320,000千円によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、20,818,761千円の収入となりました。これは主に、短期借入金の純増加額に係る収入4,038,000千円や東京証券取引所グロース市場に上場した際の株式の発行による収入19,854,446千円、長期借入金の返済による支出3,099,960千円によるものです。
当社グループは、軌道上サービス事業における研究開発を主たる活動としており、受注生産形態をとるに至っていないため、また、当社グループで行う事業は、提供するサービスの性格上、生産実績の記載になじまないため、当該記載を省略しております。
当社グループで行う事業は、軌道上サービス事業の単一セグメントであり、当連結会計年度における受注実績(受注総額及び受注残総額)(注1)は、次の通りであります。
(注) 1.受注総額は、特定の期間において締結された契約に基づき、当社グループが支払いを受けた又は受けることができる金額の総額をいいます。受注残総額は、特定の期間までの全ての期間における受注総額の合計額のうち、当該特定の期間の末日までに収益計上がなされていない金額をいいます。当社グループの技術開発の進捗その他当該契約において定められた条件が実現に至らない場合、サービス提供に応じて支払われるマイルストーン収入の一部が支払われない可能性があり、そのため、上記の受注残総額の全てにつき、収益認識に至らない可能性があります。
2.上記受注残総額のほか、当連結会計年度末において、契約の締結には至っていないものの、当社が現時点で競合の存在を認識していないことから、当社グループによる受注が期待できると認識する既存ミッションの後続フェーズ(ISSA-J1フェーズ3)に係る想定受注残総額としては、3,808百万円(当連結会計年度末時点)を見込んでおります。また、2025年1月22日付で、株式会社アストロスケールが経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)における「衛星の寿命延長に資する燃料補給技術」に関する研究開発構想の委託先として採択され、その想定契約金額は、総額最大12,000百万円(間接経費、消費税等を含む)です。後続フェーズ及び採択済の案件については、契約の締結に至っていないため、当社グループが受注できず、又は、最終合意に基づく実際の受注金額が当社の想定と異なる可能性があります。
3.参考までに、当連結会計年度末時点における受注残総額に、当連結会計年度末時点における(注)2.の想定受注残総額及び想定契約金額を単純合算した金額は、44,413,300千円(前年同期比:155.6%)となりますが、(注)1.乃至2.記載の理由により、当該金額の全てにつき、収益認識に至らない可能性があります。
4.当連結会計年度において、軌道上サービス事業セグメントの受注総額及び受注残総額に著しい変動がありました。これは主に、以下の受注による増加です。
・ELSA-Mフェーズ4をEutelsat OneWeb社より受注(契約金額:13.95百万ユーロ)
・CRD2フェーズⅡをJAXAより受注(契約金額:12,000百万円)
・ISSA-J1に係るフェーズ2の交付決定通知書を受領(補助金の最大額:6,313百万円)
・BAE Systems plcよりISSAミッションを受注(契約金額:5.15百万英ポンド)
・日本の防衛省と大型契約を締結(契約金額:6,609百万円)。
・契約済のAPS-Rについて、打上げ及び軌道上実証も新たに含める延長契約を米国宇宙軍と締結(増加契約金額:11.73百万米ドル)。
当社グループで行う事業は、軌道上サービス事業の単一セグメントであり、当連結会計年度における販売実績は、次の通りであります。
(注) 1.主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は、次の通りであります。
2.製品及びサービスごとの外部顧客からの売上収益は、次の通りであります。
(注) 1.受託収益には、当社グループが開発する軌道上サービスに関連する研究開発プロジェクト及び実証プロジェクトにより獲得した収益が含まれております。
2.その他の売上収益には、ロゴマーク掲載等のスポンサーシップによる収益等が含まれております。
当連結会計年度における売上収益は、ADRAS-Jのプロジェクトが完了したことやELSA-Mフェーズ3のプロジェクトが終盤を迎えたことを受けて、計上される売上収益が減少したことにより、2,456,956千円(前年同期比13.9%減)となりました。
当連結会計年度における売上原価は、主にELSA-Mフェーズ4に係る受注損失引当金繰入額を計上したことにより、6,337,551千円(前年同期比24.3%増)となりました。
その結果、売上総損失は3,880,594千円(前年同期は2,245,294千円の損失)となりました。
当連結会計年度における販売費及び一般管理費は、開発進捗に伴って補助金案件に係る開発費用(APS-R、ISSA-J1)及び未受注案件に係る先行開発費用(LEXI-P等)が増加したことに加え、事業拡大に伴う人員拡充等により、人件費及び関連する諸経費が増加し、19,104,897千円(前年同期比63.3%増)となりました。
その他の収益については、プロジェクトに係る政府補助金収入が増加したことにより、4,230,488千円(前年同期比77.3%増)となりました。
その他の費用については、当連結会計年度に計上するものはありませんでした。
これらの結果、営業損失は18,755,004千円(前年同期は11,555,724千円の損失)となりました。
当連結会計年度における金融収益及び金融費用は、主に為替差損益です。
法人所得税費用については、1,315千円の納付(前年同期は38,513千円の還付)となりました。
これらの結果、親会社の所有者に帰属する当期損失は21,551,603千円(前年同期は9,181,329千円の損失)となりました。
当社グループの連結財務諸表は、国際会計基準審議会によって公表されたIFRSに基づき作成しております。この連結財務諸表の作成に当たっては、決算日における財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を与えるような経営者の見積り及び予測を必要としております。当社グループは、過去の実績値や状況を踏まえ合理的と判断される前提に基づき、見積り及び予測を行っておりますが、前提条件やその後の環境等に変化がある場合には、実際の結果がこれら見積りと異なる可能性があります。
当社グループの連結財務諸表の作成に係る重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の見積り及び判断」に記載の通りであります。
「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載の通り、当社グループが構築してきた研究開発技術を最大限に活用し、対象となるデブリや運用中の衛星に対して、コストパフォーマンスに優れたソリューションを提供するなど、軌道上サービス事業の多角的な展開・拡大を目指しています。
経営者は、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載されている様々な課題に対処し、安全かつ安定的で持続可能なサービスを継続的に提供していくことが必要であると認識しております。そのため、経営者は、現在の事業環境及び入手可能な外部環境の変化に関する情報に基づき、迅速かつ最善な経営戦略の立案、経営課題に対する施策の実施に努めていきます。
当社グループのキャッシュ・フローの分析・検討内容については、「(1) 経営成績等の状況の概要 2 キャッシュ・フローの状況」に記載の通りであります。
当社グループの資本管理及び流動性リスクとその管理方法については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 23.金融商品」に記載しています。また、当連結会計年度における資金の主な増減要因については、上記に記載しています。
当社グループの将来の財政状態及び経営成績に重要な影響を与えるリスク要因については、「3 事業等のリスク」に記載しております。
当社グループは、各国のオフィスを通じて多様な用途の軌道上サービスミッションをグローバルに受注しており、技術革新の加速と市場シェアの拡大が、当社グループのミッション実現への近道であると考えております。このため、売上収益や売上総利益、税引前営業利益等の各種業績指標の管理に加え、企業価値の継続的な向上を図るための客観的な指標として、軌道上サービスミッションの受注状況等を重視しております。具体的には、当社グループの将来収益を生み出し事業の推進・成長を支えるパイプラインの確保状況を測定するための「受注残総額」を重要な経営指標等として位置づけております。受注残総額の詳細については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 3 生産、受注及び販売の実績 b. 受注実績」をご参照ください。
各国の民間企業、政府、宇宙機関等との契約のうち、宇宙ミッションの契約、あるいは宇宙ミッションにつながる重要な契約は以下の通りです。いずれの契約においても、マイルストーンが定められており、マイルストーンの達成に応じた対価の支払が行われます。
(注) 1.技術開発の進捗やサービスの提供に応じ、当社グループに支払われることが合意又は予定されている収益の合計金額であり、契約において定められた条件が実現に至らない場合、マイルストーン収入の一部が支払われない可能性があります。また、当社グループが受注未了のフェーズについては、当社グループの想定通りに受注に至る保証はありません。なお、当社グループが受注未了のフェーズに係る契約金額の具体的な推計方法については、上記「第1 企業の概況 3 事業の内容 3.3 開発・運用状況」をご参照ください。
2.2024年6月17日付、2024年9月26日付及び2025年4月10日付の変更契約締結により、契約金額が当初25.5百万米ドル(税抜)から41.2百万米ドル(税抜)に増額しております。また、2025年4月10日付の変更契約締結により、契約期限が2025年9月から2027年2月に変更されております。
3.2025年6月30日付で、当社米国子会社のAstroscale U.S. Inc.が、米空軍研究所より自律的なランデブ・近傍運用及びドッキングに関する防衛調査契約を受注しました。契約金額は8.7百万米ドル(税抜)です。
当社は、2022年9月14日開催の取締役会において、運転資金の調達を目的として株式会社三菱UFJ銀行との間で実行可能期間付タームローン契約を締結することを決議し、以下の内容で契約を締結しました。なお、当連結会計年度末における借入未実行残高は3,000百万円であります。
(注) 1.借入人より借入先に対して提出された各プロジェクト契約に記載された契約金額の合計額のうち、受領済の契約金額を差し引いた金額(残存契約金額)のうち、借入先が残存契約金額の健全性について疑義がないと判断した金額
当社は、2023年4月14日開催の取締役会において、運転資金の調達を目的として株式会社みずほ銀行との間で特別当座貸越契約を締結することを決議し、以下の内容で契約を締結しました。なお、当連結会計年度末における借入未実行残高は264百万円であります。
(注) 1.取引期間中に資金化が見込まれる営業上の債権
当社は、2024年2月7日開催の取締役会において、運転資金の調達を目的として株式会社三菱UFJ銀行との間でリボルビング・クレジット・ファシリティ契約を締結することを決議し、以下の内容で契約を締結しました。なお、当連結会計年度末における借入未実行残高は4,310百万円であります。
(注) 1.借入人より借入先に対して提出された各プロジェクト契約に記載された契約金額の合計額のうち、受領済の契約金額を差し引いた金額(残存契約金額)のうち、借入先が残存契約金額の健全性について疑義がないと判断した金額
当社は、2024年2月7日開催の取締役会において、研究開発資金の調達を目的として株式会社三菱UFJ銀行との間で劣後特約付金銭消費貸借契約を締結することを決議し、以下の内容で契約を締結しました。
(注) 1.借入人より借入先に対して提出された各プロジェクト契約に記載された契約金額の合計額のうち、受領済の契約金額を差し引いた金額(残存契約金額)のうち、満期日までに入金が到来し、かつ、借入先が残存契約金額の健全性について疑義がないと判断した金額
当社は、2025年3月14日開催の取締役会において、運転資金の調達を目的として株式会社りそな銀行との間で相対型コミットメントライン契約を締結することを決議し、以下の内容で契約を締結しました。なお、当連結会計年度末における借入未実行残高はありません。
当社グループは、「将来の世代の利益のための安全で持続可能な宇宙開発」というビジョンを実現するため、軌道上サービス事業に係る研究開発を実施しています。より良い人工衛星技術の実現を目指し、当社グループが構築してきた研究開発技術を最大限に活用し、対象となるデブリや運用中の衛星に対して、コストパフォーマンスに優れたソリューションを提供するなど、軌道上サービス事業の多角的な展開・拡大を目指しています。なお、当社グループは、軌道上サービス事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの記載を省略しております。
通信衛星コンステレーション事業者及び人工衛星等を保有する各国政府機関等に対して、安全かつ効率的なデブリ除去サービスを安定的に供給していくこと及び当社グループ内での人工衛星技術の中長期的なロードマップを策定していくことを目標に、情報通信技術に関わる最先端技術の動向の把握、対外的なデモンストレーションを含む研究開発及び事業化検討を目的としています。
また、次世代のグローバル通信インフラの核と位置付けられる衛星技術の実現を目指すコンステレーション事業者との協業を踏まえた、宇宙空間における共同軌道上実証実験をはじめ、社内外の人工衛星運用戦略の策定を目的としています。
当社はこれまで、軌道上サービスに必要な技術開発の基盤としてデブリ除去に必要な一連の技術(RPO技術の重要な部分を包含します。)を実証した「ELSA-d」に加え、軌道上のロケット上段部へのRPOを行う、商業サービスのための実証ミッション「ADRAS-J」を実施してきました。今後もミッションを通じた機能拡張等により、顧客ニーズを踏まえた軌道上サービスの適用範囲の拡大に努めています。
当社グループでは、国内子会社である株式会社アストロスケール、海外子会社であるAstroscale Ltd、Astroscale U.S. Inc.、Astroscale Israel Ltd.及びAstroscale France SASを拠点にて研究開発を行っています。
宇宙関連事業では、製造に係るノウハウの蓄積が競争上極めて重要であるため、設計、加工、組立、保守等の主要な製造プロセスに関する研究開発は自社で実施しています。
軌道上サービスの早期実現を目指し、各国エンジニアリング部門の密接な連携のもと、全社一丸となって研究開発活動を行う組織体制となっています。
当連結会計年度における研究開発費の総額は
(1) 未受注案件の先行開発費用
将来の事業化を見据えた技術の先行開発に係る費用であり、主にAstroscale U.S. Inc.による寿命延長サービス用衛星初号機「LEXI-P」の開発が該当します。当連結会計年度における未受注案件の先行開発費用は6,008,087千円となりました。なお、「LEXI-P」に係る先行開発費用は、政府向けの販売案件として契約した場合は収益認識が開始され、民間企業向けのサービス案件として契約した場合は資産計上されることを想定しており、いずれの場合でも収支は改善することを見込んでおります。
(2) 政府補助金案件の開発費用
主にAPS-RやISSA-J1など、政府機関からの補助金を受けて実施するプロジェクトに係る費用です。これらは収入として政府補助金収入が計上される一方、対応する費用は研究開発費としても認識されます。当連結会計年度における政府補助金案件の開発費用は4,693,465千円となりました。
(3) その他の研究開発費用
上記に該当しない、当社グループが独自に実施する研究開発活動に係る費用です。軌道上サービスの技術的基盤強化や、人工衛星技術の中長期的なロードマップに基づく開発などが含まれます。当連結会計年度におけるその他の研究開発費用は222,149千円となりました。